No.259586

嘔吐リロゼイション

※ゲロを扱う作品です いつもの様に神社での宴会に参加して呑むんだけど、そのとき傍にいた妖夢のゲロを浴びた咲夜が「妖夢ちゃんのゲロってもしかしたら美味しい?」と疑問に思う、ゲロから始まる恋。 ※2011/2/19排水口で開催された東方ゲロ娘という企画に参加したときの作品になります

2011-08-04 23:48:54 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:10470   閲覧ユーザー数:10442

   『嘔吐リロゼイション』

 

 冬もそろそろ終わりに近づきつつある頃。博麗神社に集まって知人同士の宴会。

 居るのは神社の巫女、博麗霊夢と霧雨魔理沙、私十六夜咲夜に魂魄妖夢。

 持ち寄ったお酒を呑みあってる。

 愚痴をこぼし合ったり、酔った体で弾幕ごっこして馬鹿騒ぎ。

 大抵は真夜中まで呑んで、朝方倒れそうな体を引きずって家に帰る。

 今日もそんな感じで妖夢と呑み合っている。

 今は霊夢と魔理沙の弾幕ごっこを観ながらウイスキーを入れているところ。

 酷いときはお互い酔って動きまわるので、そのまま双方が倒れこむことも多い。

 倒れたとしても酔っているので、ゲラ笑いしながら起き上がって続けることもある。

 酔いの程度にもよるが、酷いときはそのまま寝ころがってゲロを吐いたりして弾幕ごっこどころではなくなるときもあった。今日は二人ともまだ呑み足りていない様子で、真っ直ぐ歩いて立っている。

 二人が距離を取ったところで私と妖夢で合図を出し、決闘開始。

 霊夢と魔理沙は普段通りにやり始めたが、お互い弾幕の密度が凄まじいものだった。

 二人とも酔っていて何かしらのリミッターが壊れているのだろう。

 妖夢はその様子を見て大笑いしながら酒をガンガン入れていく。

 妖夢もリミッターが外れているのか、被弾して落ちていった二人を見て笑い転げる始末。

 とはいえ私も思考がどうかしていて、隣に居る妖夢いや、妖夢ちゃんが凄く可愛いくって襲いたい気分になっている。お嬢様みたいに背が低くて、顔がまん丸でつぶらな目が綺麗で、ちっちゃい手と足が性欲を刺激してくれる。

