No.401121

機動戦士ガンダムSEED白式 10

トモヒロさん

10話

2012-04-01 15:43:10 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:3797   閲覧ユーザー数:3679

敵軍の歌姫

 

「あら?あらあら??」

 

 救命ポッドから出てきた桃色髪の少女は、周りを見渡すなり、頭の上にハテナマークをたくさん乗せ、困惑した表情を全開に浮かべる。

 MSデッキを漂い続ける少女の手を一夏とキラが同時にとり、少女は優雅にMSデッキの床に着地した。

 

 「ありがとう」

 「あ、いえ…」

 「大丈夫だった?」

 

 キラは目の前の少女の感謝の態度に対して、少し間抜けな声を上げ、一夏に対してはその少女の安否を気にかける。そんな一夏の姿勢にキラは驚いた。自分とは違い、目の前の女の子、しかも可憐な分類にはいるであろう少女に平然と話しかけたのだ。

 しかし、これはただ一夏がISで女性に対して耐性があるからであるが、そんな事はキラが知る由も無い。

 

 「はい、お気遣いなく…あら?」

 

 少女はキラと一夏の二の腕を見ると、また一つ少女の頭にハテナが増える。少女の視線の先には地球連合軍のエンブレムがあった。

 

 「まぁ!これはザフトの船ではありませんのね」

 

 少女はほんわかと驚いた。

 ナタルの頭痛薬は今日も彼女の必需品らしい。

 

 

 一夏とキラは食堂を目指して歩いていると、その食堂から何か口論が聞こえる。

 

 「フレイ!」

 「嫌ったら嫌よ!」

 

声の主はミリアリアとフレイだった。中へ入って見るとカズイも一緒にいる。

 

 「どうしたの?」

 「何かもめてるみたいだけど…」

 

 カズイは困ったと言う顔でチラッと一夏達を見て、ため息混じりで答える。

 

 「あのポッドから出てきた女の子の食事だよ。ミリィがフレイに持ってって、って頼んだら、フレイが嫌だって…それでもめてるだけさ」

 

 「あたしは嫌よ!コーディネーターの所に行くなんて、怖くて」

 「ッ!!、お前は!」

 

 フレイのその言葉に一夏はカチンときた。一夏はズンズンとフレイのに詰め寄る。フレイは少し引くも、直ぐに顔をキツくさせる。

 

 「で、でも、キラは別よ!」

 「そう言う問題じゃない!お前はあの子がコーディネーターだからって理由で目の敵みたいに言って!」

 「だってあの子はザフトの子でしょ」

 「あの子は民間人だ!ザフトじゃない!」

 「一緒よ!コーディネーターって頭良いだけじゃなくて、運動神経とかもすごくいいのよ!何かあったらどうするのよ!」

 「コーディネーターってだけであの子を危険だと決めつけて、そんなのアルテミスの奴等と変わらないじゃないか!」

 「ッ!!」

 

 パァン!!

 

 破裂したような音がこの場を支配し、食堂に静寂が流れた。キラとミリアリア、カズイは目を丸くし、いったい何が起こったのか、理解に苦しんでいる。彼らの前に、右腕を振り切ったフレイと、少し赤く晴れたなった頬を抑える一夏の姿があった。二人はキッとした顔で睨み合っていた。

 

 「あらあら?何かこちらからすごい音が聞こえましたわ」

 

 その沈黙を破ったのは、この場の誰でもない、食堂のドアが開き、にっこりとそこに口論の原因となった少女がいた。その少女の周りをピンク色の球体が飛び跳ねる。

 

 『ハロ!元気!オ前モナ!』

 

その場の桃色髪の少女以外の全員が、緊迫から、驚愕の表情へと変化した。

 

 「まぁ、驚かせてしまったのでしたらごめんなさい。わたくし喉が乾いて、それに笑わないでくださいね。だいぶお腹が空いてきましたの」

 「えぇ!?、ちょっと待って!!」

 「鍵とか架けないわけ?」

 「何で勝手に歩き回ってんの!?」

 

 一夏達が混乱状態になっているのにも関わらず、その少女はのほほんとした感じであった。

 

 「あら?勝手にではありませんわ。わたくしちゃんとお部屋で聞きましたのよ?出かけても良いですか~って、それも三度も」

 「…それ、勝手に出たって言うんじゃ?」

 「お返事がありませんでしたから」

 「……」

 

 なんとも“ご~まいうぇい”な彼女に一夏達は脱力した。

 だがフレイだけは少女に警戒の姿勢を解かず、一層表情が厳しくなる。

 

 「何でザフトの子がここにいんのよ‼」

 「ッ!お前は、また!!」

 「わたくしはザフトではありませんわ」

 「どっちだって同じよ!コーディネーター何だから!!」

 「?、同じではありませんわ。わたくしは軍の人間ではありませんもの。それにあなたも軍の方ではないのでしょう?」

 

 少女は一歩前に詰め右手を差し出す。

 

 「ご挨拶が遅れました。わたくしは…」

 「ちょっとやだ!辞めてよ!!」

 

 フレイはソレを拒絶し、少女の顔から初めて笑みが消えた。

 

 「コーディネーターの癖に馴れ馴れしくしないで!」

 

 カチっと一夏のスイッチが切り替わる。もう我慢の限界だ。

 一夏がフレイに詰め寄り、フレイが一夏に気が付いた時には。

 

 パァン!!

