No.353349

両想いストライカー

鈴木沙弥さん

A5/146P(予定)/1冊1,100円(予定)
世良×堺 小説本再録集。
完売した三冊の本をまとめて加筆訂正したものになります。
お話のあらすじに変更はありませんが、ラブラブに磨きがかかっています。
全編、世良と堺さんがタイトル通り両想いで仲良しです。

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2011-12-26 21:59:24 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:374   閲覧ユーザー数:373

 

「A sweet pain」【お試し読み】

 

 おんぶお化けに押しつぶされそうになる夢から覚めると、おんぶお化けの代わりに抱きつきお化けがいた。

 堺は、寝苦しさと腕のしびれで目を覚ますと、体の左側だけ異常に汗をかいていることに気付く。動かない左側に目をやると、世良がべったりと抱きついていた。

 二人が恋人同士になってから、何度目かの朝をこうして迎えた。

 

 

 

「よしのりさん……ふふっ」

 世良は幸せそうに笑ったままの寝顔で、自分を呼んでいる。肩に鼻先を押し付けて幸福そうに自分のことを呼ぶ世良は可愛いが、少々暑苦しい。

 堺は舌打ちをして、世良の腕を引きはがす。世良が堺にくっついたままの状態で寝ているため、ベッドのスペースにかなりゆとりがあった。堺は、そこへ寝返りを打って移動する。誰もいなかったシーツは冷たく心地よく、汗が引くのを感じた。

「もう少し寝かせろよ。ばか」

 うめくようにつぶやいて堺は掛け布団を引っ張ると、再び目を閉じた。

「あ、あれ」

 しばらくすると世良は、堺が自分の真横にいないことに気付いて目を覚ます。少しスペースを空けて眠っているのが目に入り、世良は腹這いに近づこうとした。それを察した堺は、近寄ろうとする世良に蹴りを入れた。

「痛いっす」

「くっつくな。暑苦しい」

「いやっすよ」

 世良は、堺の声を無視して無理やり抱きつくと、再び鼻先を肩に押し付ける。

「むふー」

 と、言いながら鼻で息を吸い込む。その仕草を子犬がぬくもりを求めてくるように堺は感じた。ふんふんと鼻をうごめかす世良は、特に犬っぽいと思う。

しかし、鼻先をくっつけてくる世良は、あまり気持ちのいいものではない。

「匂いを嗅ぐな。ばか」

 堺は非難の声を上げるが、世良は動じず腕の力をますます強める。

「あー。いい匂い」

 世良は目を閉じて、うっとりした声でつぶやいた。

「気持ち悪いよ、お前」

 堺は肘で世良の体を押すが、頑として離れようとせず足まで絡みつけてくる。柔道の寝技かよ、と堺は思いながら外そうとした。しかし、世良は心得でもあるのかなかなか外れない。

「いやっす」

「ああ、うざい」

 堺は、起き上がるために世良の腕を強引にほどいたが、足はうまく抜けない。苦し紛れに世良の足を力一杯と叩いた。

 世良は、仕方がないというように堺の足を絡め取っていた力を抜いた。

 その隙に堺は、ベッドから這い出ると床に座り込む。眠い目をこすりながらサイドボードの時計を見上げた。

「まだ、6時前かよ」

不 機嫌につぶやきながら、大きく伸びをした。

「しょうがねぇな。起きるか」

 ベッドの上で「一緒にいましょうよぉ」と、寝惚けた声を上げる世良を無視して、堺は立ち上がった。

 世良はベッドの中で夢うつつのまま、堺が動く気配を感じる。しばらくの間、その物音を聞きながらベッドでまどろんでいたが、一人でここにいる意味はない。

 むくりと世良も起き出した。寝惚け眼のまま、のそのそと寝室から顔を覗かせる。

「おはよーっす」

 堺の背に向って朝の挨拶をして洗面所に向った。

 世良が顔を洗っている間に、堺はコーヒーメーカーをセットして冷蔵庫の中を物色する。

「ま、適当でいいよな」

 一人つぶやきながら朝食の準備をしていると、さっぱりとした顔つきをした世良が戻って来た。

 世良は、台所に立つ堺を見て驚きの声を上げた。

「あれ。もう、着替えたんすか」

「いつまでもパジャマだと落ち着かないからな」

 きちんとしている堺らしい言葉に世良は、ふんふんとうなずいた。

「お前も着替えてきなさい」

 堺はきつい口調で言うが、世良は気にした様子もなく「はいっ」と、元気よく返事をすると、着替えるために寝室へ消えて行った。

「My dear darling puppy」【お試し読み】

 