 霊夢と魔理沙は弾幕ごっこに忙しいんだし、今妖夢ちゃんに襲いかかっても邪魔されることはないだろう。

 気がついたときには妖夢ちゃんの肩を撫でたり、スカート越しに太ももを触ったりと無意識にセクハラをしてしまっていた。

 酔いの激しい妖夢はそれを拒否しなかった。

 止めてったらぁと口では嫌がるものの、その場で寝転がったりするぐらい。逃げることはしなかった。

 ふざけているのを装って体を起こした。彼女も乗ってくれた。

 私のことを見つめている。口は笑っているから、本気じゃないのがわかった。

 でもそれで良い。本気だと気付かれてはいけないのだから。

 ゆっくりと顔を近づけていく。唇が触れ合う寸前の距離で止まり、彼女の目を見た。眠そうな顔をしている。

 きっと妖夢は意識がはっきりしていないに違いない。

 眠たいのだろう。やるなら今しかない。

 神社の上の方で大きな音がしている。まだ弾幕ごっこは続いている。今がチャンスだ。

「あ」

「え?」

「出そう」

「え?」

 次の瞬間、視界が潰れた。臭い。何というか、胃液の匂い。わかりやすく言うとすえた匂い。つまりゲロ。

 妖夢はゲロを吐いたのだ。顔を横にして再度吐こうとした。私は慌てて時間を止める。

 ひとまず頭を冷静にしようと、休憩した。

 私は妖夢の唇を奪おうとした。すると妖夢が吐いてしまった、ということ。

 そして今ゲロを顔に少し浴びたとこ。

 最悪な気分だ。いや、ある意味自業自得なのかもしれない。

 まあいい、彼女のゲロが納まるのを待てば良いだけだ。

 とりあえず自分の顔を洗おう。それから桶を用意し、彼女のゲロを処理してしまおう。

 私は自分の顔にかかった彼女のゲロを指で拭うと、何を思ったのか自分の口に運んだ。

 いや、私だって酔っていて正常な判断が出来ないんだ。

 ただ可愛い可愛い妖夢ちゃんのゲロを食べてみようと思ったのだ。

 感想を率直に述べると食えたものじゃなかった。こっちまで吐き気がしてきた。

 でもこれは普通の反応だと思う。

 私の意思として妖夢ちゃんのゲロを食べたくとも、体が追いついていないだけだ。

 神社の風呂場にある桶を拝借して、妖夢ちゃんの口元へ持ってきたところで時間停止解除。

 彼女は躊躇なくお腹の中のものを吐き出した。

 背中をさすってやる。少しは楽になるだろう。妖夢ちゃんの狭い背中がキュートですわ。

 落ち着いてきたであろうところで、洗面所まで引っ張って顔や口の中を綺麗にする様勧めた。

 彼女は呂律の回らない調子で「ありがとお」と感謝する。

 うがいをしたと思えば、洗面所にもたれかかって動かなくなった。

 私は寝ようとしていると思い、寝室の方へ運んでやった。もう彼女はいびきをかいている。顔が真っ赤。

 寝室とは、そのまんまでここ神社の寝室。

 普段は霊夢一人で寝ていると思うのだが、こうして集まったときは布団を敷いて皆同じ部屋で寝ることにしている。

 そういえば、と彼女の片割れである死んでる方を取りに宴会場へ戻った。

 まだ二人は弾幕ごっこをしていた。酒が入っているだろうに、よく体力が持つものだと関心する。

 部屋の片隅でうな垂れている半霊も彼女の側まで運んでやろう。

 確かめてみたところ、半霊の方は無味無臭の様であった。また今度じっくり弄ってみたいものだ。

 寝室。私と妖夢ちゃんの二人だけ。

 妖夢ちゃんは寝潰れている。霊夢と魔理沙はまだ弾幕ごっこ。私は暇。

 何をしよう? 私はさっき何をしようとしていた?

