No.361657

真・恋姫無双アナザーストーリー 蜀√ 桜咲く時季に 第31話

葉月さん

明けましておめでとうございます。
新年最初の投稿になります。

前回までのあらすじ
愛紗の知らせは袁紹による幽州への襲撃の知らせだった。

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2012-01-10 22:56:25 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:8704   閲覧ユーザー数:5387

真・恋姫無双 ifストーリー

蜀√ 桜咲く時季に 第31話

 

(一刻=1時間)、(一里=4km)

 

 

【新しい仲間。それは普通な人?】

 

 

 

《愛紗視点》

 

白蓮殿と合流し、黄巾党の残党どもを打ち倒した我々はやっと白蓮殿と落ち着いて話すことが出来た。

 

「助かったよ愛紗。礼を言う」

 

疲れ果てた顔で白蓮殿が礼を言ってきた。

 

「なに、礼ならご主人様に言ってくれ。いち早くお気づきになられたのは他ならぬご主人様なのだからな」

 

「そうか。北郷が……やっぱりあいつは凄いな。ところでその北郷はどこに居るんだ?」

 

「ご主人様なら桃香様と後から来るだろう。それより、白蓮殿の手当てをしなくては」

 

「あ、ああ。だけど私より先に兵たちを頼む。私は殆どが掠り傷程度だ。あいつらの方がきっと大怪我をしている。頼むよ」

 

決して白蓮殿の怪我も軽傷ではないのだが、白蓮殿は先に兵を見てくれと言って来た。

 

「わかりました。衛生兵!大怪我した兵の傷の手当を最優先に行え!」

 

「はっ!」

 

「これでよいか。白蓮殿」

 

「ああ、わがままを言ってすまないな……いつつ。はは、情けないよな。袁紹に領地を簡単に奪われちゃうなんてよ」

 

「白蓮殿……」

 

白蓮殿は悔しさからか拳を力強く握り締めていた。

 

「そんなことはありません。白蓮殿はご立派です。ご自分の怪我よりも兵を気にかけるそのお心は、そうできることではございません」

 

「ははっ。気休めだよ。そうしないと私に着いて来てくれた兵に申し訳が無いからな」

 

苦笑いを浮かべる白蓮殿だったがどこか恥ずかしそうにしていた。

 

「愛紗さん」

 

私を呼ぶ声に振り向くと、雪華が治療用の道具を持ってこちらへ走ってきていた。

 

「ん?おお、雪華か。丁度いい白蓮殿の手当てを頼めるか?」

 

「はい。わかりました」

 

「?愛紗、この子は?」

 

「新しくご主人様の家臣になった姜維だ。雪華、この方はご主人様と桃香様のご友人である公孫賛殿だ」

 

「ふぇ。あ、あの、始めまして、姓は姜、名は維、字は伯約です。よろしくお願いします。公孫賛様」

 

雪華は自己紹介をするとぺこりと頭を下げた。

 

「ああ。こちらもよろしくな。だけど、そんなに畏まらなくてもいいぞ。私は堅苦しいのが苦手なんだ。だから普段通りで構わない」

 

「ふえ、で、でも……」

 

雪華は本当に良いのかと私を見上げてきた。

 

「ああ言っているのだ。雪華も普段通りで構わないぞ」

 

「わかりました。えと、それでは治療をさせていただきますね。公孫賛様」

 

「ああ、助かる。それと、私のことは真名で呼んでもらってかまわない。私の真名は白蓮だ」

 

「ふえ!い、いいのですか?」

 

「私が構わないと言っているんだ。そんなに驚くことでもないだろ?」

 

「ふぇ……わ、私の真名は雪華です。よろしくお願いします白蓮様」

 

「呼び捨てでいいぞ」

 

「ふぇぇええ!?そ、そんなこと出来ません!」

 

「そうか?なら『さん』でも構わないぞ。それに『様』呼ばわりはムズ痒くてな」

 

「で、では……白蓮、さん」

 

「ああ。っと、すまなかったな。治療の途中で」

 

「ふえ!い、いえ!直ぐに終わらせます」

 

雪華は思い出したように白蓮殿の治療を再開した。

 

「……っ」

 

う、うむ……やはり雪華を見ていると和んでしまうな。

 

雪華を見ていて思わず頬を緩めそうになってしまった。

 

いや、しかし……あの動きは……

 

「ふえ?ふえ?包帯はどこですか?」

 

ああ~。なんだ、朱里たちより身長もあるのにこの動きは!

