No.447741

戦う技術屋さん 四件目 医務室

gomadareさん

五件目→http://www.tinami.com/view/450154
三件目→http://www.tinami.com/view/446868

にじファンの頃と、サブタイトルが変わるかもしれません。覚えていない的な意味で。内容に大きな変化はないですけど。

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2012-07-07 00:50:50 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2537   閲覧ユーザー数:2404

柔らかいものに包まれるのを感じながら、ふと身動ぎをした際に生じた足の痛みを呼び水に、カズヤの意識は徐々に覚醒していった。覚醒していくに連れ、足だけでなく、体中。特に後頭部からも鈍い痛みを感じ、顔をしかめながら、ゆっくりと瞼を開いていく。

やがて完全に開いた眼に飛び込んできたのは、清潔そうな白い天井に蛍光灯。鼻につくのは複数の混じり合った、どことなく覚えのある刺激臭。

暫くそれらの刺激を受け続け、やがてカズヤは自分の居場所の答えへ辿り着いた。

 

「医務室?」

「正解」

 

口から漏れたカズヤの言葉に、答える者が居た。聞き慣れたその声の主を、カズヤは間違いなくティアナだと言い切れる。

 

「ティア」

「おはよう、カズヤ。気分はどう?」

「悪くはないな。全身……特に後頭部と右足が痛むが」

 

ぼやきながら、カズヤは後頭部を撫でる。触ってみて分かったが、どうやら瘤になっているようだった。

 

「カズヤ、ちゃんと記憶ある?一応検査では何ともなかったけど」

「……ちょっと待って」

 

それだけ言って、カズヤは首を傾げた。

暫し悩むも、後頭部を打った衝撃が原因か、どうにも霞みがかったように思い出せない。それでも、なんとか思い出そうと腕を組んで頭を捻るカズヤへティアナがあるページを開いた一冊の雑誌を手渡した。それを受け取り確かめてみれば、とある次元世界ではやっているらしい、ウェイクボードの特集ページ。

ウェイクボードとは小型船舶に曳航され、水上を板に乗って滑っていくスポーツなのだが、この姿にカズヤは妙なデジャビュを感じ――

 

「あ、思い出した」

 

すべてを思い出した。

 

* * *

 

 

 

スフィア攻略の際、カズヤが考えた作戦の為の役割分担はとても単純なものであった。ティアナが囮、スバルがメインアタッカーでスフィアを破壊。カズヤはそれのサポートをしつつ、作戦後にスムーズにスバルとティアナを合流させるための足という分担である。

結果的に作戦は上手く行き、スバルはスフィアを突破。その後、カズヤの役割であったスバルとティアナのスムーズな合流も上手く行った。

しかし、上手く行ったのはここまでであった。

スバルにアンカーを捕まえさせたのが運のつき、なのだろうか。ティアナと合流後、スバルはまずティアナを背負った。

相変わらず、手にはアンカーを握り締めており、「なあ」とカズヤが話しかけると、スバルが反応を示した。

 

「何?」

「いや、握ってる必要無いんだし、アンカーそろそろ離そうぜ?」

「え?でも目的地一緒だよね?」

「それはそうだが」

「じゃあ大丈夫!」

「大丈夫な要素が皆無なのだがあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ――」

 

言葉が終わるよりも早くスバルが走りだしてしまい、ウェイクボードの要領で、スバルに引かれながらカズヤは道を走っていた。

アンカーガンを離すタイミングは既に失い、別段障害物などが有るわけでもない平坦な道では、スバルのスピードが落ちる筈もない。

 

「見えた!ゴール!」

「最後まで気を抜くんじゃないわよ!」

 

言いながら、ティアナが魔力弾で最後のターゲットを破壊。試験官であるリインフォースのターゲットオールクリアの声を念話越しに聞きながら。

 

「魔力、全開!」

 