 そうだ、続きをしよう。上から覆いかぶさった。

 抵抗されないだろうから、つまらないかもしれない。それでもやってみたい。

 酒が理性を吹き飛ばした瞬間。

 まずは胸の辺りをまさぐる。ベストの中に手をつっこみ、ブラウス越しに妖夢ちゃんの乳首を刺激する。

 さらしを巻いているようだ。ブラウスを破ってしまいたい衝動に駆られた。

 さらしも取っ払い、妖夢ちゃんの裸体を嘗め回したい。

 でもそれではつまらない。出来ることなら着衣プレイが望ましい。

 ブラウスの匂いを嗅ぐ。石鹸の匂い。汗の匂い。香水なんてつけていないのだろう。

 それとも、そんなものの使用が許されていないのか。

 彼女は私と同様誰かの下で働く者だから、お洒落に関して制約を受けているのかもしれない。

 そんなことはお構いなしに腋の匂いも嗅ぐ。汗の篭もった匂い。

 今度は首筋。匂いを嗅ぐよりも早く、舐めて味を確かめてみたかった。

 美味しい。幼女の肌には特別なエキスが含まれているに違いない。

 顎も忘れずに舐める。ひたすら舐める。さっきのゲロの臭みが口から漂ってくる。

 ゲロそのものから直接臭いがやってくるわけではないので、抵抗は無かった。

 むしろこれでゲロの臭いに慣らせば良いと考えた。

 唇を奪うのは難しいと思った。眠っているわけだから、呼吸をしている。

 その呼吸を妨げるようなキスは出来ない。ならばどうすれば良いのか。

 唇を舐めるだけに留めるしかないのだ。

 口付けをすれば一時的ではあるが呼吸が不可能になる。

 叩いても起きないだろうが、息が苦しいとなると大慌てで起きる恐れがあると考えている。

 だから唇の上と下を舌で味わうだけで我慢するしかない。

 時間をとめれば当然何でもやりたい放題だし、それこそ下着を脱がせて彼女の割れ目を弄ることだって出来るだろう。

 でも時間を止めての性的接触は反応が得られないから寂しいのだ。

 現に反応は無いに等しいが、それでも息もしない者を相手にするよりかはマシ。

 彼女の小さなお口の奥へ私の舌を侵入させて口内を犯したいという要求を抑えこむ。

 今の私が本気を出せば男の人の陰茎を生やして妖夢ちゃんに子種を植え付けることすら出来てしまうのでは、と思った。

 それぐらい今の私は興奮している。もう今ここでどんな手段を使ってでもして妖夢ちゃんの処女を奪わないと気が済まないぐらい。

 ゲロ臭い口臭を堪能しつつ妖夢ちゃんのスカート中に手を伸ばした。かなり裾の長いドロワーズを着用している様子。

 とりあえずスカートを捲って臭いを嗅いでみると、なんとまあおしっこ臭いではないか。

 下着が小便臭くなってしまうのは仕方あるまい。何より、幻想郷尿愛好会会長の私がこれを好まないはずがない。

 折角なので幻想郷吐瀉物愛好会も開いてみることを検討しても良いだろう。

 そっと妖夢ちゃんの乳臭いドロワーズをずり降ろす。濃厚な小便の香りがさらに広がった。

 もう我慢の限界だ。私の舌を妖夢ちゃんの秘所にねじこもう。もう妖夢ちゃんを起こしてしまっても構わない。

 既成事実を作ってしまえばこっちの勝ち。妖夢ちゃんとの素晴らしい毎日のために過ちを犯そう。

 ……ん? お腹、いや胸の調子がおかしい。何か詰っている様な、何か嫌な予感がする。

 あ、と声を漏らしたくなったときには遅かった。私は妖夢ちゃんの股間に向かってゲロを吐いた。

 慌てて時間を止めたので、辛うじてゲロはかからなかった。

 問題は私自身だ。自分の手にゲロをぶちまけたが、当然それでは容量が足りなかった。

 洗面所と寝室を何度も往復して自分のゲロを片付けたが、終わった頃には興奮が冷めてしまっていた。

 ましてや気がつかないうちに酔いが来ていたみたいで、自分が真っ直ぐ立っているのかどうか判断がつかなくなっている。

 今私は時間を止めていられているのか? 意識が朦朧としていてわからない。

 だが妖夢ちゃんの服装だけは正しておかないと不味い。

 弾幕ごっこの音がいつの間にか聞こえてこなくなっている。きっと二人は終わったのだろう。

 そうなると二人はヘトヘトになっているだろうから、間違いなくこの部屋に来て眠りに来るに違いない。

 もし妖夢ちゃんを襲っているとこを見られるとさすがに良くない。実に良くない。

 気持ち悪いなどと思われることはないだろうが、妖夢ちゃんとの愛の営みを誰かに見られたくなかった。

 きちんとドロワを履かせられただろうか。ゲロの処理はきちんと出来ただろうか。

 もう私の体は一分も持たないだろう。眠気と疲労感で意識がハッキリとしない。

 せめて私も酔いで倒れた振りを装う。

 妖夢ちゃんの隣にくっついて、妖夢ちゃんの匂いとゲロの臭いが混ざった香りに包まれて意識を沈めた。

 

   ※ ※ ※

 

 あれから二週間。

 あの後気がついたときには、寝室に誰も居なかった。

 窓を開けてみれば、太陽が真上に来ていたので昼まで寝ていたことに気付かされた。

 神社の中を探してみると霊夢しか居らず。「もう皆帰ったわよ」と言われて想像を絶する悲しみが私を襲ったのだった。

 妖夢ちゃんとの蜜月を最後までしないまま妖夢ちゃんが帰ってしまうとは。

 あの後紅魔館に帰って二日は寝込んだ。ショックの余り仕事が全く出来なかったのだ。

 今度妖夢ちゃんとお酒を呑む機会があったら、今度こそ妖夢ちゃんのゲロを食べられるよう準備をしておかなければいけない。

 

 そこで私は良い案を思いついた。何と言うことはない、二人っきりで呑みたいと誘うのだ。

 少しずつ膨れていく妖夢ちゃんへの好きという気持ちを隠して持ちかければ怪しまれまい。

 練習しておくと「ねぇ……その、今度……二人っきりで……どう?」という感じ。

 わざと恥ずかしがったり、勿体ぶった言い方をするのだ。

 あわよくば彼女が私に興味を持ってくれれば良いのだが。

 折角なので抱き枕でも用意して、妖夢ちゃんを襲ったときの練習でもしようか。

 時間をとめてやれば誰かに見られることもない。

 おっとそれよりも練習、というか慣れるべきことがあるじゃないか。

 それはゲロの臭いだ。味わうために臭いを克服せねばならない。

 愛くるしい妖夢ちゃんの体から出てきたと思えば臭いもきっと何とかなる。

 いっそ食糞が出来るぐらいに自分を調教しておこうか。いや、それはまたの機会にしよう。

 

