No.453197

恋姫異聞録150 ― 姉妹の休日 ―

絶影さん

遅くなりました、ごめんなさい><

一話では終わらなかった、どうも長くなってしまいます
次回でとりあえず秋蘭の街案内は終わると思います

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2012-07-15 09:16:34 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:8517   閲覧ユーザー数:6347

 

「義姉様、ごめん」

 

屋敷を出て直ぐに、翠は秋蘭の傍に寄ると頭を下げた

突然の謝罪に秋蘭は、少しだけ不思議そうな顔をして、何の謝罪だろうかと考えるが答えが見つからず

何か謝ら無ければならないような事をしてしまったのかと小さく首を傾げて見せた

 

「義兄様の事、アタシ達の為に仕事、朝から行ってるんだろう?」

 

「なんだ、そんな事か。此処に滞在することを進めたのは昭だ、気にすることはない」

 

「でも・・・」

 

確かにその通りだけど、此処にいて、父の認めた義兄と少しだけでも共に過ごしたかった

半分は、自分の願いでもある。だから、やっぱり義兄様が無理をしているのは自分の責任でもあるんだよ

そう言いたげな表情で、少しだけ顔を曇らせる翠を見て、秋蘭は牝馬の美しい尾のような翠の髪を梳くように撫でた

 

「綺麗な髪だ、少々羨ましいな」

 

「えっ、そ、そうかな」

 

「ああ、私もそのような髪であれば、姉者のように伸ばし華琳様から撫でて貰えたろうな」

 

そんなこと無い、義姉様の髪だって凄く綺麗で柔らかそうだ。毎朝ちゃんと櫛を通して手入れしているってよく分かる

陽の光に照らされて、まるで木漏れ日みたいにキラキラしている。そういう翠に、秋蘭は微笑み有難うと一言

 

「それに、義兄様はきっと義姉様の髪が好きだって言うはずだ」

 

「そうだな、昭は私の髪が好きだと何時も撫でてくれる」

 

「だろう?だったら気にする必要なんかないんだ、義兄様が良いって言うんだから」

 

「全くだ。だから、翠も気にすることはない。昭が良いと言ったんだ、明日までだが十分に楽しいんでゆけ」

 

撫でる手を戻し、娘の髪を撫でて優しく微笑む秋蘭に、翠は心臓が跳ね上がる

そして、小さく呟くように「ずるいよ」と言って、自分の髪を指で摘んで毛先を弄んでいた

 

ちゃんと、自分の事を考えてくれるって感じる。アタシを妹だって眼で見てくれるって分かる

敵とか味方とか関係ない、今だけは自分の家族だって気にかけてくれてる。本当になんて言ったらいいんだろう

嬉しいって言葉しか出てこないや、ならアタシは、此処に居る間は素直な良い妹で在ろう

 

「ねぇ、秋蘭義姉様、何処に連れて行ってくれるの?」

 

「そうだな、腹は減っているか?」

 

「アタシは少し、もうすぐ昼だしな」

 

蒲公英もと、昼が近いせいか丁度、二人共小腹が空いたようで、秋蘭はならばまずは市へ行って

少々速いが、昼食を取るとしようと市へと足を向けた。夏侯邸から市までの距離はそれほど遠くなく

街の中を回送する馬車に乗る必要は無いなと、秋蘭は少し運動をさせる為に涼風を降ろして手を繋いだ

 

「馬車って、あの荷台に椅子が沢山付いてて、人が結構乗ってる奴か?」

 

「そうだ、街中を走っているから見たことが有るだろう」

 

「えっ?あれって乗れるの?蒲公英、何か偉い人とか職人さんが乗ってるんだと思ってた」

 

「ふふっ、あれは誰でも乗れる。ただ、老人や妊婦、怪我人や躯が不自由な者が優先だが、ほとんどは牛車に乗るな」

 

秋蘭の話では、定期的に馬車が停車場に止まり、乗りたい者が乗って決まった目的地まで運んでもらうものらしい

料金は勿論、民の税から出されているらしく、誰でも乗れるし誰でも利用出来るとの話を聞いた蒲公英は

損をした、先に知っていればもっと色々な所を見て回れたのにと悔しそうにしていた

よほど、この新城を気に入ったのだろう。この数日間で、服を何着か、そして菓子を土産として幾つか購入していた

 

「明日は、昭と馬車で色々廻るのも良いかもしれないな。そういえば、風呂は何処に行ってきたのだ?」

 

「えっと、義兄様から教えてもらった公衆浴場ってやつ。すっごい広い湯船でビックリしたよ」

 

「お風呂から出た後の甘い牛乳が美味しくって幸せだった~」

 

思い出し、頬に手を当てる蒲公英に、翠は腹を壊して義兄に腹を撫でられていた事を、何時も誂われてるお返しだとばかりに

口にすれば、蒲公英は頬を膨らませて少々不機嫌に、何時も誂っているから言われても仕方が無いと思っているのだろうか

何も反論すること無く、「う~」と唸り声のような声を出していた

 

「めろん牛乳か、あれは確かに美味だな」

 

「あれって何の果実なの?蜀でも食べられるかな」

 

「あれは良い香りのする甘い瓜だ、美羽が西方から取り寄せて栽培したものだ。蜀では難しいかもしれんな」

 

無理なんだと落ち込む蒲公英は、此処に入れる間はお腹と相談しながら飲めるだけ飲もうと心に決め

翠は、そんな蒲公英に呆れていた。あんなに痛い思いをして、まだ飲むつもりなのかと

だが、蒲公英は此処で飲まなかったら、何時飲めるか分からないんだよ!ずっと飲めなくなるかもしれないんだから!

