No.354848

兄は妹が少ない(試し読み版)

見月七蓮さん

俺の名は羽瀬川小鷹。ある日どういうわけか、小鳩とマリアどちらが俺の真の妹か決着を付ける事になった。連環の計で攻める策略のマリア。ダークインパルスで迎撃する反逆の小鳩。終わりの見えない戦いに小鷹は終止符を打つ。壮大そうで馬鹿馬鹿しいバトルのお話です。
完全版はC81で頒布しました。DL頒布も行ってますのでサークル情報ページにてご確認ください。 http://www.yotsuba.org/seemoon/circle/

2011-12-30 00:13:38 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2280   閲覧ユーザー数:1798

兄は妹が少ない

 

 俺の名は羽瀬川小鷹。主人公というものらしい。唐突だが人生の窮地に追い込まれている。

「あんちゃんは、うちのもんじゃ。神の手先なんぞに渡さへん!」

「お兄ちゃんは、ワタシの方が良いに決まっておる。吸血鬼なんぞに渡さないのだ!」

 小鳩とマリアは、どっちが俺の妹に相応しいかで口論をしていた。それ自体は毎度よくある光景なのだが、この日はいつもと状況が違う。何が違うかって? それは一冊のライトノベルと、一本のブルーレイが発端となっていたことだ。それも同じタイトルの。

「我が眷属よ。ククク……証をくれてやろう。受け取るがいい……そして契りを交わそうではないか」

「あーはっは。吸血鬼がロザリオを持っているなんて、おかしいのだ。おまえ偽物の吸血鬼なのか? 偽物はうんこと同じなのだ、わかったかうんこ吸血鬼!」

「黙れ神の手先。偽善ぶって祈るだけのあほに、あんちゃんの支えにはなれんのじゃ、わかったか、ドあほ!」

「あほと言った方があほなのだ。うんこのくせにあほだなんて、神様でも救えないのだ。地獄に落ちるがいい、うんこ吸血鬼」

「くっ……先に貴様を地獄の業火で灰にせねばならぬようだな」

「お兄ちゃんに渡すロザリオで吸血鬼をやっつければ、神の祝福がきっとすごいものになるのだ」

 お互い手に握りしめたロザリオを相手に突きつけるポーズをして、一触即発の状態だった。

 学園内にあるマリア様像の前で、どうしてこんなことになったのか。話せばあまり長くなりはしないが、経緯を説明せねばなるまい。読者サービスは大切だ。

 

 それは、隣人部でのとある活動の日のことだった。

 『アリマさまも見ている』と書かれたタイトルで、小鳩はブルーレイ版を、マリアは映画原作小説版を持ってきていた。

 内容は、アリマさまという剣道と三つ編みの先輩が大好きな主人公が、先輩たちの愉快な学生生活をストーカーするというお話。その中にシスターズという制度があって、惹かれ合った二人がロザリオの授受によって夫婦のような関係になれるという。さっそく小鳩もマリアも感化されて俺にロザリオを渡そうとして、被ったため口論になったというわけだ。

 余談だが、そのシスターズは女の子同士で結ぶものが正式な原作らしい。

 

「シスターは妹という意味もあるのだ。だからワタシは、お兄ちゃんの妹ということになるのだ。わかったか、うんこ吸血鬼!」

「なんば言うちょる? あんちゃんは、うちのあんちゃんじゃ! ……灼熱の炎に身を焼かれ狂気に覚醒したか、神の手先め!」

「この際、どちらが真の妹か決着をつけてみるのは、どうだろう?」

「「決着?」」

 マリアと小鳩は全く同じ反応を示した。今まで読書に夢中になっていた夜空が、マリアと小鳩のよくわからない口論に割り込んできたようだ。微かに含み笑いをしてる夜空の表情は明らかに良からぬ企みをしてる顔だ。

 

「それなら、これを使ってみてはどうでしょう?」

 理科が差し出したものは、ごく普通の眼鏡のようだった。

「理科がお手伝いしてるプロジェクトで試作したものなんですけど、百聞は一見にしかずというわけで実際にかけてみてください」

「うおっ、なんだこれは? 虹色のホログラムみたいな気色の悪い箱が見えるぞ」

 試しに眼鏡をかけてみた夜空が見たものを口にしてたが、一体どんなものを見ているんだ?

