No.331024

Just Walk In The ----- Prologue・4

ども、峠崎ジョージです。
投稿72作品目になりました。
能力者SF序章の続きです。
意見感想その他諸々、一言だけでもコメントして下さると、そのついでに支援ボタンなんかポチッとして下さるとテンションあがって執筆スピード上がるかもです。
では、本編をどぞ。

2011-11-07 07:03:24 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:5821   閲覧ユーザー数:5103

「刑事さんが、『狭乃 狼』さん、ですか?」

 

「あぁ。吃驚したかい、こんなオジサンで」

 

「あ、いえ、こんなに早くお会いできるとは思っていなかったもので……こちらこそ、宜しくお願いします」

 

突然の変化の連続に思考回路はショート寸前であった。恐らく今の自分の状況を漫画で表したならば、きっと頭には大量の疑問符が浮かび、真白な煙が立ち昇っている事だろう。

戸惑いながらも差し出した右手を、『狭乃狼(はざまのろう)』こと(いぬい)さんはしっかりと握り返してくれた。言わずもがな『狭乃狼』さんっていうのは『あのラウンジ』の住人の一人で、『オジサン』なんて自分で言うからには、僕達よりもそれなりに年上って事なんだろうけど、全くそうは見えない。呆然と見つめる顔は彫が深く端正で、とても凛々しい印象を受ける。丈二さんは年齢の割に大人びた顔つきをしているけど、ああいう人が更に年月を重ねて、却って周囲の方が年老いて見えるようになる頃には、きっとこうなってるんじゃないかなって、そんなイメージ。

 

「久し振りっすね、『狼』さん。半月以来っすかね?」

 

「そうだな。『あの一件』以来だから、それくらいになるか」

 

「で、その『狼』さんが出張ってきてるって事は、」

 

「あぁ、そうだ。……この事件、どうも『そういう事』らしい」

 

(『そういう事』?)

 

光との会話は代名詞が多くて内容が今一把握できなく、特に最後の声を抑えての言葉は国士の好奇心を程良くくすぐられた。そんな彼の様子に気付いたのか、光は身体を屈め『耳を貸せ』とジェスチャーして、

 

「『狼』さんはな、能力者犯罪専門の刑事なんだよ。この人が出て来るって事は、つまり能力者犯罪の可能性が高い、もしくは確定って訳」

 

「え?」

 

小声での光の言葉に少なからずの驚きと共に見ると、乾さんは若干の苦笑と共に言う。

 

「さっき、君に聞いただろう? 明らかに挙動不審だったり、怪しい『何か』を見なかったか、って。何か『対価』の痕跡が残ってなかったかって意味もあったんだよ」

 

「あぁ、そういう事だったんですか」

 

対価。

能力者は無限に能力を使う事は出来ず、とある法則の下にその力は制限されている。それが『対価』である。

何かを失わずして、何かを得ることは出来ない。等価交換。この世最大にして絶対の物理法則。それが等価か否かは、当人のみぞ知る価値観だが、能力者は能力の行使の代償として、漏れなく一定の対価を支払わなければならない。それは特定の行動であったり、症状であったり、能力行使そのものに条件が存在する者もいる。そしてそれは、その能力との関係性が密接である場合が多い。つまり、『対価』の痕跡が見つかれば、その能力もある程度推測する事が可能になる、と言う訳だ。

 

「能力者犯罪となってくると、敏感な人も多いからな、色々慎重に捜査しなきゃならない。それで、多少ぼかして聞いてるんだ。この手の犯行は何が手掛かりになるか本当に解らないから、どんなに些細な物事でも見過ごせなくてね」

 

「で、それらしい手掛かりは見つかったんすか?」

 

「いや、さっぱりだな。現場周辺にいた人の殆どに聞いてみたが、皆『戦国』くんとほぼ同意見だそうだ」

 

「と言う事は、手掛かりは無しって事ですか?」

 

「いや、そうでもない」

 

「……どういう事ですか?」

 

笑みを深める乾に国士が首を傾げると、

 

「まぁ、その話はここじゃな。……『雷電』、ちょっと」

 

「ほい? 何すか?」

 

流石に一般人に話せる限界なのだろう、乾は話題を打ち切り光を呼び寄せ声を潜めて、

 

「今晩は、閉店後に行けばいいんだよな?」

 

「はい、そうっす。今日は、絶対に来て下さいよ」

 

「あぁ。折角の機会だ、何が何でも駆け付けるさ。その為にも、さっさと仕事を片付けて来るとしよう。じゃあな『戦国』くん、また今晩に」

 

「あ、はい。二回目ですけど、お仕事頑張ってください」

 

「ありがとう。それじゃ」

 

そう言って、『狼』は警官達の元へと戻って行った。親しみのある笑顔が、振り返りざまに引き締まった真剣な表情へと変わる。何て言うか、物凄く『大人だ』と思った。

 

「……って、あれ? 光さん」

 

「ん?」

 

「今晩、何かあるんですか?」

 

「まぁな。夜になってからのお楽しみだ」

 

「はぁ……解りました」

 

