No.453195

真・恋姫†無双 倭√ 第二倭

海に落ちた彼を拾ったのは……?

2012-07-15 09:07:19 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:3240   閲覧ユーザー数:2748

第二倭 決断

 

「何者だ?」

 

姉御と呼ばれた女性は、訝しげに俺を見る

 

その女性の目は鋭い、俺を不審者として見ているに違いない

 

そして俺が不審者なのは間違いない

 

「何者だと聞いている」

 

「まず名を聞くなら、自分から名乗るのが礼儀だろ?」

 

暴力には屈しない、非暴力不服従、昔の人はいい事言った

 

相手に隙を見せたらとことん突かれる、それゆえ相手がいかなる強者であり、

 

有利な立場であろうと、自分は平常を保つ

 

すぅ、と女の目が細められ

 

腰に掛けられた曲刀に手が伸び掛ける

 

「俺の名は北郷、北郷一刀」

 

即答

 

屈してしまったが、これは仕方ない

 

こんな初っ端から争いごとなんて御免だ

 

それに相手も命まで奪う気は無さそうだし、正直に行こう

 

「どこから来た?」

 

「倭から」

 

「倭……東の島国か、で? そんな島国の男がどうしてこんなところに?」

 

「どうしてって……大陸に渡ろうとした途中で、途中下車したというかさせられたというか」

 

「何故大陸に?」

 

「それは……」

 

まるで職務質問である

 

俺は自転車を盗んだ訳じゃないし深夜徘徊をしてる訳でも無い

 

ただ海に落とされただけなんだ!

 

と絶叫する、口には出さないが

 

さてどうしよう、本当の事を言うべきか

 

いや誰かも分からない海賊みたいな人たちに、正直に言うのもリスクが高い

 

なるべく身分を隠しておくべきだ

 

「どうした? 言えないのか?」

 

「いえ、見聞を広めようかと思って」

 

嘘は言ってない、本当の事も言ってる訳じゃないけれど

 

「それにしてもさっきはありがとう。下手したらこっから泳ぐことになってた」

 

改めて卑弥呼の船が去って行った方向を見る

 

ただ海が広がっているだけだった

 

「ありがとう」

 

感謝の言葉と共に頭を下げる

 

この船が通らなければ、分らない距離を泳がなければならなかったのだ

 

「礼はいい、それよりこれからどうするつもりだ? 降りるか?」

 

「え……? マジですか?」

 

こんな大海原に放置なんてされたらたまったもんじゃない

 

泳げない訳ではないが服を着たまま、刀を持って泳ぐのは至難であろう

 

「じょ、冗談だ気にするな。」

 

と、いいながら顔を背ける姉御、その顔は心なしか赤く染まっているようだった

 

 

 

 

すると、この様子を眺めてた男達がざわつき始めた。

 

「姉御が笑った……」

 

「始めて笑った顔を見た……」

 

「雨が降るぞ……気をつけろ」

 

なんか失礼なこと言われてない?

 

「あの男が憎い……」

 

「まだ笑いかけてもらった事もないのに……」

 

なんか憎しみの篭った視線も感じる

 

姉御は表情を元の仏頂面に戻し指示を出す

 

「うるさい! さっさと港に戻るぞ! 後この男の港までこき遣ってやれ!」

 

「はい、姉御っ!」

 

男達が一斉に返事をする。

 

「あ……」

 

そういえば……

 

「どうした? 降りたくなったか?」

 

「そうじゃなくて……」

 

「名前、聞いてもいい?」

 

「あぁ、すまない。姓は甘、名は寧、字は興覇」

 

「え? も、もう一度頼む……」

 

「聞こえなかったか? 私の名は甘寧」

 

「え……、甘寧ってあの?」

 

「どの甘寧かは知らないが、私の名は甘寧だ。」

 

 

 

 

 

 

「甘寧って女だったのーーーーーーーーー!?」

 

数秒の間を開け、俺の絶叫が海に響き渡った。

 

「おい、それはどうゆうことだ? 私が男に見えるのか?」

 

「いやいやいやいや、そうゆうことじゃなくて……なんて言うか……」

 

明らかに不機嫌な甘寧さんいやだって、ねぇ? 男だと思ってた人が女だなんて話聞いたらびっくり

 

あれ? 卑弥呼の場合女が男だから……アレは別の意味でインパクトが強すぎる……

 

「倭の方でも大陸の武人の話は結構伝わってきていて、ただその聞いた限りから男だと……」

 

嘘は言っていない、嘘は、ちょっと未来の事だけど

 

「そうか、ならいいんだ」

 

