No.391989

夏目友人帳-レイコの友人-

雪月さん

夏目貴志の祖母、夏目レイコ。
彼女は妖怪の見える人間だったが、そんな変わり者のレイコを周りの人々は毛嫌いした。  しかし、そんなレイコの前に1人の少女が不意に姿を見せた。
――これは、悲しい2人の友情。

2012-03-15 19:17:42 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:4172   閲覧ユーザー数:4164

 
 

 

 

 

とある少女は思う。

――友人が欲しいと。

 

 

 

とある少女は思う。

――あの人のようになりたいと。

 

 

互いが思い合い、そして傷つけ合ったその日々を。

今此処に追想する…………。

 

 

 

*-*-*-*

 

 

 

昔から、苛められている少女がいた。

私から見ればそれは綺麗で美しく、凛々しい人だった。

 

ただ、彼女は少しだけ……変わっていた。

 

何もないところで誰かと話しをしているようだったり、箒を振り回していたりと色々だった。

 

でも、私は怖いとも思わなかった。

 

だからある日、話しかけることを決心したのだ。

 

「夏――あ痛ッ!?」

「え?」

 

石に躓き、転んでしまう。

私に驚いたのか、その人は振り向く。

 

「いたたたた…………あ」

「……大丈夫?」

「えっと、すいません。驚かせてしまって……」

「敬語じゃなくても良いわよ、別に」

「あ、そう?」

 

鞄を拾ってスカートを叩いて土埃を落とす。

 

「えーっと、あなたと同じ学年でクラスの『冬霧(ふゆきり) 風香(ふうか)』っていうんだけど、知ってる?」

「ええ……いつも、みんなと一緒にいる子でしょう?」

「夏目さん……じゃなくて、レイコちゃんって呼んでも良い?」

「え?」

「え?」

 

凛々しくて、知的そうな顔が唖然とした顔になる。

なぜだか分からないが、愛らしい。

 

「……あなた、私のこと知ってるでしょう?」

「うん。変わり者なんだってね?」

「だったら、私に近づかない方が良いわ。私と仲良くなったら苛められるわよ」

「へえ。で?」

「で? って何よ。折角言ってあげてるのに」

「でも、レイコちゃんと友達になりたいんだもん。それには、苛めもなにも関係ないでしょ? 私が苛められたら、友達であるレイコちゃんが助けてくれるんだよね?」

「なっ……」

 

でも、これは本当の話だ。

 

「レイコちゃん。私ね、ずっと昔から見てたんだよ? 小さい頃から、ずーっと」

「……何? 突然」

「ずっと昔から、ずっと変わった子だなって思ってた。1人で喋ってるし、突然走り出すし。借りた本は返さないし、お供え物を食べてるし」

「……どこまで見てるのよ……」

「全部だよ」

 

……そうだな。

言葉にするなら、こういうのが良いんじゃないだろうか。

 

「ずっと、憧れてた」

「!」

「他人にどう言われようと、石を投げつけられようと、ずっと1人で立ち向かって、生き方を変えないで……私と、正反対で。私は臆病だから周りに合わせることしかできないけど、レイコちゃんは違ったから。だから、友達になりたいって思った……それだけじゃ、ダメかな?」

 

自分とは正反対の、そんな人に。

憧れて、近づきたいと思った。

 

「……後悔しても知らないわよ」

「ううん。後悔何てしないよ」

 

それにね。

私にも見えるようにすることが出来るから。

 

多分、コレは私の偽善であり、自己満足だ。

だけど、1人は辛いという事は分かってる。

 

1人は辛くて、周りに人がいるのに助けて貰えないのも辛いのだから。

 

だったら、どんな手を使ってでも理解者になってやる。

その類に詳しくなってやる。

 

 

 

それは中学生の時の話しだ。

 

 

 

--------------------------------------------

 

 

 

「レイコ」

「何? 風香」

「あのね、レイコ。実は…………なんと!」

「何よ?」

「3年前のあの日……友達になった日からずっと修行を続けてついに……ついに打ち明けてしまおうと思います!」

「?」

「実は、家に代々伝わる文献なんだけどね……その中に、ちょっと面白いことが分かって」

「何? 面白い事って」

 

今かけている眼鏡をレイコに貸す。

 

「はい」

「? 何よ、ただの眼鏡じゃない」

「しょうがないな……おいで、レイコ」

「え、ちょっ――」

 

レイコの手を引いて、近場に行く。

そして、私はある物を見て更に頬を緩めた。

 

「レイコ、あれ、見えるよね?」

「!? 見えて、るの……?」

「そんなことは良いから! ねぇ、コレかけて、あっちを見てみて」

「……分かったわ」

 

すっと眼鏡をかけて、レイコは驚く。

 

