No.400240

世界を渡る転生物語 影技9 【呪符魔術士】

丘騎士さん

 自分の弟子であるルイ=フラスニールに襲われ、死の危機に瀕していたオキトさんとの戦いに割って入り、ルイを撃破する俺。

 凍傷に混じって、【((修練闘士|セヴァール))】と戦ったと思われる傷のの具合を見ながらオキトさんを手当をする。

 そうして数日、残り少なくなった薬草を取りにいこうとした俺の目の前に現れたオキトさんの娘のフォウリンク=ブラズマタイザーさんと、【神力魔導】と呼ばれる力を振るって空間を歪め、フォウリィーさんを運んできた【((魔導士|ラザレーム))】であり、フォウリィーさんの旦那さんである、ワークス=F=ポレロさん。

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2012-03-30 21:36:31 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2663   閲覧ユーザー数:2549

 フォウリィーさんとポレロさんが来て数日。

 

 俺とポレロさんは、出会った時の目的であった薬草採取に赴いていた。

 

「─うん、これも薬草ですよジン君。これは滋養強壮に効果がありますが、あまりに取りすぎると依存性が出来てしまいますので、扱いには十分注意してくださいね?」

 

「はい、ポレロさん」

 

 オキトさんの治療のために使い残り少なくなった薬草の補充と共に、【魔導士(ラザレーム)】の条件である自然との融和という意味で、圧倒的に薬学に詳しいポレロさんの指導の下、新しい薬草や、リキトアの森では雑草だと教えられていた草の有効活用などを教えてもらいつつ、採取作業を続ける。

 

(しかし……【呪符魔術士(スイレーム)】に【魔導士(ラザレーム)】か。カイラは俺が元々この世界に生まれたものとして、常識的な事はあまり教えてくれなかったし、俺はこの世界のことに関しては本当に無痴なんだな……最も、カイラの場合は時間がなさすぎたという点もあるんだろうけど……)

 

 今までは、カイラが仕込んでくれる自分の命を守る技術を磨くのに手一杯で、そういう部分に自分の意識を向ける余裕がなかった事もあり、俺もまたそういう知識を尋ねる機会もなかったこともあって、本当にこの世界についての知識がなかったのだ。

 

(オキトさんの屋敷……立派だし、そういう本……書庫はないんだろうか? 後で聞いてみよっと)

 

「ジン君、これも薬草ですよ。ただ毒性があるので扱いに注意が必要です。この薬草の調合の仕方は後で教えてあげますね?」

 

「ありがとうございます、ポレロさん!」 

 

「いえいえ。……ジン君は素直で……すぐに私の知識を吸収してくれますからね。私としても教え甲斐がありますし、教えていて楽しいんですよ。……【魔導士(ラザレーム)】と政務さえ無ければ……私のもっている知識を全て教えたいぐらいなんですが……すいません、ジン君」

 

「うええ?! なんでポレロさんが謝るんですか?!」

 

 優しい顔に微笑みを浮かべ、目を細めて俺を暖かく見つめながらそう言うポレロさん。

 

 時間がないのが残念でならないと悔しそうに謝るポレロさんに慌てつつ、再び和むような優しい空気に包まれながら俺とオキトさんは森の中で採取を続けるのだった。

 

 そして、背負い籠一杯に取れた薬草にほくほく顔でオキトさんの屋敷に戻り、薬草整理や調合の仕方などをポレロさんに一通り教わった後。

 

「……なるほど。そういう事だったんだね。それで知識が狩猟や薬学等、自分が生き残ることに偏っている訳だ」

 

「納得ですね義父さん。ジン、貴方のご家族というのは……【森の住人】とも呼べる方々だったのですね? どちらかというと【リキトア】の人々に近い生き方をなさっていた人だった、という事なのでしょう。……それならば君自身のその自然との高い融和性も頷けるというものです」

 

 俺は早速先ほど考えていた、この家にあるであろう、書庫を使わせてもらえないかどうかをオキトさんに聞いてみる。

 

 俺が閉鎖された片田舎から出てきたせいで、この世界……この土地における一般常識がほとんど無いんです、とオキトさんにお願いをしてみると、俺の今までの生き方に興味をもったのか、オキトさんが俺がいままでどのようなところに住んでいたのかを尋ねてくる。

 

 興味津々なポレロさんとフォウリィーさんに囲まれ、俺はカイラのことをぼかしながらも……カイラと過ごした日々を【リキトア流皇牙王殺法】抜きで語り、両親に至っては前世の家族構成を駆使して話を進める。

 

 そう、……もう二度と家族とは会えない事も含めて。

 

「……つらいことを思い出させてしまったね。どうも思慮に欠けたようだ……すまない、ジン君」

 

「あ……いえ、気にしないでください」

 

「フォウリィー、ジン君を二階の書庫に案内してあげてくれないか?」

 

「ええ、わかりました、お父様。さ、いきましょ? ジン」

 

 話している間にカイラと過ごした日々を思い出し、少ししょんぼりしてしまった俺の肩を抱きながら書庫に案内してくれるフォウリィーさん。

 

 そんなフォウリィーさんの気遣いを感じながら、俺は部屋を退出して案内され、書庫へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

「……義父さんはジン君の先ほどのお話……どう思いました?」

 

「……あの歳にしてはしっかりしすぎているとは思っていたが……いやはや、実に納得だね」

 

「……そう、ですね」

 

 退出したジンの出ていった扉を見つめつつ、ポレロとオキトは話しだす。

 

「ご家族が亡くなられて……さまよい、新しい姉ともいう方に拾われたとおっしゃっていましたが、その方もまた狩猟や採取をして森と共に生きる……【森の住人】だったのでしょう。……ここは【リキトアの森】にも近い……もしかしたら」

 

「そうだね。……それに、私に使ってくれた薬草の中に、【リキトアの森】でしか取れない薬草だ、とジン君が惜しみなく使ってくれた薬草があったのだが……以前君が言っていた、リキトアの森の奥地にしか生息しない希少な薬草も混じっていたようだった。……そんな薬草を、いくら陽気な【牙】族とはいえ、早々多種族には渡すまい。……おそらくは……森の守護役の【牙】族の誰かに拾われていたのかもしれないな」

 

 いくらあの場所でも、あの愛らしい外見ならばあの場所でもあるいは、とつぶやくオキト。

 

 あの陽気な【牙】族が唯一排他的にならざるを得ない、【リキトア流皇牙王殺法】を修めるための最重要施設ともいうべき場所、【リキトアの森】・【牙々森林】。

 

 恐らくはあの森に迷い込んだであろうジンを、その森の守護者たるリキトアの闘士も……さすがに排斥するのは忍びなかったのではないだろうか。

 

