No.453194

Masked Rider in Nanoha 二十四話 目覚める悪夢

MRZさん

Bランク認定試験を受ける二人の魔導師、スバルとティアナ。
二人はそこでそれぞれの関係者と恩人と再会する事となる。
エリオとキャロは幼いながらも決意を固め、フェイトの力となるべく動き出す。
だが、その裏で蠢く影がある。長きに渡り眠りし闇。それが遂に行動を開始するのだった。

2012-07-15 09:06:32 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:3661   閲覧ユーザー数:3491

 入念に準備運動をしている二人の少女。一人はオレンジ髪のツーテール。もう一人は青い髪のショートカット。ティアナ・ランスターとスバル・ナカジマの二人だ。共に愛用している自作デバイスを点検し、体もほぐしたとばかりに互いに見つめ頷き合う。

 

「ティア、頑張ろうね」

 

「当然。ま、でも気張り過ぎずに行きましょ。これが駄目でも次があるから」

 

「分かってるよ。でもさ、出来る事なら」

 

「「一発合格」」

 

 合図もなしに揃ってそう言い合う。その直後二人は相手へ笑みを見せ合った。訓練校でルームメイトとして出会った二人。その理由は共に自作デバイスを有しているからだった。それもあり、二人は早い段階で仲を深めていった。

 

 その際たるものが初回の訓練での出来事。戦闘機人であり、魔法学校に行っていなかったためか自分の力が上手く使えず困っていたスバル。彼女は事もあろうかそこでティアナへ怪我をさせかねないような事をしでかしたのだ。

 だが、それで気落ちするスバルを見たティアナは怒るのではなく少し苦笑気味に励ました。スバルの力は使い方次第では大きな長所となる。そう感じ取って。そして最後にこう告げたのだ。

 

―――ないよりもあった方がいいし、いつか調節出来るようになるでしょ。

 

―――ランスターさん……うんっ! 私、頑張るよ!

 

―――よろしい。あ、それとティアでいいわ。親しい相手にはそう呼ばれてたの。で、代わりにアタシもスバルって呼ばせてもらう。いい?

 

―――いいも何もないよ! じゃ、改めてよろしく、ティア!

 

 それからも苦労は絶えなかったが、二人は不思議と嫌と感じる事はなかった。スバルの飲み込みは早く、少し気を付けるだけでどんどん成長していったし、ティアナも彼女から色々と得たものもあったからだ。

 そこで二人は共に理解した。使いこなせない力は危険でしかない。自分の出来る事を正しく理解し、適切に使う。それこそが強さだと。スバルの人懐っこい性格は翔一の影響を受けたティアナには好ましかったのも追記する。

 

 翔一のように自然体でと心掛けるティアナ。命を助けてくれたクウガとなのはへ憧れを抱き、それを追い駆けるスバル。そんな二人がもっとも強く結びついたキッカケは、ある一つの仕草。

 

「どんな苦労も必ず実る」

 

「だから、絶対諦めない」

 

「「それを忘れないなら大丈夫!」」

 

 向け合う親指。そう、それはサムズアップ。これを二人が互いの共通の仕草と知ったのは、スバルが進路希望を書いていた時だった。スバルがその備考欄にティアナとのコンビを希望すると書いていたのを見て、叶わなかったらどうするのかと尋ねた際に返した事がキッカケ。

 笑顔でサムズアップと共に大丈夫と告げるスバルに、ティアナはどこか翔一を重ね合わせて尋ねたのだ。それは癖かと。それにスバルは少し照れながら答えたのだ。

 

 自分を助けてくれた人が励ましでやってくれて以来、ついやってしまうのだと。それに翔一からの話を思い出し、ティアナが「その人って、五代雄介って名前?」と聞いたのだが、スバルは違うと答えてこう返した。

 

―――仮面ライダークウガだよ。

 

 それを聞いたティアナはしばし呆然。それに不思議そうな顔したスバルだったが、どこで会ったのかを聞かれ、空港火災の話をした。それにティアナは納得したものの、結局その後の消息は分からず、手掛かりは”エース・オブ・エース”の高町なのはがその五代と呼んでいたという事だけだった。

 

 あの日、スバルはなのはに抱えられて見た夜空とその暖かさにも憧れ、いつか自分も災害で困ったり苦しんでいる人を助ける仕事に就くと決めた事をティアナへ締め括りに告げた。

 

 そして、その後はお返しとばかりにティアナが翔一から聞いた話をし、スバルと二人で意外な所で縁があったと思って笑い合ったのだ。それ以来、二人は互いの励ましとしてこれをやるようになった。大丈夫や絶対出来ると意味を込めて。

 勿論、成功した際の納得出来るや満足出来るといった本来の意味でも使っていたが。そんな事もあってか、訓練校を卒業した後も二人は共に同じ部隊に配属されて今に至る。

 

「Bランク、かぁ。早かったよね、ここまで」

 

「そうね。でも、いつも実力的には当然って言われてたでしょ?」

 

「そうだけど……ティアがいるからここまでこれた気がする」

 

「はいはい。なら、アタシはあんたがいなきゃ来れなかったわ」

 

「ティア〜」

 

 少し苦笑するようにティアナが言うと、スバルが嬉しそうに抱きついた。それに照れくさいものは感じるが、スキンシップが好きな性格だと知っているティアナは苦笑い。だが、何かに気付いたのかスバルをやや強く引き離す。

 それに不満顔のスバルだが、ティアナがため息と共に指を指した方向を見て軽く顔に焦りの色が出た。そこには一つの空間モニターが出現していて、試験官である銀髪の女性が映っていた。しかもその顔はやや呆れ顔だ。

 

『仲が良いのは結構ですが、試験会場だという事を忘れちゃ駄目です』

 

「す、すみません!」

 

「すみません!」

 

 ツヴァイがスバルへそう注意すると、言われた本人は慌てて頭を下げた。ちゃんとティアナも謝り、ツヴァイはそれに許しを出して自身の名乗りを始める。そしてそれを終えたツヴァイは二人の確認を取った。それにはっきりとした声で答える二人にツヴァイは笑みと共に頷いて試験の説明を開始する。