心なしか不機嫌が直った甘寧さん

 

「そういえば北郷、貴様の剣と服は不思議な形をしているな」

 

「あー」

 

腰に交わらせてある刀に視線が注がれる。確かに日本刀は珍しいのかも知れない

 

服も制服のままである、周りの男たちの服装と比べてみても珍しい

 

服をどこかで調達しよう、後靴も

 

長旅だ、制服1枚とローファー1足じゃ物足りない、現に今びしょびしょだし

 

「護身用に知人からもらったんです、服は……目立つ?」

 

「あぁ目立つな、倭ではそう言う服が流行っているのか?」

 

「そう言う訳じゃないんだけど……そう言えば治安ってどうなんだ」

 

話を逸らす

 

「今はいろいろと危ないことばかりだからな黄巾党のやつらが暴れているのに、官軍は無能ばかり……」

 

ぼやく甘寧

 

やはり中央の力が弱まってるのは確からしい

 

「姉御、そろそろですぜ!」

 

ガチムチな男の1人が声をかける

 

ふと、目を船の進行方向に向けると、いつのまにか陸が見えて来ていた

 

「見えてきたぞ、建業の港が」

 

 

 

 

 

 

 

 

「お~やっと陸だ……やっぱ人間は地に足付かないと」

 

10日間海の上だったのだ、やはり陸が恋しくなる

 

船から見える建業の港は栄えているようだ

 

人々が盛んに行き来している

 

暫らくすると、男達が上陸の準備を終えた様だ

 

船を漕いでいた人達にお礼を言い船を降りる

 

無賃乗車もとい無賃乗船をしたんだ、お礼ぐらいしておいて損はないだろう

 

そして多分、世界で初めて海上で船を乗り継いだ男だと思う

 

この誇りを大切にしていきたい、誰にも自慢できないけど

 

「それで北郷、これからどうするつもりだ?」

 

船を下りようとしていると、下から先に降りた甘寧さんが心配そうに聞いてきた。

 

「あぁ、呉の街を見て回った後、他の国も回って見ようかなと」

 

「そうか、初めての国だ、色々問題があるだろうが体には気を付けろ」

 

「心配ありがとうね、甘寧さん」

 

「なに、もし困った事があったら城に来るがよい、私で良ければ建業に居る間は力になろう」

 

知らない異国の地、そんななかで出会った人にこんな親切にされるとは……

 

ちょっと涙でそう

 

 

 

 

甘寧さんと海の男達に別れを告げ、

 

涙の数だけ強くなれるよーとリピートしながら建業の街を回る

 

アスファルトは流石にないけど、この街は街と言っていい街であった

 

人は多く、物も多い

 

街の喧騒がこちらのテンションをも上げて来る

 

「倭が大陸の力を借りたいって理由が良く分かる」

 

倭では無かった物がありふれている

 

この時代での初めての街、と言う事でつい次々に目移りしてしまう

 

まるでお上りさんだ

 

と、言うのを悪党は嗅ぎつけるのだろう

 

誰かとぶつかる、というよりぶつかって来た

 

「いてぇぇぇ! 折れた! 折れた!」

 

「おい! 大丈夫かよ! てめぇ何しやがる!」

 

「か、金寄こすんだなぁ」

 

チビ、デブ、ノッポの三人組

 

この時代から当たり屋がいるのかよ、と少し感心したのは内緒である

 

しかし、俺も伊達に10数年生きていない、こんな時の対処方法など知っている

 

無視に限る

 

「おい! てめぇだよ! 耳聞こえねぇーのか!」

 

「そこの光った服着たあんちゃんよぉ」

 

やはりこの制服は目立つか、絶対服と靴を手に入れる心に決心する

 

「てめぇ!」

 

後ろで、俺を追いかけて来る気配がする

 

元気じゃん、と心の中で呟きながら歩を早める

 

「無視すんな!」

 

後ろから蹴りをくらう、しかしこちとら砂浜で鍛えた足腰

 

船の上で鍛えた体幹、そうやすやすと態勢を崩したりしない

 

振り向く、目の前に3人が並び口早々と捲し立てて来る

 

さて、どうするか……

 

色々なパターンを考える

 

金を払う? ってなんでチンピラに金を払わなきゃならないんだ……

 

金……金!?

 

金のことなんてすっかり頭に無かった

 

倭では基本物々交換であったからであり、必要な物は卑弥呼がどこからか調達して来てくれていたからである

 

……無一文か、どうすんだ俺? 服買えないじゃん! 靴買えないじゃん! 飯食えないじゃん!

