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ノベルス:第3話「たまにはリィの回想を」part3

リヴストライブというタイトル、オリジナル作品です。 地球上でただ一つ孤立した居住区、海上都市アクアフロンティア。 そこで展開される海獣リヴスと迎撃部隊の攻防と青春を描く小説です。 青年、少女の葛藤と自立を是非是非ご覧ください。 リヴストライブはアニメ、マンガ、小説等々のメディアミックスコンテンツですが、主に小説を軸にして展開していく予定なので、ついてきてもらえたら幸いです。 公式サイトにおいて毎週金曜日に更新で、チナミには一週遅れで投下していこうと思います。公式サイト→http://levstolive.com

2011-10-15 09:37:08 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:338   閲覧ユーザー数:338

ノベルス:第3話「たまにはリィの回想を」part3

 

 ある日、いつものようにひんやりとしたこの牢のような部屋で、軽い問診と計温を済ませたわたし。

 今日も常温、際立っての体に異常はない、と思うのだが。

 それは食欲に関係なく、彼の勧めで無理矢理食事を取るようになったことも大きいのかもしれない。

 そしてとりあえずブロッコリーが嫌いだ、とだけはここに明言しておこう。茎は固いし、葉の部位はしゃりしゃりしているしまったくこやつはわたしの手には負える気がしない。三〇〇年前に滅んでしまえば良かったのに、運よく生き延びたようだ。

 でも断わっておくけど一応、食べることには食べるよ、一応。

まあそんな話は置いとこう。

 さて、一方でわたしの話し相手は少し痩せたように見える。

 やつれたというか、疲れていると言った方がいいのかもしれない。

 毎日顔を会わせているので、大きな変化を感じ取ることはできないが毎日会うからこそちょっとした変化に気付くこともある。

 この毎日というのは、彼に教えてもらった日付け等々が正しければおよそわたしと彼が出会って三カ月ほどということになる。

 時が過ぎるのは意外と早いものだ。

アスタリスクを打てばあっという間に時間を進めることができてしまう、というのはここだけの話。

彼はパイプ椅子に腰かけ手元のバインダーに挟んだ資料とにらめっこしている。

何故か今日はTシャツに白衣という格好でフランク度が数段上がっていた。

「誠二さん」

「ん? 何だい?」

 やっぱり目元が少しくぼんで暗い。

「あのー、ちゃんと食べてますか?」

「どうしたんだ突然」

「いや、あの……何か元気がないような気がして……」

「君に元気を吸い取られたのかもしれないな」

 彼はこんなときもにこやかにしている。

 わたしは今冗談を言い合いたいわけではないのに。

 今日は付き合いません。

「何ですかそれ。それより……、わたしちょっと心配なんです」

「…………」

 彼はそっと口をつぐんだ。

「誠二さんが、いつかわたしの目の前から消えてしまうんじゃないかって思ってそれでなんていうか――」

「君に心配してもらえるとはね、光栄だよ。でも大丈夫、まだ君の側にいてあげられそうだ。君の安全性をまとめた報告書がもうじき出来あがるから、そうすれば君は一定の制約こそあるが自由の身だよ」

 わたしはそんなことが聞きたいんじゃない。

「わたしにとって今はそんなことはどうでも良いです。それよりも、何かあったんですか。もし何かあるとすれば話してください」

「大丈夫だ。君は余計な心配をするんじゃない。浮かない顔をされるとこちらも暗くなる」

「だって……」

 それはきっとわたしが身近な人間を失う悲しみを理解できるようになったからだ。

 いや失う悲しみを想像できるようになったということか。

「あの、わたしに関係しているんですよね」

「いや」

 あくまでこの人は白を切るつもりのようだ。

「そんなはずはないと思います。わたしはここにきてすぐ化物だと言われました。誠二さんからも断片的に、君は作られた人間なんだと。よく考えてみればおかしいじゃないですか。そもそも何でわたしはここにいるんですか。わかりません、自分のことがわからない」

