No.452141

曹条浦康の奇妙な冒険【裏切物語】

あしゅきさん

単発作品です

2012-07-13 18:05:15 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:746   閲覧ユーザー数:721

 

夜。まるで大きな鳥がこの上を飛んで、太陽を覆い隠しているんじゃないかと思うほどの暗闇の中。

男は走っていた。光が大通りから僅かに溢れるだけ路地裏を。

こんなはずじゃなかった。計画は順調だった。こんなことになるはずがなかった。こんなことになると、誰が予想できた。

男は、狂ったように路地裏を走りながらそう考えていた。まるで、何かから逃げるように。

「ハァッ!ハァッ!ハァッ!」

肺が酸素を求める。足が悲鳴をあげている。呼吸を求める声は、少しうわずっていた。

それでも、動きを止めるわけにはいかない。

止めれば、あいつが―――

 

―みぃつけた

 

ゾクリ。男の背中に冷たい何かが突き刺さったかのような錯覚が走る。

間違いない、奴の声だ。いやだ。ここで死にたくない。

震えが止まらない。呼吸はさらにペースと音程を上げる。足がもつれそうだ。

 

コツン。コツン―

 

足音が、妙に大きく聞こえる。いや、大きく聞こえるのは響いてるからじゃない。近づいてきてるからだ。

男は全力疾走をしている。速度は遅めだが、それでも走っている男に歩いている奴が近づけるわけがない。

上ばかり見ていた男が、足下を見た。そして、気づく。

「ッ!なんで…なんで進めてないんだよォォォォーッ(・・・・・・・・・・・・・・・・・)!!!!!」

男の足は動いていた。燃えつきたような焦げた黒のコンクリートを蹴っていた。しかし、それでも自身は一歩も進んではいなかった。

まるで、ベルトコンベアだ。地面が動いているから、自身が進まない。

 

コツン。コツン―

 

それでも、奴は徐々に近づいてきてる。離れなければならない。けれども、離れられない。動かない。

 

コツン。コツン― 

┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛―

 

冷や汗と体を冷やすために流れていた汗が、コンクリートにしみを作る。後ろを振り向きたい。だが、振り向けない。

体にはなにも問題はない。首は普通に動く。それでも振り向けない。いや、振り向きたくない。

 

コツン…

 

足音が止む。奴の息づかいが聞こえる。すぐ後ろにいるのだ。すぐ後ろで、男の命を奪おうとしている。

「うおっ!うおおおおおお!!うおおおおおおおお!!」

男は本当に狂い、脚を全力で動かす。走れば、奴から離れられるはずだからだ。それでも、男は進むことはなかった。そして―

 

……ブレインジューダス

 

―男の胸に、穴が開いた

「ゴッ……ブェ…ッ!」

口と傷口から大量の血を流れ飛ばしながら、男は倒れた。

痙攣もし、手も虚空へと伸ばしたが、間もなく男は息を引き取った。

…アンタは裏切られたんだ。自分の脳と、世界に(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

それを見送った殺人者は、先程と同じ歩調でその場を去った。

路地裏には、汗のしみ後と、男を中心とした一メートル弱の血痕が残った

 

 

 

 

 

 

「―次のニュースです。本日未明、クラナガンの『…』区の路地裏で胸に穴の開いた死体が発見されました。さらに、森林の中にひっそりと立っていた『…』研究所ですが、何者かの仕業により。研究員は全員殺害されており、その内の何人かも同じように胸に穴が開いた状態で発見されました。地上本部は。死体から魔力が感じられないため、質量兵器を使った同一犯と見て、捜査を始めています―」

 

プツリッ

 

金髪の女性はリモコンを操作し、テレビの電源を切る。そしてテレビからディスクを取りだし、ケースにきっちりと閉める。

先程のは二日前のニュースだ。この事件を捜査する身としては、少しでも情報が欲しかった。しかし、犯人を断定するための手掛かりは何一つなかった。

現場にも、そして研究所にも。

代わりに分かったことと言えば、あの研究所は『違法研究所』だったということだ。

何か特殊な力を持った人間、クローンを生み出し、強くさせるために殺し合わせる。

だが、そういう力を持たずに生まれた子もいたようで…その子はすぐに処分されたようだ。

非人道的な行為に、研究に関わった人達に怒りが沸き上がるが、今はその必要はない。

女性は握り拳を解き、コップに入っていた水を少し飲む。

「ふぅ…」

しかし、気になることもある。殺し合わせるために生まれた子達が研究所にいなかったのだ。誰一人として、だ。

もしかしたら、犯人に殺された可能性がある。だが、ならばその子達の死体を残さなかったのか。

恐らく、その力を持った子を再び生ませないためだろう。

そうなれば、男はその力の招待を知っているのだろう。研究所にも、力に関するデータは欠片も残っていなかった。

研究員が漏れ出さないために消したのか、それとも男が消したのか―

「…ダメダメ。思考が違う方にいっちゃってる…少し、休もうかな」

そう言って女性はソファーから立ち上がり、コートを着て外に出た

 

コートについているプレートには『Fate・T・Harlaown』と刻まれていた

 

 
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