どうやら教えてくれる気はないらしく、気にはなるものの後で解るのならと、国士も思考を中断した。

 

「ほら、とっととアレ、店に持ってこうぜ。旦那、待ちくたびれてるかもだし」

 

「ですね―――って……へ?」

 

振り返って、即硬直する国士。その視線の先、光が指差すのは、

 

「……光さん?」

 

「何?」

 

「アレ、何日分ですか?」

 

「今日の分だけど?」

 

「明らかに多過ぎるでしょう!!」

 

目の前、鎮座する発泡スチロールの箱は一つ二つ三つ四つ―――優に十は超えているだろうか、それらが積み重ねられている台車が二つ、並んでいた。

 

「言わなかったっけ? それなりに大荷物になるって」

 

「いや、言ってましたけど……それにしたって、これで1日分ですか?」

 

「あぁ。明日の分が残ればいい方だな。そっち頼むぜ、俺こっち押してくから」

 

唖然愕然大呆然。開いた口がふさがらないとはこの事である。思い返せば初対面の時、丈二が抱えていた魚屋のそれも結構な量だったが、あれも今日一日で無くなるというのだろうか。

と、言う事はである。

 

「光さん」

 

「ん?」

 

「丈二さんのお店って、お客さん、どれくらい来るんですか?」

 

尋ねると、光は意味深に唇の端を釣りあげ、

 

 

 

―――――それも、見てのお楽しみだぜ、後輩?

 

 

 

それはそれは楽しそうに、そう言ってみせたのだった。

 

 

 

 

…………

 

 

 

……………………

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

刻限が迫る。

 

紅夕陽が茜に染める世界に轟くは飢えた獣たちの雄叫び。

 

低く、重く、己が欲望を知らしめる。

 

双眸は獲物を求めてぎらりと光り、口内はその甘美なる味を噛み締めんと欲して唾液に溢れ滴らせる。

 

今、この場所に鬣犬(ハイエナ)は1匹とておらず、至高の糧を我が物にせんとする狼が己を爪を磨き、牙を尖らせ、その刻を待つ。

 

正に弱肉強食の生存競争。慈悲もなく、是非もなく、彼等を待つのはただ勝敗という結果のみ。

 

そして、火蓋は切って落とされた。

 

解き放たれた鍵。

 

開け放たれた扉。

 

 

 

一斉に飛び込んだ狩人達は直ぐ様、己の陣地を確保し、己が欲望を告げる―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――店員さん、ショウガ焼き定食大盛りで!!

 

 

 

 

 

 

「はいっ、ただいま!!」

 

「旦那!! 豚カツ定食2つ、親子丼大盛り1つ、焼魚定食1つ、魚は鯖ね!!」

 

「あいよ。天丼あがったぞ、持ってけ」

 

「丈二さん。ご飯、次が炊き上がりました」

 

「…………何だ、これ」

 

時計の針が午後5時を示し、扉の『閉店』の札が『開店』に変わったと同時、雪崩れ込むように入って来たのは、大半がスポーツバッグを携えた青少年達だった。学ランだったりブレザーだったりジャージだったりと格好こそばらばらだが、はっきりと統一性が見て取れる。ほぼ間違いなく、部活動帰りの学生だ。そんな彼等がある程度のグループに別れながらも、文字通り客席という客席を埋め尽くし陣取っている。ただでさえ広くはない店内が余計に狭く感じ、賑々しく飛び交う注文と応答の声は絶える事無く続いていた。

国士はそんな喧騒の中、たどたどしく奮闘していた。任されているのは注文の確認と料理の運搬。『まずはメニューを覚える所から』との事。途切れる事のない呼び声に店内を、光と共に縦横無尽に動き回り、一息つく暇もなくひたすら応対しては料理を運び、応対しては料理を運びの繰り返し。実に多忙極まりなかった。食欲旺盛な彼等の注文には一切の遠慮がなく、周囲の雑談に紛れてしまい注文を聞き取るのにも少なからず苦労する。また、光は経験がある故にコツを掴んでいるのだろう、両手に幾つも盆を乗せているが、全くもって未経験な国士に同様の方法は荷が重く、溢さないよう倒さないよう一つ一つ丁寧に運ぶのが精一杯だった。当然、効率は低く、作業も遅い。初日という点も確かにあるが、

 

「ここまで混むとは思ってなかった……」

 

まぁ、改めて店内をよく見てみると、その理由も凡そ理解できる。というのも、『ごりら食堂』のメニュー、お財布に非常に優しいのだ。定食系統は基本的にワンコイン、つまり500円なのに白米、味噌汁、漬物におかずと、充分なボリューム。150円加算で全メニュー大盛りにでき、その場合のご飯と千切りキャベツに至ってはその量がほぼ倍になる。一方、丼ものだが、

 

「すいませ~ん、店員さ~ん!!」

 

「あ、はい。御注文をどうぞ」

 

「えっとですね……ゴモタマ丼3つ、お願いします」

 

「ゴモタマ、3つ、ですね。少々お待ち下さい」

 

