No.457371

外史を行く喧嘩師 五幕

荒紅さん

今回は初陣です。

シリアスな感じに仕上がったはず。

2012-07-22 13:31:21 投稿 / 全12ページ    総閲覧数:2891   閲覧ユーザー数:2588

「何なのよ!ここ最近賊の数が多過ぎよ!」

 

詠が大声で怒鳴る。

 

「まぁ落ち着けって詠。あんまし怒ってると可愛い顔が台無しだぞ。」

 

「な//ば、馬鹿な事言って無いで軍議始めるわよ!」

 

落ち着いたみたいだな。顔はさらに赤くなってるんだが、熱でもあんのか?

 

「まずはウチからや。前回の賊討伐からあんまし時間経ってへんけど昨日と一昨日に賊出現の

 知らせがあったで。南の方に200。北東に500。さらに西に700ときてるで。」

 

合計1400か。一箇所に纏まってくれてればいいものを。

 

「次に私だ。賊の兵種が分かっているので報告を。

 西の奴らは、歩兵500、騎兵が200だ。馬はどうやら略奪によって揃えたらしい。

 北東の奴等は歩兵400、騎兵100。南は全て歩兵だそうだ。」

 

まぁなんとも手ごわいねぇ。負ける筈は無いが、騎兵までいるとちょっとは苦戦するな。

んで順を追っていけば次は恋の報告の番なんだが。

 

「・・・ZZzz」

 

ですよね~。恋が起きてるわけないもんな。

 

「れ、恋殿~。えっと、賊共はどれも天水内の賊ではなく、他の地域から流れてきたもの

 と思われますです。」

 

ねね。お前も苦労してんだな。

 

「はぁ~。一箇所に集まってれば一気に殲滅出来るのに。ああ~もう、面倒ね!」

 

「まぁ実際問題どうすんだよ。放って置くわけにもいかねぇだろ?」

 

「そうね。まず西は霞兵は800。騎兵が多いけどあんたの騎兵が負けるわけないわよね?」

 

そう言うと霞は当然だと言わんばかりに拳を握り締め。

 

「任しとき!神速の用兵術、賊共に見したらぁ!」

 

「次に北東。こっちは恋とねねで行って兵は400。こっちも騎兵がいるけど問題ないわよね?」

 

恋はいつの間にか起きていて。

 

「分かった。」

 

「任されましたぞ!」

 

んでラストの南は、華雄だろ。

 

「そして最後。南は、狼鬼。兵は250。あんたに行ってもらうわ。」

 

え・・・

 

「ちょっと待て。華雄はどうするんだよ?俺なんかより華雄の方が・・・」

 

「華雄は前回行ったし、ここを空にするわけにもいかないでしょ。無理ならいいわ、

 僕が行く。」

 

はぁ~。そんな事言われたら無理なんて言えるわけないだろが。

 

「分かった。どこまでやれるか分からねぇがやってみるよ。」

 

「安心しなさい。どの道僕も行くし、部隊の指揮とか僕がやるから。

 初陣のあんたにいきなり最前線で戦えなんて言わないわよ。」

あ、そうなのかよ。ちょっと安心した。

 

「あんたはまず戦の空気に慣れなさい。これは先延ばしにしてもいずれ通らなきゃ行けないしね。」

 

「りょ~かい。」

 

「それじゃあ何か質問は?」

 

「・・・」

 

異論無しってか。

 

「じゃあ各々準備を始めて!」

 

そう言うといつもの四人が俺のところまで来た。

 

「狼鬼、気張りや!」

 

「初陣だがお前ならやりきれると信じているぞ。」

 

「狼鬼。・・・頑張る。」

 

「一応死なないように祈っておいてやるです。」

 

「お前等・・・あんがとよ。」

 

四人はそれだけ言うと自分の準備に向かった。

 

「さて!俺も準備に行きますか!」

 

心の不安を振り切る様に大きな声でそう言うと後ろから。

 

「狼鬼さん・・・」

 

「ん?どうした月?」

 

「あの、約束してください。絶対に無事に帰ってくるって・・・」

 

・・・そんな悲しい顔してくれるなって。

 

「ああ、勿論だよ。絶対帰ってくるからよ。」

 

「僕も行くから大丈夫だよ月。さぁ、準備に行くわよ。」

 

うしっ!行くか!