「リィ……」

 そしてわたしの頭にときどき響く謎の声も、わたしにはわからないことだらけだ。

例えば正体不明の飲み物を無理矢理飲まされて、ある日突然スパーヒーローになってましたとか、程度の差こそあれわたしのこれまでの三カ月はそんな類の話である。

知らない間に知識を埋め込まれていて、それに伴った経験がないのだ。まあ、ただの物語ならそれでもいいかもしれない。

おそらくそういう人たちには戦うべき相手がいて、目的を持ってことを運んで行くからだ。

 それがわたしにはない。そして少なくともそれに関することが、誠二さんの生気を奪っているんじゃないかと思う。

 頭に描いた放物線を、一瞬のうちに数式として見られるような知識とかそういう力はいらない(そういうこともやろうと思えばできるけど、煩わしいので控えてる)。

 だからせめてこの人には、わたしが生きる上での指針として側にいてほしいと切に思ったのだ。

「ここに来た時は精神状態が空っぽに近い状態だった君がよくここまで来れたね。表情の硬さも取れてきた……、と言っても無表情だね」

 そう言って彼はクスクスと笑った。

「だが言葉の上では感情を伝えられるようになった。それはすごいことだと思う。けれど、今はまだ心身共に未熟さが目立つという理由から、君が何なのかという答えは控えさせてもらいたいんだ」

「どうしてもですか」

「うーん、そうだな。それじゃあヒントだ」

「あるなら最初から言ってください」

「ああ、生きる指針とでも言うか。おそらく、これから君は心身共に強くなっていくはずだ。例え迷いがあろうとも毅然とそれに立ち向かえる勇気を備え、そういう才能を持っている」

 わたしにそんな才能などない。もしそんなものがあったとして、それを何に使えと言うのか。

「………………」

「その使い道を知りたいと思うなら、ここを出て外の世界を見て感じるんだ。物事の仕組みと、人間を。その延長上に君が求めているものがある」

「誠二さん、答えになっていませんよ」

「まあ、そう言うな。私と君との仲じゃないか。人は何かを決める時何かを捨てないといけないんだ。君の場合はこの生活と決別しなくてはね。そして私も決めたよ」

「え」

「まあ、それによって周りにとても迷惑をかけてしまうのは分かってるけど、これだけはどうしてもやらないといけない。家族にも迷惑をかけてしまう。だが、これだけは、これだけはどうしても君やウチの息子を始め、次の世代に残してやりたいんだ。先の見えない戦いを終わらせる種をね。そしてそれを育てる土壌を――」

