No.344518

人類には早すぎた御使いが恋姫入り 十四話

TAPEtさん

やりづらい一刀・・・って感じです。

黒幕登場。
おなじみの左慈さんです。結以は居ないよ

2011-12-07 20:39:26 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:4893   閲覧ユーザー数:3881

流琉SIDE

 

兄様がまた居なくなったそうです。

城で降伏した黄巾党の人たちを全部処理して(処理というのは殺したというわけではなく、従うつもりがある者が取り敢えず捕縛させて、幹部急の質の悪い者は斬る等の処理

 

です)、戦後処理も終えて陳留戻っている最中です。

まったく、いつも兄様ったら勝手に動いて周りに心配かけるのがあんなに好きなのでしょうか。

周りが困ってるのを見て楽しんでいるみたいです。

主に私がそうしてるのを。

 

「流琉、大丈夫なの?」

「…うん?うん、大丈夫だよ。なんともない」

「ほんとに?」

「ほんとだよ。どうしたの、季衣?」

「ううん……あのね、流琉。さっき春蘭さまが言うのを聞いたのだけど……」

 

季衣はすごく不安そうな顔で私に言うことを戸惑っているように見えました。

 

「お兄ちゃんって城に帰っても居ないかも知れないって…」

「え?どういうこと?」

 

じゃあ、他にどこに行ったの?

 

「ボクも良く分からないけど、ボクたちが居ない間、お兄ちゃんと華琳さまとすごい喧嘩しちゃったみたいで…だから兄ちゃん、もうここに戻って来ないかもしれないって」

「……え」

 

それって…つまり………

………

 

「…きっと季衣が何か間違って聞いたんだよ」

「でも……」

「大丈夫だよ、季衣。ほら、春蘭さまって割と勘違いとか良くしそうじゃない。華琳さまと兄様と対立するのはいつものことだから、今更喧嘩したとかの理由で……そんな」

 

そんなこと…あるはず、ないよ。

兄様が曹操軍を出ちゃうなんて……

私を置いて、行っちゃうなんて……

 

「うん、きっと大丈夫だよ、流琉」

「あ」

「ごめん、ボク変なこと言っちゃって……お兄ちゃんのことだから、戻ったらまた流琉が作った甘いもの食べたいからさっさと作って来てとか言うに決まってるよね」

「……うん、…うん、そうだね」

 

兄様は私が作ったおやつ大好きなんだもん。

 

「ね、ね、流琉。ボクのも作って」

「え?駄目だよ。兄様にバレたら怒られるよ?」

「えー、いいじゃん。ちょっとだけ」

「季衣の場合、『ちょっと』だけじゃないでしょ?」

 

・・・

 

・・

 

 

 

 

 

桃香SIDE

 

「劉備玄徳、此度の乱にて貴殿の漢王朝へ尽くした忠義と活躍を賞賛し、貴殿に平原の相の任を与えん。今後とも、漢王朝にその忠義を尽くすように」

「はいっ、ありがたき幸せ」

 

・・・

 

・・

 

 

それは朝廷からの使者に会う少し前のことでした。

愛紗ちゃんと一刀さんと一緒に平原に行ったら、先に愛紗ちゃんから話を聞いたのか鈴々ちゃんと朱里ちゃんと雛里ちゃんが迎えに来て居ました。

 

「おねえちゃーーーーーん!!」

「あはっ、鈴々ちゃん」

 

遠くから私に走ってくる鈴々ちゃんを抱きしめようと両腕を広げたのですが、

 

「…ふむ、玄徳、避けろ」

「ふえ?」

「おねえちゃーーん!!」

「ぐふっ!!」

 

一刀さんがつぶやいた言葉の意味が分からないまましていたら、鈴々ちゃんはそのまま速度を落とすことなく私に走ってきたので、私はそのまま鈴々ちゃんの頭にお腹を加撃

 

されて後ろに倒れました。

 

「はわわ、桃香さまー!」

「あわわ、鈴々ちゃん、やり過ぎです」

 