スバルがラストスパートをかける。ブースターの如く衝撃波がローラーの後ろから溢れ、その被害をカズヤが思いっきり受けるも、それを気にする様子無く、スバルは再加速。

ローラーに悲鳴を上げさせながら、自分達では到底出し得ないであろう速度を出して疾走するスバルへ、カズヤとティアナの両名が抱いた感想は――暴走列車。

 

「ちょっとスバル!アンタ、止まる時のこと、考えてんでしょうね!?」

「速度落とせ!充分間に合う!!」

「えっ!?えっ!?」

 

最早スバルとしても未知の領域になった速度に加え、普段冷静なティアナとカズヤの焦り声。釣られるようにテンパり始めたスバルは二人の言葉に答えらず、速度をそのままに直進することしかできなくなった。

その事に付き合いの長い二人はやはり気がつく。

 

「カズヤ!」

「分かってる!」

 

何時の間にかゴールを通り過ぎて居たのだが、それに気がつかずカズヤはM-10を解除し地面へ足を着ける。続けてカートリッジをロードし、そのまま体重を後ろにかけながら、スバルが握ったままのアンカーを全力で引っ張り始めた。

 

「ティア!」

「ちゃんと取りなさいよ!」

 

引っ張りながら、自分へ呼びかけたカズヤへ向け、ティアナは自身のアンカーガンからアンカーを発射した。

 

「承知してるよ!」

 

T-03を片手に持ち直し、ティアナが放ったアンカーをキャッチするカズヤ。足が痛み、うまく踏ん張れないものの、それでも何とかスバルを止めようとする。

ガリガリと引き摺られながら、足の痛みと戦いながら。

 

「止ぉぉまぁぁぁれぇぇぇぇぇえええええ!!!!!!」

 

T-03とティアナのアンカーガンのアンカーを力尽くで引っ張り、孤軍奮闘するカズヤの耳に届く謎の音。ブチブチと何かが切れていくその音は、T-03のアンカーから聞こえてきている気がした。

 

「……もしかしてビル突入の時に、窓ガラスで切れ込みでも入った?」

 

とりあえず、これが試験中、カズヤの最後の言葉である。

 

 

 

***

 

 

 

「あの後、アンカーが切れて、バランス崩して、派手に転んで後頭部強打。そのまま気絶。その後はスバルに引きずられてたわね」

「あの暴走列車娘はどこ行った―――っ!ていうか、痛ぇ!思い出したらすげぇ痛ぇ!!」

「アンタが起きた時に喉が渇いてるかもって飲み物買いに行ったわ」

「逃げたな」

「暫くしたら帰ってくるわよ」

「ったく」

 

悪態と溜め息をつく。その様子を見て、ティアナが苦笑する。

 

「ま、元気そうね。検査では問題無いとは言われてたけど、ボロボロだったからちょっと心配したわ」

「ティア達は?」

「私達は怪我一つ無いから安心しなさい」

「怪我一つ?何でまた」

「私が直撃寸前に衝撃緩和とか安全ネットとかしたからだよ。まあ、君はいきなりだったから、間に合わなかったんだけど」

 

聞こえてきた声に、ビシリと固まるカズヤの体。いや、まさかと思いつつ、視線を動かせば、医務室の入り口に立つ教導隊の白ジャケを着た、サイドアップに結われた茶髪の女性。

 

「高町なのは一等空尉!?」

「なのはさんでいいよ。それとも、カズヤは高町って呼び捨ての方がいいかな?」

「……はい?」

(名前はともかく何故呼び捨て?しかも俺だけ?)

 

なのはの唐突な発言にカズヤは戸惑う。その直後、背筋が薄ら寒くなるのを感じ、原因と思しき方へ軽く視線を動かせば、なにをやったんだお前はと、非難する視線を向けるティアナがいた。慌てて誤解だとアイコンタクトで返すも、取り入って貰えずそっぽを向かれる。

 

「……で、何のご用でしょうか、高町一等空尉」

 

誤解を誤解と受け入れて貰えず、どこか不機嫌になりながらカズヤは諸悪の根源へと視線を向ける。一方のなのはは何故か訝しげな視線をカズヤへ。睨まれていると言っても過言ではない。

