No.411885

超次元ゲイムネプテューヌ Original Generation Re:master 第14話

ME-GAさん

14話
ネプV楽しみすぎて寝れん……

2012-04-21 14:34:24 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:1408   閲覧ユーザー数:1364

ダンジョンの中で、ジャッドの姿を確認したはいいモノの一向に距離は縮まらずに寧ろ離れていっている気さえするのである。

「アイツ、ボンボンのクセして結構持久力あるな……。流石ギルドメンバーというか」

「ていうか、捕まえてどうするの?」

まあぶっちゃけたところ、ネプテューヌの言うとおりに捕まえたところでどうしようという事は無いのだが――。

「ま、その事については教院長に任せておきましょう。私達がどうこういう問題じゃないわ」

「だいたい、人を騙すような悪いことをしたです! 放っておけないですよ!」

息も切れまくりでこの一文を言うのに1分ほどの時間を要したが,ここは突っ込むべきところではないし、コンパの言い分ももっともである。

「だよね、悪いことしたんだよね……。

よし、正義の味方ネプテューヌは悪者を捕まえて連れ戻しちゃおう!!」

決意を秘めて拳を握るネプテューヌではあったが、すっかりそんなことを話しているウチに前方のジャッドを見逃してしまったのである――。

 

 *

 

「全く、なんてザマだ。その様子だと失敗したらしいな?」

女性は大きく肩で息をして近くの岩壁に手を突いて身体を休めているジャッドを見てそう言い放つ。

ジャッドは女性の姿を確認して、少々訝しみつつも重々しく口を開く。

「宣教師の代理だな? ……貴族長に気付かれた。貴族側から事を起こすのは不可能になってしまった」

ジャッドは苦々しく表情を苦渋に染めてそう吐き捨てる。

「しかし、まだ手はある。貴族側の輸入武具のことが知られれば、協会が攻め込む理由になる!」

しかし、女性は右手に握っていた杖を強く握り、冷徹に告げる。

「私は他人にも厳しい性格でな。使えもしないような輩にウロウロされるのは目障りで仕様がない……!」

杖に『魔力』が宿り、視認できるほどまでに研ぎ澄まされた真空の刃が、ジャッドの身体を無惨にも切り刻んでいく。

先決を撒き散らし、ジャッドは後ろ向きにドサッと地面に倒れ込む。

 

その様子を背後で見ていた一行は急いで彼の元へと駆け寄る。

「あちゃー、やっぱり! 私、なんとなく死にキャラっぽいなって思ってたんだよねー……」

果たして人が死にかけているのにそれは不謹慎じゃないかとアイエフはとても不安になりつつもコンパに視線を向ける。

「どう? 手当とかできそう?」

「流石に傷が深すぎるです。残念ながら、今から街に戻ってもその間に……」

最早、何も聞こえていないであろう。

しかし、己の最後を悟っているのかジャッドは虚ろな目でネプテューヌを見据える。

「……ネプテューヌ……」

「何? 最後のお願い? 言っておくけど、揉むとか触るとかNGだからね。

私には心に決めた人がいるの!」

「何、この死の瀬戸際だって言ってんのに緊張感もクソもない会話……?」

果たして気になる一文が混ざっていたのに気付いていないのか、無視しているだけなのか定かではないが、とにかくテラはスルーした。

「変態扱いは、やめてくれ……。

最後に、明かして…おきたいことがあるんだ……」

神妙な顔つき、というか何というか本当に茶化す雰囲気ではないために一同は真剣な目付きで彼の最期を見届ける事にした。

「気付いていると思うが、俺は…ギルドのメンバーだ。

リーンボックスに住んでいるが、グリーンハート様の信仰者ではない……」

「ねえ、なんでココでそれ言っちゃうの? 何の話?」

ジャッドは一度、目を閉じてから多量の血液を吐き出し、そして自嘲気味た笑みを浮かべてからそっと呟くように言い放った。

「俺は…ホワイトハート様が好きなんだ……」

 

 

 

 

 

ドスッ!

