No.317623

銀と青Episode3【夢幻回廊】

桜月九朗さん

夢、それは人が見る現幻。
現実を夢で見る女性は、現実に帰らず眠り続ける。
ある夏の、なんてことない蜃気楼の物語。

作品自体初見の方は銀と青Episode1【幽霊学校】からお読みください。

2011-10-13 14:38:10 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:378   閲覧ユーザー数:356

 

 

 

【夢幻回廊】

 

 

 

 

 

八月十一日(晴れ)の昼下がり、ちなみに今朝の運勢占いの一位は牡羊座。

その日、私は双司さんに頼まれて、遥々事務所から二駅先にある大型百貨店を訪れていた。その理由(わけ)だが、なんでも「今回の仕事に必要な物があるから買ってきてくれ。あ、ついでにお茶も」だそうだ。

 

今回の仕事は、依頼人の娘さんがとある日を境に眠ったまま起きなくなったらしい。

もちろん、医者にも診てもらったが全くの原因不明。打つ手なしでサイを投げているそうな………。

 

――医者がそれでいいのでしょうか?

 

まぁ、双司さんなら呆れ顔で「そんなもんだ。医者っていうのは、現実的に不可解な事柄に対しては直ぐに諦めたがる。そもそも現代科学に沿っている医者が診察出来るのは外面的傷害だけだし、第三要素である魂魄体―――――つまり魂だな―――――に対しては認知すらしようとしないありさまだ。第一、第二、第三の要素全てを掛け合わせてこその生命。それすら理解していない奴らを俺は医者と呼びたくない」と、このくらいは言うだろう。

いや、てゆーか最初にこの依頼の話しを聞いたとき、一字一句違わないセリフを口にしていた。うん、まちがいない。

 

さておき。

 

その現在大絶賛睡眠中の娘さんのご実家はかなり裕福………というより普通にお屋敷に住んでいるくらいのお金持ちだそうで、なんとか娘さんを目覚めさせようと金銭いとめをつけにずに疾走しまっくた結果、最終的にオカルト関係の情報にまで手を出して、回りに廻って双司さんのところへと依頼がやって来たらしい。

 

 ちなみに、私はそういうオカルトっぽい事に関しては全く役に立たない。

 そう、微塵も役に立たないのでこんな風にお使いみたいなことをしているのである。

 

 それにしても………。

 

 「宝石に塩って……、一体何に使うんでしょうか?」

 

 完全に謎のチョイスだ。

 宝石は以前、魔力の伝導率が高いので魔術式の触媒には最適だ、みたいなことを言っていたような気がしますが何故に塩?宝石に塩振りかけて使うのだろうか?こう、ゆで卵の如く。

深く考えれば考えるほど謎は深まるばかり。先人はなんて的を得た言葉をのこしたのだ。私は思わず腕を組み、うんうんと頷きながら感動です。

てゆーか高校生に宝石なんて買いに行かせないでくださいよ双司さん。

 

だが、私は忘れていた。ここは大型百貨店の内部。ひとりそんなことをしていれば、もちろん周囲からの目線はこちらへ向かう。あ、なんでしょう、なんかすごく白くて冷ややかな視線が……。

 

本日の教訓、いくら考え事をしていてもいきなり頷き始めたりするのはやめましょう。

 

「――――――お使い、早く済ませてしまいましょうか」

 

そして一刻もはやくこの場を立ち去ろう。花の現役女子高生である私にとって、この視線は耐えられるものではないのです。そう、羞恥心的に。

 

…………あぁ、恥ずかしい。

こうなったらお釣りで帰りに団子でも買ってやろう。そして私の胃袋行き決定。

 

しかし、後にこの団子が食べられない事態に陥るとは、私はこの時思いもしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、今回の依頼は奇妙なものだった。

依頼人の娘がある日を境に死んだように眠り続け、起きる気配が無いというのだ。医者モドキにも診せたが原因不明、理解不能。まぁ、そんなこんなで「科学で原因が解らないなら、オカルトに頼ろう」と、今度はそっちの路線で原因捜査。だが、世の中そんなに甘くはない。それよりも真っ当な魔術師や心霊術師、洗礼代行者などが簡単に見つかるような存在の仕方をしている訳がないのだ。世間に一般的にとりあげられていたりする輩は大抵パチモノ、テレビなんかに出ているヤツなんかは問題外。つまり、普通は居場所の特定など不可能な存在なのだ。

 

だというのに………。

 

「なんで俺は、この依頼を引き受けてしまったのだろうか?」

 

――――――仕方無いじゃないですか、最近唯でさえ依頼が全くこなかったわけですし。ここらで収入入れておかないと、来月の事務所の家賃危ないですよ?好き嫌い言ってる場合じゃありません―――――

 

と頭に思い浮かぶのは、最初この話をした名目上助手の女子高生、秋月小夜の言葉。

あぁ、確かにそうだ。好き嫌い言っていられるほど、現在の我が事務所の財政状況はよろしくない。それに依頼人は「あの」崎守だ。ここらで一つコネでも作っておいたら後々役に立つだろう。ぶちゃけ報酬が良かったのが一番の理由だがね。

さておき、とりあえず小夜には今回の仕事で必要な物の買出しを頼むことにしたのだった。ちなみにコレが今から約二時間前のこと。そろそろ帰って来てもいい時間なんだが……。

 

「早く帰って来ないと、晩飯が冷めてしまう。今日の献立は自信作なのにな―――主に竜田揚げの衣のカリカリ具合が」

 

小夜、せっかく作った料理達を冷ましてしまう前に帰ってきてくれよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「宝石って……、高いんですねやっぱり」

 

 百貨店で買い物を終えた私は事務所への帰路に着きながら呟く。だって一個○十万の宝石を五つもですよ?たしか来月の家賃がピンチなくらい財政難だったうような気がするんですけど、あの吸血鬼の人。どこにこんなお金があったんでしょうかねー?