 そしてジンを匿い日々を過ごす内……ジンが新しい姉と慕う人物も、どんどん情が移り、おそらくはもっとずっと一緒にいたいと願っていたのだろう。

 

 しかし、リキトアの森の守護者は一年周期で守護者が変わるという決まりごとがあり、森にずっと匿う事は不可能だったのではないだろうか。

 

 先ほどジンのいっていた話の内容の時期と、リキトアの闘士の交代時期が丁度ぴたりと重なっていた事もあり、おそらくはこの推測が正しいのではないだろうか、と二人は当りをつけていた。

 

「ところで義父さん、ジン君から渡されたその手紙は?」

 

「ああ、ここに来る前にジェイクの店に寄ってきたらしくてね。あいつからの紹介状のようだよ」

 

「! あの【鬼腕】ジェイクですか! 確か酒場を経営しているのでしたね?」

 

「ああ。……懐かしいね。アイツと私も……よく戦場で共闘したものだ。さて─」

 

 そんな予想を話し合った後、ジンより手渡された手紙を見つめるオキトに、手紙の差出人を確かめると、ジェイクという名に驚くポレロ。

 

 そして、その名を口にして昔を懐かしむように微笑みながら、静かに手紙の封を切って広げるオキト。

 

 【鬼腕】ジェイク。

 

 戦場をその豪腕のみで切り抜け続けた傭兵であり、彼がその腕を振るう時、あまりにも筋肉が張り詰め、赤く染まるその腕が敵の返り血でさらに真っ赤に染まり、その姿が鬼のようだったことから名づけられた名前だ。

 

 オキトも若いころに何度か共闘した中であり、気心の知れた相手でもある。

 

 数年前に戦場の子供を助ける為にその体を張って大怪我を負い、豪腕は健在ではあるものの、体を動かす際の鈍さを理由に傭兵家業を引退した。

 

 そしてその傭兵家業時代に稼いだ金をもって酒場兼宿の【商人の止まり木(パーチ・マーチャント)】を開いて今に至るのだ。

 

 さらには昔取った杵柄ともいえる、傭兵仲間の情報網を駆使して、正確・精密をモットーとする情報やも兼任していると聞く。

 

 そんな戦友ともいえる二人の関係を察し、手紙を見ないようにとそっと離れようとするポレロを制し、一緒に手紙を見るように示唆するオキト。

 

 そして開いた手紙の内容は─

 

『久しぶりだなオキト。こちらは相変わらずこの宿にくる馬鹿共を相手にしながら楽しくやっている。……お前のことだからまだ死んではいないだろうが……例の件、聞いたぞ? 【修練闘士(セヴァール)】とやりあうとは……お前らしくもない大冒険をしたものだな』

 

「やれやれ……相変わらず厳しいねジェイクは」

 

「ふふ、あの方らしいですね」

 

 ジェイクのそんな文面に苦笑をもらして顔を見合わせ、手紙を読み進める。

 

 無骨ではあるが、至極読みやすい字がつらなる手紙。

 

 豪胆ではあるが思慮深いジェイクを体現するような字であった。

 

『さて、この手紙を持たせた子供……ジン=ソウエンだが……。その在り方、佇まい……俺が推し量った力量……、おそらくは稀代の天才ともいうべき闘士になる素質がある。それに、お前に相談していた人攫いの件、どうも【リキトアの森】に奴らが入ったらしくてな。リキトアの闘士に処分されたという情報をもってきたのもその子だ。……これは憶測を出ない俺の推測だが、おそらくは……例の馬鹿二人を倒したのはジンじゃないか、と思っている』

 

ー『!』ー

 

 驚愕に染まる二人の表情。

 

 どうにか声を上げることを我慢し、二人は顔を見合わせて頷きながら手紙を読み進める。

 

『リキトアの闘士にもらった、と情報の信憑性を高める為に、ここ最近【リキトアの森】を襲っていた凶獣【暴猪(ボールボア)】の肉を持ってきたのだが、あれは塩漬けにきっちりと処理された肉だったし、肉を分けるにしても【暴猪(ボールボア)】の肉というのは知っての通り高級食材だ。あれだけの塊を一介の子供に渡すなど考え難い。恐らく……【リキトア流皇牙王殺法】の関係者……闘士だろうな、とかかわりあいがあるのだろうよ。まあ、余計な詮索までする気はないがな』

 

「……流石はジェイク。あの豪腕と戦略を練る深い思考は相変わらず、か」

 

「……本当にジェイク殿が引退なされたのが悔やまれますね」

 

 自分達とほぼ同じ思考を展開するジェイクに深く同意と関心を示しつつも、さらに先へと読み進める。

 

『警戒させるような事をいっちまったが、この子自体、それこそまるでリキトアの闘士のように、狩人のそれと同じ思考を持ってはいるが……根は真っ直ぐでいい子のようだ。何より……目がいい。全てを受け止め、そしてそれでも進むという澄んで輝く、意思の一本通ったいい目だ。【呪符魔術士(スイレーム)】……特にお前に興味があるような事を言っていたから最初はこれを書くかどうか悩んだんだが……この子ならばお前の不利益に働くことはあるまい。だから、お前にこの子を紹介する為にこの手紙を書いている。まあ、こんな手紙を書くまでもなく、お前はこの子を気に入るだろうがな。……どうやら山育ちで一般教養に疎いように感じられたから、よかったらお前がそこらへんを補ってやってくれ。……そしていつか、その子の成長具合を俺と一緒に酒でも飲み交わして語るとしよう。ではな戦友。 ジェイク=マーチャント』

 

「……まいったねどうも。何もかも読まれているよ……」

 

「ふふ、義父さんも形無しですね」

 

 再び苦笑をもらして顔を見合わせる二人。

 

「まあ、ジン君が来なかったら失われていた命だしね……。君に頼まれなくても真っ直ぐに、彼が彼らしく育てるように導いてみせるさ、ジェイク」

 

「そうですね。私も協力を惜しみませんよ義父さん。……何か、自分の子供みたいで愛おしいし、ほっとけないですし、ね」

 

「ふふ、君には苦労をかけるなポレロ君。フォウリィーの事といい、よろしく頼むよ?」

 

「ええ、もちろんですよ。今あるこの大きな幸せを……これから先も感じていられるようにしたいですしね」

 

 そんな会話を交わし、再びフォウリィーとジンが出て行った扉を見て微笑みを浮かべるオキトとポレロ。

 

 そこにはジンを優しく見守ろうとする二人の静かな決意と、これから先に続くであろう穏やかで優しい空気が流れていた。

 

 

 

 

 

ー並 立 書 棚ー

「……え~っと、どこの図書館?」

 

