No.396875

仮面ライダーオーズ 旅人と理由と3人のライダー[001 悪夢と初めましてとパワースポット]

青空さん

火野 映司。

彼は仮面ライダーオーズとして、人々の欲望を暴走させる存在、グリードとの戦いの日々を送っていた。 そんな彼の前に、仮面ライダーバースという戦士に変身する男、伊達 明(だて あきら)に、自身が戦う理由について、このように言われてしまう。

『何も無しに、戦っていることの方が、よっぽど不気味で気持ち悪い』

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2012-03-23 21:43:16 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1214   閲覧ユーザー数:1203

遠くのほうで、声がする。

 

気が、遠くなるほど遠く。自分の目では見えないような場所で、誰かが泣いている声が聞こえる。

 

--誰の、泣き声?

 

知っている。

 

自分はそれが誰かなのか知っているのに、それでも訊ねる。

 

答えが分かっているのに、なぜそのような真似をしたのか。そんなことは自分自身にさえも、分からなかった。

 

「……」

 

自身を包み込む暗闇の中で、その人物はうっすらと目を開けた。

 

「……っ!」

 

燃え上がる、巨大な建造物。

 

燃え上がったものから舞い上がる、黒色の煙。

 

そして、未だに腹が満たされんと言わんばかりに、あらゆるものを飲み込もうとする巨大な炎。

 

 

 

--その中で動く、小さな影があった。

 

浅黒い肌の、4、5歳程の少女だった。巨大な炎の余波を受けたのか、彼女の肌は軽く黒ずんでいた。

 

それに、彼女の傍にいた父親や母親、兄弟達の姿が見当たらない。しかし、その答えは一瞬ででた。

 

感情を映し出す純粋な瞳から。

 

大きな、涙がぼろぼろと零れていたから。

 

「……っ!!」

 

涙を流し続ける少女の近くにあった、建造物の一端が炎によって耐久性を失ったのか、少女の下へと落ちてくる。

 

--その最中、全ての世界が時の流れを遅くした。

 

今すぐに、かけつけなければならないのに。

 

かけつけて、救わなければいけないのに。

 

自分自身でさえ、その行動を遅くさせられていた。

 

少女を助けたい思いと、体を動かせない思い。その二つに挟まれた自身は、結果、懸命に手を伸ばすことしかできなかった。

 

遠くにいる、その少女を。

 

絶望に満ちた表情で、涙を流し続ける少女を。

 

ほんの僅かでも、自身の傍へと引き寄せるために、懸命に手を伸ばす。

 

--しかし、その行動は遅すぎた。

 

建造物の一端が落ちるとともに、爆発によって更に大きさを増した炎が自身の視界を埋め尽くした。

 

苦しそうにもがきながら、それでも伸ばせる限り手を伸ばす。

 

その光景が最後に、流したもの。

 

--それは、耳元で流れる、少女の泣き声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァッ……ハァッ……!!」

 

そこで自身--火野(ひの) 映司(えいじ)は目を覚ました。

 

全身から、吹き出した汗が寝巻きを肌に張り付かせ、派手に暴れた自身の前髪をまくしあげ、額の汗をぬぐう。

 

「また、あの夢か……」

 

ボソリと、つぶやく映司。カチリカチリと音を立てる時計の針の音が、やけにやかましく響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませ!!」

 

「本日は、インドネシアグルメツアーデイとなっております!!」

 

「席にご案内しますね」

 

通称、コスプレ料理店と名高い評判を受けた多国籍料理店、クスクシエ。

 

その扉を開けた数名の人物達を待ち受けていたのは、奇妙なコスプレをした2人の男性と、1人の女性だった。

 

うち、1人は映司。その服装はインドネシアのバリ島民族の衣装を身にまとっていた。足腰まで届く長い布を巻きつけたその上から、ふくらはぎあたりまでの長さの布を巻きつけ、上半身は白いジャケット、頭部にはジャケット同様の白い布を巻きつけていた。

 

もう一人の男性は、後藤(ごとう) 慎太郎(しんたろう)。

 

彼はもともと、鴻上(こうがみ)ファウンデーションという世界に匹敵する巨大財団内にて設立された戦闘部隊の部隊長を務めていた男だった。というのも彼は、自身のトレーニング中に行き倒れてしまった。その行き倒れた先がここ、クスクシエだった。

 

