No.390519

友達だから (United We Fly!より)

tokka-さん

C81の新刊で出したストライクウィッチーズ小説本「STRIKE WITCHES SS COLLECTION United We Fly!(レスポンス参照)」より一話アップします。
これは芳佳とリーネとペリーヌの友情話で、テレビアニメ2期の3話と4話の間の話になります。

本は全4話で、各話は一話完結しています。
以前にも一話サンプルとしてアップしています。

続きを表示

2012-03-12 10:13:01 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:1538   閲覧ユーザー数:1512

 宮藤芳佳軍曹とリネット・ビショップ曹長とペリーヌ・クロステルマン中尉が、老魔女アンナ・フェラーラの元から帰って来て数日。隊員達も新しい基地に慣れ、ブリタニアに居た頃と同じような日々が戻っていた。

 そして今日も夜明けと共に、新たな一日が始まる。

 朝食の時間になり、隊員達が食堂に集まってきた。

 今日の食事当番は芳佳とリーネ。メニューは扶桑料理。勿論宮藤主体で作ったものだ。

 銘々朝の挨拶を交わしながら席に着くと、早速箸を取る。

 今日も芳佳の料理の評価は上々。皆美味しそうに料理を口に運ぶ。

「やっぱり宮藤の作った扶桑料理は美味いな~」

「芳佳のご飯をこれからずっと食べられるなんて、幸せ~」

 シャーロット・E・イェーガー大尉とフランチェスカ・ルッキーニ少尉も料理の味にご満悦。特に二人はブリタニアの501解散後、アフリカの砂漠をさまよったり、ロマーニャで遭難しかけたりで、食事にあまり恵まれていなかっただけに、喜びも一入だ。

 そんなはしゃぐ二人を見て、規則に人一倍厳しいゲルトルート・バルクホルン大尉が眉を顰める。

「全く、食事は静かに食べんか。……しかし、確かに美味いな。宮藤、前よりも腕を上げたんじゃないか?」

 朝からお小言タイムの始まりかと思ったら、意外にも素直に芳佳の料理を褒めるバルクホルン。

「トゥルーデはカールスラントに戻ってからも、宮藤の料理食べたがってたもんね~」

 そんなバルクホルンを早速からかうのは、エーリカ・ハルトマン中尉だ。

「なっ……!私はただ、たまには扶桑料理も食べたいと言っただけで……」

 エーリカの言葉に、バルクホルンは顔を赤らめ狼狽しながら反論する。以前のバルクホルンでは、こんな反応は見られなかっただろう。

 バルクホルンも以前と比べてかなり変わった。素直に料理の味を褒められる位に。と言っても、501結成間もない頃のバルクホルンは、料理の味になど興味が無かったかもしれないが。今はそれだけ心に余裕が出来たと言うことだろう。堅物軍人ぶりは相変わらずだが、今ではそれすら愛嬌に感じられる。

「しかし欧州にいながら、こんなに美味い扶桑料理を食べられるのはありがたい事だな。宮藤、おかわりを貰えるか?」

 芳佳と同じ扶桑皇国出身の坂本美緒少佐も、芳佳の料理を褒める。

 差し出された茶碗を受け取り、ご飯をよそう芳佳。

「ありがとうございます、坂本さん。はい、おかわりどうぞ」

「ああ、ありがとう」

 そんな二人の様子をじっと見ている者がいた。坂本に心酔する、ペリーヌ・クロステルマン中尉だ。

 その視線を感じた芳佳は、ペリーヌに声をかけた。

「ペリーヌさん、どうかしましたか?」

「べ、別にどうもしませんわよ!」

 ペリーヌは慌てて目をそらすと、食事を再開する。黙々と食事に没頭するペリーヌを見て、思わず話しかける芳佳。

「ペリーヌさん、今日の料理の味は如何ですか?」

「……ガリア料理に比べればまだまだですわね」

 ペリーヌの返事は素っ気無い。その返事を聞いて、芳佳は肩を落とす。

「そうですか。今日こそペリーヌさんに美味しいって言って貰えるように頑張ったんですけど……。まだまだですね」

「はっはっは、誰だって自分の国の料理が一番だって思っているものさ」

 そんな芳佳を坂本が笑顔で励ます。ペリーヌを悪く言わないのが坂本らしい。

 

