No.376985

【Fate/Extra小説】無限の剣製 vs 無限の氷造

やまおうさん

自分で作成したオリジナルサーヴァントを出演させたFate2次創作小説です。
プレイヤーは女主、所有サーヴァントは無銘のアーチャー
対戦者は、オリジナルサーヴァントのアーチャーというストーリーです。

無銘のアーチャー【公式を参照してください】

続きを表示

2012-02-12 22:12:29 投稿 / 全14ページ    総閲覧数:9481   閲覧ユーザー数:9340

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                   ●注意書き●

・”Fate/Extra ”の2次創作小説です。

・可能な限り、原作設定に基づいていますが、ところどころオリジナル要素も加えてあります。

・原作の設定に忠実でないと、不愉快を感じる方には朗読をオススメしません。

・女主もテロップの会話ではなく、直接喋らせています。

・女主とアーチャー(無銘)の性格と口調が不自然な部分があるかもしれません。

・登場するオリジナルサーヴァントは、作者のオリジナルです。(データ詳細は上記URL参照)

 ※”成長する”と過程で新しいスキルを繰り出したり、データには無いスキルも使います。

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 アーチャーと、女主。

 今度の対戦相手で、事前に調べて得る事が出来たマトリックスは…

 

 アリーナ内で、魔力を消費して作り出していた氷の武器を使い、

エネミーの群れを突破していた点から「氷使い」である点は、間違いない。

 

 「ふむ、おそらくはアレは、純粋な氷使いで間違いないだろう」

 「その根拠は?」

 「氷の力が付加されているような武器ならば、私の眼で見たものならば投影できるだろう、

しかし、視たところ、あのサーヴァントの武器の基本構成は”氷”以外のものはなかった。

 つまり、純粋な氷で創られた武器と言う結論は、間違いないであろう」

 「氷を魔力で作り出すって事は、もしかして…」

 「ほう、そこに気づくとは………成長したなマスター、

そうだ、あのサーヴァントも生前は、私と同じ魔術師(ウィザード)であったのだろう、氷に特化した家系のな」

 

 しかし、会話を試みたところ、無愛想で無口で何も喋ろうとはしなかったが、

敵サーヴァントのマスターである少女”星野 百合(ほしの ゆり)”は、金髪のツインテールが特徴的な少女であり、

気が強く思慮深く、よくいるワガママなお嬢様系ツンツンキャラと言ったところである。

 あの自分勝手な言いようはある意味、私のアーチャーと同類かもしれない。

 

 「あのワガママなマスターでは、サーヴァントは可愛そうではあるがな、

まあ、最も私も待遇も人の事は言えないがね」

 「それはどういう意味よ」

 「なぁにぃ、私の個人的な感想によるぼやきだ、そう深く気にすることもあるまい」

 「それはそうと、あのサーヴァントのクラスだけど…」

 

 アリーナ内では、彼女は氷の薙刀を作り出して、エネミーを倒していた。

 その点だけで言うならば、最も有力なクラスは”ランサー”である。

 しかし、アーチャーと同じく武器を、ある程度コントロールして作り出して使えるのならば、

そう決め付けるのは早計であり、ここはアーチャーの意見も聞くべきである。

 

 「あの手の魔術師は、雑魚相手に本気は出すことはまずしないだろう、

氷の武器は、作るのに造形しやすい点からも、いくつかの攻撃手段を持っていると考える方が妥当だ。

 あの薙刀による白兵戦は、あのサーヴァントの本来の戦術ではないであろう」

 「それじゃアーチャー、あなたの考えを聞かせて」

 「おいおい、それを考えるのはマスターである君の仕事のはずだが、まあいい」

 そう言うと、アーチャーは静かに眼を閉じて、数秒後思考したのち、眼を開いて言葉を口にする。

 「私と同じ”アーチャー”だ」

 「その根拠は?」

 「さっきも言ったであろう、白兵戦は元々の戦術ではないと!

ならば、白兵戦を得意とするクラスではない、むしろその逆で考えるならば、

遠距離を得意とするアーチャーしか、消去法で選択するものがない」

 「バーサーカーはさすがに無いと思うけど、”アサシン”の可能性は?」

 「気配遮断スキルがあるのであれば、わざわざ私達の前に姿を晒して戦うなどということをするはずがない、

武器を見せたり、白兵戦をすることを見せることに関しても同じだ。

 仮に敵が、嘘の情報を見せることが目的だったとしても、姿・武器などを見せてしまうことは、

姿を消して完全に情報を与えないことより、よっほど危険でありディスアドバンテージだからだ」

 「そっか、それはそうよね、変身や幻惑で姿自体を変えない限り、姿を晒すことも当然正体を見抜かれる要因になりかねない」

 「最言うとなマスター、情報偽装など弱いサーヴァントが行う手段なのだ」

 「どういうこと?」

 「簡単な話だ、過去の聖杯戦争においては、弱いサーヴァントは人を襲い、魂を喰らい強化する手段を取ってきた、

 だが、このセラフの聖杯戦争ではそれは出来ない、ならば弱いサーヴァントは

嘘の情報を相手にあらかじめ教えて相手を混乱させて、勝率を高める手段をとることが多いのだ」

 「弱点など知ったところで、それを再現できる武器や状況を作り出すことは困難、

 だから、強いサーヴァント達は、多少の情報を知られても問題ないのね」

 「むしろ傾向としては、強いサーヴァントほど自身の武勇伝を誇り、敵への”威嚇と警告”としている、

包み隠さずに、堂々と語ることを誇りとするサーヴァントもいるし、まあ様々だ」

 「あなたもその口?」

 「いや、あいにくと私には誇りなど無い身でね、しかも無銘の英霊だ、

無銘の英霊の正体など、誰も暴けるわけがない、ゆえに私にはマトリックスによる情報の優劣など存在しない」

 「そういう意味では、あなたは一番有利ね」

 「ああ、さて話を戻そうかマスター、

情報隠蔽や情報偽装をしないことを前提で考えるのならば、あのマスターとサーヴァント達の考えはどう取る?」

 「…自分達の情報をなるべく与えず、特に切り札は絶対に隠し通すかしら」

 「正解だ、しかも思慮深いマスターがついているのだ、

ゆえにあの白兵戦はあのサーヴァントの本来の戦術ではあるまい、遠距離とするアーチャーが本来のクラスであろう。

 私独自の考えならば、氷武器を白兵戦とし、遠距離に本来のサーヴァントの宝具を武器にしているのだろう」

 

 敵のサーヴァントのクラスは「アーチャー」

 修行。鍛錬によって培った洞察力。窮地において、その場で残された活路を導き出す戦闘倫理。

 ”心眼”を持つアーチャーが理論によって導き出した結論である、ほぼ間違いないであろう。

 

 「でも、氷使いの弓兵の英霊なんて聞いた事ないのよね」

 「別に伝承では氷使いだったとは限らないだろう、

その弓兵は、実は白兵戦もできる技能を持っていた、それが”氷”であっただけ、という解釈の方が辻褄は合う。

 伝承とて、その全てを書き残しているわけではないのだからな」

 「あなたみたいに?」

 「そうだな、そういう意味では私とあのサーヴァントの彼女とは近い性質かもしれんな」

 「えーと、あともう一つ、何か得た情報は…」

 「あのマスターが言った言葉を隠れて聞いた時か、たしか…”雪山なら無敵”だったか」

 

 雪山なら無敵、どういう意味であろう?

