No.276603

真・恋姫†無双~恋と共に~ 外々伝:夏の戯れ

一郎太さん

ただいま『第2回同人恋姫祭り』が開催中という事で、一郎太も書いてみました。
まったく本編と関係ないもので書いても良かったけど、一郎太の作品もより多くのユーザーの方に知って頂きたかったので、本編と絡めたキャラの性格と内容に致しました。
まぁ、本編読んでなくても楽しめると思います。

という事で、参加条件をチェック。

続きを表示

2011-08-17 18:46:59 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:8594   閲覧ユーザー数:6103

 

 

夏の戯れ

 

 

 

ぱしゃ――――――

                      パシャ――――――

         パシャ――――――

                                    ぱしゃ――――――

 

晴れ渡った空。浮かぶは真円の光。その光の残滓はそれ以外の光を遮り、己を引き立たせている。漆黒の天幕も今宵限りはダークブルーへと彩られ、仄かに優しく、大地に覆いかぶさっていた。

 

「いいお月さんですねー」

「そうだな」

 

岩に座る俺の隣には、ターコイズブルーの外套を纏う金髪の少女。昼間は暑さに茹だっていたが、この場所なら涼しさすら感じられるのだろう。いつものように眠たそうな顔で、俺に身体を預けている。

 

「冷たくないか?」

「ん…気持ちいい………」

 

視線の先、俺達より少し低い位置に腰を降ろした恋は、腿まであるロングブーツを脱いで、涼を取っている。

 

    パシャ――――――

                  ぱしゃ――――――

 

恋が伸ばした脚を交互に上げ下げする。その度に涼やかな音が風に乗って通り抜け、冷たさを俺達に錯覚させてくれる。

 

「たまには、こういう時間もいいのかもな」

「そですねー。でも風としては、おにーさんと2人きりでも全然かまいませんけどー」

 

にゅふふと笑う風に、恋が振り返り微笑みを返す。

 

「風…抜け駆け、禁止」

「冗談ですよ、恋ちゃん」

「ん…知ってる………」

「むむむ、軍師としての立場が………」

 

溜息を吐きながら、風は懐から棒のついた渦巻き飴を取り出し、恋に放る。

 

「風の策を見破ったご褒美です」

「…はいりょーする」

「え、俺の真似?」

 

         ぱしゃ――――――

                                      パシャ――――――

 

暗い海の天辺に名月。蒼い池の畔には、紅い髪の少女。隣に座る少女の髪は、月の光を受けてぼんやりと輝いている。

 

「―――そしておにーさんも、キラキラ輝いている、と」

「恥ずかしいから、独白を読むのはやめてくれ」

 

風が目を瞑ったまま聞き流す。

 

「だいじょぶ…」

「何がだ?」

 

飴を片手に、恋が見上げてきた。

 

「一刀は、いつも…輝いてる……」

「やめてくれ、恥ずかしい」

 

いつものように、邪気など感じられるはずもない瞳。その奥底の真意を見抜く術を、俺は持たない。だが、なんとなくわかる。感じられる。

 

「ん…頑張る……」

 

恋は何も考えていない。いや、様々な思考が浮かんでくるのだろうが、そのすべてを受け流す事が出来る。そんな表情をしている。

 

「恋ちゃんは純粋ですねー」

「風よりはな」

「むー」

 

                        パシャ――――――

      パシャ――――――

                                        ぱしゃ―――――― 

 

むくれる風の頭を撫でた。途端、その身体から力が抜ける。

 

「にゅふふ、おにーさんは優しいので大好きです」

「………」

「おっ?照れていますねー。にゅふふふにゅっ!?」

 

ここぞとばかりにつついてくる風の両頬を手で摘まむ。

 

「ほひーはん、はふかひーへふぅ」

「『おにーさん、春がいいです』か?そうか、風は夏より春が好きだって言っていたもんな」

「にゅふー」

 

アヒルのような唇から、なんとも気の抜けた音が漏れ出た。

 

「くっくっく……そうむくれるな」

「みゅふぅ、おにーさんは相変わらずのイジメっ子なのです。風は怒りました」

「悪かったって」

「つーん、です」

 

       パシャ――――――

                               ぱしゃ………

 

断続的に届いていた音が止まる。気配に顔を上げれば、スラリと伸びた恋の素足がわずかに雫を纏わせている。その上には刺青の彫られたくびれに、白と黒の上着と、緩やかな風に揺れる赤紫の襟巻。さらに視線を上げてみると、葡萄酒色に透き通った瞳が俺をじっと捉えている。

 

「どうした?」

「一刀…イジワル、だめ」

「恋ちゃん恋ちゃん、おにーさんが苛めます。お助けをー」

「ん……」

 

風が袖で目元を隠しながら恋に訴える。恋は頷き、俺の襟を掴みあげた。

 