 

「あっ。ありました!」

 

「はぅ」

 

「ふえ?愛紗さんどうかしましたか?」

 

包帯を見つけた時のとても嬉しそう雪華の顔を見て思わず声を漏らしてしまった。

 

「っ!んんっ!なんでもない。続けてくれ」

 

「ふぇ、わかりました」

 

しまった。少し不機嫌そうに言ってしまったか?。雪華は人の感情に敏感なところがあるからな。気をつけていたんだが。

 

「ところで愛紗。桃香はどうしてるんだ?」

 

「桃香様なら今、こちらに向かっている。桃香様に少しでも早く白蓮殿を保護してくれと仰られたのでな。

 

「そうか。桃香も相変わらずみたいだな」

 

白蓮殿は桃香様の近況を聞いて安心したのか少しだけ笑顔をおみせになった。

 

「愛紗ーーーーーーっ!!」

 

「ん?鈴々かどうした」

 

白蓮殿の治療を見守っていると鈴々が私たちのところへ走ってきた。

 

「悪い奴はみんなぼっこぼこのけっちょんけちょんにしてやったのだ!」

 

「そうか。星はどうした?」

 

「んにゃ?途中まで一緒だったけどどっかに行っちゃったのだ」

 

「まったく。あいつはまともに報告も出来ないのか」

 

思わずため息をついてしまう。もう少し真面目にすればこちらも助かるのだがな。まあ、いざという時にはやってくれる奴ではあるのだが。

 

「失敬な。周りを偵察に行くといったであろう鈴々よ」

 

すると、どこからとも無く星が姿を現した。

 

「と、言っているが?鈴々よ。どうなのだ」

 

「えっと……にゃはははは」

 

どうやら星の言っていることは本当の事らしい。鈴々は思い出したのか誤魔化すように笑い出した。

 

「まったく。鈴々、お前という奴は」

 

「細かいことを気にしてたら大きくなれないのだ!」

 

「お前はもう少しは気にしろ!まったく……」

 

はぁ、鈴々の将来が不安だ……

 

「ぉ~ぃ!みんな~~~っ!!」

 

鈴々の将来について心配していた時だった。遠くから桃香様の声が聞こえてきた。

 

「この声は桃香様。こちらです桃香様!」

 

「あっ!あっちから、愛紗ちゃんの声だよご主人様!」

 

「ああ。皆も無事みたいだ」

 

「ホント!?それじゃ白蓮ちゃんも無事なんだね!よかったぁ~」

 

どうやら桃香様はご主人様と一緒に来られたようだ。白蓮殿が無事だと分かったのか安堵した声をしていた。

 

だが、桃香様が私たちの前に姿を見せた時、私は思わず声を上げてしまった。

 

「な、ななっ!何をしておいでなのですかお二人とも!」

 

ご主人様は桃香様を後ろから支えるようにして馬に跨っていた。

 

「え?何って……えへへ~♪」

 

「?何をって何が?」

 

桃香様は私が言ったことを理解したのか頬を染めて笑い、ご主人様は意味が分からず首を傾げていた。

 

「いいな……」

 

私の横では雪華がうらやましそうに小声で呟いていた。

 

「ご主人様!なぜ桃香様の馬に乗っているのですか」

 

「実は桃香がさ、馬の操り方を誤っちゃってさ。ものすごい勢いで走って行っちゃったんだよ」

 

「それでご主人様が何とか追いついてそのまま来たと?」

 

「ああ。本当は自分の馬に戻ろうと思ったんだけど。桃香がこのままでっていうからさ」

 

「……」

 

「えへへ~」

 

桃香様は嬉しいのか恥ずかしいの頬を赤く染めて照れていた。

 

「……明日から桃香様には乗馬の稽古もしてもらいましょう」

 