 

 そんな様子を上空のヘリから見つめる者達がいた。はやてとフェイトにもう一人。ここにいる二人の内の一人と関わり合いが深い男性だ。

 

「ティアナちゃん、合格するかな?」

 

 それは翔一。その視線を眼下でツヴァイの説明を聞いている少女達へ向けている。それにはやてとフェイトは少し苦笑した。事前の資料から実力的に申し分ないと二人は知っているからだ。

 

「大丈夫や翔にぃ。ティアナ達はここまで受けたランク試験は一発で合格してきとる」

 

「それに、スバルとのコンビは私から見ても十分前線で通用するレベルです。きっと合格しますよ」

 

 そう、実はフェイトはスバルと顔見知りになっていた。というのも、光太郎がスバルとギンガが戦闘機人だと教えたのだ。フェイトも人に言えぬ苦しみと悲しみを知っている。だから、決して二人に変な事を思わないと理解した故に。

 そして、それを聞いたフェイトは早速とばかりにナカジマ夫妻に接触した。戦闘機人事件を追い駆けている最中に名前を報告書で見たからと、そう言って。それから情報を共有し、何度かギンガやスバルとも顔を合わせた。

 

 特にギンガとはあの時の救助の関係もあってか慕われている。再会した際にはRXについて聞かれる事があったものの、自分もどこにいるかは知らないとかわしたが。

 

「心配はいらないっすよ、翔一さん。大丈夫、て奴ですよ」

 

 二人の言葉に翔一が頷いたものの、それがどこかまだ不安そうなのを見たのか操縦席から声がした。その人物の名はヴァイス・グランセニック。彼はヘリパイロットとしてこれから発足される機動六課に配属される者だ。

 今回は本当なら光太郎が担当するはずだったのだが、フェイトの希望でエリオとキャロの方へ六課へ来る確認を取りに行ったために彼へ白羽の矢が立ったのだ。彼はシグナムの武装隊時代の後輩だった事もあり翔一の事もある程度知っている。

 

 その頃にシグナムからサムズアップを教えてもらって以来、彼もそれを癖のようにやり合っていたのだ。翔一はヴァイスのサムズアップを見て少しだけ黙った。だが、それもほんの少しの間だった。

 

「そうか、そうですね!」

 

「ちょ、わたしらには不安が残ったのに……」

 

「サムズアップは、絶対です」

 

 翔一の反応を見て軽く拗ねるはやてへフェイトは苦笑しながらそう告げた。そんな三人の視線の先では、説明が終わってティアナとスバルが動き出した所だった。

 

 同じ頃、別の場所でもかなりの好スタートを切った二人を見つめるサイドポニーの女性がいた。その首元には紅い宝石が光っていて、その視線はずっと空間モニターの二人へと向けられていた。

 

「……あの時の子が、こんなに成長したんだね」

 

”もう四年近くになりますから当然です”

 

「あはは、そうだね」

 

 感慨深く呟いた一言に対する大切な相棒の味気ない答えに、女性は苦笑して答えた。そして、視線をモニターから外して周囲を見回す。実はここにもう一人いなければならないのだ。

 どうかしたのだろうかと思いながら女性が小首を傾げた瞬間、やっと通路の奥側からその相手が姿を見せた。それに安堵の笑顔を浮かべて女性は相手を手招きする。

 

「始まってますよ、五代さん」

 

「ゴメン。ちょっと迷っちゃって」

 

 そう五代はなのはへ手を合わせて謝った。それになのはは小さく笑い、視線をモニターへ戻す。丁度分散していたスバルとティアナが合流した所だった。

 その動きを眺め、五代もなのはも小さく感嘆の声を上げた。見るからに分かったのだ。二人が気張っていない事を。緊張し過ぎでも、抜き過ぎでもない。適度な緊張。それをしていると二人には見えたからだ。

 

 その後も危なげなく次々に進んでいく二人。それを見て、なのはは五代へ尋ねた。どうですかと。五代もそれにやや考えて頷いた。

 

「聞いてた通り、元気でいいね」

 

「ですね」

 

 笑顔とサムズアップ。それになのはも笑って返す。もうすぐ動き出す機動六課。その前線メンバーとしてティアナとスバルは選ばれていた。そこには、確かにはやて達隊長陣の考えや、光太郎と翔一の希望もある。

 だが、それを差し引いても二人には選ばれる程の可能性と才能があると、そう教導官として名を馳せているなのはは断言出来た。そこで思い出すのはその機動六課の主要メンバーの事だった。

 

(でも、ホントに凄い部隊だよね……)

 

 遺失物管理の部署として設立される機動六課だが、その戦力は正直異常と言えた。部隊長に総合とはいえSSランクのはやて。スターズとライトニングという小隊の隊長に、オーバーSランクのなのはとフェイト。更にそこの補佐にSランク近いヴィータとシグナムがいる。これだけでもかなりの陣容だ。

 そこに、民間協力者として五代、翔一、光太郎の三人が加わる。そう、隊長陣しか知らないが仮面ライダーが三人もいるのだ。しかも、なのは達は魔力保有制限の兼ね合いで本来の力を出す事が出来ないが、三人は魔力を持たないし使う必要もないためにその力は制限されない。

 

 それだけの戦力を集中する理由。それはたった一つ。五代達三人がこの世界へ呼ばれた原因を倒すため。そうなのはは思って小さく拳を握る。

 

(あの邪眼を相手にするならそれぐらいしないと、ね……)

 

 なのはの脳裏に甦る不気味な姿。あの当時の自分達にクウガとアギトを揃えてやっと勝てたのだ。それを思い出せば、この戦力でも不安は残る。だが、あの時よりも希望も大きい。それはRXの存在。

