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真恋姫無双~風の行くまま雲は流れて~第72話

第72話です

東京暑い

2011-08-15 21:39:12 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:5935   閲覧ユーザー数:5351

はじめに

 

この作品はオリジナルキャラが主役の恋姫もどきな作品です

 

原作重視、歴史改変反対な方、ご注意ください。

 

白く

 

やがて…黒く

 

「はっ…はっ…はっ…はっ…」

 

乱れ行く呼吸が少年の意志から切り離されていく

 

その視線が先

 

溢れでて止まぬ血と波打つ胸

 

赤く染まるその中心

 

「お前ぇ…」

 

自身を貫く刃の切先を赤い水が伝い流れ、水滴となり落ちては地面に赤い斑点を作っていく

 

振り返らずとも解る

 

その姿を見ずとも解る

 

「あんただけは…絶対に…」

「はっ……はっ……」

 

少年の意志を離れた身体が糸の切れた人形のように崩れ落ちた

 

それは生まれて初めてのことではないか

 

こんなにも間近に地面が迫っている

 

地に付く寸前、咄嗟に出た筈の両手は彼を支えること無く

 

伝わるのは固く冷たい土の感触

 

もはや言うことも聞かぬ身体は無機質に空気を取り込んでは送り出していく

 

死のその瞬間まで

 

苦しいと身体が呻き

 

もういいと心が嘆いた

 

白く…やがて黒く

事の一抹を静観し続けた城壁の上

 

誰もが目の前の光景に行きを呑み見つめるその中心、陽炎のように揺らぐ一刀の姿に華琳は瞳を閉じて深く息を吐いた

 

「怒ってる?」

 

それまでの調子から一点、上目遣いに問いかけてくるその姿に思わず苦笑が漏れそうになる

 

「ああ」

「…そう」

「うそ…怒っていないさ」

 

それも嘘…というよりも

 

怒れるわけないじゃないか

 

これが惚れた弱みというものだろうか

 

普段に盲目なまでに華琳を『溺愛』する春蘭の暴走振りに呆れてしまうはずの自分からしても

 

今のはかなりのクリティカルですよ華琳さん

 

この場にかかわらず抱きしめたくなる程の衝動を何とか押さえつけている一刀に華琳の手が延び

 

「むぎっ…」

「当たり前でしょう?よもや私に楯突くつもりかしら?」

「いえ」

 

一刀の鼻をつまみしてやったリ顔の彼女に心の中でやられたと肩を落とす

 

「一応言っておくけど別に貴方を過小に見ているわけではないのよ」

 

先程に自分を止めた事だ

 

「…判ってる」

「あの子を…見捨てようとしたわけでもないわ」

 

それでも

 

「彼」が動いた時

 

安堵と共に譲った自分がいる

 

「…ああ」

 

桂花の悲痛な叫びにすら

 

「彼」は大丈夫なのだろうと楽観していた自分がいる

 

そしてそんな彼女に

 

嫉妬の眼差しを向けていた俺がいる

 

張口

 

官渡の戦いを経て曹操に下り、以後魏の将軍として各地を転戦し、やがて魏の将軍達にあってその中心たる存在の一人として数えられるまでになる

 

「三国志」と「三国志を模したもう一つのこの世界」を知る一刀の目からして「彼」の存在は一際に特異に映っていた

 

何故に「彼だけ」が「彼」のままなのか

 

そして

 

なんでアイツは桂花の

 

「今度は…止めないでくれよ」

 

何かを言わんと口を開いた彼女を遮り

 

「桂花の前に出る役目は譲ったんだ…」

 

だから

 

「桂花を連れ戻すのは俺の役目だ」

 

鞘から抜き放たれた刀身が眩い輝きを放ち、耳鳴りにも似た音と共に

 

一刀が消える

 

彼を知る誰もがざわめく中、一人城壁から乗り出し見つめる先

 

「二人」の前に

 

一刀が立っていた

 

 

なんだこれは

 

なんだ今のは

 

高覧は自身の目の前を通り過ぎる存在を前に自身が武器…麒麟を構えることも出来ずに呆気に取られていた

 

英心の死体に気を取られていた?

 

否…断じて否

 

一歩一歩と遠ざかる度に全身から吹き出る汗

 

震えの止まらぬ膝

 

体験したことのないと同時に有り得るはずが無いと言い切れる「眼の前の出来事」

 

故に

 

身体を駆けるこの焦燥とこの感情

 

恐怖という感情

 

そんな彼女には目もくれず歩き続ける

 

「二人」へと

 

「あまり…驚かないんだな」

「二度目だ…予測もしていた」

 

そう

 

彼の不意を突いた前回とは違う

 

一刀がそこに「現れて」目にしたのは油断なく弓を構える比呂の姿

 

そしてその後ろ

 

「彼」の袖を握りやはり怯えるかのような視線を向ける彼女

 

ふつふつと

 

こみ上げてくる怒り

 

「いい加減にしろよ『桂花』」

 

途端

 

またもや一刀の姿が消え

 

桂花がその目を大きく見開いた先、その先の城壁に一本の矢が突き刺さった

 

「ひろっ!?」

 

その声を無視するかのように比呂は桂花を抱き上げ自身の後へと入れ替わる

 

比呂の背中越しに見えたのは

光輝く刀を手に桂花を睨みつける一刀の姿

 

「あのなあ…」

「『真名』を交換した…それがどうした?」

 

その声が怒っているものであることが桂花には明らかで

 

「此処は戦場…そして貴様は敵だ」

 

 

その言葉に

桂花の耳の古傷がチクリと痛んだ

 

「その割に『桂花』に反応したじゃんかよ?」

「さあな…偶然だろう」

「…あっそ」

 

比呂を半眼で睨みつけ肩を竦めた後、刀を鞘に収める一刀に倣うように比呂もまた構えを解いた

 

「…で?」

「…え?」

 

それが自身に向けられたものだと即座に理解出来ずにいた桂花から気の抜けた声

 

「桂花は袁家に戻りたいわけ?」

 

ピクリと

 

彼女が震えた

 

言わずもがな一刀が怒っている理由

 

 

彼女の先の行動もそして今も

 

まるで背信行為のように映るのは間違いなく

 

もっとも

 

それだけではないことを桂花は知る由もない

 

「あ…あたしは」

 

不意にそれまで自身の右手が比呂の袖を握りしめている事に気づき

 

慌てて跳び退けば今度は比呂と目が合った

 

彼女がよく知る

 

彼のまっすぐな

 

いつだって自分を

 

いつだってあたしの

 

「あたしは…」

 

その目を見つめ返す事が出来ずに

 

視線を落とした

 

 

あとがき

 

此処までお読みいただきありがとうございます

 

ねこじゃらしです

 

盆休みも折り返しになり皆様如何お過ごしでしょうか?

 

全国もれなく猛暑&熱帯夜、くれぐれも熱中症にはお気をつけて水分補給をこまめに!

というわけで次回も主人公(笑)とヒロイン(爆笑)が大活躍!…するかどうかは解りませんがお付き合いいただければ幸いです

 

それでは次回の講釈で


 
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