 でも、なぜかお団子一パック分のお釣りが見事に余りましたが。私の思考回路読まれてます?

 ふと、空を見上げてみると茜色の夕日。もうすぐ晩御飯の時間、自分の影法師を眺めながら今日の献立について考える。

 

――――――双司さんと出会ってからというもの、晩御飯代がいい感じに節約できますね。

 

うん、現在の学園に通うために一人暮らしをしている私にとっては、食費が浮くというのはとてつもなく重要な事柄なのだ。その分好きなことに経費を回せますしね。

ガチャガチャと、手にぶら提げた買い物袋内の宝石箱が音を鳴らす。さて、はやく帰って双司さんの作った晩御飯に舌鼓を打って、デザートにお団子でも食べましょう♪

テクテクと、若干歩く歩みを速くする。後は道路脇道にある公園を抜ければ、事務所のある通りまではすぐだ。静かで、一昔前なら小さな子どもたちがこぞって集まり、遊んでいた小さな錆びれた公園。

 

「でもこの公園、取り壊されるんですよね……」

 

たしか、近隣の都市開発が進んで新しく大きな公園が作られたので、人が集まらなくなったのが理由だったでしょうか?確かに利用されないのなら残しておくのもアレなんでしょうが………。

 

―――――――私的には、静かで落ち着けるから気に入っていたんですけどね。

 

学校帰り、途中で買ったジュースやお菓子を片手に、香織やネオンと共に青春の憂いについて語り合ったりなどしていたものだ。いや、現在も結構しているが。

 

「出来れば残しておいて欲しいものですね……」

 

ここは私が唯一気に入った公園。遊具が目的じゃない、私がここにいたという思い出を刻んだ場所。もともとあまり公園というものが好きではなかった私が、また此処に来たいと思わせてくれた場所。

 

―――――――キィ、キィ。

 

正直、私は公園にはあまりいい思い出がない。だって、これまでの人生十六年の中で一番印象深い記憶が、幼少のころ実家の近所で出会った白衣の変態な人の記憶ですし。実際、アレがトラウマになっていない自分にある意味感動すらしているような光景でしたしねー。

 

―――――――キィ、キィ。

 

そんなことを思いながら、私は小さな公園の風景をながめる。うーん、やっぱりいい感じに錆びれてますねぇ此処。

 

―――――――キィ、キィ。

 

ほら、入口から全体を見渡せる程度の広さなのに、人影はさっきから一つしかないブランコを漕いでいる病院なんかでよく見かける患者服を着た、幽霊みたいな黒髪の女性だけ―――――――――。

 

「―――――――、はっ?」

 

キィ、キィ、キィ。ゆっくりと、まるで風の流れに身をまかせるようにブランコを漕ぐ一人の女性。俯いている為表情までは確認出来ないが、あの柳の下の幽霊みたいに垂れている豊満な黒髪からして女性だろう。

うん、ホラーです。無茶苦茶ホラーな状況です。だって今、夕暮れ時ですよ?双司さん風に言うと黄昏時ですよ?逢魔ヶ刻ですよ?詳しく言うと薄明な時間帯ですよ?さらに言うと交通事故が一番多いといわれる時間帯です。や、私車の免許なんて持っていないですがね。

 

―――――――キィ、キィ。

 

ブランコを漕ぐ音は止まない。それは規則的に秒針を刻む時計の針の様に、一定のリズムで台座を支える鎖の軋む音を奏でている。

えー、私は声でもかけたほうがいいのでしょか?双司さんのせいである程度奇妙なシュチュエーションにはなれたつもりだが、どうやらまだまだのようです。少なくとも今現在、この状況下でどんな行動をとっていいのか判断が全くつきません。でも………、ネオン辺りなら迷わず声を掛けるんだろうな―。

 

 

「そう思ってるなら、声を掛けてくれてもいいんじゃないかしら?せっかくこんなところで会ったのだから、雑談くらいはしても良いいんじゃないかと思うの」

 

びくっ、と背筋が震える。私、今声にだしていましたっけ?

そんなことを考えていると、黒髪の女性は言う。

 

「声にだしているとかは関係ないの。重要なのはヒトそのものが纏っている空気―――不機嫌ならピリピリした、嬉しそうならほんわかした……そんなヒトの気質なのよ。あなたの気質は特にわかりやすい。汚れというものを知りながら、森林に流れる小川のように透き通っている。汚れに触れているのに、汚れることのない……そんな空気。知ってる?それはもう大昔では、知性を持った存在っていうのは声や音ではなく、空気の質で意思のやりとりをしていたらしいわ。すごいと思わない?」

 

………や、そんなこと言われましても私は一割も理解出来ないと申し上げます。てゆーかソレ日本語?