後ろで遅れて走ってきた朱里ちゃんと雛里ちゃんがその様子を見ていつものようにはわあわしてくれてます。

痛いけど、いつもの皆って感じです。痛いけど。

 

「お姉ちゃん、お帰りなのだ。お土産買ってきたのか?」

「こら、鈴々!桃香さまに何をしているのだ!さっさと退かないか!」

 

隣で愛紗ちゃんが倒れている私の上に乗っている鈴々ちゃんを立たせてくれました。

 

「大丈夫ですか、桃香さま」

「あ、うん、大丈夫だよ」

「………」

「皆ごめんね。勝手にどっか行っちゃって、もう絶対こんなことしないよ」

 

愛紗ちゃんの手に握って立ち上がって私は鈴々ちゃんと朱里ちゃんたちを見て頭を下げました。

 

「はわわ、私たちこそ申し訳ありません。私たちが未熟だったばかりに、桃香さまの気持ちに気づくことが出来ませんでした」

「あわわ、だから頭を上げてくだしゃい」

 

二人が慌てて私と同じく頭を下げつつ居る中、鈴々ちゃんは…

 

「にゃ?お兄ちゃんは誰なのだ?変なカッコしてるのだ」

「………」

 

鈴々ちゃんの言葉にも関わらず、一刀さんはどこか遠い所を見つめているように私の方を見ていました。

 

「お姉ちゃん、コイツは誰なのだ?」

「はわわ、駄目だよ鈴々ちゃん。人を差しながらコイツ呼ばわりしちゃ……」

「あわわ、朱里ちゃん、私ちょっと怖いよ」

「あう……」

 

雛里ちゃんの言葉に、朱里ちゃんもそういえばちょっと怖かったのか、一刀さんから何歩か下がりました。

あぁ…うん、それは、見た目はちょっと怖そうな人かも知れないけど……

 

「皆に紹介するね。こちら北郷一刀さんだよ。天の御使い様だよ」

「にゃ?」「はわわ」

 

三人ともびっくりしたね。

私もびっくりしてたけど。

 

「はわわ、天の御使いって…アレですか?管路の占いに出る…」

「うん、それだよ!乱世を鎮める天の御使いの占い」

「おお、お兄ちゃんがそれなのだ?」

「あわわ、愛紗さん」

「…私に聞くな。桃香さまがまた独断で……」

「え、あれ?」

 

なんか皆反応が…

 

「玄徳」

「あ、はい、一刀さん」

「中で使者が君を待っているのだ。さっさと授かる官位授かって動き始めた方がいいだろう」

「へ?」

 

どういう…

 

「はわっ!そうでした。桃香さま、今直ぐここ平原の城に向かってください」

「桃香さまが居なくなった三日前から、朝廷からの使者さんが桃香さまを待っているのです」

「へっ?!そうなの?」

「雲長から聞いただろ。さっさと雲長と一緒に行け」

「えっ、あ、でも…」

 

まだ一刀さんの紹介が……

 

「奴の言うとおりです。行きましょう、桃香さま」

「あぁ、…うん」

 

愛紗ちゃんも促して…うーん、ごめんなさい、一刀さん。

 

「鈴々ちゃん、雛里ちゃん、一刀さんと一緒に居て。愛紗ちゃんと朱里ちゃんは一緒に行こう」

「はい」「はい」

「わかったのだ」「あわわ、私も残されるんですか?」

 

私はそう言って二人と一緒に城へ向かいました。

 

 

雛里SIDE

 

桃香さまと朱里ちゃんがちゃんと話す間もなく行ってしまうと、残されたのは鈴々ちゃんと、桃香さまが天の御使いって紹介した怖そうな顔の男の人だけでした。

怖いというのはその……

 

「翼徳」

 

?!

