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No.310290
真説・恋姫†演義 北朝伝 終章・序幕
狭乃 狼さん 2011-09-30 21:02:48 投稿 / 全3ページ 総閲覧数:15768 閲覧ユーザー数:11634 |
それは、一体“何度目の”時だったろう。“彼女”がその問いを、“彼”から聞かされたのは。
「……なあ、貂蝉」
「あら、どうしたのかしら、ご主人様?あ、もしかしてとうとう、私を受け入れてくれる気になったのかしらん?いやん。貂蝉ちゃん嬉しい!!」
「……俺は一体、後何回、繰り返せばいいんだ?」
「……っ!!」
その瞬間。彼女の体は硬直し、先ほどまでの飄々としたお気楽な表情は、その十分以上に美しいと言える顔から消え、替わりに悲痛とも取れる表情へと変化した。そう。彼女がご主人様と呼んで慕うその青年から発せられた言葉は、ある意味、彼女が待ち望んでいたものだったとしても、出来うる事ならされたくは無かった問いであった。
「……正直さ。もう、さっきのが何度目かすら、俺は覚えていない。少なくとも、百を超えた所ぐらいから、数を数えるのはやめたよ。……けどさ、“今回の外史”を終えたその瞬間、俺の脳裏にふと湧き上がったんだ。……何時まで俺は、役割を果たし続けないといけないのかってさ」
「そ、それは……」
「……悪い。お前にそれを答える権限は無いんだったっけな。……すまん、忘れてくれ」
「……」
そう。彼女には、彼のその問いに答える権利が与えられていなかった。初めて彼と出会ったあの外史の時から、永劫とも言える時をともにして尚、彼女に許されていることは彼を導き、見守る事だけだったから。
「さてっ、と。それじゃあ次の世界に行くとしようか。……今度はどんなところだ?蜀か?魏か?呉か?それとも南蛮、いや、西涼かな?両袁家のどっちかって事もあるか。はたまた当時の倭国、五胡に所属ってパターンも」
「……ご主人様」
「ん?」
「……私では、確かにご主人様の問いには答えられないわ。でも、一人だけ、それが出来る人物が居るわ」
「……っ?!……ほんとか?」
「ええ。……正確には、さっきの問いに答えると言うよりも、ご主人様をこの永劫の輪廻から外せる者、って言った方が正しいけど」
「……何……だって?」
永遠の牢獄ともいえる、彼に背負わされたその宿命。その罪業ゆえに架せられたくびきから、自身を解放出来る者が居ると。彼は貂蝉からそう聞かされ、一瞬己が耳を疑った。そしてそのすぐ後、彼は思わず貂蝉の肩をその手で掴み、必死の形相で問いかけていた。
「誰なんだそれは!?俺をこの無限のループから出してくれる、そんなことが出来る奴が、本当に居るって言うのか?!」
「え、ええ。居るわ。……私はね、ご主人様。貴方がさっき言ったあの言葉、『一体何度繰り返せばいいのか?』というその言葉を、貴方が自らその口にした時、この事を教えるよう、その人物から言い含められていたの。……永遠ともとれるこのループ、その行為にご主人様自らが疑問を抱いた時こそ、“時が来た”、その証になるからって」
「時が来た……?一体何の事だ?」
「それはご主人様自身で、『彼』の口から聞いてちょうだい。……今から、『彼』の居る所に回廊を開くから」
す、と。自身の肩を掴んでいる青年の手を優しく解き、貂蝉は自身の片手を彼の背後に、手のひらを開いて突き出した。すると、その先に一筋の光が現れ、それはそのまま一つの扉へと変わった。
「……さ。あの先に、その『彼』が居るわ。……行きましょう?貴方の旅の終わりを示す、その人の元に」
「……ああ」
貂蝉に示されるまま、彼はその扉のノブに手をかけ、ゆっくりと回す。そして開かれたその先から、眩いばかりの光が彼の目を眩ませ、その視界を遮る。
「……連れてきたわよ、――。貴方がお望みの状態となった彼を。あの外史の中心を担うにふさわしい存在となった、北郷一刀を――――」
「……夢……?……私ったら、何時の間に寝ちゃったのかしら。……それにしても、なんだか随分久しぶりに、“あの時”の事を夢で見たわね……」
んーんっ、と。東屋の椅子に座ったまま、腕を正面に伸ばしつつ体をほぐし、再び椅子の背もたれにその背を預けるその人物。艶やかなその黒髪を頭の後ろで三つ編み状態で束ね、どこか忍者を髣髴とさせる、黒い衣装を着た二十代後半ぐらいの容姿をしたその女性は、王淩、字を彦雲という。
