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【改訂版】真・恋姫無双 霞√ 俺の智=ウチの矛 二章:話の九

甘露さん

ネタがないんで産業は無しでs。
次で二章終了、今回も鬱展開です。ご注意を

2011-11-12 23:52:38 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:5853   閲覧ユーザー数:5337

 

 「ちょ、ちょっと待ってぇな! 意味が解らん! なんで? どうしてウチが結婚するんよ!!」

 「どうもこうもないですわ。貴女は結婚する。その事実があるだけですもの」

 「納得いかへんわ! 大体ウチまだ13なんやで!?」

 「貴女の都合なんて知りませんわ。 ただ家のために女の貴女が嫁ぐだけ」

 

 ……それは、そうやけども。

 何も言い返せん自分が嫌に思えた。

 

 「……オトンは、何ていっとるん?」

 「張越様は、もう長くないのよ」

 

 ……ああ、一刀のいっとったアレやね。

 一刀は怨まんけど、オトンも哀れな人やなぁ……、でも。

 

 「なんで、そない平然としとんねん」

 

 普通なら、夫が死ぬなら妻は喪に服さにゃならんのに。

 むしろ嬉しそうや、この婆は。 

 

 

 「……誰があんな不能野郎を弔ってやるものですか。

  私の両親を半ば騙す様な形で……いいえ、騙し殺した結果に成されたこの婚姻、報復にはちょうどいいですわ。

  だまされ嫁がされた私と、哀れ人質人柱として蜀に飛ばされる貴女。

  ちょうど釣り合う親子じゃないですの」

 「……っ」

 

 してもオトンは相当な下衆やったっぽいな。なんだかなぁ。

 ……ん?

 

 「ちょ、ちょい待ちぃな!」

 「なんですの?」

 

 この婆、ウチの行く先にトンでもないトコ指定しんかったか?

 

 「蜀って……相手は、誰なんよ?」

 「蜀の地を治める劉家が長子、劉障殿よ」

 「な、なんで、そない大陸の反対から……?」

 「それが決められたこと。貴女は黙って従えばいいのよ」

 

 しても……なんやおかしくないか?

 なんていうか、出来すぎてるっていうか……。

 オトンが丁度死んで、見図ったように持って来られた結婚話。

 

 「……アンタ、何企んどるんや?」

 「貴女に言う必要があって?」

 「当事者や、聞く権利くらいあるやろ」

 「言う訳ないじゃない。貴女に情報を与える意味がないもの」

 

 ……このババア、馬鹿やないんやさなぁ。

 ホンッマに面倒くさいやっちゃ。

 

 「……まあええわ。 オトンが死んで、ただ敵が打てた何て満足する様な奴やないモンな、アンタ。

  そんな、絹道の旨みを独占したいんか?」

 「……何故それを知っているのかしら?」

 

 ……やっぱか、カマ掛けが上手くいったわ。

 まぁ、こんな北の果てにある旨みなんてそんなもんしかないんやけどな。

 とりあえず、ここは動揺させといた方がええよな。

 

 「けっ。アンタウチを唯の子娘やおもっとるかもしれんけどな。

  ウチかて北方の支配者の娘なんやで。手ごまの一つや二つくらいおるわ」

 「……へぇ。その手駒、一人は高順、とかいう儒子でなくて?」

 「な、なんでアンタが一刀をっ!?」

 「あら、私も貴女の台詞をそっくりそのまま返しただけよ?

  それにしても……貴女、真名まで預かってるのね」

 

 あちゃぁ……下手こいたわ。

 でも、勘違いは訂正しんほうがええかもしれん。

 ウチの個人的な人やっって知られてもうたら、一刀に後ろ盾がないってバレてもうたら危ないかもしれん。 

 

 「なんや、なんか文句あるんか」

 「いいえ、寧ろ貴女に、張越に復讐できる材料が増えた喜びで一杯よ」

 

 するとババアは、にたり、と嫌味な笑顔をウチに向け、ゆっくりと口を開いてった。

 

 不自然に、血染めされたみたいに真っ赤な口内がちらと眼に入った。

 ……ぞくり、って肌が栗毛立った。生理的に無理や、コイツが。

 

 「それに、貴女には想い人がいたんでしてね?」

 「……そ、ソレが今何の関係があるんや」

 

 ……ヤバい。

 マジで下手こいたかもしれん。

 こない敵だらけやったなんて……。

 

 「あら、大有りよ。 張任殿は何だかんだと言いながらあの儒子を気に入ってたのだけどねぇ」

 「あ、それって……まさか!」

 「あら、気づいちゃったの? まぁ、これは教えてあげるわ。

  有能な儒子が、実は敵勢力の娘の手駒だったと分かったら……。貴女なら、どうするか・し・ら?」

 

 唇を人差し指で押さえて、妖艶に笑うババア。

 その笑顔は、一刀への死刑宣告。 

 

 「か、一刀はっ! な、何の関係も無いただの孤児や!