 

「お前が翼徳だろ?」

「にゃ?お兄ちゃん、鈴々のこと名前何で知ってるのだ?言った事もないのに」

「有名だからだ。それよりも今は何日だ?」

「にゃ?鈴々有名なのだ?にゃはー……」

 

有名だって言われて鈴々ちゃんは照れました。

でも、私たちってそんなに有名…とは言えません。幽州辺りではまだ知られてますが、冀州や青州ではそれほどでもないはずです。

 

「あ、あの……」

「……」

「あう」

 

や、やっぱり怖いです。

朱里ちゃん、早く帰ってきてー。

 

「近くに医院はあるか、翼徳」

「知らないのだ」

「…そうか」

 

医院?

…そういえば右腕を包帯で沢山巻いてます。

 

「あ、の……」

「……」

「い、医院は判りませんけど、私たちの軍の軍医ならいましゅ!」

 

あうっ、かみまみは。

 

「……まぁ、どっちでも良い。案内して欲しいが」

「は、ひゃい、あの、こっちでしゅ」

「にゃは、雛里がいつも以上に噛み噛みなのだ」

 

あわわ、言わないでください。

 

・・・

 

・・

 

 

軍医に見せて、男の人の右腕に何度も重ねて巻いた包帯を外すと、(水を吸ったせいで上手く解けなかったので、刀で切りました)中が変になっていました。

 

「な、なんですか、コレは?」

「あわわ」

 

軍医も驚いて、私も驚きました。

腕に糸が通っています。

これって皮膚を針と糸で縫ったのですか?

 

「……糸はもう解けてもよさそうだな。中のまでやろうとしたらかなり厄介だが……ほっとくか」

 

男の人は一人でつぶやきながら自分の右腕を少しずつ動かしてました。

 

「…再活治療はまだ先か」

「あの、これってどうしてこうなったのでしょうか」

「ちょっと斬られてたので筋肉と皮膚を縫った」

「そんな馬鹿な。そんなことが出来るのですか」

 

軍事では一度腕なのが斬られると、出来ることと言ったら、斬られた腕や脚から血が流れないように血止めするか、酷ければ切断するぐらいしか出来ません。

ましてや一度肉まで斬られた腕を針を通して糸で縫うなんて…そんなこと考えもしたことありません。

 

「お兄ちゃんすごいのだ。痛くなかったのだ?」

「…………」

 

痛くないはずがありません。

そんなの普通に考えても耐えられるものじゃありません。

針が一度通る皮膚を貫く度に、腕を槍で突かれるような痛みが続くのです。しかも、布でもなく人の筋肉です。筋肉は動くと収縮して針がうまく入るはずがありません。縫う

 

のに何刻もかかったはずなのに、そんな痛みを耐え続けることなんて出来るはずが……

 

この人って、一体何者なのでしょうか。

まさか、本当に桃香さまが言った通りに……。

 

 

 

 

朱里SIDE

 

「雛里ちゃん、大丈夫かな」

 

桃香さまと一緒に城に向かいながら私は考えました。

鈴々ちゃんが一緒に居るのですから、まさかそんなことは起こらないと思いますけど、それでも雛里ちゃんは凄く人見知りなので、あの男の人と一緒に置いて来たことが心配

 

でなりません。

 

「朱里、何を考えているんだ」

「はわっ、愛紗さん」

「って、聞くまでもないか」

 

愛紗さんはちょっと先を行っていてこっちの話が聞こえていない桃香さまを見ながら私に言いました。

 

「朱里、お前はどう思う。さっきの男、北郷一刀を」

「……そうですね」

 

確か、曹操軍の中でそういう人が居るって話を聞いたことがあります。

覇者、曹孟徳は凄い実力者で、野望も深い人です。

才のある人を好み、部下たちも揃いに揃った勇猛な者であり、有能な智謀を持った者たちばかりですが、その中でも北郷一刀という男の人は女好きだと言われる曹操さんの軍

 

の唯一の男の将である人であり、彼に関しての話は他の人たちの話とは一線を越えていました。

一言で言ってしまえば、その人は正しく『奇人』

 