「……ご馳走様でした。お先に失礼しますわ」

 食事を終えたペリーヌが席を立つ。

「あ、ペリーヌさん、食後のお茶は……」

「私は結構ですわ」

 リーネが呼び止めるが、ペリーヌは立ち止まることなく食堂を出て行ってしまった。

「……またやってしまいましたわ……」

 ペリーヌは自室に戻ると、テーブルに突っ伏して先ほどの出来事を悔いていた。芳佳の料理を本当は美味しいと言いたかったのだ。

 坂本と芳佳のやり取りを見ていたのも、別に芳佳に敵意を感じていたわけではない。飾らずに話ができる二人を見て、羨ましいと思っていただけだ。

 お茶の誘いを断って出てきてしまったのも、素直に感情を言葉に出来ない自分に腹が立っていたから。

「どうして私は素直に気持ちを言葉に出来ないのかしら……」

 こんな憎まれ口を叩いてばかりの自分は、他の隊員、特に芳佳から嫌われているんだろうなとすら考えてしまう。

 ブリタニアにいた頃は、こんな事を考える余裕すら無かった。とにかくガリアを開放することだけが大切だった。その潰されそうな程の使命感と、故郷を失った寂しさを紛らわす為に、坂本を求めた。だから坂本と親しくする芳佳が許せなかった。

 しかしガリアが開放された今、当時のことを思い出すと、ペリーヌは枕に顔を埋めたいような衝動に駆られる。どうして自分はあそこまでイライラしていたのか、心に余裕がなかったのか。使命感の裏返しとは言え、今思い出せば恥ずかしくなる。勿論そう思えるようになっただけ、成長の証でもあるが。

 

 ペリーヌがそんな事を自問自答していると、部屋のドアが開いた。リーネが戻ってきたのだ。

「あら?リーネさん、お一人ですの?」

 ペリーヌが意外という表情で話しかける。今日は芳佳とリーネが食事当番。当然片付けも一緒にやって、一緒に戻ってくると思っていたからだ。

「芳佳ちゃんはちょっと用事があるみたいで」

 リーネが理由を説明する。その用事が如何なるものであるかは知る由も無いが、これはチャンスとペリーヌは感じた。

 ペリーヌとリーネは、ブリタニアでの501解散後、一緒にガリア復興に従事したこともあり、以前より腹を割って話せる関係になっていた。ペリーヌは気になっていた事を、思い切って尋ねてみる。

「リーネさん、ちょっと宜しいかしら?」

「何ですか、ペリーヌさん?」

「その……伺いたいんですけど、宮藤さんはあなたに私の悪口を言ったりしていませんこと?」

「芳佳ちゃんは影で人の悪口を言ったりする人じゃありません。そんな事言うと、例えペリーヌさんでも怒りますよ」

 ペリーヌの質問に、リーネは真剣な顔になって厳しい口調で答えた。

「そ、そんなつもりで言ったんじゃありませんわ。私はただ、いつも厳しいことばかり言ってしまうから、宮藤さんに嫌われているんじゃないかと思って……」

 ペリーヌはリーネの反応にうろたえてしまう。勿論リーネを怒らせるつもりなど毛頭無かった。つくづく口下手な自分が恨めしい。

 リーネもペリーヌの言葉と反応から、何が言いたかったのか理解したようだ。

「芳佳ちゃんはペリーヌさんの事を嫌ってなんかいませんよ」

「そうかしら……だって、私、その、……以前色々と酷いことを言ってしまいましたし……」

 ペリーヌはうつむき、自信無さげに答える。ここまで思い込んでしまっていると、リーネが言っても、なかなか信じてもらえなさそうだ。だったらと、リーネは提案を持ちかける。