  ウチと友達なだけで、一刀はっ!!」

 「あァら、そうだったの? でもごめんあそばせ、もう教えちゃった」

 「う、嘘やろ……?」

 「ごめんね、全部本当よ」

 

 かずとが、しぬ。

 一刀が……死ぬ?

 

 「さしあたり今夜、あの子は、この世からサヨナラしちゃうの」

 「嘘やっ! 嘘や嘘や嘘や!! ま、まだ仲直りしてへんのにっ!! 死ぬなんて嘘や!!」

 「……あは、あははははっ! いいわ、素敵よその絶望が!! 私の復讐と、栄光を飾る最高の門出だわ!!

  さて、連れて行きなさい。どうせ名前だけの結婚。生きてさえいればいいわ。好きなようにしてしまいなさいな」

 

 死ぬ、死ぬって……死ぬ?

 

 一刀が……?

 

 あ、あはは、いややわぁ。一刀が死んでまうわけないやん……?

 

 ねぇ。かずと? 

 

 

 **

 

 

 一刀が、しんでもうた。

 

 さっき届いた血濡れの、一刀がここで、城ではおっとった文官服。  

 ソレがウチの目の前にある。

 

 あの婆が、わざわざ親切に持ってきてくれた。

 ……本物やった。

 一刀の匂いが、体温がまだ少しのこっとった。

 

 さっき、つい一時前に死んだばっかやって。

 

 「……」

 

 なんかもう、世界がよう分からん。

 一刀が居らん世界、ってなんなの?

 

 

 「失礼する。張文遠、とは貴殿のことで宜しいか?」

 「ん……」

 「確認した。張任さまより話があるそうだ。着いて来てもらおう」

 「ん……」

 

 

 なんかいっとる。

 でも、それが意味をもっとる音には聞こえん。

 

 

 「……立ちあがっては貰えぬか?」

 「ん……」

 「ええい、面倒な奴め!!」

 「っ、触んなっ!!」

 

 がし、と手首を掴まれた。

 嫌な感じがまたじわと広がって、思わず反射的に手をはじいてもうた。

 

 「……あ、すまん。 んで、あんたなにしとんるんや?」

 「っ、だから着いて来いと!!」

 「ん、あ、ああ着いてきゃええんやね、分かった分かった」

 「っち、本当に面倒な奴だ……」

 

 よう分からんけど、このあんちゃんは何故か怒っとった。

 さっきの聞き逃しの所為なんかなぁ?

 

 「んで、どこ連れて行くん?」

 「張任様の元へ、だ!」 

 「へぇー……」

 

 なんかもうどうでもよくなった。

 一刀が居らん世界、ってここなんやろか?

 

 **

 

 「来たか。座ってくれたまえ……おい、コイツは大丈夫なのか?」

 「はぁ、其れが何を聞いても“ん”としか言わなくて……」

 「まあいい。ようこそ文遠殿。 私が十日後より并州牧代理となる張任だ」

 

 十日後から并州牧になる、って……このおっさんは何を言うとるんやろうか。

 并州牧はオトンやん。ってことは、このおっさんがウチのオトンなのかなぁ。

 

 「あー、えっと。ありがと? ウチは張遼、あんたがオトンなの?」

 「……駄目だなコレは。まぁいい、薬を使う手間が省けた」

 

 薬、薬かぁ。ウチ、苦いのは嫌やなぁ。

 

 「薬は苦くないのがええなぁ……」

 「大丈夫さ、苦くないよ」

 「ほんまに?」

 「ああ」

 「なら何でもええで。ウチ飲むよ」

 

 苦いのはヤやけど、身体にええなら別に気にしん。

 

 「そうか、じゃあ部屋に戻ろうか。そこで薬を上げよう」

 「んー、分かった。 んじゃウチ戻るわー……」

 

 「……完全に壊れたな」

 「ええ。あり得るならあの儒子くらいでしょう、正気に戻せられるのは」

 「それも死んだ今、この娘は壊れたまま、ということか」

 「恐らくは」

 「……可哀そうな事をしたもんだ。いくら主殿の命とはいえ、斯様な子供を二人も手に掛け壊す羽目になるとはな」

 「張任様は何か不満でもあるのですか」

 「いや、主の命ならば、不服であろうが従うのみ、私心とはまた別のものだ」

 

 ……んー。

 ウチにはむずかしいはなし、ようわからんよ……。

 

 

 **

 

 

 / ?

