No.45897

タイムトラベルママ01/カンバックママ 10

イツミンさん

タイムトラベルSF小説

ノーテンキなママが出てきます


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2008-12-10 00:39:33 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:496   閲覧ユーザー数:468

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 午後五時半。野添智美事故死まで、あと一時間。

 智美は資料と寸分の狂いもなく、書店で本を眺め見ていた。

 現在は参考書の書架を見ている。

 高校二年生の彼女は、大学受験のための参考書を買いに本屋に立ち寄っているのだ。

 この日に彼女が買った本は調べがついていて、大学受験用の数学と英語の参考書を一冊ずつと、それと中学生用の総合参考書を一冊彼女は買っている。

 中学生用の参考書は、おそらく結城の為に購入したのだろう。

 書棚の陰から、結城と葵は智美を見ていた。

「井原さん、お願いします」

「んー、そうねぇ」

 葵はきょろきょろと視線をめぐらせ……。

「局長!電波状態が悪いです!」

『何を言ってる。電波など関係な……』

 ブツン。

 葵はインカムの電源を切り、そして自分のかぶっていたハンチングを取り上げると結城にかぶせ、結城の背中を思い切り押した。

 

 ドン。

 

「うわっと!」

 突然のことに、つんのめってしまう結城。

「危ないな……」

 と、顔を上げたそこに……。

「シゲ君…?」

 

 野添智美が……居た。

 

「あ、僕、いや、俺は……」

 結城は頭が真っ白になった。

 何を言っていいのやら、全くわからない。

「すいません、人違いでした」

 屈託なく、彼女は笑った。

 ああ、この笑顔だと、結城は胸が痛くなる。

 人懐こくて、優しくて、強くて、自分が裏切り続けた……笑顔だと。

「いやだな、私。ちょっと知り合いに似てて……。でもこんな小さいんです、そのコ。でも、いやだな、何で見間違ったんだろ。ずっと気にしてたからかな……」

 身振り手振りを交えて、智美は恥ずかしそうに顔を赤らめた。

 それにしたって、「こんな小さい」といった智美の手は、智美の腰くらいまでしかない。

 

 智美ちゃん、僕そんなに小さくないよ。

 

 昔の呼び方を思い出して、彼は一瞬そういいそうになった。

 唐突に、涙があふれそうになる。

「そのコのこと、凄く大切にしてるんだね」

 わざとらしくないように話の流れに乗ろうと、結城はとっさに言った。

 すると智美は満面の笑みで、

「はい、私の好きな人なんです」

 と言った。

 そして途端に、これまでも赤かった顔が余計に赤くなる。

「や、やだ。何でこんなことまで言っちゃうんだろ。ごめんなさい、変なこと言って。迷惑ですよね……?」

「いいや」

 結城は優しく言った。

 

 三年間のノックの理由を、そこに見た気がした。

 毎日毎日、休まずに自分を外に誘ってくれた野添智美。

 十三年間、気付いていなかった。

 

 なんだ、僕たちはお互いに好きあってたんだ。

 

 手遅れだったけど、でも、間に合ったよ。

 

「野添智美さん。そのコも多分、同じ気持ちだと思うよ」

 そして結城はポケットに手を入れて、十年かけて書き上げた、何度となく書き直した手紙を取り出した。

「結城君に頼まれた。君のことが好きだって、書いてあるよ」

 

 思いは確かに……その手を伝った。

 

 


 
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