No.413903

さらばガンタンク

みかつうさん

1995年作品。
パートⅢ劇場公開当時、何の説明もなしにガンタンクが出てこなくなりました。
なんでかなとは思いましたが、誰も異を唱えることなく、そのままガンタンクはなかったことになってしまいました。
それではかわいそうと思い、こういうサイドストーリーを思いついたわけです。
ハヤトの性格からして、思い出の多いガンタンクを置いていくことは、多聞に感慨深いものがあったに違いありません。

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2012-04-25 16:53:00 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:759   閲覧ユーザー数:757

 

 今回の作戦を指揮していたのは、どうやら“赤い彗星”のようだった。

 パイロットルームで、アムロ・レイがいつになく興奮して顔を紅潮させながら話すのを、ハヤト・コバヤシは他のパイロットやメカマンと一緒に聞いていた。そう言えば、北米を脱出してから、アジア、ヨーロッパでのオデッサ・オペレーションと、シャア・アズナブルの名すら聞かなかったような気が、ハヤトはしていた。それは、アムロ達他のクルーも同様だった。

 アムロは、パイロットルームから引き上げる際に、背を向けたままウッディ・マルデン大尉が戦死したことを告げた。シャアのMSにやられたそうだ。

 ホワイトベースの気密作業は、順調に進んでいた。ウッディ大尉初め、ジャブロー守備隊の決死の防戦で、宇宙船ドックへの敵部隊の侵入は阻止された。

 降下したモビルスーツは28機。内、撃墜確認が21機、残る7機がまだ稼働中か、あるいは水没して消息不明か、どちらにせよ補給は不可能なので稼働時間を考えれば、もってあと一日で全機が戦闘不能になるだろうと、参謀本部が発表した。

 これだけの部隊を単なる消耗戦に使うとは、まさしくアムロが言ったことを裏付けるようだった。

 アムロが引き上げたあと、メカマンの一人がみんなを輪にして妙なことを言いだした。ハヤトも、その輪の中に入って聞いた。

「まだ秘密なんだけどさ、どうやら、キャノン二機積んでくらしいぜ」

 カイ・シデンの方が、ハヤトより先に驚いた。

「え、誰が乗るんだよそれ、セイラさんか?」

「セイラさんはブースターだろう?」

 ハヤトは、太い眉を顰めた。

「じゃ誰だ、スレッガー中尉か? まさかジョブってわきゃねえだろ?」

 ジョブ・ジョンは、カイの皮肉を空かして首を横に振りながら、ハヤトを見た。

「ハヤト、君だよ」

「えっ、ぼ、僕が?」

 あまりの突然さに、ハヤトの小さな目が取り残されそうになった。

「タ、タンクはどうすんだよ、タンクは。置いてくのか?」

「らしいよ」

 カイもそれなりに驚いたが、話を切り出したメカマンは冷静に答えた。

「そうだよな、宇宙にキャタピラはいらねえよな」カイは肩をすくめた。

「なんでも、コアシステムを簡略化した、キャノンの量産型が開発されるらしくて、そのデータ収集が目的なんだってさ」

 ジョブは、時折金髪をかき上げながら、訝し気に話した。

「どうするよ、ハヤト」

「どうするって、カイさん、キャノンでもタンクでも、どっちでも戦力的には変わらないと思うけど」

「そういうこと訊いてんじゃねえよ」

 カイの腕が輪の間をすっと抜けて、ハヤトの肩先を叩いた。

「このままタンク置いてっていいのかって訊いてんだよ」

 もし、メカマンの言うことが本当なら、先刻の戦いがハヤトにとってガンタンクでの最後の戦いになる。ホワイトベースは、気密作業が完了次第、宇宙に上がる。

 ハヤトは、今一つ気持ちの切り替えが出来ないでいた。タンクを降りるにしても、もう少し活躍して納得してから降りたかった。いちいちMSに愛着を抱いていては戦争など出来はしないが、それにしてもタンクにはあまりにも思い出が多すぎる。どうにかなるものなら、してやりたいと、ハヤトは思っていた。

