No.393925

魔法少女まどか☆マギカ ~私だけの白馬の王子様~

ネメシスさん

小さいころ、女の子ならだいたいは夢見る白馬の王子様。

強くてかっこよくて優しくて、いつでも守ってくれる。

そんな王子様が、私のところにも現れてくれるのだろうか……。

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2012-03-18 18:42:44 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:10175   閲覧ユーザー数:9872

 

“白馬の王子様”

 

 

 

それは、女の子ならだれでも一度は憧れるだろう、一つの理想。

逆に男の子なら、お姫様という存在に憧れる……のだろうか?

 

まぁ、それは置いておいて、かくいう私もその例にもれず、少し前までは白馬の王子様という存在に憧れていた。

私の所にはいつ王子様が現れてくれるのだろうか、いったいどんな人なのだろうか、きっととても優しくて素敵な人に違いない、そんなことを毎日毎日飽きもせずに考えては胸を高鳴らせていた。

 

……しかし、そんな憧れの気持ちもしだいに薄れていき、いつしか白馬の王子様に思いを馳せることもなくなっていた。

私が早熟だったのかどうかはわからないけど、世の中そんなに甘いものではなく、白馬の王子様なんて物語の中だけの存在なんだと、いつかはわからないけどそう思うようになっていったのだ。

だけど私は、そのことに対して別に嫌だと思うことはない。

白馬の王子様なんていなくても、私は今がとても幸せだと思える。

お父さんがいて、お母さんがいて、笑顔が絶えない家庭で毎日が幸せで。

これ以上の幸せなんて望むのは贅沢なのではないか、と思えるくらいに私は幸せだった。

こんな毎日が、これからもずっと続いたらいいのに、そう思っていた。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

……それは唐突だった。

ある休日、私たちが家族でお出かけをしたその帰り道、対向車線の大きなトラックがいきなり車線を大きく外れて私たちの方向へと走ってきた。

運転していたお父さんも慌ててハンドルを切ろうとしていたけど、すでにトラックは間近に迫ってきていた。

そのため、お父さんの行動も功を成すことなくトラックが私たちの車に衝突した。

 

その次の瞬間、私の意識が暗転した。

大きな衝撃だったせいか一瞬意識を失っていたようだけど、それもそのすぐ後に襲ってきた激痛によって強制的に呼びさまされた。

気が付くと私は、車の中ではなく道路に倒れていた。

体を動かそうとするだけで全体に激痛がはしる。

どこか骨でも折れているのかもしれない、手が、足が、それ以外のいたるところ全てが酷い痛みに襲われて満足に動かせない。

それでも、私は一緒に乗っていたお父さんとお母さんが気になって、せめて顔だけでもと力が入らないのを無理して車の方へと向けた。

 

……それを見た瞬間、自然と涙があふれてきた。

私が乗っていた車は前半分がぶつかってきたトラックによって完全にへこんでしまっていたのだ。

あぁ、子供の私が見てもわかる。

中に乗っていた二人がどうなっているのか、信じたくないけどそれでも理解してしまう。

 

……もう、二人は死んでしまっているんだ、と。

 

そう思った瞬間、私の体から一気に力が抜けてしまった。

体が重い、目がかすむ、今まで痛かった体中の痛みが少しずつ感じなくなっている気がする。

なぜだろうか、これも簡単に理解できた。

 

(あぁ、そっか。私も、死んじゃうん、だ)

 

もしかして、死んだらお父さんとお母さんにまた会えるのだろうか。

そう思うと、さっきまでの悲しい気持ちが少し和らいできた気がする。

そして、私はゆっくりと目を閉じた。

 

……その時だ

 

「ねぇ、僕と契約しない?」

 

そんな声が聞こえたのは。

消えかけていた意識が再び戻ってきた。

私は重い瞼を開けてみてみると、そこにいたのは今まで見たこともない、白い生き物……ともいえないような不思議な何か。

形だけ見ればぬいぐるみといった方がしっくりくるようなそんな存在。

 