 「単に雪山なら戦い慣れていて地の利があるという解釈もあるが、この場合はそういう意味ではないであろう」

 「そうすると雪山なら有利なスキルや宝具を持っているということかしら」

 「間違いなく後者であろう、だがマスターよ、私にはなんとなく正体が掴めた気がするぞ」

 「え、本当に?誰誰」

 「すこしは自分で考えたまえ、あくまでも私の推測は参考程度のものにしてもらいたいな」

 「何よケチね、でも雪山が得意な弓兵の英霊なんて思いつかないんだけど、しかも日本限定よね」

 「まあその常識に捉われた考えでは、一生辿り着けないだろうな」

 「何よ、じゃすこしぐらい教えてくれてもいいじゃない」

 「さきほど言ったとおりだ、伝承は全てを語っているとは限らないし、見方や解釈の仕方では見方も変わってくる」

 「えーとつまり…?」

 「ではこう考えるがいい、何故、剣使いである私がアーチャーであるのかを」

 「えーと、剣や弓とか投影できて、武器として使えるなら?」

 「ならば、彼女も同じだ、私と同じく氷の武器を作り出せるからこそアーチャーだ」

 「ああーもう、わからない、教えてよアーチャー、教えて教えて教えて~」

 「おい、ダダこねるな、まったく子供かキミは」

 「だって…」

 「ではキミは推理小説などは読むほうか?」

 「?…すこしは」

 「では、簡単な場面をこれから言うから、答えの凶器を言い当ててみたまえ、

ある人物が殺された、容疑者は…そうだな、適当に”聖杯くん”とでも呼んでおこうか。

 犯人は聖杯くんであるのは間違いないが、決定的な証拠となるものが何もないため、逮捕に至らない」

 「ベタね」

 「聖杯くんには凶器を隠す時間はなかった、なのに凶器が消えた、

そして殺害された被害者の傍には小さな水溜りができていた。

 さあマスター、凶器は何で、どうやって殺害されたかわかるか?」

 「馬鹿にしないでよ、こう見えても視聴者が薦める推理小説ベスト5を全て読んだ事あるんだから」

 「そんなのは知らんが、ではマスター、答えを聞こう」

 「凶器は氷でしょう、それで被害者を刺して放置、あとは時間が立って溶けて水溜りになったんでしょう」

 「そこまで推理できるのに、何故肝心のサーヴァントは推理できないのかねキミは」

 「う、うるさいわね」

 「私の剣の使い方も、凶器の氷も同じだ、刺す手段のために射る、

その方法と戦術ゆえにアーチャーと区別されているだけに過ぎない。

 さて、ここまで言えばどうかなマスター」

 「!、伝承では氷使いであるだけで、別に弓兵であるとは限らないってことね」

 「正解だ、日本に存在している黒髪の女性の容姿で、雪山に関連する氷使いの英霊など、もう一つしかないだろう」

 「”雪女”、それが彼女の真名ねアーチャー」

 「私と同じ結論に辿り着いたなマスター」

 

 情報マトリックスが「E」となりました。

 「雪女、てっきりキャスターとかだと思ったけど」

 「無銘とはいかないが、雪女の戦う情報など伝承には存在していないからな、

ゆえに最も勘違いされやすい存在と言える」

 「アーチャー、あなたから見て、今回の相手の技量と勝算はどのぐらいなの?」

 「そうだな、白兵戦が出来ると言ってもたかがしれているだろう、

名を馳せるほどの腕前ならば、伝承にまったく記録が残らないのも不自然と言えるからな。

 本質は遠距離攻撃、伝承には宝具などは存在しないが、在ってもさほどたいした代物ではあるまい」

 「つまり?」

 「私と同じく武器を作り出す力と戦う術を持っているが、全てにおいて私を下回っている、

当然だろ、”鉄で作られた武器が氷に劣るなどあろうはずがあるまい(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)”。

 ゆえにあのサーヴァントは脅威ではない、私の劣化版とでも言っておく方が妥当であろう」

 「良かったわ、今回はさほど苦戦しなさそうね」

 「まあ唯一私が劣る点で言えば、燃費かな」

 「燃費?」

 「そうだ、投影には当然魔力が消費される、何もない無から全てを作り出すのだからそれ相当の魔力がいる、

だが氷にはさほど魔力は必要ない、何故なら材料はどこにでも存在しているからな。

 あとはそれを単に”冷やす”ことに魔力を使い、空気の水分を冷やして凍らせるだけでいい。

 おそらく燃費で言えば、雪女のほうが非常に効率がよく、長期戦に向いていると言えるだろう」

 「じゃ、可能な限り短期決戦で仕留めないといけないってことね」

 「ああ、だが心配はいらんよマスター、氷の武器だろうと盾だろうと私に貫けぬわけがないからな、

キミは後ろでコタツにでも潜って、蜜柑でも食べながら私の勝利を見守っているだけでいい」

 「でも、慢心は駄目よアーチャー、敵の宝具の正体がわからない以上、可能性が0ではないわ」

 「そうだな、キミの言うとおりだ、肝に銘じておこう」

 そして、月海原学園のエレベータに乗りこみ、決戦の場へと赴く。

 再び、魂と命が消えていく戦場へと。

 互いに向かい合っているが、似たもの同士と言うべきなのか、

私のアーチャーと、敵のアーチャーは腕を組んで眼を瞑り、考え事をして何も喋らない。

 この空気に耐えられなくなった時に、敵のマスターが口を開いた。

 「何あんたら、黙っているのがカッコイイとか思っているクチ?、

それとも弱い犬ほどよく吠えると思われたくないから、黙っているわけ?」

 「……」

 「……」

 「この決戦前の会話も、この闘いの醍醐味だと思うだけどね、

あなたはどうかしら、赤いアーチャーのマスターさん」

 突然の質問に、女主が戸惑っている。

 「え、私ですか、どうしょう、何を喋ったらいいか毎回悩んでしまいます」

 「何でもいいのよ、挑発するのも良し、威嚇するのも良し、懺悔するのも良し、後悔するのも良し、

どの道、それが相手の最後の言葉であり、遺言みたいなものになるんだしね」

 「…あなたは何故、この戦いに参加したのですか」

 「お決まりの台詞ね、まあいいわ、失った人を取り戻そうと思ってね、

待っているのも結構疲れるのよ、やっぱり幸せは待っているだけじゃなくて、自分から掴まないと駄目ね」

 「恋人だったんですか?」

 「そんな大層なものじゃないわよ、それであなたはどうして戦っているのかしら?」

 「わからないです、何も…」

 「あら、自分は話してくれないの?随分と警戒心が強いのね」

 「違うんです、本当に何もわからないんです」

 「そう、そういうことね、なら私も何も聞かないわ

アーチャー、あなたからは何かないのかしら」

 「……」

 「普段はお喋りなくせに、何ダンマリしているの?

…あなたのそういうカマトトぶっているところ嫌いなんだけど」

 「……これから殺す相手と喋っても意味はありません」

 「有益の問題じゃないのよアーチャー、いいから私が喋れと言っているのだから喋りなさい」

 「止せアーチャーのマスターよ、喋りたくないと言っている者に語られる言葉に何の意味がある、

己の意思で話さぬ言葉の会話に、意味など存在しない」

 「面白いことをいうわね赤いアーチャー、意味なんて無くても私が聞いていて楽しければそれでいいのよ、

例え貴方達が面白くない会話でも、私から観る解釈や面白さだってあるかもしれないでしょう」

 「なるほど、人の不幸は蜜の味と格言があるように、他人の喧嘩などを喜んで見るタイプだなキミは」

 「そうよ、人間の本質は欲望による自分勝手と奪い合い、だけど奇麗事をいうやつはそれを否定したがるわね」

 「でも、それが人間の全てじゃないと思います」

 「そう、たしかに聖人や善人もいるわね、でもね赤いアーチャーのマスターさん、

その奪い合いの代名詞とも言える、この聖杯戦争に参加しているあなたも同類なのよ」

 「うっ…」

 「記憶喪失とか言い訳にして、奇麗事をほざくあなたがどんな死に様をするか楽しみだわ」

 「残念だが、その期待には答えられないな、雪女のマスターよ」

 「ほう、気づいたか、してその理由は?」

 「簡単なことだ、キミのサーヴァントでは役不足だからだ」

 「アッハハハハハハ、いいわ、その驕りを打ち砕いて屈辱に満ちた顔を見せてもらおうかしらね」

 「プライドが高いマスターだ、うちのマスターにもすこしは欲しいな、

最もキミのプライドは少々高すぎて、冷静にまわりを客観的に見る事ができないようだが」

 「……赤いアーチャーさん」

 初めて雪女のアーチャーが口を開く

 「あと10秒で到着します、残りは決戦にて口ではなく力で語ってください」

 そう言いあっているうちに、エレベータは最下層に到着する。

 

 「じゃ、お互いに存分に殺し合いましょう、偽善者のマスターと自惚れたアーチャーさん」

 「フッ」

 「……」

 四人はエレベータから降りて、決戦のフィールドに降り立つ。

 こうして、聖杯戦争の*回戦、二人のアーチャーの決戦が始まる。

 「冗談で言ったのだがな、本当に礼装で持ってきたのかそのコタツ」

 「そうだけど、何か問題があるの?」

 「いや何でもない、ではマスター、今回は指示は私の判断で良いのだな」

 「うん」

 「では期待に答えるとしよう」

 「さあ行きなさい、私に恥をかかせるじゃないわよ雪女」

 「ええ、そのつもりですマスター」

 

