No.422019

ro 広い世界で ep1.5 俺様である為に

あぜっちさん

今回で二作目となります、roの創作ssです。
前回は主人公二人の紹介でしたが、今回は脇役を出して見ました。
私の愛する鳥様です。
私自身、現在も鳥系をよく使っていますので一番思いいれの強いキャラになりそうな予感がします。

2012-05-12 23:28:06 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:487   閲覧ユーザー数:486

伊豆の朝は早い。そして、このボロアパートに住む面々の起床時間も早かった。

なんといっても駆け出しの冒険者や行商がメインの客層である。貧乏暇なし、といった所だ。

あぁ、それにしてもなんて嫌な響きなんだ、貧乏とは。

その言葉を聴くだけで心が貧しくなるじゃないか。もっと優雅に、見栄えよく生きたいものだ。

常に心にゆとりを。そうでなくては良い歌は歌えない。

「つーわけで、俺様はこんな早くから活動なんかしねーの。大体、なんでこんな時間に野郎と出かけにゃならん」

二個隣の部屋の主、モンクのラスティが訪ねてきたのはついさっきだった。

なんでも狩りたい敵がいるから一緒に行ってみないか、という誘いらしいんだが。

「俺様の美声を有り難がっていいのは、美声に良く合う美女だけなんだっつーの。野郎はすっこんでな!」

確かに俺様が歌を歌えばこいつの狩りのスピードは極端に上がるんだろうが、んなメンドクサイ事誰がするか。

俺様は毛布に包まったまま受け答えをしていたのだが、なんとなく気配でもう一人居るのが分かった。

珍しい。コイツ、今まで誰かとパーティ組んだ事なんてなかっただろうに。

別段気にしていた訳では無い。いつも一人で狩りに行って寂しい奴だよな、くらいにしか思ってなかったんだが。

「あー、うん、野郎はすっこむとしてさ。今日はもう一人いるから、三人でどうかなぁ、と思ってね」

「あん?」

毛布の中から首だけ出して扉の方を向くと、そこには。

黒髪姫カットのプリースト様がッッッ!!!

「ラスティ、いいからそのまま外に出て、3分待て。いや、何も言うな、言うとおりにしろ」

二人が扉を閉めるのを確認したら、毛布を跳ね除け、真新しいインナーとアウター、そしてマントを羽織る。

急いで鏡の前に立ちチェック。髪型、俺様のチャームポイントである前髪触覚の角度良し。

最後に相棒のギターとケースを確認すると扉を開けた。

「待たせたな、お嬢さん。俺の支援が必要なら、これからいつでも声掛けてくれよ」

 

 

 

さて、どこから語ればいいか。

ラティスとの仲は、実はそんなに深いものじゃなかった。というか、殆ど他人だな。

二軒隣の同じフロアの住人ってだけで、狩りにいったりするような関係じゃなかった。

ただ、たまに飯が一緒だったり、飲みに出たりする事が何回かあっただけで、まぁ、その程度の付き合いだった。

何事も浅く広く、女に対してもそれが一番だよな、っていうのが心情だし。

どうせバードなんて職は、良い様に使われるだけの存在だしな。そういうパーティーだの絆だの、まどろっこしいのは嫌いなんだよ。

「つまりね」

突然、隣から良い響きの声がした。

「そんなこんな、色んな経緯があって、こうやってパーティ組んでるんだよー」

「あぁ、成る程ねー。さすがユリカ、優しいなー。コイツどうせぼっちだし、構ってやってくれよ」

やっべ。話なんか全然聞いてなかった。

コイツらが別にどうだろうが、俺様にとっちゃ何の関わりも無い事だから、完全にスルーしてたわ。

なのになんでかなー、こう、楽しそうに話しちゃって。

行き先は崑崙D。こんな所二人で十分だろうに、何故俺様まで出張る必要があるんだろーね。

ポタで直だったので移動時間はほぼ無いに等しかった。今はカプラ前にて雑談中。

「なぁ、そろそろ狩りに行こうぜ。俺様、イくのが早い奴も嫌いだが、遅いのもきれーなんだよ」

「はいはい、相変わらず協調性ないなぁ、大河は。姉さん、準備できた?」

「大丈夫だよ、青石沢山積んだから、安心して死んでね♪」

おぃおぃ、カンベンしてくれよ、それだけは。

俺達は立ち上がると、ダンジョンの方に向かって歩いていった。

 