 

 

 

 

 

ジャッドの鳩尾にネプテューヌの肘打ちが見事に決まり、更に多量の血を吐き出した後、そのまま動かなくなった――。

「……今のが、トドメになったんじゃない?」

何となくやりにくそうに表情を微妙なモノにしながらアイエフがそう呟いた。

「だっていきなり何を言い出すのかと思えば……そう思ったら、つい」

人の生き死にでも動じないとは、我がパーティながら恐るべし! とかテラはどうでも良いことを思った。

あと、一行は別にジャッドの冥福とかも祈ったりはしなかった。

「それより、さっきから向こうに見覚えのある人が……睨んでるです」

女性はしかし余裕の笑みで答える。

「不意打ちなどと言う汚い真似は嫌いでな。準備が整ったのなら、行かせて貰う!!」

「……その声、まさかの宣教師?」

一行としてはこれから結構重要な強制バトルが展開される感じと思ったが、ネプテューヌの言葉で一行はガクリと肩を落とした。

「悪趣味な格好で分かんなかった……。でも声は聞き覚えあるんだよね」

「悪趣味は余計だっ! ……確かに、コンペルサシオンとは私の仮の姿だ」

「どうでもいいけど。とにかく貴女も協会のことを狙ってるんだね!」

女性はフンと鼻を鳴らして杖を構える。

「その通り。あの男と私の利害は一致していたのでな。利用させて貰った」

「む……そんなことなら情けは無用! 捕まえて女神様の前につき出してやるんだから!」

ネプテューヌも太刀を構えて女性にその切っ先を向ける。

「望むところだ! 行くぞ、ネプテューヌ!!」

なんか携帯怪物の道ばたでいきなり勝負を仕掛けてくる人みたいな台詞だなとネプテューヌ除く三人は思ったのだが、それはともかくとして強制バトルの如く、戦いは熱を帯びていくのである――。

 

 *

 