 

「まぁ簡単に言えば、あなたは顔に出やすいってことよ」

 

「率直に言って、いきなり失礼な人ですねあなた!!」

 

「あらあら、気を悪くした?まぁ、そんな訳だから少しばかり暇つぶしの雑談に付き合ってくれないかしら?」

 

どんな訳ですか。

私は理解した、この人はどっちかっていうと人の思考のナナメ四十五度くらいを地で行く双司さんと同類の人だ。つまり、まともな言葉のキャッチボールが成立しません。はい。

 

「多分、今は『このヒトの思考回路はナナメ四十五度くらいを地で行っているんだろうなぁ』くらいかな?」

 

「だから何で考えてることが分かるんですか!!」

 

――――――さっきも言ったじゃない、あなたは顔に出やすいって―――――と、黒髪の女性は言う。もうそんなレベルじゃないと思いますマジメに。

 

「うーん、あなた学生さん?感じ的にと十六、七くらいに見えるけど。この付近に住んでるなら、南ヶ丘学園の子かな」

 

「え、はいそうです。南ヶ丘学園の学生ですけど……」

 

問いかけてきた女性に私はそう答える。

すると、彼女は微笑を洩らしながら。

 

「やっぱり、私も南ヶ丘に通ってたのよ。だから、一応あなたの先輩ってことになるかしら」

 

なつかしいなー、と呟きながら女性はジリジリと日の光が降り注ぐ空を仰ぎ見る。さらっ、と顔を上げた瞬間吹いたそよ風で、豊満な長髪で隠れた素顔があらわになるが――――――――。

 

―――――――――とんでもなく美人なんですけど!?。

 

すらっと伸びた鼻のライン、綺麗にほっそりと整った顔の輪郭、皆既日食を思わせるかのような黒曜石の瞳、長く上向きに伸びたまつ毛、そして、病的なまでに白い素肌。それは生まれてこのかた、太陽の光など浴びたことのないのではないかと思わせる程に透き通っていた。しかしそれを差し引いてもなお、彼女の素顔は美しかった。

や、だってあんな長髪で俯き加減で夜な夜な柳の下に出てきそうなオーラを纏いながら一人でブランコ漕いでるところを観てると、どうしても目の下に隈が張っているような辛気な女性を思い浮かべませんか?あぁ、ここにネオンがいたら絶対ネタになるとか言って喜んだだろうなー。

 

「――――――あら、どうかしたかしら?」

 

いいえ、なんでもないです。あなたの素顔の想像とのギャップに葛藤しているなんて、本人の前じゃ口が裂けても言えません。

 

「そ、それよりその格好……どこか入院でもしているんですか?」

 

「あぁ、コレ?うん、入院……そうね入院しているわね。入院している私は鳥籠の中の鳥なの。一向に変化のない真っ白い病院の風景、そとの景色も流れていく四季を多少感じる程度の変化しかない。だから、私は此処にいるのよ」

 

―――――――鳥籠の鳥、変化のない風景。だから此処にいる?

 

「えーっと、入院しているなら病室にいたほうがいいんじゃないんですか?身体悪くしますよ。今日は真夏の快晴ですし」

 

まぁ一般論だろう。病人ならば病室でおとなしくしておくのが一番だ。

ただ、入院しているから此処にいるっていうのが私にはいまいち理解出来ないが……。

 

「そうね、たしかにその通りね。でも、病室の中は永遠に変化のない風景、回廊と同じなの。前に進んでも、後ろに戻ってもそこにあるのは真っ白い病室の壁。そんなところにずっといたら、たまには別の回廊……景色も見てみたいと思わない?そう、たとえ夢でもいいから代わり映えのない回廊から私は抜け出してみたい、そう思ったのよ」

 

哲学的です。すごく哲学的です。

 

「それにね……」

 

「それに?」

 

「部屋に籠ってるより、外に出たほうが楽しいじゃない♪」

 

「なんか妙に難しいこと言ってた割に、最終的にはソレですか!!」

 

病人なりに苦労があるのだろうが、結局そうきましたか。

 

「ふふふっ、そうやってツッこみを入れてくれる人って私好きよ。できるなら、ずっとこうやってお話していたいくらいにね」

 

出来れば勘弁願いたいです。私、頭ふっとび気味の人は双司さんだけで手一杯なんです真剣に。

 

「でも、この楽しい時間もそろそろおしまい。日が傾いてきちゃったし、あなたもそろそろ帰った方がいいんじゃないかしら。その荷物を見ると、買い物の帰りでしょ?」

 

「――――――――、あっ!?」

 

双司さんのお使いの途中だったのをすっかり忘れてました―――――!!

 

「じゃぁね、縁があればまた会いましょう、可愛らしいお嬢さん♪」

 

――――――――キィ。

 

ブランコを軋ませながら女性は私に背を向け、私が入ってきた公園の入り口へと歩き出す。

うーん、なんとも不思議な人でした。なんか双司さんと知り合ってから、平穏な日常ってものを忘れかけているようが気がします。真面目に。

 

「あ、はやく戻らないと双司さん待ってますね」

 

急ごうっと。そうして、私は少し小走りで女性の向かった入口とは反対側へ向かって歩きだすのだった。ん?そういえば、事務所のお茶が切れてた筈だったから、寄り道して買って行きますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「人間というのは凄いな、小夜。見てみるんだ、このサランラップという道具を。こんなビニール一枚被せるだけで、大抵の食品の保存のサポートをしてくれる。まずだ、普通は食事にビニールを被せて保存するなんて荒業を思いつくか?いや、答えは否だ!!世界で初めてこれを作った人間は一体何を考えてこのようなことを思いついたのか!?うん、人間というのは時たま凄まじく恐ろしい……。ところで、クレラップとサランラップって、何が違うんだろうか。材質?」

 

「はい、私が戻るのが遅くなったせいで折角双司さんが作ってくれた晩御飯が冷めてしまったのは本気であやまりますから、その妙な疑問をつかった現実逃避は止めてください。正直、脳の神経疑います」

 

仕方ないじゃないか、せっかくの竜田揚げが……。

 

「私も不慮の出会いのせいで遅くなったんですから、少しは多めに見てください」

 

不慮の出会いって事故みたいなものか?