 グランドの片隅に人が集まっているのが見える。

 何事だろうかと興味を持ったが、堺はマッサージを受けて早く帰るつもりでいたので、そのまま通り過ぎようとした。しかし、隣を歩く世良が興味津々の顔をして人の輪に入って行ってしまう。一瞬、置いて行ってしまおうかと考えたが、一度持った興味を捨てきれず、後方から様子を探ることにした。

 

 人の輪の中心に、いつも見かけるスクールの子供たちがいた。その傍で丹波が、しゃがみ込んで話を聞いているのが見える。

 以前、行われたカレーパーティ以来、スクールの子供たちはトップの選手たちに対して親近感を持ったようで、ずいぶんと懐いてくるようになった。

 また、サインでもねだられていたのだろうか。それにしては集まっている人数が多すぎると、堺は不審に思いながら周囲を見渡した。

 よくよく見ると、いい大人たちが随分と真剣な表情だったので、もう一度中心に目を凝らすと、子供たちは段ボール箱を抱えている。その中では茶色の子犬が、尻尾を振って愛嬌を振り舞いていた。

 これは厄介なことになったぞ、と堺は感じて後ずさりしようとした時、世良は犬に気付いて嬉しそうに抱き上げた。

「可愛いっすね」

 いきなり抱きあげて驚かれたらどうするのだ。噛みつかれるぞ、この馬鹿。

 堺は、思わず声を上げそうになったが、心配をよそに子犬は嬉しそうに尻尾を振って世良の顔をなめた。

「くすぐってぇ」

 世良は、大声で喚きながらも大喜びで犬に顔をなめられている。茶色の毛並みの子犬と、茶色に髪を染めている世良はよく似ていた。

 じゃれ合っている様子を見ていた椿が、おそるおそる子犬の頭をなでると、やはり嬉しそうに尻尾を振りその手をなめる。椿の表情が瞬く間に笑顔になるのが見えた。

 それを機に他の選手たちが、次々と子犬をなで、代わる代わる抱き上げた。嫌がる様子のない子犬は飼われている犬ではないか、という疑問が浮かんだが、これは子供たちが否定した。

「そこにあった段ボールに犬がいたんです」

 子供の一人がグランドの出入り口を指す。

 改めて子供たちが抱えている空っぽの箱を居合わせた全員で覗きこむと、汚れたタオルと「ひろってください」と、のたくった字で書かれた紙切れが残されていた。

思わず全員で大きくため息を吐くと、子供たちが不安げに大人たちを見上げた。こんなに大きなため息は、決定機にシュートを外した時でも滅多に聞けない、と堺は思ってしまった。

 子犬は周囲の様子を全く気にせず、元気よく「ワンワン」と、吠えていた。

 

「恋愛生活」【お試し読み】

 

 季節はすっかり秋から冬になった。

 カラフルなハロウィンの飾り付けが姿を消すと、今度は真っ赤なポインセチアの葉が目立つようになる。鮮やかな赤い葉に覆われた植木鉢が立ち並ぶのを見て、世良はクリスマスが近いことを意識し 始めた。

 この前のハロウィンは、調子に乗って堺を怒らせてしまい失敗に終わった。次のイベントはクリスマス。次こそは成功させよう、と世良はクリスマスのムードに盛り上がる街を一人歩く。クリスマスと言えば、サンタとトナカイ。そしてプレゼントだ。