「え?ちょ、恋!?」

「……乙女心を、一刀はもっと考えた方がいい」

「いつの間にそんな繊細な心をぉっ―――!?」

 

宙空に俺は投げ飛ばされる。天地の入れ替わった視界の中で、俺は見た。恋の背によじ登った風が、その耳元に口を寄せているのを。

 

「そういう事―――」

 

最後まで呟き切る事なく、昏く冷たい空間に頭から飛び込んだ。

 

「(………夏でよかった)」

 

底へ底へと沈みゆく俺の身体を、大小さまざまな気泡が撫でていく。しばらく脱力したまま、暗い水の中から水面を見上げた。そこに映るは歪んだ月。されど、その光は俺のもとまで届いている。

 

「(元の――こっち―――今頃――――恋に風――――――――)」

 

理由はわからない。何もなく、ただぼんやりと浮かんだまま、俺はふと郷愁に駆られた。別の世界を想い、置いてきてしまったものを想う。目尻から涙が滲むのがわかる。

 

「(これ以上は―――)」

 

意味のない事だ。そう思い込もうとするよりも早く、涙は止まる。

 

「(………まったく、バカだな)」

 

水中でありながら、思わず笑みが零れる。自嘲ではない。新たな気泡の群れと共に現れた、2人の少女へのものだった。

 

ゆっくりと水底に背をぶつけた俺は、身体を起こす。砂を蹴って上昇し、こちらに真っ直ぐ伸ばされた2つの手を握る。そのまま2人の身体の上下を入れ替え、腰に手を回し、光射す揺らいだ天幕を目指した。

 

「―――ぷはぁっ!」

「ぷふぅ、服を着ているから泳ぎ難いですねー」

「ぷひゅー…」

 

久しぶりの空気を味わう俺の首に風が腕を回し、恋は口から水のアーチを作っている。

 

「何やってるんだよ、お前達は…」

「にゅふふ、おにーさんを助けに行ったのですよー」

「みんなで、水浴び……」

 

風はまったく悪びれず、恋に至っては見当違いの事を言っている。だが――――――

 

「そうだな。もう少し、このまま涼んでいくか」

 

――――――これが俺達だ。俺たちの、いつもの光景。

 

「でも風は泳げないので、このままでお願いしますー」

「はいはい」

 

首にしがみついた風が肩から顔を覗かせる。恋は仰向けに水面に浮かんでいた。

 

「恋」

「なに…?」

 

上を向いたままの恋まで泳いでいくと、視線だけこちらに向けて返事をする。邑を出た頃とはまったく別の、安心しきった瞳。思えば遠くまできたものだ。

 

「恋…」

 

右腕で恋の背を支え、左手で頭を軽く持ち上げる。

 

「ん――」

 

その濡れた頬に、そっと唇を落とす。片目を瞑ってそれを受け入れる恋の顔が、視界の端に映る。

 

「むー」

「わかってるよ」

 

背中で不満の声を洩らす風を身体の前まで持ってきて、その頬にも口づけた。

 

「おにーさんは………おにーさんは相変わらずの女たらしなのです」

「嫌だったか?」

「そんな訳ありませんよー」

 

この薄暗がりのなかでも分かるほどに頬を赤く染める風。

 

「風…恥ずかしい………?」

「そんな事ないです」

 

気付けば、恋も風の背を手で支えて、その顔を覗きこんでいた。

 

「おにーさんはいつも突然で、驚いただけです」

「ん……」

 

照れた風の言葉に、恋も笑みを零す。その優しげな瞳に、俺もつられて微笑んだ。

 

見上げれば満天の星空などない。あるのは暗く碧い天幕と、俺達を照らす真円の月。水面は透明な青に染まり、そこに反射する光が俺達の顔を照らす。

 

「もう少し………」

「どしました?」

「……?」

 

ふと口から出てきた言葉に、恋と風が反応する。俺は月から2人に視線を移して答えた。

 

「もう少しだけ……こうしていたいな」

「………」

「………………ん」

 

俺の言葉と表情に何を読み取ったのだろう。風は慈母のような瞳で俺を見つめ、恋は数瞬の沈黙の後、頷く。

 

「………………ありがとな」

 

俺は微笑みを返し、再び水底を目指して無重力へと飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

 

ということで、『第2回恋姫同人祭り』に投稿させて頂きました。

 

ずっと暑い、というか熱い日が続くので、涼む意味でもこんな作品に仕上がりました。

 

本編を読んで下さっている方々はご存知と思いますが、香ちゃんはいません。カワイソスwww

 

副題にもある通り、『外々伝』なので、本編に関係あるようでありません。

エ〇ゲで言うと、関連イベントがあったのにフラグが立っていない、みたいな。

 

そんな感じで、また次回。

 

バイバイ。

 

 

 

 

追伸:『御遣いと天子』とどっちを書こうか迷ったのは内緒だぜ。

 

 

 

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
78
7

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択