 

 今度はフレイが叩かれた。

 

 「いい加減にしろよお前!」

 「な…何よ、あんた、ナチュラルなんでしょ?何でその子の方を持つのよ?!」

 「当たり前だ!この子は民間人なんだぞ!」

 「だからって何よ!その子が敵だって事に変わりないじゃない!」

 「敵じゃない!」

 「敵よ!」

 

 縄張り争いをする狼ヨロシク。火花を散らす二人を見ていたキラは二人の間に小さな戦争が見えた気がした。

 

 

 あの後キラは少女を部屋へ連れて行く事になり、道中うるさいピンク色の球体、(ハロというらしい)が飛び跳ねながらついて来た。

 

 「また、ここにいなくてはいけませんの?」

 「えぇ、そうですよ」

 「つまりませんわぁ、ずぅっと一人で、わたくしも向こうで皆さんとお話しながら頂きたいのに」

 「これは、地球軍の船ですから、コーディネーターの事をあまり好きじゃないって言う人もいるし…ってか、今は敵同士だし…」

 「残念ですわねぇ…」

 『オ前モナー』

 

 少女が一瞬、シュンとした顔になると、直ぐににっこりと微笑む。

 

 「でも、あなたは優しいんですね。ありがとう」

 「ぁ…」

 

 あまり女性に耐性が無いキラはその少女の笑みを見て、少し頬が赤くなる。

 

 「僕は…、僕もコーディネーターですから」

 「でも、あなたが優しいのは貴方だからでしょ?あの方もそうです。あの方はあの方なりにわたくしを庇ってくれました。」

 「あの方?」

 「黒髪の、ナチュラルの…」

 「一夏の事か…分かった」

 「一夏様ですか、一夏様にもにもありがとうと伝えておいてください。え~と、お名前を教えていただけます」

 「キ、キラ!…キラ・ヤマト」

 

 

 しばらくしてキラが少女の部屋を出ると、そこに一夏が通りかかった。

 

 「あ、キラさん」

 「一夏」

 「ここなんですか?あの子の部屋」

 「うん、…ぁ!」

 「声が…歌?」

 

 キラが出てきた部屋から、優しい声が聞こえてくる。おそらく、あの少女のものだろう。一夏とキラはそっと耳を傾ける。

 

 静かな、この夜に、貴方を、待ってるの♪

 あの時、忘れた、微笑みを、取りにきて♪

 あれから、少しだけ、時間がすぎて♪

 思い出が、優しく、なったね♪

 星の降る場所で、あなたが、笑っていることを♪

 いつも、願ってた、今この手も、また会えるよね♪

 

 「綺麗な声ですね」

 「うん、…一夏は、あの子がコーディネーターって事、どう思っているの?」

 「ん?いや、特に何も、強いて言うなら、歌声が綺麗で、可愛いって事くらいかな」

 「か、可愛いって。よくそんな直球的な言葉がすぐ出てくるね…」

 「あの子の前じゃ流石に恥ずかしいけど」

 「そ、そりゃ…って、そうじゃなくて!遺伝子を組み替えられて生まれてきた人間をどう思っているのかって事だよ」

 

 それを聞いた一夏はムッとした。キラはその一夏の表情を見て、少し退く。

 

 「そんなの、人の個性じゃないですか!例え、それが人為的だったとしても!」

 「え!?」

 「キラさんがキーボードを早く打つのだって、あの子の歌が綺麗なのだって、せっかくそう言う個性を持って生まれてきたんですから、誰にもそれを否定する権利なんてありませんよ!」

 

 一夏はそこまで言うと、怒った顔を笑顔に戻し、キラもフッと笑う。

 

 「それより、飯食いに行きましょう」

 

 

 桃色髪の少女、ラクス・クラインは何故か顔を真っ赤にし、ベッドで悶えていた。

 

 (か、かわいい…。わたくしが…)かぁ…

 

 キラと一夏がラクスの歌声を聞こえた都いうことは、その逆もまた然り、ドアの前の一夏達の会話は全て筒抜けだった訳である。

 

 (今まで、社交界やお世辞で、『美しい』とか、『綺麗』とか聞き慣れていましたけど…)

 

 『可愛い』

 

 (こ、これは…。あちらはこちらに声が聞こえていたことに気がついていないようでしたし…)

 

 ラクスはマクラに埋めていた自分の顔を話し、彼がいたであろうドアの向こうを見据える。

 

 (一夏様…不思議な方ですわ)

 『認メタクナイ!認メタクナーイ!!』

 

 今日もハロはうるさい。


 
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