 

「うん、不慮の出会いなら仕方ない。だが!!冷めてしまった竜田揚げに罪はないのだよ小夜。そもそも、罪とはなんなのか?人間の欲である業、ヒトがヒトであるかぎり未来永劫付きまとってくるオマケ。あぁ、人間とはなんて不思議なんだろうか」

 

「だから、私が悪かったですからその三文芝居は止めてください!!私って、なんでこんな人の助手なんてやってるかな!」

 

いや、小夜よ。それはお前から言い出した事だぞ?

 

「双司さんって、時たま真面目な思考になるから私ついていけません……」

 

「ははは、何を言う。俺はいつだって真面目な思考をしているじゃないか。主に冷めてしまった晩御飯に対する愛とか」

 

俺がそんな素晴らしい一般論を告げると、「もう…いいです」など項垂れながら小夜は呟く。失敬な、俺はいつだって真面目なんだがなぁ。

 

「そういえば今日買ってきた宝石、あれとんでもなく高かったんですけど何処にそんなお金があったんですか?確か事務所の家賃も厳しいのが現状でしたよね?この事務所、双司さんが魔改造しちゃってるから、検閲入るだけでも危ないのに」

 

「あぁ、それはこれでも長生きしてるからな。あの程度出せるだけの貯蓄はあるし、アレの代金は魔術関連専用の資金から出したものだ。よって、なにも問題は無い」

 

「――って、貯蓄あったんですか!?」

 

「当たり前だ。これでも齢千近くいってるんだぞ?資金を作る暇くらい腐るほどあったさ」

 

じゃぁ、別に切羽詰まらなくてもよかったんじゃ……。そう小夜は呟く。やれやれ、わかってないな。

 

「いいか小夜、俺は今人間が確立した文明の社会で生きているんだ。ならば、それにともなった生活をするのが道義。かつての資金を日常生活で使用しては、その道に反する。解るか?つまりは、今現在の収入で生活しなければ人の世で暮らしているとは言えないんだよ。まぁ、物好きなかつての旧友は、人の世を避けてヨーロッパの山奥に城建てて暮らしていたりいするが」

 

ちなみに城の名前はブラッディローゼンクロイツ。どこの格闘ゲームの必殺技だ。

 

「えーっと、つまり昔から溜めていたお金は使えないと?」

 

「そういうことだ。だからこそ、今回の依頼を引き受けた訳だしな」

 

宝石使った浄化は金がかかるんだけどな。今回購入したもの全部使い捨てだし。さらば○百二十万円。しかし効率がいいから仕方ない。

 

「あ、双司さん今日泊めてもらえます?今日の終電まで、もう時間ないんですよ」

 

我が事務所の黒革のソファーに足を投げ出しながら小夜は言う。だらしないぞ女子高生、それでいいのか女子高生。もう少し慎みをもて。

 

「双司さんは、女子高生というものに夢を持ちすぎなんです」

 

現実はこんなものですよー、と間延びした声で答える小夜。別にいいじゃないか、女子高生に夢くらい持ったって。うん、随分俗世にまみれてきたな俺。

 

「まぁ泊まるのは構わないが、君は翌日は学校じゃなかったか?平日だぞ明日」

 

部屋とかは、たまにこういうことがあるので小夜用の部屋を用意してあるが。

 

「ここから直接行くから問題ないです。最近はコンビニとかでお金も下ろせるようになったから便利ですよねー」

 

世間帯からみる限り、なんとも言えない状況だ。

 

「と、言うわけで今日は泊めてもらいますね。……お風呂とか覗かないでくださいよ?」

 

なにを言う。

 

「ははは、そういうのはもう少し凹凸のあるホモサピエンスになってから言った方が自分の心の為だぞ小夜。第一、俺からしてみれば『覗く』という行為は何が楽しいのかが理解出来ん。どうせなら……やっぱりナマが一番だろう」

 

あ、小夜。そのなんとも言えない可哀想な物体を見るような眼は止めてくれ。いくら俺でも心に何かが突き刺さる。

 

「双司さん、ソレ右斜め下ストレートばりのセクハラです。はぁ、私シャワー借りてもう寝ますね。双司さんもあんまり夜更かしは身体に毒ですよ」

 

パタパタと、スリッパの音を響かせながら小夜は部屋を出ていく。うーん。

 

「小夜、俺は一応夜行性の吸血鬼なんだがな……。――――――しかし、右斜め下ストレートっていうのは、俺の評価が右斜め下下がりってことなんだろうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢を見る。ヒラリ、ヒラリと風に乗り空を舞い上がる飛行機の様な感覚。自分の肉体の感覚は無。だが、私の視点は風にあおられる様にゆっくりと上下左右へ移動する。

 

ヒラリ、ヒラリ、ヒラリ。

 

虚ろな思考。なにも考えられないくらいぼーっとしている私の思考。

 

ヒラリ、ヒラリ、ヒラリ。

 

目に映るのは白い壁のような景色。右へ映っても白い壁、左へ映っても白い壁。真っ白い空間に囲まれたここは何処なのだろう?

