No.361753

日常短編:東雲なの×阪本さん

羅月さん

本当はゆっこと阪本さんを絡ませカオスな展開を作ろうとしてましたが保守に走りました。

2012-01-11 01:18:16 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:897   閲覧ユーザー数:890

 俺様は猫である。名前はまだない。

 

 と言う路線で孤高に生きようと決めていた俺様だったが、最近阪本と言う名前を勝手につけられて非常に迷惑している。

 

 降ってわいたような段ボールに書いていたからって安易な考えが通用するほどこの世の中は甘くない。

 

 しかも俺様は人間で言えば成人の域にまで達している。たかだか八歳児と一歳児にどうのこうの言われる筋合いは毛頭ないのである。

 

 『あっ、阪本さ~n……あ痛っ!!!』

 

 陽の光に程良く温められたコンクリートの上をずんずん歩いていると、東雲研究所で作られたどうやらロボらしい世話役娘、東雲なのに出会う。今日も歩きにくそうな下駄を履いてやっぱり俺の目の前で転んだ。右足の鼻緒が切れている。転んだ原因は道端に素朴に落ちていた石ころらしい。

 

 おいおいと思いながら俺はなのに駆け寄る。ロボのくせに無駄に人間性を追求されたこの娘は見ていて本当にひやひやする。あううと呻きながら足をさすっている。

 

 そんな中でも買い物の手提げを一番に庇っているのだから流石だ。きっとあの中にはガキの好物であるプリンや、夕食でいつもガキが催促するオムライスの為の卵やケチャップ、俺の最近のトレンドであるネコ缶等々が入っているのだろう。

 

 とあっては放っておく訳にもいかない。

 

 『お前も大変だな~……』

 『ううう、すみません……』

 『ガキに言ってバランスを鍛えてもらったり力仕事を楽にこなせるように改造して貰うとか出来ないのか?』

 『それはちょっと……あっ、はかせっ!!!』

 

 ダボダボの白衣に身を包んだ八歳児、なのは『はかせ』と呼んでいるガキが前方からやって来た。口元にクリームがくっついている。また勝手に冷蔵庫の中身をつまみ食いしやがったなこのガキは。

 

 『なの、どうしたの?』

 『あ、ちょっとまた転んでしまって……』

 『あうう、痛そう……あっ、何買ったか見せて~』

 

 表情のころころ変わるやつだ。さっきまでこいつを心配するそぶりを見せていたのに次にはもう別の所に興味が変わっていやがる。

 

 だが……ガキは別段喜ぶでも無くかごの中身をまさぐる。そしてそれを一通りやり終えると、恐らく8歳のガキにはかなり重いだろうかごを両手で持ち上げた。

 

 『これはわたしがセキニンを持って家までもちかえるんだけど』

 『あっ、はかせっ……あうう、痛いですぅ……』

 『ま、プリンがぬるくなるからな……』

 

 別に俺は食べた事は無いが、冷蔵庫でしっかり冷やしたのがあいつ的には美味いらしい。それがこの陽気に当てられ酷い事になるのは確かに避けたい所ではあるのだが……

 

 『はかせ……』

 『ん、どした?』

 『また、私は迷惑をかけてしまったみたいです』

 

 悩ましげな表情は日常茶飯事だが、悲しげな表情は普段はあまり見ない。まあ悲しみにくれている暇なんぞ無いのだろうが。

 

 『迷惑って……あのガキは冷蔵庫に余ったケーキを平らげて、まだ足りないからってわざわざやって来たんだろ』

 『いいえ、違いますよ。私、実は買おうと思ってた物が売り切れだったんで普段は行かない所に買い物に行ってたんですよ。そのせいで遅れてしまって……心配してくれたんです、はかせは』

 

 心配、ね……嘯く口元に風が吹き抜ける。こんな所で何を話しているんだか。

 

 『だから、かごの中見て、自分が持てるか確かめてたんですよ。プリンよりも私を大事に思ってくれているから、何も言わずに、喜ぶより先に……』

 『考えすぎじゃないのかねぇ。ま、自分の作ったロボだしな……大事にするのも分かる気がするが』

 『そう、ですよね……私ははかせに創っていただいたんですから。もっと頑張らないと、はかせが素晴らしいって事が霞んでしまいます』

 

 顔を赤くしてほほ笑む(どうやってそんな機能を搭載したのやら)なのは何だかとても生き生きとしていた。

 

 『仕方ない……ほら、俺のスカーフ使って鼻緒の代わりにしろ』

 『え、でも……』

 『あのガキならまた作れるだろ。それに……俺らに言葉なんて要らない、じゃないか?』

 『阪本さん……』

 

 俺の言葉が人の言葉として発せられる(一体どうやって作ったかは知らないが)赤いスカーフを外し、下駄の鼻緒の代わりにしてやる。ふう、大分軽くなった。あれはスカーフじゃ無いな、よくよく考えたらただの布であるわけが無いのだ。何か機械が組み込まれてるのだろう。

 

 『あっ、うまく行きましたよ阪本さんっ』

 『そうか、良かったじゃねぇか。さて、そろそろ帰るとするか』

 『はい、そうですね……』

 

 

 『『あれ????』』


 
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