 五代曰くクウガよりも強い存在であるRX。それが協力してくれれば、ユーノやクロノ、それにアルフやリーゼ姉妹がいなくても戦力的には負けていない。そう思い直し、なのはは視線をモニターへ戻した。

 

 それを待っていたかのように五代がしみじみと告げる。

 

「もう、あれから四年も経つんだね」

 

「はい。でも、五代さんも翔一さんもあまり外見が変わらなかったですね」

 

「そうなんだよ。不思議と髪の伸びも遅くてさ。だからか同じ事をずっとすずかちゃんやアリサちゃんにも羨ましそうに言われたんだ。まいっちゃうよ」

 

 そう言って五代は苦笑する。翔一や光太郎もそうなのにと、どこか腑に落ちないとばかりに呟いて。そんな五代になのはは内心同情するも、親友二人の意見も良く分かるので敢えて告げた。

 

「外見が変わらないって、この年頃になると色々羨ましくなるんですよ」

 

「そっかぁ……」

 

 それに五代は納得した―――ような顔してからやはり納得出来ないと腕を組んだ。それになのはが小さく笑い、五代もそれに笑みを返す。そこへ無機質な声が響いたのはそんな時だった。

 

”マスター、そろそろです”

 

「あ、そうだね。じゃあ行きましょうか、五代さん」

 

「うん」

 

 レイジングハートの声にモニターへ視線を一度向け、なのはは頷いた。そろそろ試験も終わりが見えてきたからだ。なので五代へ声を掛け、案内するように歩き出した。その横に並ぶために五代も歩き出した。

 この後、試験終わりの二人をはやてが正式に六課へ誘いを掛けるのだが、その前にスバルへサプライズをしようと彼女は考えていたのだ。そう、憧れのなのはとの再会と、スバルは知らないだろうがもう一人の憧れであるクウガにも会わせようと。

 

 だが、なのはも五代もそれを知らない。ただ、軽い顔合わせに近いとだけ言われていたのだ。しかし、はやてとの付き合いが長いなのはと五代がそれに気付かないはずはない。歩きながら二人はこんな会話をしていたのだから。

 

―――とりあえず、クウガは秘密かな?

 

―――そうですね。いずれ機会を見てという事で。

 

 しっかりとはやての狙いは見抜かれている。だが、二人は知らない。翔一のせいでその二人はクウガの正体を知っているなどと。

 

 そうやって五代となのはが動き出した頃、試験会場のゴール地点でスバルとティアナが試験終了の解放感を味わっていた。彼女達としては満足いく内容だったのか、その表情は揃って明るい。

 

「時間も少し残してゴールか。いい感じだったわね」

 

「うんっ! まぁ、最後の大型だけ厄介だったけど何とかなったし」

 

 そこで笑顔を見せ合う二人。途中さして危ない所もなく、無事に試験を合格出来たと思える内容だった事がそこから分かる。だからだろう。二人は心から喜びに浸っていた。と、そこへ空間モニターが出現し、ツヴァイがそんな二人へ声を掛けた。

 

『これで試験終了です。お疲れ様でした』

 

「「お疲れ様です!」」

 

『結果は、言うまでもないですね。正式にはまだですが、合格ですよ~!』

 

 ツヴァイの言葉に二人は密かに喜び膝下で手を叩き合う。だが、それを勿論ツヴァイも気付いていた。しかし、それを注意するような彼女ではない。むしろそんな二人に笑顔さえ向けこう告げたのだ。

 試験合格のお祝いにちょっとしたご褒美があると。それに疑問符を浮かべる二人だったが、その次の瞬間上空から耳に響くヘリの駆動音が聞こえてきた。その巻き起こす風に煽られながら、二人はそこから降りてきた人物に揃って驚いた表情を見せた。

 

「フェイトさん!?」

 

「翔一さんにはやてさん!?」

 

「久しぶりだね、スバル。凄かったよ」

 

「ティアナちゃん、合格おめでとう!」

 

「いや、二人して中々ええ動きしとったよ」

 

 予想しない人物達と言葉に二人は嬉しいやら照れくさいやら。そんな二人を他所にヘリがそこから離れていく。そして、それと入れ替わりに空から現れる人影が二つ。といっても、一つはちゃんと空を飛び、もう一つはそれに掴まってる状態だったが。

 それに気付き、ティアナとスバルは視線を上げて言葉を失った。そこにいたのは二人が良く知る人物だったからだ。しかし、それは内の一人であってもう一人は初めて会う相手。だが、そう思っていたのも僅かな間だった。

 

「っと、着きましたよ五代さん」

 

「ありがと、なのはちゃん。不思議な感じだね、空を飛ぶって」

 

 なのはの告げた名前に二人は驚愕。なのはの名前は良く知っている。局員で知らない者はいない程の有名人だ。だが、今二人に強烈な衝撃を与えたのはそのなのはに掴まって降りてきた男性が原因だった。

 五代は、そんな自分を見て硬直している二人に気付き不思議そうな顔を向ける。しかし、何かに気付いたのか笑顔に変わって大声で言った。

 

「合格おめでとう! 頑張ったね!」

 

 サムズアップ。それを見て完全に二人は理解した。目の前にいる者が、自分達が会いたいと思っていた五代雄介なのだと。そして、同時にスバルを炎の中から助け出したクウガなのだと。

 それを悟った途端、スバルは涙を流して頭を下げた。それに戸惑う五代となのはだったが、すぐにその理由が分かる。

 

―――あの時は、本当にありがとうございましたっ!