あぁ、なんかこんなことも考えるのが億劫になってきました。

 

 「私は、色んな世界が見てみたい。人によって、違う感じ方をする世界というものを見てみたい……」

 

 誰だろうか?そんな声が虚ろな思考の中で、私の耳に届く。

 

 「たとえ、ここから出られなくてもいいから……。それでもいいから見てみたいの、外の世界っていうものを私は―――――――」

 

 ザザッ、と声と声の合間合間に壊れたラジオ見たいなノイズが走る。時たま、何かを祈願するような声が聞こえ、ノイズでかき消され、それをただただ繰り返す。

 

これは、私の夢なのだろうか?

肯定も出来ない、否定も出来ないだってコレは、私には確かめようのないことだから。

 

 

――そんな、夢を見続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「小夜―、起きろー、朝だぞー、学校行く時間だぞー、遅刻するぞー。まぁ別に小夜が遅刻しても俺は困るわけではないのだがな」

 

 朝のお約束とも言うべきか、俺は彼女の眠る寝室の扉の前で中にいるで惰眠を貪っているであろう少女へ呼びかける。どうも小夜が泊まっている時は、これをやらないと朝が来た感じがしない。不思議だ。千年以上生きた俺でも分からない不思議である。そして小夜、早く起きてくれないと、本日の朝餉が先日の晩飯の二の舞になるだろうが。

 

「さっさと起きないか。でないといくらペタンコなお前でも朝から襲うぞコラ」

 

俺としては、やはりしっかりと凹凸があったほうが嬉しいのだが。彼女の胸に罪はない、きっと。

しかし、いつもならこれで出てくる筈だが……。

 

「………………」

 

しーんと、静寂が周囲を支配する。ふむ、人の動く気配すらないな。だが、そろそろ朝餉の保温時間がピンチなので起きてくれ。でないと、折角の鯖の塩焼きが―――――――――――っ!?

 

「―――――――これは」

 

扉から漏れる空気に混じった甘く、それでいて苦みを感じさせるような匂い。そう、まるで食虫華がかもしだすような、この爛れた香りは……。

 

「……っ、魔力の残り香?」

 

ばかな、昨日はそんな気配は微塵もなかった。こんな遅延性の残り香など、少なくとも俺は聞いたことがない。いや、それより今は―――――――。

 

「小夜、入るぞ!」

 

叫びながら目の前の扉を蹴りあける。む、やはり鍵がしてあったせいか扉が砕けてしまったが、今はそんなことは気にしていられない。そう、今は彼女の安否のほうが重要だ。

 十畳ほどの、それなりに広い空間を有する小夜にあてがった寝室。備えてある洋服棚などのアンティークの家具はそれなりに歴史があるもの。ときたま視界に映るぬいぐるみなどは小夜の趣味だ。決して俺の趣味ではないのであしからず。そして視界の一番左端、そこに彼女が眠るであろうベットが備えられているが―――――――。

 

「……小夜を包み込むように流体が漂っている?」

 

 近づいてそっと彼女の寝顔に触れる。スヤスヤと、安心しきった子供のように眠る彼女は、特に苦しんでいる風には見えない。寝言でなにか呟いているみたいだが、俺には何も聞こえない。あぁ、聞こえていないとも。なにがバームクーヘンだ。

 しかし、問題は彼女を包むこの魔力流。本当に微弱で分かりにくいが、これは恐らく一種の呪いの類だろう。何故呪いなど……?

 

「依頼どころじゃなくなりそうだな……まったく」

 

 とりあえずは、こいつをどうにか出来ないか試してみるか。この呪い…解呪したら爆発とかしないよな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カチリ、カチリ、カチリ。古い映画のフィルムを回すような音。視界には私の見たことのない風景や人影、そして背景音が目の前のスクリーンに流れている。B級映画の様にすり減った画質だが、私にはこれで十分。

だって、私はただ自分の見たことが無いものを見たいだけ。それがたとえ虚像や偽りの視界で見るものでも、私はそれで満足なのだから――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「解呪してもすぐに張りなおされる…。常時展開型の呪いか」

 

さっきから呪いの流体をいくら消し飛ばしても、また直ぐに流体が展開する。クソッ、施されている概念が解析出来れば簡単に完全解呪出来るんだが、それにはまず大本の術の本体を直接視認する必要がある。無理やり別の概念で上書きなんて力技をやったら、小夜本人に反動が逃げる可能性もあるしなぁ。

 

「厄介な術を使われたな。いや、むしろこれは能力の類か?」

 

それならばこの魔力流の気薄さも納得出来る。本来ならば、このような術を使えば濃いめの魔力の残滓が残る。だが、この呪にはそれの傾向が全く確認出来ないのだ。ならば術式から動作している術ではなく、そのプロセスを省いた結果を先出ししている『何か』から呪を飛ばしていると考えた方が辻褄が合う。

まぁ、『赤』と違って俺はそこまで魔術には精通していないので断言は出来ないがね。

 

「しかし、これは何の呪いだ? 一般的な陰陽の凡庸解呪で解けるにしては、直ぐに展開される……。しかも小夜本人には何かこれといって異常がある訳でもない」

 

被害者本人さまは、至って幸せそうに睡眠中である。外傷系でないなら、内面――精神系の呪いだとは思うが。

眠っている……?

