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仮面ライダーディージェント 第20話:第二十三話:不死鳥に立ち向かうは大地の帝王と紅蓮の閃光

水音ラルさん

ファイズ&オーガVSミラーモンスター・ゴルドフェニックスの夢の戦闘です。

2012-03-20 13:19:21 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:349   閲覧ユーザー数:349

美玖は社長室から出た後、自分に宛がわれた秘書室に戻って企画書を作成していた。

いくら裏切り者のオルフェノクを始末する事を目的としていても表向きは普通の会社だ。こういう作業も必要になって来る。

コンソールをカタカタと無言で打っていると、ふと向かい側の空いた席が目に入った。

あの席は本来第二秘書である章治の物で、彼が失踪してから半年以上もの間、誰も使っていない。

そのデスクには埃が一切積っておらず、まるで新品の様にニスが光沢を放っている。

 

(章治…今どこにいるんだ……?)

 

美玖は章治がいつ戻って来てもいい様に、毎日デスクを掃除していた。

たまに章治のデスクに入っている書類が必要になって引き出しを開けた時に、いかがわしい本が出てきたりもしたが、そんな本は即行で処分した。

 

(フフ…章治が帰ってきたらどんな反応をするんだろうな……って、な、何を考えてるんだ私は!?)

 

美玖は章治が帰って来た所を想像していた自分に気がつくと、顔を真っ赤にしながら首を横にブンブン振って考えを改めた。

 

(奴はもう反逆者だ!必ず私の手で倒す!!)

 

章治の事を考えない様に乱暴にコンソールを叩いて行くが、再びその手が止まった。

そもそも今書いているこの企画書は章治が立案したものだ。

 

章治は何時もふざけているようにしか見えないが、その実、仕事は意外と優秀でこう言う企画や開発プロセスを考える事に関しては、最早正幸とは違う種類の天才だ。

しかもその発想でライダーズギアを生み出したほどだ。

章治が誰も思いつかない様な発想を次々と生み出し、それを実現できるように正幸が調整し、そして美玖がその企画を実行に移す…まさに最高のチームワークだ。

そのおかげでここまで三人が上りつめる事が出来たと言ってもいい。

しかし、章治が失踪して以来、徐々に会社の株が落ちているのも事実だ。

そう考えると、やはり章治には戻って来てもらった方がいいのだろうか……。

 

(まったく、本当に優柔不断だな…一体どうしたいのだ、私は……)

 

[プルルルルル……]

 

そんな自虐気味な考えに耽っていると、デスクの隅に置いてあった内線電話が鳴りだした。

場所は社長室…つまり正幸からだ。

先程の報告で何処か不備があったのだろうか…?

そう思いながら受話器を取って通話ボタンを押した。

 

「はい、何でしょうか社長」

『あ、もしもし美玖~?今空いてる?』

「……切るぞ」

『わあぁぁぁゴメンゴメン!ちょっと待って!!大事な話だから!!』

 

[ドゴォォン……キュアァァァ!!]

 

ふざけた口調に思わずブチ切れそうになった所を何とか抑えて電話を切ろうとしたら、受話器の向こうから何かが壊れる音や鳥の鳴き声が聞こえてきた。

そこから導き出せる結論は一つだ。

 

「もしかして、襲撃か…?」

『そうそう、今オーガに変身して戦闘中なんだけど苦戦しててね。悪いけどってわあぁぁっとぉ!?』

 

スマートブレインの考えをよく思っていないオルフェノクによる襲撃である。

いくら大半のオルフェノクを統括する組織と言っても、それに反発する者は必ず出てくる。

そう言った反逆者を始末するのが美玖や章治と言ったライダーズギアの装着者の役目ではあるのだが正幸も美玖や章治に引けを取らない実力を有している。

しかもオーガに変身しているのであれば尚更赴く必要もないだろう。

アレは章治が残したデルタの設計図を基に正幸が改良した新型ライダーズギアだ。身体能力特化型のデルタをも勝るスペックだし自分で何とか出来るだろう。

そう思って断ろうと正幸との会話を続けた。

 