 彼はまるでひとり言のように、ぶつくさと呟いているようで少しだけ怖かった。

このときわたしは誠二さんが何を意図して話しているのか分からなかった。

と言うのも、理解したら胸が苦しくなるような気がしたからだ。

 彼は何かを決断し、何かを選んだ。そして何かを捨てた。

 その結果がどうなるかは分からないし、分かりたくもない。

 でも、わたしは外に出られなくてもいいから、今このとき、この人とずっとこのまま話していられたらいいなって思ったのだ。

       *

 それから幾ばくも経たない日のことだった。

 いつものようにゆっくりと合金の扉が開き、誠二さんが入って来る。  

 だが、いつもと同じだったのはそこまでだった。

 ちょっと様子がおかしいのだ。些細なことのようだが、今日は生えかけの無精ひげをすっかりと剃っており、何やらすっきりとした顔つきでそれが返って不気味に見えた。

 彼はベッドであぐらを掻きながら困惑するわたしに、さわやかに声をかける。

「リィ、元気かい」

「誠二さんこそ」

「私は……、元気だ。それ相応にって感じかな」

「今日はなんだかいつもと様子が違う気がします。髭なしですね」

「よく気付いたね。どうだいなかなか良い男だろ」

「自分で言ったら台無しです」

「そうか……やっぱり手厳しいな、リィは」

「…………」

「今日は君に話があってきた」

「いつも話しかしてないじゃないですか」

「話というか約束してもらおうと思ってね」

「やくそく?」

 誠二さんの吹っ切れたような顔を見て、わたしは心底不安になった。

 それに加えて今日は折り目正しく、ワイシャツに波の模様をランダムにあしらったような青いネクタイをしている。

「あまり時間がないから手短に話すよ。まずは君に謝らなくてはならない。私は君に勝手な希望を押し付けた。そして無責任なことに君の前から姿を消そうとしていることを」

「す、姿を消すってどういうことですか」

 わたしはそれを聞いて取り乱した。あまりにも突然すぎて、確かに前兆のようなものはあったのだが、それにしても急過ぎるのではないか。

 誠二さんはわたしの狼狽を遮るように、わたしの肩を抱いた。

「いいか、聞いてくれ! だからその前に、君に大事なことを伝えようと思う。君は直にここを出られる手筈になっている。というのも、私の作成した報告書の内容がギリギリで承認されたからだ。それだけは本当に運が良かった」

「…………」

「私はこの海上都市に危険人物としてマークされている。おそらく私が姿を消した後、目をつけられるのは私の家族、青海と栄児、そして――。今後何もしなければ問題ないのだが、おそらく栄児は私に関しての案件に絶対首を突っ込んでくる。それが何年後かは分からない、だがあいつの気質からすればそうとしか思えない」

「栄児……」

「だからそのときは、君が栄児を守ってやってくれないか。君にはその力がある。あいつは表面ツラが厚い分、内面が脆い。それが露呈してしまうとき側に誰かがいてやらないと、あいつは……」

 こんな顔をする誠二さんを初めて見た。表情に際立った変化がないのだが、鬼気迫る感じは今までにないものである。

 これにわたしは応えた。応えざるを得なかった。これまでわたしを見守ってくれた人の頼みを無下にできるほど、わたしは人間離れしていない。

「……わかりません。わかりませんけど…………わかりました。わたしの、わたしの力が及ぶ範囲なら栄児さんを――。そして、これで誠二さんとはお別れだということも、何となく。どうせ何かを聞いても教えてくれないんですよね。……わかってますよ」

 落胆と相まって嘆息をつくわたし。どうせ、どうせという気持ちがわたしの中で渦を巻いていた。

「でもあなたがいなくなったらわたしはまた一人になってしまいますね。一人は結構退屈なんですよ」

 強がって見せて、まだ泣かない。わたしの基本は無表情。

 これは彼に対するわたしの最後の愚痴であり、最後の我がままになるかもしれない。

 既にこのとき、事態がどうにもならないことを理解していたわたしは、せめてこういう言い方でしか自分の思いを伝えることしかできなかった。

「……そうか。そしたら、良かったらこいつを君のお供にしてやってくれ」

すると彼は白衣のポケットから見慣れない物を取りだした。

 まるで始めから、わたしの気持ちに当てが付いていたような用意周到な物運び。

 こういうところで気が利いているのは、なんとまあこの人の人徳の為すべき部分なのだろう。

 わたしは首をかしげると、誠二さんはそっと手の平に包んだものをわたしの手にそっと移した。

「?」

「キュー」

 それは見た目、イタチ科の動物。体に縞々が入ったそれはソフトボール大ほどの大きさで、とても小さかった。

「こいつはもともと実験に使われるサンプルとして破棄されそうになってたところを一時的に預かったんだが、どうにも引き取り手がなくてね。ウチの住まいもペット禁止だからもらってやってくれ。君の退屈凌ぎに嬉々として付き合ってくれるはずだ」