「それなら、自分の耳で聞いてみるのはどうですか?」

「そ、そんな、私からそんなこと聞けませんわ!」

 ペリーヌはリーネの提案に当惑の色を隠せない。そんなペリーヌを見て、くすりと微笑みながらリーネが説明する。

「いえ、聞くのは私です。今日の哨戒任務は芳佳ちゃんと私なんです。その時にそれとなく聞いてみますね。なのでペリーヌさんはインカムをつけておいてください」

「な、なるほど、そういうことでしたか」

 ペリーヌはリーネの提案に納得して、受け入れることにした。

 暫くして、哨戒飛行の時間となった。

 芳佳とリーネがストライカーを装着し、基地を飛び立つ。

 定例の哨戒コースを飛行しながら、異常が無いか辺りを確認する。

 どこまでも続く青い空と海。異常どころかとても穏やかで、今が戦争中とは思えない。

 そんな景色を見ながら、リーネはそろそろ話を切り出そうかと考えていた。

「ねえ、リーネちゃん。リーネちゃんはペリーヌさんと前より仲良くなったよね」

 と、先に口を開いたのは芳佳だった。しかもペリーヌの話題で、リーネは先手を越されてしまった感じだ。

「うん。一緒にガリアの復興をしたからかな」

 内心驚きつつも、悟られないように冷静に返事をするリーネ。

「うらやましいな……。私ももっとペリーヌさんと仲良くなりたいのに、いつもペリーヌさんの機嫌を損ねてばっかりで……。どうやったらもっと仲良くなれるのかな?」

「芳佳ちゃん、ペリーヌさんと仲良くなりたいの?」

「勿論だよ、友達だもん。……私がそう思っているだけかもしれないけど……」

 いつも前向きな芳佳だが、この事に関しては少し自信が無さそうだ。

「そんなことないと思うよ。きっとペリーヌさんも芳佳ちゃんと仲良くなりたいと思ってるよ。ペリーヌさん、ちょっと口下手だから、言いたいことが上手く言えないだけなんだよ」

「でも、どうすればいいのかわからなくて……」

「そうだ、ペリーヌさんの入れたカモミールティーってとっても美味しいんだよ。芳佳ちゃんも教えてもらったら?教えてって言ったら、ペリーヌさん、きっと喜んで教えてくれるよ」

 リーネの言葉は、基地でこの会話を聞いている筈のペリーヌにも向けられたものだ。この会話を聞いていたら、絶対に笑顔で教えてくれるはずだと。

「うん、わかった。それじゃ基地に戻ったら頼んでみるね」

 リーネの提案に、笑顔で返事をする芳佳だった。

 その頃、基地では当初の計画通り、ペリーヌが芳佳とリーネの会話をインカムで聞いていた。リーネの方で通信をオープンにしていたので、ペリーヌもその会話を聞くことが出来るのだ。

 インカムから聞える二人の会話で、ペリーヌは芳佳の本当の気持ちを聞くことが出来た。あんなに酷いことを言ったのに、友達だと思っていてくれたとわかり、思わず涙がこぼれそうになる。

 と、同時にまるで盗み聞きのような行為をしていた自分が急に恥ずかしくなった。これ以上二人の会話を聞くのはやめよう。そう思ってインカムを外そうとした時……。

『きゃあああああ!!』

 突如インカムからリーネの悲鳴が響いた。次に聞えてきたのは芳佳の悲鳴にも似た報告だ。

『司令室、応答願います!リーネちゃんがやられました!救援お願いします!繰り返します……!』

 その言葉を聞き終わる前に、ペリーヌはハンガーに向かって全力で走り出していた。

 

 ハンガーに急ぐペリーヌの耳には、芳佳の悲痛な報告が聞えていた。

 芳佳の声はかなり狼狽していたが、状況としては、不意を付かれリーネがネウロイのビームで撃たれたとの事だった。怪我は重傷だが、ネウロイに攻撃されていて、治療が出来ないと言う。勿論反撃する余裕もなく、リーネを抱えて防御に徹するのが精一杯だと。このままでは二人とも危ない状況だ。

 ペリーヌがハンガーに駆けつけると、そこにはまだ誰も来ていなかった。まだ各隊員に命令も詳しい説明もされていないので、当然ではあるが。

 しかし今は命令を待っている余裕はない。ペリーヌは他の者も待たずに一人で飛び出した。

「ペリーヌ・クロステルマン、先行します!」

 一刻も早く、二人の下に。

(間に合え、間に合え、間に合えぇぇ!!)