「えぇぇ!そんなーーー!?酷いよ愛紗ちゃん!」

 

「さあ。ご主人様、お早く降りてください」

 

私は桃香様の抗議の声を無視してご主人様を馬から降りるように伝えた。

 

「ぶーぶー!うらやましかったからって酷いよ」

 

聞こえてないと思ったのか桃香様は小声で文句を言っていた。

 

「……桃香様には特別に厳しく指導して差し上げます」

 

「っ!嘘嘘!嘘だよ愛紗ちゃん!だから厳しくしないで!」

 

「いいえ。常々、桃香様にはもう少し乗馬を上手くなってもらわねばと思っていいたので丁度良い機会です」

 

「うえ~~ん!ご主人様、助けて~」

 

「……」

 

「ごめん。無理」

 

無言でご主人様を睨むとご主人様は手を合わせて桃香様に謝っていた。

 

「……相変わらずだなお前たちは」

 

私たち三人のやり取りを見ていた白蓮殿は呆れていた。

 

「あ、ぱいぱいちゃん!大丈夫!」

 

「ちょっとまてーー!今さっきまで普通に真名で呼んでてなんで改めて間違えるんだよ!」

 

「え?えーっと……あはは♪」

 

「あはは♪じゃない。あはは、じゃ!お前絶対わざとだろ!」

 

「ふへぇ~。や、やめへほ~。ぱいぱいひゃ~ん!」

 

「また言ったな~~!」

 

白蓮殿は桃香様の頬を引っ張ったり潰したりして文句を言っていた。

 

「……桃香も嬉しいんだよ」

 

「ええ。そうでしょうね」

 

そんな二人のやり取りを見てご主人様が私の横に来た。

 

「同じ学び舎で学んだ中です。桃香様がどれほど心配していたかは分かります」

 

だからだろう。しんみりするのは苦手だからか桃香様はわざと間違えたのだろう。

 

「ご主人様。ご無事でしたか!」

 

しばらくすると朱里と雛里が兵を連れて合流してきた。

 

「二人はどこに?」

 

「はい。国境沿い軽くですが見て回ってきました。この機に乗じて他国が攻めてくるとも限りませんでしたので」

 

「そっか。危険な役目なのにご苦労様」

 

「はわわっ!しょ、しょんなことはありましぇん!」

 

「あわわっ!こ、これもご主人様のたためでしゅ」

 

ご主人様は労いながら二人の頭を撫でてあげていた。

 

「それで重傷者は?」

 

「我々が早く駆けつけることができたおかげで重傷者はいないようです」

 

それに加え、白蓮殿の騎馬兵の調練の高さもあるのだろう。これは我々には無い強さだ。

 

確かに馬は居るにはいる。ここまでこうして馬で来たのだからな。だが軍事として騎馬兵を作るほど馬はまだそろっていないのだ。

 

「そっか。ならまずは城に戻ろう。白蓮たちの兵も休ませないといけないしね。特に急ぎの報告は無いよね?」

 

「はい」

 

「大丈夫です」

 

「問題ないのだ!」

 

「よし、なら戻ろう。白蓮立てるか?」

 

「ああ、だいじょっおおっ!?」

 

白蓮殿は立ち上がったとおもったら緊張の糸が切れたのか膝から崩れ落ちてしまった。

 

「白蓮ちゃん!」

 

「あぶない!」

 

崩れ落ちる白蓮殿をご主人様は素早く支えた。

 

「す、すまない北郷。どうやら、安心したせいか足に力が入らないようだ。出来れば肩を……へ?」

 

「「ああっ!」」

 

白蓮殿は肩を貸して欲しいと言おうとしたのだろう。しかし、ご主人様は何を思ったのか白蓮殿を抱きかかえた。

 

「肩を貸すより。こっちの方が楽だろ?」

 

「あ、いや。確かにそうだけど」

 

「「……」」

 

「ーーっ!お、降りる!私なら大丈夫だ!肩さえ貸して貰えれば!」

 

白蓮殿は私と桃香様を見て急にご主人様の腕の中で暴れ始めた。

 

「ちょ!行き成り暴れられるとバランスがっ!うわっ!」

 

「どわっ!」

 

案の定、ご主人様は体勢を崩し白蓮殿を抱きかかえたまま倒れてしまった。

 

「大丈夫ですかご主人さ、ま……」

 

倒れたご主人様に声を掛けた私は思わず声を失ってしまった。

 

ご主人様は白蓮殿を庇い怪我を負う事は無かったがその反動かご主人様の手が白蓮殿の……胸に!