「ふふ、気に入ってもらえたかしら? 我が家ご自慢の書庫は」

 

 フォウリィーさんに促されるまま案内され、たどり着いたのは3mはあろうかという大きな扉をもつ大部屋だった。

 

 そして、その扉を開いていくと……目の前に写るのは本・本・本の数々。

 

 膨大な書籍が理路整然と本棚に並び、二階構造になっているこの部屋びっしりにつまっていた。

 

 中央に大きなテーブルがあり、そこで本が読めるようになっている他、高いところの本が取れるように工夫された梯子にも、要所要所に小さな椅子がついていて本棚の上部に金具を引っ掛けて倒れないようになっている。

 

 文字に関してはカイラに青空授業で一通り教わってはいるので問題なく読めるようにはなっているが─

 

「うわあ……ええと、まずはどこから見たらいいんだろう……」

 

「……そうね、確か二階の左端のところが昔の歴史や地理などの書物だったはずよ。そこから読むのはどうかしら?」

 

「おお~、ありがとうございます! フォウリィーさん!」

 

「ふふ、どういたしまして。さあ、いきましょ?」

 

 フォウリィーさんが二階部分を指差し、俺を案内するように先導するのについていく。

 

 そうして梯子を横スライドさせ、二階左端上部へと動かす。

 

 俺はフォウリィーさんに準備してもらった梯子をあがり、梯子についている小椅子に腰をかけると、目の前の広辞苑並みにぶっとい書籍【聖王国の歴史】を手に取り─

 

ー頁 捲 流 読ー

「……え?」

 

 高いから気をつけるのよ? と下から声をかけつつ、俺を見守っていたフォウリィーさんが、その表情を驚愕に染めて口をぽかんとあけたまま固まる。

 

 そんなフォウリィーさんを置いて、俺は【解析(アナライズ)】と【無限の書庫(インフィニティ・ライブラリー)】を駆使しながら、まるでパラパラ漫画を見るかのようにページを捲って本を読み進めて行く。

 

(【解析(アナライズ)】と【無限の書庫(インフィニティ・ライブラリー)】のバーゲンセールや~~! 【無限の書庫(インフィニティ・ライブラリー)】が知識で埋まっていくぞ フハハハハハハハーーー!)

 

 久しぶりに見る人工物と書籍、そして活字に妙なテンションになりながらも、俺は次々に本を取り、ページを捲り、本を読み進めて行く。

 

 そのつど、俺の【無限の書庫(インフィニティ・ライブラリー)】にその情報が書籍化され、本棚に収まって知識となり、それを埋めていくのだ。

 

「はっ?! ……ええと……ジン? 貴方……それで本当に本の内容を……理解できているの?」

 

 夢中になって本を読み進める俺に、今まで呆然と固まっていたフォウリィーさんが再起動し、声をかけてくる。

 

「あ、はい。俺はちょっと特殊なんですよ。一度目で見たものは忘れないというか……えっと、【完全記憶能力】ってわかります?」

 

「ッ! な……るほどね。貴方は……生まれてから今まで、その目で見たもの……全て(・・)を……記憶し続けているのね? そう……それでそんな小さい……そんな歳なのに、そんなに大人びているのね……」

 

ー頁 捲 流 読ー 

 ひたすらに本を楽しそうに読み進める俺をじっと複雑そうな表情で見つめるフォウリィーさん。

 

「えっと……大丈夫ですか? フォウリィーさん」

 

「え? ……ええ。ふふ、まったく……何やってるのかしら私ってば……。大した事じゃないのよ? 唯……貴方の天才ぶりに……いえ、規格外ぶり、といったほうがいいかしらね? それに感心を通り越して呆れていただけだから」

 

「何気にひどい言われよう?!」

 

「ふふ、さて……それじゃあ本当に本の内容を覚えているか……確認するとしましょうか? それじゃあ─」

 

 そういいながら微笑んで、俺が読み終えた本からクイズの要領で次々と問題を出し、俺がそれを答える形式で話をしていく。

 

 そして、ある程度の応答をした後、再び本棚へと向かう俺。

 

 この世界をより良く知る為、知識を求める俺の手は、目は、止まる事なくその手に取る本を読み続けていく。 

 

 そして、大まかに必要な知識が集まったところで……情報を整理していた【無限の書庫(インフィニティ・ライブラリー)】より再び情報を取り出しフォウリィーさんの質問に答えていくのだった。

 

  

 

 

『ワード登録・情報認識・情報統合 完了(コンプリート)。 【解析(アナライズ)掲示(オープン)

 

 

◎【聖王国アシュリアーナ】

 

 この大陸中央に浮かぶ聖地【ジュリアネス】を中心に、北の【リキトア】・東の【キシュラナ】・南の【クルダ】・西の【フェルシア】の【守護四国】で構成された複合国家。

 

 この国独自の魔導技術である【自然力(神力)】を扱う【魔導士(ラザレーム)】によって修められ、栄える魔導国家である。

 

 また、四方の国【守護四国】は、元々争いの耐えない国同士であった名残があり、各国に独自の武闘流派がある。

 

 そして各々が最強という名を自負しているため、それを仲裁する【ジュリアネス】がなければ未だに争いは続いていたであろう。

 

 今現在、司法と取りまとめの役割を果たす【ジュリアネス】の手によって、鉄の掟ともいえる相互不闘の条約【四天滅殺】が結ばれている。

 

 

〇【四天滅殺】

 

 四天、即ち【守護四国】の扱う各流派、【リキトア流皇牙王殺法】・【キシュラナ流剛剣()術】・【クルダ流交殺法】・【フェルシア流封印法】の事を指す。

 

 各国の技を修めたものは、単騎で千の敵を打ち倒すと歌われるほどの圧倒的な力を持つ闘士であり、【一騎当千】を体現するものである。

 

 そしてその闘士が許可なく国境を越え、他の四国に侵入し、争いを起こすということは武力侵攻にほかならず、それは容易に戦争の引き金となる。 

 

 故に、【アシュリアーナ】を守護する【守護四国】が互いに争い、この国が崩壊する事を憂いた【ジュリアネス】の王女リルベルト=ル=ビジューと、【守護四国】の間に成された掟が【四天滅殺】である。

 

 掟の内容は『【四天滅殺】交わることなかれ』

 

 この絶対の掟を破った者は極刑に課せられ、最悪の場合は掟を破った者が所属する流派は四天よりはずされ、さらには国自体が滅ぼされる可能性がある。   

 

 

◎【聖地ジュリアネス】

 

 聖王国【アシュリアーナ】中央に位置し、【アシュリアーナ】を統べる、自身も【魔導士(ラザレーム)】である王女リルベルト=ル=ビジューの住まう土地。

 