 明るいクリスマスソングを聞きながら、堺が喜ぶものは何かを考えるようとする。しかし、考えれば考えるほど思い浮かばない。

 堺は一体どんなものを好み、どんなものを喜ぶか。世良は思い描けなかった。

 相手は別段に好みにうるさいわけではないようだが、世良の目からすると服装や小物に対して、こだわりを持つ「かっこいい大人」である。

 派手なことを好まないが、シンプルにまとめている普段の堺のスタイルを見ると、気の利いたものを用意することが、途方もなく難しいように思えた。

 だからと言って直接本人に何が欲しいのかと、訊ねる訳にもいかかない。

 仮にそう聞いたとしても「気持ちだけで十分だ」と、いつも自分に向けて口にする言葉が返って来そうな気がした。

 堺は、自分をまだ子供だと思っている部分があるのか、あるいは過去の恋愛経験で大抵のことをし尽くしてしまったのだろうか。世良が何かしようする度に淡白な態度を示す。

 本当に興味がないのか、実は照れ隠しなのか。世良には未だ判断がつかない。そして、何かにつけて「気持ちだけで十分だ」と、言って世良を先に進ませてくれない。

 しかし、自分は彼の恋人なのだ。黙って恋人の喜ぶものを用意したい。

 世良は堺のことを過大評価しているのか、ただ単に自分にセンスがないのか。あるいはその両方か。どうしても堺が喜ぶものが思いつかずに今日に至る。

 純粋に世良は、驚いたり喜んだりする堺の顔が見たいのだが、それはかなりと難しい注文のようだ。

 

「駄目だ。マジで何が良いのか分からなくなってきた」

 世良は一人、頭の中で弱音を吐くと、ぼんやりとショーウインドウを眺めながら当てもなく歩き回った。その中でふと高級ブランドのアクセサリーが目に入って来る。キラキラと輝く宝石を見ると単純な世良は、思い切って指輪はどうだろうか、と考えた

 なかなかいいアイディアかも知れない、とニヤニヤした顔をしてアクセサリーを見入る。

 二人でペアリングを嵌めた場面を想像しようとしたが、喜ぶ顔ではなく難しい顔をした堺が、ラッピングされた小さな箱を見るなり「これはなんだ。いらないぞ」と、せっかくのプレゼントを開けることなく突き返すところが頭に浮かんだ。

 やはり、小さな箱では警戒されるかもしれない。世良はそう思い直す。同じアクセサリーでもブレスレットはどうだろうか。これならば、堺が身につける可能性が高そうだと、世良は思った。

 しかし、堺の手首には常に高そうな腕時計が収まっている。本人が気に入って身につけている腕時計に対して勝てそうなブレスレットやバングルとなると、世良の収入では追い付きそうもない気がして、途端に背中に冷や汗をかいた。

 悲しくなるほど堺が受け取って喜ぶプレゼントが思いつかない。

 自分自身で勝手にハードルを上げているような気がしないでもないが、恋人には思い出に残る素敵なものを渡したい。二人で過ごす初めてのクリスマスなのだから、これまでの人生で一番の思い出に残るくらいのクリスマスにしてみたい、と思う。

 世良はそう心に決め、常に自分の傍にいて笑ってくれる堺の表情を思い出す。

 堺は世良に多くを求めない。ただ、一緒に過ごす時間を大事にしてくれている。常日頃、自分に向けて堺が口にするのは「気持ちだけでいい」という言葉だ。そうではなく、何か形で堺に対して自分の思いを示したいのだ。

 そう考えながら一人、町の中を一人歩いていると北風が身にしみて寒い。慌ててアーミージャケットの襟を立てる。少し背中を丸めていると、少し情けない気持ちになってきた。

 こんなに寒くなったのに、マフラーを巻き忘れて出かけてしまった。風邪をひいたらどうするのだ。きっと、堺なら「プロ意識が低い」と、叱るだろう。

 世良は反省しながら、好きな人へのプレゼント一つ決まらない想像力と決断力。そして、財力の無さを覚えると余計に北風が身にしみた。

「くっしゅん」

 小さなくしゃみをすると「マフラーでも買おうかな」と、独り言をつぶやく。さみしく一人、帰路に着く世良だった。

 

 
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