「……それだけ余裕で電話できるんなら私が行かなくても大丈夫だろ。自分で何とかしろ」

『いやね、最初はそう思ってたんだけどってうわぁっ!掴まれた!!え、ちょっ何!?まさか引き摺り込む気!?そうはさせるかあぁぁぁぁ!!』

 

その正幸の叫び声の後、「ガチャーン」というガラスが割れた音を最後に何も聞こえなくなった。

恐らく外に投げ出されたのだろう。

 

正幸はライダーズギアを二種類持っている。

一つは一対一の戦闘に優れたカイザギア。

もう一つは今正幸が使っている大型の激情態オルフェノクや、軍隊などの殲滅戦に特化したオーガギアだ。

オーガに変身していたという事は、相手は激情態となったオルフェノクなのだろうが、あそこまで苦戦しているというのは珍しい。些(いささ)か心配になってきた……。

 

「ハァ…まったく、どいつもこいつも世話の焼ける……」

 

そう愚痴を零しながらも企画書を保存してからパソコンの電源を切ると、スマートブレインのロゴマークが入った銀色のアタッシュケースを持って秘書室を後にした。

目指すはオーガが落ちて行ったと思われる屋外だ。

 

 

 

 

 

「……なあ」

「何だい?」

「何で俺の隠れ家なんだ?」

「お、なんやご近所さんやったんか」

「いや、ご近所って表現はどうかと……」

 

現在、好太郎達はあの邂逅を終えた後、好太郎の隠れ家である廃墟となったホテルのロビーに集まっていた。

その原因は「そんじゃ、ウチの秘密基地に行くで~」とデルタだった男…三木章治が言い出したことから始まった。

最初は自分達の事を疑っていたが、灰色のビジネススーツを着た男…須藤歩と名乗った目の虚ろな男が敵じゃない証拠として自分のディジェクトドライバーに似た変身ツールを章治に渡して見せたところ、そのテクノロジーがスマートべレインの物とは全く違うベクトルの物だと判断して、案外アッサリと信じてくれた。

 

そしてしばらく彼を先頭に路地裏を進んでいたのだが、好太郎と亜由美にとって何やら見覚えのある場所へと続いて行き、最終的には自分の隠れ家に行き着いてしまったのだ。

そして冒頭の会話に至る。

 

「細かい事は気にしたらあかんで嬢ちゃん。世の中何も考えずに楽しく生きんとなぁ~」

「これは楽しく生きすぎです!!」

「まぁ、二人は無視してこっちはこっちで色々と話しておこうか」

「あ、あぁ……じゃあまずは“Dシリーズ”とか言っていたな……それってどういう事なんだ?」

 

歩は章治と亜由美の漫才を軽くスルーし、それに促される形で好太郎は今自分が一番気になっている事を質問した。

今まで仮面ライダーと呼ばれる存在がいる世界を渡り歩いて来たが、まさか自分と似たようなものがいるとは思ってもいなかった。

その質問に対して歩はまるでロボットの様な口調で答えた。

 

「Dシリーズって言うのはある計画の為に開発された並行世界を移動する力を持った仮面ライダーの事だよ。僕はその計画を実行中なんだ」

「“ある計画”?何だそれは」

「あれ?好太郎さん知らないんですか?」

「は……?」

 

章治との漫才に一区切りつけた亜由美が突然問いかけてきた。

何やら知ってて当然の様な感じだが、好太郎には心当たりが一切ない。

 

「あぁ、彼のDシリーズにはその計画の情報が入っていないから知らなくて当然なんだよ。知ってるのはメインシステムであるディケイドと、そのバックアップである僕だけだね」

「なぁなぁ、一体何の話をしとるんや?そもそもさっきアンタが見せてくれたライダーズギアと言い、ロン毛が変身しとったあの恐竜みたいなライダーと言い、アンタら一体何モンやねん」