 闘いが始まってから、すでに一刻が過ぎようとしていた。

 普通ならば、とっくに勝ち負けが決まっているのだが、

この闘いに限っては、未だに闘いは続いていた。

 「なるほど、たいした目利きと反応速度だ、

これはたしかに評価を改めなくてはならないな」

 5ターンほどで、私の行動パターンを見抜いたあのマスター。

 赤アーチャーの行動や、行動前の予備動作を見ながら、敵の行動を見抜き、

そのマスターからのギリギリに出される指示を、即座に対応する雪女のアーチャー。

 二人の連携は完璧であり、理想系と言っても良いであろう。

 「やりにくいな、そこまで腰と足を低く落とされては狙いにくい、

こういう相手は、彼女(メドゥーサ)以来だな」

 腰を地面に接するギリギリの低さまで落として、地面から数センチの高さほどしかない。

 この高さを維持したまま、地面を舐めるかのごとく、低空滑走するかのように接近してくる。

 足元ほどの高さしかない敵を狙うのは非常に困難である、

何故なら、自分もある程度腰を落とすか、下に向けて体と腕を傾けて攻撃・防御しなくてはならない。

 この体制からの攻撃に腕の筋力や、腰のひねりや、脚力が伝わるはずもない、

しかも地面に向かって攻撃することは、体勢戻すのにも時間差による隙が生じやすいためである。

 逆に相手からすれば、慣性力をそのまま活かして、低空体勢のまま攻撃したり、

体を起こしながら攻撃できるため、勢いを殺さずに攻撃に伝えやすく、体勢を戻すため隙が生じにくい上に、

攻撃が命中するための体の面積も、最小限に抑えることが出来るのである。

 だが、本来ここまで腰を落としての低空移動など出来るものはいない。

 理由は単純である、腰を落としすぎて、地面との距離が近すぎるため、

脚力を十分に活かせるだけの距離と隙間がないため、満足に足を動かしたり地面を蹴れないためである。

 だが、雪女はそれをなんなくこなしている。

 「骨盤による脚部の稼動範囲の広さか」

 女性の骨盤は、子を宿して育てるために広く大きい構造となっている。

 そのため、脚部の稼動範囲が男子より広いため、女子の方が男子よりも脚部の動かせる角度と範囲が広く、可動性が高い。

 これにより、走る時に犬のように急激な緩急からの瞬発や、急な横移動の連続移動などが可能となる。

 その可動力を最大に活かす事で、地面スレスレの低空移動を可能としている。

 雪女の低空移動と低空攻撃により、アーチャーの攻撃の威力と速度と命中精度は八割殺されている。

 「ちぃ」

 そして、アーチャーの攻撃を平然と打ち合う雪女のアーチャー。

 「たいした密度の強度だ、私の干将・莫耶と互角に打ち合えるとは」

 「……」

 ここまで互角に打ち合っているのに、呼吸すら乱していない雪女。

 「しかも、氷の屈折調節で武器を見えなくすることもできるとはな、

彼女(アーサー王)で慣れているとは言え、やはりやりずらいな」

 強度が高い氷とは言え、まともに鉄の武器とぶつかりあえば破砕されることは明白である、

しかし、氷の幕による光の屈折調整により、氷の武器を不可視することが出来るのである。

 この不可視により、距離感とタイミングが微妙に狂わされているため、アーチャーと互角の打ち合いを可能としている。

 さらに長期戦になれば、燃費が激しいアーチャーの方が不利である。

 「だが、ここまでだ!」

 その瞬間、さきほどから振るっていた、三組ニ対の剣が全くの同時にクロスを描き、

死を確定させる刃の多重層を描きなら、雪女に全方位から迫っていた。

 ”鶴翼三連”

 アーチャーが持つ、干将・莫耶を複数使用した必殺技である。

 雪女は上空へと飛び、両手に氷の双剣を作り出して、一つ目の一組二対のクロスを弾き、

氷でコーティングした両足の蹴りで、二つ目の一組二対のクロスを弾く。

 三つ目・最後の一組二対のクロスが後ろから迫ってくる。

 だが、雪女は髪を凍らせた氷髪刃を振り回して、最後のクロスも弾き返す。

 「やるな、だがその一瞬が命取りだ」

 全ての攻撃を防ぎきり、安堵した瞬間をアーチャーを待っていた。

 偽・螺旋剣(カラドボルグ)を投影して、鶴翼三連に対応している間に用意して狙っていたのである。

 上空へと飛んでしまっているため、もはや回避は不可能。

 「我が骨子は捻れ狂う」

 アーチャーから放たれた偽・螺旋剣(カラドボルグ)は、確実に雪女を捉えていた。

 「アーチャー(雪女)GUARD(ガード)しなさい」

 「無駄だよ、氷では偽・螺旋剣(カラドボルグ)は止められ…、なっ!?」

 信じられないモノを見た。

 それは、雪女がとっさに張った薄い氷の幕に、偽・螺旋剣が止められていたと言う事実であった。

 「なん……だと…」

 何事もなかったかのように、雪女は地面へと着地する。

 「いいわねその顔、信じられないって顔がすごい楽しいわよ、赤いアーチャーさん」

 敵のマスターがその光景を嬉々として笑っている。

 「偽・螺旋剣(カラドボルグ)は私の貫通技では一番の自信作なのだが、

こうも簡単に、即座に張られた氷程度に阻まれてしまうとはな」

 「……」

 

 ■補足■

 「Fate/stay night」で投影されるのは「偽・螺旋剣Ⅱ」

投影は精度によるランクがワンランクダウンするが・・・

それでも真名を唱えて発動すれば、空間ごと捻り貫く無敵の徹甲弾と化す。

(偽やⅡが指す通り、ケルト神話に登場するカラドボルグとは別物)

 

ヘラクレスの十二の試練…物理的な手段、魔術を問わず『ランクB以下の攻撃を全て無効化する。』を発動している

彼に対して、防御体制ではダメージを与える事はできなかったが

墓地での一撃や、固有結界発動後に致命傷を与えているところから様々な憶測が出ているが

最低Bランク~A+の威力を備えていると言われている。

 

 

 「Fate/Extra」で投影されるのは「偽・螺旋剣」

違うシリーズでの投影となる為、さらにランクが低下した投影や区切りでⅠ扱いの考案もされていたが

偽・螺旋剣 = 偽・螺旋剣Ⅱの設定でだいたいまとまっている。…が

オンラインゲーム「MHF-G(モンスターハンターフロンティア)」の特典コラボ・装備武器として

投影・偽螺旋剣Ⅰ~投影・螺旋剣Ⅴという剣が登場してしまった為、

やはりランク別の螺旋剣が存在しているのではないか説で、偽・螺旋剣 ≠ 偽・螺旋剣Ⅱと言う考察も出ている。

 

 作者自身はどちらでも良いのが、問題は真名解放していない通常攻撃時、

空間を貫くほどの出力が出ない物理徹甲弾として扱っております。

「我が骨子は捻れ狂う」は、プリズマ☆イリヤで投影した偽・螺旋剣を剣から矢へ骨子変換している描写がある為、真名という認識ではありません。

 