誰にも理解しかねる言動を見せ、尚且つ主である曹操さんさえ彼のことを自由に操ることが出来なかったと言います。陳留内の政策改革や高位管理の軍資金横領を暴露するな

 

どと、彼がすることは曹操軍にとって何一つ害になるものはなかったものの、異端者扱いされただろうとは推測できます。

証拠として、陳留から流れてくるその人に関しての噂は、大体の場合『彼が勝手に動いて問題を起こした』『彼の奇人な行動が軍に成す益より害の方が明らかに大きい』など

 

と否定的が方が支配的です。恐らく彼を妬んだ人たちが流したものでしょう。

 

でも、それとは変わって、こんな評価もあります。

それは……

 

「朱里ちゃん、愛紗ちゃん、早く来てよ」

 

あ、

 

「仕方ない。この話は後でしよう」

「…はい」

 

 

 

『北郷一刀、彼の心を掴むことが出来るなら、世界の全てを手に入れることも出来るだろう』

 

 

 

……逆に言えばその人を味方にするぐらいなら『ちょっと天下を取りに出かけてきた』方が容易いって意味です。

 

 

 

 

雛里SIDE

 

「まぁ、このぐらいで良いだろう」

 

包帯を変えて(腕に全部巻いていたのも傷周りだけ軽く回したぐらいになりました)両手を巾着に詰め込んで私に近づきました。

 

「ひっ!」

「まだお前の名前を聞いて居ないな……驚くことにお前の名前が予想出来ない。いや、予想が出来るが……あまり認めたくないからお前の口から言ってもらおう」

 

怖いです。怖いです、とにかく怖いでしゅぅ!!

 

「……」

「ほ、ほほほほほうとうでしゅ」

「…………」

「……あわわ」

 

何か欲しいです。後ろに隠れる何かが欲しいです。

鈴々ちゃん!その人の後ろに居ちゃ駄目!私隠られない!

 

「お兄ちゃん、雛里のことあまり虐めちゃ駄目なのだ」

「……この世界が俺を虐めていることに比するものか」

「にゃ?」

 

 

 

 

一刀SIDE

 

劉玄徳が馬鹿?いいとしよう。

関雲長?まだ許容範囲だ。

 

張翼徳?許楮と典韋が居る。

でも鳳士元(ならさっきの金髪のベレー帽が諸葛孔明)が、劉玄徳の所に幽州の時期から居て、しかも見た目だとまだ典韋ぐらいしかなさそうだ。

この世界は戦場に立つに年齢制限とかはないのか?

 

「……でも、逆に考えれば、とても興味深い」

「……あわわ……」

「鳳士元」

「あわわ……」

「…ん?」

 

…………倒れたぞ。

 

「一刀さん、ここに居ると聞いて、って雛里ちゃん!?」

「はわわ!雛里ちゃーん!」

 

丁度玄徳がこっちを探して来て、鳳士元が倒れてる姿を見かけた。

 

「貴様、雛里に何をしたんだ」

「……俺が聞きたい」

 

今まで見てると気分悪くなるとか不気味とか散々言われたが、見て倒れる人間は初めて見た。

 

「ところで玄徳、どうなった」

「え?何がですか?」

「……官位だ」

「あ、はい、ここ平原の相に任命されました」

「……まあ、先ずはそんなものか……で、これからどうするつもりだ」

「えっと……取り敢えず、雛里ちゃんのこと部屋に運んでおきましょう」

 

……俺はもっと長期的な意見を聞こうと思ったのだが、当面はそれも確かに必要なことだな。

 

「あ」

「なら、こいつは俺が引き受けよう。君たちは後片付けとか……軍の整備とか俺が手を出せないことからやっておくといい」

 

そう言って俺は倒れた鳳士元を抱き上げて幕を出た。

 

「あ、一刀さん、腕…!」

 

・・・

 

・・

 

 

新しい人間

 

新しい集団、

 

興味深い……興味深いが……ふむ……

 

「……最初孟徳に会った時は元譲と妙才が居るだけだった」

 