「小さいですね。すごく、すごく可愛いと思います」

「これで許してもらえるとは思って――」

「ありがとうございました」

 誠二さんは突然のわたしの言葉に、拍子抜けしたような顔をしている。

 わたしは唐突ではあるが彼と共に過ごし、彼からもらったものを一つ一つ思い返す過程で、感謝の言葉が口をついて出てしまった。

「今まで、ありがとうございました。これでさよならなんですね」

「さよならだ。さよならだけど、またどこかで会えたら――」

「会えません。会えないのがわかってるから悲しいんです。それでも、それでもまたどこかで会えたら、そのときはまたお話してください」

「ああ、約束だ。それと君に忠告しておこう。君にとってこれが一番大事なことなのに自分のことを優先してしまう辺り私も一介の父親だな」

「?」

「とても言いづらいのだが、君の中には夜叉ならぬそれに近い存在が住んでいる可能性がある。もしそれが話しかけてきても耳を貸してはいけない。だが、いやがおうにも君はその主と対話をしなくてはならない日が訪れるだろう。そのとき君はどんな選択をするのか、どちらにせよ君は――わたしの大事な友人だ。いろんな人間を見て世界を知り、決断を下せば誰も君に文句は言わないさ」

「…………いつも、いつも誠二さんはそうやって意味分からないことばかり」

 やれやれなどと、生易しい対応をしてあげられるほどわたしは人間が出来ていないのだ。話が冗長になればなるほどに別れづらいことを、この人は分かっていない。

「済まないと思っている。話半分に聞いてくれていい。私は会話が上手くないから――」

 もういいんですよ、とわたしは半分諦め気味に思い、こちらからお別れの契機を設けることにした。

(何でかこういうところは鈍臭いんだよな、この人は――でも、そういうところが……いや、何でもない)

「とっくに知ってますよ、そんなこと。いいからとっとと行ってください。グダグダここで新事実を打ち明けられても迷惑です」

「お、おい」

「これでお別れなんですね」

「ああ」

「バイバイ――誠二さん」

「……元気でな、リィ」

 そう言って彼は白衣を翻し一度も振り返ることなく、まるでこれから戦場に向かう戦士のように悠然と去って行った。

 この手にひとつの命を抱いた、わたしを一人残して。

 丁度そのとき、蛍光灯のひとつが切れたようで部屋の一部に闇が出来た。それはまるで欠けたわたしの心のようだった。

「一人は――案外退屈なんですよ」

       *

 その後、程なくしてわたしはこの部屋から解放された。

今までの厳重管理からすれば案外あっさりとしたもので、誠二さんしか開けることのなかった扉をたやすく開けて数人の白衣を着た人物が入ってきた。

その数、およそ5人。

そのどれもが白衣に眼鏡という区別のつかない風体をしていたので、簡易的に白衣の人間と呼ぶことにした。そして白衣の人間、その内の一人がこう言った。

「汐留リィ、これから君を我々アクアフロンティアの中央施設で保護し養育を担います。残念ながら君に選択肢はありません。今から案内する施設がこれからの君の住まいです」

 今までのわたしに対する扱いを振り返り、わたしはその言葉に少し呆れたが、それよりも気になることがあった。

「……誠二さんは、誠二さんはどうしたんですか?」

「その質問にはお答えできません」

 またである。誠二さんと同じような物言いだ。

白衣はみんな同類なのか。質問に答えない人間が、どうして科学なんてものに携われるのだろう。

誰も、誰もわたしに本当のことを教えてはくれない。

「その言葉は聞き飽きました。わかりました、すぐにわたしをそこへ案内してください。ここに閉じ込められているよりはマシです」

 そう、ここにいるよりはマシなのだ。何故なら、ここにいれば誠二さんとのことを思い出してしまうから。

 ましてや変わり映えのない、閉ざされた空間である。身体を動かしていればそんなおセンチな思考も紛らわすことができるが、ここではそうもいかず、また身体を動かそうという気にはならない。

 これはある意味でわたしの踏ん切りである。一つ前へ進みたいという気持ちの表れ。誠二さんとの約束を果たすにも、わたしはここを出る必要があるのだ。

 そして身支度を済ませたわたしは、移動式のベッドの上に寝かせられ、手足の拘束を受けた。さらにご丁寧に目隠しのおまけつきである。

「セキュリティー上の保険です」

 と白衣の者の内の一人が言ったが、それはどうなんだろう。きっと彼らの中でのわたしは未だに〝怪物〟扱いに違いない。怯えこそしないが、恐怖を物色するには至っていないというのが現状なのかもしれない。