と抗議し、翠はわかったわかった、ならアタシも付き合うよ。たしかに美味いからなと宥めていた

 

「では、食事は公衆浴場の近くで?」

 

「うん、何処もびっくりするほど安かったし美味かった。ただ、量が少なくってさ」

 

「そうか、お前達は食事の時の注意を聞いて無かったのか。昭は忘れて居たのか?仕方がない」

 

「え、注意って、何かあるのか?」

 

夫の不手際を呆れる秋蘭。外は、夏が近くなってきたせいか気温が高く、外出するにはうってつけの陽気

そろそろ炬燵も仕舞い時だ、何時までも出しておいては、布団が汗で駄目になってしまうと、近づく夏の匂いを

いっぱいに吸い込んで、夫と娘と夏はどう過ごそうかと考えていたら、先ほどの不手際などすっかり忘れていた

 

二人が連れて来られたのは一件の店。二階建ての簡素な作りで、周りの店と比べれば少々貧乏臭い

だが、外から見える内装は、蒼で統一され美しく、こまめに掃除をされているのだろう、小奇麗で埃や泥一つない

そして周りに飲食店は多く乱列するが、この店だけは未だ昼前だというのに人が長蛇の列を作り

立て札には【最後尾弐刻半待ち】と書いてあった

 

「これ、並ぶのか?弐刻って、あの鐘が後二回ならなきゃ駄目なんだろう?」

 

「外までいい匂いが漂ってくるけど、流石に此処でずっと並ぶのはもったいないよ秋蘭義姉様ー」

 

明日までしか無いし、此処でじっと待つなら他の場所を見て廻ったほうが良いんじゃないかなと提案する蒲公英に

秋蘭の代わりに涼風が「だいじょーぶっ!」と、入り口前に立ち、大きな声で「すみませーん」と店員を呼んでいた

 

「はいはい、おやいらっしゃい。ご予約の夏候淵様、流石時間通りでございますね。何時もご利用有難う御座います」

 

「四名だが入れるか?」

 

「勿論で御座います、此方へどうぞ。おい、ご予約のお客様をご案内しろ、奥の部屋だ」

 

初老の男性が店から出てくると、涼風の頭を撫で恭しく秋蘭に頭を下げて店員を呼びつけた

どうやらこの店の主のようで、秋蘭に再び頭を下げると今日は良い肉と魚が入っております。ごゆっくりお楽しみ下さい

と包拳礼をとって料理も兼任して担当しているのか厨房へと戻っていった

 

「予約してたんだ、なら最初から言ってくれよ」

 

「でも、よくこんなに人が並ぶお店で予約取れたね、何時から予約してたの?」

 

「お前達が来て、此処に滞在すると聞いて直ぐだ」

 

五日前から既に予約をしていたと言う秋蘭に驚く翠と蒲公英。そして同時に、秋蘭は此処に二人を連れて来ようと

昭が此処に滞在させると言った時から、自分の妹二人をお気に入りの場所へ連れて行こうと考えていたのだと

翠と蒲公英は感激していた

 

流石によく着ているだけあって、店員に案内されて来た個室の定位置だろうか、先頭にいた涼風は直ぐに座って

「此処はおとーさん」と自分の隣に座布団を置いていた。そんな涼風の乱れた服を直しながら、微笑む秋蘭は涼風の直ぐ隣に座る

 

案内されたのは、個室に大きめの卓が一つ。座敷のような場所で、十分に寛げる広さが有る

予約無しで来店した客は、一階のカウンター席や、大きめの卓に椅子が何席かある所で食事を取るようになっているらしく

二階の座敷を見た二人は、一階は気が休まらない。此処は予約をとってゆっくり食事をする店だと涼風と秋蘭の前に座った

 

「此方の方は、ご旅行者様でございますか?」

 

「そうだ、だが採譜は二つ頼む。紅と白だ」

 

「畏まりました。甘味の採譜は如何なさいましょうか」

 

「それも頼む、飲み物を頼むかもしれないからな」

 

「はい、ただ今おもち致します。では、送風機を開けさせて頂きます。炭は、採譜と一緒にお持ちいたします」

 