『ゴモタマ丼』。正式名称『五目卵丼』。鶏肉抜きの親子丼を想像してもらえるとかなり近い。濃い目の出汁で煮た細切りのニンジン、ゴボウ、玉ねぎ、シイタケ、油揚げを卵でとじたものを丼ご飯に乗せたものなのだが、これが店内で最安値のメニューで、味噌汁と漬物がついてなんとたったの300円。他の丼メニューもMAXで500円と、異常なまでの安さ。これで本当に採算がとれているのかと問いたい。小一時間ほど問い詰めたい。ちなみに、丼の方は100円で大盛りに出来る。つまり、『ゴモタマ丼』の場合、大盛りにしたとしてもワンコインでお釣りがくるのである。故にだろう、ここ1時間ほどにおける『ゴモタマ丼』の注文率は著しく高かった。

とまぁこの様に、財布に寒風を吹き入れる事無く腹を満たせるともなれば、学生達に人気が出ない筈もない。増してやこの店は自分が通う大学からも、最寄りの駅からもそう遠くないのだ。交通の便も悪くないとなれば、そりゃ人も来るというものである。

そして、何よりの理由が、

 

「お疲れ、『戦国』」

 

「あぁ……お疲れ様です、光さん」

 

やがて賑わいもピークを越え、徐々に学生達が捌け始めた頃、やっと一息と言わんばかりに厨房の椅子に腰かけていると、光が声をかけてきた。

 

「どうだ? バイト初体験の感想としては」

 

「こういう事だったんですね、あのお肉の量って……」

 

「あぁ。あれくらいないと、直ぐ様オーダーストップなのよ。ここ、結構人気店なんだぜ?」

 

それはそうだろう、ここまで味と値段の釣り合いが崩壊してもいれば。先のムニエルでも十二分に窺えるが、丈二さんの腕がそもそも達人級なのだ。高過ぎず安過ぎず、良過ぎず悪過ぎず、顧客の舌と懐具合を考慮して値段と質の境界線を見定めた材料選び。その材料を手早く且つ上質に、注文した客の味覚に合わせて味付けに絶妙な加減まで加える調理の腕。運動後であろう学生達には濃い目に。カロリーや塩分、油分の摂取量を気にし始めるであろう中高年の会社員達には薄目に。自分は注文全てを把握するだけでも一苦労だと言うのに、厨房の中の巨体はその見た目に反して実に迅速且つ効率的に動き回っている。衣を纏わせた食材達を油の浴槽へ放り込みつつ、その傍らでフライパンを振りながら食指が狂喜乱舞しそうな芳しい香りを撒き散らしたかと思えば、見る見るうちにキャベツの千切りを山のように積み上がらせた直後に、隣のコンロで味噌汁の味加減を確かめたり、何と言うか、それはもう腕が4本あるんじゃないかと思ってしまうのような作業量だった。

 

「普段はゴー○キーで今はカ○リキーですね解ります」

 

モノローグ(頭の中)を読まないで下さい!! ってか、何時の間に通信交換したと!?」

 

「いやだって、旦那は普通に『ばくれつパ○チ』とか『ス○イアッパー』とか出来そうじゃね?」

 

「…………」

 

どうしよう、想像してみたけど全然違和感ないや。

 

「そういやさ、今時の子供って『通信ケーブル』の存在、知らねえんだってな」

 

「え? ……あぁそっか。今はもうワイヤレスですもんね」

 

「そうそう。まだ初代だったあの頃は持ってる奴がものっそい重宝されてさ、休みの日とかにそいつん家に集まって交換大会とかすんのな」

 

「へぇ……あ、そう言えば、機種がカラーになってから『ふ○ぎなおくりもの』はあの黒い赤外線みたいなヤツで出来たのに、何で交換は出来ないんだろうって思いませんでした?」

 

「あ~あ~あったあった!! あぁいうのって嫌に集めたくなるんだよなぁ。あれでしか手に入んない家具とかあってさ、コレクター魂をそそられたっけなぁ、懐かしいわ」

 

束の間の、取り留めのない話に花が咲く。日常のようで非日常のような、この不思議な時間が持つ独特の空気は自ずと次の話題を投げ掛けたくさせる。が、当然ながら今は仕事中な訳で、

 

「二人とも、一つ目のピークを越えて安心するのは解りますけど、お仕事はちゃんとして下さい。座敷のお客さん、注文だそうですよ?」

 

「おっといけね。俺、行ってくるわ」

 

晶の諫言に会話を打ち切り、光は座敷席へと向かって行った。

 

「どうですか、『戦国』くん? 少しはメニュー、覚えられましたか?」

 

「あ、いや、その……まだ少ししか」

 

「あははっ、少し意地の悪い聞き方になっちゃいましたかね。無理もないですよ、初日なんですから。大切なのは、そのままでいいと思わない事。そうは思っていないんでしょう?」

 

「えぇ、それはまあ」

 

「だったら、それでいいんです。時間はたっぷりありますし、メニューもそこまで多くはないですから、ゆっくり覚えていけば大丈夫ですよ」

 

「はい、有難う御座います」

 