それ以来の人材は俺の後付いてきた。

それに比べてこの集団は既に自分たちだけの集団を結成している。もう残った枠がないといってもいい。

既に完成された形の集団に新しい要素が入ってくるほど危険なこともない分、その要素に対し排他的になることは決して失礼なこととは言えない。

 

…ああ、でもそれだけではない。

孟徳のところではほぼ全員が俺に対し警戒的だったことに比べ、この集団はそういうのがなさすぎる。

軍師と言う者が人を見て倒れるほどの人見知りだったり、初めて会う相手にお兄ちゃんと軽々しく呼ぶ上に何より君主がアレだ。

 

孟徳の軍の場合そういう警戒心深く俺を接する者の心を踏み台にして対応してきたがここじゃあ謂わばそういう弾かれる感じがない。

押したらそのまま入って、手を放せば戻る。

孟徳軍がトランポリンといえばこの軍はスポンジだ。

 

「……なかなか難しそうだな、馴染むのは」

 

いつもの調子が出ない。

普段なら生意気な者たちの相手に俺の能力でぎゃふんと言わせてから自分の立ち位置を確保するのだが……

ふむ…

 

いい考えが出ない。きっと糖分が足りないんだ。腕も痛いし。

……………部屋に典韋が作ったジャミー・ドジャース(※英国のお菓子。詳しくは先生に)の残りを置いてきたままだった。今頃蟻が湧いてるだろう。

 

「……何で俺はまだ痛い腕で米10斗はしそうな女を抱えてるんだ」

「あわわ!そんなに重くないでしゅ!」

 

何だ、起きてたのか。

 

「起きてるなら自分の足で歩いても良いな」

「その前に謝ってくだしゃい!」

 

ちなみに1斗は米18L分の重さだ。

 

「…ふむ、そうだな。訂正しよう、概略的に……」

「あわわっ!揺らさないでくだしゃい!」

 

二・・・いや、

 

「……1斗8升ぐらいだな」

 

ちなみに10升が1斗だ。

 

「あわわ、測らないでください!最近ちょっと太っちゃって気にしてるのに…!」

「徹夜しながら親友も知らないうちに夜食とか作って食べるからだろ」

「にゃんでわかるんでしゅか!?」

 

典韋が俺のおやつを作ってる時味見したせいで太ったと俺に訴えてたが、俺が見た限りは最初会った時と比べ背が5cmぐらい伸びていた。胸も少し大きくなってたし。

後で話そうと思ったら時期を誤ったが……

 

「と、とにかく下ろしてくだしゃい」

「いいだろ。丁度腕が限界を告げてるからな」

 

 

雛里SIDE

 

起きた時には少し浮かれているって気分がしてました。

誰かに持ち上げられているみたいでした。

 

「最初孟徳に会った時は元譲と妙才が居るだけだった」

 

…あれ?この声って……

 

目を少し開けて見ます。

目の前にあの人、北郷一刀さんの顔が見えました。

 

あ、そうでした。私、この人が怖くて倒れたのでした……

あわわ、良く考えてみたら、怖いからって人の前で倒れるなんて、どれだけ失礼なことしちゃったのでしょうか。

 

って、どうして私はこの人に持ち上げられているんでしょうか。

恐らくどっか寝床がある場所に運ばれてるのだと思いますけど、それだと別段この人がする必要もなかったはずなんですが……

 

「……なかなか難しそうだな、馴染むのは」

 

あ、

 

桃香さまの話から察するに、桃香さまは恐らくこの人を仲間に入れようとしているに違いありません。

どういう分けで桃香さまに会ったのかは知りませんが、桃香さまみたいな人に付いてくる人はそう多くはいません。

桃香さまは優しいですし、良い人ですけど、その人個人から見れば少し天然で、どこか残念そうな気もする人ですから……

 

もし、この人が本当に私たちの仲間になるような人だとすれば、私はとても失礼なことをしてしまったのかもしれません。

そう思ったら、怖いとしか思わなかったその人の目が、どこか少し悲しいような、疲れているように見え始めました。

 

「……何で俺はまだ痛い腕で米10斗はしそうな女を抱えてるんだ」

 

!?