 

「う、う~ん……とりあえず大丈夫だよ……ん?なんだこの柔らかいのは」

 

(むにゅ)

 

「んっ!」

 

「え?……うわあああっ!ご、ごめん!い、今すぐ退くから!」

 

白蓮殿の声にご主人様は状況を把握して慌てて離れようとした。が、倒れた衝撃のせいか白蓮殿は気を失ってしまいご主人様は抜け出すことが出来ない状態になってしまっていた。

 

「ふむ。主はこう言ったことをご所望か」

 

「ふぇ……」

 

「ちがっ!違うぞ!断じて違う!だ、だから雪華、そんな悲しそうな目で見たいでくれ!」

 

「はわわ……ご主人様って結構大胆だよね雛里ちゃん」

 

「あわわ。うん、でもご主人様なら私……」

 

「え?」

 

「あわ、あわわっ!な、なんでもないしゅ」

 

朱里と雛里も聞こえないように二人で頬を染めて小声で話していた。

 

「むーーーっ!ご主人様のバカ~~~っ!私って者が居るのに!」

 

「「「「え?」」」」

 

桃香様の言葉に皆一斉に固まる。

 

「あ、あの桃香様?」

 

「なに?愛紗ちゃん。今は、すっごく私、機嫌が悪いんだよ!」

 

「え、ええ。それは分かるのですが……先ほどの言葉は一体、どういった意味なのかと思いまして」

 

「ん?私、何かへんなこと言った?」

 

桃香様は自分の仰った言葉が分かっていないのか首を傾げていた。

 

「は、はい。『私って者が居るのに!』っと」

 

「……っ!あ、やっ!あ、あれはその……言葉の綾って言うか、本心って言うか……そ、その……」

 

桃香様は自分の言ったことを思い出したのか顔を赤くして両手を振って否定されていた。しかし……

 

「本心と仰っていましたが?」

 

「はぅ!そ、そこは気にするところじゃないよね!ほ、ほら、とにかく早くお城にぱいぱいちゃんを連れて治療しないと!」

 

桃香様はそう言うと逃げるようにしてご自身の馬に戻っていかれた。

 

私としては捨て置けないところなのだが……

 

そう思うが。白蓮殿たちを手当てをしなければいけないのは事実なのでここでは引き下がることにした。

 

「ふむふむ……女の戦い。しかとこの目で見させてもらったぞ」

 

「なっ!」

 

行き成り私の横で星がニヤリと笑いながら話しかけてきた。私は驚きの余り半歩飛び退いてしまった。

 

「はっはっは!何をそんなに驚いているのだ?」

 

「べ、別に驚いてなどいない!お前も兵を纏めて戻る準備をしろ!」

 

「私の兵たちは既に準備を終えているぞ。終わってないのは愛紗、お前の兵たちだけだ」

 

「うぐっ……」

 

「ふふふっ」

 

星はどうだと言わんばかりに笑っていた。

 

「あ、あの。愛紗さん」

 

「ん、な、なんだ雪華」

 

私が星にからかわれていると雪華が話しかけてきた。

 

「あ、あの……あっ!包帯が無くなってしまったのですが、余りはありませんか?」

 

「それなら朱里たちに聞けば分かると思うが」

 

「あ、いえ。あの……その……」

 

「「?」」

 

雪華はなぜかおろおろと戸惑っていた。

 

「……っ!なるほど、愛紗よ」

 

「なんだ?」

 

「包帯がある場所を雪華に案内してやれ。私はもう一度兵の様子を見てくるとしよう」

 

星はそう言うと雪華の横を通り過ぎて行った。

 

「あ、ああ。わかった」

 

「そう言うことだ、雪華よ。お前は優しい子だな」

 

「ふぇ。べ、別に私は……」

 