「……だ、れ?」

 

「僕はキュゥべえ! ねぇ、僕と契約してよ!」

 

「……けい、やく?」

 

「そう、契約! 僕はなんでも一つだけ願い事を叶えてあげる! その代わりに、君には魔法少女になってほしいんだ!」

 

「……魔法、少女?」

 

「うん!それで、君に願いごとはあるかな? なんでも叶えてあげるよ!」

 

その言葉は私にはこれは夢なのだろうかと思った。

魔法少女のことも、願いのことも、まだ子供の私でも普通だったら信じることなんてできないそんな言葉。

それでも目の前にいる不思議な生物から、なぜかそれらのことを嘘と断言させない何かを感じた気がした。

 

……だから

 

「………さま…」

 

「え、なんていったの?」

 

「……いつか………白馬の、王子様、に、会いたい」

 

その願いに驚いたのか、目の前の不思議な生物は目を見開いた気がした。

しかし、私の口から出た願いに一番驚いたのは誰かというと他でもない私だった、他にもお願いしたいことなんていろいろあっただろうに。

お父さんやお母さんの無事でもなく、私が生きたいということでもなく。

それは、私が物心ついたころから憧れていたもの、そしていつしか憧れなくなってしまったもの。

小さいころに抱いていた願い、もしかしたら今も心の底にあったのかもしれない、過去の願い。

私は、それを願っていた。

 

「……いいよ、叶えてあげる。その願いが叶うのがいつかはわからないけど、君はきっと、君だけの白馬の王子様に会えるよ」

 

そういうと不思議な生き物、キュゥべえといったその生き物は光を放ち始めた。

どんどんと強くなっていく光。

そしてついに、私がその光にのみこまれ、それと同時に意識を失ってしまった。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

目を覚ました時、一番初めに目に映ったのは真っ白な天井だった。

一瞬呆けてしまったが、私はあることに気づいてゆっくりと起き上がり確認するように、体中に手を当ててみる。

 

(……あれほど感じていた痛みが、全くない)

 

「やぁ、起きたんだね」

 

自分の体の異変に驚いていると、突然隣から声が聞こえた。

顔を向けると、そこには夢だと思っていた、夢にしたかった悪夢のような出来事の中に出てきた願いを叶えてくれると言ってきた不思議な生き物、キュゥべえがいた。

……キュゥべえがいる、そのことがあの出来事が夢ではなく真実であり、私が魔法少女となってしまったことの証明でもあった。

 

 

 

・魔女は形のない悪意となり、人間の内側から蝕んでいく。

・理由のはっきりしない自殺や殺人事件なども魔女の仕業であることが多く、私たち家族に降りかかったあの交通事故も魔女が絡んでいたということだ。

・魔女は常に結界の奥で身をひそめ、決して人前には姿を現さない。

・そんな魔女を倒すのがキュゥべえに選ばれた魔法少女の使命という。

 

目が覚めてからキュゥべえは魔法少女の事、そして魔法少女が倒すべき敵“魔女”について話してくれた。

キュゥべえの話を聞き終わる頃には、もう私の中では魔女に対する憎しみでいっぱいだった。

 

(……私の大切な家族を奪った魔女に、幸せな場所を奪った魔女に復讐したい!)

 

その時の私の心は、魔女に対する復讐心だけが支配していた。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

それから私は魔女を倒し続けた。

あの交通事故をひき起こした魔女は私が魔法少女になって初めて倒した魔女だ。

魔女との戦いは命がけで、何度命の危機があったか数知れない。

しかし、そんな時でも魔法少女となった恩恵かはたまた呪いか、私は死ぬことはなかった。

魔法少女の体は人間のそれとは比べ物にならない機能を有している。

尋常じゃない回復力を持ち、傷を負っても時間もかからず回復してしまい、さらに心臓を貫かれても、大量に血を流しても、それでも死ななかった。

キュゥべえによると魔法少女になった時に契約の証として現れたソウルジェム、それが壊されない限り、魔法少女はどんなに傷を負っても魔力がある限り治癒されて死ぬことはないそうだ。