 

この会話に章治も喰い付いてきた。

歩は何か考える様に頭をガリガリ掻き始めたが、そこで何か思い出したのか突然やめて、今度は腕を組んで右足で床をトントンと叩き出した。

それに何故か亜由美が苦笑いを浮かべていたが、歩はその仕草もやめると、章治に問い掛けて来た。

 

「話してもいいですけど、眉唾物ですよ?信じてくれますか?」

「まぁ納得できる内容やったらな」

 

その答えを聞くと、頷いて話し始めた。Dプロジェクトと呼ばれる計画の内容を……。

 

 

 

 

 

スマートブレイン内にある大きな庭園で、オーガは辺りを見回していた。

ガラスの中へ引きずり込まれそうになった時、咄嗟(とっさ)の判断で短剣型ツール・オーガストランザーにミッションメモリーをセットして、フォトンブラッドで生成された金色の長剣を形成すると、それを思いっきり後ろのガラスに叩きつけて割った。

その結果、行き場をなくした鳥型のミラーモンスターはそのまま勢いで外へと飛んで行った。

オーガを掴んだまま……。

しかしオーガはすぐさまオーガストランザーをミラーモンスターに叩きこんで怯ませ、その際オーガを掴んでいた足が緩んでそのまま庭園へと落としたのだった。

 

(う~ん、いるとしたらやっぱりあそこの窓かなぁ……)

 

オーガはオルフェノクの本能を頼りに、ミラーモンスターの潜んでいそうな所の目星を付ける。

辺りには人が一切いない。すぐさま近くにいたオルフェノクの社員に避難命令を出したのだ。これで社員を巻き込む心配もなく戦える。

 

「社長!ご無事ですか!?」

 

その聞き慣れた頼もしい仲間の声が聞こえた方を向くと、そこにはファイズに変身した美玖の姿があった。

やはりなんだかんだ言って心配して来てくれたのだろう。

 

「大丈夫だよ。それよりも気を付けて、何時出て来るか分からないよ」

「もしかしてステルス系の能力を持ったオルフェノクですか?その上、激情態となると…少々厄介ですね……」

「いや、オルフェノクじゃない…らしいよ?」

「え?」

『キュアァァァッ!!』

 

オーガの謎めいた言葉に聞き返そうとしたファイズだったが、突然今オーガが戦っている相手がガラスの中から現れた。

それも決してガラスを割って出てきたわけではない。まるでガラスに映った景色の中から飛び出して来たのだ。

例えるならとあるホラー映画であったテレビから幽霊が出て来るような感じだ。

しかし現れたその姿は神々しい不死鳥の様なオルフェノクだった。しかもその色は灰色ではなく金色だ。

その不死鳥はそのまま此方へ突っ込んできた。

 

「危ない!!」

「キャアッ!」

 

オーガはとっさの判断でファイズを突き飛ばし、自分もその反動で後ろへ下がる。

そしてその間を不死鳥が突っ切っていった。

 

「な、何ですかアレは!?」

「ミラーモンスターって言うらしい。気を付けて、鏡面化してる所から襲ってくるよ」

 

オーガが説明している間に、不死鳥は旋回してちょうど自分達の真上にあるスマートブレイン本社ビルの窓の中へと吸い込まれるように消えて行った。

それを確認したファイズとオーガはどこから襲われてもいい様に互いに背を合わせて、自分達の視野に映る物を神経を研ぎ澄ませながら見渡した。

 

「クッ…何て非現実な……夢でも見てるのか?」

「できれば、俺もそう願いたいよ……」

「そうですね……だったら、夢で終わらせますよ」

 

そのオーガの愚痴に答えながらファイズは左手首に装着されたリストウォッチ型コントロールデバイス・ファイズアクセルに備え付けられていたミッションメモリーを取りはずして、それをファイズフォンにセットされたミッションメモリーと取り換える形で差し込んだ。