改めて、綺麗な人だと思う。しかし今のそれは外見のみならず、その内面も含んでの評価。先刻の失言も快く許してくれたし、今もこうしてこっちを気遣ってくれている。

人というのは、体面を幾ら取り繕ったとしても、ふとした言動に本心が見え隠れするものだ。緊張、憤慨、懐疑、困惑、躊躇。それは自然であればあるほどに。(マイナス)であればあるほどに。

だというのに、この人の素振りにはわざとらしさなんて微塵も感じさせなさと言ったら、

 

「こんなに美人なのになぁ……」

 

「はい? 何か言いましたか?」

 

「えっ、あっ、いや何でもないです、はい」

 

危なかった。同じ轍は踏むまいと誓った矢先に何を口走ろうとしたんだ僕は。

 

「あっ、そう言えばなんですけど、『マリア』さんってどうしてここでバイトしてるんですか?」

 

「私の、バイトの理由、ですか?」

 

よしっ、若干強引な話題転換だったけど乗ってくれた。それに、知りたかったのも事実だし。

光さんは『自分探し』と『生活費』。なら、この人の理由は何なのだろう、と。

『マリア』さんは若干、考え込むように暫くの間、虚空へと視線をやり、

 

「……『戦国』くんになら、話してもいいかな」

 

そう呟いた直後、身を屈ませ顔を近づけてきて、

 

「私もね、叶えたい夢があるんですよ」

 

「夢、ですか?」

 

「はい。今も大学院で勉強中の身です。ここでのバイトはその学費と、留学の為の貯金作りですよ」

 

「留学、ですか?」

 

「えぇ。行けるなら海外で本格的に、と。言うなれば君と同じですよ」

 

「……あ」

 

そう、日本を訪れた国士と、日本を離れようとしている晶。ただそれだけの違い。叶えたい夢の為。行き着きたい未来の為。手に入れたい将来の為。それは、実に共感できる事で、

 

「まぁ留学はあくまで『行けたら』の話であって、本当は両親の負担を少しでも減らそうと思って始めたんです。実際は奨学金と合わせて何とか生活費を賄いながらで保ててるのが現状ですから」

 

「それでも十分偉いですよ。僕なんて自分の事ばっかりで、何から何まで両親に頼り切りで」

 

「程度にもよりますけど、甘えられる内は甘えておいた方がいいと思いすよ? 頼られなさすぎというのも、一種の親不孝だそうですから」

 

「そういうものですか?」

 

「そういうものですよ」

 

そう言う『マリア』さんの顔は、ほんの少し憂いを含んでいるようだった。

 

「さて、そろそろ仕事に戻りましょうか。『戦国』くん、納豆は食べられますか?」

 

「……納豆ですか? 食べられますけど?」

 

急な質問に多少面喰いながらの返答に『マリア』さんは『それなら良かった』と微笑んで、

 

「丈二さんからです。そろそろ何かお腹に入れておかないと、閉店までもちませんよ?」

 

「え? ……あ、そう言えば」

 

疑問が氷解する。時刻はとうに午後7時を回り、思わず擦る腹の虫はとうに遅めの昼食を消化し切ったのか、再び次の餌をねだるように低く呻りを上げていた。そして、差し出された丼の中、敷き詰められた熱々の白米の上にはネギトロにイカ刺し、沢庵に玉子に刻みネギ、そして挽き割りの納豆が盛られていた。

 

「丈二さん特製の賄いスタミナ丼です。お客さんから見えないように、食べて下さいね。大丈夫なら、縁にあるワサビも一緒に食べると美味しいですよ」

 

「有難う御座います。ん~っと……よし、頂きます」

 

再び椅子に腰を降ろし、中央の黄身に箸を差し込んで、見るも鮮やかな具材達を米粒の中へ溶け込ませていく。やがて満遍なく行き渡った頃、一口目を口に運んで、

 

「……『マリア』さん」

 

「はい?」

 

「これは本当に賄いですか?」

 

「本当に、賄いですよ。ネギトロは丼用の、イカはフライ用の余ったのを使ってますし、沢庵は付け合わせのです。後はオクラを刻んで納豆を乗せて玉子を落として終わり。美味しくて栄養満点、その上お腹にも溜まりますから、賄いとしては最適ですね」

 

それぞれの素材がしっかりと存在を主張、しかしそれは決して過剰ではなく、程良く周囲と調和している。それらを玉子がまろやかに纏め上げ、イカの噛み応えと沢庵の食感のコントラストがまた堪らない。また縁に盛られたワサビがいい。適量を一緒に口に含んだ途端、ピリッとした辛みがアクセントとなり、素材それぞれの旨味を更に引き立てる。

もう、箸が止まる気配は微塵もなかった。

 

「食べた後、これも飲んでおいて下さいね」

 

「んぐっ。これ、何ですか?」

 

「薄めたリンゴ酢ですよ。匂い消しです。刻みネギには納豆の匂いを緩和させる効果があるそうですけど、念のために」

 

「……取り敢えず、リンゴの消臭効果が凄いっていうのはよく解ったんですけど、『マリア』さん?」

 

「何ですか?」

 

「まず賄いで納豆を出さないという選択肢は無かったんでしょうか? 接客業で匂いって、結構重要な事だと思うんですけど」

 