鴻上ファウンデーション内でもいくつかのいざこざがあったために、彼は心の整理と助けてもらった恩返しのためにこの店のアルバイトとして働いている。

 

そのため、彼もインドネシアの民族衣装のひとつ、パンジャビという衣装を身にまとっていた。反射性の高いねずみ色のズボンと、ひざほどまで裾があり、丁寧に刺繍を施された紺色の上着、さらには水色に近い青色の帽子を頭にかぶせ、接客するうえでは少々固い笑顔を浮かべながら、客を席へと案内させている。

 

 

そして、もう一人。この店唯一の女性店員である、白石(しらいし) 知世子(ちよこ)。いわずと知れた、この店の店長である。世界を見るために自身の足で世界中を旅行してきた逞しさ溢れる女性であり、面倒見もよいため映司や慎太郎の姉御的な位置に存在している。この店にて、こういった振る舞いをしているのは、彼女が見てきた世界を体感してもらおうというのがこの店のコンセプトらしい。

 

彼女も映司と慎太郎同様、サリーと呼ばれる民族衣装を身にまとっていた。左肩から、右の脇腹まで通された布が服のような形状で、彼女の足首あたりまでを余すことなく包んでいる。そんな衣装のまま、知世子は厨房に入り、早速料理の支度にとりかかっていた。

 

「フン……毎度毎度、よくこんなことが続けられるなぁ……」

 

そして、店の片隅で悪態をつく一人の青年。金髪の髪を左右に分けた容姿は見るからに柄が悪そうである。店の隅のテーブルでふんぞり返っている尊大な態度は、彼の性格を充分に表しているのだろう。

 

彼の名は、アンク。彼も映司や慎太郎同様、クスクシエの居候の一人である。彼にはある秘密があるのだが、それは後々語るとしよう。

 

「アンク、お前店の手伝いをしないんなら、奥に行けよ。お客さん沢山来てるから、席が足りないんだ」

 

「知ったことか。どこにいるのかは、俺の勝手だ」

 

手に持ったアイスキャンデーを頬張りながら、その場所を頑として動こうとしないアンク。いつもよりもご立腹なのか、言葉の節々がいつもに増して刺々しい様子だった。何を言っても無駄だと判断した映司は、苦い顔をしながら接客の業務に戻っていく。

 

 

「こんにちはー」

 

「あら、比奈(ひな)ちゃん。いらっしゃい。もう学校終わったの?」

 

「はい、今日の授業は二人(・・)とも午前中までだったんです」

 

クスクシエと扉が開かれ、ここのアルバイトである泉(いずみ) 比奈と彼女の同級生らしい女性が入ってきた。

 

泉 比奈。近場の服飾系専門学校に通っている彼女は、学校が終わって余程のことがない限りはこの店の手伝いに来ている。今時の女子だけあって、それなりの賃金が必要な年頃でもあるが、ここに在住しているアンク--否、|アンクに《・・・・》|取り付かれている《・・・・・・・・》人物(・・)の面倒をみるためでもあった。

 

 

泉 信吾(しんご)。それがアンクに取り付かれている人物の名前であり、比奈の兄の名前である。とある事故に巻き込まれ、瀕死の重体となった彼の体を、アンクが取り付いてしまったのである。

 

アンクのおかげで、なんとか信吾は死なずにすんでいるが、非常に短気で、かつ信吾の体を丁寧に扱わないということから、その監視を行うために、比奈はここに通いつめているというわけだ。

 

「それで、こちらのお嬢さんは?」

 

「あ、私の中学生の時の友達です」

 

「園碕(そのざき) 璃朱(りず)って言います」

 

知世子が、比奈の連れてきた女性、璃朱な話しかけると、彼女はお辞儀をしながら自己紹介をする。

 

「今日、学校の帰りにたまたま会って、ここでバイトをしてるって言ったら、ぜひとも行きたいってことだったんで……」

 

「そうなんだー、あ、じゃあこちらの席にどうぞ」

 

比奈の説明で納得したのか、知世子は璃朱を席に通す。比奈は支度をしに、奥に行こうとしたとき、厨房の料理を運ぼうとしていた映司を呼び止めた。

 

「あの、映司くん」

 

「どうしたの、比奈ちゃん?」

 

「店が一段落ついてからでいいから、璃朱と話してほしいんだけど……」

 

「比奈ちゃんのお友達と?」

 

「うん、彼女、今日ここに来たのはそれが理由だから……」

 