どんなに怪我をしても死ねない、死ぬほどの痛みでもう死んでしまいたいと思っても死ねない、それはとても辛いことかもしれない。

しかし、それは私にとっては都合がいいことだった。

魔女を倒していくうちに様々な物を見てきて私の心に生まれた、自分のように魔女の被害にあって苦しむ人を一人でも減らしたいという願い。

そのためにはこのちょっとやそっとでは死ぬことのない頑丈な肉体はとても都合がいい。

私はこれからも戦い続ける。

魔女を一匹でも多く打ち倒すために、魔女による被害を拡大しないために。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

魔女を倒し続けてさらに時間が過ぎた。

このころになると多くの魔女を倒したことで、無くなったとは言えないが私の心を支配する憎しみの念が収まってきた。

それにしても、と思う。

魔女が一向に減らない。

この身滝原市で活動してきてもう数年は立つけど、ほとんど休む暇がない。

ほぼ毎日のように魔女が現れ、ほぼ毎日のように魔女の被害者が生まれる。

一体いつになったら魔女がいなくなるのだろうか。

……最近魔女の事での気苦労が絶えず溜息の回数が増えた気がする。

肉体的な疲労はそれほど気にすることはないけど、早く何とかしないと精神的な疲労でどうにかなってしまいそうで怖い。

 

そして、私が私立見滝原中学3年になったころ、とある子たちに出会った。

その子たちの名前は「鹿目まどか」と、「美樹さやか」。

私の一つ年下のかわいい後輩たちだ。

彼女たちは魔女の結界の中に迷い込んでしまい、魔女にやられてしまう寸前のところで私が助けた少女たち。

そして、キュゥべえに選ばれた前途有望な魔法少女候補生たちでもある。

キュゥべえは彼女たちにも魔法少女になって魔女と戦ってほしいといっているようだが、魔法少女の先輩としてそれには待ったをかけた。

私はあんな状況だったとはいえ自分の意思で魔法少女になったし、魔女を絶滅させることが私の目標ともいえるから魔女と戦うことに文句はない。

だけど、彼女たちはどこにでもいる普通の女の子だ。

魔法少女になることについては、私は反対するつもりはない。

彼女たちにも願いがあり、それをどうしても叶えたいのだいうのであれば私がとやかく言える筋合いはないと思えるからだ。

でも、その前にちゃんと知ってほしいと思った。

魔法少女になることの意味を、魔法少女になったことで課せられる戦いという名の逃れられない運命を。

特に鹿目まどか、彼女はかなりの潜在能力を有している。

私もキュゥべえが言うところによるとかなり強い力を持っているようだが、彼女の力は私をも大きく上回る力だ。

彼女が同じ魔法少女になってくれればこれほど心強い存在はいない。

心優しく自身よりもまず他人を気遣える心を持つ少女。

今まで魔女を倒すために心血を注いできたこともあり、友達も特におらず、心のよりどころもなく孤独を感じていた私だったが彼女と、いや彼女たちと接することで久しぶりに心が温かい気持ちになった。

彼女たちと一緒にいるだけで孤独感を忘れられた。

鹿目まどかが魔法少女になればどれほどの力を手にするのか、そしてどんな使い方をするのか、先達としてとても楽しみでしょうがない。

だけどその反面、彼女たちには私たちの危険があふれる世界には踏み込まず、平和な日常を歩んでほしいという思いも少なからずある。

あんな優しい子たちに戦いなんてものは似合わないと、そう思えたから。

だから、私は彼女たちに自分の戦う姿を見せた。

それで、少しでも魔法少女というものがどういうものかを伝えたかった。

このことが、彼女たちの今後の選択の参考になるのならば嬉しいと思える。

確かに、魔法少女でもなんでもない二人を守りながらという、いつも以上に気を使う戦いではある。

だけど、それでも私はこれまで多くの魔女と戦い、そして勝利してきたのだ。

そう簡単に負けるつもりなどない。

 