 

数日後

 

 

「なぁ詠。俺の耳がおかしくなったのか?」

 

「大丈夫。僕もそう聞こえた。」

 

俺達は今賊の根城の近くまで来ている。賊は今古い砦に居て、これからどう攻略するか考えてるとき

斥候が驚きの報告をしてきた。

 

「報告!賊の数に謝りあり!賊の数およそ450!」

 

マジでか、倍近くいんぞ。こりゃ大変な初陣になったな。

 

「不味いわね。勝てない数じゃ無いけど、野戦じゃなくて攻城戦だと。」

 

その通り。攻城戦では敵の三倍の兵を集めるのが普通。

いかに練度が上と言ってもあちらは数と砦。こっちはかなり不利だ。

 

「詠、地図見せてくれ。」

 

「あんまり正確じゃ無いわよ。この辺はまだ詳しく調べてないから。はい。」

 

と、言って見せてくれた地図にはこの付近と砦の地形が載っていた。

 

「どうすっかな~。砦に対して全軍展開出来んのは正面だけ。後は殆ど細い獣道。

 こういう時の常道は火で炙り出してそこを突くんだけど・・・

 それじゃぁ獣道から逃げちまうからな~。今回は殲滅が目的だし、あんまし逃げられんのもな~

 いや、いっそのこと正面に展開して・・・」

 

「・・・あんたよくそこまで頭が回るわね。ウチのどっかの馬鹿なら

 「正面から蹴散らしてくれる!」とか言って突撃してくわよ。」

 

華雄・・・今度から猪って読んでやろうか。

「まぁ、俺もそこまで馬鹿じゃねぇよ。

 んでだ、攻略の方法思いついたんだが。」

 

「聞かせて。」

 

軍師の顔になった詠ってカッケェ。俺の好みってカッコイイ女なんだよな。

今の詠は俺のストライクゾーンのど真ん中だぜ。

 

「まずこの正面に150を展開させる。こいつらは囮だ。本命は他にある。」

 

「奇襲ね。どこで奇襲させるのよ?」

 

「ここが展開するところ。この両脇は森なっている。ここに左右それぞれ50ずつ配置する。

 んで賊が出てきた所で通り過ぎてった所で後ろから奇襲。

 そん時、砦に火を放って逃げ道を無くしとく。ってこんな感じだが、どうだ?」

 

とっさに思いついたものだが、自分じゃかなりいいと思うんだが。

 

「うん、僕の考えていたのと殆ど同じね。けど・・・あんたはどこに就くの?」

 

「俺は奇襲部隊だ。囮部隊よりこっちの方が突破力が居るからな。」

 

囮部隊は基本防戦。こういうのは経験者じゃ無いと戦線を維持するのが難しい。

それよりも奇襲部隊の方が楽って事は無いが・・・

 

「分かった。なら僕は囮部隊を指揮するけど、ごめんね。初陣でこんな無茶を。

 気を付けてね。」

 

「あったりめぇよ。こんなところで死ねるかよって。」

 

そして、俺の初陣が始まった。

「報告。部隊、配置が完了しました。」

 

「お疲れさん。俺が合図するまで待機って伝えとけ。」

 

「はっ。」

 

戦争か、ニュースなんかで見たことはあるけど、人が死ぬんで、

俺も今日、人を殺すんだよな。

なんだか実感湧かねぇよ。

 

しかも俺の後ろにいる奴らの命も預かってんだよな・・・

 

「報告。賈ク様の部隊の展開が完了。賊の砦が騒がしくなってきています。」

 

そろそろか。

 

「砦の門、開門。賊が出てきます。」

 

「うし、部隊に通達。いつでも行けるようにしとけって。」

 

賊達が一気に詠のいる部隊の方に突撃していく。

そして。

 