「それは『ビーキューブ』と言って、この眼鏡をかけることによって得られる邪気眼のエネルギー体とでも例えておきましょうか」

「なあなあ! ワタシも見てみたいぞ!」

「うちも見たい!」

「眼鏡は全員分ありますから配りますね」

 理科はそう言って俺にも眼鏡を渡してくれた。

「かけるだけでいいのか?」

「はい、自動で電源が入るようになってます。ちなみに外すと自動で省電力モードになるので地球環境にも配慮した設計になってます」

「そ、そうか……地球環境とかどうでもいいんだが、うおっ!? なんだこれ!? 本当に気色悪い箱が見えるぞ!?」

「あははは、本当だ。不気味な色なのだ。ゲロのような色なのだ!」

「……なんという禍々しさ。古代より伝えられたという結晶体に、これと似たものを見た覚えがあるぞ……」

「うわっ、なにこれ? 本当に虹色みたいな箱が見えるわ」

「わたくし、このようなもの、はじめてみました」

「私には、この辺りに箱があるように見えるのだが、みんなも同じ場所に見えているのか?」

「ああ、俺にもそこに箱があるように見えるぞ」

「あたしにも見えてる」

「わたくしにもみえています」

「ワタシにも見えてるぞ」

「うちも」

「掴む動作をすることで、実際に掴むことも可能です」

「本当だ」

 実際に掴んでみたところ、みかん箱くらいの大きさなのに質量は無いので、巨大な風船を掴んでるような感覚に近かった。

「本当にそこに箱があるみたいだな……どういう仕掛けなんだ?」

「電界ワールドという一種の仮想世界とリンクさせるんです。この電界眼鏡をかけた者にだけ見える電界アイテムは、ワールドカメラというアプリと同じように現実世界の座標にタグ付けして、様々なアイテムを表示させることができます」

