No.461689

黄色い薔薇

点々さん

メアリーのお話。シリアスです。
※Ib捏造設定で書いてます。EDは偽物ですが、未クリアの方はネタバレがあるので注意して下さい。

2012-07-29 10:01:02 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:671   閲覧ユーザー数:661

 

「………………ぁ」

残されたのは、無残に千切られた青い花びらと茎だけだった。

それが意味することは十分に分かりきっていた。

たった一文字で表せるその意味は、

 

死。

 

息が詰まる。

理解してからその先は、何も考えることができなかった。

メアリーが笑いながら何処かへ走り去ってしまったのさえ、どうでもよかった。

 

 

「ギャ、……リー…………?」

壁にもたれかかるようにぐったりとして動かない彼を見つけた。

何度呼びかけても、起きてはくれない。

――起きてよギャリー……早くメアリーを追いかけないと。ねえ、ギャリー…………。

分かっている答えを否定して、ひたすら彼の名前を呼び続けた。

泣きながら叫んだ。

 

彼の手はどこまでも冷たかった。

赤い薔薇が彼の命の代わりになればいいのにと、何度も思った。

何故、こんな運命を辿る花は、青い薔薇でなければならなかったのか。

彼女にとって、犠牲は赤い薔薇だけで十分だった。

優しすぎる彼の青い薔薇が、綺麗で美しい薔薇が散ったところで、何も嬉しいことはなかった。

 

――ごめんね。でもこんな赤い薔薇、もう要らないよギャリー

 

「好き……嫌い…………好き……」

ぼろぼろと涙をこぼしながら、彼の隣で花占いをした。

花弁が散るたびに伴う引きちぎれるような痛みは、身体の痛みか心の痛みか、もはやどちらか分からなかった。

 

全ての痛みの原因は信じていた筈の、金髪碧眼の少女。

痛い、痛い。痛い。

どうしてなのメアリー。

「嫌い………………」

 

散ってしまった赤い薔薇の花は、一体何処へいくのだろう。

 

――……好き

 

 

 

 

 

 

 

 

横長い、とても大きな絵画の前。

憧れの世界が描かれた、彼女にとっての一番の望み。

友達のあの子はもう先に行っただろうか。

友達でありながら、これから姉妹になるであろう存在。

――早く行かないと。きっと、お母さんとお父さんも待ってるよね。

 

自分の創造主であるゲルテナに心の中でさよならを呟くと、少女は絵へと飛び込んだ。

 

 

 

 

暗転から解放されると、そこは今まで見る中で一番明るい世界。

――やっと……出てこれた。見てみたかった、外の世界……!

 

――そうだ、イヴ。私の愛しい妹イヴは、どこだろう。

辺りを見回してみるが、イヴの姿は見当たらない。

あの世界の事をきれいさっぱり忘れたまま、色々な展示品を見て回っているのかもしれない。

 

「あら、メアリー。こんな所にいたの? 探したのよ」

イヴのお母さん……そして自分自身の親となる人が、優しく微笑みかけてくる。

「父さん、一緒に見て回りたかったなあ」

イヴのお父さん。特別強そうな訳でもないのに、何だかホッとする。心地のいい安堵感。

「いろんな絵を見てたの! 初めて見るものがたくさんあって、面白かった!」

そうかそうか、と頭を撫でられると心に沸きあがった感情は、ただただ、〝嬉しい〟。

 

――これが、家族っていうものなんだ。

この世界にやって来て初めて触れた、人の温もりに、目の下がじんわりと熱くなった。

 

 

思わず涙を流しそうになった時、重要なことを思い出した。

 

「ところで、イヴは? まだ作品を見て回っているの?」

当然の質問に、両親は不思議そうに首を傾いだ。

「イヴ? だあれ、それ。メアリーのお友達かしら」

「…………は?」

人間っていうのは、偶にこんなおかしな冗談を言うものだ。

きっとこの母親も冗談めかして言ってみただけだろう。

思わず冗談に本気になって変な声を出してしまった。

もっと人間らしく気丈に振舞わないといけない。

滴る冷や汗に気づかないふりをしながら、おかしな冗談を笑いとばそうとした。

 

しかし何かを言う前に、両親はその足をぴたりと止めた。

視線の先に何があるのか、彼女も少しだけ気になった。

 

「この絵綺麗よねぇ……。男の人と……メアリーと同じくらいの年の子ね。薔薇をモチーフにしてるのかしら。素敵ね」

 

そろそろと顔をあげていく。

 

「…………ぇ」

 

大きな額縁に納められた、『それ』。

視界いっぱいに広がったその大きな絵画に、愕然とした。

 

初めての心臓の音が、造り物ではない本物の心臓の音がばくばくと鳴って。

 

 

 

 

 

画面いっぱいに、はみ出しそうな程の赤い薔薇と青い薔薇で埋め尽くされている。

そしてその中に眠るのは、写実的に描かれた、見覚えのある男性と少女の姿。

それは綺麗すぎる程に、痛ましい姿だった。

 

バッと振り返ると、優しい顔のままの両親がいた。

まるで何事もないかのように。

存在そのものを消去された絵画。

彼女の望みと引き換えに。

 

どうしても犠牲は一人では足りなかったのだ。

彼女の知っている青年も少女も、優しすぎたから。

気付けなかったのは、メアリーの心が造り物だったから。

人間の痛みに気づけなかったメアリーは、やっぱりただの作品だった。

 

 

絵画の中の少女の頬には、つっと流れた透明のしずく。

「………………ぁあぁぁあ…………」

 

人間になった今だから分かる感情。

偽物じゃない、どっと押し寄せてくる後悔。

引き返せない今だから分かる、皮肉で残酷な感情。

 

吐き気がする。吐き気がする。

 

 

醜いのは青い薔薇ではなく、黄色い薔薇だったのだ。

 

「燃やさなきゃ…………」

 

    我儘だよね

        こんな事

 

   『ちょっと君!』

           『メアリー!? どうしたの?』

          

          『作品が壊れてしまうよ!』

 

額縁は無情な程に冷たくて、幾度引っ掻いても何も返ってはこない。

狂ったように必死に絵に手を伸ばす偽りの娘に、両親はどんな目を向けただろうか。

 

「…………燃やさなきゃ…………!」

 

 

   心臓が絵のままだったら、簡単に破り捨てることができたのに。

    「メアリーを、燃やさなきゃ…………(私をころさなきゃ)

 

 

 ごめん、卑怯だよね

    犠牲を見つけてまで幸せを求めた癖に、今更こんな事思うなんて

 

「やめてメアリー! どうしちゃったの!?」

 

慌てた警備員と両親から手を掴まれる。

額縁を掴んだ両手はすぐに、引きはがされた。

 

    今更、こんなことを思っても、絶対に二人はゆるしてはくれない。

 

「お願いだから…………私を燃やして……燃やしてよう…………!」

 

今はとても、絵だった自分に戻りたくて仕方がないの(ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい)

 

 

 

………………………

 

『眠れる薔薇の王子と姫君』

ゲルテナの生涯最後に描かれたと言われている作品。しかしこの作品はゲルテナのものではないという声が多くあがっており、未だ残る謎が多い…………

 

 
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