 

[コンプリート]

 

変身する際に流れる電子音声が鳴り響き、ファイズの形状が変化して行く。

胸部装甲・フルメタルラングが展開して両肩に装着され、その装甲に隠されていた赤黒い動力炉がむき出しになる。更にそこから漏れ出した視認できない小さなフォトンブラッドの粒子がファイズの全身を覆って一瞬白く輝くと、全体の色を変色させた。

四肢に伸びるフォトンストリームのラインは白くなり、黄色い複眼は真っ赤に変色している。

 

仮面ライダーファイズ・アクセルフォームである。

この姿でいられる時間は三十五秒、しかも本領を発揮できるのはその三十五秒の中で十秒間だけしかないが、それで十分だ。

 

「っ!来たっ!噴水だ!!」

 

背後からオーガが叫んできた。

如何やらミラーモンスターは鏡面化した水面を利用してきたようだ。どこまでも底の知れない相手だ。

だが、それもここまでだ……。

オーガの声を合図に、ファイズアクセルのスタートボタンを押した。

 

[スタート・アップ]

 

その電子音声が鳴ると、赤いデジタル式の数字が十秒間のカウントを取って行く。

その間に迫りくるミラーモンスター。

しかし、突如そのミラーモンスターの視界から二人の姿が消えた。

 

『キュア!?』

「はあぁっ!!」

『ギュアァァァ!?』

 

ファイズはあの一瞬でオーガを抱えて高速移動をしたのだ。

そしてミラーモンスターの真横にオーガを降ろしてすぐに反対側に回ってその側頭部に飛び蹴りを放った。その間の時間は一秒にも満たない。

 

ファイズ・アクセルモードは発動させている十秒間の間、通常の千倍のスピードでの活動が可能になるファイズならではの特殊形態だ。

但し、その間は胸部が展開している為に防御力が落ちてしまい、更にフォトンストリームが常に大量に噴出している為使用者への負担が大きい。その為の十秒間という規制だ。

 

このファイズギアは元々、章治が美玖に合わせて特注で造った物だ。

美玖は自分のオルフェノクとしての姿にコンプレックスを抱いていのだが、それを章治が解消しようと想い、造ったのがファイズギアなのだ。

 

「次は俺の番だね」

 

[エクシード・チャージ]

 

ファイズが飛び蹴りを与え、再び高速で移動し始めた事で見えなくなった間に、オーガが自分の腹部に備え付けられているオーガフォンを開いてエンターキーを押して電子音声が鳴り響くと、オーガストランザーから伸びているフォトンブラッドで形成されているエネルギーブレードが巨大化した。

その大きさはオーガの約十倍以上はあり、それを大きく振りかぶると……

 

「おおぉぉぉらあぁぁぁぁぁ!!」

 

ファイズの攻撃によって怯んだミラーモンスターにギロチンの様に首に叩きこんだ。

オーガの必殺技・「オーガストラッシュ」である。

 

『キイィィアアアァァァァ!!』

 

甲高い断末魔の悲鳴を上げながら、もがくミラーモンスターを必死に抑えるが、フォトンブラッドで形成されたエネルギーブレードが徐々に崩れ始めた。解放されるのも時間の問題だろう。

 

「クッ…、これでも決定打にはならないみたいだね……でも、ここまでだよ……」

 

そこまで言い切った瞬間、ミラーモンスターに照準を定めた無数の赤い円錐状のポインターがミラーモンスターを囲むように展開した。

オーガがミラーモンスターを抑えている間にファイズがエクシード・チャージを連続で発動させたのだ。

これもアクセルフォームだからこそできる業である。

 

[スリー]

 

アクセルフォームの制限時間が三秒を切った所で、ファイズアクセルがタイムアップまでのカウントを始める。

 

「そのまま抑えておいてくださいね、社長」

「分かってるよ」

 

[ツー]

 