 「それがキミの宝具か?」

 「……」

 雪女はやはり何も答えない。

 「褒めて情報を聞き出そうとしても無駄な事よ赤いアーチャー、雪女にその手の話術は通用しないわ」

 「なるほど、だからこそ黙っているわけか、たしかにやりにくい相手だ」

 「でも知られたところでさほど問題ではないのではなくて?雪女」

 「…マスター」

 「戦術としてはあなたの無口も納得できるけど、正直つまらないのよ、何も喋らない戦闘なんて特にね、

なんというか華がないのよね、せっかくの戦闘なら会話で盛り上げる方が楽しいでしょう。

 すこしは戦いをやり遂げるじゃなくて、楽しむってことをしなさいよ」

 「……」

 雪女に華を求める敵マスター、なんというか赤セイバーと気が合いそうな性格だ。

 「雪女、忍びとしての戦い方はやめなさい、

どうせ、こういう決闘においてはさほど役には立たないわ」

 「忍び!?、そうか、さきほどからの戦い方も…私にとってあまり経験が無いわけだ」

 常人は足元を守る意識や技術が低いため、さきほどからの低空移動による攻撃は非常に脅威となる。

 あの低空体制からでは水平移動時は足元しか狙う事ができないが、

足元に傷を負わせれば、それは戦場において完全な致命傷である、その後ろくに動けなくなり殺されるからである。

 だが、慣れていないとは言え、アーチャーも足元に傷を負わせるほど間抜けでもない。

 同じ事を何度も繰り返して、もう何度も足元を狙う攻撃を受け流している以上、致命傷は与えられないと考えるべきである。

 「……そうね、元々忍びの技術は相手の”奇襲”と”隙”を狙い、反撃もさせずに瞬時に暗殺するもの、

このような決戦の場においては不向きだし、通用するのは低ランク程度のサーヴァントぐらいなものね」

 「!」

 「あまり趣味じゃないけど、マスターの希望通りに致しますわ」

 「いいのか、さきほどの戦術の方がまだ私に勝つ勝算が高かったのではないか」

 「勘違いしているようねアーチャー、私は戦闘技術が未熟で弱いから、忍びの暗殺術を使っていた訳じゃないわ、

単に殺す結果ならば、苦労せずに楽に殺せるからやっていただけのことよ。

 私は、どっかの騎士みたいに戦いに喜びや快楽や生きがいなど感じないし、無駄な騎士道や美学も求めないわ」

 「だろうな、しかも先ほどの戦術も忍びの本来の戦い方ではないのだろう」

 「ええ、忍びの本質は完全なる”暗殺”、

さきほど言ったとおり”奇襲”と”隙”で瞬時に暗殺して、目視も声も上げさずに絶命させることに費やす。

 瞬殺できなければ他者に目視される可能性もあり、声など上げられれば他の敵に察知と増援を招いてしまいますからね。

 ゆえに相手と対峙して戦い始める決戦において、暗殺などを得意分野とする忍びほど不向きなものはないですね。

 低空姿勢での攻撃は、足を奪うことだけに観点をおいているため、奇襲しても必ず悲鳴を上げられてしまうため、

奇襲の暗殺には、このような戦術を取る事は絶対にありません」

 「ではさきほどの低空姿勢の戦い方は、忍び同士が対峙した時の戦闘体勢、いわば忍びの決戦用戦闘体勢と言ったところか」

 「ご明察ですわ、そしてそろそろいいですか、赤いアーチャーさん、

もう十分に時間は取ったから、呼吸や精神的動揺も落ち着いたでしょう?」

 「見抜いていたか、ではそろそろ再開するとしようか」

 「ええ、滅多にお見せしないですが、雪女の正当武術を披露いたしましょう」

 「残念だがキミの技量と力では私には勝てない」

 「へーえ、それは何故かしら?」

 「簡単なことだ、単に相性の問題だよ、たしかにキミは強いが私には勝てない、

どうあがこうとも、”氷は鉄に勝てない”という事実だ」

 

 再び繰り返される攻防、しかし今度はさきほどと様子が違う。

 低空姿勢による戦術をやめた雪女は、普通の体勢から踏み込みと腰に力を入れて、力を十分に伝えた一撃を繰り出してくる。

 さきほどまでの攻撃と違い、一撃一撃に重みがあるため、アーチャーの捌きも容易ではなくなった。

 女ゆえの筋力の弱さと氷の強度不足を補うように、勢いを殺さずに回転しながら遠心力を利用して攻撃を繰り返してくる。

 「くっ、弓兵でありながら、ここまでの白兵戦が出来るとはな」

 「それはお互い様でしょう」

 「不可視の武器に加えて、視覚外からの氷髪が厄介だな、

この流れるような攻撃と、隙を補いながら繰り出される手数の多さの技術は感服する」

 「お褒めの言葉感謝しますわ、だけど喋っているほど余裕があるのですか」

 雪女は、両手の薙刀・両足による氷足刀蹴・氷髪刃を巧みに利用している。

 薙刀は、担い手しだいで長刀と槍と棒の長所を全て扱う事が出来る武器である。

 刀の斬撃は、重量と勢いがなければその威力を発揮できないが、

元々、重量と遠心力による薙ぎ払いと突きを戦術とする槍の先端に付けることで、

長い射程による槍と、刃の威力を十分に活かした斬撃を可能とした。

 さらに棒と同じく両端の先端を利用することで、振った後の隙を補う事が出来る。

 氷の薙刀は、氷で形成されているがゆえに重量そのものは少ないが、

逆に軽量ゆえに、通常の薙刀より早い切り返しと速度を出す事が可能となる。

 そのため、歴戦のアーチャーと言えど、そう簡単には切り込む事ができない。

 さらに雪女は氷でコーティングした足による足刀蹴や、

回転時に背中の一瞬の隙を、遠心力のついた氷髪斬で補い、攻撃と防御を一体化させ円滑に繰り返している。

 例え打ち合い時に氷が砕けても、すぐに氷を形成して持ち直してくる、

しかも絶えず不可視にするため、間合いとタイミングがどうしても視認している時よりズレてしまう。

 「なるほどたいした腕だ、これほどの戦闘技量を持ちながら忍びとは、表舞台ならさぞ有名な英霊となっただろうに」

 「愚考ね、いかに個人が強くても戦争には勝てない、強者の名は敵を作るだけの称号でしかないわ」

 「たしかに、それを名誉と思うのは騎士とかの連中ばかりだしな」

 「その生涯で天寿を迎えた英霊は数少ない、名誉の為に死ぬなんて理解できない精神論だわ」

 

 激しい攻防戦を数ターン経過後、再び互いに距離を取る。

 「ではキミは何のために強くなろうとしたんだ」

 「生きるためよ、最も単純で純粋で本能と言える理由において他無いわ、

そしてそれを邪魔をするのならば、その障害を排除するだけよ!今までもこれからも」

 そう言うと、雪女は再び腰をすこしだけ落として中腰の構えとなり、

片足と薙刀の先端を前方に出して、手を添えて突きの溜め体勢を取る。

 「その構えは…」

 「後の時代に考案されている”平手突き”と言われているわね、

この技は、私が若い頃に編み出して一度しか使ったことのない技よ」

 「一度しか…?」

 「そう、大概は暗殺してしまうか、普通の攻めで倒せてしまうから出す機会がなかったのよ」

 「そうか、つまりキミの”必殺技”というやつか」

 「そんな大層なものじゃないわよ、たんなる技の応用よ、

でも構えないと、死ぬわよアーチャー」

 「いいだろう…ご自慢の技見せてもらおうか」

 その刹那、凄まじい瞬発力で加速して、一瞬にしてアーチャーの間合いまで入りこむ。

 (早い!だが避けれないほどではない)

 アーチャーは素早く横に飛び、飛び込んできた雪女の突きを回避する。

 (だが、ランサーでも騎士でもない彼女がただの駿足な強突だけとは考えれない、

おそらく、まだこの技には何か”ある”)

 「アーチャー!」

 「マスター!?、…!!」

 マスターの声に反応した瞬間、横へ飛んだアーチャーの前に突然視界が歪む。

 いや違う、何か視界を歪ませるものがアーチャーに向かって飛んできているのだ。

 それは雪女が、氷の武器を不可視にしているときの光の屈折と似ている。

 「ちぃ、分身か」

 アーチャーの目前で氷の屈折が解けて、可視となり出現するもう一体の雪女。

 「はああぁぁ!」

 出現した雪女の突きと、最初の突きを避わされた雪女が薙刀を”矢”にして、

側面へ飛んだアーチャーに向かって狙撃する。

 雪女の突きと、薙刀の射撃を同時に受けて、遥か後方まで吹っ飛ばされるアーチャー。

 「アーチャー」

 「とっさに体を捻り、致命傷を避けましたか」

 傷を負いながら、なんとか立ち上がるアーチャー。

 先に攻撃した雪女の分身は、氷の人形と戻り砕け散る。

 「なるほど、本体と分身を用いた二連挟撃か…」

 「ご明察の通りです、先にあなたを攻撃したのは、

私が作り出した氷の人形、それに私の姿を魔力で映していたものです」

 「回避すれば、後ろのキミが突撃しつつ、前の分身が追撃を放つ、

逆に防御すれば、後ろからキミが人形ごと私を貫く追撃となるわけか」

 「”幻双陣(げんそうじん)”、私が唯一名前をつけた技です」

 「だが今ので仕留められなかったのは失敗だったな、トリッキー技ではもう通じない」

 「では試してみましょう」

 再び、雪女が自分の氷の分身を作り出し、自らの姿を映し出す。

 そして、二体とも一度不可視になり、その後、姿を現すと前後一列に並んでいた。

 「!」

 「前衛・後衛、どちらが本物・分身かは判断不可能です」

 「そういうことか」

 「どういうことなのアーチャー」

 「分身を一体作り、前後一列に並び、ニ体まったく同じ速度で同時に突撃してくる。

 回避すれば、前衛が薙刀を追撃として射り、後衛にも突撃されてしまう、

しかもさらに後衛の追撃後、残った前衛が再び追撃してくる。

 前衛が分身の時、こちらが前衛の突きに全力で対応すれば、隙だらけの私に後方から貫いてくる。(前衛が本物として対応)