 巨大な【魔導力】で浮かぶ空中都市であり、中央に城のある巨大な島を中心として、大小さまざまな浮島がつながった国である。

 

 その【魔導力】を用いて上昇し続けるのか、【聖鎖】と呼ばれる巨大な鎖で大地につなぎとめられている。

 

 また聖王国【アシュリアーナ】の司法をつかさどる魔導司法機関でもある。

 

 

〇【魔導士(ラザレーム)

 

 自身と杖などの触媒のみで自然界に存在する魔力・【自然力(神力)】・【魔導力】を集め、【空間転移】・【物質移動】・【重傷者の治療】等の奇跡とも呼べる現象を起こさせることの出来る者。

 

 その力はあまりに強大であり、現存する【魔導士(ラザレーム)】は【アシュリアーナ】に十一人しか存在せず、その稀有な能力故に国の重要役職である国政政務官に任命され、兼任している。

 

 

〇【ジュリアネス聖騎士団】

 

 聖地【ジュリアネス】および王女リルベルト=ル=ビジューの守護を旨とする騎士団であり、魔導司法機関の司法執行者でもある。

 

 【守護四国】の秩序・および監視の役割も担っており、聖騎士団自体の人員も各自が【一騎当千】の強者である。

 

 人造魔導師【秩序法典(Ordo Codex)】を伴い、聖騎剣と呼ばれる魔導剣を用いて法を犯したものを処断する。

 

 また、【アシュリアーナ】各部門の御技に対する力として【ジュリアネス聖騎剣術】という独自の技を体得している。

 

 

 

◎【剛剣王国キシュラナ】

 

 四王国中最古の伝統をもつ、皇帝が修める【アシュリアーナ】の東に位置する国。

 

 古来から栄える王朝で、現在は「第七王朝」である。

 

 強大な国であり、かつては南のクルダを従え、従属国としていた国でもある。

 

 【キシュラナ流剛剣()術】を国技として掲げる、【剣技】を旨とする武人の国である。

 

 【キシュラナ流剛剣()術】を身につけ、武人と認められたものは【左武頼(さぶらい)】と呼ばれ、【剛剣()】専用の刀の帯刀を許される。

 

 

〇【キシュラナ流剛剣()術】

 

 前述の通り、古来より【剛剣王国キシュラナ】に国技として伝わる【剣技】。

 

 【キシュラナ】固有の刀を扱って放たれるその【剣技】の冴えは、岩を軽々と一刀両断するほどの鋭さを持つ。

 

 その研ぎ澄まされた圧倒的な殺気は、専用の刀を介して物理的に目に見える形となって顕現し、【剛剣()】と呼ばれる巨大な人影となって目の前の敵を打倒する。

 

 仮に【剛剣()】の一撃を避けられたとしても、その後に技者自身の【真の一刀】と呼ばれる必殺の一撃が襲い掛かる。

 

 その一撃の重さ、速さにより不可避とされ、まさに【必殺】と呼べる威力を誇る。

 

 

 

◎【魔導国家フェルシア】

 

 王国西方に位置する、代表制で代々推薦され、選ばれたものが統治する魔導都市。

 

 【フェルシア流降魔符印法】と呼ばれる魔導形態をもつ。

 

 学術都市とも言われ、様々な研究がなされている国でもあり、【呪符】以外のものに【魔力文字】を刻み込み、その力を操る造詣が深い。

 

 

〇【フェルシア流降魔符印法士】

 

 【呪印符針】と呼ばれるものを使い、【降魔】とよばれる【人造魔導(ゴーレム)】を従え操る技術を扱うもの。

 

 不確かではあるがその【降魔】の祖体は……術者の近しいものの体で作られるとされ、術者の動きを模倣したり、意のままにあやつったり、術者を守る為に動く。

 

 時折【降魔】が守るべき主人を無くし、制御不能の暴走状態になってさまようものもいるという。 

 

 

◎【自然王国リキトア】

 

 【アシュリアーナ】北方に位置する、国自体が森に囲まれた狩猟を旨とする女王が納める自然国家。

 

 【牙】族と呼ばれる半獣人が住まう土地であり、独自の文化を構築している。

 

 【リキトア流皇牙王殺法】という自然を武器として扱う技を使う。

 

 

〇【リキトア流皇牙王殺法】

 

 自然と一体化し、自分のイメージ通りに自然を拳や蹴などの形をとらせて武器として扱う技。

 

 詳しくはカイラの説明を参照。

 

 

◎【傭兵王国クルダ】

 

 【アシュリアーナ】南方に位置する王国。

 

 二千年という長い歴史を持つ国であると同時にかつてはキシュラナによって属国にされていたという過去ももつ。

 

 クルディアスと呼ばれる褐色の肌と高い身体能力をもつ者達が暮らしており、かつて属国であり、奴隷として扱われていた際に作り上げたといわれる【クルダ流交殺法】と言う基本無手の技を使う。

 

 また、『クルダの傭兵は一騎当千』と謳われ戦時に活躍し、【クルダ流交殺法】の使い手でなくとも傭兵となった時点で【闘士(ヴァール)】と呼ばれるようになる。

 

 また【闘士(ヴァール)】という呼び名の通り、独自の称号形態がある。

 

 それは下記の通り。

 

 

 

〇【修練闘士(セヴァール)

 

 クルダの力の象徴であり、最強を関する称号。

 

 『最高の栄誉と恐怖を司る者』とされる、クルダ闘士としては最高位の称号。

 

 2000年の歴史上、60人にも満たないことからその強さ・称号を得るための厳しさがうかがえる。

 

 【修練闘士(セヴァール)】は【字名】と呼ばれる二つ名を名乗る事を許され、身体いずれかに【修練闘士(セヴァール)】の象徴たるクルダ紋章の刺青を彫る。

 

 余談ではあるが後述の【真闘士(ハイヴァール)】・【闘士(ヴァール)】の中にも、その強さ故に【修練闘士(セヴァール)】になっていないにも関わらず【字名】で呼ばれている闘士も存在している。

 

 

〇【真修練闘士(ハイ・セヴァール)

 

 【修練闘士(セヴァール)】の中でもさらに強く、クルディアスの血筋の濃いものに送られる【修練闘士(セヴァール)】の上位称号ともいえるもの。

 

 【真修練闘士(ハイ・セヴァール)】の称号を得たものは王の摂政・次期王位継承権を与えられる。

 

 【真修練闘士(ハイ・セヴァール)】に至る道は【修練闘士(セヴァール)】になるよりも格段に狭く険しいものであり、クルダの歴史上、8人しかいないとされる。

 

 

〇【闘士(ヴァール)

 

 クルダ傭兵の総称。

 