 

 それがあの時の空港火災を言っていると二人は理解し、同時に五代達はスバルがクウガ=五代を知っている事も理解した。だがどうしてと五代達が戸惑う中、ティアナが翔一さえ戸惑っているのを見て、ため息を大きく吐いて告げた。

 

―――翔一さんが教えてくれたでしょ。五代さんがクウガって。

 

 それに翔一を除いた全員が驚き、翔一へ視線を向ける。翔一はティアナの言葉に不思議そうな顔をして腕を組んで考え込み始めていた。それに彼女が呆れを強くした。

 

「家に来た次の日にアタシと話したでしょ? サムズアップの意味と捜してる人の名前も。そこで言ったじゃない」

 

「あっ! そうだ。すみません五代さん」

 

 そこでようやく思い出したのか翔一はすまなさそうに手を合わせて五代に謝った。それに五代だけでなくはやて達も苦笑した。一人スバルだけは、そんな事お構いなく五代となのはへ涙で輝く視線を向けていた。

 

(やっと、やっと会えた……やっと言えた……)

 

 なのはもクウガもスバルに取っては命の恩人。燃え盛る炎の中、自分を助けてくれた赤いヒーロー、クウガ。その中から安全な場所まで一直線で連れ出してくれた、なのは。

 その二人にもう一度会ってちゃんとお礼が言いたい。それがスバルの一つの目標だったのだ。それがまさか一気に二人と再会でき、叶えられるとは思わなかったのだ。

 

「ま、翔一君らしくていいんじゃないかな? じゃ、軽く自己紹介」

 

 スバルが感動している間に五代は翔一のうっかりを許した。そして五代は懐から名刺を取り出し、スバルとティアナへ差し出した。

 それを反射的に受け取る二人。だが、そこに書かれている日本語が読めず首を傾げる二人を見て、なのはが苦笑しながら近付くと文字へ指を当てながら読み上げたのだ。

 

「夢を追う男、二千の技を持つ男。で、ここに五代雄介って書いてあるんだよ」

 

「夢を追う男……」

 

「二千の技を持つ男……」

 

 スバルとティアナはその大袈裟な文句を感心して聞いていた。五代の話を翔一やはやてから聞いていたティアナはそれが嘘ではないと知っているし、スバルはクウガそのものを見た故にそれを聞いてどこか納得したぐらいだ。

 その後、五代やなのはに何度もお礼を言うスバルをティアナが呆れながら突っ込んだ所で試験は完全終了となった。

 

 

 第六十一管理世界 スプールス。自然が多いこの世界はそれを保っていくための自然保護隊があった。その仕事は主に密猟者対策と生態系の把握と保持を目的としていて、他の陸士隊に比べれば平和な時間が多い部署である。

 そこの隊舎前にあるテーブルに光太郎と桃色の髪をした少女と赤髪の少年がいた。二人は局員として働いているキャロとエリオだ。彼らはここ自然保護隊の所属として働いているのだが、近々揃って試験運用の部隊へ異動する事になっている。そのため、今日はその最後の打ち合わせがあった。

 

「それで、二人はフェイトちゃんが隊長をする小隊員になるみたいなんだ」

 

「そうですか……」

 

「じゃ、光太郎さんも?」

 

 キャロの言葉に光太郎は苦笑して首を横に振った。光太郎は予備ヘリパイロットとして基本整備員達と同じような仕事をするのだ。それを聞いて二人はどこか残念そうな表情を見せる。加えて光太郎が一緒なら心強かったと揃って呟き、光太郎を困らせたのだ。

 二人がここまで仲が良くなるのは本来なら六課発足した後なのだが、光太郎という存在がいた事がそれを早めた。本来彼ら二人を会わせる事をフェイトは時期を見てと考えるのだが、光太郎は相談された際、同年代と早めに繋がりを持たせてやった方がいいと考えたために。

 

―――は、初めまして。私はキャロ・ル・ルシエです。こっちは、大切な家族でドラゴンのフリードリヒ。

 

 初めてキャロと出会った時、光太郎はその雰囲気から強い寂しさを感じた。目はどこか怯えを隠していて、更に表情は相手のものを窺っているもの。どうもそれをエリオも感じ取ったらしく、その紹介を受けて声を少し抑え、明るさをやや強めて告げた。

 

―――初めまして。僕はエリオ・モンディアルって言うんだ。よろしくキャロ、それとフリードリヒ。

 

 どうもそのフリードにまで挨拶したのがキャロには予想外だったのか、エリオの言葉に彼女は軽く驚きを見せた。しかし、エリオにフリードが軽く懐いたのを見て嬉しそうに笑みを見せたのだ。そして自分はフリードと呼んでいるとエリオへ教えて初めて笑顔を見せた。

 それに光太郎もエリオも喜びを抱いた。やっと笑ってくれた。そう思って笑顔で頷くエリオ。それからエリオとキャロがフリードを交えて仲良く話を始めたのを見て、光太郎は嬉しく思って頷いた。

 

 それからしばらくの間キャロはハラオウン家で過ごしたのだが、そこでの日々は彼女にとって驚きの連続だった。ハラオウン家の者達はキャロを本当の家族のように接してくれたからだろう。

 ます、同い年の自分と似た境遇のエリオ。人見知りするフリードがすぐに懐いた兄のような光太郎とまるで備品のように扱われていた自分を助けてくれたフェイト。姉のような友人のような存在のアルフに優しい笑顔のリンディ。加えてあまり会話する事は出来なかったが、明るいエイミィと真面目なクロノ。

 

 そんな彼らに初めはどこか遠慮があったキャロだったが、光太郎やエリオの性格に触れて人の温かみを感じる事で徐々にそれも無くなっていった。特にエリオとは互いの境遇を話し、共に涙を見せ合った事で強い繋がりを得たのだから。

 

 そんな中、キャロが局員になっているのを聞いたエリオが自分も局員になると言い出したのは当然と言えたのかもしれない。その申し出にフェイトと光太郎は困った。しかし、説得しようとしたフェイトにエリオはこう言った。

 キャロとフリードが大人の中に入ってまた孤立してしまう可能性がある。自分はそんな事にさせたくない。だからキャロ達と共に居たい。その言葉に黙ったフェイトと光太郎へ更にエリオはこう締め括る。

 

―――僕だけ光太郎さん達と一緒にいて、キャロ達は孤独なんてさせたくない。

 

 その言葉にフェイトが感動して涙すると、光太郎はそんな彼女を横目にエリオへ生半可な気持ちではただの同情だと説いた。それにエリオは分かっていると頷いて、自分はキャロと支え合うためにいくのだと答えたのだ。