慣れた様子で注文をする秋蘭を見ていれば、店員が座敷に一度座り、卓の中央の板を外す

はめ込み式の卓の中央の板を外せば金網が姿を表し、店員が卓の下の取っ手を引くと風が通る音がし始めた

 

「何だこれ?」

 

「鉄の網みたいだけど、炭?何か焼くの?」

 

「そうだ、ここで焼きながら食べる。今、聞こえる風の音は、煙を吸い込んで外に吐き出す仕組みのものだ」

 

秋蘭が言うには、外を通る用水路に設置された水車が、天井に着けられた送風機の羽を回し、卓に備え着けられた

網で焼く料理の煙を吸い取り、外へ排出させる仕組みになっているらしい。この装置は、各個室、各机に備えられており

室内で肉や魚介類を焼きながら食事が楽しめるような作りになっているとのこと

 

「へー、個室なのに煙が部屋に篭らないんだ」

 

「それとこの採譜。お前達は、おそらくこの紅いほうを渡されたのではないか?」

 

個室の戸が開き、直ぐに採譜と茶をもって現れた店員が、秋蘭の手に二種類の採譜を渡し

それぞれの前に、冷たい茶を並べて「お決まりになりましたらお呼び下さい」と、静かに戸を締めて後にした

 

蒲公英は、秋蘭の持つ二つの採譜を見て、自分達の時は、確かのその紅い採譜だけだった。白い採譜など渡されなかったと頷いた

 

「やはりそうか、この紅い採譜は旅行者用なのだ。旅行者が魏に入る際にだいたい説明を受けるのだが」

 

お前達は少々事情が違うなと、二種類の採譜を広げて見せれば、採譜に書かれたメニュー自体は変わらない

だが、紅い採譜のほうが恐ろしいほど安く、白い採譜の約半額以下の値段が書かれていた

 

「これってどういう事?秋蘭義姉様」

 

「これはな、旅行者が多くの店を回れるようにと考えだされたやり方で、紅の採譜は、量が少なく値段も安い

逆に、白の採譜は、通常の量で値段も通常。まあ、紅の方は旅行者以外にも使う者が居るのだが、それはまた後で教えよう」

 

説明を受け、なるほどと納得する二人。言われて見れば、自分達は、出される量が少なくお腹も早い段階で満たされなかった為

色々な店を周り、色々な店の食事を口にすることが出来た。そう考えると、このやり方は魏という国を堪能しに来た旅人にとっては

願っても居ないやり方。そして、何より値段が安いから財布の紐も簡単に緩んでしまう。つい先日の雪蓮のように

 

 

 

 

 

 

「ホント、魏って面白いことばかりするんだな。これも義兄様の考えか?」

 

「いや、ウチには少々変わり者で、面白い軍師が一人居てな。名を荀攸と言うのだが、こういう事をさせれば右に出るものは居ないだろう」

 

お前達が攻めてきた時、櫓に居た一番背の高い奴だと言えば、直ぐに自分が引っ張って、少しだけ振り回した人物だと解ったのだろう

翠は、「あー」と頷き、蒲公英もそういえば一番目立つ、男っぽい服装をした人が居たと先日の戦を思い出していた

 

「それで、此処では何が食べれるんだい?アレだけ人が並んでいたんだから、相当美味いんだろうなー」

 

「ちょっと、お姉様っ!」

 

「フフッ、期待に添えると良いのだがな。とりあえず、私に任せて貰って良いか?」

 

想像し、幸せそうに笑を浮かべる翠

初めて来た場所であるし、何よりも常連客のようである秋蘭の進める物を口にしたほうが確実

あれほど美味い朝食や夕食を作れるのだから、舌は自分達よりも信頼出来るはずと考えた二人は、素直に頷き

秋蘭は二人の了承の頷きを見て、呼び鈴を鳴らし店員を呼びよせ、何時も頼んでいるのだろう

「夫と同じ物を二人に、私と涼風は何時も通りだ」と伝え、店員は竹札に注文を認めて部屋を出る

 

暫くすると、店員が生肉や刻み野菜を器に山盛りにして翠と蒲公英の前に配膳し

秋蘭には、調味料で漬け込んだ魚の切り身や貝が器に盛られ、小さい器には牛酪(バター)が盛られていた

 

「うわっ!凄いなこの量!!」

 

「ホントだね、蒲公英達が行ったお店ではこんなに出て来なかったよ。採譜が違うとこんなに差が有るんだね」

 

「いいや、これは昭が頼む量だから此れほど有るのだ。本来は、その四分の一くらいが一人前だ」

 

秋蘭の言葉に驚く二人。どうやら昭は、自分達が此処に来て見ていたような量が満足のゆく量では無く

目の前の、四人分の量が適量であるのだとにわかには信じられないが、驚く事無く目の前の肉と野菜の山を見ている

涼風に、冗談や嘘ではなく本当にこの量が適量なのだと顔を見合わせていた

 

「凄いな義兄様は、それじゃあ何時もは、食べる量を抑えているのか?」

 

「ああ、大食は躯に悪い。先に死なれては私が淋しくてかなわない」

 