 戦闘終了後のチェックアンドリポートの催促が、ブリッジのブライト・ノアから出た。蜘蛛の子を散らすように、パイロットルームは空になった。

 

 翌日、ブライトとミライ・ヤシマは司令本部に呼ばれ、アムロ達パイロットクルーは、MSの総チェックを行なっていた。明日にもホワイトベースの気密作業が完了しそうだと、ウッディ大尉の副官ジェラルド・ベイツ中尉が言っていた。

 タンクのチェックを終えて、二機目のブースター005のチェックを手伝おうとしたとき、ハヤトは昨日のメカマンの言ったことが本当だとわかった。

 トレーラーに乗せられて、二機目のキャノンが運ばれてきたのだ。

「コバヤシ曹長、ハヤト・コバヤシ曹長はいるか」

 ハンガーデッキの入り口で、ベイツ中尉が両手を口の周りに立てて声を張り上げていた。ハヤトは、それに負けないくらいの返事をすると、デッキへ下りていった。

「キャプテンから、こいつについて何か聞いているか?」

 ベイツ中尉が後ろに向けた親指の先に、赤い見慣れたMSが横たわっていた。

「いえ、何も」

「そうか」

 ベイツ中尉が手招きをしたので、ハヤトはあとについていった。

「君には、あれに乗ってもらうことになる。タンクは、こちらで引き取ろう」

 わかっていたことだが、ハヤトは心の準備が間に合わなかった。恋人に別れてくれ、と言われたような感じが胸の奥を貫いた。

「詳しいことは、またキャプテンから話があると思うが・・・」

 宇宙船ドックに、警報が響いた。第二次警戒警報、昨日の敵がまだ残っていたようだ。ベイツ中尉は、素早く腰の通話機を取った。

「状況は、・・・・・・わかった。ホワイトベースからも出てもらおう」

 通信機を戻して、ベイツ中尉は忌ま忌ましく舌打ちをした。

「しまった、キャプテンは司令本部か。・・・コバヤシ曹長、今すぐ何かMSを出せるか」

 ハヤトはデッキの方を振り向いた。ガンキャノンはABパーツばらし中、ガンダムに至ってはシステムすら立ち上げていなかった。ガンタンクだけは、先刻全てのチェックを終えたばかりだ。

「タンクなら出られます」

「了解した。ただちに君は出撃準備を。詳細は追って指示する」

「は、はいっ」

 ベイツ中尉に背を向けて走りだしてから、ハヤトは笑みが絶えなかった。これでタンクの最後を飾ってやれる。

「ブリッジ、ガンタンク出るぞ」

 アムロが、コクピット前で両腕を×の字にして首を振っていた。

 

 この揺さぶられるような振動が、ハヤトはいつの間にか気に入っていた。一度オイル系のトラブルでショックアブソーバーが効かず、コクピット内で酔って吐いたこともあった。まだリュウと一緒に搭乗していた頃の事だ。

 辛い事のほうが多かったが、今は全てが素晴らしい思い出だ。

「ガンタンク、コバヤシ曹長。第16モビルスーツ隊と合流してAブロックエリア34へ向かえ。以後はチャンネルSW4でリーダーの指示に従え。以上だ」

 ワンウェイから、ベイツ中尉の指示が流れた。コンソールに指示を入力して、ペダルを踏み付けた。

 後方、洞窟の陰から味方機が4機、量産が始まったジムというMSらしい。短めのライフルとシールドを持っている。先頭の隊長機は、ガンダムと同じライフルを持っていた。

「こちらガンタンク、コバヤシ曹長。チャンネルSW4確認、リーダー応答されたし」

 ややあって、声高な応答があった。

「トーラスリーダーから、ガンタンク、コバヤシ曹長へ。第16モビルスーツ隊シェフィールド准尉だ。以後、作戦終了まで我が隊の指示に従ってもらう。君のコールネームはトーラスGTだ、どうぞ」