 前述の通り、クルダ傭兵に加入していれば【呪符魔術士(スイレーム)】であろうと【獣魔捕人(セプティア)】であろうと総じて【闘士(ヴァール)】と呼ばれる。

 

 

〇【真闘士(ハイ・ヴァール)

 

 クルダの傭兵の中でも優れた闘士に送られる称号。

 

 単純な戦力比として【闘士(ヴァール)】五十人分に匹敵する力を持つとされる、【修練闘士(セヴァール)】候補ともいえる強さをもった存在。

 

 実力が拮抗しつつ、惜しくも【修練闘士(セヴァール)】になれなかったものたちは大抵この称号を持つに至る。 

 

 

〇【クルダ流交殺法】

 

 基本無手の格闘技。

 

 数多の技のそのどれもが一撃必殺の威力をもち、前述の通りクルダ傭兵の多くが扱う技である。

 

 尚、大まかな流派分けがある。

 

 

〇【表門】・【表技】

 

 手技・投げ技・関節技等、両手を扱う技を取り扱う流派。

 

 【クルダ流交殺法】の使い手の多くはこの技を扱う。

 

 代表的な技は、その手の拳速でかまいたちを作り出す【刃拳(ハーケン)】等。

 

 

〇【影門】・【影技】   

 

 かつて隷属にされていた際、手械をはめられたままでも戦えるように磨き上げられた流派。

 

 それ故脚を使う技に特化している。

 

 【表門】・【表技】に比べて習得が難しく、この技を扱いこなす闘士はそう多くない。

 

 代表的な技は足版の【刃拳(ハーケン)】ともいうべき【爪刀(ソード)】等。

 

 

〇【剣技】

 

 前述の隷属だった際、剣闘士として闘技場で戦わされることも多かったクルディアス達が、その血路を開く為に編み出した【剣技】。

 

 短剣のようなものを扱うことが多く対多用の技等もあるが、基本素手での戦闘を好むクルダ国民にはあまり使われないようである。

 

 

◎【ソーウルファン王国】

 

 聖王国アシュリアーナに敵対する、クルダ王国南方に位置する国。

 

 自国の大地がやせ細っており、常に飢餓と貧困にさいなまれている。

 

 故にアシュリアーナの豊穣な土地を狙い、機を狙っては戦争を仕掛けてくる。

 

 【鉄騎兵団】と呼ばれる部隊がある。

 

 

 

〇【獣魔捕人(セプティア)

 

 罠を仕掛け、獣魔を捕獲することを生業とするもの。

 

 自然界の獣魔を相手取ることから自然界の知識が豊富である。

 

 相手が強大な獣魔であり、生け捕りを目的とするために大方は【獣魔捕人(セプティア)】隊というパーティーやキャラバンを組んで獣魔捕獲の任にあたる。

 

 

 

〇【獣魔導士(ヒュレーム)

 

 【魔力石】という結晶体に封印した獣魔を自身の身体の一部を仕様して呼び出し操る者。

 

 一種の召喚士である。

 

 呪符魔導師同様、呼び出す固体に応じて多岐に渡る効果を発揮する。

 

 また術者自体の身体を触媒にし、より協力な攻撃を仕掛けることもできる。

 

 

 

〇【呪符魔術士(スイレーム)

 

 自分の魔力を結晶させた魔力文字を呪符に記し、使用時に呪符に問いかける(伺いを立てる)事により書かれている文字に対応する魔力効果を発動させるもの。

 

 呪符の種類は千差万別で、攻撃・防御・治癒等多岐に渡る効果を発揮することが出来る。

 

 精神力・意志力・魔力によって発揮する威力に増減がある。

 

 また呪符魔導師固有の掟があり、師を殺された呪符魔導師は本名を捨て暗殺者となり、敵をとらねばならない。

 

 失敗した場合は一生本名に戻れないばかりか自分以外の全ての呪符魔導師が敵となる鉄の掟である。

 

 またアシュリアーナ各国に呪符魔導師協会という独立機関が存在し、各王国の政治的干渉をほとんど受け付けない。

 

 大まかに覚えた点ではこのようなところだろうか。

 

「それにしてもすごいスピードね。これ……一週間ぐらいあればここの本全部読み終わっちゃうんじゃないかしら?」

 

「知識詰めこめるだけ詰め込んでさっさと【呪符魔術士(スイレーム)】の修行にいきたいですからね。がんばりますよ!」

 

 ぐっとやる気をだして拳を握った瞬間、ここの世界に送られる前に見たルナちゃんと被るるな、と自分で意図せずにとった気合のガッツポーズに内心苦笑する。

 

ー強 引 抱 擁ー

 すると……またしてもフォウリィーさんに抱きしめられていた。

 

「っ~~~……ほんと、なんて可愛いのかしら!」

 

「フォウリィーさん! 男にかわいいはほめ言葉じゃないです!」

 

「いいのよ、本当のことなんだから」

 

「ぉぅふ」

 

 可愛いと抱きしめられ、反論するもののばっさりと切り捨てられて、抱きしめられたままうなだれる俺……だる~ん。

 

「さ~て……抱き心地も堪能したし、そろそろお昼の準備をしないとね」

 

「あ、もうそんな時間です? 俺も手伝いますよ~!」

 

「そう? ふふ、それじゃあお願いしようかしら」

 

 フォウリィーさんの一言で俺は読んだ本を棚に戻し、続きを読む棚の場所を記憶したのち、こちらに手を伸ばしてくるフォウリィーさんの手をつなぎながら、一階にある食堂へと一緒に下りていく。

 

 そして……この書庫を紹介されてすぐの事だったのだが、本を読んでいる俺にポレロさんが別れの挨拶をしに来てくれた。

 

 仕事の関係上、どうもこれ以上この家に留まる事は難しいらしく、職場である聖地【ジュリアネス】へと戻る旨を俺とフォウリィーさんに伝えに来たのだ。

 

 しばしフォウリィーさんと抱きしめあって別れを惜しみ、別れのキスを交わした後に俺に向き、次にくるときには何か本でも持ってきましょうといいながら、この家の扉を出て行くポレロさんを見送った。

 

 それからはひたすらこの書庫に通いつめて本を読み進めていたのだ。

 

 そして、時間になるとフォウリィーさんがそれを指摘してくれて、一緒にご飯を作るというのが最近の日課になりつつある。

 

 家事の手伝いをするようになって気がついた事だが……主婦だけあって、フォウリィーさんは料理がうまい。

 

「んじゃ、そっちの下準備はまかせたわね? 私はメインディッシュのほうの準備しちゃうから」

 

 キッチンに到着し、フォウリィーさんの指示通りお昼ご飯の素材をそろえる俺は、野菜の皮剥きや水洗い、パン生地の練り等をしながら横目でフォウリィーさんの調理を【解析(アナライズ)】していた。