 嘔吐、という行為について地下の図書館で調べてみると「催吐薬」というものの存在を知った。

 名前の通り吐くという行為を誘発する薬。私はこれを使うしかないと思い、パチュリー様にお願いして作ってもらった。

 竹林の永遠亭に居る薬師に頼むのが確実だろうけど、用途が用途なだけに怪しまれる可能性がある。

 パチュリー様に作ってもらえば滅多に外に出ないだろうし、この紅魔館の中だけで薬の調合から保管まで出来る。

 早速お願いしてみたところ、快く引き受けてくださった。

 「何に使うの?」と訊かれたので「自分の胃液を見てみたくて」と誤魔化した。

 

 次にやるべきことは密封出来る容器の用意だ。

 ただの桶では蓋をすることが出来ないので、ゲロの風味が逃げるし空気中の埃が混入する恐れがある。

 これは河童が最近開発した特殊な樹脂で出来た蓋をすることで解決した。

 後は当日氷を調達するだけだ。そう、冷蔵庫に入れておくための氷。

 氷精みたいなのが紅魔館に居れば楽で良いのだが、そうはいかないので里の氷屋から買うことにしよう。

 冷蔵庫を必要とする訳は、吐瀉物というものが日持ちしないからだ。

 現在自分のゲロで必死に吐瀉物を慣らしているのだが、桶一杯分のゲロを食いきれる自信がつきそうにないのだ。

 だから残してしまっても保存の出来る設備が必要なのだ。

 保存したとしても、おそらく半日が限度だと思うが。

 用意するものはこれぐらいで良いだろう。パチュリー様が薬を完成させてくだされば実行するつもりだ。

 待っててね妖夢ちゃんのゲロ。私が味わって食べてあげるから。

 

   ※ ※ ※

 

 薬は完成した。

 自分以外のゲロで慣らすためと薬の効果を試すために美鈴やお嬢様のゲロを狙おうかと思ったことがあるのだが、食事に催吐薬を混ぜてみたところ何の反応も得られなかった。

 人間用の薬と妖怪用の薬とでは調合を変える必要がるということだろう。

 仕方なく自分の食事に混ぜてみたのだが、効果の程は理想的な結果になった。これなら大丈夫だろう。

 ただ、半身半霊の者に対してどうなるかは不明。失敗したら、その旨を報告してまた薬の調合をお願いしよう。

 ゲロそのものへの耐性も中々ついてきたらしく、自分のゲロなら全部胃の中へ戻すことが出来るぐらいになった。

 今日白玉楼を訪れて妖夢ちゃんを誘ってみるつもりである。お嬢様に外出の許可を頂き、すぐさま飛び立った。

 