 心の中で何度も念じながら、全力で戦場に急行する。

「うわぁ!」

 芳佳のシールドにネウロイのビームが命中する。

 芳佳に抱えられたリーネのわき腹は血で赤く染まり、ストライカーも維持できなくなり落下している。意識はあるが、既におぼろげだ。これ以上傷が悪化すれば、命も危ない。それを察知している芳佳は、ネウロイの攻撃に耐えながら、必死でリーネの治療を行っていた。

 勿論そんな状況で本格的な治療など望める筈も無い。傷の悪化を食い止めるだけで精一杯だ。芳佳の魔力の消費も激しい。額には脂汗が浮んでいる。

 ネウロイはそれ程大型でもなく、火力が高いわけでもない。しかしこの状況では何時まで持つかわからない。

「芳……ちゃ……わた……離して……」

 リーネは薄れゆく意識の中で、自分を離すことを訴える。このままでは二人ともやられてしまう。しかし芳佳は頑として受け付けない。

「嫌だよ!リーネちゃんを離したりしない!友達だもん!絶対に見捨てないよ!」

 気丈に答えたものの、もう芳佳にも限界が近づいていた。

 その時、ネウロイが正面に見えた。ネウロイのビーム発射口が赤く光り始める。

 ネウロイも芳佳が弱っているのが分かるのか、次の一撃で片をつける為に、これまで以上にエネルギーを溜めた必殺の一撃を放とうとしているかのようだ。

(……もう駄目、この一撃は防ぎきれない……やられる!)

 芳佳は絶望に心が折れそうになる。

 ネウロイの発光が強くなり、いよいよビームが発射されると思われた、その時。

 ドガガガガガッ!!

 突如響いた銃声。

 銃弾がネウロイに降り注ぐ。その銃撃でネウロイはバランスを崩し、ビームはあらぬ方向に発射された。

「た、助かった……?」

 一瞬何が起きたのか理解出来なかった芳佳だが、直に銃撃の来た方向を見た。そこにはこちらに向かってくるペリーヌの姿があった。

「ペリーヌさん!」

「宮藤さん、ネウロイは私が引き受けますわ!あなたは地上に降りて、リーネさんの治療を!」

「わかりました!」

 お礼の言葉や状況の説明をしている時間はない。芳佳はその言葉に従い、直に地上に向かう。

 そんな芳佳を追おうとするネウロイ。しかしそれはペリーヌが許さない。

「あなたの相手は私です!」

 銃撃しながら向かってくるペリーヌに、流石にネウロイも芳佳を追っている場合ではないと判断したようだ。標的をペリーヌに変更し、ビームを放つ。

 しかしそのビームはペリーヌには当たらない。ペリーヌはシールドも張らず、ビームを回避してネウロイに一気に接近する。

 そして、手で触れられる程の距離まで近づくと、ネウロイに向かって手をかざす。

「よくも私の大切な友達を……!絶対に許しませんわ!喰らいなさい、トネール!!」

 ペリーヌ必殺の零距離雷撃‐トネール‐が炸裂。ネウロイは黒こげになって砕け散った。もはやコアの位置など関係が無い。

 ネウロイを撃破すると、ペリーヌはすぐさま芳佳達の下に向かう。

 

 戦闘空域下の地上では、芳佳が必死でリーネの治療を続けていた。先の戦闘でかなりの魔力を消費していたが、リーネを助けたい思いが、芳佳の魔力を強くしていた。

 治療を続ける芳佳の近くにペリーヌが降下してきた。しかし芳佳の真剣な表情を見て、声はかけず見守ることにする。

 暫くして、リーネが目を開いた。

「芳佳ちゃん……?」

 既に腹の傷は塞がっている。どうやらもう大丈夫そうだ。

「リーネちゃん……よかった……」

 やっと表情が緩む芳佳。それを見て、ペリーヌも心から安堵した表情を浮かべた。

 

『宮藤、どこにいる?状況はどうなった?!』

 治療も終了した頃、インカムから坂本の声が聞えた。坂本以下501の隊員も到着したようだ。

「坂本さん、私は地上にいます。ここです」

 地上から手を振る芳佳。それを見つけた坂本とシャーリーとルッキーニ、バルクホルン、ハルトマンが降下してきた。

「戦闘は終わったようだな。リーネは無事か?」

「はい、私は大丈夫です」

 坂本の質問に、リーネは立ち上がり、無事を報告する。

「そうか、とりあえず一安心だな。さて、基地に帰ったら詳しく話を聞かせてもらうぞ。宮藤、飛べるか?」

「一人ではちょっと厳しいかもしれません……」

 かなり魔力を消費してしまった事もあり、芳佳は一人で飛ぶのは辛そうだ。

「だったら、私が支えますわ」 

 そんな宮藤の言葉を聞いて、ペリーヌが申し出る。

「そうか、それでは宮藤はペリーヌに任せよう。リーネはシャーリーが運んでやってくれ」

 リーネは傷は回復したが、ストライカーが破損しているため、飛ぶ事は出来ない。

「よし、それでは帰還するぞ」

 坂本の指示で、全員飛び立った。

 