 前衛が本物の時、こちらが前衛の突きを軽く受け止めようとすれば、そのまま前衛に貫かれる。(前衛が分身として対応)」

 「どちらか本物か見切らない限り、対応はできませんよ」

 再び、凄まじい瞬発力で加速して、一瞬にしてアーチャーの間合いまで入りこむ。

 「アーチャー!」

 「!」

 「次はその心臓、貫かせてもらいます」

 だが、幻双陣はアーチャーには届かなかった。

 「なっ!」

 「熾天覆う七つの円冠(ロー・アイアス)

 アーチャーの『投影』して使用する防御用宝具。

 いかなる攻撃も呪いも、この壁の前にはけっして届かない。

 攻撃を防がれた雪女は即座に間合いを離して、アーチャーも追撃はしない。

 「弓兵が盾を持っているのは、何もキミだけではないということだ」

 「アイアスの盾を持っているとは、あなたは一体…」

 「キミと同じような存在だ、氷ではなく剣の贋作者(フェイカー)と言うべきか」

 「剣の…、まさかさっきの盾も、その双剣も全て魔術師としての『投影』の力!?」

 「さすがは同じ魔術師だ、私の言う事を一で十を理解したか」

 「自然界の現象である冷却でなく、幻影である投影を極めたと言うの」

 「そうだ、キミの技の礼として見せてやろう、極限まで極めた極地を!」

 「まさか!…使えると言うの、伝説にして最強の魔術を」

 「マスター、許可を頂きたいのだが…」

 「ええ、競り合いが互角なら消費の激しい長期戦は不利よ、いっきに決めてアーチャー」

 「了解したマスター、待たせたな氷の魔術師よ、

これが”剣を極めるということだ”」

 

 その瞬間、アーチャーを取巻く磁場と魔素が変化して、大気が揺らぐ。

 「I am the bone of my sword(体は剣で出来ている)

 「詠唱ですって!?」

 「I have created over a thousand blades(幾たびの戦場を越えて不敗)

        Unknown to Death(ただの一度も敗走はなく)

        Nor known to Life(ただの一度も理解されない)

 Have withstood pain to create many weapons(彼の者は常に独り 剣の丘で勝利に酔う)

 Yet, those hands will never hold anything(故に、生涯に意味はなく)

          So as I pray(その体は・・・)

       Unlimited blade works(きっと剣で出来ていた)