 冥界に着くと妖夢ちゃんはすぐに見つかった。

 というか彼女はここの警備も兼ねているだろうから、どちらかといえばこちらを見つけてくれると言った方が正しいか。

「こんにちは」

「あら咲夜、こんにちは。どうしたの? 今忙しいんだけど」

「大丈夫。時間は取らないから」

「それなら良いけど」

 今日の妖夢ちゃんはこれまた可愛い格好をしている。

 ロングスカートの裾付近から見える、紺色の靴下が素朴で可愛い。

 良く見ればスカート裾のフリルが宴会の時と違う柄になっているではないか。

 でもスカート自体は普段と同じに見える。もしかするとパニエを変えているのかもしれない。

 わざわざスカートを膨らませるものを、その日の気分で変えているとは何てお洒落なんだ。

 少し舐めてみたいかもしれない。最悪匂いをかぐだけでも構わない。

 かといって時間を止めるのは野暮というもの。とても寂しいものだ。

 おそらく私を誘惑するために変えたのだろう。そうでなければそう滅多に変える様なものじゃない。

 もうこれは誘えば確実に来てくれるだろう。寂しくても良い。私は一度時間を止めることにした。

 深呼吸して気分を落ち着かせないといけない。ひっひっふー、ひっひっふー。

 やっぱり我慢できない。妖夢ちゃんの頬を撫でさせてもらおう。さすりさすり。良いお肌。スベスベ。

 ついでに髪の毛の匂いもチェック。石鹸の安っぽい匂いが逆に性的な興奮を連想させてくれる。

 胸のリボンはサテン系の様子。

 ブラウスは綿九五十パーセント、ポリエステル五十パーセントという感じ。

 アイロンの行き届いた、清潔感漂う清楚な印象を受けた。どこぞのお嬢様と言われても納得出来る。

 いっそ私だけのお嬢様になってくれないだろうか。その日の献立は全て私が決めるのだ。

 献立と言えば、ゲロはつまり何を食ったかで味が変わるのではなかろうか。

 食事も管理出来れば好みのゲロの味に調整することも出来るかもしれない。

 おっと、休憩はこの程度にしておこう。この先のことはまた考えることにする。 

 時間進行。妖夢ちゃんを誘うところだったはず。

 恥ずかしそうに俯き、両手でエプロンにしがみ付いた。

「ねぇ……その、今度……二人っきりで……どう?」

「え?」

「その、ほら……」

「何?」

「んもう、いじわる」

「え? え?」

 想像以上に鈍感。いや、きっと焦らされているんだ。

 言わせようとわからない振りをしているんだ。

「だから……二人きりで、呑まない?」

「ああ、そういうこと。幽々子様がおでかけを許してくれたら良いわよ」

「本当!? やった!」

「随分と嬉しそうなのね」

「だ、だって……妖夢と二人きりで……ウフフ」

「?」

「良いの、良いの。妖夢ちゃんウフフ」

「ちゃ、ちゃんは止めてよ」

「あらあら、ウフフ」

「いつ?」

「出来ることなら、今夜にでも紅魔館に来てくれれば」

「う~ん、たぶん大丈夫。幽々子様が良いと仰ってくれればね」

「残念だけど迎えには行けそうにないかもしれないけど」

「別にそこまでしなくとも、行けるからいいわよ」

 妖夢ちゃんの表情は至って普通。特別嬉しそうな表情をしたりはしない。

 とりあえずこれであの亡霊が愛しい妖夢ちゃんに外出許可を与えさせすれば王手をしたも同然。

「それじゃあ、私は用意して待っておくわ」

「ええ、また夜にね」

 里の氷屋から氷を買っておき、酒とおつまみを自分の部屋に用意しておこう。催吐薬も忘れずに。

 もうすぐご馳走が頂ける様になるんだ。

 待っててね、妖夢ちゃんのゲロ。たぁ~んと召し上がるから。

 

 里での用事を済ませ、紅魔館に戻ってからは家事を適当にこなして時間を潰す。

 お嬢様に今夜は暇を頂きたいと一方的に申し付けた。

 許してもらえなくとも今日は妖夢ちゃんとちゅっちゅ、いやいや妖夢ちゃんのゲロを狙う日と決めているのだから。

 フランお嬢様は平穏。パチュリー様はとある魔法の研究中。

 美鈴はいつも通り。邪魔が入る要素は全て排除した。

 もうすぐ夕食の時間だが、参加せずに妖夢ちゃんの到着を待つ。

 もう何度も脳内での練習を繰り返した。後は上手くやるだけ。

 

 夜。彼女は夕食中にやってきた。門番の美鈴も当然食事中。

 私は気配を察知すると時間を止めて妖夢ちゃんの体を抱えて自室に連れ込んだ。

 小一時間ほど妖夢ちゃんの体のあちこちをクンカクンカしてから時間を動かす。

 わっ、と彼女は感嘆を漏らした。

 このときのためにと、部屋にテーブルを持ってきて料理を用意しておいたのだ。

「こんばんわ、妖夢」

「え、ええ……この料理は?」

「あなたと一緒にお酒を楽しもうと大量のおつまみを用意しておいたわ」

「そんな、ここまでしなくても……」

「だって、あなたと二人っきり何ですもの。ウフフ」

「でもまあ、豪華な食事を用意してくれてありがとう。今日って私誕生日でも何でもない日なのにこんなことしてもらって、悪いわ」

「妖夢ちゃんが……妖夢が喜んでくれさえすれば良いの」

「じゃとりあえず、乾杯しましょうよ」

 妖夢ちゃんと二人っきり。妖夢ちゃんが私の部屋の中の空気を吸っている。

 私の部屋の空気が妖夢ちゃんの肺胞というフィルターを通り、この部屋に妖夢ちゃんの吐いた息で満たされていく。微量ながら含まれる妖夢ちゃんの香りを楽しみたいところだ。だが今はまだ我慢。