「第一部隊!槍を前に突き出しなさい。賊を中に入れないで!」

 

両軍がぶつかり、人が死んでいった。

槍で腹を貫かれた者、賊の剣で切られた者。人では無い、人だった物が増えていく。

 

「うっぷ。ゴクン、はぁはぁ。」

 

あぶねー、兵の前で吐いてなんてみろ。士気がガタ落ちだぞ。

不思議と死への恐怖は無い。今までも何ども死にそうになってるからだろうな。

けど、誰かを殺すのは怖い。どうすりゃいいんだよ。

 

(いいか狼鬼。俺の息子ならこれだけは覚えておけ。これから色々な苦難にぶち当たるだろう。

もしかすると人を殺すことになるかもしれん、だがそれが誰かを助ける事になるなら誇れ。

俺だってなチームの皆や、母さんを助けるためならこの命なんて捨てる覚悟も出来てるし、

誰かを殺すことだってできる。実際に何人か殺した。

 

だから狼鬼。お前がそんな人を見つけたら、迷うな。

お前の拳でその人を守ってやれ。そしたら、お前はもう一歩進めるさ。

まぁ、難しい事だらだらと言ったが纏めると、「悩む前にぶん殴れ!」これに限るぞ。)

 

小さい頃親父がこんな事言ってたな・・・

 

「俺の守りたいものか。おい、お前。」

 

「はっ。なんでしょうか?」

 

分からねぇなら聞いてみろってな。

 

「お前の守りたいものってなんだ?」

 

「守りたいものですか。自分は嫁と娘ですね。自分みたいな男には勿体ない嫁ですが。」

 

「そうか・・・お前は?」

 

「俺は、母ちゃんと父ちゃんっすね。こんな俺をここまで育ててくれたんです。

 今度は俺が守る番すよ。」

 

皆、守りたい人がいんだな。俺の守りたいものか・・・

家族は今いねぇし。

 

「報告。賈ク様の部隊、押され始めています。」

 

 

詠が・・・・・・・・

 

 

 

ははっ、なんだ簡単じゃあねぇか。俺にも守りたい奴がいんじゃねぇか。

こんなに近くによ。

それに親父も言ってたしな。

「悩む前にぶん殴れ!」って。悩むなんて俺らしくねぇ。

賊は今、目の前通り終わったぐらいか。

 

 

んじゃ、行くか。もう迷わねぇ、俺は詠や月。恋に華雄に霞を守るために戦う。

 

天下とかどうだっていい!!

 

 

「オメェ等。準備は良いか!俺は今日初陣で、今の今まで戦う理由を探していた。

 誰かを殺す理由を探していた!だがそんな物は悩む程の事じゃ無かった。

 ただ自分の大切なモンの為に戦う! 

 ただ自分の大切なモン守る為に襲い掛かる奴等殺す。それだけだ!

 テメェ等にも居るはずだ。誰かを蹴落としてでも守りてぇモンが。

 

 ならそいつのために戦え!んで!生きて帰ってそいつに笑ってやれ!

 行くぜ!!

 奪う物と守る物、どっちが強ぇか見せてやれ!!」

 

 

『おおぉぉーーーーー!!!』

 

 

「うわああーー!!奇襲だーー!!」

 

「おらあぁぁ!!」

 

接敵と同時に鎖を振り回し賊を吹き飛ばし、切り掛ってきた賊の三人をハイキックで三人

纏めてぶっ飛ばす。

「おらぁ!!俺にぶん殴られてぇ奴はいねぇのか!」

 

俺たちの奇襲によって敵は大混乱。ここらで敵将でも討てると士気も上がるんだが。

 

「ふん!!そんなに死にたいならこの俺様が相手だ!」

 

「兄貴!殺っちまえ!」 「ちょっと指揮はどうするんですか!」 「うるせえ黙れ!」

 

こいつが指揮官か。当たりを引いたようだな。

 

「来いよ。その顎カチ割ってやる!」

 

「死ね小僧!!」

 

指揮官は大きな斧を振りかぶる。

 

ドコンッ!!