 

「確か、似たような症状を起こす術について書いてあった本があったな」

 

俺は踵を返し、書斎へと向かう。

そう、以前暇つぶしに読んでいた書物に関係のありそうな記載があった筈だ。せめて、何か手掛かりになる記述くらいはあるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう二限目始まるのに、小夜ちゃん来ないなぁ」

 

 私、秋山香織は教室の窓から次の授業の為グラウンドへ移動する生徒をアンニュイな気持ちで眺める。時刻は約十一時前、次の授業は英語、私は英語は嫌いだ。だって担当暑苦しいし、男だし。

あぁ、小夜たんという心のオアシスもいないんじゃ、私のテンション鬱になる一方だわ。

 

「おやっ、カオりんどしたの??」

 

 ひょこっと、細いデザインフレームのメガネを掛け、胴体に縄のロープを巻いた少女が逆さまで私の視界に現れる。なんだ。

 

「小夜たんがいなくて次の授業のこと考えてたら鬱になったのよネオン。てゆーかアンタはどこから出てきてるのっ!?ここ三階でアナタがいるところ私を挟んで窓の向こう側よ!? しかも上下逆さまだし!」

 

ちなみにこの学校は五階建てである。

 

「ん? あぁ、コレはさっきまで屋上にいたからね。ほら、春先の屋上崩壊事件あったじゃない? 私、カオりんと同じで現場にいたのに記憶ないから、改めて原因調べてみていたのさー。ちなみに、そんなことしてたら授業まで五分切りましたので、ロープ使って下りてきました」

 

 ぶらーんと、宙づりになりながら彼女はのたまう。普通に階段で下りいてきたらどうなのよ。あ、風でネオンが振り込みたいに揺れ始めた。このままロープを切ったらどうなるのだろう。普通に考えて落ちるかしら?

 とか考えていると、「よっと」と掛け声を出しながら、ロープをそのままに彼女は教室内に侵入してきた。平然と縄抜けをするな。私も人のこと言え無いけど、行動がぶっとんでるなー。そして、いつものことの様に知らんふりを決め込むクラスメイト達。

 

「ネオン、私ね常々思うんだけど、アナタその妙な行動技術どこで覚えてくるのよ?」

 

 普通の人間なら、まず屋上からロープ使って下りようと思わない。

 

「それはアタシもカオりんに聞きたいことなんだけどなぁ。だってカオりん、普段運動とかするとき絶対手抜いてるでしょ?走り方とかアタシが見る限りじゃ、絶対わざとやってるもん。ほら、素人が慣れないのにプロの真似をやるみたいに。カオりんのはその逆かな?プロが素人の真似をして動いてる」

 

 たまにこの子の洞察力には恐れ入るわね…、絶対ばれてないと思ってたのに。

 

「まぁ、理由聞いても教えてくれないんでしょ?ならアタシも同じ。ふっふっふ、いい女には謎が多いのだ」

 

 キラーン、と一瞬メガネのレンズが光ったのは幻覚だろうか。うん、幻覚だろう。そんなマンガみたいなエフェクトが、リアルにあったらたまったものじゃない。実際カミナリとか落ちたらどうよ?

 

「そういえば、小夜にゃんまだ来てないの?アタシ達の心のオアシス」

 

「うん、まだ来てないの……。携帯にメールしても返事がないし、電話しても出てくれないし……」

 

「小夜にゃんが学校サボるなんて珍しいよねぇ。いつもは前日とか前の日に宣言してからサボるし」

 

 今回は事前宣言はなかったしなぁ。小夜たんどうしたんだろ。

 

「でも小夜にゃんなら心配いらないでしょ。あの子あんな小動物みたいなナリして色々とハードだし。アタシたちはいつも通りイケナイオカルト雑誌でも読みながら次の授業をのりきればいいさー」

 

 そういえば『ウー』の新刊まだ読んでなかったわね。ネオンが持ってきてるだろうから、後で貸してもらおう。珍妙道中抹茶味の続きも気になるし。

たしか、前回は行方不明の恋人を追って、鍾乳洞の奥にある地下帝国に侵入したところまでだったかしら。アレは空飛ぶピラミッド編が一番面白かったんだけどなぁ。空中に浮かぶピラミッドで恋人と肩を寄せ合いながら感傷に浸る主人公の描写には思わず涙した。夕焼けをバックに手の指と指をからませ、お互いに愛を語らう。うん、女の子なら誰しも一度は夢見るシュチュエーションよね。その後の風に煽られて、主人公が外壁からノーロープバンジーをして、ついでにテンパッたのか浮気していたことをバラしていた個所は頂けないが。私なら間違いなく刺してる。こう、心臓をナイフで五回くらい抉った後、跡形もなく炎で消し炭にするように。

ちなみにその物語のヒロインは、命からがら外壁を這い上ってきた主人公を改めて蹴り落としていた。げしっ、てな感じで。

 

「カオりん?眉間に皺寄せてどしたよ。その豊満すぎるバストのせいで肩でも凝った?」

 

「それはいつものことよ。ただ、ちょっと普通の物語ってなんなのかなぁって考えてただけ」

 

 ちなみに小夜ちゃんに胸の話しをすると怒り出す。それはもう烈火の如く。「胸のある人には……無い人の苦しみがわからないんです!!なんですか肩が凝るって……、貴様の胸には鉛でも入ってんのかー!?」と、こんな感じで捨てられた子犬の様な、プリティな目をしながら、がーっと襲いかかってくるのだ。胸に向かって。そんなにいいものじゃないと思うんだけど……。肩凝るし、周りの視線は気になるし、売ってある下着とかも可愛いもの少ないし。

 

「そろそろチャイムが鳴るわね。ネオン、あなたこのロープちゃんと片付けなさいよ?なにかあったら真っ先に疑われるのは私かあなたなんだから」

 

 縄抜けして教室に入ってきたせいで、窓の外にはロープだけぷらーんと揺れている。それは、まるで今の私の気持ちを代弁しているかのように、シュールな光景だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真っ白い、映画のようなスクリーンだけのある真っ白い私の世界。私は此処でいつものように、私の知らない景色を見る。あ、これ懐かしい。南ヶ丘学園の校舎だ。そういえば、あの子は南ヶ丘学園の生徒だって言ってたから、スクリーンに出ても不思議じゃないわね。

 カチリ、カチリと移り変わる風景。……なんでこの金髪の女の子は頭に蝋燭なんて刺してるのかしら?