 圧倒的な魔力が空間を幻想へと侵食していく。

 数秒後、その世界の景色は全てが変化して、アーチャーの心象風景が具現化されていた。

 「やはり固有結界…辿り着いたと言うのアーチャー、剣戟の極地に」

 「ご覧の通りだ、ここは無限の剣製、剣戟の極地…恐れずしてかかってこい」

 アーチャーが腕を振り下ろすと、上空から無限の剣が飛んでくる。

 「くっ」

 雪女は、再び目の前に氷の壁を形成して、全ての剣撃を防ぐ。

 「なるほど読めたぞ、キミのその氷の壁は”空間”を凍結させたものだな、

ゆえに空間や因果に作用する力でなければ、破ることが出来ない絶対防御壁というわけか

 どおりで、私の偽・螺旋剣(カラドボルグ)を容易く防げるわけだ」

 「だが、防いでいるだけでは勝てんぞ」

 さらに後方からも剣の流星、前方に加えて剣の嵐がより一掃激しくなる。

 雪女も前方は空間凍結させた氷の壁で防御して、後方は氷の矢の連続掃射で迎撃対応するが、

鉄の剣の前では、十本中一本が相殺、二本が衝突した衝撃で軌道を逸れるが、残りは全て雪女に降り注がれる。

 雪女の体が鉄の剣で串刺しにされていく。

 「…」

 「ほう、自らの痛覚神経を遮断できるのか、

刺さった傷口ごと凍結させて止血して、かつ歪な剣の鎧にするとはたいした根性だ」

 アーチャーの言ったとおり、全身を貫く激痛の電気信号を停止させている。

 刺さった剣も傷口ごと凍結させて止血するぐらいしか、臨時の応急処置が取れない。

 雪女のマスターは、さきほどHealを繰り返しているが、もはや時間の問題である。

 「!」

 雪女の容姿が変化した、全身の肌が白くなり髪が青く変色した。

 それは宝具を持たない彼女の切り札、自らの肉体を氷の精霊(半エーテル化)化させることにより、

氷の造形速度・密度力を格段に強化させ、全てのステータス・パラメータがワンランクアップし、

半エーテル体となる事で、人間としての血液や急所が無くなり耐久性も上昇する。

 また、周囲の冷気を取り込むことで体を修復する(HP回復)も出来るようなる。

 見た目は化け物と化す変化であり、まさに妖怪の雪女らしい風貌と化す。

 「雪女化したか、だが…」

 たしかに雪女の迎撃対応も強化された、十本中五本は相殺、四本は軌道逸れとなったが、

 それでもわずかに抜けてくる鉄の剣により、ダメージを加算し続けている。

 「…」

 さらに降り注がれる鉄の剣の嵐に、なす術なく追い詰められていく。

 もう全身の至るところを貫かれて、半死の体と成り果てていた。

 いくら痛みを遮断しているとは言え、全身に鉄の剣を突き刺さっているのだ。

 痛みを遮断しても、それは無敵になったというわけではない。

 体の部位が破壊されれば、痛みを感じずとも動かせずに使いものにならなくなるのも必然。

 すでに全身を鉄の剣で貫かれ、ボロボロに壊されている体に加えて、剣の重量で地面へ縫い付けられている。

 もはや満足に体を動かすことすら出来ないであろう。

 「もう止せ、キミはよく戦った」

 「ハァハァ、私はまだ、まだ負けていない」

 「相手と相性が悪かった、今回はたまたまそういう結果になっただけだ」

 「私は…、私は…」

 「すでに死んでいる身である我らサーヴァントに、生など求めるだけ無駄だ」

 「誰が生きたいなんて言ったの?、何のために強くなったかの質問に答えただけでしょう」

 「!?、生きたい為に強くなろうとして、強くなり生きていたのではないのか」

 「生前の話はね、でも今は違うわ、サーヴァントの身で生なんて求めていないわ」

 「そうか、私の早とちりだったな、では悔いなく負けを認めるがいい雪女」

 「認めるわけにはいかない、今度こそ、今度こそ…守ってみせる」

 「?」

 「私の血を引いた子孫を死なすわけにはいかない、だから…今度こそ守らなきゃならないのよ」

 「そうか、それがサーヴァントのキミが戦う理由か」

 「ハァハァ…」

 「アーチャー」

 「何しているマスター、ぐずぐずしていると魔力切れになるぞ、

早くトドメを、指示を出すんだマスター」

 「…」

 「迷う必要などない、情けをかければやられて私達が死ぬ事になるのだぞ」

 「…雪女、もう良いです」

 「な、何を言っているのマスター」

 雪女のマスターが穏やかな口調で語り始めた、さきほどまでの口調と違って優しい口調であった。

 「現実にいる私の命はもうあと僅かなの、不死の病に犯されて、余命ももう僅かしかない」

 「!」

 「元々、私は病気を治したいから、生きたいからって理由でこの聖杯戦争に参加したわけじゃないの」

 「マスター、何をおっしゃっているのかわかりません」

 「どうせ死ぬなら、最後ぐらい良い夢を見たいじゃない、だからお祭りみたいな感じに参加したの、

でも人の命を奪い合う祭りだと知って騙されたと思ったときは、もう後の祭りだったわ」

 「…」

 「初めての対戦者を殺したと知った時、私はあなたに命令したでしょう、『私を殺して』って、

令呪を使ってない命令だったけど、あなたは拒否した」

 「当たり前よ、どうしてあなたが誰かのために死ななくてはいけないの、

人より辛い目に遭い、不幸な体験をしているのに、何故理不尽に死ななくてはいけないの」

 「そうかな、みんなは私の事を哀れんだり、命は大事にとか言ってくれるけどさ、

でも何もしてくれないし、病気で苦しんで私を無理やり延命させたりと、エグいことする偽善者ばかり」

 「!」

 「どうしてかな、なんで素直に死なせてくれないのかな、不死の病気ならそれはもう天命じゃない、

人はどうせいつか死ぬだから、それが早いか遅いかだけでしょう。

 死ぬたがっている人間を無理やり延命させるのって、本人達にとっては良い事しているって錯覚して自己満足しているだけど

本人にとってはすごい迷惑なのよね、治る可能性があるならともかく、治らない病気に対して

”いつかは、やがていつかは”なんて~曖昧な希望を持たせて生かし続ける鬼畜者どもじゃない」

 「マスター、あなたはだから死ぬたがっていたの」

 「そうだよ、でもあなたがすごい怒るからさ、すこしは考え直したんだよ、

このまま勝ち抜けるなら、病気を治すのもありかなって、

勝ち抜いた他のマスターだって、覚悟を決めて人を殺した同じ者同士だし」

 「そうですマスター、だからこそ私は…」

 「でももういいよ雪女、別に私はそこまでして勝者になりたいわけでもないだし、

もし運良く勝ち抜いて、なれたらそれはそれでいいかなって程度の願望だしね。

 だから死ぬことになっても後悔はないし、せっかく参加したからには最後の瞬間まで楽しまないとって思って、

高飛車なお嬢様キャラ演じていたけど、あなたの苦しむ姿を見ていたらもうどうでもよくなったの」

 「違うわマスター、私は苦しんでも死など望まない、あなたの生だけを望んで戦っているのです、

だからお願い、望みを捨てないで、諦めないでください」

 「だからもういいって、その私が生きたくないって言っているだから、もう楽になっていいよ」

 それは悲しい価値観の違いからか、苦しむ人間には延命より楽にしてあげる方が慈悲である。

 そういう価値観を持つマスターと、生きるために他人の命を奪ってきた雪女との間に生まれた亀裂であった。

 「希望を捨てないでください、聖杯戦争に生き残ってください、

あなたの望みで母上を蘇らせて、私の望みであなたの病を治して、現世で幸せに生きてくださるとそう誓ったではありませんか」

 「……もういいのよ」

 「またしても、人間なんかに、醜く生きている他の人間なんかにぃー、私の娘を殺されてなるものかあぁー」

 雪女が激しく吼えた、それは初めて生の感情を曝け出した悲鳴であった。

 「だがキミでは私には勝てない、そしてキミ達の事情など私達には関係ないことだ」

 アーチャーは冷酷に切り捨てるかのように言い放つ。

 「茶番はここまでだ、さあマスター、最後の指示を出したまえ」

 「アーチャー、二人の意志に敬意を持って倒しなさい」

 「そんな必要などないが、了解した」

 「うあああぁぁ、人間どもがああああああぁぁ」

 「キミのマスターは死を望んでいるなら、それに従え雪女」

 そして、アーチャーが再び剣の嵐を降らせ、さらに地面にいる彼女に対して、

”鶴翼三連”を放ち、さらに追い討ちとして”偽・螺旋剣(カラドボルグ)”までも放つ。

 もはや逃れようがない絶対なる死、アーチャーの必殺技の集中攻撃。

 「アーチャーあああぁぁぁぁ!」

 「終わりだ」

 生きるために殺す、だから殺してきた、

そして、娘を生かすために死ぬ。

 彼女の産んだ娘達、次女・三女は人間に殺されたが、復讐鬼と化した雪女は長女により討たれた。

それが雪女である彼女が歩んだ人生であり、人生の全てである。

 殺される刹那まで、娘を生かすことを想い続けた雪女に走馬灯が脳裏に浮かぶ。

 そこには幼き彼女と、彼女の父の姿が在った。

 「お父様」

 「吹雪、氷の性質は”封印”、凍結はその過程に過ぎない」

 「ハイ」

 「だが、氷の本質は何だかわかるか?」

 「えーと、”静止”ですか」

 「近いが違う、氷の本質は”支配”することだ」

 「えーと、おっしゃっていることがよくわかりません」

 「我ら白井一族は、氷に特化した魔術師ゆえに、氷を極めた極地が”封印”

そして封印を極めた術が、全てを封じ込める”空間凍結”である」

 「ハイ、それが私達の誇りです」

 「フン、あの女の血を受け継いだ混血児が、一族の誇りなど軽々しく言うな」

 「申し訳ございません、お父様」

 「まあよい、話を続けるぞ」

 「ハイ」

 「我らは氷の性質である封印に特化した氷術を極めたゆえに、

氷の本質である支配の氷術を極めることは誰もできなかった」

 「支配の氷術とは、どういうものなのですかお父様」

 「”空間を氷結する”の極地の先にある高みだ」

 「えっ?」

 「我々が使う空間凍結による封印ではない、文字通り空間を支配するのだ」

 「?」

 「氷術の鍛錬は、氷術の速度や、氷造形の密度、冷気の質を高めることに費やしてきた、

氷の性質と戦闘に関してそれは間違いではない、氷結させる過程で対象を氷付けすると、あらゆる物は静止して完全な封印の役目となる。

 だから、その封印を極めた空間凍結は、究極にして完全なる絶対の封印術でもある。

 そのせいで、封印してしまう氷術では、支配する氷術に辿り着けないのだ」

 「支配する氷術…」

 「我ら白井一族が、未だに誰一人、氷術の固有結界が使えないのもそこにある。

氷の本質に辿り着けないゆえに、最後の極地に辿り着くことができないのだ」

 「極地…」

 「だが、あの女の血を継いだ混血児のおまえならもしかしたら出来るかもしれん」

 「本当ですか、お父様」

 「あまり期待するな、おまえはあくまでも汚れた白井一族の者、空間凍結ですら取得できない可能性もある」

 「が、頑張ります、頑張ってお父様や一族の期待に答えるようにします」

 「フン」 

 「馬鹿な…」

 そこには、アーチャーの集中砲火を受けても立ち続けている雪女の姿があった。

 否、彼女のまわりのあった剣や、飛んできた剣や偽・螺旋剣すらその残骸は塵となっていた。

 「私は勘違いしていたわ、私の…いえ白井一族の氷術は物や空間を凍結させることだった、

でも本当は違った、いえ本質を極めた氷術はそうじゃなかった、

私が氷結させるのは、無限に世界を凍結させた支配する氷結世界…」

 「何を言っているのだ」

 (今の私なら出来るはず、自分の氷術と心象を形にできるはず

極地を理解したならば、大事な者を守るためならば出来るはず!

 全ての魔術刻印と魔力回路を解き放て、魔力を注ぎ込み奇跡の極地に至れ)

 「It is made infinite and eternal is a ruler of freezing(我こそは無限にして永遠を司る氷結の支配者)

 「な、まさか」

 「日本の英霊なのに英語!?」

       「All lives elements stand activity still before the freezing cold(凍りつく冷気の前にあらゆる生命は活動を静止する)

  It carries out by being sealed by ice and all elements stop existence and the time(氷に封印されしあらゆる元素は、存在と時を止める)

  The flesh decays and, probably, those who resist from icy rule have changed utterly with dust(氷の支配から抵抗する者は、その肉体は朽ちて塵と成り果てるであろう)

         Yet, infinite icy spell is a permanent wedge(故に氷の呪縛は無限にして永久なる楔)

         The heart of the ruler who erodes the world of cold(世界を侵食する支配者の心は)

                      AbsolutelyZero(誰よりも冷たかった)

                  侵食する氷世界(Freezing Over Raid) (フリージングオーバーレイド)

       ランク:-    対界宝具   レンジ・最大補足:-

    相手が展開した固有結界を起点にして、固有結界の内側に自身の氷結結界を展開する。

    ランク・レンジ・最大補足など、距離や範囲などは完全に相手の固有結界しだいであり、相手に依存する対固有結界用の魔術。

    氷結された空間の心象風景の具現化よりも、相手の展開している結界を基点にして侵食してしまうほうが遥かに効率が良く、かつ相手の結界の効果も弱体化させる一石二鳥の役割となる。

    侵食した空間内のH2Oを自在に遠隔制御できる。

    雪女の魔術は、"氷を作る"ではなく、H2Oの水分を操作(氷結)することである。

    魔力で全てを代用するわけではなく、自然界に元々備わっているものを利用しているため、氷結させる魔力の量も少量で済む。

    しかし、魔力と水分の操作は自らの体を通して直接触れていなければならない。

    だが、この氷結結界内ならば、自らの体に触れなくても遠隔操作で制御できるのである、ここが一番大きな違いである。

    氷結空間内では、あまりの温度差により、何もしなくても物質は凍り付いていく。

    空間内ならば、空中に無限の氷の槍を作り出したり、空気を凍らせることも可能。

    さらに冷気は敵の結界内・空間内に広がっていき、さらに氷結侵食を広めていく。

    しかも氷結された物質は、その効果も発揮できない。絶対零度の前ではいかなる物質(元素)もその活動は停止してしまうからである。

    ゆえに相手の固有結界の機能を封じて、そのまま雪女の最も得意とする空間へと変えてしまうため、この対固有結界は”固有結界殺し”であり、

    相手は特殊な宝具でもない限り、対抗する事は出来ない(相手は二重に固有結界を発動することはできない)

    

     