一度止まって姿を現したファイズは、オーガに軽く指示を出した。

オーガもその内容を言われずとも理解していており、ファイズは軽くマスク越しに微笑むと目にも止まらぬ速さでポインターを次々にミラーモンスターに打ち込んでゆく。

 

「はああぁぁぁっ!!」

『ギュアアァァァッ!!』

 

[ワン]

 

オーガのオーガストラッシュのエネルギーブレードが完全に崩壊し、ファイズの連続でクリムゾンスマッシュを打ち込むアクセルフォーム版クリムゾンスマッシュ・「アクセルクリムゾンスマッシュ」が全て命中してファイズが着地した瞬間……

 

[タイム・アウト]

 

時間切れを告げる電子音声が鳴った。

 

[リフォメーション]

 

更に別の電子音声が鳴り響くと、肩までせり上がっていたフルメタルラングが元の位置に戻り動力炉を隠すと、その事でフォトンブラッドの流出が止まり、ファイズのカラーリングが元に戻った。

 

『ギュア゛アアァァァッ!!』

「なっ…!?」

「何だと!?」

 

しかしその総攻撃を全て受けて尚、不死鳥は倒れなかった。しかしその身体からは粒子が噴き出しており、その身体を徐々に消してゆく。

その通常とは違う現象に二人は驚いていると、ミラーモンスターはその大きな翼を必死に羽ばたかせてガラスの中に吸い込まれるように消えて行った。

辺りを静寂が支配し、殺気が消えたことから、恐らく逃げたのだろう。

 

「異世界の怪物とは言っていたけど…幾らなんでも非常識すぎる……」

「“言っていた”?という事は誰かから聞いたんですか?」

「あぁ、実はね……」

 

静寂を取り戻した事に一安心して二人は変身を解除すると、正幸のぼやきに美玖が反応して正幸はその大まかな話をした。

 

「……つまり、その“悪魔”とやらがアレをこの世界に送り込んでいるわけですね?」

「まあ、その神童って言う人が嘘を吐いてなければね。それにしても、いやに素直に信じてくれたね……」

「何時からの付き合いだと思ってるんですか、そんなの目を見れば嘘かどうかなんてすぐに分かりますよ」

 

そう言って美玖は微笑んだ。

彼女は普段厳しいがやはりこういう顔をしている時はやっぱり可愛い。

まあ、そんなことを本人に言えば照れ隠しに殴られるだろうが……。

 

「ところで美玖、臭いで感知できる?」

「いえ、無理ですね…アレには生き物としての臭いが一切ありません」

 

美玖はウルフオルフェノクという狼の特性を持ったオルフェノクだ。

彼女の嗅覚は人間よりはるかに優れている。

この能力を使えば、臭いを感知して相手の居場所を突き止める事が出来るのだが、ミラーモンスターにはそう言った臭いがない様だ。

 

それに、以前この能力で章治を探しだそうとした事もあったのだが、何故か章治の臭いが完全に消えて(・・・・・・)しまったというのだ。まるで初めからそんな人間がいなかったかのように……。

一体どんな手品を使ったのかは知らないが、必ず見つけ出してみせる。

 

「ダメかぁ~、あそこで章治がいたら仕留められたんだろうなぁ~」

「………」

 

確かに、あの時デルタ…章治がいれば状況は変わっていたかもしれない……。

だが美玖はそれを良しとしなかった。

何故お前はそこまで章治を信用できる…?奴は私たちを裏切ったんだぞ!?

 

 

 

思い出すのは五カ月ほど前…章治が失踪してから一カ月ほど経過した頃のことだ。

大雨が降っていた日の夜、道端でバッタリと彼に会った事があったのだ。

 

『章治!どこに行っていたんだ!?心配したんだぞ!!』

 

彼は何故かデルタに変身しており、何も返事をせずに此方を振り向いた。

その背後にはデルタを見つけたであろうスマートブレイン所属のオルフェノクが立っていた。

 

『お前がデルタを見つけたんだな?よくやったぞ』

『み、美玖…さん』

 

なぜかそのオルフェノクの歯切れが悪い。一体どうしたのだろうか?