 

「でも、面白いわねこの子の映像」

 

本当に面白い。今まで見てきた映像のなかでも間違いなくTOP5には入るのではないか。なにせ、まだ学校の日常しか見てないが、普通とは程遠いイベントにあふれた記録だ。少なくとも私の学生時代の友人は、授業中に粉塵爆破をやってのける猛者などいなかった。何人か吹き飛んでたよね、アレ。

 

「さて、次は……っと」

 

ザザっと、ノイズ混じりの音を掻きだしながらスクリーンが切り替わる。

――――――真っ暗?いや、凄く小さいがなにか唸り声のようなものが聞こえてくるので、既に映像は始まっているようだ。

 

「何の記録かしらこれ?」

 

黒い暗幕のような映像。いや、ところどころ真っ赤な花弁のようなものは見える。

だが、ソレが何なのかがはっきりしない。音声も、先ほどの唸り声のようなもの以外はノイズの入った雑音だけ。これは――、

 

「――――――そこまでだよ、崎守ミサキ。そこから先の映像は君が見るべきものじゃない」

 

「――――っ!?」

 

 人の声?なんで?ここは私の世界。私以外の人間がいるはずがないのに……!?

 私は声の聞こえた方を、おもいっきり振り向く。そこには黒いスーツを身にまとい、この世界に存在する筈のない椅子に腰かけている、黒髪オールバックの男が悠然と足を組みながら存在した。周囲の床には、彼を中心に真っ赤な宝石の様な石がばらまかれている

彼は眼を瞑りながら。

 

「やれやれ、他人の思考を取り込み、それを映像として閲覧する……。いや、性格には『他人の思考を抜き取る』とい言ったほうが正しいか。こんな術が使えるのはオモイカネを祖に持つ崎守の血くらいしかないっていうのに……、俺はなんで直ぐに気がつかなかったんだろうな」

 

 やはり平和ボケしているかと、いきなり私の視界に現れた彼は呟く。

あの男は誰だ。私の世界に当たり前のように入り込んできて、意味のわからない言葉を呟くあの男は誰だ。どんな方法を使ったかは知らないが、既にスクリーンの映像は停止している。つまり、あの男は私の世界に干渉してきたということ。

 

「自分が無理だからって、他人の思考を集めるのは勝手だが……あの子に目を付けたのだけは間違いだったな。あんなのでも俺の助手なんでね、勝手に行動不能にされたら困るんだよ」

 

そう、男は言葉を紡ぐとゆっくりとその瞳を開く。

 

「崎守ミサキ、次に目が覚めたら今度は自分の瞳で世界を見てみるといい。君の病は、君自身で引き起こしている副産物に過ぎないのだから」

 

――なんのこと。そんな疑問を投げかける暇もなく、私の視界は黒に満ちていく。最後に見えたのは、燦然と蒼海の様に輝く、男の瞳の色だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――んっ」

 

何か、変な夢を見たような気がした。真っ白い誰もいない空間に一人たたずむ、悲しそうな女性の夢。瞼越しに、白い暖かな光のようなものを感じる。この部屋は冷房が効いているので、身体を包む毛布のぬくもりが心地いい。あぁ、もう朝か。

今日は月曜日、学校に行かなければならないのでそろそろ起きないと。

 

「小夜―、朝だ。学校遅刻するぞ?」

 

 耳に、ここ三カ月ほどで聞きなれた男性の声が聞こえる。そうだ、たしか昨日は双司さんの事務所に泊まったんでしたね……。また作ってくれたご飯を冷ましてしまうのも可哀想ですし、起きるとしましょう。

 そう決断し、私は虚ろだった瞼を開く。が。

 

 「おはよう小夜、朝だぞ」

 

目の前に、ドアップの双司さんの顔が映っていたので反射的に殴ってしまった私に罪はないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、なんで今日の携帯の日付が火曜日になってるのか双司さん理由わかります?」

 

「そりゃ小夜、お前が日曜からぶっ通しで惰眠を貪っていたせいだろうな」

 

 俺はちゃんと起こしたぞ。と、彼は朝食をテーブルに並べながら言う。私ともあろうものが丸一日以上寝続けるなんて……、学校行ったら香織とかが煩そうですね。

 

「って双司さん、なんか今日の朝食豪華じゃないですか?」

 

 テーブルに並ぶのは正月に見るようなタイの塩焼きやその味噌汁、出し巻き卵なんか光沢が違う。

 

「あぁ、依頼の報酬がよかったからな。それなりに奮発してみたのさ。出し巻きの出しなんか、蟹味噌からとってるぞ?」

 

「依頼の報酬って……、いつの間に終わらせたんですか!?しかもそれでこの食事って」

 

 とてつもなく食欲をそそる香り―――――――、朝から太らないだろうか私。でも、ご飯に罪はないのでちゃんと全部頂きます。

 