「あぁ、その件ですか。私達にはすっかり当然になってしまっていたので、失念してましたね」

 

「?」

 

「ただ単に、丈二さんの好物なんです。納豆に限らず、ネバネバ系といいますか、身体にいいもの全般が」

 

「……成程。そう言えばそうでしたね」

 

厨房の広い背中を見て思い出した。以前『あのラウンジ』で話した際、丈二さんは自分のあだ名にこんなのがあると教えてくれた事があった。

 

「確か『ゴリラ主夫』、でしたっけ……」

 

「はい。そういうのに目がないみたいで、緑○青汁とかセサ○ンとか雪○ニンニク卵黄とか○顔の黒酢とか」

 

「ひょっとして、通販マニア、とか?」

 

「あながち、外れてないかもしれませんね。丈二さん、結構普段からカタログとか眺めてますし」

 

思わず苦笑いの晶に、国士もまた力ない笑い声を漏らす。そして、晶はそのまま軽く反動をつけ背筋を伸ばして、

 

「そろそろ私も仕事に戻りますね。『戦国』くんも、早めに食べちゃった方がいいですよ」

 

「この後? 何かあるんですか?」

 

嚥下し口の中を空っぽにして尋ねると、

 

「あれ、さっき言いませんでしたっけ? この後も混む時間帯、あるんですよ?」

 

「……え゛?」

 

ピンと来ない人はこのページを少し読み返してみよう。晶の発言にこんなのがあるはずだ。

 

 

 

―――――二人とも、『一つ目のピーク』を越えて安心するのは解りますけど、お仕事はちゃんとして下さい。

 

 

 

 

 

 

…………

 

 

 

……………………

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

『マリア』さんの言葉の意味は直ぐに理解できた。午後8時を越えた辺りからだろうか、一気にスーツ姿のお客さんが増え始めたのだ。何となく想像はついたと思うが、仕事を終えた帰宅ラッシュの会社員さん達だ。帰る前の夕食として、横や縦の関係の親展として、本当に沢山の人達がやって来て、美味しそうに舌鼓を打っては帰っていく。その中には常連さんも多くいて、

 

「いつもの、頼むよ」

 

「え、えっと、どれの事でしょうか?」

 

「へ? いつものはいつもの……って、あら? 見ねえ顔だな、兄ちゃん。新人さんかい?」

 

「あ、はい、今日からでして」

 

「そっかそっか、そりゃあ悪かったな。ショウガ焼き定食大盛り、お願いね」

 

とまぁ、こんなやりとりが時々あったりもした。『本当に人気店なんだな』と改めて実感すると同時に『覚えなきゃいけない事がもう一つ出来たな』とも思った。

兎に角、そんな調子であっという間に時間は過ぎて、

 

「よし、今日の業務はここまでだな」

 

「ふぅ、終わったぁ……」

 

時計が間もなく11時を示そうという頃、閉店業務を終えた丈二さんの声に思わず嘆息し、両の肩から力が抜けた。

 

「お疲れ、『戦国』。随分疲れてんなぁ、おい」

 

「お疲れ様でした、『戦国』くん。どうでしたか、初日の感想は?」

 

「あ、お二人ともお疲れ様でした。……いや、色々あり過ぎてなんかもう、ごちゃごちゃになっちゃって」

 

前から順に苦笑と微笑、それぞれを携えて歩み寄ってくる光と晶に、疲労の様を隠し切れていないものの、辛うじての笑顔で、国士は返した。

 

「取り敢えず、メニューは結構覚えられたと思います。少なくとも、お客さんがよく頼むのは何となく」

 

「初日でそれなら上等だって。暫くやってりゃ、お得意さんの顔も自然と頭に入ってくるさ」

 

「この調子なら、注文の方は直ぐに任せられるようになるかもしれませんね」

 

「だな。初めてにしては中々、悪くなかったぞ」

 

「っ、丈二さん!?」

 

いつの間にか背後に立っていた事に驚きつつも視線を向けると、丈二さんは穏やかに微笑んでいて、

 

「給料を払ってる身としては、早い所、それなりになって貰わないと困る。頼むぞ、『戦国』?」

 

「あ……はいっ!!」

 

ポンッと頭に乗せられたごつくて大きな、しかしとても暖かな手。頭を撫でられるなんて本当に久し振りの事だけど、不思議と嫌な気分にはならなかった。むしろとても心地よくて、満更でもなくて、

 

「なんか、本当の家族みたいに見えますね」

 

「ある意味、家族で合ってるでしょ。今日から一つ屋根の下に暮らすんだし」

 

「そうでしたね」

 

少なからずの慈愛。はたまた呆れか羨みか。いずれにせよ、そういった類の感情を含んだ微笑みで、二人を見守るもう二人。

やがて気が済んだのか、丈二はゆっくりとその手を離して、

 

「さて、そろそろ始めるか。二人とも、準備の方、頼むぞ」

 

「はい」

 

「了解」

 

「……準備?」

 