その星の一言で私は理解した。きっと私が星にからかわれていたのを見て助けに来たのだろう。

 

「すまないな雪華よ。助かった」

 

「いえ、そんな……」

 

雪華は頬を染めて照れていた。

 

「では行くとしようか。雪華よ」

 

「あ、はい」

 

私は雪華を連れて包帯を取りに向かった。

 

《月視点》

 

「ご主人様たち遅いね」

 

「このまま帰ってこなければいいのよ」

 

「もう、詠ちゃん。そんなこと言ったらダメだよ」

 

「ふん」

 

私は今、城壁の上でご主人様たちのお帰りを待っていました。

 

それは数刻前の事です。突然、兵士さんが駆け込んできて未確認の一団がこちらに向かっていると報告がありました。

 

それからしばらくして、その一団が袁紹さんに攻め落とされたご主人様たちのご友人である公孫賛さんだということが分かり、急いで出て行かれました。

 

「詠ちゃん」

 

「ん?どうしたの月」

 

「公孫賛さんってどんな人なのかな?」

 

「確か……普通ね」

 

「普通?」

 

私は意味が分からず首をかしげた。

 

「政治、軍事、なんでもこなすけど。全部そこそこだったはずよ。秀でたことといえば馬術くらいだったかしら。ボクもあまり詳しく知らないわ」

 

詠ちゃんは自分の知っている範囲で公孫賛さんの事を教えてくれた。

 

「でも、ご主人様たちが慌てて出て行ったってことはいい人なんだね」

 

「どうだか。どうせ、あのバカがたらしこんだんじゃないの」

 

「もう、詠ちゃん。どうしてご主人様をそんな風に言うの?」

 

「別に。思ったことを言っているだけよ」

 

詠ちゃんは腕を腰に当てて言っていた。

 

「でも、詠ちゃん。ご主人様の話になるとムキになるよね?」

 

「なっ!そ、そんなこと無いわよ!何言ってるのよ月」

 

「本当に?」

 

「う゛……ほ、本当よ」

 

「……」

 

「う、うぅぅ」

 

詠ちゃんは私がジッと見つめると目を逸らし始めた。

 

「あっ。ほ、ほら!月。桃香たちが戻ってきたみたいよ!」

 

詠ちゃんは話を逸らすように地平線の向こうで土煙を上げるのを見つけて声を上げた。

 

「もう。詠ちゃんたら。ふふっ」

 

私は詠ちゃんの態度に思わず微笑みました。

 

「な、なによ」

 

「なんでもなよ。それじゃ、ご主人様たちをお迎えに行こ。詠ちゃん」

 

「桃香、をね」

 

「本当に素直じゃないんだから……待って詠ちゃん」

 

先に歩き始めた詠ちゃんの背中に向かい私は笑いながら追いかけた。

 

………………

 

…………

 

……

 

「お帰りなさいませ。ご主人様」

 

「ああ。ただいま月」

 

ご主人様たちは大勢の傷ついた兵士さん達をつれて帰ってきました。

 

「ちょっと。なんで月にだけ言ってボクには言わないわけ?」

 

「詠もただいま」

 

「ふんっ。思い出したように言われても嬉しくもなんとも無いわよ」

 

「ご主人様。詠ちゃんはご主人様が帰ってくるのをずっと城壁上で待ってたんですよ」

 

「ちょ!月!?」

 

「そうなのか?」

 

「ち、違うわよ!ただ疲れたから休憩がてら城壁で休んでただけよ。誰があんたなんかを待つもんですか!」

 

「もう、詠ちゃん。嘘は言ったらダメだよ」

 

「う、嘘じゃないわよ。ボクは本当に休憩してただけなんだからね!わかった!」

 

「はいはい。それじゃそう言うことにしておくよ」

 

「そう言うこともなにも、そうなの!まったくもう……それでどうだったの?」

 

詠ちゃんは文句を言いながらも状況をご主人様から聞いていた。

 

「ただいま。月ちゃん」

 

「あっ。桃香様。おかえりなさいませ」

 

詠ちゃんとご主人様が話しているのを見ていると桃香様が私に話しかけてきました。

 