 アーチャーの固有結界に内在するもう一つ固有結界。

 氷で侵食されながらも、雪女の立つ空間の向こう側には、

彼女の心象風景と思われる、凍りついた雪山と氷の神殿が虚ろやにオーロラのように映し出されていた。

 氷の神殿、それは精霊神殿でも言われ、極限に辿り着いた魔術師が創り出せる魔術領域。

 魔術師の工房より、さらに強力な”神殿”を作り出せるキャスターの神殿と同じく、

創り出した魔術師の特性と魔術を活かすために、最大限に特化された魔術領域である。

 「固有結界!?、それも私の固有結界の中に内在する氷結の固有結界だと」

 「そう、場に展開している心象風景の具現を上書きする通常の固有結界とは違うわ。

 固有結界を氷結させるなどという概念は存在しないわ。

 ゆえに内在した氷の世界を展開することで、相手の固有結界内の空間を支配する」

 「固有結界を上書きするわけでも、封印するわけでもない、これはすなわち…」

 「そうよアーチャーさん、これは”固有結界殺しの固有結界”、支配する固有結界なのよ」

 「くっ、魔力を消費し続けながら展開している固有結界なのに、その効果を逆に支配されるだと」

 「あなたがいくら無限の剣製をしようと、私の固有結界の中は正真正銘の絶対零度の凍結世界、

絶対零度では、あらゆる攻撃・動き・生命は原子単位でその活動を完全に停止し、原子の結合も崩壊させる。

 私に届く前に完全に氷結して強度も失い、動きが静止して地面に落ちて塵となるのみ。」

 「なんという冷気だ、これでは近づくだけでやられる」

 「そして自分が支配している空間内ならば、自由自在に任意の空間座標から氷結を行える」

 雪女の前面の空間から、百本はあるかないかの氷の槍を形成されていく。

 「何を恐れているのアーチャー、これらはただの氷よ、そうあなたが言うとおり取るに足らない存在よ、

でもねアーチャー、”氷が鉄に劣るなど誰が決めたの(・・・・・・・・・・・・・・)”?

 削氷機とて、何千年前の空気を圧縮した南極の氷を削れば、

その刃を欠けることだってあるように、氷が鉄に絶対に劣るわけじゃないわ。

 ”偽者が本物に敵わない道理は無い”ように、氷が鉄に敵わない道理はないわ!

 あなたが投影する剣は全て氷の剣で叩き落して、叩き落した剣であなたの墓と棺桶を作ってあげるわ」

 「この女」

 「行くわよ、無銘の剣の贋作者(ソードフェイカー)!!」

 「大きく出たな、この物の怪が!」

 互いに鉄の剣と、氷の槍の嵐が激突する。

 激しく剣戟音と共に相殺されて、辺りには爆音と鉄と氷の破片が散乱し続ける。

 アーチャーの固有結界の半分を侵食している、氷の固有結界。

 氷の世界では、あらゆる空間の空気から水分を凝結させた、氷の槍が形成されて飛んでくる。

 しかも、氷の領域(テリトリー)内では、避けた氷槍が角度を変化させて、再度アーチャーへと向かっていく。

 「遠隔操作だと」

 「この空間を支配している間は、空間内の氷は全て関与することができる」

 避けたり逸れた氷の槍が、再びアーチャーに向かってくることからしだいに、全方位空間攻撃となっていた。

 しかも砕けた氷は、氷の空間内ならば再び氷結して氷の槍となる。

 氷の空間内の何もない場所ですら、空気が凝結して氷の槍となる。

 攻撃しようとも、氷の空間に侵入した瞬間、絶対零度の冷気により氷結静止して氷結崩壊する。

 さらに空間内の冷気を取り込んで、雪女の傷も癒えていく。

 「このままでやられる、止むを得ない」

 アーチャーは自らの固有結界の発動を停止させた。

 その瞬間、景色は元に戻ってアーチャーの固有結界に依存していた雪女の固有結界も消えた。

 しかし、雪女の氷結は自然界の物理現象であるため、

氷の空間が消えた後でも、氷結した氷や空間は残ったままであった。

 絶対零度ではなくなり、通常の温度の空間に戻ってもそう簡単に凍結した氷は溶けない。

 「相手が固有結界使えないと、使えない魔術だけどね」

 「相手に依存した固有結界殺しの固有結界、そんな魔術が存在したとはな」

 「どうするのアーチャー、もう一度固有結界を使ってみる?」

 「いややめておこう、魔力の消費はこちらの方が大きい上に、

固有結界の力を存分に発揮できないのでは、ただのディスアドバンテージ以外他はない」

 互いの条件はこれで五分、だけど互いに決め手になるものが無く、互いに盾も持っている。

 「キミは私の劣化版と評価していたのだが、訂正しよう、

私と同じ高みまで極めた魔術師、それが極めた系統が違うだけに過ぎない。」

 「あら、お褒めの言葉感謝するわアーチャー」

 「だが、それでも最後に勝つのは私だ」

 「堂々とここまで手の内を晒して戦ったのは初めてだけど悪くは無かったわ、でも勝つのはこの私よ」

 「ならば最後に勝敗を決めるのは…」

 「「意志の強さ」」

 「行くぞ雪女!魔力の貯蔵は十分か!?」

 最後の剣戟が始まる、そして一人の少女の意識が断片的に流れ込んでくる。

 (キミは不治の病に侵されている、でも大丈夫だよ、きっと何とかなるから)

 「投影開始(トレース・オン)

 (お金ならいくらでも出しますから、この子を治してあげてください)

 「冷却氷結(アイスメイク)

 (キミの病気は簡単には治らないけど、この薬と抗生剤を飲み続けていれば、いつか元気になるからね)

 「そこ」

 「甘い」

 (苦しいよお母さん、毎日毎日こんな辛いなら、いっそ楽になりたいよ)

 (そんなことを言わないで、きっと治るからね、ね)

 「どうした、氷の造形が落ちてきているぞ」

 「たかが一本薙刀を砕いた程度で、いい気にならないで欲しいわね」

 (お母さん、体大丈夫なの?すごいやつれているよ……)

 (大丈夫よ、あなたの入院費と薬代のためにちょっと頑張っているだけよ)

 「キミの氷矢では、私の武器は砕け…」

 雪女から放たれた異質の矢、氷矢と比べものにならないほどの速度を出してアーチャーへ飛んでいく。

 切り払った干将・莫耶の方が、ガラス音に似た響きと共に砕け散り、

アーチャーはギリギリのところで、体をひねり回避した。

 「こんなところかしら」

 「私の偽・螺旋剣(カラドボルグ)を氷造したのか」

 「ええ、簡単な構造だったからね、見よう見まねで作った氷偽・螺旋剣(アイス・カラドボルグ)よ」

 (お金は待ってください、今月中には必ずお渡しいたしますから)

 剣戟が一撃一撃打ち合うたびに響く、鈍い鉄の音が木霊していく。

 まるで今に消えそうな鉄の熱がすこしずつ熱を失っていくように。

 (馬鹿な女だ、治らない病気のために毎月お金を出すとは……、

金が足りなきゃ股も開くし、いい金ヅルだよありゃ)

 (…そんな、治らないの、お母さん、お母さん)

 「フッ、ついに不可視する余裕も無くなったか雪女、

貴様の獲物が丸見えだぞ」

 「だから何?わかったぐらいで勝てるなら苦労しないわよ」

 (お願いしますモグリのお医者さん、私を……殺してください)

 「がはぁ」

 「ぐぅっ」

 互いに攻撃が入るが、どちらも浅く致命傷には遠い。

 「だが、やはり勝つのは私だ」

 「舐めるじゃないわよ、この若造がぁ!」

 「なっ!」

 アーチャーの剣撃に自ら右手を差し出し、あえて断らせて間合いに潜り込む。

 「その首、もらったわアーチャー」

 (…あれ、天井、どうして、…私は、生きているの?)

 (眼が覚めたかい)

 (ここは……どこですか?、天国?)

 (地下だよ、キミが眠っている間に大変なことがあったんだよ)

 (え?)

 「させるか」

 アーチャーも自らの片腕で、首を狙った攻撃を防御する。

 「私に叶えたい望みなどないが、それでも負けられない理由があるのでな」

 「ハン、戦争屋に雇われる傭兵と変わらない分際がほざくな」

 (嘘、お母さんが死んだ?)

 (キミの点滴に毒薬を入れようとした男と組み合って、刺されてしまってね)

 (そんな、私は、お母さん、お母さん、うあああああああああああああああ)

 「そろそろ互いに後がない、決着をつけるか雪女」

 「しつこい男は嫌われるわよ、色男さん」

 「生憎と、人に嫌われるのは慣れている性分でね」

 (あの子どうする、金が入らないじゃ生かしておいても邪魔なだけだろ)

 (いや、あの子を対象に寄付金とか集ってみたらどうだ?)