はて、準備とは一体何の準備だろうか。了承と共にそれぞれ厨房と座敷席へと向かって行く晶と光の背中を見送りながら、国士は首を傾げた。

既に閉店の準備は終わており、あるとすれば明日の仕込みだろうが、それはいつもその日の早朝にやっていると先程聞いた。店内の掃除も洗い物も既に完了、深夜営業などやるはずもない。結論に行き着かず更に思考を巡らせようとして、

 

ガラガラガラ―――

 

「おっす、間に合ったか?」

 

突如、耳朶を擽ったのは入口の開く音。視線をやれば入って来たのは、昼間にも見た紺色のスーツ姿。しかし襟元を開きネクタイも緩めている為、正装でありながら割とフランクな印象を受けるその人は、足取りも軽く閉店後の店内へと入って来て、

 

「間に合うも何も、これから準備ですよ、乾さん」

 

「久し振りだな、丈二。元気にしてたか?『戦国』くんも、8時間ぶりくらいかな?」

 

「『狼』さん。どうしてここに?」

 

「なんだい? 俺がこの店に来ちゃいけない理由でもあるのかい?」

 

「あ、いえ、そういう訳じゃなくて」

 

「ははっ、悪い悪い。君は何と言うか、からかい甲斐がありそうで、ついね」

 

……なんか、既視感を感じます。昼にも光さんに似たような事をされた覚えが。

 

「にしてもそうか、まだだったのか。んじゃ、俺も何か手伝った方がいいかな?」

 

「いえ、直ぐに終わりますから大丈夫ですよ。今、『マリア』と『雷電』の二人がやってますんで、もう少し待っててくれますか?」

 

「そう? んじゃ遠慮なく」

 

そう言って丈二さんは厨房へと入っていって、『狼』さんは傍らのカウンター席に腰かけ、懐から取り出したのは煙草の箱とシルバーのジッポライター。一本を口に咥え、キンと鳴る透き通った音と、左手の中に小さく灯る紅。やがて一筋の煙が昇ると同時、溜まっていたもの全てと言わんばかりに吐き出される深紫。

何と言うか、凄く大人だと思った。煙草の匂いそのものは苦手なんだけど、煙草を吸っている姿に少なからずの憧れを覚えるのは、男であれば一度はある経験だと思う。

 

厨房(こっち)に煙が来ないようにして下さいよ。ヤニの匂いは食品に移りやすいんですから」

 

「解ってるって。『戦国』くん、灰皿くれる?」

 

「あ、はい」

 

取り敢えず近くにあった灰皿を渡して、先程から気になっていた事を聞いてみる。

 

「丈二さんと、随分親しいんですね」

 

「まあね。アイツとは長い付き合いだし、一応家族だからな」

 

 

 

―――――はい?

 

 

 

「えっと、その、兄弟って事ですか?」

 

「いや、親子」

 

「……丈二さんの、お父さん?」

 

「そういう事」

 

「………………」

 

完全に思考回路がフリーズした。確か丈二さんは24で、目の前の『狼』さんは精々30代くらいにしか見えない訳で、でも父親という事は普通なら少なくとも20近くは離れている訳で―――

 

「ふふっ、君は素直で良いな。からかい甲斐がある。大方、『雷電』辺りにももうからかわれてるんじゃないか?」

 

「え? えと、それじゃあ、嘘って事ですか?」

 

「いや、事実だよ。嘘のような本当の話。っつっても血じゃなく、紙切れ一枚で繋がった家族だけどな」

 

その言葉で察しがついて、僕は閉口した。先程、『狼』さんはこう言っていた。『一応』家族だ、と。

 

「中々、聡くもあるようだね。そう、俺達は義理の親子だ。事情は聞いてくれるな。説明が面倒だし、何より面白くない」

 

「は、はぁ……でも、だったらどうして僕に?」

 

「遅かれ早かれ、いずれは解る事だからな。これから丈二と同居するなら尚更だ。それと、息子の同居人への挨拶も兼ねてるかな?」

 

「息子の同居人って、『狼』さんはここには?」

 

「あぁ、住んでない。っつか、アイツがここを買って移ったんだ。4年くらい前だったかな。それが今や、こんな人気店の店長だってんだから、大したもんだよ……ま、兎に角だ」

 

「え?」

 

そう言って、『狼』さんはポンッと僕の頭に手を置いて、

 

「アイツの事、宜しく頼むわ。義理とは言え、俺にとっちゃもう、本当の息子みたいなもんだからな」

 

その顔はとても優しく微笑んでいて、これでもかと言わんばかりの親愛の情に満ちあふれていた。

色々と聞きたい事はあったけれど、流石にもう同じ過ちは繰り返さない。喉元まで出かかるそれを呑み込み、胸中に押しとどめて、

 

「はい。というか、僕の方こそ、色々御迷惑をおかけするかもしれませんが、宜しくお願いします」

 

「おう、どんどん迷惑かけてやれ。アイツはあんな見た目だが、底抜けのお人好しだからな」

 

「うわっぷ!! ちょ、『狼』さんっ!?」

 

突如くしゃくしゃに頭を撫でまわされ、乱れる髪に戸惑いつつも、その声は嬉しそうに弾んでいて、釣られてこっちも自然と笑ってしまう。きっと、昼間の真面目な警察官としての姿が『公』で、今のこの、年の離れた友人のような印象を受けるこっちが、この人の『私』。つまり、素の姿なんだろう。

