No.425702

真剣で私たちに恋しなさい! EP.15 地獄門(1)

元素猫さん

真剣で私に恋しなさい!を伝奇小説風にしつつ、ハーレムを目指します。
楽しんでもらえれば、幸いです。

2012-05-20 19:42:26 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:4814   閲覧ユーザー数:4535

 夕方になり顔を覗かせた釈迦堂刑部は、溜息を漏らし苦笑いを浮かべた。

 

「何だ、まだ引きこもってるのか?」

 

 その視線の先には、毛布を頭からかぶって膝を抱える直江大和の姿があった。その大和を板垣辰子が抱きしめている。

 刑部は昼飯を食べに一度顔を出したのだが、その時から大和はずっとうずくまっていたのだ。

 

「気にしたってしょうがないだろ。竜神が暴走して、同級生を殴っちまった事実は変わらない。どのみち、そう簡単に制御できるようなもんじゃないんだ。今後の事を考えたら、ある程度は覚悟する必要があるんじゃないか?」

 

 刑部の声が聞こえているのか、大和に反応はない。諦めたように小さく首を振った刑部は、辰子に訊ねた。

 

「アミは仕事か?」

「んー、たぶん」

「まあ、大丈夫か。今夜は荒れるからな、用心はしておけよ」

 

 そう言って出て行こうとドアに手を掛けた刑部は、振り返って大和を見た。

 

「気に病むのが馬鹿らしく思えるような世界が、やがて来る。それまで自分の立ち位置を、よく考えるんだな」

 

 そう言い残し、刑部は家を出た。するとちょうどその時、板垣竜兵が帰ってくるところだった。

 

「釈迦堂さん。予定通り、ジャンキーどもが大量にやってきたぜ」

「そうか。誘導は成功だったわけだな。後は川神院が動くのを待つばかりだ」

「商店街は店を閉めたみたいだ。もう、知らせが行ってるんだろ」

「そんじゃ、こっちも動くとするか」

「へへっ、おもしろくなってきたぜ。たっぷり、暴れさせてもらうよ」

 

 竜兵は指を鳴らし、家には戻らず前を行く刑部の後を追った。

 

 

 川神院総出の作戦が決行されようとしていた。入門して一年未満の門下生を残し、川神鉄心も出動する最大の作戦である。

 

「じじいが出るほどの相手じゃないだろ?」

 

 川神百代が訊ねると、鉄心はわずかに顔を曇らせて低くうなった。

 

「何やら嫌な予感がしてのう。まるで誰かが奴らを誘導しておるように思えるのじゃ」

「確かに、やたらと統率されている感じがするな」

「うむ。裏で何か企んどる奴がおるなら、好きにさせるわけにはいかんじゃろう」

 

 闘気を漲らせる鉄心に、百代は呆れるように首を振る。

 

「ただ、暴れたいだけじゃないのか?」

「まあ、そんなこともあるかのう」

 

 そんな話をしていると、準備の報告にルー師範代がやって来た。

 

「念のため、市民には避難してもらったよ。家に残っている者にも、なるべく外には出ないよう伝えてはあるね」

「よし、それではそろそろ行こうかのう。よいか百代、街中では暴れないようにな」

「わかってるよ」

 

 学生でこの作戦に参加しているのは、百代だけだった。一子や他の武闘派生徒たちも立候補したのだが、鉄心がそれを拒んだのだ。代わりに彼らは、市民が避難している学校や公民館などの警護を担うことになっている。

 やって来るのはたいした相手ではないとはいえ、薬の中毒で正気を失っている者もいると報告があった。そんな連中が大挙して訪れるわけだが、鉄心は教育者として出来ればそんな連中と生徒たちを関わらせたくはないと思っている。やむを得ない場合もあるだろうが、今回は出来るだけ川神院で処理したかった。

 

 

 静まりかえった川神院の前に、気配を消した釈迦堂刑部が一人でたたずんでいた。板垣竜兵は街にやって来た連中と共に暴れると言って、途中で別れた。

 

「さて、行くか」

 

 気配を消したまま、刑部は川神院の中に入っていく。鉄心かルーが残っていたら不可能だったが、今いるのはまだ未熟な門下生ばかりである。見つからずに忍び込むのは、容易かった。

 かつての見知った廊下を進み、最深部の書庫からさらに奥の隠し部屋に進んだ。刑部が数冊の本を盗み出した場所でもある。

 

「ん?」

 

 誰もいないと思っていた隠し部屋に、小さな明かりが灯っていた。気配を探るが、知っている人物ではなさそうである。しばらく迷ったが、意を決して刑部は明かりの中に足を踏み入れた。

 

「あなたは?」

 

 熱心に本を読んでいた人物が、刑部に気づいて顔を上げる。和装の男で、年齢は若い。

 

「俺はまあ、元門下生ってやつさ。お前こそ、誰なんだい?」

「私は京極彦一……ルー先生より、古文書の解読を頼まれています」

「ほお、それが読めるのか?」

「多少は」

「大したもんだね」

 

 本当に感心した様子で刑部はそう言うと、何かを探すように床に目を向ける。

 

「ちょっと悪いね」

 

 山と積まれた本を動かし、その下から出てきた床の石を指でなぞった。わずかな凹凸が、何かの模様のようにも見える。

 

「これは……記号のようですが」

「一部の修験者の間だけで使われた符号だ。ここに刻まれた印は、『門』を表すものらしい」

「『門』……何かの入り口でしょうか?」

「勘がいいじゃないか」

 

 そう言うと刑部は、懐から一冊の手帳を取り出した。

 

 

「ちょっと明かりを貸してもらっていいかい?」

「どうぞ」

 

 京極から電灯を受け取り、手帳を開く。何かを探すようにページをめくりながら、刑部は話を続けた。

 

「竜神の話を知っているか?」

「はい、事前に聞いてはいます」

「それじゃあ、川神院がどうして建てられたかも知っているな。竜神の鎮魂なんて言われちゃいるが、必ずしもそうじゃない」

「違うのですか?」

「半分だけだ……あった」

 

 刑部は開いた手帳を京極に見せる。

 

「読んでみな。俺が持っていた古文書を解読したものから抜粋したもんだ。葛木行者が晩年に記したらしい。贖罪の意味でもあったのかもな」

「……これは」

 

 驚愕の表情を浮かべる京極に、刑部が頷いてみせた。

 

「信仰を失った程度で祟るってんなら、この世は祟りで溢れちまうさ。そもそもの原因は、葛木行者が地獄の門を開いた事がきっかけだ。竜神がもたらした災いっていうのは、後から捏造されたに過ぎない」

「なるほど……確かに違和感があると思いました。土地神とも言える竜神にとって、この地はむしろ守るべきもののはず。それを自ら穢すような行為は、いささか乱暴すぎますからね」

「そう、最初に禁忌を破ったのは葛木行者だった。その最初の儀式を行った場所が、ここってわけさ」

「まさか! それじゃ」

 

 二人は明かりに照らされた床に視線を落とす。そこに記された符号。

 

「ここがすべての始まり、地獄の門が封じられた場所だ」

「――!」

 

 刑部の言葉に何かを察した京極が飛びかかるが、力で敵うはずもない。一撃で気を失い、その場に倒れ込む。

 

「悪いな、邪魔はさせない。葛木行者が達成できなかった世界を、俺の手で完成させる。そのために準備を重ねてきたんだ。さて、始めるか……」

 

 人知れず、封じられた地獄門の開門儀式が始まろうとしていた。


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