訳が分からなかったが、取り敢えず空戦Sランクに睨まれては陸戦Dランク的にたじろがない訳が無く、即座に不機嫌は収まり、念話も使わず助けてスバルと暴走列車娘に助けを求める始末。

しかし、その声が届いたかのように「ただいまー!」と両手にジュースの入った紙コップを三つ持つスバルが戻ってきた。

 

「ねぇ、ティア。カズヤ起き――お取り込み中?」

「助けてスバル!差し当たり、ティアの誤解を解くまで、そこの一等空尉を此処から追い出して!」

 

半泣きだったという。

 

 

 

***

 

 

 

言われるがまま、平謝りしながらスバルがなのはを医務室から連れ出した十分後、自身の足を省みず、八割方泣きが入りながら、土下座をしようとしたカズヤをティアナは羽交い締めにして止めていた。

 

「離せティア!お前に信じて貰えるなら土下座くらい――!」

「信じる!信じるから!土下座は止めなさい!足にこれ以上負担をかけるな!」

 

ドタバタと狭いベッドの上で暴れるカズヤとティアナ。離せと信じる、どこか噛み合っていないやり取りが暫し続き、やがて落ち着いたのかカズヤが土下座をするのを止め、ティアナも椅子に座る。

 

「えっと?アンタはなのはさんとは初めて会ったのよね」

「ああ。それに、ティアは俺が高町一尉をどう思ってるのか知ってるだろ」

「……そうね。言われてみればそうだったわ」

「あの人なりのジョークだろ。面白くないが」

 

手を伸ばし、スバルの置いていった紙コップを手に取り、一口飲む。温くなっていたが、葡萄の甘さが口内を満たし、唾が溢れてもう一口。

 

「カズヤ。私にも」

「ん……、はい」

「ありがと」

 

別の紙コップを手に取りティアナへ渡す。受け取ったティアナも一口飲む。

 

「しかし、俺の足はそんなに酷かったのか?ただの捻挫だと思ったのだが」

 

視線を落とせば捻挫にしては仰々しくギプスの付けられた足。捻挫にしては大袈裟過ぎ、どういうことかとカズヤがティアナに尋ねれば、ティアナが呆れ顔をカズヤへ向けた。

 

「ただの捻挫だったのに、アンタが無茶して悪化させたのよ」

「あー、さいですか」

「まあ、一週間もすればギプスは外れるし、歩けるようにもなるみたいだから」

「……みたいだな」

 

ギプスから飛び出た指先が、自分の思いのままに動くので、ティアナの言葉を全面的に信用することにしたカズヤ。とはいえ、自由に動き回ることは出来ない為、後頭部をぶつけないよう手で覆いながらベッドへ横たわる。

 

「だったらその一週間、ズル休みでもしてるよ」

「そうしなさい。ただでさえアンタ、此処暫く私やスバルのデバイス弄ってて寝不足みたいだし。っと、そうだ。スバルよ。もう戻ってきていいって言わないと」

 

そう言い、無言になるティアナ。それから「戻ってくるって」とティアナがカズヤに告げ、殆ど間を置かずスバルがなのはを連れ立って医務室へ戻ってきた。

 

「さっきはごめんね。何か混乱させちゃったみたいで」

「いえ。こちらこそ、取り乱してしまって」

 

なのはの言葉に、素直に頭を下げるティアナ。便乗するように上体を起こしたカズヤが頭を下げる。

 

「さて。じゃあ、三人に試験の結果も含めて、色々話をしたいんだけど。いいかな?」

「……ティア、スバル。まだ聞いて無かったの?」

「アンタが起きるのを待ってたのよ。なのはさんの説明聞いた後、アンタに説明するんじゃ二度手間でしょ」

「んふふ~、とか言って~。ティア、本当はカズヤと一緒に聞きたかったんだよね、試験結果」

「っさい!馬鹿スバル!」

「落ち着けティア。高町一尉もいるんだから」

「ぐっ」

 