 

(……カイラといたときは肉の丸焼きやら干し肉あぶるとか果物丸かじりとかだったからなあ……。手を加えていいとこスープとかだったし)

 

 狩猟の予備知識として、肉の裁き方とか、血抜きは教わっていたので精肉等の下ごしらえならうまいのだが……。 

 

 そんな事を思いつつ、皮をむき終わった野菜を水にさらし、俺はパン生地を練り終わって下準備を完了する。

 

「フォウリィーさん、準備おわりましたよ~」

 

「あらそう? んじゃパン焼いといてもらえる? 焦げすぎないように火加減に注意してね」

 

「はい!」

 

 そして当然、この世界にガスコンロなんてないので……以前お湯を沸かした通り釜戸焼きである。

 

 焚き火で肉を焼いていたリキトアの森とは違い、釜戸という閉鎖された中で燃える火の扱いは難しく……火は生き物っていう言葉がある通り、最初は【解析(アナライズ)】を駆使しても、食材を焼きすぎてしまったりと失敗していたのだが……。

 

(もう大体勘は掴んだし……二の足は踏まないぞ!)

 

 ピザを焼くときに使う、大きなヘラみたいなものにパン生地を上げ、火の具合を見ながら待つこと数分。

 

「よしっと。こっちは終わったわ。ジン、パンの具合はどう?」

 

「もうちょっと……おし、いいですフォウリィーさん。」

 

 ふわふわに膨らみ、表面にいい焼き色がついたパンがそこにあった。

 

 上手にできました~! とばかりにうまくできたパンの焼き具合に上機嫌になりながら、パンをバスケット籠にいれて食卓に並べる。

 

「ジン、お父様を呼んできてくれるかしら」

 

「わかりました」

 

 テーブルにサラダを盛り付けて並べるフォウリィーさんがいつものようにオキトさんを呼んできてくれと頼むので、それにしたがって俺はオキトさんの部屋へと向かう。

 

「オキトさん、できましたよー」

 

「ああ、ありがとう。すぐ行くよ」

 

 ノックして部屋に入り、声をかけると、手に【呪符】をもっていたオキトさんが、俺に微笑みながら立ち上がる。

 

 俺が【呪符】を習いたいと言って以来、体も大分治ったオキトさんは、俺が練習用に使うための呪符を毎日少しずつ準備してくれている。

 

 最初は張り切りすぎて徹夜して作ろうとしていたのを、体に負担かけすぎ! とフォウリィーさんと一緒に怒ってやめてもらったのだ。

 

 フォウリィーの子供時代を思い出してつい……ね、と苦笑するオキトさんに、もう、お父様ったら……と、思い出すように微笑むフォウリィーさんが印象的だった。

 

「さあ、いただこうか」

 

「はい」

 

「いただきます!」

 

 席に着き、食事を食べ始めると……みなそれぞれ口からおいしいという言葉が食卓に飛び交い、笑顔で笑いあいながら、和やかな食事の時間が過ぎていく。

 

「うん、腕をあげたねジン君。いい食感だよ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「……ほんと、すごい上達速度よねえ。……なんか自信なくしちゃうわあ」

 

「そ、そんな事ないですよフォウリィーさん?!」

 

「ははは! これはうかうかしていられないね? フォウリィー」

 

「もう、お父様?!」

 

 そんな他愛もない日常会話を楽しみつつ、食事を取っていた時、ふと……思い出が蘇った。

 

(そういえば前世では……家事とか親にまかせきりで大して家の手伝いもしなかったな……)

 

 それは既に断片化された前世での家族との記憶。

 

 この世界に来た弊害……いや、転生した結果なのだろう。

 

 前世での記憶が情報化され、断片的な思い出になってしまってはいるが……我が家に唯一、家訓的にあったのは『なるべく家族で食事をとること』だった。

 

 暖かいスープとパンを食べながら、そんな事を思い出し、前世では当たり前すぎて感じなかった事。

 

(家族って……暖かくて……いいなあ)

 

 フォウリィーさんとオキトさんの楽しそうに会話をしている状況を眺めながらそう思っていると、不意に景色が歪むのを感じた。

 

「ッ……ジン、どうしたの? おいしくなった? 大丈夫?」

 

 そして、俺に話題を振ろうと笑顔でこちらを向いたフォウリィーさんが突然心配そうな顔になり、俺の顔を覗き込んで声をかけてきたのだ。 

 

「……ぇ? どうしてです? とってもおいしいですよ?」

 

 俺自信、なぜそんな事を言われたのかがわからずに驚いたような顔でフォウリィーさんの顔を見返す。

 

「ジン……貴方……自分で気がついていないの? ……泣いているわよ?」

 

「ぇ……?!」

 

 そう指摘され、咄嗟に顔に手を当てると─

 

ー流 々 伝 涙ー 

 その手に触れる、暖かい液体の手触り。

 

 ……自分で気がつかないというのは情けないが……なるほど、確かに泣いていたようだ。

 

「え? うえ?!」

 

 一瞬思考停止に陥り、あわてて顔をこすっていると、椅子から立ったフォウリィーさんに後ろから椅子ごと優しく抱きしめられた。

 

「……何か思いだしてたの?」

 

「……はい。……家族って……いいもんだったんだな……って……」

 

「ッ……」

 

ー柔 軟 抱 擁ー

 次々にあふれ出す涙を手で拭う中、フォウリィーさんが抱きしめる力を強くし、頭をこすり付けるように顔を俺の頭につける。

 

 オキトさんは、フォウリィーさんと一度顔を見合わせ優しい微笑みを浮かべながら、俺の頭を優しく頭をなでてくれた。

 

 それはとても優しく暖かく……以前、カイラに抱きしめられていた時のように……とても気持ちが暖かくなった。

 

 

 

 

 

 そして食事終了後、先ほどの事を思い出しては顔を真っ赤にして頭を抱え、地面をごろごろと転がる俺がいたわけだが……そこは割愛しつつ……。

 

 かなり恥ずかしい思いをした食事を終え、一通り家事が済んだ後にオキトさんから練習用にと【呪符】を一束手渡される。

 

「ジン君なら座学と平行して練習しても問題ないだろう。フォウリィーに聞いた限りではすさまじい知識の吸収量だというし」

 

「そうね 一度覚えたら忘れないのなら問題ないと思うわ。お父様」

 

 そういいながら【呪符】使用の許可を出すオキトさんに同意し、頷くフォウリィーさん。

 

「ジンくんは才能の塊だね。教え甲斐があるだろう? フォウリィー」

 

「そうねお父様。飲み込みがすごいから、すぐ教えることがなくなりそうで寂しいのだけれど、ね」

 

(……ぅぉぅ……なんか褒められすぎてない?! ほめ殺し?……ほめ殺しキタ!?)