 (相手にしてくれるか、このご時世だぞ)

 (まあ物は試しにやってみようぜ、駄目なら裏の臓器バイヤーにでも売ればいいさ)

 (……)

 「負けるわけにはいかない、あの子のために負けるわけには」

 「守れなかった娘の愛を、子孫に注いでいるわけか、

さぞ美しい親族愛として、華を奏でることだろうな」

 「おのれぇ、愚弄するかアーチャー」

 (早く良くなれよ)

 (また元気になって、一緒に遊ぼうね)

 (……)

 (どうしたの、そんなに暗い顔して)

 (…どうしてあなた達が心配するだけで、助けてくれないの?)

 (え?)

 (…口だけで何もしてくれない、もう正直目障りなの)

 (な、なんだよ、俺達はな)

 (あなた達に私の苦しみの何がわかるって言うのよ!!!

いつもベットの上で寝たきり、食事だって満足に取れないから、いつも点滴と薬。

 毎日生きているのが辛いのよ、5秒ごとに全身に呼吸不全と激痛が走り、のた打ち回り悶え苦しむのよ。

 やっと耐えたかと思ったら、また繰り返される激痛を何万回と永遠と繰り返されるのよ、

あなた達はわからない、五体満足で外に出れてご飯だって食べれるあなた達にわかるはずがないわ。

 なのに、あなた達はいつも見舞いに来ては、人に治れだの、外に遊ぼうなど酷い慰めの言葉をかけていく。

 結局あなた達は私に何をしてくれたの?無責任な優しい言葉で傷つけて、それも気づかないまま繰り返す。

 そうよ、あなた達はただ心配しているフリをしているだけなのよ。

 周りから冷たい奴だと思われずに、友達想いの良い奴だと言われたいだけ。

 ”心配してお見合いに来ている”と言う行動の免罪符をしたら、さっさと帰っていくだけ。

 もうたくさんよ、目障りなのよ、この数十年間ずっと我慢してきたけど限界よ!。

 あなた達みたいな偽りの友達想いな偽善者は、もう二度と私の前に来ないでよ!!!)

 「これで決めるぞマスター」

 「!?」

 「投影装填(トリガー・オフ)

 「させるか、氷偽・螺旋剣(アイス・カラドボルグ)氷槍弾(アイスジャベリン)造形(リリース)、貫け!」

 「熾天覆う七つの円冠(ロー・アイアス)

 雪女が持つ、最強の貫通複合応用技を、四枚の花びらが防御する。

 「ぐっ、奴の防御宝具!…まだそんな余力があったのか」

 「全工程投影完了(セット)

 「!?、だが、私の空間凍結の氷壁はいかなる物理も通さない!」

 「射殺す百頭(ナインライブズ)

 (半死の体の私を今日も活かし続けられる、両手足に皮ベルトで硬直されて、もう自殺もできない。

 どうして私だけがこんな目に会うの、うううぅぅぅ、憎い、憎いよ、他に生きている人間が憎いよ)

 「同時九連射撃攻撃!、だが耐えられる、これならばまだ耐えられ…」

 (ならば、復讐すればいい!聖杯戦争はまさにキミのような人材を求めているのだよ、

理不尽な運命を背負わされ、他者と世界を憎み恨み妬む人間ほど強いマスターとなる。

 さらにキミは遺伝子の潜在魔力が、他のマスターより倍であるからね、さぞ冷徹で非情な素晴らしいマスターとなろう)

 (誰?)

 「最後の最後で魔力が尽きたか雪女、ここまでだな」

 (ゼェゼェ…、マスターの魔力がもう僅かしか)

 「今度こそ、トドメだ!」

 (それは人は死ぬんですか?)

 (おや、キミは他の人間が憎かったのではないのですか?)

 (憎いけど、殺すのはあんまりです)

 (フム、大丈夫だよ…あくまでも聖杯戦争はスポーツみたいなものなんだから)

 (そうですか、それなら…)

 (最後の良心は捨てきれないと見えるが、まあいい。

 参加さえしてしまえば、もはや自らの現実に背を向けることなど出来ないのだからな)

 (聖杯戦争、みんなで楽しく騒げれば………これから病気で死ぬことになっても満足です)

 (そうか)

 (最後ぐらい、楽しい夢を見させてください)

 「楽しい夢を…」

 「!?、マスター」

 雪女とアーチャーの最後の決闘中に、雪女のマスターは膝を落として地面へ倒れこむ。

 急いでマスターの元へと駆け寄る雪女。

 それを勝機とばかりに、アーチャーが背中を追う。

 「もらったぞ!」

 「マスター!」

 「……」

 (勝っても負けても恨みっこなし、試合後に笑顔で笑い会えたいですね)

 「駄目!アーチャー!?」

 「!」

 「マスター、マスターあぁ、マスターーーーー」

 「何故止めた、マスター」

 「黙りなさいアーチャー」

 「くっ」

 「どうか目を開けて下さいマスター、お願いです、返事をしてください」

 「……」

 「ッ!……そうか、限界だったか」

 「……」

 「私があなたをお守りします、あなたの母親がわりでも、守護霊でも、命を換えて尽くします。

だから、お願いしますマスター、どうか…、どうか目を開けて下さい」

 病魔に侵された彼女の体はもはや限界であった。

 普通じゃありえないぐらいの魔力駆使による消費により、体力と気力は失われていき、

 そしてついに、消えかかっていた命が限界を迎えてしまった。

 マスターを失った以上、もはや雪女達は敗者であることが決定された。

 セラフの判決が下され、アーチャー達と雪女達の間は電子壁により遮られた。

 「死んでしまった、私のマスターが、私の子孫が…」

 「…」

 「ウフフ、アッハハハ、ハハハハハハハ」

 「…」

 アーチャーは腕を組み、あえて何も言葉を発せずに沈黙している。

 「ッツ!!、私は…守りたかった、今度こそ自分の失った子供を、

でも、私には力が足りなかった、決着もつけられなかった、それが残念ですアーチャー」

 「慰めと言う訳ではないが、一つだけ言っておこう」

 「?」

 「キミは、この私と言う最強のサーヴァントを相手に互角に戦ったのだ。

 それは誇っていい、キミが戦いで得た初めてにして最高の称号だ」

 「フフ、お褒めの言葉ありがとうございます。

 最後に一つだけお伺いしたいことがあるのですが、宜しいですか?」

 「何だろうか?」

 「無銘の英霊よ、あなたの本当の名前を教えてください」

 「本当の名前!?、それはもしかして英霊となる前の人間の頃の名か」

 「ええ、もちろん強要は致しません」

 「……」

 「そうですか、わかりました。」

 息絶えたマスターを抱えて、セラフの奥へと歩き始める雪女達。

 「どちらに行かれるのですか?」

 「花も無い殺風景なこの場所で果てるのならば、せめて電子の海へ還せる場所まで連れて行ってあげたいのです。

 マスターは体が治ったら、ぜひとも海を見てみたいとおっしゃっておりましたから」

 「……」

 「マスター、あなたにも感謝しております。

 裏舞台で戦っていた私に、表舞台で堂々と胸を張って戦える場を用意してくださったことに」

 「雪女さん」

 「次も頑張ってくださいね、御機嫌よう」

 「雪女!」

 「アーチャー………人はそれぞれ何のために生きるのか?、

”生きる”とは簡単なようで…、難しい…摂理です……ね」

 そうして、二人はこの世界から完全に消え去った。

 残ったのは勝利と静寂のみ。

 マイルームに戻り、反省会をするアーチャーと女主

 「彼女達はたしかに強敵だったが、それでも途中までは私の敵ではなかった、

だが、雪女のサーヴァントは、マスターを護る為に限界を超えた力を土壇場に発揮した」

 「限界を超えた力…」

 「大事な者のために、大事な者を護る為に…

己の限界を超えた成長と底力を引き出して、ついには固有結界殺しの固有結界まで辿り着いた。

 最初から使えたのならば、あそこまでダメージを受けて追い込まれてから発動する意味は無い」

 「そ、そうね」

 「人が最も力を発揮するのは、誰かを憎んだ時、そして誰かを守ろうとする時だ、

ゆえにサーヴァントとマスターの絆が強い者達ほど厄介な者はない」

 「アーチャーは…」

 「ん?」

 「私が危険な目に会ったら、守ろうとしてくれるの?」

 「何を今更…当たり前だろう、キミは私のマスターなのだからな」

 「それはマスターとして?」

 「?、それ以外に何があるというのだ」

 「フン、もういいわよ」

 「おい、何をそんなに怒っているのだ、待てマスター、話を…」

 女主は怒ったように部屋から出て行ってしまった。

 「まったく、…いつの時代も女心は厄介なものだな」


 
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