 

 

 暗い…… 寒い……。

 ここは……どこ……?

 

 目を開いても真っ暗。なら、閉じておこう。

 

 ここは、どこだろう。

 

 

 下に、ずぅっと下に、一筋の明かりが見えた。

 

 

 そこに行こう。

 

 そこに行けば、全部分かる気がするんだ。

 

 

 明かりに近づくと、そこには、絵にかいたような平和があった。

 

 

 朝、見送られ働きに出て。

 昼、家に戻って一休みして、ご飯を食べて。

 夜、狭いけど暖かい布団で、すやすや眠って。

 

 

 それは、掴めそうで掴めない光景。

 

 

 掴みたいよ、平穏を。

 だから両手を、目一杯延ばしてさ。

 

 

 一緒に、答え見つけようよ。

 

 ね、霞。

 

 

 ** 

 

 /一刀

 

 

 

 「っ……」

 

 幸せな夢から覚め、まず感じたのは異様な臭気と肌の上を蠢く蛆の感触。

 昔、一度だけ体験したことのある感覚だ。

 

 ドブの中に、身をうずめた感覚。

 凍えそうになった時、最後に辿り着いたのが残飯の溜ったドブの泥の中。

 発酵熱で、俺はその時助かったんだっけ。

 

 代わりに、気が狂いそうになったけどさ。

 

 ……しかし、なんで俺はドブん中に?

 顔半分が埋まった状態から抜け出そうと身体を動かすと、下腹部に鈍痛が走った。

 手を当てれば、冷たい刃物の感触。

 

 「っ……短剣。 ああ、そっか……。刺されたんだっけ」

 

 所詮は、使い捨ての儒子ってこった。

 ……はぁ。

 

 「馬鹿みたい、だよなぁ」

 

 夢見て、足掻いて……。で、結局簡単に殺されかけて。

 ……なんで、あのままおっ死んでしまえなかったんだろ。

 

 そうすれば……。

 

 「意識戻んなきゃ、幸せな夢の中にいつまでも居られたのに」 

 

 霞と一緒の幸せな結末をさ……。

 あ、そっか。霞か……。

 

 「まだ……謝って無かったよなぁ」

 

 ってことは、俺のやることはさ。

 

 「死ぬなら、ごめんなさい言ってからだよな」

 

 

 それまでは、足掻いて足掻いて、這いずり回って生き残ってやるよ。 

 

 

 「……でも、これどうすっかなぁ」

 

 正直動く度に無茶苦茶痛い訳だが。

 多分、かなり下の方だったから、傷つけても精々小腸とかだったんじゃないかと。

 んで、出血量の少なさから見て、太い血管は傷つけなかった様だし。

 

 対して確認もしないまま、えっと此処は……。

 城の裏のゴミ捨て場か何かにぽいっ、とされた訳だ。

 

 相当粗雑に扱われたと思うんだけど、傷が酷くなってないとか、めちゃくちゃ運良いな……。

 一生分使ったぞこりゃ、間違いなく。

 

 まぁ。霞に謝れれば、後は俺のすることは死ぬのと霞の幸せを見守る位だし。 

 ……霞の幸せの為だ。霞がなんて言ったって、宮殿暮らしの方が幸せに決まってる。

 

 まずは、どうにかして止血かなぁ。

 抜くと血がどばっとなるだろうし、一気に血が抜けたら多分困ったことになるだろうし。

 

 「腹に刃物ブチこんだまま移動とか……」

 

 日本ならあり得ないよな。うん。

 

 「とりあえず……井戸が何処かに……」

 

 きれいな水でドブの汚れを流して、何か適当な布で止血して縫合して……こんなもんか。

 ……最後まで意識持つかな。

 

 まぁ、自分との賭けだね。霞への想いと、自分の気力とのデスレース。文字通りに。

 ……こんな無駄な事ばっか考えられる辺り案外余裕なのかも知んないな、俺。

 

 とりあえず、最後の悪あがき、と行きますか。

 


 
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