そう、『あのラウンジ』での『狼』さんは、こんな人だった。真っ直ぐで熱血なようで、その裏で冷静に色んな事を考えてる。感情と理性の狭間にいるような、そんなイメージ。

 

 

 

―――――だから、ちょっと驚いた。

 

 

 

「だったら、ちゃんと自己紹介し直して下さいよ、『狼』さん」

 

「ぬっ……『雷電』、何時の間に」

 

僕の後ろ、肩越しに見える光さんの顔は実に、実に愉しそうだった。そして、そんな光さんを見た『狼』さんは対照的に苦々しく顔を歪めていて、僕はその理由が理解できずに眉をひそめる。

 

「ちゃんと、自己紹介?」

 

「そ。『戦国』さ、まだ『狼』さんのフルネーム、知らないだろ?」

 

「……あ」

 

そう言えばそうだ。初対面の時に(いぬい)って苗字だけは教えてくれたけど、下の名前はまだ知らない。

 

「余計な事言いやがって、この野郎……」

 

「遅かれ早かれ、いずれは解る事でしょ? これから旦那と同居すんなら尚更だ。ねぇ♪」

 

「こういう時のお前って、本当に良い顔してるよなぁ……」

 

水を得た魚のような光さんに、『狼』さんは何故か、悔しそうにも恨めしそうにも見える何とも微妙な、しかし明らかに不機嫌だと解る表情になっていた。

 

「はぁ……解ったよ、腹ぁ括る。括ってやる」

 

言うや否や、『狼』さんが上着の内ポケットから取り出したのは警察手帳だった。黒革の桜代紋の下、開いたそこには、こう記されていた。

 

『警視庁刑事部捜査第4課事件係―――』

 

(いぬい)太郎(たろう)?」

 

「………………」

 

「ぶっ、くくっ、くひひひっ」

 

思わず読み上げた途端、何と言うか、空気が物凄く重たくなった気がした。『狭乃狼』さん改め、乾太郎(いぬいたろう)さんは内面でごちゃ混ぜになるほど暴れまわっている色んな感情を無理矢理に抑え込もうとしているのだろう、身体中を痙攣のように震わせており、そんな乾さんを見て光さんはそれはそれは愉しそうに噴き出すのを堪えていた。

『狼』というHNに、警察という職業。そして乾太郎という名前。

ふと頭に思い浮かぶ、とある童謡のタイトル。

 

「―――犬のお巡りさん?」

 

「犬って言うなああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

「ぶふ~っ!! コイツ、コイツ本当に言いやがった!! だ~っはっはっはっはっはっはっはっはっは!!!!」

 

……再度、僕は地雷を踏んでしまったらしい。先程までの大人びたハードボイルドは何処へやら。頭を抱えて悶絶する乾さんの姿には、流石に後ろめたさを感じる。そしてその背後、笑い袋も真っ青な程に笑い転げる光さんを見て『あぁ、この人は絶対にSだな』と思いました。

 

「あぁもうっ、毎度毎度自己紹介の度にこんな小っ恥ずかしい名前、自分で言う身にもなれよ親父っ、お袋っ!! 何でよりにもよって『太郎』なんだよ!? すっげぇ響きが『犬っぽい』じゃんか!! ただでさえ『乾』って名前でアシストしてんのに、そこにサブウェポンどころか最終決戦兵器乗せやがって!! 破壊力ヤ○ト級だよ!! 波動砲ぶっ放してるよ!! そりゃ誰だって自然とそのワードに行き着くよ!! 最早『必然』通り越して『確定』だよ!! 通過儀礼と化してんだよ!!」

 

「……なんか、済みません」

 

想像は実に容易だった。恐らく乾さんは小学校……いや、多分幼稚園くらいからずっと、同じような思いをしてきたんだろう。子供という生物は時に、実に残酷だ。思った事を歯に衣着せず、欠片の遠慮もなしにズバズバと告げる。それはもう有吉クラスに。

 

「呼ばれたと思って振り向いて見ればマジで飼い犬を呼んでる事に気付いて自己嫌悪に陥る気持ちが解るか!? 飲み会で酔っ払った上司に歌えってマイク渡されたら曲が『犬のおまわりさん』なんてのが定番になってる気持ちが解るか!?」

 

「あ、あったんですか、そういう事……」

 

「もっと良い名前があるだろうがよ!! 『哲也』とか『ひろし』とか『優作』とかさぁ!! 太郎って、太郎って…………」

 

「大事なことなので2回言いました(爆)」

 

「らああああああああああああああああああああああああいでえええええええええええええええええええええええええええええええええええん!!!!」

 

「うひょ~い、逃げろ~♪」

 

怒髪天、っていうのはこういう事を言うんだと思いました。憤怒を通り越した般若の形相で生けるホーミングミサイルと化した乾さんと、疲労を全く感じさせない程に身軽に店内を逃げ回る光さん。

 

「相変わらず懲りないですね、光くんは」

 

「あ、『マリア』さん」

 

「丈二さ~ん、またお二人が暴れまわってますよ~?」

 

「放っておけ。いつもの事だ」

 

「あ、丈二さん。いつもの事、なんですか?」

 

「『雷電(アイツ)』の性格を考えてもみろ。この1回だけだと思うか?」

 

「……思えませんね」

 

「ま、余りに目に余るようなら俺が止めに入るさ。……それに、そろそろ『あの人』も来る頃だしな。準備は出来てるんだろう、『マリア』?」

 

「はい、完璧ですよ」

 

(……『あの人』?)