 

『に、逃げて…くだ…さ、い……』

 

そこまで言い切るとそのオルフェノクは赤い炎に包まれて灰となって崩れた。

その灰は大雨の所為で水を吸ってグズグズの塊になってしまった。

 

『章治…これは一体どういう事だ……お前がやったのか……?』

『………』

 

美玖の問いかけに章治であろうデルタは何も答えなかった。

そのまま立ち去ろうとゆっくりと歩み始めた。

 

『ま、待て!待って!章治!!』

『来るな!!』

 

その後を追おうとした時、ようやく喋った。

しかし、彼の口から出たのは普段の彼からは出る事が無いような怒鳴り声だった。

 

『もう、ウチに関わらん方がええで……』

『章治…それってどういう……』

『スマン…今は言えんのや……。でも、これだけは言える……』

 

そこで美玖に振り返って残酷な言葉を口にした。

 

『ウチはこれからはお前らの敵や。悪く思わんでくれよ?』

『……ッ!』

 

この世で一番愛した人からの完全な拒絶…それは美玖の心を変えるのに十分だった。

 

『しょ…うっ…!くっ…うぅ…!ひっく……』

 

声をかけたかったが、嗚咽で声が出なかった。

その間に彼はその場から離れて行った。

 

 

 

その事はすぐに正幸に報告し、すぐさまデルタ捜索に厳重態勢での活動を促し、現在までデルタと戦い続けてきたのだ。

 

「ひょっとして怒った?」

「……何でそう思うんですか?」

「そんな顔してる」

「……社長…いや、正幸……」

「ん?何だい?」

 

美玖は正幸に上司としてではなく、親友として問い掛けた。

 

「アイツ…章治の事を怨んでないのか?奴は私たちの仲間を殺してるんだぞ?」

「……確かに、それは許されることじゃないね」

「だったら……」

「でも……」

 

正幸は美玖の言葉を遮って更に続けた。

 

「章治が意味もなくこんな事をするはずがない。きっと俺達のためにやってるんだよ」

「私達の…ため……?」

「そう、章治はきっと何かに気付いたんだよ。それが何なのかは俺にも分かんないけど、それが解決すればきっと俺達の所に戻って来るよ。だからさ、美玖もアイツの事を信じてやろうよ。二番目の俺の事が信じられるんだからさ」

 

そう言って無邪気な子供の様な笑みを見せた。昔はこの笑顔に強く惹かれて惚れた事もあったし、今でも惹かれそうになる。

 

「う、うるさいっ!!」

「ほぐぅっ!?」

 

顔を真っ赤にしながら正幸の腹を一発殴ると、早足にその場を立ち去って行った。

しかも何気に鳩尾…かなり痛い……。

 

「ハ、ハハッ…ホンット、美玖って照れ屋だよ…ね………ッ!?」

 

誰にでも無く呟きながら美玖の後ろ姿を見た瞬間、正幸は思わず息を詰まらせた。

彼女は気付いていない様子だったが、美玖の背中から少しだけ灰が零れていたのだ。

 

オルフェノクは進化した人類だ。しかし肉体がその急激な変化に付いて来れない為、寿命が非常に短い。

そして、そんなオルフェノク達の末路は灰になると決まっている。

今まさに、美玖の寿命が尽きようとしているのだ。

 

(そんな…!?まさか、章治はこの事に気付いて……)

 

今ここで美玖にその事を言えば、彼女に余計な不安や心配をさせる。

今するべき事は…章治を一刻も早く見つけ出す事だ。

 

(章治なら何とか出来る筈だ…アイツなら美玖を救う事が……!!)

 

正幸は美玖とは反対方向に歩いてある場所へと向かった。章治の手掛かりが掴めるであろう、あの場所へ……。


 
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