No.462464

戦う技術屋さん 九件目 108の日常

gomadareさん

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日常ってタイトルの割に、周りのカズヤに対しての評価がつらつらと。そんなに優秀な子じゃないよ?

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2012-07-30 19:50:55 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1869   閲覧ユーザー数:1767

108部隊と機動六課。カズヤ、スバル、ティアナの三人が道を違え、それぞれ新たな部署に身を置き始めて早くも数日が経った。

そこまで来ると、それなりに周りの評価というのも大凡纏まり始めるものであり、それは三人の周りも例外ではない。

 

 

***

 

 

距離を詰めたギンガのリボルバーナックル付きの拳を腹部に受け、後方へと飛ばされるカズヤ。歯を食いしばりながら痛みに耐えつつ、何とか足から着地。踏鞴(たたら)を踏みながらも体勢を整え、周囲に浮かぶD-03βという識別名(コールネーム)をつけられたプレート十枚の内、五枚へ指示を飛ばしながら、腰を落としカートリッジを一発。

その一方、牽制と足止めという指示を与えられたプレート達が各々の軌道を描きながらギンガに迫るも、ギンガはそれらを回避しつつ、カートリッジをロードしながらダッシュ。あからさまなカウンター狙いのカズヤへ接近し――。

……………

「ギンガさん。毎回右アッパーから見事な左ストレートを人のボディに叩きつけるの止めません?対打撃型最終奥義(ヘッドバット)が使えないんですけど」

「いや使わなければ良いじゃない。危ないし。どれだけ賭けてるのよそれに」

「先祖代々、アイカワ家に伝わる秘技ですから」

「使い始めたの貴方が初めてでしょう」

全く、とそう呟くギンガは既に制服姿。カズヤの方は、許可を得て汚れても問題無い386時代の災害担当の待機服である。そんなカズヤは傍らに識別名E-01と名付けたiPadのようなデバイスを置き、それと手元を交互に見ながらギンガのローラーを扱っていた。その様子を対面から眺めるギンガ。平行して、カズヤの考査試験用に要点を纏めたりしている。

「ローラーはどんな感じでした?」

「うーん……ちょっと動体制御がしつこいかしら。そこまでやらなくてもいいって感じ」

「む。そうですか?」

「私としてはその分、ウイングロードに振って欲しいかも」

「あー……なるほど。他にあります?」

「今は特に無いかな」

「了解です。じゃあ此処をこうして――」

E-01に表示されたローラーの図面を弄りながら、並行してギンガのローラーも弄って行く。

それから数分経てば、ギンガのローラーは外見上、先程までギンガが使っていたローラーへと戻った。カズヤは最後に簡単な点検をしてから、それをギンガへと差し出す。

「一応これで試してみてください。大きな変化はないですし、其処まで違う訳でもない筈ですから、問題は無いと思います」

「分かった。とりあえず試走してみるわね」

「はい」

「後これ。要点まとめたから、ちゃんと勉強する事」

「ありがとうございます。ギンガさん。俺、ギンガさんみたいな姉が欲しかったです」

「何言ってるの」

リボルバーナックルは着けず、コツンと拳で軽くカズヤを叩いて、ギンガは部屋を出ていく。

叩かれた辺りをさすりながら、その背を見送り、カズヤは背伸び。それから気合を入れるように頬を張ってから、カズヤは机に向かうのだった。

……………

それから少しだけ時間は経ち、ギンガは部隊長室にいた。

捜査に行く前にと父であり部隊長であるゲンヤに緑茶を差し出せば、ゲンヤは礼を言いながら、緑茶を一口。良くある熱湯で淹れるという典型的なミスも無く、程良い熱さであった。

「カズヤはどうだ?」

「良くやってますよ。私のローラーに加えて、デバイス自前組のデバイス調整や、技術部のデバイス担当の人たちへデバイスマイスターとしてのアドバイスなど。色々やっている中でも、きちんと考査試験の勉強は重ねてますし、補佐官としての仕事も覚えている。何時寝てるのか心配になる位です」

「まあ386の連中からある程度は聞いてたから其処まで心配はして無かったが……」

「油断はできませんけど、今のままなら考査試験はクリア出来ると思います」

「そうか」

「はい。では、私は捜査に行って来ますね」

ぺこりと頭を下げて、部隊長室を出ていくギンガ。残されたゲンヤは緑茶をすすり、背もたれへ身を預ける。

「……やれやれ」

ぼやきながら、ゲンヤはカズヤの登録情報を表示させる。

その顔に少しだけ笑みを浮かべているカズヤの証明写真を筆頭に、名前やID、住所や経歴などが載っているそれをしばし眺め、ゲンヤは溜息をついた。

ゲンヤとしてもカズヤの事は嫌いではない。初対面の時も好印象だったし、デバイサー以外のスキルはまだまだひよっこではあるが、今後の成長を考えれば将来の有望株である事は間違いない、というのがカズヤに対してのゲンヤの評価である。

周りとしてもあまりその評価に違いが無いらしく、386から引き抜いた時だって、あまりいい顔されなかった事はゲンヤの記憶に新しい。それでも引き抜けたのは、純粋にスバルとティアナの存在があったからだ。あの二人が六課へ引き抜かれたからこそ、六課と協力体制を取っている108にまだまだ危なっかしいカズヤを置いておきたいという、言ってしまえば386部隊なりの親心。まあ、人事部のあの男は素直ではないから、そんなこと、口が裂けてもカズヤへ言わないだろうとゲンヤは考え、現に何も言わずに送りだしているのだが。