……そう思っていた

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

魔女の結界の中、魔女との戦いも直前という時、魔法少女になりたいと思い始めた鹿目まどかが、その理由を私に聞かせてくれた。

彼女は私に憧れているといっていた。

魔法少女になり私と一緒に戦いたい、もう私は一人じゃないんだといってくれた。

私のために魔法少女になると決めたこと、それが私にはどうしようもなくうれしかった。

そのことを考えるだけで、心が温かくなり、体が軽く感じられ、もう私は誰であろうとも、何であろうとも負ける気がしなかった。

 

……きっと、それがいけなかったんだろう。

 

魔女に何の反撃を許すことなく攻撃し続け、私はいつものように決め技“ティロ・フィナーレ”で魔女を撃ち抜いた。

今までの魔女戦の時以上に満足のいく出来で、これで終わったとそう思っていた。

だが、魔女はまだ倒してはいなかったのだ。

倒した気になり気が緩んでいた私に、小さな人形のような姿だった魔女は脱皮でもしたかのようにその体から抜け出て、膨張し形を変え一気に私のところまで体を伸ばしてきた。

 

「……え?」

 

魔女はその大きな口を開く。

ギザギザの歯は噛みついたものすべてをすんなりと噛み切ってしまうだろうと思えるほど鋭利だった。

それがゆっくりと、私に近づいてくる。

今までにはなかった魔女の行動と、終わりかと思っていた時の突然の出来事だったこともあり私は動くことができなかった。

自慢のマスケット銃も呼び出している暇などもうない。

すべてが遅かった、その大きな口は私が何かをする前に私を捉えるだろう。

 

……そんな絶体絶命の中、すべての動きが緩慢になり、私の中で今までの記憶が呼び起されていた。

これが世に言う走馬燈というものだろうか。

今までの私の記憶がどんどん過去に遡っていく。

 

 

 

ここに来る前の鹿目まどかの言葉。

『マミさんはもう一人ぼっちじゃないです』

 

(嬉しかったなぁ。やっと私もひとりじゃなくなるんだって、孤独じゃなくなるんだって、そう思えて。でも、あの子との約束守れなかったなぁ。私と鹿目さんの魔法コンビ結成パーティー、楽しみにしてたのに)

 

 

 

その少し前、暁美ほむらとの遭遇。

『今度の魔女は今までの奴等とはわけが違う!』

 

(彼女の言ってた事って、こういうことだったのね。彼女ってあまり表に出さないから気づかなかったけど、もしかしてあの時私のこと心配してくれてたのかな? もう少し彼女の言うことにも耳を傾けていたらこんなことにならなかったのかしら)

 

 

 

そしてどんどん過去へと遡っていく。

ただ魔女を倒すために費やしてきた日々、初めて死にそうなくらい傷を負った時、両親の仇ともいえる魔女を倒した時。

思えば私は本当に魔女を倒すというそれだけのために生きてきたんだと、改めて寂しい日々を送ってきたんだと実感した。

 

 

 

そして、私が魔法少女になった瞬間、キュゥべえと初めて会った瞬間。

 

『僕はキュゥべえ! ねぇ、僕と契約してよ!』

 

『そう、契約! 僕はなんでも一つだけ願い事を叶えてあげる! その代わりに、君には魔法少女になってほしいんだ!』

 

『君の願いは何かな? なんでも叶えてあげるよ!』

 

 

 

(そう、それが私とキュゥべえの出い、すべての始まりだった。そして、その時に私が言った願いは……)

 

 

 

『……いつか………白馬の、王子様、に、会いたい』

 

白馬の王子様、小さいころから憧れていた、私だけの王子様。

強くてかっこよくて、どんな時でも私を守ってくれる、ヒーローのような存在。

もう無くなってると思っていたけど、それでもやっぱり私は女の子だったようで、密かに心の底で眠っていた願い、私だけの王子様。

 