カズヤに指摘され、ティアナは言葉に詰まり、後で覚えてなさいよと心中で愚痴りながらも先程まで座っていた椅子へと座り直す。スバルはなのはに椅子をすすめ、残った椅子は無い為、しょうがないのでベッドへ腰を下ろした。

 

「じゃあ試験結果だけど……。三人とも、なんとなく想像はついてるよね?」

「不合格ですかね。俺が乱入しちゃいましたし」

「コースアウトに危険行為。前半はともかく、後半は減点内容のオンパレードでしたから」

 

沈んだ様子なれどあくまで冷静に。なのはの言葉に答えるカズヤとティアナ。スバルも何も言わないが、招致の上。

元より、カズヤを試験無視で助けに行くと決め、助けられると決めたのは本人達。無理と無謀で制限時間内のゴールこそ出来たが、でもそこまで。

 

「なら言うけど。君たちの言う通り、試験は不合格。カズヤの件に関しては、此方の不手際もあるから、後半はカズヤ込みの三人組として点数をつけたけど。コースアウトにスバルの危険行為。加えて言うなら、カズヤの無茶もそうかな。その足の事ね」

「「「……」」」

「ルールも。ましてや、自分の身すら満足に守れないのに、誰かを守るなんておこがましいよね?」

「「「はい……」」」

「だから不合格。だからまた半年後――って言いたいんだけど」

 

そこで一旦言葉を区切るなのは。沈んでいた三人が何なのかとなのはを見れば、彼女が浮かべたのは笑みである。

 

「二人の実力をこれから半年間もCランクにしておくのは危険って言うのが、私とリイン試験官の共通意見。本当はカズヤもなんだけど、カズヤはまだDランクだし、その足もあるから。とりあえずスバルとティアナは明日から三日間、本局の部隊に混じって、特別講習を受けて貰います。それで四日後に再試験」

「「え?」」

「本局の先輩達に揉まれて、ルールを守って試験を受ければ、きっとBランクの昇格試験なんて楽勝だから。頑張って」

「……すいません、高町一尉。つまり、四日後にBランクへの昇格試験を受けられると?」

「明日からの特別講習をちゃんと受ければね」

「「「……」」」

 

暫し無言。やがて、徐々になのはの言葉を理解してきたのか、三人の顔に明るさが戻ると、お互いに顔を見合わせてから、全員でなのはの方へと向き直り、勢いよく頭を下げた。

 

「「「ありがとうございます!!」」」

「いえ。さてと、もう一つ。三人に大切な話があるんだけど。ちょっと待ってね」

 

と、そう言ってなのはが無言になる。とりあえず、言われた通り大人しく待っていると、コンコンとドアをノックする音が響いた。

 

「誰だろ? 高町一尉、えっと、入れても?」

「うん。大丈夫」

「では。どうぞ!」

 

カズヤが答えれば、ドアが開き。その向こうにいたのは有名人二名。

 

「なのはちゃんのお話、私達も相席させて貰うよ」

「お邪魔します」

「……八神はやて二佐にフェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官?」

 

状況について行けていない三人を置いて、はやてとフェイトが医務室へ入ってくる。

そのままなのはと二、三言、言葉を交わす。そんな中で、カズヤは漸く我に返り、後を追うようにティアナとスバルも我に返った。

 

「さて、ほんなら、お話してもええやろか?」

「え?あ……」

「えーと……」

 

我に返っても現状についていけないティアナにスバル。そんな中、すいませんとカズヤが手を挙げた。

 

「……八神二佐、お願いがあるのですが」

「なんや?」

「場所を変えて頂けませんか?」

「別に此処でもええよ?カズヤも移動が大変やろうし」

「問題ないので、其処を何とか」

「まあ、私はお話できればどこでもええけど」

 

そんなはやての返答をきっかけに、六人は応接室へと移動したのだった。

 

後にカズヤはこう語る。

 

「いや。あの医務室に有名人三人、しかもあの三人とか小心者の俺からすれば精神的に無理だ。あの部屋で一週間過ごせなくなるよ」

 


 
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