「あははっ、本当に秋蘭お義姉様は、お義兄様が好きなんだね」

 

当然だ、でなければ涼風が居るはずが無い。と、娘の頭をなでる秋蘭

では、早速食事にしようと、焼肉を説明する秋蘭。出されたのは薄く切られ壺に入れられて調味料に漬け込まれた肉

良い具合に味付けされた肉を、炭で熱された網へ置けばジュワッと音を立て、たちまち肉から肉汁と油が溢れでる

 

辺には肉と調味料の香ばしい匂いが広がり、否が応にも食欲を刺激され、口の中には唾液が溢れだす

 

「両面を焼いてな、焼きあがったら自分の食べたい時に合わせて麦飯と掻きこむ。ただそれだけだ」

 

「はぐっ・・・んぐんぐ・・・モグモグ」

 

「ちょ、お姉様っ!それ蒲公英が育てたお肉っ!!」

 

香ばしい匂いに堪らないと口に運び、米を描き込めば、翠は一度硬直し、ふるふると躯を震わせて蒲公英が焼きあげる肉も

取り上げてしまい、無意識に食べてしまった事に気がついたのか、悪い悪いと網に多めの肉を広げて蒲公英の分も焼きつつ

肉と飯を口へ運んでいた。秋蘭は、そんな翠をみて「私が焼いてやる」と言って、皿から適量の肉を摘んで少しずつ

肉が焦げないように焼きあげては、翠と蒲公英の茶碗に乗せてあげていた

 

「ゴメンっ!美味しくってさ、こんなの初めてだよ。ただ焼いて食べてるだけなのに」

 

「眼で楽しみ、焼きあがる匂いで楽しみ、出来立ての味を楽しむ。まるで舞台だろう?」

 

「舞台か、秋蘭お義姉様って面白い表現するんだね。確かに、舞台を楽しんでるみたい。焦げちゃうから目が離せないし

焼くって結構楽しいよね」

 

「此れは、昭が言ったんだ。面白いだろう」

 

苦笑する秋蘭は、自分の元へ置かれた魚の漬けを網に置き、焼きあがった所で涼風の皿へと載せ、同時に焼いた野菜も

均等に、美しく盛りつけていき、まるで小さな皿が一品料理のように彩られていく

 

出来上がりと共に、箸を握りしめた涼風がワシワシと口に運び、秋蘭は口についた米を摘んで食べていた

 

「涼風は、肉食べないのか?アタシ達ばっかり食べてるけど」

 

「昨日、肉を沢山食べたからな。今日は魚だ、偏りすぎるのは良くない。均等に食べさせるのだ」

 

「流石、秋蘭お義姉様。所で、お義姉様は食べないの?さっきから蒲公英達のを焼いてばかりだけど」

 

皆の給仕をするばかりで、食事に手をつけていなかった秋蘭は、二人が肉を焼く量やタイミングを把握したと思ったのだろう

蒲公英の言葉を聞いて、「それでは私もいただこうか」と、軽く塩を振られた切り身を網に置き、上に野菜を乗せて

上から鉄の半円状の蓋を乗せて少し待つ。二人は、いったいなにが始まるんだと肉を食べつつ、米を掻きこみ追加を店員に頼みながら

見ていれば、秋蘭は蓋を外して身を返し、上に牛酪(バター)を乗せて醤油を垂らして再度蓋を被せて焼き上げれば

 

切り身の牛酪(バター)醤油焼きの出来上がり。辺には牛酪(バター)と醤油の相性バツグンの香りが辺りを支配し

少々腹の膨れてきた翠と蒲公英だったが、口の中に唾液が溜まり始め喉を鳴らしていた

 

「な、なにそれ。すっごくいい匂い。蒲公英、いままでそんないい匂いがする食べ物、見たこと無いよ」

 

「牛酪(バター)醤油と言ってな、昭が店主に教えたのだ」

 

「此処の店主にお義兄様が教えたのか?」

 

「ああ、元々は、路頭に迷っていた鍛冶屋崩れの親爺だったのだ。昭が拾ってきて、飯を作らせたら此れが美味くてな。いつの間にか

店を持つくらい有名になっていた。だというのに、よせば良いものを昭の居る場所で店を開くと聞かなくてな、陳留と許昌に店を持ち

ながら、此処まで着いてきた変わり者だ」

 

少し食べてみるか?と言われ、遠慮なく野菜とあわせて摘んで口に運べば、少し焦げた牛酪(バター)と醤油の香りが

濃厚に舌の上で広がり、肉とは違う重厚なコクと旨みに二人は、此処に来て良かったと溜息を漏らしていた

 

「気に入って貰えたようでよかったよ。それでは最後に甘味だ、冷たい白玉ぜんざいなどどうかな?」

 

「また聞いたこと無い料理!其れも美味しそうっ!!良いよね、お姉様っ?」

 

「もちろん!義姉様の進めるものならなんだって食べるよ!こんなに美味しいんだからっ!!」

 