ネプテューヌは変身して大太刀を振りかぶる。

女性はそれを杖に纏わせた先程の真空の刃と同じように刀の形状をとらせてネプテューヌの斬撃を受け止める。

そしてその間に左手の平に氷球を生み出し、ネプテューヌめがけて発射する。

流石にその威力を知っているネプテューヌは半身をずらして避ける。

天井に当たった氷球はそのままもの凄い勢いで凍結していき、鋭い氷柱を幾つも形成していく。

「馬鹿め! これで貴様等も終いだ!!」

女性の声と共に氷柱は4人に降り注ぐ。

ネプテューヌは猛スピードで氷柱を避けながら、コンパ、アイエフの順に拾っていき、バックプロセッサで氷柱を防御する。

一方でテラはナイフ2本で氷柱を弾き、その隙間から女性に向かって炎弾を装填し、発砲する。

女性はすぐにそれを察知して杖を地面に突くと、女性の周りを土の壁が覆い、弾丸を弾く。

「……厄介な魔法だな」

否、決して厄介なのは魔法ではなく術者としての彼女である。

有り得ないほどの魔力量を有し、それを瞬時に構築し、魔法を放つ。

「並大抵の人間じゃないな、お前」

「当然だ」

女性は分かりきっている、と言う風に笑みを浮かべて両手から真空刃をテラに向けて発射する。

視認できるために、多少見切るのは容易いがそれでもスピードはある。

テラはできるだけ引きつけてそこから上に跳び、壁を蹴って女性に接近する。

テラが避けた真空刃は壁に激突して濛々と砂煙を上げている。

テラは次々とナイフで連撃を叩き込むが、女性が繰り出す細かな真空刃によってダメージを阻まれる。

「このっ……!」

「一つ、言わせて貰おう」

「何?」

戦いの最中だというのに、女性の余裕ぶりにテラはますます苛立ち、ナイフを振る手を更に早める。

「テラ!」

途中でネプテューヌも参加し、女性に次々と攻撃するが擦りもせずに女性は平然とした表情で口を開ける。

「魔法を使う相手と戦う場合に注意しておかねばならないことがある」

「!?」

突如、テラの右手からナイフが弾かれて見えない衝撃で身体が背後に吹き飛ぶ。

「がっ!」

「ねぷねぷ、後ろです!」

コンパの声でネプテューヌは背後をふり返るが時既に遅く、テラと同じくその華奢な身体は岩肌に叩き付けられた。

「魔法は何処から飛んでくるかは分からん。常に周囲を警戒するのが当たり前だ」

女性は真空の刃を杖に纏わせてネプテューヌの首筋にその切っ先を軽く当てる。

「く……!」

二人の身体には何か重しでも乗っているかのように持ち上がることはない。

必死に抵抗するも、それが解かれることはなく起こしかかった上体はまた地面に伏す。

「フン……やはりこの程度のものか――」

女性はつまらないと言った風に溜息を吐いて杖を振りかぶる。

しかし、その杖はアイエフのカタールに阻まれる。

アイエフは女性に蹴りを叩き込んで、内蔵弾を発射、間合いを詰めて斬りかかる。

「貴女こそ、周りに注意すべきね!」

アイエフは素早さを生かし、次々と連撃を叩き込む。

しかし、女性は涼しい顔でそれらをかわしていく。

「この!」

アイエフの一振りを避けた後、女性は右手に巨大な雷球を形成し、アイエフに向けて発射する。

「ぐぅっ!」

雷電をもろに受けてアイエフは苦痛の声を上げ、地面をゴロゴロと転がる。

「アイエフ!?」

テラは一層に力を込めるが、やはり身体は動かない。

それどころか、力を込めれば込めるほどに身体はどんどん重くなっていく。

「この野郎っ……!!」

 

 

 

 

 

『力』とは――。

 

 †

 

くそ!

またこんなところで……!

やっぱり、俺に力がないからなのかよ……!!

 

 

 

 

でも、もうあんな思いなんて沢山なんだよ……。

二度と失いたくないんだよ……。

 

あんな事になるのなら、力なんていらないと思っていた。

でも、やはりあの力が欲しい。

 

 

 

 

アレは、使い方さえ間違わなければ、きっとみんなを助けるための力になり得るはずだ!

 

 

 

――でも、どこか怖い。

それでも、あの力でみんなが救えるのなら、救ってやりたい!

 

 

 

 

 

 

 

『力を持たぬ者が、力に憧れるのは当然のこと』

 

『持たぬ者が憧れを抱くのは人間として、感情のある者として当たり前のこと』

 

『それを拒絶してどうする?』

 

 

 

 

 

『命を奪うというのは素晴らしい行為だろう?』

 

『他人の生を奪う瞬間に舞い降りる快感』

 

『それを知らない奴はとても勿体ないことをしている』

 

『そうだろう?』

 

『お前には奪う権利がある』

 

『奪え!』

 

『殺せ!!』

 

『望むんだ! 世界が、俺に「殺せ」と望んでいる!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「五月蠅い!!」

 

「俺の『世界』はそんなこと望んでなんかいない!!」

 

「俺の守るモンは……」

 

「『世界』は……」

 

 

 

 

 

 

「ただ、みんなと一緒に生きられる世界なんだよ―――――!!!」

 

 

 

聞くな!

 

望め!

 

力だけを!!

 

欲望を、

 

殺意を望むな!!

 

守る力だけを望め!!

 

それだけなんだ!!

 

 

 

 

 

 

 †

 

 

 

ドンッ!!

 

 

轟音と一筋の光に包まれてテラの姿は変化する。

光に照らされて、眩しく輝く銀髪へ――

 

薄手ながらもしっかりとした頑丈さを誇る漆黒のアーマーへ――

 

禍々しく、異彩を放つ紅き刺青を――

 

 

 

 

「守ってみせる! 全部!!」

 

テラは右手を構えて女性へと突っ込んでいく。

 

「貴様は……!」

 

女性は目を見開き、テラの一撃を杖で受け止める。

だが、テラの勢いを止めることが出来ず、女性の身体は回転しながら吹っ飛ぶ。

 

 

 

 

 

 

「『消える』ぞ……!」

 