「すごいけど、何に使うんだ?」

「利用方法は研究中です」

「研究などというものは、役立つかどうかは完成してみないと判らないものだからな」

「そういうことです」

「それで、この箱をどうするのだ?」

 マリアは箱をポンポンと放り上げながら、勝負方法について尋ねてきた。

「そうですね……たくさん集めた方が勝ちってことで、どうでしょう?」

「ずいぶんシンプルなルールだな」

「勝負は解りやすい方が良いです」

「ワタシはそれでいいぞ! シンプルなのがいい!」

「う、うちもそれでいい。あほな神の手先なんぞ、倒すのに小細工するまでもないわ……」

「あほって言ったな!? お前の方があほなのだ。あほうんこ吸血鬼!」

「二回もあほって言いよって! 貴様の方があほじゃ。あほあほ、超ドあほ神の手先!」

「まあ、待て待て。口であほの度合いを比べるより、この気色悪い箱の数で決着を付けた方が手っ取り早いだろう」

 気持ち悪そうな表情で箱を見ていた夜空も、勝負方法に異存は無いようだった。

「あほには数でわからせてやるのだ!」

「ククク……目にモノ言わせてくれるわ……」

「ところで理科、ひとつ訊いていいか?」

「なんでしょう、小鷹先輩?」

「この『ビーキューブ』の『ビー』って何の略だ? キューブは箱だって判るが」

「さすがは小鷹先輩、良いところに目を付けましたね。『Boys love』の『B』です」

「まじでか!?」

「当然嘘です」

「おいっ!」

「『B』は『Brother』の略です。兄弟、さし当たっては兄への愛の結晶というところでしょうか」

「なんで、そこで兄が出てくる……」

「開発者が大のブラコンで、兄への愛を形にしたら、こうなったって言ってましたよ」

「ブラコンかよ!」

「タケルという名前が大好きらしいです」

「そこまで聞いてねぇ! っていうか、タケルって誰だよ」

「あと、ビーキューブは開発コードネームなんですが、次の開発コードを名付けた途端、呪われてしまったといういわく付きの代物です」

「恐えよ! 大丈夫か、そんなの使って?」

「なにぶん試作なので保証は……」

「おい、やめさせろ」

「冗談ですよ、箱しか実装してないからバグもほとんど発生しませんし、視覚的に表示させてるだけですから人体には全くの無害です」

「それならいい」

「余談ですが、開発コードには「ハイ」「ミドル」等のレベル付けがあって、一番下の……」

「それ以上は言わんでいい、さっさと始めさせてくれ」

「これからが面白くなるのに……わかりました」

 理科は心底残念そうだった。だが、ここで止めておかないと理科の解説だけで尺が尽きてしまう。

「制限時間は一時間、箱を多く集めた方が勝ち。その手段は問いません、ではスタート!」

 手段は問わないって大丈夫か? 小鳩とマリアは元気よく外へ飛び出していった。箱は校庭に大量に見えてるので、両者ともそれを狙いに行ったようだ。

 マリアは、箱の中に手を突っ込んで箱から紐のようなものを引きずり出し、それを他の箱にくっつけて、その箱からまた紐みたいなものを引きずり出してという行動をとりはじめた。

「見たか、これぞ連環の計なり」

「教えてないのに箱の連結方法を見つけるとは、子供の発想力はすごいですね。はぁ~理科も小鷹先輩と連結したい」

 理科が顔を赤らめて何か妄想してるようだが、あえて触れないでおく。

 一方、小鳩は集めた箱を四段もしくは五段ずつ箱を積み上げていくという普通のやり方だった。

「いただき!」

「あっ!? なんばしちょっか? うちが集めたもんを横取りすんなや!」

 マリアが小鳩の箱に紐を結び付けて自分のものにしていた。

「置きっぱなしにする方が悪いのだ」

「卑怯者! 神の手先が不正などとは……さては邪神の手先か」

「手段は問わないって理科が言っていたのだ。お子様はルールも理解できないのか?」

「クッ……そっちがその気なら、よか。こうしちゃる。逝け、ダークインパルス!」

 小鳩は五段に積み上げた箱の中段辺りを押し出すようにパンチした。だるま落としみたいに。すると、箱がエネルギー体と化してマリアの箱に直撃し、マリアの箱が跡形もなく消し飛んだ。

「あっ!? なんてことするんだ、うんこ吸血鬼!」

「ククク……我が闇の力、思い知ったか、邪神の手先め」

 マリアといい小鳩といい、箱でこんなことが出来るなんて、よく気付くと感心した。

 そんなこんなで、小競り合いを交えながら一時間が経過した。

「はい、ストップ。そこまで」

 理科が終了の合図を出したとき、小鳩もマリアも互いに箱を投げつける構えになっていた。

「えっと……両者とも一個ずつですね」

 気付けば互いに箱をぶつけ合うことに必死になってしまって、時間切れの直前に持っていた箱がお互い最後の一個だった。

「この勝負引き分けですね」

「こいつが箱を消さなければ、ワタシの方が多かったのだ」

「なんば言うちょるか、あんだが横取りせーへんかったら、うちの方が多かったんじゃ」

 このままでは埒が明かない。どうしたものか。

「二人とも小鷹にロザリオを差し出して、小鷹が好きな方を受け取ればいいんじゃない?」

 ずっと傍観していた星奈が突如提案してきた。

「最初から、そうするのが手っ取り早い解決だったのではないか? そう思ってたのなら、何故言わなかった肉」

「だって、面白そうだったんだもん」

「貴様は己の快楽のために、無駄な争いを生みだしたというわけだな? そういう人間が戦争を引き起こすんだ」

「ちょっと!? なんでそこまで言われなきゃいけないわけ? 夜空」

「肉だからだ。やはり肉というものは争いの象徴になるものだな」

「ひどい! 小鷹も何か言ってやってよ」

「俺は星奈の言うとおり、最初からどっちのロザリオを受け取るかでよかったんじゃないかな」

「ほら、バカ夜空ごらんなさい。小鷹もあたしと同意見よ」

「ふん。小鷹も肉と知能が同レベルってことか」

「いちいち腹立つわね、素直に負けを認めなさいよ」

「負け? 何を言っている、ついに頭がいかれたか。私は最初から勝負などしておらん。ただ感想を述べただけにすぎん」

「なんですって!?」

「あの、夜空のあねご、星奈のあねご、さしでがましいようで、もうしあげにくいのですが」

「幸村、どうした?」

「ためしよみ版はここまでにございます」

「……残念だな」

「続きはコミケで読めってことね」

 

※コミックマーケット81、3日目(土) 東ヒ-02a『Project C』にて頒布しますので、よろしくお願いします!


 
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