その後、米粉を使った白玉ぜんざいを口にした二人は、つるりとした白玉の食感と爽やかな甘さのあずきに一言も発さずに黙々と口に運び

最後の一玉を惜しむように噛み締めて、最後にお茶で口に残った甘さを洗い流して、満腹になった腹を撫でていた

 

「次は風呂だっけ?」

 

「そうだ、もう何度か行ってるのだろう」

 

「ああ、広い湯船に流水で冷やされた牛乳。中で食事も出来るから、最初に行った時はびっくりしたよ」

 

「では、そこも昭から何も言われて無いのか?」

 

言われてないけど、なにかあるのか?との答えに、秋蘭は昭が何故、採譜や風呂を教えなかったのかを理解した

自分と街の中を廻る時、教えてない事が多いほうが会話が続くし、話題も尽きない。それどころか、自分の話を

珍しく何でも驚くし、自分も悪い気はしない。こう思うと昭は思ったのだろう

 

全くその通りだ、それに此れは、昭なりに戦で戦い剣を交えた者どうし、そして敵同士であるから考えたのだろう

まったく、我が夫は心配性すぎる。義妹達と話すにの、何の遠慮や気を使う必要があるのか

 

「仕方が無いやつだ」

 

「えっと、義兄様をあまり怒らないで欲しいんだ、ここに居るのはアタシ達の我儘でもあるんだし」

 

「ふふっ、違う。私を好きで仕方が無いのだなと、呆れていた所だ」

 

秋蘭の言葉を悪い意味で取った翠は、義兄を庇う。確かに、申し出たのは義兄様だが、了承し喜んでいたのは自分達二人だ

しかし、秋蘭はそんな翠に照れたようなはにかんだ笑を見せて、何処か嬉しそうに涼風を抱き上げ

翠は、どういう意味か理解することが出来なかったが、秋蘭の表情を見て言葉の通りの意味だろうと安堵していた

 

 

 

 

 

 

「昭様を救えっ!」

 

「コノヤロウっ!ウチの舞王様に何しやがるっ!!」

 

公衆浴場へと向かい、市を散策しながら歩いていれば、前方の人だかりから聞こえてくる人々の怒鳴り声

昭の名を聞いた秋蘭達は、一体何があったのかと人ごみをかき分け前へ進めば、暴行を受けてボロボロの昭が

地面に倒れ、それを囲む男が三人。二人は店から盗ってきたのか中華包丁を握り、一人は女を人質にとって小剣を首筋に当てていた

 

「あ!秋蘭様っ!」

 

「真桜か、状況は?」

 

「えっと、あの三人が店から金品を盗もうとして見つかって、逃げながら肉屋の包丁かっぱらって、追い詰められて

人質をとったっちゅう所です」

 

聞けば、直ぐに近くに居た昭が賊の一人に取り付いたが、相変わらず初見の者に対して遅れを取るということと

武が無いということが足を引っ張り、必死にしがみついて追いついた警備兵が賊を囲んだが、しがみつく昭は

三人に囲まれてボコボコに殴られ、蹴られてようやく、今手を離した所らしい

 

「呉と戦が終わって、国境辺でうろついてた賊どもが行き場を無くしたんか、最近多いんですわ」

 

其れを聞いた秋蘭の眉は片方がわずかだけ釣り上がり、ボロボロの昭を見て少しだけ口を引き結んでいた

 

「動くなよ、動けばこの女を殺すぞ!」

 

「おい、コイツはあれじゃねえのか?有名な舞王ってやつじゃ」

 

「マジかよ!弱すぎるだろ、コイツ人質の方が良いんじゃねぇのか?」

 

人質にした娘よりも、目の前で地べたに転がる男を人質にしたほうが、この場を逃げるには最適

万が一、抵抗されてもこの娘よりずっと弱いこの舞王なら押さえ込める。何より、魏で有名な王の影と言われる

この男を連れて歩けば、金も食料も思いのままだ

 

三人が互いに考えを合わせるように頷いた瞬間、秋蘭は、涼風を抱き上げて翠に預ける

 

「しっかり抱いていろ」

 

あたしも手伝うと言うよりも早く、秋蘭は走りだし、賊は秋蘭の動きに気がつく事無く、娘を手放して

地面に転がる昭を抱え上げ、首に刃を押し付け周りを囲む警備隊を威嚇する

 

「さがれぇ!コイツがどうなっても良いのかっ!?」

 

「金と馬を用意しろっ!警備隊の奴らはとっとと此処から消え失せろぉっ!!」

 

勝利を確信し、手にした黄金の玉を手放すものかと小剣を持つ男は、昭の首へ剣を強く押し付ける・・・が!