しかし、女性の呟きは誰にも聞こえることなく、テラの地面を蹴る轟音の中に溶けて消えていく――。

 

 

 

「貴様……!」

「もう怖くない! これは、俺が守るために使うと決めた力だ!!」

バキンと金属音が鳴り響き、テラの籠手と女性の杖がぶつかる。

テラは右足で女性の脚を払う。

女性はそれを見切って少し跳躍してから風刃を飛ばす。

テラは右手でそれを掻き消し、後ろに跳ぶ。

「……貴様、――!」

「――!」

テラは大きく肩を揺らし、女性へと突っ込む。

右手を振りかぶり、それを女性に叩き込む――と思わせて目の前で振り下ろし、足払いで女性の足を取り、そのまま左手で拳を構える。

「チッ!」

女性は雷球でテラの動きを牽制しつつ、もう片方の手のひらに生み出した氷球をテラめがけて投げる。

『ガッ!』

テラは叫び、否、咆吼し、その衝撃波に当てられた氷球は雀の如くあちらこちらに散っていく。

「はぁっ!!」

「く……!」

テラの重い拳が振り下ろされ女性はそれを杖で防ぐ。

「……貴様は、死にたいのか!」

「何をフザケた事を!!」

テラは右足で女性の腹を蹴り上げる。

「この!」

女性は氷柱を雨のように降らせ、テラの動きを止める。

テラは後ろに大きく避けて乱れた呼吸を整える。

「……!」

テラは異変を感じ、胸を押さえる。

 

 

 

まるで無数の虫に這われているような――。

 

 

 

直接心臓まで届くような、振動――?

 

 

 

 

 

 