 その眼差しが鍛えて欲しいと頼んできた時と同じ輝きを宿しているのを感じ、光太郎は小さく頷いてフェイトへエリオの希望を叶えてやってほしいと頼んだ。同じ男としてエリオの決意を支えてやりたい。その一心で。

 

 フェイトはそれにやや迷ったが、エリオと光太郎の二人に頼まれた事もあり苦渋の決断で許可を出した。

 それからエリオはその魔力変換能力や資質の高さから訓練を一部免除され、光太郎とのトレーニングで身に付けた力を発揮。同年代以上の身体能力を見せる事で、キャロの局員復帰から遅れる事半年で同じ自然保護隊に配属となった。

 

 以来ずっと二人はコンビとして支え合っていた。エリオは前衛として未熟ながらも光太郎との訓練やフェイトの助言で成長し、キャロはそんなエリオの姿を見て自分も少しでも力になれるようにと自身の能力を少しずつ高めようとした。

 その際たるものがフリードの制御訓練だった。未だに確実に成功するとは言い切れないものの、努力した甲斐もあってか安定感は増していたのだから。出会ってから今までの事を振り返りながら、光太郎は目の前の少年少女を見つめた。

 

「で、本当にいいんだね?」

 

「はい。エリオ君と話し合って……」

 

「もう決めましたから」

 

 そう二人は笑みを浮かべて互いを見つめる。その様子に確認をした光太郎は少し苦笑して頷いた。ハラオウン家で二人の面倒を光太郎が見れたのはそんなに長い時間ではない。と言うのも、キャロは既に局員となっていて、次の配属先が決まるまでの期間しかハラオウン家に居れなかったからだ。

 それでも二人がここまで成長した事。それを思い光太郎は嬉しくなった。二人に共通しているのは、その強くなろうとした根底が大事な人を守るためなのだから。そこに人の強さと優しさを見て、光太郎は膝を軽く叩いた。

 

「よし! じゃ、フェイトちゃんには俺から言っておくよ。二人は、ミッドに行く準備をしておいてくれ」

 

「「はいっ!」」

 

 光太郎の言葉に二人は笑顔で頷いた。それに光太郎も笑顔を返す。そして二人は定期巡回の時間だからとその場から離れていく。それを見送り、気をつけてと声を掛ける光太郎。すると、その後ろから二人分の気配が近付いてくるのを感じ、光太郎は振り向く。そこには自然保護隊で二人の面倒を見ているタントとミラがいた。

 

「タントさんとミラさんでしたか」

 

「相変わらず元気ですね、あの二人は。特に光太郎さんが来ると」

 

「本当にね。それで話は終わりました?」

 

「はい。すみませんが、もう少しだけ二人をよろしくお願いします」

 

 優しい印象の男性のタント。面倒見の良さそうな女性のミラ。この二人と光太郎は何度か顔を合わせている。忙しいフェイトと違い、光太郎は基本時間が自由に使える。

 そのため、アルフを伴ってよく二人の様子を見に来ていたのだ。つまり、二人へ会いに来る度に必然的にタント達とも顔を合わせる事になるのだから。

 

 その後、光太郎は二人と今後の事を少しだけ話し合い、六課が解散した後の事はエリオ達に一任する事で決まっていると告げた。すると二人はどこか嬉しそうに笑った。エリオもキャロも優秀な魔導師。今はまだ経験や年齢のためそこまでではないが、それを埋めれば凄い人材になるからだ。

 だが、タント達はそれだけではない。二人の性格と、何より弟と妹のように思ってくれているからだと光太郎は知っている。だから、こう続けたのだ。

 

「きっと、二人はまたここへ戻ってきますよ。この仕事が好きみたいだし、何より、お二人がいますから」

 

「光太郎さん……」

 

「そうですか。なら、僕達はそれを願って送り出します」

 

 光太郎の言葉に少し目を潤ませるミラ。タントはそんな彼女を見て、優しくその肩に手を置いた。そして、自分達に言い聞かせるように力強く言い切った。その言葉に光太郎はもう一度二人の事を頼み、その場を後にする。

 その背中を見送りながら二人はある事を思い出す。初めて光太郎が来た時、偶然密猟者達がやって来ていたのだ。しかし、そこへタント達が到着する前に彼らは沈黙させられた。そう、光太郎一人によって。

 

 その時の事を思い出し、タントとミラは不思議に思うのだ。何故、そんな力を持つ光太郎をフェイトは局員にしないのだろうと。だが、そんな光太郎を民間協力者として六課は加えた。その理由と光太郎が協力を決めた原因。それがどうしても二人には分からなかった。

 何故ならば、実は二人が自然保護隊に誘ったのだが振られてしまった事があるために。光太郎は自然が好きな事を知り、ならばと思って声を掛けたのだがそれでも丁重に断られたのだから。

 

「光太郎さん、どうして六課には協力するのかしら?」

 

「分からない。でも、きっとエリオとキャロのためだと思う。ミッドはここよりも恐ろしい事件が起きる場所だ。それから少しでも二人を守りたいんだろう」

 

 ミラとタントが光太郎の真意を推測している頃、エリオとキャロはフリードと共に歩きながら六課の事を話し合っていた。フェイトや光太郎の事だけではなく、二人が久しぶりに会いたい者がいるため、今はその相手の話をしていた。

 

「やっぱり五代さんも来るんだね」

 

「うん、楽しみだね。フリード、またジャグリング見せてもらえるよ」

 

「キュク~」

 

 キャロが五代に会った回数は二桁にも満たない。だが、五代が出会った時にジャグリングを見せたため、フリードと共にキャロのお気に入りとなっていた。

 ちなみにストンプも披露した。その演奏にキャロは楽しんだが、フリードは音が色々と鳴る事に少しだけ嫌がる素振りを見せたので以来ストンプをする事に五代は躊躇いを見せ、一度だけの技となっている。

 