 

「ん・・・んんっ?!て、手が動かねぇ」

 

「何やってんだ」

 

押し付けようと力を入れるが男の手はびくともせず、剣を握る右腕の激痛に視線を移せば、昭の手が男の腕に食い込み

まるで乾いた木が踏み折られるような音が辺に響き渡る

 

「なっ!?あ、ぎゃああああああああああっ!!」

 

腕を握り締められ、苦痛に叫び声を上げる小剣を持つ男。中華包丁を持つ二人の男たちは、仲間の異変に振り向けば

秋蘭が周りを囲む警備隊や市井の者達の間から音もなく現れ、矢のような足刀を一人の男の腹に突き刺さした

 

「・・・ぁ」

 

うめき声すら上げず、崩れ落ちる賊。更に秋蘭の動きは止まる事無く、右足のみで中華包丁を持つ手を蹴りあげ武器を飛ばし

流れるように下段蹴りで体勢を崩し、下がった顎に真下から突き上げるような前蹴りを放つ三連蹴り

 

「ゲボッ!」

 

蹴りを放つ勢いで足を振り上げたまま、つま先で器用に後ろに振り向けば、昭が小剣を持つ男を背に担ぎ上げ

仰向けにして首と足を掴み背中を弓なりに反らせることによってアーチを作り出す

 

「キタァっ!隊長のあいあんくろーに次ぐ得意技っ!!【あるぜんちん・ばっくぶりーかー】やっ!!」

 

「オラアアアアアアァァァァァァァっ!!」

 

姿勢を落とした昭の気合と共に、バキバキと背骨が軋む音が辺に響き、あまりの激痛に泡を吹き出す賊の一人は

気絶しそうになりながら小剣を昭に突きさそうとした所で、秋蘭の踵がむき出しになった鳩尾に落とされ

一瞬呼吸が止まり、白目を向いて地面に崩れ落ちた

 

「久しぶりに見た、雷雲弓だ」

 

「秋蘭様と隊長のこんび技!これくろうたら誰であろうと一撃や!よっしゃ、捕まえろ!!」

 

地面に倒れこむ三人の賊を見て、周りを取り囲む者達から上がる歓声

直ぐに崩れ落ちた賊の捕縛を命じながら、二人の連携技に少し感激する凪と興奮する真桜

 

弓なりに逸らされた無防備の肉体に落とされる秋蘭の雷のような蹴り、着いた名前が雷雲弓

武がなく、何時も警邏で持ち歩く六尺棍ですら満足に使えない昭が、賊と戦い捕まえる方法として使っているのが

プロレス技である。捕まえて、握力に物を言わせて投げ技で仕留める。器用に武器が使えずとも、掴んで投げるだけなら

誰にでもできると使っている技であり、警邏中に秋蘭が、敵を捕まえた所に出くわし手伝う目的でたまたま出来た技が雷雲弓である

 

「朝やってるのって、遊びじゃなかったのか?」

 

「遊びやで、ただその延長が警邏で役に立ってるだけや」

 

「延長・・・本当に義兄様は武が無いんだな」

 

改めて、三人の素人とも言える賊にボロボロにされ肩で息をし、項垂れるように地面に座り込む姿をみて

義兄には力が無いのだと改めて理解する

 

今まで見てきたのは、やはり一人ではないから。だけど、戦ではこの考えは持ち込まない方がいい。勘違いしたら

直ぐに殺されるのは此方だ。だけど、今は怪我をした義兄のほうが心配だ。こんなのは、戻った時に考えれば良い

 

そう思い、翠は昭の元へ駆け寄ろうとすれば、抱きしめていた涼風が翠の腕を外して父の元へと走る

 

「うにゅあ~っ!!」

 

心配で居られなかったかと思ったがそうではなく、顎を弾かれた男が意識を取り戻し、警備兵を振り払うと

地面に転がる小剣を握り締める姿。それに気がついた涼風は、翠の腕から飛び降りて走り賊の顔へと飛び蹴りを入れていた

 

「グハェッ、この餓鬼っ!」

 

蹴られた男は蹈鞴を踏んで寄ろけ、怒りのままに涼風へ剣を振り下ろそうとした瞬間、全身の毛が総毛立ち

肌にはプツプツと冷たい汗が滝のように湧き出す

 

「そんなに死にたいか」

 

重く静かで、音だけで人が殺せそうな鋭い声が耳を突き抜けたかと思えば、太ももに突き刺さる包帯に包まれた指先

形容などではない、例えなどではない、文字通り【太ももに指が突き刺さり】真下には、蛇のように地面を這いずる昭の姿

その顔は鬼や悪魔などではない、醜悪で恐ろしい、明らかに人では無いような怒りの形相

 

「ヒッ」

 

太ももに突き刺さした指を切欠に、逃げ出そうとする賊の躯を這い上がるように左指を男の腰に突き刺し

少しずつ近づく昭に恐怖を覚え、声すら出せず死を覚悟した瞬間、再び顔面に衝撃が走った

 

「出たァ!【元祖しゃいにんぐ・ういざーど】やっ!!」

 

「うおおおおっ!!」

 