「トーラスGT、了解」

「期待してるぜ、ニュータイプ」

 その言葉にハヤトは少し腹立たしくなったが、期待されていることに重圧を感じ始めた。ホワイトベース、イコール、ニュータイプという認識が、連邦軍内に行き渡っているようだった。

「トーラスリーダーからトーラスGT、フォーメイション合わせよろしいか?」

「トーラスGT、了解した。F3Bで照合されたし」

 ガンタンクを取り囲むように、4機のジムが配置に着いた。

「敵MSは4機。地上でエリア34のハッチをいじくってるようだ。迎撃するぞ」

 人工的に造られた洞窟の中を、リーダー機が先頭に立って最大戦闘速度でMS隊は進んでいった。

「前方に障害物、全機その場で停止せよ」

 昨日の爆撃の影響か、洞窟の天井が崩れ落ちて行く手を塞いでいた。

「迂回している時間はないな・・・。二番機、三番機、FSを解除しろ。攻撃用意」

 中列をなしていた二機のジムが前に出た。

「一機分の幅でいい。撃て」

 銃口からプラズマが走り、短いビーム粒子が小刻みに発射された。集束率が低いのか、出力が弱いのか、岩を破壊するどころか削り取る程度にしかならなかった。

「だめです。岩が大きすぎて、これ以上撃つと戦闘時まで持ちません」

 シェフィールド准尉の舌打ちが聞こえた。

「くそっ、なんてこった」

「僕がやります」

 ハヤトは、タンクを前進させた。

「こいつの火力なら、いけるでしょう」

「そうか、頼む、コバヤシ曹長。全機、タンクの射線上から退避せよ」

 このくらいの岩なら、肩の長距離砲数発で砕けるだろうとハヤトは踏んだ

「FS解除、三番機もう少し下がって」

 左後方のジムがじりじり後退していった。

「・・・この辺、だな」

 道を塞いでいる、一番大きな岩の塊の中央やや左下に、ハヤトは照準を合わせた。

 鋭い轟音と共に、両肩の砲身から同時に砲弾が発射された。レシーバーから、驚きにも似た低い歓声が聞こえた。

「な、なんて火力なんだ。重戦車並みなんてもんじゃないぞ、ありゃ」

 岩は見事に砕け、右端に出来た隙間の向こうに、エリア34のハッチが見えた。

「よし、全機再起動してあとに続け」

 最後のジムが隙間を抜けたとき、司令本部から連絡が入った。

 4機の敵MSは、攻撃を仕掛けにきたのではなく、救助を求めていることがわかったのだ。即座に作戦は中止、敵兵士とMSの回収作業に切り替わった。もちろん、彼等は捕虜として扱われるのを覚悟の上だが、こんなジャングルの真ん中に本隊から置き去りにされるとは、ハヤトには少し同情の余地があった。

 

 帰投後、ハヤトはタンクをハンガーデッキに上げようとしたが、整備員に止められた。もうハンガーデッキは満員だったのだ。二機目のキャノンが、機体番号も瑞々しく並んでいた。

「御苦労だったな、ハヤト」

 ブライトが、コクピットから降りたハヤトの肩を叩いた。

「それは、こいつに言ってください。ブライトさん」

 ハヤトは振り向かなかった。明日までに、新しいキャノンの調整を済ませなければならない。徹夜覚悟でないと、ホワイトベース出航までには間に合いそうになかった。

 シェフィールド准尉の感嘆が、後ろで聞こえた。ハヤトは、少しだけ誇らし気に胸を張り、ハンガーデッキに向かった。

「お疲れさん、ガンタンク。・・・ありがとう」

 もし、戦争が終わったら、あいつを引き取って恩給で博物館でも建てるか。ハヤトに小さな夢が出来た。

 

copyright (c)crescent works 1995

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