 

逃げる、それが一番安定だな

 

そう思い踵を返そうとした時、店から1人の女性が出てきた

 

 

髪は赤く、長い、足までありそうな髪を束ねているのは派手な髪飾り

 

その腰には剣がぶら下がっている

 

「人が折角昼間から気持よく酒を飲んでれば……騒いでるのはどこの誰? うるさいんだけど」

 

目が俺達4人に向けられる

 

その瞬間、体中に震えが走った

 

この人、ヤバい

 

直ぐに頭を臨戦態勢へ舵を切る

 

「お、いい女じゃねぇーか、なぁ姉ちゃん俺達と遊ばねーか?」

 

3人組はヤバい方向に舵を切りだす、そっちは嵐だ! 帰って来い!

 

「あ、面白そうねーどんな事して遊ぶのかしら?」

 

ニコッと言う効果音が聞こえて来そうなほどの笑みを浮かべる

 

体がまた震える

 

これ以上はヤバいよヤバいよ

 

芸人みたいになってしまったが仕方ない、ヤバいしか出ないほどヤバいのだから

 

「おいお前ら、その辺にしとけ!」

 

「あ? うっせーな! テメェはもう引っこんでろ! で、ネェチャンよーどうよこれから」

 

「良いわねぇ、でも1つお願い聞いてくれるかしら?」

 

「お、良いぜ良いぜ、なんでも良いな!」

 

「治安を乱す人はね、死んでくれる?」

 

彼女は剣を抜く

 

酒が入っているとは思えないほどのスピードと正確さでチビの首を刈りに行く

 

 

 

 

街に金属音が鳴り響く

 

「へぇ……アンタもそう言う人間?」

 

彼女の目線が俺を貫く

 

体の震えをなんとか抑え、彼女に全神経を集中させる

 

右手の刀は彼女の剣を留めておくだけで精一杯だ

 

「流石に殺すのはやりすぎだろ、俺はまだ被害を受けて無いんだぜ?」

 

「あら、そう、でもねこういう馬鹿は死んでも治らないのよ」

 

横の3人組はやっと事態の重さに気がついたようだ

 

「こ、このアマ! 俺に刀を向けるとはどういうことだ!」

 

違う! 舵の切り方まだ間違ってる!

 

頭のコンパス壊れてるだろ!!

 

「逃げろ! 殺されるぞ!」

 

「あ? 誰に指図してんだぁ?」

 

どんだけ強気なんだよ! さっき殺されかけたの気付いて無いだろ!

 

「ほら、馬鹿じゃない」

 

「……」

 

同感してしまった

 

「だけど馬鹿だから死ねってのは行き過ぎだろ!」

 

「そうかしら? 臭い物は元から断つ、これって常識よね」

 

蹴りが飛んでくる、左手で防ぐが衝撃は吸収しきれなかった

 

態勢を崩す、その間にも女は3人へ向かう

 

やっと危機を察したのかデブが逃げようと発案する

 

「そ、そうだな」

 

残りの2人も賛成する、自分の蹴りが効かなかった男が態勢を崩した

 

これを理解するだけの頭はあったようだ

 

「逃がすと思う?」

 

彼女が問う

 

思いません、だけど

 

「殺させはしない」

 

彼女より先に男達を斬る

 

 

 

 

 

「峰打ちだ」

 

多分鎖骨の骨が折れてるだろうけど命が助かっただけも感謝して貰いたい

 

「へー、器用な事するのね」

 

「よく、見逃したな」

 

3人を斬る間、女は静観を決めていた

 

「だって、殺すと思ったんだもん」

 

淡々と述べる、男たちの生死に興味は無いようだ

 

「流石に殺しはしないさ」

 

軽口を交わしながらも、彼女との間合いを測って行く

 

「ふーん、ヤル気?」

 

「自分を守るほどには」

 

「へーそう、じゃあ止めとこうかしら」

 

一瞬俺の後ろに気を向けると、そう言って簡単に剣を納める彼女

 

良かった、後ろで寝ている男たちとは違って

 

「じゃあそこの男たちは任せた」

 

さて、観光の続きと行こう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何処行くの?」

 

「え?」

 

「貴方、現行犯だから」

 

「……え?」

 

「傷害の現行犯」

 

俺、前科一犯

 

 

 

 

 

「ここは……」

 

連れて来られた先は城の中の大きな扉の前

 

あの後、騒ぎを聞きつけ集まって来た兵達は、女の指示を受け俺をここまで連行して来た

 

被害者は俺だ、という主張も結果として重傷なのはチンピラ達の方である

 

しかも目撃者である街の人達は皆示し合わせたように口を閉ざしたままで、

 

最終的にあの女の発言により連れて来られた

 

ボディチェックが行われる

 

刀を没収された、ボールペンもだ

 

「入れ」

 

兵が俺に無機質に告げる

 

逃げるか……?