「だけどなぁ」

部隊長として、管理局員として、ゲンヤ個人としては前述の通り、カズヤを評価している。

だが二人の娘の父親としては、娘たちと特別の仲のいい男友達というポジションにいるカズヤは、非常に面白くないのだ。娘たちとカズヤ本人に、とりあえずその意思が無いのは分かっているつもりではある。だが何時何が起こるか分からないのが管理局という職場なのだ。だったらあいつらにだって何が起こるか分からない。

「……まあ、今のカズヤはデバイスが恋人みたいな所もあるし問題ねェか」

既にこの発言がフラグな気がしないでもなかったが、ゲンヤは華麗にスルーして仕事に戻るのであった。

 

 

***

 

 

「はっ、くしっ――って、あーっ!?」

くしゃみを一つしたカズヤの手から飛んでいくデバイスパーツ。直径1mm程のそれらは、床に落ちて完全にカズヤの視界から消える。しかし下手に探そうとしてコンタクトレンズを落としてもアウトの為、カズヤは溜め息をつき、さてどうしたものかと首を傾げる。

そうして暫し悩んでいると、カズヤのいる捜査部休憩室の戸が開いた。

「お、やっぱり此処にいた。どう?勉強ははかどってる?」

扉から顔をのぞかせたのは、両手に一つずつ、湯気の出ている紙コップを持っているカズヤより明るい枯れ葉色の髪を持つ男性。ラッド・カルタス二等陸尉。108捜査部の捜査主任であった。

ラッドはフレンドリーにカズヤへ話しかけながら、足元を気にする様子無く、休憩室に入り、カズヤの方へと向かう。

「カルタス二尉。少し待っていただけるとありがたいのですが」

「え?なん――」

で、とラッドが言いきる前にパキッとカルタスの足元から何かが割れる音が響く。

「あ」

「ん?」

ラッドが足をどけて下を見ると、大小様々な大きさに割れたデバイスパーツが二つ。もしかしてと思いながらラッドが顔を上げカズヤを見れば、カズヤは諦めた様子で首を縦に振った。

「……ごめん」

「いえ。半分諦めてましたから」

そう言いながらもカズヤはラッドの足元のデバイスパーツを拾い集め、復元できないかな~などと考えていたりする。

「お詫び……にならないかもしれないけど、良かったら飲むかい?」

「いただきます」

砕けたパーツを適当なケースに仕舞い、カズヤはラッドから紙コップを受け取ると、一口すする。口に広がる苦味にカズヤは思わず眉をしかめた。

カズヤは辺りを見渡し、休憩室に備え付けられているスティックシュガーを三つほど手に取ると、全てコーヒーに入れ、更にミルクとガムシロップも入れる。ギョッとした様子のラッドをよそに、カズヤはコーヒーを更に一口。今度は良く知った甘ったるいコーヒーの味であった。

「コーヒー苦手?」

「眠気覚ましに良く飲むんですけどね。苦味がどうにも」

「あんまり入れると体に毒だよ?」

「そうなんですけど、どうにも。基本的に夜の作業とかで糖分が欲しくなった時、眠気覚ましがてらに飲んでいるので。どうしてもこうなるんです」

言いながら更に一口。「そう」とラッドは苦笑しながら、此方はブラックのコーヒーをすする。

「それでどう?勉強の方はどう?」

「一応、ギンガさんに言われた所は確実に抑えてますし、それ以外の所も八割九割は」

「そうかい?デバイスいじってたみたいだけど」

「ちょっと休憩です。集中力続かなくて」

苦笑しながら、カズヤはカップを置いて、先程ラッドに砕かれた物と同じデバイスパーツを二つ取り出す。それを上手くはめ込み、机に広げられていた分解されているローラーに組み込み、其処へコードをつなぐと、E-01のタッチパネルをタップしていく。

「それは……ギンガのローラーかい?」

「これはプロトタイプ、試験運行用兼俺のデバイスです。ようやくウイングロードをローラーから発動させる目途がついたので、試作していたところです。原案は昔からあって、元々はスバルのローラーに組み込むつもりだったんですけど、ウイングロード自体が先天(インヒューレント)系の魔法だったので術式が特殊でしたから、中々実用段階にはならず。それに災害担当が激務だったので中々時間も取れなかったので。108に異動して来て、ギンガさんの説明と以前からの積み重ねで漸くこの段階に漕ぎ着けたってところです。まだまだ粗いので、明日にはギンガさんに試験運用して貰って調整して、何とか明後日には実用段階にしますよ」

「……はぁ」

言っている事は分かるが、置かれているデバイスについては全く分からないラッド。一応ラッドもデバイスを自作する程度の技術はあるが、それでもカズヤの今組んでいるローラーについては殆ど分からない。カズヤの過去を知らないラッドからすれば、何故ここまでの技術があるのに、彼は前線で災害担当をしていたのだろうと本気で思ってしまう。

「……?どうかしましたか?カルタス二尉」

「いや、何でもないよ」

目ざとくも自分を見つめるラッドに気がついたカズヤが尋ねるも、それをはぐらかし、ラッドはコーヒーをすする。不思議そうに首をかしげながらも、カズヤはそれ以上何も聞かずローラーへ再び視線を落とした。

(やれやれ。ギンガと言いカズヤと言い。捜査部の未来は安定かな)

自慢の部下達を想い、ラッドは口元をほころばせながら、残ったコーヒーを全て飲みきる。

「じゃあ、カズヤ。僕は仕事に戻るから。頑張るのもいいけどほどほどにね」

「はい」

返事をしながらもデバイスを見つめ続けるカズヤに苦笑しながら、ラッドは静かに休憩室を立ち去るのだった。

 


 
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