「うん!あ、そうだ。月ちゃんにお願いがあるんだけどいいかな」

 

「はい。なんでしょうか?」

 

「実はね。お部屋を一つ用意してほしいの」

 

「部屋ですか?客室でよろしければ直ぐにご案内できますよ」

 

「ホントっ!うん。それじゃお願い!」

 

「わかりました。すぐに手配をしてきますね」

 

本当はご主人様ともう少しお話したかったけれど、お仕事だから仕方ないよね。

 

「詠ちゃん。お部屋の準備に行くけど。どうする?」

 

「月が行くならボクも行くに決まってるじゃない」

 

「もう少しご主人様とお話しててもいいんだよ?」

 

「もうあいつと話す事は無いもないわ。さあ、行きましょ」

 

「あっ、待ってよ詠ちゃん!」

 

詠ちゃんはスタスタとお屋敷のほうへと歩いていってしまいました。

 

「月」

 

「はい。なんでしょうかご主人様」

 

詠ちゃんを追いかけようとしてご主人様に呼び止められて振り返る。

 

「部屋の準備が整ったらお茶も持ってきてくれるかな?月の入れてくれるお茶は美味しいからね」

 

「っ!は、はい。かしこまりました」

 

私の入れるお茶が美味しいと言ってもらえてとてもうれしくなりました。

 

「月~~~~っ!何してるのよ!早く行くわよ!」

 

「あ、うん!今行くね!それではご主人様。あとでお茶をお持ちしますね」

 

「ああ。待ってるよ」

 

「へぅ……あ、あの。失礼します」

 

私は頬を染めながらぺこりとお辞儀をしてパタパタと詠ちゃんの下へと駆けて行った。

 

「へぅ。ご主人様の笑顔を見ると胸がどきどきしちゃうよ。私、どうしちゃったのかな?」

 

「?月、何か言った?」

 

「え?な、なんでもないよ」

 

客間を準備しながらどうやら私は独り言を喋っていたみたい。

 

「ふ~ん。ところでさ月」

 

「なに詠ちゃん?」

 

「いや。別に対したことじゃないんだけど……」

 

「?」

 

詠ちゃんはなんだか言いにくそうに口をもごもごさせていました。

 

「あ、違ったらごめんね。月ってあいつの事……好きでしょ」

 

「……へぅ!?」

 

詠ちゃんの思わぬ言葉に私は驚いてしまいました。

 

「ど、どうしてそうおもうの?」

 

「えっ。だって月。何かにつけて『ご主人様がね』って言うじゃない」

 

「それは詠ちゃんも一緒だよね」

 

「うぐっ……そ、それだけじゃないわ。あいつに会った後。月はいつも嬉しそうにしてるし。一日会えないと残念そうな顔してるし」

 

「へぅ。わ、私、そんなに顔に出てるの?」

 

「ええ。でも、気づいてるのはボクだけだろうけどね」

 

詠ちゃんに指摘されて恥ずかしくなり私は頬に手を当てた。

 

「どうなのよ月」

 

「へぅ……好き、かも」

 

「はぁ。やっぱり。等々恐れていたことが現実に」

 

詠ちゃんは溜息をついて首を横に振っていた。

 

「で、でも。詠ちゃんもご主人様の好きだよね」

 

「……は?はぁぁあああぁぁぁっ!?な、なな何言ってるのよ月!」

 

「だって。詠ちゃんもご主人様に会うと嬉しそうだし。会えないと不機嫌そうにしてるよ?」

 

「そ、そんなことは……」

 

「あるよ」

 

「うぐっ!」

 

はっきり言うと詠ちゃんは何も言えなくなりました。

 

「私だって詠ちゃんとずっと一緒に居たんだよ。それくらいわかるよ」

 

ずっとどんな時でも一緒に居てくれた詠ちゃん。だから私も詠ちゃんの事が良くわかる。

 

詠ちゃんはきっと自覚してないんだろうけど、ご主人様の事を好きだってことに。

 

「と、とにかく!ボクがあいつの事を好きになることなんてありえないの!ほら!準備も出来たんだから桃香に報告に行くわよ」

 

「もう。桃香様だよ詠ちゃん」

 