「っが!!」

テラは口から鮮血を飛び散らせて胸を押さえたまま跪く。

「!」

「テラ!?」

隅で戦いの様子を見ていた三人はすぐにテラの元へと駆け寄る。

「ゲホ、ゲホッ!」

テラはそのまま地面に身を投げ、なお胸を押さえては吐血と痙攣を繰り返す。

瞳は虚ろに、その姿も次第にブレていき、次の瞬間にはテラの姿は元のままに戻っていた。

吐血は徐々に無くなっていく。しかし、代わりに多量の吐瀉物がテラの口から次々と生み出され、テラは身体を掻きむしるように静かに、小さく暴れ回る。

「ぅおぇ……!」

「……ッ! アンタ、何したの!?」

向こうで息を整えている女性をアイエフは睨む。

しかし、女性は涼しい顔で応える。

「――何もしていない。ソイツがそうなったのも、ソイツ自身の責任だ」

女性はそう言って踵を帰す。

「待ちなさい!」

「今は私を相手にするよりも、ソイツを助けてやる方が賢明だと私は思う。

このまま行けば、ソイツは心を失ってしまうからな」

そう言って女性は小さく笑うと、そのまま闇の中へと消えていく。

アイエフはその後ろ姿を睨み続けていたが、しかし小さく舌打ちしてテラへと視線を戻す。

「テラさん!? テラさんってば!!」

ネプテューヌは悲痛な声を上げながらテラの身体を揺さぶっている。

しかし、コンパはそれを制止してテラの身体を看ている。

「どう?」

「……分かんないです。こんな症状も初めて見るです!」

「もう……! こんな時に……ねぷ子、そっち持って!」

アイエフは怒り気味にネプテューヌにテラの左肩を持つように促して自分もテラの右肩を担ぐ。

「とにかく、ココを出ないと。モンスターもいて危険だわ!」

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

一行はダンジョンを抜け、とにかくはまず協会へと足を向けた。

しかし、協会に行くにつれて周りには石片やら人やらがそんじょそこらに散らばっている。

そんな人混みを抜けて一行はすっかり外壁がボロボロになってしまった協会を目にする。

「うわっ! なんか凄いことになってる!?」

「ていうか、女神様は何処ですか? 女神様がいてくれればきっとうまく治めてくれるはずです……!」

コンパは長身を生かして周りを探そうとするも、流石にそれは年相応の少女からする長身であり、全体的からすれば全く小柄で人混みから外を除くことすら適わない。

そう言った修羅場の中で聞き覚えのある声が、だいぶ切羽詰まった様子で虫の声のように微かに聞こえてくる。

「みなさん、こっちですわ……! あ、ごめんなさい! 通してくださいませんか?」

しかし、ここからでも分かるほどにその性格が災いしてかどうも引け腰に人々の間を縫っているらしい。

ふと、人混みの中でばったりと出くわして、とりあえず彼女を連れて人混みを脱する。

「よかった……。捕まったワケじゃなかったのね」

「いいえ、ですが先程私を縛っていた結界が解けまして、なんとか脱出してきましたの……」

「むー、とにかく済んだことはどうでも良いわ! すぐにこの場を治めないと!」

アイエフの言葉にはごもっともな様子だが、ベールは頬に右手を当てて困ったような表情になる。

「でも、私こういったことは苦手で……。大抵は教院長がなさっていましたから」

ネプテューヌは何を思うか、担いでいたテラを木陰に寝かせ、両手を口の周りに当てメガホンを作り、そして――叫んだ。

 

 

 

 

「うるさ――――い!! 静かにしろ―――!!!! ……よし、喋っていいよ女神様?」

 

 

 

 

まあ、お約束というか何というか静かにさせた本人が一番うるさかったのだがそこまで気にしていてはもう一向に話が進まないのでベールはネプテューヌに軽くお礼を言った後、ゆっくりと口を開く。

「えー、皆様。少し争いを止めて頂けますか? ここは一度、話し合いの場を持って……」

「ダメダメ! 弱いよ女神様! もっと堂々と!!!」

果たして周り、特に協会の者からはネプテューヌはどういった風に映っているのかと不安になるような場ではあるが、ともかくとしてベールはネプテューヌの言葉を聞き入れて少々力を入れて叫ぶ。

「みなさん! 争いは止めてください! 武器を下げてください!」

ベールの叫びに一同はシンと静まりかえる。

「やれば出来る子だー」

「アンタ、何様……?」

流石に突っ込んだ方がイイ頃合いだろうとアイエフは眉をひくひくと動かしながらネプテューヌに告げるが相も変わらず話を聞き入れない。

 

しかし、それはとうの昔に分かりきっていたことであるが――。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

ともかくとして、

一応協会内のそれなりに設備の整った一室でテラは横になっていた。

 

 

先程までは落ち着いていた容態も今は一変し、再び痙攣と嘔吐を繰り返しては息を切らせてベッドのシーツを破れそうになるほどに握っている。

「――が、っは……、あ……!」

顔面は蒼白し、苦痛で瞼を強く瞑っている。

胸からはすでに出血がするほどに爪を立てられて、皮膚の色は真っ赤になっている。

ネプテューヌは心配そうに、テラの手を握ってその苦痛の表情を見つめている。

その傍らのベールも同様だ。

「ぎっ、あ……、ぐぅ…あ……っはぁ……!!」

つぅとテラの左目から一筋涙が流れる。

「テラ……」

ベールはそっとテラの頭を『撫でる』。

優しく、かつて彼女が――。

 

しかし、テラは変わらずにベッドの上で静かにただ暴れ回っている。

「か……!」

テラは一際大きく痙攣する。

 

 

 

――しかし、直後にテラはだらりと頭を垂れて身動き一つとらない。

 

瞳からは生気の失われた光のない、何も見ていない瞳だけがただ見開かれている。

口元からは涎が垂れ、それは――壊れたことを意味している。

「……テラ、さん?」

ネプテューヌはゆっくりと、徐々に力を強めてテラの身体を揺り動かす。

しかし、彼はそれに抗おうともせずただその力に揺さぶられて再び力無く頭を垂れるのみだった――。

「ねえ……テラさんってば……」

その声は震え、次第に彼女の身体もわなわなと震え出す。

「……テラ」

ベールは彼を包むように、優しく彼を『抱きしめる』。

規則正しく呼吸をしているというのに、しかしテラはそれ以外で身動きをとらず、ただ虚空を見つめたまま、否、見ているのかどうかも分からない。

しかし、ただ一点を見ているとしか表現できないかのように彼は一向に動こうとしない。

ベールはそっと彼の髪を『撫でる』。もしかしそれでどうにかなるとは彼女も思っていない。

ただ、こうするしかないと思っているのだ。

こうすれば、どうにかなるという思いがあるのだ。

何故かは、彼女には理解しかねるものがあったが――。

それでも

 