「では行きます」

 と声が聞えた。

カタカタと揺れ動くベッドの上で深呼吸をするわたし。

そして小さな命、キュー太君はわたしの顔横にいてくれているようだ。目を覆われ、暗闇の中でも彼が頬擦りをしてくれているが分かる。

ちなみにキュー太君というのは、誠二さんからもらったあのミニミニサイズなカワウソのことだ。時折、キューキューと鳴くのでキュー太君。安直なネーミングセンスに名付け親のわたしですらちょっと引くが、地に足が着いた感じで結構気に入っている。

 彼もわたしに懐いてくれたようで、あれからいつも一緒にいてくれている。

 何をせずとも一緒にいてくれるだけで、意外と心は穏やかになるものだ。

 わたしがそんなことを考えていると、急にわたしの寝ているベッドが停止した。わたしは目を覆われているので、何故急に止まったのか分からない。

「葛城先生」

 と誰かが言った。

 その名前には聞き覚えがある。わたしがここへ来た当初、一番初めに交流した人物だ。しかし、交流と言っても散々なものであのときは不要物扱いを受けただけだったのだが。

 葛城は言った。

「団体様御一行はお姫様の送り迎えですか。これはまた御苦労なことだ」

「余計な口は挟まないのが吉ですよ。葛城先生。それでなくとも今、ここはピリピリしてますからね」

 おそらくは白衣の人間の内の一人が応対したのだろう。

「その点、僕はクリーンなものだよ。どっかの誰かさんみたいに政府に立てついたりしないからね。でも、よくあれが通ったものだ。謀反者の言い分にも一定の理解すべき余地が残されていた――というよりはむしろ美味しい所をいただいた後は用無しになったってことかな」

「どちらにせよ彼女は例の新型兵器と並行していけば、大きな戦力になるのは間違いないでしょう」

「首の皮一枚つないだといわけだ。彼の置き土産が、どれだけこのアクアフロンティアの助けになるか見ものだね。じゃあ僕はこれで」

 葛城はそう言うと、わたしの耳元まで顔を寄せた。彼の吐息が近い。

 そして彼は皮肉めいた言い方で、こう言った。

「良かったじゃないか。まだかろうじて生きられて」

 何とも後味の悪い男である。彼の中のわたしは未だに失敗作であり不要物という域を脱してはいない。それは何も葛城だけに言えたものでもないが、要はそういうことなのだろう。

 葛城はそれだけを言い残し去って行ったようで、数秒と経たずまたベッドが動き出した。そういえば、このときキュー太君と言えば、わたしの首裏に隠れて身を丸くしていた。彼は結構臆病者なのだ。

 でもこの世界はそうじゃなければ生きて行かれない、そういう場所なのかもしれない。息をひそめ、社会に溶け込み、事を荒立てない。いわば空気のような存在に――。

 けれど、そんな世界でも一人空気になることをせずわたしと接してくれた人間をわたしは忘れない。

 大分ぼかしてはいたが、白衣の人間と葛城の会話を聞くにあの人――台場誠二という人間はもうこの世からいないのだろう。

 それ自体は悲しい事実だが、私の中ではまだ終わってはいない。

聞き流していたら気付かなかっただろうが彼らの会話の内容と、わたしと誠二さんとの交わした約束、話した内容には違いが生じていた。

 ということは、誠二さんは彼の作っていたレポートというものに嘘こそ書いてはいないが、それとはまた別に掲載していない事実があるということだ。

 それが何を意味しているかは分からない。でも、それが何なのかを確かめるまでわたしは生きることを諦めることはできない。

 いつか全てを知ることができるまで、わたしは甘んじて空気に徹していよう。

 それこそが真実へと辿りつける近道だと信じて。

 

つづく

 


 
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