そして。

真っ先突入したユリカが短い悲鳴を上げた。

俺は舌打ちすると同時に、他の二人の立ち居地を確認。ギターでコードを短く掻き鳴らす。

ブラギの歌の初めの一章節だけを爪弾き、背中に背負った弓と持ち変える。

その瞬間、詠唱速度の速くなった二人が落ち着きを取り戻し、ターゲットにされているユリカに対しニュマとヒールを掛けていた。

俺はそのまま人面桃木に向かって矢をつがえ、瞬時に二本の矢を放つ。

怯む桃木。そこに合わせるようにLAが入り、俺はもう一度ダブルストレイフィングを放つ。

 

「馬鹿か!進入直後に不用意に歩くんじゃねぇ、周りを見渡して安全を確認してから移動しろ」

こいつら初心者かっつーの、ホント……

「やー、ゴメン、うっかりしてたよー。久々だから、あんなに射程あるんだって事忘れちゃってた」

このお嬢様も悪びれる気すらないらしい。大丈夫か、この狩り。

「だけど凄いね、大河さん。曲の効果の発生と同時に持ち変えて撃つなんて、普通できないよねー」

フツーはできるんだよ、俺達にとっては。

「ま、気を付けてくれればいいんだけどな」

 

「こら!ラスティ、そこそこ硬いからって勝手に突っ走るんじゃねぇ!」

「支援切れてんぞ、マニピでちゃんと時間計ってブレスと速度!」

「ラスティィィ、タゲはちゃんと持っとけええええ!」

「DSとブラギでSPねぇんだから、そんなにさっさと行くな!」

 

なんなんだ、こいつ等。PTプレイってものをした事ないのか。

いや、冷静に考えれば、ひたすら一人で狩りしてた朴念仁と能天気女。なんとなく想像は付いていたんだが。

「まさか、崑崙ごときで担ぎ出される事になるとは思わなかったぜ」

なんて、嫌味に聞こえないんだろうなぁ、こいつらにゃ。

「いやぁ、欲出して熊殴ってる時に桃木と蝶が横湧きするなんて、ある意味運が良かったというかなんというか」

「いやそれ、運無さすぎだから」

俺様の冷静なツッコミも虚しく、いやー、強かったー、なんて反省会を開く始末。

どうしたものか………

「そういえばさ」

ラスティが俺の様子を伺うように言った。

「大河って物凄くキビキビしてて実戦経験もかなりありそうだよね。レベルも凄い高いし」

崑崙にいるカプラの前に陣取ったまま、俺は急に気だるさを感じて寝転がった。

「まぁな」

俺様は別に、経験なんかなくたって、レベルなんか高くなくたっていいんだよ。

そんな状態になって手に入った物なんて、金と装備くらいだ。

同じように歌う事がベストで、いつしかそれが当たり前になり、効果だけを期待されて、それすらも当たり前になって。

俺は何だ。歌うだけの機械か?欲しいのはブラギで、俺じゃないんだ。

そして、俺の代わりなんて、誰でもいいんだろ?

「いい事なんかねぇよ、強くたって」

崑崙の空は、地上に居るときよりも近くて、見上げるだけでも晴れやかになれるはずなのにな。

「そうかなー」

ユリカがぼそっと呟いた。

「でもさ、大河さんが居たお陰で色々学べて楽しかったよ?」

楽しかったって、あの凄惨なゴタゴタ狩りがか?