 

カウンターに両肘を掛け、厨房からこちらに乗り出しながら話す丈二さんの言葉に再び眉をひそめた、次の瞬間だった。

 

ガラガラガラ―――

 

再び鳴る、入口の開く音。そして、

 

「やっほ~、ジョーちゃん。久し振り~」

 

(……子供? どうしてこんな時間に?)

 

入って来た人物は、実に小柄だった。背丈は平均よりは若干高い自分よりも少し低いくらい。声も幼さを帯び、顔立ちも童顔。少年と言っても差し支えない外見の彼を見て国士がそう思うのも、無理もないと言えよう。

 

しかし、丈二は彼を視界に捉えるや否や、こう発言した。

 

「お久しぶりです、虎鉄(こてつ)『さん』」

 

「……え゛?」

 

(『さん』!? 今、丈二さん、『さん』付けで呼んだ!?)

聞き間違えではなかろうかとかぶりを振るものの、

 

「元気してたかい? ここ最近はずっと出張ってたからね」

 

「虎鉄『さん』なら引く手数多ですからね、無理もないでしょう。で、今度は何処に行って来たんです?」

 

「四国だね。美味しい御当地グルメ沢山食べてきたけど、やっぱりここの味が懐かしくなる辺り、すっかりジョーちゃんに胃袋掴まれちゃったかな?」

 

「惚れた女ならいざ知らず、こんな野郎に掴まれても仕方ないでしょう。いい加減、好い話は無いんですか?」

 

「う~ん……まだいいかな。そんなに急いでないし、そもそも僕に釣り合える女性(ひと)ってそういないし」

 

親しげに話す二人の会話に耳を(そばだ)てても、その事実は不変だった。身長や顔立ち、纏う雰囲気やその他諸々、悉く正反対な二人を一度に見るというのも、中々有り得ない体験である、

 

「『マリア』さん」

 

「はい?」

 

「あの人は、一体……」

 

隣の晶に尋ねると、彼は小さく微笑んで、

 

「解りませんか? ヒントなら、目の前にありますよ?」

 

「へ?」

 

目の前、というのは何を差すのだろう? 仲睦まじく話すなんちゃってコ○クロな二人だろうか。何時の間にやら捕獲され、青い顔で必死にタップを繰り返している光か。それともそんな彼に見事なまでの卍固めを決めている乾だろうか。

 

「―――って、あれ?」

 

そこで、はたと気付く。ここの集っているメンバーの共通点。それは、

 

「気付いたみたいですね。ホラ、来ましたよ」

 

微笑みと共に促された先、件の彼はゆっくりとこちらに歩み寄ってきて、

 

 

 

 

 

 

「やぁ、君が『戦ちゃん』だね。改めて、HN『タンデム』。本名は丹田虎鉄(たんだこてつ)だよ。宜しくね」

 

人懐っこい笑顔で、そう言ってみせたのだった。

 

 

 

 

(続)

 

後書きです、ハイ。

 

いよいよプロローグも佳境、もうすぐ本編のスタートになります。

 

既に幾つか伏線を張っていたりするんですが、皆さんお気づきでしょうか?

 

あからさまなフラグから何気ない一言まで、実は結構な量、書いてたりします。

 

流石にそろそろ、一旦『蒼穹』の更新しようかな。

 

 

 

で、

 

 

 

いよいよ主人公パーティ、全員集合致しました。基本的にはこの6人を主軸に物語は進んでいきます。

 

ですが『まだ俺が登場してねえじゃんよ!!』って人、安心して下さい。未だ拙い腕ではありますがこのゴリラ、使い捨ての端役なぞでお声をかけたりはしません。

 

俺からのお呼びがかかったら、それなりの活躍が用意されていると思ってくれて構いません。既に主人公メンバーの設定はごっそり完成しております。こういうのを考えるのが楽しくて仕方無いゴリラですww

 

さて、今回は前回に引き続き『マリア』、そして本格参戦しました『狼』のお披露目回となりました。

 

内に秘めるものもさることながら、原作者から見てもかなり美味しい位置にいるキャラクターです。どうですか、中の人?

 

プロローグが終わりましたら、今後のネタバレにならない程度に各キャラの設定も公開しようと思っております。多分、次がラストになるので、次回の後書きになるっぽいかな?

 

では、次の更新でお会いしましょう。

 

でわでわノシ

 

 

 

 

 

…………あ、その前に『淫獣討伐』書かないとな。狼さん、世界観の設定、ショトメかなんかでなるだけ詳しく教えて下さいな。


 
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