 基地に帰る途中の事。

「ペリーヌさん、さっきは助けてくれてありがとう。ペリーヌさんが来てくれなかったら、私駄目だったかもしれない」

 ペリーヌの肩に支えられて飛行している芳佳が、感謝の言葉を口にした。素直に感情を言葉にする芳佳に、ペリーヌも今度こそ自分の気持ちを伝えようと思う。

「別に感謝されることなんてありませんわ。だって、と、と……友達を助けるのは当たり前ですもの」

 顔を赤くしながら、気持ちを伝える。肝心な部分は少し小声になってしまったが。

「ペリーヌさん、ちょっと聞き取りにくかったんですけど……」

 案の定、ペリーヌの言葉はエンジンの轟音に掻き消されて聞き取れなかったらしい。

「あなたって人は!もう、二度は言いませんわ!」

 ペリーヌは顔を真っ赤にして、ぷいっとそっぽを向く。そんなペリーヌに芳佳は戸惑いつつも、嫌な感じはしなかった。それはきっと、ペリーヌが支えてくれている手が、とても暖かくて優しさを感じられたからだろう。

 基地に戻ると、芳佳とリーネは早速執務室に呼び出しを受けた。

 501基地司令ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐と横に立つ戦闘隊長の坂本を前に、今回の顛末を報告する。

 一通り話を聞いた後、ミーナが二人に確認する。

「つまり、話に夢中になっていて、警戒を怠っていたということね」

「はい、その通りです」

 二人とも素直にそれを認める。実際そうなのだから言い訳のしようも無い。

 そんな二人に、坂本が任務の大切さを説く。

「哨戒任務は気が緩みがちではあるが、大切な任務だ。ネウロイ探知用のレーダーもあるが、信頼性が100%ではないし、レーダーに反応しないネウロイもいる。まだまだ人の目が頼りの部分も多いからな。まあ話をするなとは言わんが、それで警戒が疎かになるようでは、言語道断だぞ」

 坂本の言葉に無言で肩を落とす二人。坂本もそんな二人を見て、十分反省している事を感じた。

「ま、今回の事で、私が今更言うまでも無く、身をもってそれを実感した事だろう。だからあまり厳しい処分はしない。だが、勿論処罰無しという訳にもいかんぞ。さてミーナ、どうするかな?」

 ミーナに意見を求める坂本。

「そうね……。掃除当番一週間と言うところでどうかしら?」

「うむ、妥当なところだな」

 という訳で、二人の処分が決定した。

 

 二人が執務室を出ると、そこにはペリーヌが待ち構えていた。

「どうなったんですの?」

 早速処分を尋ねるペリーヌ。

「掃除当番一週間だって。思ったより軽く済んだかな」

 リーネが答える。そんなリーネを見て、ペリーヌは申し訳無さそうな顔になる。

「……ごめんなさい、私が……」

「え、どうしてペリーヌさんが謝るの?私達ペリーヌさんのお陰で助かったのに」

 ペリーヌの言葉に、不思議そうな顔で尋ねる芳佳。

「それは……」

 言葉に詰まるペリーヌ。と、ペリーヌはリーネがウインクをしている事に気が付いた。それはわざわざ言う必要はないというサイン。隠し事の一切無い関係が一番と言う考えもあるだろうが、時と場合によっては言わない方がいいこともある。今回のことはそういうことだ。

「べ、別に何でもありませんわ」

 ペリーヌはリーネに感謝しつつ、いつもの調子で啖呵をきった。

「とりあえずここで話をするのもなんだし、部屋に戻ろうか」

 芳佳が提案するが、ペリーヌはその誘いを断った。

「すいませんが、私は中佐と少佐にちょっと話がありますの。先に戻っていてください」

「うん、わかった、いこリーネちゃん」

「うん、芳佳ちゃん」

 ペリーヌの話が何なのか少し気になるリーネだったが、ここは二人の意見に従う事にする。

 

