No.371244

【腐】散光万花【bsr伊達就】

さん

◆伊達×毛利 ◆お正月にお年玉代わりにSS書くよ企画(?)みたいなのがついった上で回っていたので ◆リクエスト『子ども扱いされる伊達』ということだったのですが…こんな感じの仕上がりになりました…(;・∀・)ほぼリク満たしてな、い… ◆支部にも同じものをupしています

2012-02-01 01:27:10 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:923   閲覧ユーザー数:921

ごろり、寝がえりを打った。

ひとつばかりの琥珀には、鳶色の小さな頭が目に入った。

 

ひとつの掛布をふたりで使っているのだ、狭くないと云えば嘘になる。

目が覚めると、少し、寒さを感じる。

 

まだ室内は温かさが残ってはいるものの、火鉢も火は消えているのだろう。すぐに冷えは増していく。

 

ぎゅうと背中から抱き締める。

己よりも、少し低い体温が心地いい。

 

避けられているわけではないないのだろう、無理やり、引き剥がそうとしたりはしない。

 

緩やかな稜線を描く首筋に、そ、と顔を近づける。

少し長めに切りそろえられた鳶色の絹糸が、さらり、あまり血の気の宿らない色の薄い頬に散る。

 

眉ひとつ動かすことのないその涼しげな面。

感情を映すことの少ないそれが、まるで波ひとつない静かなる水面を思い起こさせる。

 

微かに伝わる、呼吸音。

 

それだけが。

このひとが今、自分の腕の中にいるのだと、そう実感させてくれる。

 

己のものであって、己のものではない――。

 

その不安が、己を苛んで止まないのだ。

 

ことばも、態度も。いつも、つれない。

いくら此方が示したとしても、己が望んだ答えが得られるわけではないのだ。

 

――解っている。

 

己の想い人は、最低でもひと回りは違う。

此方の幼稚さが目につくのかもしれない。

……あくまで仮定の域を出ないものであったが、一度そう思いはじめると、悲観的な思考は連鎖を引き起こしていく――。

 

 

悩んでいるのも莫迦らしく……明確な答えが得たくて。気がつけば、安芸を目指していた。

初めて出会ったのは、既にどの戦場だったかも覚えてはいない。

ただその存在が、すべてを打ち消すほどに圧倒的であったのだと。

 

そのひとは、初めから強く美しくあった。

ひと目で惹かれた。……魅せられた。

そこは確かに、人々の終焉を感じさせる匂いに満ちている場所だったというのに、だ。

 

その容姿、纏う雰囲気……張りつめた空気。

数瞬も、視線を逸らすことができない。

 

黒く変色した緋を身に纏い、ただひとりその場に立っていた。

厭でも、目を引く光景である

じっくり検分するよう上から下までねめつけるように眺めて、ところどころ覗く鮮やかな若草色が、元の具足の色なのだろうと気がついた。

くれないの花びらがその大きな花を開くように、散っている。

それなのに、両の足でその地をしっかりと踏みしめている。

これだけの量なのだ、その中心に立つそのひとも怪我をしていてもおかしくは、ない。

 

それなのに、そんな様子はひとつもない。

すべてが、地に伏した者たちのものなのだと気がつくと、ぞくりと震えた。

 

おぞましいまでの夥しい赤が舞ったであろうに、その中にあっても穢れることもなく清逸な様に感嘆を覚える。

 

びゅう、と刃を振り下ろすと、濡れた音が響いた。

金属を染め上げていた紅が、少し、舞い散った。

両の腕に握りしめているその刃をは、かちりと合わせる。円を描くそれは、見たこともない不思議な得物だった。

 

その得物はどこか、線の細いそのひとの身体とは不均衡であり……不自然に頼りなく見えた。

 

ごくり、喉を鳴らした。

 

ゆるりと振り向くと、向けられたその視線とかちあった。

ぎら、と鋭利な刃物を思わせる冷たくも強さがある。

 

背筋に、冷たい汗が伝う。

緊張が、走る――。

 

殺気。

 

円環状の刃が振り下ろされる――。

咄嗟に抜いた六爪で受け止める。

 

思っていた以上に、強い。

あれだけの山を作っておきながら、その、変わらぬ力。

受け流すだけで、精一杯であった。

 

それから幾度、戦場で、互いの命をかけただろうか。

 

何度も何度も何度も――。

 

ことばを、

刃を、交えて。

 

ようやく、己を刻み込ませたのだ。

 

互いが互いを賭けたその駆け引きは、熱くならざるを得なかった。

己を燃え上がらせるには、充分、面白い相手であったのだ。

 

これが憧憬であり恋情であると気づいたのは、いつのことだっただろうか……。

告白は、直球に。

誤魔化しようのないほど、まっすぐに、吐露した。

 

なんとも味気のない返事が帰ってきただけではあったが、内心、舞い上がるほど気分はよかった。

 

こうして、今に至るのであった。

「……伊達……どうした」

ふと、呼ばれた。

 

「Sorry、すまねえ。……起こしたか」

「いや、構わない」

未だ眠気があるのだろう、いつものような覇気はない。

「アンタの大事なご来光の時間じゃないぜ?もう少し、寝てな」

首筋を軽く啄ばむように、くちびるで触れる。

 

「母御でも思い出したか」

「Ha!そんなんじゃねぇ」

可笑しそうに云う声は、少し笑っている。

母親との確執は話題にしたことはなかったが、おそらく、知っているだろう。そんな確信がある。

 

「では、片倉が恋しいか」

「Ah!?それこそねぇよ!」

相手が元親あたりなら、確実に手が出ているに違いないだろう……と、思う。

 

「ふむ?」

くすり、笑われた気がした。

腕の中でくるりと身体を反転させる。

端整な顔がすぐ近くにある……。

 

顔を見られるのが、少し、恥ずかしい……。

愛しい人の胸元に、顔をうずめる。

少し赤くなっているだろう顔を、隠すために。

 

折よく、するりと腕が伸びる。

頭を撫でるように抱きかかえられる。

 

心地いい。

特別なことは何もしていない筈なのに、少し、甘い薫りがする。

 

どきりと、胸が跳ねる。

「……何だよ」

ぎゅ、と背に腕を回して、強く抱きしめる。

行き場を失くした腕が、するりと背に回される。

 

ぽんぽん、と、背を軽く叩かれる。

まるで子供をあやすように、やさしく……。

 

どのくらいの間、そうしていたのだろうか。

 

どこか張りつめていた気持ちが、やわやわと解きほぐされるように感じる。

抱きしめられた腕が、安寧と静寂を運んでくる。

 

己の安易な行動も、考えも……想いさえも。

おそらく、総て、このひとは知っているのだろう。

 

ひとり手の内で踊らされているであろう己は、さぞや滑稽に映っているやもしれない。

 

少しでも、このひとに……追いつきたくて。

つり合うように。

いつも虚勢を張って、強がって……。

精一杯の背伸びを繰り返してる。

 

不意に頬に落ちる、緩やかな熱。

少しひやりとしたそれは、己だけが味わうことのできるあまい花実。

 

ひとつきりのまぶたが重い。

 

 

 

「……態度にせねば解らぬとは、な……」

いつもの、あまり感情の乗らない物云いからは想像できない、やわらかな響き。

少し遠くなった呟きに少しばかり満足しながら、すぅ、と意識を手放した。


 
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