 

「力はいいが速度がねぇ!!」

 

その一撃を躱し、一気に間合いを詰め顎に向けて右フック。

 

バギッ!!

 

「あがぁぁーーー!!」

 

どうやら顎が外れたらしい。おかしいな、カチ割る気だったのに。

 

「おらおら!まだ終わりじゃねぇぞ!!」

 

よろめいたところで一気に決める。

左頬に左ストレート。両腕が出た状態から頭を掴み、そのまま顔面に膝蹴り。

鼻が潰れた所に足払いで転ばせそこに。

 

「これで仕舞いだーーー!!!」

 

鳩尾に全力の踵落とし。

 

「ぐふっ・・・・・・・」

 

「はぁはぁ。敵将、討ち取ったーーーーー!!!」

 

『おおおおーーー!!!』

 

「おい!兄貴が負けちまった。もう勝てねぇ!砦に逃げるぞ!」

 

「見ろ!砦が燃えてる!どこに逃げりゃいいんだよ!」

 

「俺が知るかよ!」

 

うっし!敵軍は総崩れだな。

 

「おっしゃテメェ等!このまま一気に殲滅だ!」

 

『おおおおーーー!!』

 

結局そのまま賊達は、前後敵に囲まれ、逃げるための砦も焼き払われどうすることも出来ず、

被害も50に満たない勝利となった。

 

俺は今皆から離れて森の中に居る。

 

「あ~やばい。頭クラクラする。なんなんだよ・・・うっぷ。おええぇぇ。」

 

駄目だ。我慢してたがもう無理だ。いくら目的見つけても怖いもんは怖いんだよ。

こういうとこだけは見られたくないもんだな。

 

「狼鬼・・・?」

 

って思ったそばから。

 

「詠か?・・・わりぃ。戦の間は大丈夫だったんだが、終わった途端緊張が切れたみたいで。 

 ・・・みっともないとこ見せたな。」

 

そう言って立ち去ろうとすると、詠が抱きついてきた。

 

「・・・馬鹿!辛いなら辛いって言いなさいよ!あんたをここに連れてきたのは僕。

 あんたにこんな思いさせちゃったのは僕にも責任がある!

 だから、皆の前で言えないなら僕の前で言いなさいよ!」

 

「詠・・・わりぃ、ちょっと膝借りんぞ・・・」

 

俺は途端に全身の力が抜けて、座った詠の膝に顔を埋めて。

 

「うっううあああぁぁぁ!!!」

 

人生で一番泣いた。

 

 

小鳥の囀りが聞こえてきた。

 

「ん、ああ。ここどこだ?」

 

昨日は確か、初陣で被害も少なく勝てて、んでその後吐いて。そして・・・

 

「起きた?」

 

詠の顔が目の前にあった。

 

ああそういや、詠の膝で泣きまくったんだっけ。恥ずかし。

 

「全く。あんたが僕の膝で寝るからあんまり寝れなかったじゃ無い。どうしてくれんのよ。」

 

そう言って顔を赤くしている詠は滅茶苦茶可愛かった。

 

「ありがとよ詠。お前の御陰でぐっすり寝れたよ。」

 

昨日はあんなに重かった心もなんか軽い。

全部涙と流れていったんだな。

 

「当たり前でしょ。僕の膝を貸してあげたんだから。」

 

「そうだな。んじゃ、これはほんのお礼だ。」

 

そう言って。顔を少しあげ、詠の頬に軽くキスをする。

 

「な、ななな///」

 

「本当にありがとよ、詠。」

 

「ふんっ///」

 

そっぽを向いてしまったが膝から降ろさない辺りまんざらでも無いのかな。

 

そんな事を考えながら詠の膝枕を堪能する、狼鬼だった。

 

あとがき

 

 

こんにちは荒紅です。

 

今回は初陣と言うことでシリアスな感じにしたかったんですけど、

親父の一言でムードが完全に壊されました。

 

詠ちゃんにはもう手を出しましたね。

まぁ嫁補正ということで。

 

次回は拠点を

 

それではご感想などコメしてもらえるとありがたいです。

んじゃ


 
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