「いいのよ。桃香だって呼び捨てでもいいって言ってるんだから。それにあいつだって呼び捨てじゃない」

 

そう。詠ちゃんは事あるごとにご主人様を例にだしてくる。それだけ意識してるって事なのにね。

 

「な、なによ。なんで笑ってるのよ月」

 

「ふふふっ。なんでもないよ。それじゃ桃香様に報告に行こう詠ちゃん」

 

「わわっ!ちょ、ちょっと月!そんなに引っ張らなくてもいいでしょ」

 

私は詠ちゃんの手を取って小走りで走り出した。

 

………………

 

…………

 

……

 

(コンコン)

 

『は~い。どうぞ~』

 

部屋の戸を叩き桃香様から入る許可をえる。

 

「失礼します」

 

「あ、月ちゃん!部屋の準備が出来たの?」

 

「はい。ですが、一部屋だけでよかったのですか?」

 

「うん。兵の人たちは宿舎の方で治療と休憩をしてもらってるから平気だよ」

 

「すまないな。態々部屋まで用意してもらって」

 

「いいんだよ。私と白蓮ちゃんとの仲じゃない!あ、紹介してなかったよね。この人が白蓮ちゃん。私のお友達だよ!」

 

桃香様は笑顔で横に座られていた人の紹介をしてくれました。

 

「おいおい。真名で言っても分からないだろ。私は公孫賛だ。これからよろしく頼む」

 

「こちらこそよろしくお願いします」

 

「この二人が例の?」

 

「うん。そうだよ。月ちゃんと詠ちゃん」

 

公孫賛さんは少し複雑そうな顔をして桃香様に話していました。

 

「例のって……桃香。正体ばらしちゃったわけ!?」

 

詠ちゃんは桃香様に向かい大声を出しました。

 

「うん。だってこれから白蓮ちゃんは私達の仲間になってもらうんだもん。ちゃんと話しておかないと」

 

「だ、だからってそんなことを話して誰かに言いふらさないとも限らないでしょ!」

 

「大丈夫!白蓮ちゃんはそんなことしないよ!」

 

「ああ。それに私もお前達もある意味で麗羽の被害者だ。お互いに仲良くやっていこう」

 

「はい。よろしくお願いします。公孫賛さま」

 

笑顔で答えてくれた公孫賛さんにお辞儀をしました。

 

「ああそれと私のことは真名で構わないぞ。真名は白蓮だ。それと様もいらない」

 

「わかりました。白蓮さん。私のことは月とおよび下さい」

 

「はぁ……こうなると私だけ言わないわけにはいかないじゃない。私は詠よ」

 

詠ちゃんは溜息を吐きながら自己紹介をしていました。

 

「ところで、ご主人様はどちらにいらっしゃいますか?」

 

「ご主人様なら愛紗ちゃんや朱里ちゃんたちと今後について相談するっていって玉座にいったよ」

 

「……それでなんで桃香はここに居るわけ?」

 

「えっと……あはは」

 

詠ちゃんの疑問に桃香様は目線を漂わせた後、苦笑いを浮かべました。

 

「ご、ご主人様がね!白蓮ちゃんと一緒に居ていいって言ってくれたんだよ!つもる話もあるだろうからって!」

 

「私に遠慮することは無いって言ったんだがな。まったく、北郷のお人よしは変わらずだったよ」

 

「そこがご主人様のいいところだからね」

 

「……桃香がえばるところじゃないでしょうが」

 

「あぅ」

 

胸をある桃香様に詠ちゃんは鋭い指摘をしました。

 

「もう、詠ちゃんたら……それでは桃香様。これで失礼しますね」

 

「うん。お部屋ありがとうね」

 

「私はもう少し桃香と話をしてから部屋へ向かうよ」

 

部屋を出る私達に桃香様は手を振ってお礼を言って来ました。

 

「ホント。甘い連中ばかりよね」

 

廊下を歩きながら詠ちゃんは呆れていました。

 

「そこがご主人様と桃香様のいいところだよ」

 

「そりゃわかるけどさ。こうしてボク達も身をおかせてもらってるわけだしね」

 

「うん」

 