比奈の言葉が終わると、映司は厨房から彼女の姿を見た。

 

比奈と同じぐらいの背丈で、二の腕にかかるほどの長さの髪。

 

第一ボタンをとめていない深緑色の長袖のカッターに、黒と白のチェックのミニスカート。

 

足首の上あたりまでの黒いブーツを履いている少女を、映司はこれまでに見たことがなかった。

 

(とりあえず、今は店の手伝いに集中しよう……)

 

そう心に決めた映司は、満席となった店内にいる客人達の注文を片っ端から聞き集めていた。

 

 

 

 

 

 

--それから、二時間後。比奈が手伝いに入ってくれたこともあり、ようやく店内にいた客はいなくなった。映司、慎太郎、比奈は待ちに待った休憩時間をもらう。

 

「璃朱ちゃん、ごめんね。待たせちゃって」

 

「ううん、気にしないで。比奈」

 

休憩時間に入るや否や、店の片隅にあったテーブルに座ってもらっていた璃朱のもとへと向う比奈と映司。知世子は三人のためにお茶とお菓子を用意し、慎太郎は気を利かせ席を外しているが、そんなことはどうでもいいと言わんばかりにアンクはその場から離れずに、本日十二本目のアイスキャンデーを頬張っていた。

 

 

「ううん、こっちこそ無理聞いてもらってごめんね」

 

申し訳なさそうに、比奈に言う璃朱。

 

「気にしないで。映司くん、改めて紹介するね。こちら、中学校からの友達で、園碕 璃朱さん」

 

「園碕 璃朱です。初めまして」

 

「初めまして、火野 映司です。」

 

「突然押しかけて、すいません」

 

「いいよ、気にしないで。それより、俺に話があるってことだったけど……」

 

簡単な挨拶を済ませ、映司は早速本題に入る。すると璃朱はバッグをガサガサといじり、中から一枚の紙を取り出すと、それを映司に渡した。

 

『神秘に包まれたパワースポット 世界に広がる未知なる力』

 

映司が渡された紙には、でかでかとそのような文字が書かれていた。その隅には、『世界パワースポットベスト5』、『私が選ぶ!!おすすめパワースポット』などといった、パワースポットに関することが細かく掲載された紙だった。何枚か掲載された写真もおそらく、パワースポットのいくつかのものであることは間違いないだろう。

 

「『執筆者:園碕 璃朱』……って、これ璃朱ちゃんが書いたの!?」

 

「はい、対したものじゃないんですけど……」

 

驚きながら、璃朱の顔を見上げる映司に、璃朱は控えめに応える。

 

「璃朱ちゃん、新聞部に入ってて、校内でいくつも記事を書いてるの。それが日売新聞の人に好評をもらって、特別賞貰ったんだって」

 

「へぇ~、そうなんだ。璃朱ちゃん、すごいなぁ」

 

「そ、そんなことないです……たまたまですよ……」

 

比奈の説明を受け、純粋に璃朱を尊敬する映司の言葉に、照れくさそうに言う璃朱。

 

「あの……それで、本題なんですけど……」

 

「あぁ、ごめん……どうぞ、続けて」

 

脱線しかけていた話をなんとか元に戻す璃朱。映司も色々と話したいこともあったが、それはひとまず置いておくことにした。

 

「実は私、次の新聞でもパワースポットに関する特集を書こうと思いまして、それで今度は実際に現地に行ってパワースポットを体験してみたいと思うんです」

 

「……直接、行って……?」

 

「はい。私の文章は、あくまでもその特集を書いた人達が体験したことについてをまとめてみただけのものがほとんどなんです。それがたまたま結果として、多くの人から共感を受けたことが切欠で、賞を頂いたんですが、自分で実際に体験した記事だったら、自分自身も納得できる新聞が書けると思うんです」

 

「なるほど……」

 

「それで、比奈に相談したら、火野さんは世界の色んな所を旅してきたってことを聞いて……それで、もしかしたら、そういったスポットのこと、何か知ってるかもって思って……そこに行ってみて、実際にそういった力に触れてみたいって思ったんです」

 

比奈の名前が出されたので、比奈の方を振り向くと彼女は気まずそうに視線を反らした。本人に無断で本人のことを話したあげく、勝手に約束を取り付けてしまったことに責任感を感じているのだろう。

 