 

 そんなべた褒めの二人の会話に内心再び身もだえしながら、顔を見合わせて微笑み俺を見つめる二人を見ながら─

 

(まあ……チートのおかげであって、自分自身の力ではないんだけど、ね)

 

 ずるしているのではないかという事に、俺は内心気がとがめたが……生き残るためと割り切って沈む気持ちを切り替える。

 

 そうして、早速練習をと促す二人が先導する中、地下にあるという【呪符】の練習用の練武場へと導かれる。

 

 地下へと下りる階段が、俺達に反応して光りだし、恐らくは明かりを灯す【呪符】であろう、それがあかるく階段を照らす。

 

 そして階段を下りきると、どのぐらいあるのだろうか……結構広い空間に出る。

 

 上の家より広いと思われるその場所には、いたるところに【呪符】が張り巡らされており、【魔力】の膜ともいえるものに何層にも渡り囲われているのがわかった。

 

「ここは【呪符】に耐えれるように丈夫な【結界】が張ってあるのよ。だからかなり威力のある【呪符】を使っても耐えられるわ」

 

(! なるほど。これが【結界】……)

 

 壁際に近づいてその術式を直に触れ、【解析(アナライズ)】を走らせる。

 

 術式ならびに構成パターンなどを次々と解析し、自分の中に吸収していく。

 

 そして、所々壁が焦げたり、欠けたりしているかなり年季の入った破損箇所を発見する。

 

(……きっと小さいとき、フォウリィーさんもここで練習してたんだろうなあ)

 

 ふと、そう思いながらこげた壁をなぞったりしていると─

 

「懐かしいわね……それ、私がやったのよ? 私も昔は中々うまく【呪符】を扱えなくてね……ここで練習をしている時、意志力が足りないせいか……、呪符を発動できなくてね。お父様に励まされた時があったわ……」

 

 懐かしそうに目を細めて壁のこげ跡を俺と一緒になぞるフォウリィーさん。

 

「……『お前はがんばれるさフォウリィー。誰も優しく人を信じられるお前だ……』」

 

「お、お父様?!」

 

 そういうと、オキトさんが何かを思い出すかのように目を閉じながら言葉を紡ぎ、それに顔を赤くしてわたわたとあわてるフォウリィーさん。

 

「『お前を助けようとする呪符の声だって聞こえるさ』」

 

「え、あ、う~……」

 

 過去の未熟だった自分を思い出すのか、頭を抱えて丸くなるフォウリィーさんと俺に近づいてくるオキトさん。

 

「そう、今も昔も……『お前は、父さんの自慢の娘なんだから……』ね」

 

ー優 撫 暖 手ー

 オキトさんが優しい微笑みを浮かべ、俺とフォウリィーさんの頭を撫でてくる。 

 

 恥ずかしそうにしながらも、懐かしそうに眼を細めてオキトさんの手の感触に微笑むフォウリィーさん。

 

「それじゃあ、頼んだよフォウリィー? ……私もジン君の成長を見届けたいところではあるが……傷の療養中にたまった【呪符魔術士(スイレーム)】協会の書類を片付けなくちゃいけなくなったからね……」

 

 やや落ち込んだ様子でそういうオキトさんが、フォウリィーさんと俺に手を振りながら階段をあがっていく。

 

 それを俺とフォウリィーさんが見送り─

 

「……さて、そろそろ始めましょうか」

 

「はい!」

 

 オキトさんの気配がなくなった後、ようやく恥ずかしさが収まったのか赤い顔を通常状態に戻したフォウリィーさんが真剣な表情をして俺に話しかけてくる。

 

「そうね……ジンにならやって見せたほうが早いわね」

 

 そういって、腰にある練習用の【呪符】を一枚とって構え、その手に【魔力】をこめるフォウリィーさん。

 

「いい? よく見ていてね?……フォウリンクマイヤー=ブラズマタイザーが符に問う……答えよ! 其は何ぞ!!」

 

ー【発動】ー

 手から【呪符】に【魔力】が伝わり、【呪符】にフォウリィーさんの【魔力】が奔る。

 

 そしてその【魔力】を受けた【呪符】が、フォウリィーさんから問いかけられる言葉を始動キーとして発動し、【呪符】が輝く。

 

❝『我は灯火 暗闇にて光り』❞

ー【魔力文字変換】ー

 【呪符】に書かれた【魔力】文字が、フォウリィーさんの【魔力】を受けて発現・変換され、その文字の書き示すとおりの効果を発揮せんとその力の形を変える。

  

 そして、それを見たフォウリィーさんが呪符を天井に投げる。

 

❝『汝を照らすもの也』❞

ー【呪符覚醒】ー

ー明 灯 光 符ー

 

 そしてその【呪符】が天井に張り付いた瞬間、【呪符】の明るさが増して周囲を照らすように光を灯し続ける。

 

(なるほど……これが【呪符】。これが……【呪符魔術士(スイレーム)】の力)

 

 ルイの時はじっと見ている余裕の無かった【呪符】を、目の前でじっくりと見て【呪符】の力に知識的興奮を覚えながらも、【リキトア流皇牙王殺法】とはまた違った術式と【魔力】の流れを【解析(アナライズ)】し続ける。

 

「ふぅ。これが呪符の基本的な使い方。【呪符】自体は特殊ではあるけど紙よ。【呪符】の要になるのは……この【呪符】に描かれた【魔力文字】。この【魔力文字】によって術が決まり、現れる効果が決まるわ。術の規模はこの【魔力文字】に込められた魔力量と精神力によって変わってくるの。一つの【呪符】に【魔力】を込めて強い威力を出すこともできるけれど、複数枚使ってその【呪符】を強化するという手もあるのよ。何枚同時に発動できるかというのも、その術者の実力と精神力を推し量るものさしになるわね」

 

 そういいながら、先ほどフォウリィーさんが発動してみせた練習の【呪符】である【呪符】・【灯火】を俺に手渡す。

 

「じゃあ、まずは大前提となる【魔力】を【呪符】に流すところからはじめましょうか。【魔力】は……もう扱えるみたいね? それならまずは【呪符】に【魔力】を流して発動できるかどうかを試してみましょう? さ、やってみて?」

 

ー魔 力 流 動ー

 俺は頷きながら、手に持った【呪符】・【灯火】を自らの体の延長と考えるように【魔力】を流す。

 

ー受 魔 光 符ー

 俺の【魔力】を受けた【呪符】は俺の【魔力】を糧とするかのようにその身に書かれた【魔力文字】を輝かせる。

 