 妖夢ちゃんと楽しく食事をしてかつ、妖夢ちゃんにゲロを吐いてもらわねば。

「ほらほら、早く座って」

「ええ」

 ああ、妖夢ちゃんの小さなお尻がスカートとドロワーズ越しに椅子とくっついた。

 後で椅子は舐めよう。

 妖夢ちゃんが愛用している刀は壁に立てかけられた。

 あの刀はさすがにコレクションするわけにはいかない。

「それじゃあ、頂くわね」

「ええ。遠慮せずバクバクいっちゃって」

 まずは穣子印の芋焼酎を注いであげ、二人で乾杯。

 空きっ腹に強いお酒を入れると、あっという間に酔いが回ってきた。

 妖夢ちゃんがお箸を手に取る。かぼちゃの天麩羅を取って口に運んだ。

 妖夢ちゃんの手がついて、かつ妖夢ちゃんの唾液がついたそのお箸はきっと家宝になるだろう。

 十六夜は親からもらった姓ではないが、妖夢ちゃんとの子供を作れば家宝として代々引き継がせることが可能だ。女性同士でどうやって子供を作るのかはわからないが、困ったときのパチュリー様頼みで陰茎ぐらい生やせるだろう。

「うんうん、いけるいける」

「妖夢ちゃんウフフ」

「もー、そのちゃん付け止めてったらー」

 妖夢ちゃんの顔が赤い。いつも神社で宴会するときはアルコール度の低い、安物の酒なのだが今日は特別。

 金に物を言わせて美味しそうな酒を躊躇なく取り寄せてきた。

 妖夢ちゃんも早速回ってきているのではないだろうか。その調子でどんどん酔い潰れていって欲しいものだ。

「やばっ、何このお酒すごい美味しい! これ高かったんじゃないの?」

「全然よ、余裕余裕。私とあなたで楽しむために買ってきたんだから」

「くぅ~! 疲れた体に酒が利く! 咲夜、もっと頂戴!」

「ウフフ、いくらでも注いであげるからねウフフ」

 私の考えも知らずにじゃんじゃん呑んでくれる。

 肝心の催吐薬はまだ飲ませない。

 酔い潰れた後「体に悪いわよ」と言って水を飲ませようと企んでいるのだが、そのとき混入するつもりだ。

「うちのお嬢様まじありえないんだけど。あのクソババアが寒いってのに扇子で扇いで欲しいとか言ってきてさー。腕疲れて最悪だったし」

「あらあら、そんなことがあったのね」

 思った以上に酔いが早いらしい。妖夢ちゃんがここまで毒舌になるのは初めて見る。

「ところでさ?」

「うん?」

 芋焼酎が無くなったので、今度は神奈子印の米焼酎。

 妖夢ちゃんは口と手が止まらなくなっている。

 つまみを食っては酒を呑み、愚痴や自慢をひっきりなしに垂れ流す。

 今は鮎の塩焼きをほぐしながら毒舌タイム。

「っていうかさ、霊夢の服変じゃない? 袖千切ってるとか意味わからないし」

 キツい酒を用意したのは不味かったのかもしれない。

 もっとイチャイチャラブラブなトークを期待していたのに、これではオッサンオバサンのトーク丸出し。

「慧音のスカートなんか穴だらけじゃない!」

 二本目の酒はあっという間になくなった。

 妖夢ちゃんは側に置いていた雛印のにごり酒を勝手に開けてガブガブ呑み始める。

 それにしても、よくもまあ次々と出てくるものだ。

 この調子だと私の悪口も吐かれるんじゃないかと心配になる。

 でもそれはそれで、罵ってとお願いするチャンスだと思った。

「あんれー? 咲夜全然呑んでないじゃない!」

「そんなことないわよ。妖夢ちゃん可愛い可愛いウフフ」

「ところでさー? その妖夢ちゃんって何よー? 私のこと子供扱いしないでよね!」

 どんっ! とテーブルに握りこぶしを叩き付けた。

 もしかして、これは叱ってくれるチャンスなのではなかろうか?