「キャロの気持ちは分かるけど、遊びに行く訳じゃないよ?」

 

「えへへ、分かってるけどお休みとかならいいよね?」

 

「キュクキュク」

 

 キャロの答えに賛同するように声を出すフリード。それにエリオとキャロは笑みを見せる。小さな翼竜であるフリード。だが本当の姿は二人を楽に乗せられる巨大な翼竜。しかしキャロが制御しないと恐ろしい力になってしまうため、普段は力を抑えた小さい姿をしている。

 

「そうだ。六課に行く前にフリードの制御、もう一度だけ練習しておこうか」

 

「そうだね。せめて興奮する事がない時ぐらいは完璧に制御出来るようになりたいな」

 

「キュク?」

 

 楽しげに話す二人。それに首を傾げるフリード。自然に囲まれた中で幼い男女は優しさと強さを磨いていく。その心に光太郎とフェイトの影響を強く宿して。

 

 

 ジェイルラボ内研究室。そこでジェイルはある物の最終調整を行なっていた。

 

「これで……どうかな?」

 

 慎重に押されるEnterキー。そして画面に映った文字は”Complete”。それは、実験の成功を意味していた。ジェイルはそれに満足そうな表情を浮かべると小さく頷いた。

 彼が行なっていたのはベントカードの製作。従来考えていた現状にはない物を作り出すのではなく、現状の物を複製する事に力を注いだ結果、ついにベントカードを作り出す事に成功したのだ。

 

 そして、それが意味するのは龍騎の持っているガードベントやストライクベントも同じように作り出せる可能性が高いという事。だが、肝心のファイナルベントだけはその威力のためなのか、それともモンスターの力を使うからなのか知らないが上手くいく気がジェイルにはしなかった。

 ジェイルの手元に現れるベントカード。そこには剣の絵が描かれている。ただ、ドラグセイバーではなくブランク体が使うライトセイバーだった。しかし、それでもジェイルに取っては大きな進歩といえた。

 

(これで、やっと先へ進めるね……)

 

 真司に渡したい力。それへの道がまた一歩進んだ事に喜びを感じつつ、ジェイルは時計へ目をやった。時刻はそろそろ夕食開始の午後七時近く。それにジェイルは慌てて、今完成したばかりのデータを保存して部屋を出て行く。

 

 誰もいなくなる研究室。そこに不気味に現れる巨大な目玉。それは、ジェイルの操作していたコンソールへ近付き、消えた。それと同時に先程のデータが表示され、更に多くのデータが次々と表示されていく。

 そして、それら全てが一瞬で消える。だが消去された訳ではない。複製されたのだ。そう、邪眼によって。闇の書の機能のほとんどを取り込んだ事による蒐集能力。それを、魔法ではなくデータへと切り替えて。

 

―――これで力も得た。残るは……

 

 徐々に力を取り戻し、そして増しつつある闇。その目覚め、それが訪れる時はもうそこまで迫っていた。この日がラボの平穏の終わりになると、まだ誰も知らないまま時間は過ぎていくのだった。

 

 

「へぇ、姉妹で局員か」

 

「ああ。まぁ、私は会う事は難しいが、あの子達なら何ら問題ないからね。いつか、会わせてみたいものだよ」

 

 夕食も終わって風呂に浸かりながらジェイルと話す真司。今の話題はナンバーズの親戚であるナカジマ姉妹だった。ジェイルは、彼女達に近々ナンバーズを接触させようと考えていた。それは、姉妹の存在を知った後発組が会ってみたいと言い出したため。

 特にノーヴェは、自分と双子と呼んでもいいスバルの存在に親近感を抱き、是非会ってみたいと強く言っているのだ。他の者達も質こそ違え、二人に会いたいと思っている。そのため、ジェイルとしてはそのタイミングを計るために姉妹の色々を把握していた。出来れば、局員としてではなく個人として行動している時がいいと考えて。

 

「今、どこで働いてんの?」

 

「姉のギンガは陸士隊の108という所だ。父親が部隊長をしている。妹のスバルは今は陸士隊の386だが、近々異動する話が出ているね」

 

「異動? どこへ?」

 

 ジェイルが何故そんな情報をと思う真司だったが、彼が管理局と独自の繋がりを持っている事を思い出しそれを聞く事はしなかった。

 そんな真司にジェイルは思い出すように告げた。そのスバルが異動する予定の部隊名を。それが、後に自分達と深い関わりを持つとは知らずに。

 

―――試験運用のための部隊でねぇ。名前は……機動六課だよ。

 

 その後風呂から上がった二人がするのは、最早恒例の熱冷ましの雑談タイム。以前なら全員で食堂に集まり、真司が色々と話を聞かせる憩いの時間だった。今もそれぞれ寝間着に着替え、その手にはカップを持っている。中身はディードが淹れたハーブティーだ。

 寝る前にこれを飲むのが定番になってもう二ヶ月程になる。だが、最近はこの時間も変化していた。真司が話を聞かせるというより話を聞いているのだ。その理由。それは彼が書いている本が大きく関係していた。

 

「で、最高評議会が依頼してきたんだよな」

 

「そうそう。でも、発案者はレジアス・ゲイズだよ。戦闘機人を欲しがったのは、ね」

 

 真司が執筆中の本。それに関する記述の確認となっていたのだ。後は、ウーノ達それぞれにもインタビューをしていて、自分の生まれに関する意見や感想などを答えてもらっていた。真司はそれをメモしており、本の最後に辺りに載せるつもりでいる。

 今日は、戦闘機人を生み出す事になった経緯。それをジェイルの口から聞いていた。無論、それを知っているウーノやドゥーエでも良いのだが、やはり当事者で開発者であるジェイルが話すのが一番だと誰もが思っていた。

 

 そして、そんな話をセイン達も聞き、改めて色々と考えたりするのだ。自分達の生まれた表向きの理由。それが意味する事や問題点などについて。一方、ウーノ達も知らなかった情報が時々ジェイルから告げられ、考える事もあった。