這い上がる昭の背を踏み台に、秋蘭が飛び上がり膝を男の顔、涼風が蹴りを入れた鼻へと正確に叩きこみ

男は腹と太ももから五指の風穴を開け、血を流しながら地面へと崩れ落ちていた

 

「が、元祖って、義姉様も朝のあれをするのかよっ!」

 

「そらそうや、隊長から技を教えてもろうて、たま~に使っとるで」

 

「た、蒲公英、ちょっと秋蘭御姉様に対する考えが変わったかも・・・」

 

「真桜っ!説明してる場合じゃないぞ!!」

 

鼻から血を流し、気絶する賊の後頭部を鷲掴みにしてズルズルと引きずり、近くの家屋の壁に何度も叩きつけ始める

気がついた近くの警備兵は、昭の腕や躯にしがみつき、止めようとするが止まること無く何度も何度も壁に叩きつけ

壁が凹み穴が空くと、隣の壁へと移って再び叩きつけていく

 

「ちょ、隊長っ!あかんっ、そいつ死んでまうっ!!」

 

「駄目だっ、聞こえてない!秋蘭様お願いします!!」

 

真桜と凪までも昭へ飛びつくが、涼風に小剣を向けられ頭に血が上っているのか、普段の昭からは信じられない力を出し

警備隊の人間をぶら下げながら賊の顔が血まみれで原型を無くすほど壁へ叩きつけ続けていた

 

「・・・・・・」

 

「落ち着け、まったく」

 

水の心を得た昭からは考えられないような行動。無言で容赦なく壁に賊の顔を打ち付け続ける

よほど娘を狙われたのが頭にきたのか、背後に近づく秋蘭に気がつくこと無く、何時ものように首に腕をまわされ

優しく真綿で締め付けるように頸動脈を締められていた

 

「きゅっ?」

 

ガツンガツンと壁に打ち付けていた昭は、秋蘭のスリーパーホールドで落とされ背後から抱きかかえられ

鼻が折れて血まみれの賊は、あまりの酷さに顔を顰める警備の者によって直ぐに診療所へと担がれ運ばれていた

 

突然の豹変ぶりを見てあれは、もしかしたら戦場で見ることになるかもしれないと驚いていた翠と蒲公英であったが

直ぐに秋蘭が気絶する昭の背中に喝を入れて元に戻る様子を見て安心していた

 

「大丈夫か?」

 

「ん、大丈夫。其れより涼風は?」

 

「おとーさん、ごめんなさい」

 

気が付き、娘を心配する昭だが、直ぐに父の足にしがみついて謝る娘に安心したのか、顔をほころばせて娘を抱きしめていた

だが、腕の中の涼風は父の危機を救ったとは言え、危ない事をしたことには変わりないと思っているのだろう

父からの許しが得られず、顔を歪ませて今にも泣きそうになっていた

 

「おどうざん、ごめんなしゃい」

 

「ん?どうした、怖かったか?」

 

気絶してたことも、頭に血を上らせたことも合わさって、先ほどの記憶が曖昧なのだろうか、昭は涼風を抱き上げ運ばれる賊の一人を

再び鷲掴みにして警備兵から奪い壁へと歩いて行く。額に青筋を立てながら、貴様らが娘を泣かせたのかと

 

「馬鹿者、涼風は許しを得られず泣きそうなのだ、早く許してやれ」

 

「許し?何かしたのか?」

 

「覚えてい無いのか、良いから許してやれ」

 

少々不思議な顔をして、「大丈夫、怒ってないよ」と娘に答え、首に腕を回されて抱きつく娘に昭は喜び

其れを見ていた翠と蒲公英は呆れながら、秋蘭に涼風を放してしまったことに頭を下げていた

 

「無事であったし、娘が勝手に出たのだ、良い。其れよりもだ、凪、真桜」

 

「はいっ!申し訳ありません!!」

 

「すんませんっ!」

 

対応が遅く捕縛が甘い事を指摘され、顔を青くする真桜と凪。秋蘭は、静かに今回の問題点は分かるなと伝え

二人が直ぐに返事をする様子を見て、軽く微笑み何も言わずに昭から涼風を取り上げれば、しこたま殴られた事を思い出した

昭は、苦痛でフラフラとその場に座り込んでいた

 

「大丈夫か、義兄様?」

 

「前に見た、体中に傷があるのってこういう事だったんだね」

 

「前?ああ、璃々ちゃんを返した時か、璃々ちゃんは元気か?」

 

帰ってきてから白弓を自慢げに皆に見せて、毎日何かを的にして矢を撃っていると伝えられ、昭は笑をみせ

秋蘭の腕の中で零れてしまった涙を拭われる涼風は、友達を思い出して蒲公英に璃々の話を聞いていた

 

賊を全員捕縛し、市井の者達を落ち着かせ警備隊が全員配置に戻っていき、自分達も移動しようかと

翠と蒲公英を連れて風呂へ行こうとした時、その場に残っていた凪が、急に秋蘭の前で跪いて頭を下げた

 

「む、どうした凪」

 