「まあ、あなたがババアになる頃でもお肌ツヤツヤの女の子で居られている体だろうから仕方ないと思うけどさ」

「半分死んでるから寿命が長いんだっけ?」

「そーそー。半分死んでるって何だろうね! 私なんか気がついたらおじいちゃん子で両親知らないんだよねー!」

「妖夢ちゃん酔ってる?」

「酔ってない!」

 随分と重たそうな話を軽々しくぶっちゃけてくれたものだ。妖夢ちゃんの過去は興味津々だけど。

「なんで妖夢ちゃんなの? というかさ、なんで今日二人きりなの? 私のこと好きなの?」

「うん」

「え? ちょっと待ってよ、本当?」

「本当よ」

「え? 待ってよ! 私聞いてない!」

「妖夢ちゃんのことが好きだから、こうして二人っきりで呑みましょうよって誘ったのよ?」

「……」

「まあ妖夢ちゃんは鈍感そうだから、気付かなかったんじゃないかなとは思ったけど」

「同性から好きって言われるとか想定外なんだけど! でも咲夜となら良いかなー」

「え? 良いって?」

「ちゅっちゅ」

「え?」

「ちゅっちゅ」

「ちゅっちゅ?」

「ちゅっちゅ」

「ちゅっちゅ!」

 相当酔っているに違いない。普段の妖夢ちゃんからは予想もつかないぐらい喋り方が変わっているのだから。

 だがそろそろゲロを吐かせるのに持っていっても良い頃だろう。

「そういえばこの前神社で宴会したとき、ドサクサに紛れてキスしようとしたでしょう」

「ええ」

「何なら……今から続きをする?」

 妖夢ちゃんがブラウスのボタンを一つ外した。胸元をこちらに見せ付けてきた。

 まさか妖夢ちゃんがこんなビッチだとは思わなかった。かと思うと笑い出して、ボタンを締め直した。

「なーんちゃって。期待した?」

「ウフフ」

「咲夜は綺麗だし、格好良い人だと思う。将来男にモテるんだろうなーって凄く思う。同性の私から見ても、時々横顔とかにドキっとする」

「妖夢ちゃん!」

「でもやっぱり駄目。咲夜には悪いけど、同性同士って何か気持ち悪い」

「妖夢ちゃん……」

「折角ご馳走まで用意してくれて、色々愚痴聞いてもらって本当に自分勝手させてもらってありがたいけどさ……そういうの、まだわからない」

「……」

 妖夢ちゃんに振られた。何が同性は気持ち悪いだ。

 酔っているせいか、妖夢ちゃんを押し倒してレイプしてやろうかという考えが浮かんだ。

 ああ、こういうことまでは考えていなかったな。陰茎を生やす薬も作ってもらっておくんだった。

 もういっそナイフの柄でもねじこんで、処女だけでも奪ってやろうか。

 さすがにそれは可愛そうかもしれない。

 少し後ろめたい気持ちが生まれたせいか、酔いが醒めてきてしまった。

 でも酔いが醒めたお陰で頭が冷静になってきた。今こそ決行すべきときだろう。

「お水持ってくるわね」

「えー? もうお酒ないの?」

「二升近く呑んだじゃないの。それ以上は危険だわ」

「……」

「本当はこの後一緒に寝よう、と繋げるつもりだったわ。でもそういうわけにはいかなくなった。あなたを適当な空き部屋のベッドで寝かせることにするわ」

「なんか、本当にごめんなさいね」

「じゃあ、ちゅっちゅしたら許してあげる」

「それだけは駄目」

「ああ、やっぱり」

 時間を止めて台所まで行く。足が言うことを聞いてくれず、何度もこけてきた。

 まだまだ頭がハッキリしていない。ここでしくじってはいけないのに。

 コップに水を入れ、白い粉薬を投入。棒でかき混ぜると粉は見えなくなった。

 念のため私は水を飲み、トイレで用を足しておく。

 そういえば酒を呑むとおしっこがしたくなると言う、ということを思い出す。

 妖夢ちゃんはおしっこしなくて平気なのだろうか?