「あぁ、それは僕も思った。今までソロプレイばかりだったから、何に気をつければ良いかとか、そこまで知らなかったし」

「そそ。やっぱり誘って正解だったよねー。ラスティの言うとおり、先生にぴったりみたいだしね」

「は?」

なんだそれ、最初からそのつもりで俺様を誘ったっていうのか。

だとしたらなんという間抜け。俺様とした事が、なんでこいつ等について来てしまったんだ。

自分の馬鹿さ加減にあきれた。何を期待してこいつ等とここまできたのか。

理由もなく動く事を嫌う俺が、期待してたんだぞ。

「なんか勘違いしてるみてーだから、一度再教育してやらなきゃならんらしいな」

俺は立ち上がると、親指でダンジョンの方を指した。

「もう一度行くぞ。本当のバードって物を教えてやる」

 

ダンジョン内は相変わらず敵が多く、こいつ等も前回の経験を生かして慎重に進んでいる。

が。

「お前等、そんなソロソロと慎重に進んで楽しいか?」

「いやでも…」

「楽しいかって聞いてんだ」

ラスティは口ごもって、あんまり、と答える。

「だろうな。俺もそう思ってた所だ!」

ギターを構え直すと、ブラギの歌を爪弾く。アップテンポの曲調は何度も聞きなれたものだったが、突如変調、そしてスローテンポの曲へと移す。

「おら!お前等さっさと敵を刈り倒してこい!今から20秒程度なら詠唱も攻撃速度も段違いになってるはずだからな!」

「うぁ、なんだこの速度。三段から連撃に繋げるタイミングが全然違う!」

「つべこべ言わずに殴れ殴れッ!」

「ひぃぃぃー」

そんな俺はラスティとユリカの間を冷静にキープしつつ、ブラギアサクロ、手動マニピ、MSTAでタゲ剥がし、状態異常に対しキュアーと立ち回る。

あぁ、すっかり忘れていた。俺がしたかったのはこれだ。

冷静さと激情の間で歌う、魂の篭った歌。

ラスティが連続して気を貯め、指弾を放つ、その際にユリカがLAを居れ一撃にして屠る。

伊達に自分の力を磨いてきた訳じゃない。例え、それが望まれずして最適化された能力値であったとしても。

歌うのは、俺の意思だ。何者にも左右されず、気ままに全身全霊を込めて歌いきる!

 

 

「大河、こきつかい過ぎ」

「そーだそーだ、か弱い乙女もいるんだぞー」

あれだけ暴れておいて、まだ文句が言えるとは、案外骨のある奴等なのかもしれない。

本日二回目の担ぎ出しをくらい、またカプラの前に陣取る俺たち。

でもまぁ、今度のは悪くなかった。

「楽しかったろ?」

そんな俺の言葉に納得したのか、仕方ない、という顔をする二人。

「だけどな、さすがにあんな狩り方じゃ見ていられない。特にラスティ、レベルだけ高くて、狩が下手とか目も当てられん」

「……なんというか、申し訳ない」

「目も当てられん、が。今後の指導次第では見込みもありそうかもな」

と、一旦ここで言葉を切る。まぁ、勿論わざとやっている訳なのだが。

俺様は基本的に、人に頼まない。なんといっても、頼んだら代価を払わなきゃならないからな。

だから。

「しかたねぇ、同じボロアパートのよしみって事で、特別にコーチ付けてやるよ」

呆れ顔の二人に対して、自信満々に言い切る俺。

さすが俺様。これこそ、俺らしさ。

「はいはい、それじゃ、よろしく頼むよ、大河」

ついでに、だ。俺はラスティに擦り寄ると、耳打ちをする。

「授業料として、ユリカから女友達を三人以上紹介してもらう事。以上!」

俺の声を聞いていたのか、ユリカがぼそっと呟いていた。

 

「さいってー」


 
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