 

 

 

 

 

「戻ってきて――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少年は膝を抱え込むように闇の中に座っている。

目の前には彼とよく似た少年が彼を見下すように立っている。

『質問するよ』

少年の前に立つ、もう一人の少年は唐突に口を開く。

『君は何時からココにいるの?』

「……覚えてない」

『何時から他人を信じなくなったの?』

「……覚えてない」

『何時から殻に閉じこもっているの?』

「……覚えてない」

『何時から苦しみだしたの?』

「……覚えてない」

質問をしていた少年はふうと大きな溜息を吐いて目の前に座り、顔を伏せる少年を見る。

不機嫌な、面倒くさそうな少年の表情を見て、少年はますます苛立ちを覚えた。

『君、なんで質問に答えないの?』

「……」

『なんで無視するの?』

「……」

『聞こえてる?』

「……」

『じゃあ、これが最後の質問って言ったら答えてくれる?』

「……何」

『まともな答えを返してくれたね。じゃあ、質問するよ』

「……」

『君にとって嬉しいって思える事って何なの?』

「……」

『また無視?』

「……」

『君は考え込んでいるの? それとも無視しているだけなの?

答えてくれないと、俺も対応に困るじゃないか』

「……どうするの」

『君が考えているというのなら、僕はしばし答えが出るまで待つよ。

君が無視しているのなら、無理矢理にでも話を聞かせるよ』

「……じゃあ前者。少し黙って」

『分かったよ』

そう言って少年はしばらく黙って目の前の少年をまた見下すように見つめる。

「……」

 

『……』

 

「……」

 

『……』

 

「……」

 

『……』

 

「……」

 

『やっぱり考えてないだろ?』

「……」

『君は俺が黙ると思って無理矢理答えを出したんだろ?』

「……」

『……君はまたそうやって俺を無視するんだね。酷いじゃないか』

「……答え」

『……答えてくれるの?』

少年は涙声ながらにそう返す。

「……姉貴が撫で撫でしてくれること。二人と遊ぶこと。アイツと一緒に本を読むこと。あの人と一緒に料理していること」

『……それだけ?』

少年は意外という風にそう聞き返す。

「二度も言わせないで」

『君にとって大切なモノはそれだけなの?』

「家族、だけ」

『世界は? 仲間は?』

「世界は必要ないって。仲間も家族だけ」

『酷いじゃないか。今の仲間は君を本当に慕っているというのに』

「……知らない」

『何で否定するのさ。信ずる仲間がいるのは良いことだろう?』

「……俺には家族だけが大切だから」

『……ホントに?』

「……大事、なハズだから」

 

 

 

 

 

 

『嘘つき』

 

 

 

 

 

 

 

『大事なんて思ってない癖に』

 

『傷つけた癖に』

 

『戦った癖に』

 

『裏切った癖に』

 

 

 

『“忘れた”癖に』

 

 

 

 

 

「『知らない』!!」

 

「俺は知らない! そんなの知らない! みんななんて知らない!」

 

 

 

少年は肩を抱いて蹲る。

涙を流しながら。

心を壊しながら――。

 

 

 

 

『……テラ』

響く少女の声。

懐かしい声。

優しい声。

あたたまる声。

安心する声。

『帰ってきて――』

少年はそっと顔を上げる。

瞳からはボロボロと涙が零れて表情を歓喜に染める。

 

 

『呼んでいるよ、『今』が』

 

 

 

 

「――!」

少年は、その声も聞かずに走り出す。

 

 

 

 

 

 †

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――」

 

「お帰り、テラ」

 

「お帰り、テラさん!」

 

少年は最高に笑顔で迎えられた。

――『 』に。

 


 
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