 

いや、ここは言わば敵の本拠地、問題を起こして無事に帰れるはずがない

 

無事に帰れる保証もないが、今のところはまだしたがっていた方が良いだろう

 

扉を開けながら呟く

 

「何様なんだよ、あいつ」

 

「王様よ」

 

顔を上げると玉座に座っているのはさっきの女

 

そして玉座の前には数多くの女性達、中には知ってる顔もあった

 

甘寧がいる、つまりそれが意味する事は……

 

 

「自己紹介がまだだったわね、我が名は」

 

聞かなくても分かる、三国志で誰もが知っているであろう1人

 

「姓は孫、字名は伯符」

 

――― 呉の王であった

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、早速だがここで問題が数個

 

1、先ほど王に刃を向けた

 

2、目の前には王と、将軍であろう人々が勢ぞろい

 

3、ここは呉の本拠地

 

つまり、絶体絶命大ピンチ

 

まさかこんな事になるなんて

 

しかも俺は何にも悪くない、悪いとしたら運だけという自信がある

 

いや、よくよく考えれば絡んできたのは向こうだろ?

 

俺はまだ一語一句覚えてる

 

“人が折角昼間から気持よく酒を飲んでれば……騒いでるのはどこの誰? うるさいんだけど”

 

ここに、いかに俺に非があろうか? 無いだろ?

 

「さて、ここまで来て貰った理由なんだけど……」

 

王が話を切り出す

 

さて、どんな話が切り出されるのだろうか

 

もし、死とか殺とか物騒な単語が聞こえた場合死ぬ気で逃げる

 

そんな覚悟をひっそりと決める

 

しかし、王の口から発せられたのは予想外の言葉であった

 

 

 

 

 

「貴方、呉の客将にならない?」

 

 

 

「……は? もう一度言ってくれ」

 

「だからー呉の客将にならない? って言ってるの」

 

「どこに王に刃を向けた奴を客将として迎える奴がいるんだよ」

 

将軍全員から敵意を向けられた気がしたが気のせいにしておく

 

「ここに居るけど?」

 

へ? と言わんばかりの顔で返される

 

「それに逆に聞くけど、この状況で王に刃を向けたなんて言う馬鹿が何処に居るの?」

 

「ここに居るけど」

 

張り合う、ここは引いたら負けだ

 

「どう? 祭、冥琳? 面白いでしょー」

 

年相応の笑顔を見せる、ちょっとドキっとしてしまったのは内緒だ

 

「だがなぁ……どこの犬かも解らぬ奴を客将に迎えるなど……」

 

「そうだぞ、雪蓮、しかもこの犬はどこで拾って来たのだ」

 

「えっとー、ちょっと街でぶらぶらしてたらね」

 

てへへーって顔をして誤魔化そうとする王

 

「ぶらぶら? 酒飲んでたんだろ?」

 

つい口を挟む

 

「ほう、詳しく聞かせて貰おうか」

 

冥琳と呼ばれた女性が興味津津、と言った表情で聞いて来る

 

王はヤバいと言った表情を浮かべる

 

責めるならここがチャンスと本能的に察する

 

「人が折角昼間から気持よく酒を飲んでれば……騒いでるのはどこの誰? うるさいんだけどって言われて絡まれたんです」

 

「ほうほう、それで?」

 

「で、男達が絡まれていたんで自分は助けただけなんです!」

 

ここが責め所と言わんばかりに説得する

 

「雪蓮、言い訳は?」

 

「間違っては無いけど! でもなんか違うわよ!」

 

恨めしそうな顔で見られるが無視

 

「お主、名前は?」

 

「北郷一刀」

 

「北郷とやら、今回はうちの王が迷惑をかけて済まんかった」

 

祭と呼ばれた女性が頭を下げる

 

なんとか助かったみたいだ

 

「ちょっ! 祭!」

 

「策殿、後で話があるからのぉ」

 

「もう! 分かったわよ! で、北郷一刀! どうするの!」

 

どうするか……

 

実際の所客将が何をするのかさえ知らない

 

しかし、予測するに客の将と言う訳だから、ようは将として働けということだろう

 

……それは避けたいところだ

 

だが、待って欲しい、今必要な物は何か? 