「それはね、見えている物が見えなく、見えない物が見える……でも、レイコの力は消すことが出来ないから……でも、レイコはもう、変わることが出来ないから。だから。だったら。私が変わってみせるよ。レイコの理解者になるよ。なってみせるよ」

「…………どうしてそこまでするの? どうして私なんかに構うの……?」

 

それは……

 

「レイコ。私は他人のことがほうっておけないの。夢見たいな事だし、バカだって言われても構わない。でもね、私は目の前で苛められている、困っている友達を黙って見過ごすほど、バカじゃないよ」

 

真っ直ぐにレイコを見つめて言う。

 

「ち、違……そう言う意味じゃ――」

「…………私は、死んでも絶対レイコの側にいたい。我が侭だし、迷惑だって思うこともあるだろうけど、それでもレイコと一緒にいたい気持ちは変わらない。レイコは、違うの……?」

 

その言葉に、はっとした。

 

私は一体、何を言っているんだ。

 

「……私は」

 

そんなこと、予想は出来ている。

 

「私は、違う」

 

嫌だ、聞きたくない。

 

「私は、ずっと。風香の事迷惑だと思ってた。ウザイと思ってたし、何よりその笑った顔が嫌いだった」

 

お願いだから……

 

「風香……冬霧さん。私は、冬霧風香が大嫌いよ」

 

 

 

 

 

言って欲しくなかった。

 

『私も、風香の事友達だと思ってるわよ』

 

って。

いつもみたいに、笑いながら。戯けながら言って欲しかった。

 

 

 

 

「……………………ゴメンね……レイコ、ゴメンね……」

「っ……」

 

 

 

 

きっと、私がいけないんだ。

 

 

レイコに、迷惑をかけてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その数ヶ月後。

 

冬霧風香は謎の死を遂げる。

 

死因は一切不明。

 

両親はすでにいなく、身寄りも親族もいない。

 

冬霧風香の死は多くの者達を哀しませた。

 

冬霧風香は、死んだのだ。

 

 

 

 

 

そう。

 

 

 

 

 

死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

------------------------------------------

 

 

 

 

真っ暗な暗闇の中で延々と泣き続けていた記憶があった。

 

親が、死んでしまったときの話しだ。

 

 

家に強盗が押し入り、父と母を殺したのだった。

 

 

ずっと昔から、憧れている人がいた。

 

どんなに辛い状況でも、平気で笑ってみせるそんな彼女は、私とは違った。

 

 

 

 

 

いつしか、私と彼女は友人になった。

 

 

しかし、私は死んでしまった。

 

死の数ヶ月前に、喧嘩をしたまま。

 

 

 

 

ああ、そうか……私は死んだのか…………

 

どうして死んだのかは良く思い出せない。

ただ、私は何故祠に座っているのだろう。何故、目の前にレイコがいるのだろう。

 

「……風香。ゴメンね……」

「……レイ、コ……?」

「私は口が悪いからあんな事いって……でも、風香だけは絶対に守りたかった……なのに……どうして……」

「レイコのせいじゃないよ……レイコ…………レイコ……?」

「ゴメンね……ゴメンね…………」

 

あ……れ……?

 

どうして気付いてくれないの?

 

どうして泣いているの?

 

どうして謝っているの?

 

 

どうして私はレイコに触れられないの……?

 

「ねえ、レイコ……聞こえたら、私の目を見てよ……手を、前に差し出して、いつもみたいに言ってよ……」

 

『ねえ、私と勝負しましょう? あなたが勝ったら何でもしてあげる。私を食べても良いわ。

 

 その代わり、私が勝ったら私の友人(こぶん)になりなさい』

 

 

「レイコ、私の負けだよ。友人帳を出してよ……子分にだって、何にだってなるから……」

 

だから……

 

「だから、お願い! 手をさしのべて! 私を助けてよ! レイコッ!」

 

 

結局、レイコが私に手をさしのべることはなかった。

 

私は結局レイコに依存して、それでいてレイコを裏切ったのだ。

 

 

 

 

自分を恨んで、何で死んだのかも恨んだ。

 

 

 

 

 

 

 

何も出来ない自分を。

足掻くことさえ出来ない自分を呪った。

 

 

 

 

暫くして、レイコの子孫が生まれた。

 

 

 

レイコの死に際を見届け、私は人知れずして夏目レイコの孫を見守り続けている。

 

レイコのように必死に足掻き、レイコのようにそっくりなその顔を見ながら、今日も私は思う。

 

 

 

レイコ、あなたの生きた証は此処にある。

 

 

けれど、私と過ごしたときの証しはどこにもないのなら。

 

 

私の魂が存在する限り、永久に覚え続けているよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――私の唯一無二の親友、夏目レイコに送る――

 

 

 

 

 

 
 

 
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