 ペリーヌは執務室のドアをノックすると、部屋に入る。

「失礼します」

「ペリーヌさん?どうしたの?」

 突然入ってきたペリーヌに、ミーナが少し驚いた顔で問いかけた。

「今日のことで話をしておきたい事があります」

 ペリーヌは今日の出来事の理由を全て報告するつもりだった。リーネには言う必要は無いと合図されたが、やはりこの二人に黙っている事は出来ない。

 ペリーヌの報告を聞いた後、一呼吸おいて坂本が声を発した。

「なるほどな。確かにペリーヌがなぜあんなに早く事態を察知して出撃できたか、疑問には思っていたんだ。そういう裏があったわけか」

「はい。だから今回の件は、私にも責任があります。私にも処分をお願いします」

 ペリーヌは自らにも処分を求めた。そんなペリーヌの態度に、坂本はやれやれと言った表情で頭を掻く。

「その話、宮藤さんは知っているの?」

「いえ、知りません。リーネさんがわざわざ言う事はないと……」

 ミーナの質問に少しうつむきつつ答えるペリーヌ。

 坂本はミーナと顔を見合わせた。どうやらお互いの意見は一致のようだ。

「ペリーヌ、お前に処分は下さない。どんな理由があれ、油断していたのはあの二人の責任だ。それに、リーネが黙っている方が良いと言うのなら、お前に処分を与えるわけにもいかんだろう。勿論私達もリーネと同じで、黙っていた方が良いと思うぞ。今回の件で、お前は宮藤の気持ちがわかったんだろう?だったらそれでいいじゃないか。部隊の絆が深くなったなら、それに越した事は無いさ」

「少佐……」

 坂本の心使いに胸が熱くなるペリーヌ。

 坂本はペリーヌの前に進み出ると、肩に手をかけ優しく語りかけた。

「ペリーヌ、お前は以前に比べたらかなり変わったよ。今日の出来事だって、お前が変わってきた証だ。私はお前をブリタニアでもずっと見てきたんだからな。よく分かる。……ペリーヌ、人はいきなりはなかなか変われないものだ。でもゆっくりでいいんだ。ゆっくり、皆と一緒に変わっていけばいい。焦る事なんて何も無いんだぞ」

 坂本の言葉に、ペリーヌは目頭が熱くなるのを抑えられなかった。そして改めて坂本に対する尊敬が増すと同時に、この部隊に居れる喜びを感じるのだった。

 翌日。 

 芳佳とリーネが早速罰の掃除を始めようとしていると、そこにペリーヌがやってきた。

「あれ、ペリーヌさん、どうしたんですか?」

 不思議そうに芳佳が尋ねる。

「わ、私も掃除を手伝いますわ」

 ペリーヌは掃除を手伝いに来たのだ。それは処分を受けなかったペリーヌのせめてもの気持ち。

「でも、これは私達の罰だし……」

 理由も無く手伝ってもらう訳にもいかないと言うのが芳佳の言い分。ペリーヌにしてみれば理由は十分あるのだが、説明できないのがもどかしい。

「り、理由はルームメイトですし……同じ隊の仲間ですし……と、友達ですし」

「えっと……最後良く聞えなかったんですけど……」

 またも最後は小声になってしまった。

「と、とにかく、私は掃除を手伝いたいのですわ!貴方達が不要と言うのなら、勝手にやるだけですわ!」

 ペリーヌは今にもモップを奪い取りそうな勢いだ。このままでは話が余計おかしくなってしまいかねない。そこで事情を承知しているリーネが二人の間に割って入る。

「芳佳ちゃん、折角だから手伝ってもらおうよ。断っても勝手に掃除するって言うなら同じ事だよ。皆で一緒にやろう?」

「うん、そうだね。そうしよっか」

 芳佳だってペリーヌが手伝うと言ってくれたのは嬉しかったのだ。リーネの言葉で素直に好意を受ける事にした。

 

  *  *  *

 

 それから一週間、結局ペリーヌは毎日掃除を手伝った。

 この件がきっかけで、芳佳とペリーヌの仲は急接近……という程単純には行かない。掃除中も何度も言い合いもしたし、それ以外でもいがみ合う事もある。でも二人の間の空気は明らかに以前とは変わっていた。

 人はそう簡単に変われるものではない。でも変わりたいと思い、その目標の為に努力すれば、きっと変わっていける筈。坂本の言葉を胸に、今日も頑張るペリーヌだった。

 

 


 
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