「申し訳ありません秋蘭様、私に足技を教えて下さい」

 

ボロボロの昭に肩を貸す真桜は、急に秋蘭の前で頭を下げる凪に驚き、翠と蒲公英も今度はなんだと戸惑っていた

だが、凪は周りの様子など構わず頭を下げて、何度も自分に足技を教えてくれと秋蘭に頼み込み

秋蘭は、凪の意図が解らず小さく首を傾げるだけ。そもそも、体術に置いては自分より上である凪が

何故自分に教えを請うのか、確かに足技だけであるなら凪よりも変則的で多彩だ、だがこれは舞の延長であり

凪のような武の技ではない

 

「理由はなんだ?私の脚技は昭から授かったようなものだ、昭に師事してもらえば良いのではないのか?」

 

「いえ、秋蘭様で無くては駄目なんです。隊長には、そうだ隊長にもお願いがっ!」

 

「ちょ、まちいな凪!どうしたん?朝、隊長の話聞いた後から変やで?いきなり春蘭様のとこ行って剣術教えてくれ言うた思たら

詠のとこ行って、拳闘?とか言うんの教えてくれって言うたり」

 

理由を問うが、凪は「う・・・」と言葉に詰まってしまう。どうも、翠や蒲公英が居るから言えないのではなく

どう言って良いのか、どう説明して良いのか自分でも解らないのだろう。ただ、何かに焦っている訳でもなく

本当に必要で求めて居るということだけが伝わるだけ。だが、秋蘭も直ぐには頷けない。理由が解らねば戦も近いこの時期に

無駄な事は出来ない。師事するとなれば、そこに割く時間も調整せねばならないからだ

 

「教えてあげた方が良いわね」

 

どう説明して良いか悩み、顔を伏せてしまった時、いつの間にか凪の隣で腰を下ろし微笑む水鏡が秋蘭を見上げていた

誰にも気が付かれず、ましてや翠や蒲公英にまで気が付かれることなく現れた水鏡は、羽扇でくるくると円を描きながら

秋蘭から凪に視線を移して地面に置いた子供一人分くらいの大きさの頭陀袋を優しく持ち上げていた

 

「どういう意味だろうか、水鏡先生」

 

「この子の考えていることは間違いじゃないわ。必ず次の戦までに、貴女の考えた道は作り上げられる」

 

「道?私から脚技を習うことが道になり、戦に役立つと言うのか?」

 

「ええ。それから舞王殿。貴方は、この子の考えを読み取って師事してあげる事を進めます」

 

意味深な言葉を柔らかな声色で呟き、クルリと昭の方を見て眼を合わせれば、自分の考えを態と読ませたのだろうか

昭がなるほどと頷いき、何かを思い出したのか心底楽しそうに、何処か懐かしむような顔をして

「お前の鍛錬法を、俺が手伝ってやる」と凪の手を取って握り、凪は感動で頭を何度も下げていた

 

「必ず出来るわ。貴女は、私に最も近く最も遠い存在。凪いだ場所なら、水も鏡の如く。容易に求める境地まで達するわ

戦まで後、二ヶ月と少し。十分に練磨することね」

 

凪と眼を合わせて、楽しそうに微笑むと、柔らかい動きで翠の近くに寄り、「明後日、御土産をあげるわ」と言い残し

その場を後にした。翠と蒲公英は、諸葛亮と鳳統から話を聞いていたのだろう、話の通りの人物だ、あの言葉にも深い

意味があるのだろうと、二人は顔を見合わせていた

 

「理解は出来ぬが、華琳様の軍師の言葉。素直に従おう」

 

「では、御教授して頂けるのですね!」

 

「私の技で良ければな。ただ、昭の舞と変わらぬぞ、威力があるだけだ」

 

その威力こそが必要なのですと凪は、秋蘭の手を握りしめて頭を下げ、真桜が支えるボロボロの昭を担ぎ「隊長はお任せ下さい」と

言い残し真桜を置いて診療所へと走って行っていしまい、真桜は慌てて秋蘭に頭を下げて凪の後を追って走る。そんなに乱暴に担いだら

また隊長が気絶して、こんどは隊長がさっきの賊のように泡を吹いて倒れてしまうだろうと

 

「さて、すまなかったなお前達」

 

「いいよ、義兄様の普段の仕事ぶりも見れたし、義姉様も風呂に入るには丁度いいだろう?」

 

「汗一つかいてないけど、涼風は別だもんね。さっきの飛び蹴りで泥だらけだよ」

 

見れば、抱き上げた涼風は賊にドロップキックを見舞った為か砂埃で汚れ、良く見れば昭に抱きしめられたからだろう

服に血が着いてしまい、蒼く美しい涼風の袍(チャイナドレス)に紅い斑点が出来てしまっていた

一瞬、怪我をしたかと思った秋蘭であったが、涼風の血ではないと分かると大きく安堵の溜息を吐いていた

 

「そうだな、風呂場で次いでに洗うか」

 


 
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