「ッ! ……すごいわ……。初見で【呪符】が反応するなんて……」

 

 【呪符】の【魔力文字】が輝いたまま発動待機状態のような感じになり、発動のための言葉を間っているかのようだった。 

 

「うん、これならいけるわね。なら先いったとおりに呪符に伺いをたてるの。そうね……初めてだし、せっかくだから最初は一緒にやってみましょうか?」

 

「はい! フォウリィーさん!」

 

 そういいながら、自分も【呪符】に【魔力】をこめるフォウリーさん。

 

「いくわよ……!」

 

「はい!」

 

 俺達の持つ【呪符】の【魔力文字】が輝き、発動キーワードを今か今かと待ち構える中─

 

「フォウリンクマイヤー=ブラズマタイザーが符に問う!」  

「ジン=ソウエンが符に問う!」

 

ー『答えよ!其は何ぞ!!』ー

ー【発動】ー

 

❝『我は灯火 暗闇にて光り』❞ 

ー【魔力文字変換】ー

 

 【呪符】が発動の言葉を発し、それがまったく同時な為にエコーがかかったように響きあう。

 

 そして、フォウリィーさんの動きに合わせ、同時に先ほどフォウリィーさんが投げて発動させた【呪符】・【灯火】を挟んで天井に貼り付ける。

 

❝『汝を照らすもの也』❞

ー【呪符覚醒】ー

ー明 灯 光 符ー

 

 先ほどフォウリィーさんが発動させた符と合わせて三枚の【呪符】の相乗効果でより明るく照らし出される地下練習場。

 

「よっし! やりましたよフォウリふが」

「すごいわ!ジン! 一発成功じゃない!」

「っぷふう、フォウリィーさん!」

 

ー強 引 抱 擁ー

 俺が発動できた【呪符】に喜びをあらわにしようとフォウリィーのほうを向いた瞬間、いきなりフォウリィーさんが嬉しそうな顔で抱きついてきたのだ。

 

(い、一瞬息が出来なかった……!)

 

 地味にピンチになりつつも、嬉しそうにしているフォウリィーさんにされるがままに、【リキトア流皇牙王殺法】の時のように切羽詰っていた訳でもないので、新しい技術の基本を習得できた喜びをかみ締める。

 

「これは本当にすごいことなのよ? これは基本の基本で、初見で成功する人は少ないわ。それに……これができないと【呪符魔術士(スイレーム)】になる事すら出来ないのだから」

 

 俺が【呪符】を発動できたことが心底嬉しいといった満面の笑みでこちらを見つめるフォウリィーさんにつられ、俺も喜びが沸きあがってきて笑顔を返す。

 

「ッ!……ん~~~、か~わ~~い~い~~」

「んぐふう」

 

 そんな俺の笑顔を見て一瞬のけぞったかと思うと、さらに抱きつきが強くなって頭をぐりぐりこすりつけてくるフォウリィーさん。

 

(やめて! 俺のライフはもう0よ!? そしてその鼻から垂れている赤い液体を拭こうかフォウリィーさん?!)

 

「さあ、お父様に報告してご馳走にしなきゃ。今夜はジンの『ジン、初めて【呪符】を使う!』のお祝いよ! ……その前に─」

 

 抱き締めながらそう言って、いったん言葉を区切り、ようやく鼻血をふき取るフォウリィーさん。

 

 そして再び俺をみつめて満面の笑みを浮かべ、俺は言葉の続きはなんなんだろうかと首をかしげてフォウリィーさんの顔を見上げていると─

 

「一緒にお風呂に入るわよ♪ ちょっと血で汚れちゃったし」

 

「ちょ……、またですか?! しかも血で汚れたのってフォウリィーさんだけじゃないですか?!」

 

 反論する間もなく小脇に抱えられてじたばたする俺をつれて一直線にお風呂行きッ!

 

 当然の如く一緒にお風呂に入る事になり……即脱衣の元、身体の隅々まで洗われてしまった俺。

 

 ふたたびだる~んとなっている俺を湯船の中で抱きしめてご満悦なフォウリィーさん。

 

(もう……ゴールしても……いいよね? 〇rz) 

 

 羞恥を飛び越して諦めの境地に達していた俺は、フォウリィーさんが満足するまで抱きしめられ続けるのだった。

 

 

 

 

 

『ステータス更新。現在の状況を表示します』

 

登録名【蒼焔 刃】

 

生年月日  6月1日(前世標準時間)

年齢    7歳

種族    人間?

性別    男

身長    117cm

体重    29kg

 

【師匠】

 

カイラ=ル=ルカ 

フォウリンクマイヤー=ブラズマタイザー 

 

【基本能力】

 

筋力    BB 

耐久力   B  

速力    BBB

知力    BB ⇒AA New

精神力   BBB

魔力    BBB

気力    B  

幸運    B

魅力    S+ 【男の娘】補正

 

【固有スキル】

 

解析眼   S

無限の書庫 EX

進化細胞  A+

 

【知識系スキル】

 

現代知識  C

サバイバル A 

薬草知識  A ⇒A+ New

食材知識  A 

罠知識   A

狩人知識  A- 

魔力操作  A-

気力操作  A- 

応急処置  A

地理知識  B-  

 

【運動系スキル】

 

水泳    A 

 

【探索系スキル】

 

気配感知  A

気配遮断  A

罠感知   A- 

足跡捜索  A

 

【作成系スキル】

 

料理    A- ⇒A+ New

精肉処理  A

家事全般  B     New   

皮加工   A

骨加工   A

木材加工  B

罠作成   B

薬草調合  B+ ⇒A  New 

 

【戦闘系スキル】

 

格闘         A- 

弓          S   【正射必中】(射撃に補正)

リキトア流皇牙王殺法 A+

 

【魔術系スキル】

 

呪符魔術士      D⇒C New    

魔導士        D    (知識・【(ゲート)】解析のみ)

 

【補正系スキル】

 

男の娘   S (魅力に補正)

正射必中  S (射撃に補正)

 

【ランク説明】

 

超人    EX⇒EXD⇒EXT⇒EXS 

達人    S⇒SS⇒SSS⇒EX-  

最優    A⇒AA⇒AAA⇒S-   

優秀    B⇒BB⇒BBB⇒A- 

普通    C⇒CC⇒CCC⇒B- 

やや劣る  D⇒DD⇒DDD⇒C- 

劣る    E⇒EE⇒EEE⇒D-

悪い    F⇒FF⇒FFF⇒E- 

 

※+はランク×1.25補正、-はランク×0.75補正

 

【所持品】

 

衣服一式

お手製の弓矢一式     

簡易調理器具一式 

薬草一式     New

ルイの呪符束    

練習用呪符束   New

皮素材

骨素材  


 
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