 

「あわわ!そんなに重くないでしゅ!」

 

10斗ってなんでしゅか?!

米10斗だと普通の人3人分の重さですよ!?

人が一人で持ち上げられる重さじゃありません!

前言撤回です!この人怖くありません。怖くないですけど嫌いです!

 

「……1斗8升ぐらいだな」

 

だからって本当の体重測らないでください!

 

「徹夜しながら親友も知らないうちに夜食とか作って食べるからだろ」

 

にゃんればれてまちゅか!?

はい、食べました。

最近眠りせずに片付けることが多すぎて夜中まで灯りつけて仕事していたんです、丑三つぐらいになるとお腹がぎゅーぎゅーって鳴るんです!仕方ないじゃないですか!お腹

 

減ったら手が進まないんです。

 

「丁度良いだろう。倒れたことを言い訳に休んでおけばいい。手続きの速度が半分になるだろうが……それでも他の軍の通常速度程度だ」

「あわわ……」

 

この人、なんかおかしいです。(気づくのが早いね by作者)

なんかはっきり言えませんけど……言うことが大雑把な所とか、なのに的確に人の痛い所突いてくる所とか……

この人が軍師だとしたら人並みの実力ではないでしょう。

 

「あわわ、休むべきは寧ろそっちの方だと思うのですが…」

「その根拠は?」

「目元の隈が目よりも大きくなりそうですから」

「いつものことだ」

「今直ぐ寝てください」

 

割りと本気でです。

 

「まぁ、特に興味が湧きそうなものも見当たらないし、ここが片付くのも数日かかるだろう。その間はのんびり休んでもいいかも知れない」

 

そう言いながらその人は私たちが居た廊下の前の門を開きました。

中は空き部屋で、誰も使っていない様子でした。

その人は布団を見てはそのままそこで体の姿勢を崩しました。

寝るつもりでしょうか。

 

「……いや、待て」

 

と思ったらまた起きました。

 

「お前はさっきまで俺を見るだけで震えた挙句倒れたのに、何故今は平然と俺に話をしている」

「あわわ?」

 

それですか?

 

「あわわ、それは…普通その方が失礼ですし」

「俺が聞いてるのはお前の義務感のことじゃない。さっきは俺を見て倒れた。そして今は平然だ。その差を起こしているのは何だ」

「え、えっと……」

 

だって、

 

「あなたは、私が倒れてそれを寝床に運ぼうとしてここまで抱き上げてきたんですよね」

「そうだが」

「だからです。そういうことしてくれた人の前で倒れるなんて失礼なことこの上ありませんから」

「そういうこととは?」

「あわわ…強いていうなら……『親切』にされましたから……?」

「…………」

「…………」

「ふむ、分かった。参考にしよう」

「へ?」

「じゃあ」

 

そしてその人はまたそのまま横になって、今度は本当に動かなくなりました。

 

………なんだったのでしょうか。

 

 

 

 

裏話

 

 

 

「これ以上、外史に手を出したら承知しないわよ、左慈」

「遅かったね、貂蝉」

「また邪魔をするつもりなのかしらん」

「……いつでもあなたの邪魔をすることは楽しいわ」

 

ドカーーン!!

 

「……これはあまり楽しくないけど。その筋肉退けてもらいましょうか」

 

スッ

 

「腕をあげたな、左慈」

「そっちが衰えたんじゃくて?そろそろ引退すれば?」

「お前さんが居る限りはそうはいかないな」

「奇遇ね、私もあなたが生きているうちはあなたのやりたいようにさせるつもりはないわ」

「……これ以上私がすることに手を加えれば、その時は……」

「ふん」

 

 

 

 

「さて、あなたはどうするつもりかしら、北郷一刀。この乱世で、その身とその心を持って成すものがなんなのか……見せてみなさい」

 


 
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