とにかく、彼女が初対面なのにも関わらず自分に用があるといったことに、映司は納得した。いきなりであったのだが、わざわざこのような所まで来てくれたのにも関わらず、ただ帰れと言うのは失礼すぎると、映司は思う。

 

そのような結論に至った映司は「うーん」と唸りながら、今まで旅してきた場所を思い出す。

 

そして、およそ一分ほど唸り続けた結果、映司はこう言った。

 

 

「ごめん、パワースポットってなに?」

 

 

パワースポット。

 

簡単に言うのであれば、それは不思議な力が満ち溢れた土地を示しており、その土地に行けば健康運、金運、恋愛運などが上昇したり、生命力が増加したり、はたまた気分が穏やかになるなど、科学では証明ができない力が満ち溢れた場所だ。

 

近年、そのような場所があるとメディアなどで特集されて以来、世界各地でそのような土地を観光地とした動きが広がり、今では完全に各国の名物となった場所も数多く知られている。

 

一説では、たまたまそのように感じた人がその場所に畏敬の念がこめたことが切欠で、それが長年積み重ねられてきたことにより、その力が満ち溢れた。結果的には、その土地を訪れた人の想いが大きく積み重なったことによるものとされている場合もあるが、こういった謎に満ちた場所には、肯定的な意見や否定的な意見も数多く寄せられている。

 

「へぇ~、パワースポットってそんな効果があるんだね……」

 

璃朱による約10分間のパワースポット講座を受け終えた映司の発言がそれだった。なにせ、明日を生きていくためのアルバイトを探し回るのに必死であったので、肝心のメディアをチェックする機会があまりなかったのだ。……そう思うと、社会情勢も全く知らずアルバイトを続けていた映司の逞しさは相当のものであるということも伺えるのだが。

 

「えぇ、私も最初は興味本位でパワースポットに関して調べ始めたのですが、最近ではパワースポットにいって悩みを解決する人が増えている、ということも耳にしました。ですから、こういった情報が少しでも伝わって、皆さんの悩みを少しでも支えたいって思いまして」

 

彼女の理想に、映司は感動していた。

 

年頃の少女である彼女は

様々なことに関心を示すだろうし、自分本位の活動を主にすることが多いはずだ。

 

しかし、中間的な立場でパワースポットを訪れようとしている彼女は、畏敬の心をきちんと持った上で訪れるのだろう。そして、その土地を冒涜するような記事を書くようなことはしないだろう、と映司は考えていた。

 

ところが、実際に映司はそのように感じたスポットはどこにもなかった。

 

「悪いけど、俺が行ったことのある場所には、そういった場所はなかったかなぁ……俺、別の目的があって旅してたから」

 

正確に言えば、映司は異なった目的を持って世界各地を旅をしていたのである。

 

目的が違ってくる以上、パワースポットのように特殊な感想を抱かせるような場所に焦点を向けることもないのは、無理もないことだった。

 

そして、その旅の目的を知っている人物は、映司以外、誰もいない。映司自身が、誰にも話そうとしないからということも、関係しているからなのだろうが。

 

「そうですか……分かりました」

 

「ごめんね、せっかく来てくれたのに何も話せなくて……」

 

「いいえ、私の方こそごめんなさい。急に押しかけたりして」

 

身支度を整える璃朱と、交互に話し続ける映司。

 

やがて、立ち上がると璃朱は店の入り口まで歩いていく。

 

「それじゃあ、お邪魔しました。比奈、またね」

 

「うん、またね」

 

「じゃあ、気をつけて帰ってね」

 

比奈との挨拶を済ませた璃朱に、映司が話しかける。それに無言で頷いた璃朱は、静かに扉を開けて出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひさしぶりだなぁー、日本」

 

その男は、久しぶりの故郷に足を踏み入れていた。世界中を旅してきたその男がこの国を訪れたのは何年ぶりだろうか、全身を使って空気を吸い込み、勢いよく息を吐く。

 

都会らしさを表す、少々薄汚れた空気が男の鼻をくすぐる。その都会をよく知っている男は顔に微笑を浮かべていた。

 

「さて、懐かしさに浸るのはこれくらいにして、そろそろ行きますか!!」

 

男は一人気合を入れ、近くにあったバイクにまたがる。

 

キーを勢いよく回すと、バイクのアクセルがかかる。そして、そのまま慣れた動きを行うと、その男とバイクは夜中の都会へと消えていった。

 


 
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