「そういえば双司さん、私変な夢みたんですよねぇ」

 

 食事をとりながら、私は双司さんに声を掛ける。

 

「変な夢?」

 

 双司さんのオウム返しの問いに答えるように、私は話す。先ほどまで見ていた一人の女性の夢。真っ白い世界で、自分がみることの出来ない景色をスクリーン越しで見ることで満足していた、悲しい女性の夢を。

 

「どう思います?私的には、さっさと自分で見たいもの見に行けって言いたいんですけど」

 

 それが私の率直の感想。その場の映像より、リアルでみたほうが絶対にいいと思うのだが。その意見に双司さんは。

 

「そうだな、夢だからなんとも言えないが……、彼女は囚われていたんじゃないか?夢幻――――――自分の空想で全てを得られると理解してしまった回廊にな」

 

 そう、窓の外を眺めながら呟くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――――っ!?」

 

 焼けつくような胸の痛みで目が覚めた。此処は……病院?私は何故こんなところにいるのだろう。疑問に思い、自分の記憶を掘り起こす。私は最後は自宅の寝室で睡眠をとった筈だ。そう、確か前々から悩んでいた世の中のしがらみについて考えながら。なのに何故?

 周囲へと視線を向けてみる。真っ白な壁、その一角にデジタル式のカレンダーのようなもの。日付を見てみると、2007年の八月十三日―――――――!?おかしい、今は2005年の三月ではなかったか。

 

「……だめ、思い出せない」

 

やはり私の最後の記憶は、2005年の三月。いや、まずそれ以前にこんなところにいる経緯すら思い出せない。

 そう、私がこの不可解な事態に頭を悩ませていると、ガラッと病室のドアらしきものが開く音がする。なにかと思い、そちらに視線を飛ばしてみると―――――――。

 

「お母さん……?」

 

 花瓶を持った妙齢の女性。私の記憶より、若干やつれたその女性は間違いなく私の母親だった。母親は私の呟きを聞くと一瞬硬直し。

 

「………」

 

「お母さんっ!?」

 

そのまま横向きに倒れてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、その後私は手元にあったナースコールらしきボタンを押して人を呼び、現状の説明を受けた。

なんでも、私は2005年の三月から眠りっぱなしだったらしい。原因も不明のまま、今まで過ごしてきたがいきなり目の覚めた私をみて倒れた母親は仕方ないそうだ。ほとんど植物状態みたいなものだったそうだし。ダメもとで最近お祓いじみたこともしてみたそうだし。でも、いきなり倒れるのは私としては傷つくわ。

 そして現在、私は病室で母親と仕事中なのに急いで駆け付けてきた記憶よりもやはり若干老けた父親と話しをしていた。

 

「……からだ中が痛い。関節固まってるんじゃないかしらコレ」

 

「仕方なかろうミサキ、今までずっと眠っていた訳なんだからな」

 

 私の呟きに父親は呆れ声で答える。だが、その表情は笑みを浮かべていた。あの厳格な父親のこんな顔が見れるとは……、予想外だわ。

 

「ミサキ、なにかしてみたいことない? ずっと眠ってた訳だし、色々したいことあるでしょう」

 

「おいおい母さん、眠ってたのだからいきなりそんなこと言われてもミサキも困るだろう。まぁ、何かやってやりたいのは私も同じだがな」

 

 はっはっは、と笑いながら話している両親。やりたいこと……か。

 

「お父さん、お母さん、私ね、世界を見てみたいわ――――――」

 

――何故か、私はそう思ったのだった。

 

 

 

 

 

 

                           夢幻回廊 END

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

 

 中学生の時に、机の椅子にノリを塗られていて大惨事になったことのある桜月九朗です。

 さて、夢幻回廊書き終えたった今このあとがきを書いています。この話って、結構個人的にまとめるのが難しかった話しなんですよねー。最初のプロットを読み返していると、何故かバームクーヘンやらミートパイなんて単語がチラホラ。………ワタシハナニガシタカッタンダ?

 

 さて、ここからはとある先輩との会話を書いてみたいと思います。まぁ、くだらない日常会話での一文です。

 

 

 俺「なぁ、なんかネタある?こう、ジェットコースターの如くメリハリあるヤツ」

 

先輩「いきなりネタと言われても。……そうだな、さいきん近くのスーパーで、ちょー怖い話っていうガム買ったんだけど」

 

 俺「なんですか?その珍妙なタイトルのガム」

 

先輩「一個四十円くらいで、ちょー怖い話が書いてあるカードが入っている訳よ。ちなみに二枚買ってみた」

 

 俺「何で二枚も買うかなーそんな地雷物」

 

先輩「なんの運命か、ちょー怖い話4、5のカードが当たった訳なんだが。その一枚目のカードはこんな話が書かかれていたんだ。夜、時速60キロくらいで車で道路を走っていると……」

 

 俺「走っていると?」

 

先輩「明らかに亡霊臭い老人が、走行中の車の横を並んで走ってる訳だよ。全力で」

 

 俺「怖ぇっ!、超怖ぇ!?夜とか車運転出来なくなりそうで怖いんですけどっ!?」

 

 

 

 しかし、改めて見直すと書式がめちゃめちゃである。

……ころ合い見て修正するかなぁ。

 

 

 以上、あとがきでした。では、次の話でお会いしましょう。

最後に、この話を読んでくれた方々に最上級の感謝を。

 

 

 

 

  桜月 九朗

 


 
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