『……いいよ、叶えてあげる。その願いが叶うのがいつかはわからないけど、君はきっと、君だけの白馬の王子様に会えるよ』

 

そう、それが私の願い、私たちの契約。

 

……でも

 

そして、景色が今現在、魔女に食べられてしまう絶望的な現実に戻ってきた。

私の目から、涙が一粒零れ落ちる。

 

(結局、私の白馬の王子様は、現れなかった…か)

 

そして、私はゆっくりの目を閉じて、最期の時を待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――― “熾天覆う七つの円環”《ロー・アイアス》」

 

 

 

 

『ガッ!』

 

 

 

しかし、その最期の時は訪れることはなかった。

知らない人の声と、それと同時に何かがぶつかる音が聞こえた。

それを聞いた時、私は恐る恐る目を開いた。

 

……そこには

 

「ふむ、いきなり呼び出されたと思えば、そこは菓子で埋め尽くされた奇妙な空間。更にこのような珍妙な生き物にいきなり襲われるとはな。流石に、私もこのような展開は予想できなかったぞ」

 

赤い外套を纏った色黒で白髪の男性が片手を前に伸ばし、淡く輝く7つの大きな花弁のようなものを出して魔女の大きな口を防いでいた。

あの鋭利な歯のせいか、あの魔女自体の力が強いせいかその花弁の一枚にうっすらと罅が入っているようには見えるが、それ以上傷つけることができるようには見えず魔女がその花弁を破壊できるとはとても思えなかった。

 

「あ、あなたは…?」

 

「む、君にも聞きたいことがあるだろうが、私としてもいろいろと聞きたいことがあってね。だが、残念ながらこのような状況では満足に話すこともできまい」

 

そういうとその人は私を脇に抱えて大きく跳んだ。

その跳躍力は魔法少女と化した私と同等かそれ以上で、跳んだ瞬間の勢いが強かったせいか「ひゃっ!」などと声を上げてしまった。

そして私が着地したところ、そこには鹿目まどかや美樹さやか、キュゥべえがいた。

 

(……な、なんて跳躍力!?)

 

常人では有り得ないその出来事に私は目を丸くし、彼を見た。

しかし、彼は私の視線に気づいているのかいないのか私の方を見ることはなく、一瞬キュゥべえの方を見た後、すぐに目をそらし魔女の方へと歩いて行った。

 

「少しそこで大人しくしていろ。すぐに終わらせてくる、話はそれからだ」

 

「ま、待ちなさい! あいつは……ッ!?」

 

そういった彼を私は引き止めようとした……したのだが、それはできなかった。

何かの妨害があったとかそういうものではなく、目の前を歩いていく彼の背がとても逞しく見えて、それに私は安心感を覚えて彼なら何も心配することがないのではと錯覚させられた。

 

「――― I am the bone of my sword 《我が骨子は捻じれ狂う》」

 

彼の両手に光が灯りそれが弓へ、そして螺旋状という歪な形の剣のようなものへと形を成していく。

いつの間にか魔女を押えていた光の花弁は消え、魔女は再びその大きな口で喰らおうと大口を開けて迫ってきていた。

それを見て私は慌てるが、しかし目の前の彼はそれを見ても全く慌てる様子を見せない。

彼が持つ螺旋状の剣が光り、一本の矢のような形へと姿を変える。

それを迫ってくる魔女へと、ゆっくりとした動作で弓につがえて狙いを定める。

……そして

 

「――― “偽・螺旋剣”《カラドボルグ》!」

 

その矢が射られ寸分違わず、魔女の口へと吸い込まれていく。

そして、次の瞬間

 

ドカァァアァァァァァァァァァァン!!!!