「はぁ。まあいいわ。それより仕事に戻るわよ月」

 

「うん。あっ!でも、その前にご主人様にお茶をお出ししないと」

 

「はぁ?なんでよ」

 

「ご主人様が私が淹れたお茶を飲みたいって言ってくれたから」

 

「あ、あの変態色情魔男!月に何やらせようとしてるのよ!一言文句言ってやるわ!」

 

「も、もう詠ちゃん!私達はご主人様の『めいど』なんだから」

 

「そんなことどうだっていいのよ!月は月!『めいど』だろうが侍女だろうがそんなことさせるあいつに天罰を与えるのよ!」

 

詠ちゃんは怒りながら歩き出してしまいました。でも、歩き出した方向は玉座の間ではなく厨房でした。

 

「詠ちゃんは素直じゃないよね」

 

肩を震わせて歩き詠ちゃんの背中を見て思わず微笑んでしまいました。

 

「まって詠ちゃん!私も行くから」

 

ぱたぱたと小走りで追いかける私。

 

これからもこんな日常が続けばいいなと思わずには居られませんでした。

 

《To be continued...》

葉月「あけましておめでとうございますーーーっ!!本年もよろしくお願いします」

 

愛紗「今年最初の投稿だな。去年は色々なことがあった一年だったな」

 

葉月「ですね。愛紗に殺されかけたり、愛紗に追い掛け回されたり、愛紗に脅迫されたりと、散々な一年でした」

 

愛紗「それは自業自得ではないか!元をただせばお前が私をからかうようなことばかりするのが原因であろう!」

 

葉月「はっはっはっ!それが私の仕事ですから!」

 

愛紗「何が仕事だ。まったく……それで、今回の話で白蓮殿が仲間になるということでよいのだな」

 

葉月「はい。もうちょっと細かくやろうかなって思ったんですけど……」

 

愛紗「ですけど、なんだ?」

 

葉月「まあ、白蓮だからいいかなって!取り合えず普通に仲間になってもらいました」

 

愛紗「なるほど。普通に、だな」

 

葉月「はい。普通に、です」

 

白蓮「普通、普通言うなーーーっ!」

 

葉月「あ、普通の白蓮が登場しました」

 

愛紗「登場の仕方も普通だな」

 

白蓮「お、お前ら……わざとだろ!」

 

葉月「はい」

 

白蓮「こんちくしょーーーっ!!」

 

葉月「あ、叫んで行っちゃいましたね」

 

愛紗「そうだな。それで、次回はどおするのだ?」

 

葉月「次回は一刀たちの日常を書けたらいいなと思っています。まあ、いつも通りドタバタになるんですけどね」

 

愛紗「そうか。では私の活躍に乞うご期待と言うわけだな」

 

葉月「はい?まだ内容も決まっていないので愛紗が出るなんて確約はできませんよ」

 

愛紗「な、なんだと!?私が出なければ恋姫として成り立たないだろ!」

 

葉月「いや。桃香でも星でも十分成り立つかと」

 

愛紗「ぐぬぬっ!いいから私を出すのだーーーーっ!!}

 

葉月「どわっ!し、新年早々。偃月刀を振り回さないでください!」

 

愛紗「煩い!今年は辰年!ならこの青龍偃月刀で貴様の去年の垢を擦り落としてくれる!」

 

葉月「し、新年明けてもこんなオチかーーーーっ!」

 

愛紗「逃がしはしないぞ!今年こそ……今年こそ!ご主人様と添い遂げさせるというまでは!」

 

葉月「と、とにかく!本日はここまでです!皆様、今年もよろしくお願いします!あ、あと!愛紗に居場所は言わないでくださいね!」

 

愛紗「みなのもの!本年も、葉月の更正に尽力を尽くす所存だ。見つけたら直ぐに報告をくれると助かる!ではまた次回会おうではないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白蓮「うぅ……どうせ。私なんか……」

 

星「白蓮殿」

 

白蓮「せ、星。お前、慰めに来てくれたのか?本当はいいやつだったんだな!」

 

星「いえ。白蓮殿を肴に一杯や頂こうかと」

 

白蓮「うわーーーーんっ!!」=


 
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