 そんな感心と驚きに満ちた時間も終わりを告げ、後は寝るだけとなったのだが、そこでジェイルが全員へある事を提案した。それは研究が一段落したのでみんなでどこかに出かけようというもの。それを聞いて真司達が喜びに沸く。

 

「どこに行くッスか?」

 

「あ、あたし旅行がいいな! それも泊りがいい!」

 

 ウェンディとセインのムードメーカー二人が真っ先に反応を示す。それに呼応するように他の者達も意見を述べ始めた。

 

「泊まりなら……キャンプとか?」

 

「海辺でもいいかもしれません。潮騒の音を聞きながら眠るのも悪くないかと」

 

 ディエチの言葉にディードが笑みと共にそう返す。だが、そんな情緒溢れる場所よりももっと世俗的な場所がいいと感じる者もいた。

 

「いっそ行楽地で遊ぶのがいいのでは?」

 

「となると遊園地、ね。騒がしいところはあまり気乗りしないわぁ」

 

「でもクア姉、行ったら結構楽しみそうな気がする……」

 

 オットーの提案にクアットロが難色を示すようにそう言えば、それを聞いてノーヴェがぼそりと呟いた。すると、クアットロの告げた騒がしいという部分に反応した意見が出る。

 

「ならば映画ならどうだ? 上映している作品を選ぶ事でみなが好きなものを楽しめるぞ」

 

「あら、いいわね」

 

「なら、その後はショッピングかしら?」

 

 チンクの意見にドゥーエが賛成し、ウーノが笑顔でその後の予定を告げる。と、ここにきて外出ありきで考えている姉妹達を見つめていた者が所在なさげに呟く。

 

「……ラボでのんびりは駄目なのだろうか」

 

「お前はたまに真司のような事を言うな……」

 

「どういう意味だっ!」

 

 セッテが肩身が狭そうに告げた言葉にトーレが呆れつつそう返す。それに真司がやや怒り気味に突っ込んだ。それを聞いて誰もが笑う。その楽しげな声を聞いてラボの主であるジェイルが意見を纏めようと口を開いた。

 

「まぁ、落ち着いてくれ。まずは」

 

 そんな風にそれぞれで騒ぎ出す真司達をジェイルは苦笑気味に止めようとした。だが、その次の瞬間ラボ全体に警報が鳴り響いた。

 それを聞いてジェイルだけが驚愕の表情を浮かべる。そう、それは有り得ない事なのだ。鳴り響く警報の意味。それは、ラボのシステムにハッキングを掛けられているという事なのだから。

 

 即座にジェイルはウーノへISを使ってのシステムチェックを指示。更に、万が一に備え全員に戦闘態勢を告げた。ハッキングを仕掛けた相手がそれだけで終わるとは思えない。そう判断したジェイルは急いで自室へと戻る。

 もしものための緊急手段。それを使わなければならないかもしれないと思って。そして真司のために研究しているデータだけでも守るために。

 

 そんなジェイルを見て、真司はトーレとチンクへジェイルを追ってくれるよう頼む。何があるか分からない以上、誰かが傍にいた方がいいと。それに二人も頷き、更にセッテとウェンディもトーレとチンクに呼ばれてついて行った。

 残ったナンバーズは、とりあえずISで安全に行動出来るセインが全員のボディースーツを取りに行き、トーレ達へ届けてから戻ってくる事に決める。クアットロとオットーはウーノの補佐を開始し、ノーヴェとディエチにディードの戦闘力が高い者はいつ何が起きてもいいように周囲へ警戒をし、ドゥーエは念のために真司へ変身するように告げてコンパクトを取り出した。

 

「この中で一番強いのは真司君なんだから」

 

「……分かった!」

 

 距離を取り、全身が映るようにして真司はデッキをかざす。出現したVバックルを確認し、手にしたデッキを装着するべく声を発した。

 

「変身っ!」

 

 装着されるデッキ。それが力を発揮して彼の姿を変える。龍騎は変身完了とばかりにいつもの癖とも言える行動を取った。

 

「っしゃあ!」

 

 気合を入れ、周囲へ視線を向ける龍騎。だが怪しい気配はしない。それでも警戒は怠る訳にはいかないと、龍騎は真剣な雰囲気のままその場に立ち尽くす。すると、ウーノが信じられないという声を上げた。

 

「嘘でしょ!? 既にラボのシステムがほぼ掌握されているなんて!」

 

 その声に誰もが言葉を失った。クアットロとオットーもその速度に驚きを隠せないが、それでも抗うためにその手を止めようとはしない。そこへセインが大慌てで戻ってきた。その手にしたボディースーツを手渡しながら彼女はその慌てている理由を告げる。

 

「おかしいよ! トイが何でか動いてて、あたし達を攻撃してきてる!」

 

「何ですって!?」

 

「ホントなんだって! ドクターはもうハッキングへの対応を始めてる。で、トーレ姉達がドクターの作業を邪魔されないように戦闘中!」

 

 着替えをしようとしていたドゥーエだったが、その発言にさすがに動揺を隠せない。既に起動する事のないようにされたトイ。それが勝手に動くだけでも変なのに、こちらに攻撃をしてきたとくればそれはもう異常を通り越して非常事態だ。

 戸惑う妹達へドゥーエは鋭い声で早く着替えるように指示を出す。そしてウーノへも今は着替えた方がいいと告げて彼女用の着替えを手渡した。丁度ジェイルの方で動き出した事もあり、その僅かな隙にウーノ達も着替えるべく動く。

 

 龍騎はそれを見ないようにし、ただ耳を澄ませた。すると、どこからか何かが近付いてくる音を聞き付けた。それが何かを理解するまでもなく、龍騎はデッキへ手を伸ばしてソードベントを取り出した。

 

”SWORD VENT”

 

「ノーヴェ、ディエチ、ディード。こっちは俺が守るからお前達は別方向を頼むな」

 