 

金である、金が必要なのである

 

金を手に入れる為にどうすればいいのか、それはただ一つ

 

働くしかない、ならば答えは決まっていよう

 

 

「では、失礼します」

 

一礼して、玉座を後にする

 

金より命の方が大切に決まってるだろ?

 

 

 

 

 

 

 

「さて、仕事を探すか」

 

取り上げられたものを返して貰い

 

城門を出て繁華街に来た俺は、さっそく行動を起こすことにした

 

命が大切ではあるが、金も必要なのは事実である

 

手当たり次第に仕事を紹介して貰えるように交渉していく

 

「こんだけ賑わってるんだ、1つ位雇ってくれる所があるだろう」

 

まずは、あの小物屋、君に決めた!!

 

 

 

 

 

 

 

「これが就職氷河期か……」

 

大きな通り、全ての店に当たってみた

 

しかし、戦果は全敗

 

通りで起こした事が広まっているようだ

 

王に刃を向けた男を雇えようか? 

 

俺だったら絶対に雇わない

 

「今日の宿どうするかなぁ……」

 

道の端に座り込む

 

日は暮れ始め、夜の商売へ店がシフトしていく所であった

 

店の明かりが灯り始める

 

「今日は野宿か……」

 

そう決意し、重くなった腰を上げようとした時

 

「待て」

 

目の前にふんどしが現れた

 

「甘寧さん」

 

「北郷、貴様そこで何をしている」

 

「なにを……って、なんにも?」

 

「嘘を付け嘘を、城に騒ぎを起こした男が雇ってくれとやって来た、と言う報告がいくつも届いているぞ」

 

完全に不審者として広まってるじゃねぇーか!

 

「まぁここではアレだ、とりあえずどこか落ち付ける所に入ろう」

 

「いや、えっとお金がですね……」

 

「いいから付いて来い」

 

そう言って黙々と進んでいく

 

「ま、待ってって甘寧さん!」

 

こうして、俺達は近場の店で晩御飯を取る事になった

 

 

 

席に着くなり、甘寧さんが注文をどんどんしていく

 

お品書きを見てみたが、サッパリだった

 

見た事のある漢字はいくつかある、だが意味が分からない

 

言葉は通じるのに、文字は分からない

 

これから文字の勉強もしなければ……

 

甘寧さんは一通りの注文をし終わると、改めて俺の方へ向く

 

「何故孫策様の提案を断った?」

 

「何故って……命が惜しかったからに決まってるだろ?」

 

「なっ……!? 貴様、あれほどの力を持っておいて命が惜しいだと?」

 

「あれほどって、見てたのか?」

 

「あぁ、ちょっと気になって後を付けさせて貰った」

 

「なら、孫策さんに絡まれてる時に助けてくれても良かったのに」

 

ついつい愚痴を言う

 

「あれ以上孫策様に刃を向けていれば私はお前を殺す所だった」

 

「最初のは許したんだ」

 

「孫策様を傷付ける意思が感じられなかったからな、で? どうするのだ?」

 

ここは嘘をついてもしょうがない

 

正直に答えるとする

 

「俺は見聞を広めにここに来たんだ、なぜ将にならないといけないんだ?」

 

「孫策様はその力を民を守る為に使ってくれと言ってる、タダとは言わない、衣食住、居る間は全て出す」

 

かなり魅力的なお誘いである

 

しかし、将になると言う事は戦場に出ると言う事と同義だと言う事は馬鹿な俺でも知っている

 

そんな易々と事を決めて良いのだろうか

 

ふと、店内を見回す

 

するとそこには知っている文字が飾られていた

 

【恩】

 

恩を売る、そんな考えが浮かんできた

 

ここで恩を売っておけば後々融通が効くのではないか?

 

相手は呉の王、もとい呉の国である

 

ならばリターンも大きいはず

 

考えが一つにまとまる、そうだ、形振り構っていられない

 

何故大陸に来たのか思い出せ、倭の為、そして自分の為だろ?

 

ここで逃げてどうする? 立ち止まってどうする?

 

自分で踏み出した一歩を、自ら止めてどうする?

 

答えは決まった、後は踏み出すだけだ

 

「分かった、客将になる」

 

「ほ、本当か北郷!」

 

甘寧が席を乗り出す

 

「あぁ、言っておくけど俺は将なんてやった事も無いし、戦の事も何も知らない、それでも良いんだな?」

 

「そこは我々で何とかする」

 

未経験者歓迎、と言った所か

 

「それじゃあ、よろしく頼む」

 

「あぁ、こちらこそ」

 

甘寧が今までで一番可愛い笑顔を見せる

 

握手を交わす

 

こうして、呉での生活が始まりを告げる

 


 
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