 

魔女を中心として、大きな爆発を引き起こした。

周囲にあるお菓子で作られた巨大な椅子も、そこらに散乱しているたくさんのお菓子もその一切を巻き込んで。

その威力は、私の決め技”ティロ・フィナーレ”も相当な威力を誇ると自負しているのだが、それすら大きく上回る破壊力だった。

いかに特殊な能力をもったあの魔女であろうと、体の内側からあの破壊力をそのまま受けたのならば、その能力すら意味をなさないだろう。

あの爆発のせいで、今もなお大量の煙が巻き上がっている。

そしてそれを背景にし、彼は私たちのところへゆっくりと歩き帰ってくる。

そんな彼は口の端をつり上げ、不敵な笑みを浮かべていた。

 

 

 

『……いいよ、叶えてあげる。その願いが叶うのがいつかはわからないけど、君はきっと、君だけの白馬の王子様に会えるよ』

 

 

 

そんな彼の姿を見ていたら、ふと、キュゥべえが言ったその言葉が脳裏に浮かんだ。

 

「……私の……白馬の…王子様」

 

そう、私は無意識のうちに口走っていた。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

「ね、ねぇ、キュゥべえ、あの人って一体……」

 

まどかはいきなり現れ、自分の憧れの先輩を狙った魔女から寸前のところで助け、更にたった一撃であの魔女を倒したという、あまりにも急展開過ぎて動揺しているようだ。

そこで口が利けただけましかもしれない、その友達のさやかはいまだに状況を理解できず固まったままだ。

 

「……願いが叶ったんだよ」

 

「ね、願い?」

 

「そう、願い。マミの願い」

 

そういうキュゥべえの口調はいつも通り陽気で、しかしどこか弾んでいるようで、そしてそれなのになぜか淡々としているようにまどかには聞こえた。

 

「時間を超えて、空間を超えて、世界を超えて、法則を超えて。ようやく願いが叶ったんだ、マミの願いが。僕とマミが初めて会った時の、僕とマミが契約を交わした時のマミの願いがようやく叶ったんだよ」

 

……そう、彼は

 

「マミの、マミだけの…… “白馬の王子様”さ」

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

「大丈夫だよ遠坂。オレも、これから頑張っていくから」

 

 

 

私はそう遠坂に言葉をのこして座へと戻って行ったはずだ。

しかし、その最中、何か不思議な力に引っ張られるように座とは別の方向へと流された。

どこか召喚の儀が行われた時に似ているが、しかしそれともまた違うものを感じる。

今まで数えるのもバカバカしいと思えるほどの時の流れに身をゆだねて来た中で、様々な経験をしてきたが今回のようなことは初めてだ。

遠坂に私もこれから頑張っていくと約束した手前、こういうことを言うのは些か憚られるが……遠坂の提案通り、今一度契約を交わしてもうしばらく現界していた方がよかっただろうか?

 

(……ん? む、これは!?)

 

思考の中にあった私の意識が突然の光に包まれたところで浮上する。

そして、光が収まるとそこには

 

(……ふむ……これはまた、何とも)

 

鋭い牙が何本も並んでいる大口が眼前に迫ってきていた。

突然の状況に一瞬呆けてしまったものの、この身に宿る幾多もの繰り広げられてきた戦いの記憶が、この身を硬直させることなく自然と今一番必要とされるだろう行動を起こさせた。

 

「――― “熾天覆う七つの円環”《ロー・アイアス》」

 

『ガッ!』

 

「ふむ、いきなり呼び出されたと思えば、そこは菓子で埋め尽くされた奇妙な空間。更にこのような珍妙な生き物にいきなり襲われるとはな。流石に、私もこのような展開は予想できなかったぞ」

 

さて、今度は一体どんなやっかいごとに巻き込まれるのだろうな。

 

「あ、あなたは…?」

 

「む、君にも聞きたいことがあるだろうが、私としてもいろいろと聞きたいことがあってね。だが、残念ながらこのような状況では満足に話すこともできまい」

 

なに、安心してくれ遠坂。

どんな苦難が待ち受けていようとも、どんな面倒事に巻き込まれようとも、君との約束を違えることなくこれからも歩み続けていくさ。

下手に無様な姿をさらして、君に笑われてしまってはかなわないからな。

……だから

 

 

 

(……オレも、これから頑張っていくよ)

 

 

 

 

 

 
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