 手にしたドラグセイバーを振り払い、龍騎は見えてきたトイ三体へ向かって走る。だが、三人は龍騎の事が心配なのかそちらしか見ていない。それを見たクアットロが叫んだ。

 

「何ボサっとしてるの! あっちはシンちゃんに任せて、貴方達は別方向に備えなさいっ!」

 

「「「り、了解っ!」」」

 

 初めて聞くクアットロの大声に三人は驚きながらも返事を返して視線を龍騎から外す。それに笑みを見せるクアットロ。ウーノとドゥーエは三人とは違う意味で驚き、オットーとセインは三人と同じ意味で驚いていた。

 その間も謎の存在によるハッキングは続いた。それに対しウーノ達が抵抗する中、龍騎達は襲い来るトイ達を相手にしながらその異常性を実感していた。それはノーヴェ達も同じだった。

 

「こいつら……前より硬い?!」

 

「嘘だろ!? アタシの全力でようやくスクラップかよ!」

 

 簡易砲撃を受けても止まらないトイにディエチがそう言えば、ノーヴェは自身の全力でようやく破壊出来たトイに驚きを隠せない。ディードも、手にしたツインブレイズで軽く切り裂けるはずの相手の変化に戸惑っていた。

 龍騎もそれは感じていた。以前に戦った時よりも強度が増している。しかも攻撃速度も上がり、厄介さが格段に上昇していたのだ。一体どうして。そう思うも龍騎達はその手を止めない。

 

 しかし、おかしな事に倒しても倒してもトイが減らないのだ。襲ってくる数自体は少ないため大した事ないのだが、切れ目なく襲ってくるため気の休まる暇がない。それでも龍騎達は戦い続ける。

 一方のウーノ達もおかしな雰囲気を感じていた。ハッキングしている相手はもうシステムを掌握出来るはずなのに、何故かそれが目前まで来ると不気味なぐらい動きを止めるのだ。まるで何かを待っているようなその反応に、ウーノもクアットロもオットーさえも嫌な感覚しか覚えない。

 

 そんな時、ウーノ達の目の前に空間モニターが出現した。

 

『ウーノ、チンクだ』

 

「どうしたの?」

 

 突然現れた空間モニターに驚きつつ、ウーノは勤めて冷静に問いかけた。チンクはやや焦りながらではあるが、ジェイルが今緊急時の自爆装置を起動させた事を伝えた。そしてそこからチンクは感情を押し殺すかのように語る

 止められるのはジェイルのみなので後十分で脱出しなければならない事や、既にジェイル達は龍騎達の方へ向かっていて、合流次第ラボから脱出し放棄する事を。それに一瞬だが全員が息を呑む。チンクも悔しそうに表情を歪めていた。

 

「それって……」

 

「あたし達の家、捨てるの?」

 

「チンク姉、冗談だよな?」

 

『……事実だ。ドクターでさえお手上げだそうだ』

 

 チンクの告げた内容にディエチは信じられないといった表情をモニターへ向けると、それに続くようにセインとノーヴェが言葉を告げる。その声に込められた嘘だと言って欲しいという思いに、チンクは苦しそうに事実を答えた。

 

「嘘……ドクターでも無理なんて……」

 

「ラボを放棄……そんな……」

 

  ドゥーエとウーノさえその事実に言葉がない。天才であるジェイル。それが構築したシステムやプロテクトを簡単に掌握出来、ジェイルよりも一歩先んじるような芸当が出来る相手などいるはずがないと思っていたからだ。

 

「……分かりました。では、お待ちしていますチンク姉様……」

 

「どうかご無事で……」

 

 そんな暗くなる姉二人と違い、オットーとディードは比較的冷静に考えてそれに同意した。だが、その声には明らかに悲しみと悔しさが混ざっている。このラボで家事を積極的にしていた二人にとって、まさしく我が家を失う事は耐え難い。

 それでも姉達も同じ気持ちであると思う事で、それを必死に飲み込んだのだ。既にウーノの補佐を離れ、オットーはディードと二人で龍騎の援護していたのもある。

 

 何故なら、チンクの言葉を聞いた時から龍騎は無言で戦い続けているのだ。疑問も怒りも悲しみも、一切の感情を見せずひたすらトイを倒し続けている龍騎。それを見ていた二人には、自分達が怒り等を出す訳にはいかないと思ったのだ。

 誰よりも悔しく辛いのは、自分達の目の前にいる人物だと、そう思っているから。故に抑え込む。湧き上がる思いを必死になって。

 

「……っ」

 

 龍騎の一撃がまた一機トイを倒す。それを見下ろし、龍騎は拳を強く握り締める。痛感する無力感。ライダーでありながらジェイル達の暮らしを守る事さえ出来ない。ライダーバトルを止めると誓ったはずなのに、ジェイル達の悲しみさえ止められない。

 そう感じ、龍騎は手にしたドラグセイバーを感情のまま振り払う。それが接近していたトイのレーザー部分を破壊し、そのまま沈黙させた。それを蹴り飛ばし、龍騎は大きく息を吸って―――吐いた。

 

「……っ!」

 

 また向かってくるトイ達へ龍騎は挑む。それを支援するべく動くオットーとディード。それを眺めながらクアットロは思う。それは、先程ウーノの補佐をしていた時に見た光景について。

 一瞬しか見えなかったが、とても忘れる事の出来ない光景。それは、廃棄所に映っていたある物。それを思い出してクアットロは呟いた。

 

「あれ、何だったのかしら……」

 

 正直に言えば思い出すのも嫌になるようなおぞましい物だった。だが、だからこそ余計に気になっていたのも事実。何せそれは……

 

―――不気味な大きい目玉が浮んでいるように見えたのだけど……

 

 この現状を作り出している存在そのものだったのだから。

 

 

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空白期最終回にしてStS編序章。ついに動き出した物語。原作とは違う関係を築き、良い方向へと向かっている六課の面々。

 

それとは逆に動き始めた邪眼によって悪い方向へ向かっている真司達。最初からクライマックスな展開です。


 
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