一刀の側近である李儒こと、先の少帝劉弁の護衛兼相談役であり、その無二の親友とも言えるその人物は、現在ここ新野の地に滞在していた。つい先だって、一刀からの急使により、天下一の名医と言われる華佗を至急探し出し、この新野の地に連れてくるよう依頼された彼女は、その時運よく長安にいた華佗に事情を話し、その彼を連れ立ってこの地へとやって来た。そして現在、その華佗の手により、患者である劉琦の治療が懸命に行われている。
「……劉琦ちゃん、助かるといいのだけれど。……でも、例え助かったとしても、延命がいい所、でしょうね……。ふぅ。知識はあっても技術が無い以上、私には何も出来ないものね……。ほんと歯がゆいったら無いわねえ……」
華佗をこの地に連れてきたその時点で、彼女に出来ることはもう無くなっており、今はただこうして東屋に座っているぐらいしか、今のところはやれることが無い。彼女の護衛対象である李儒も、姜維、徐晃、司馬懿の三人とともに、この日の昼ごろには新野に到着する予定なので、その彼女らが到着するまでの間、たまの休息をとっていると言うわけである。
「……それにしても、今頃あの時の事を夢に見るなんて、やっぱり、“この物語”が終局に近づいているって事かしらね……」
周囲に誰の気配も無い事を確認し、一人そう呟く王淩。彼女自身、物語の終局を見るのは、何も今に始まった事ではない。それどころか、今までにそれこそ無数とも言える物語の終焉を、彼女はずっと見続けてきた。始まりの物語となったあの世界から、今存在しているこの世界に至るまで、彼女が主人と呼んで慕い続けるその人物、北郷一刀とともに。
「……けど、よくよく考えてみれば、私自身が外史の登場人物として結末を迎えるのは、これが初めてじゃあないかしらね。今までは観測する側からしか、物語の終焉を見たことは無かったけど、この世界の物語が終わったとき、私は一体どうなるのかしらね……」
す、と。王淩は何気なく、その目を細めて空を見上げる。蒼い空はただ高く、今日は雲一つない快晴。その蒼空を時折横切るのは、数羽の鳥達のみ。
「……やあね。懐かしい夢を見たものだから、なんだかちょっとおセンチ入っちゃった。さてっと!そろそろ白ちゃんも到着する頃でしょうし、本来のお仕事に戻りますか」
椅子からすっくと立ち上がり、ひとつ大きく深呼吸をしたその一瞬の後、彼女の姿はもうどこにも見えなくなっていた。彼女の、この世界における“本来の役割”である、李儒こと劉弁その人を、その身命を賭して守る、そのために。
そう、それは
彼女が、彼女本来の姿で、愛する人の傍に居たいと願った時に、彼女が受け入れた制約。彼よりも先んじて、この世界に、この世界の人間として、生れ落ちる事を許されたその代償。……その約束が故に、愛しい彼の寵愛を受ける事も許されず、ただひたすらに見守る事しか、彼女には許されていなくとも、彼女は今、とても充実していた。
「ご主人様と同じ世界に、一人の女として存在できる。それだけで私は幸せなのだから」
始めに約束を交わしたその時、その場所で、彼女は笑ってそう言った。
そう。
この物語は、ついにその終焉の時を迎えようとしています。一刀らが進むその路の先に、一体どんな結末が待っているのか?それはもう間も無く、皆様の目に明らかとなるでしょう。
そして、その最後の戦いはすぐそこにまで、その足音を響かせています。その大舞台にて、最後の舞を舞うはこの者達。
現実を認め、そしてそれを許容した上で、理想を実現させようとする者、劉玄徳。
一族の為、江東の民のため、己が信念を貫き通そうとする者、孫伯符。
妄執に縛られたまま、自らの願望を成し遂げようとする漢の皇帝、劉伯和。
その三者に相対するは、物語の主人公たる北郷一刀と、その絆深き仲間達。
英傑はここに集結する。
『赤壁の戦い』
全ての決するその舞台にて、彼ら、彼女らに待ち受けるのは、果たしてどのような顛末なのか。
真説・恋姫†演義 北朝伝。
その最終章の幕を、今ここに上げさせて頂きます……。
~序幕、了~
~一幕に続く~
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ども、狭乃狼です。
北朝伝、ついに最後の章の、開幕です。
まずは序幕。
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