 折角だから妖夢ちゃんのおしっこも集めておいた方が良いのではなかろうか。

 妖夢ちゃんのゲロに妖夢ちゃんのおしっこを混ぜれば、それはそれで美味しく頂けるのではないだろうか。

 いや、これはまたの機会にしておこう。体が言うことを聞いてくれないのだ、ゲロだけにしておこう。

 部屋に戻り、止めていた時間を動かした。

「ほら妖夢ちゃん、お水飲んで」

「あ、ありがとう」

「妖夢ちゃんウフフ」

「?」

 何も知らない妖夢ちゃんがとうとう薬を飲んでくれた。

 パチュリー様にお願いして効き目は即効性になっている。

 すぐに催すだろうが、本人は酒のせいで吐いてしまうとしか思わない。

「あ」

「ん?」

「吐くかも」

 ほらきた。さあ吐いて。一気に吐いて。いくらでも吐いて。桶の用意は出来ているから。

 妖夢ちゃんが口に手をやったと同時に私は時間を停止し、桶を取り出した。

 時間進行。桶を認識したと思われる妖夢ちゃんは手をどけて口から胃の中の物を吐き出し始める。

 私が苦労して用意した肴の数々だったものを盛大に戻している。

 その調子でどんどん吐いてね妖夢ちゃん。

「うっ、んぐっ!」

「妖夢ちゃんウフフ」

 びちゃびちゃびちゃ、と不快そうな音を立てて溜まっていく吐瀉物。

 どさくさに紛れて妖夢ちゃんの背中を擦ってやる。狭い背中がとってもキュートですわ。

 ベストの中に手をつっこみ、ブラウス越しで妖夢ちゃんの背骨を触りたい衝動を我慢してゲロが溜まっていく様子を観察。

 とはいえ少女一人の胃の容量なんてたがか知れている。妖夢ちゃんの嘔吐はすぐに止まった。

 暫く待ってみてこれ以上吐きそうにないことを確認すると時間を止め、樹脂性の蓋をして冷蔵庫へ。

 新しい桶を用意し、大きなコップに水を入れて時間を動かした。

 吐いた後は口の中が気持ち悪くなるものだから、うがいをしたくなるはず。

 この桶はうがいした後の水を保管するためのものなのだ。

 これはついさっき思いついて、急遽用意した追加の桶だ。だから蓋は持っていない。

 あくまで口をゆすいだ液体だから、ゲロの風味はかなり薄いので蓋をする意味がないと思われる。

「ぐちゅぐちゅぐちゅ……ぺっ」

「妖夢ちゃんウフフ」

「はぁはぁ。おえぇ」

「気が済むまで吐いてね妖夢ちゃん」

「ぜぇ、ぜぇ……呑みすぎたのかなあ」

 こっそり頭も撫でさせてもらう。妖夢ちゃんの髪の毛はスベスベで、一束食べちゃいたいぐらい綺麗。

「じゃあ妖夢ちゃん、他所の部屋行って寝る?」

「うん……」

 どうせなら一緒に寝て欲しいと言いたいが、私は彼女の意思を尊重したい。

 近くで空いている部屋を見つけたので、豪華な飾りのついたドアを開けて広い部屋に妖夢ちゃんを運んだ。刀も忘れずに。

「また桶持ってきておいた方が良い?」

「ううん、もう吐き気は大丈夫……頭は痛いけど」

 そういえば催吐薬はその名の通り薬だ。

 もしかしたらさっき吐いたときに出てしまったのかもしれない。

 今吐き気が収まっているのはそのせいだと言いたいのだ。

 だが念のため枕元に新しい桶を置いておいた。これは私が楽しむために置いたのではない。

 薬ではなく、酔いから来る吐き気を想って用意したのだ。どうせ蓋はもうない。

 ゲロを食べることも考慮して、自分の食事量と酒をかなり制限した。

 だが彼女のゲロを半分と、うがいした後の液体を飲めばお腹一杯で動けなくなるだろう。

 妖夢ちゃんはすぐに寝てしまったらしい。すーすー、と静かな寝息が聞こえてくる。

 寝息を吸い込んで妖夢ちゃんの吐息を楽しんだら、妖夢ちゃんと明日までお別れ。

 これから始まる私のディナータイム。妖夢ちゃんのゲロウフフ。

 

 食堂には誰も居なかった。もう皆夕食を済ませたのだろう。

 あとはお嬢様から緊急の呼び出しが入らないことを祈るばかり。

 さあ妖夢ちゃんのゲロとご対面。さっき冷やしたばかりか、まだ熱もほんのり残っている。

 今なら丁度良いだろう。スプーンを使って頂く。

 胃液や唾液、お酒が多量に含まれているせいでシチューみたいな感じになっている。

 ああ、妖夢ちゃんのゲロだ。待ちに待った妖夢ちゃんのゲロ。さあ挑戦してみよう。

 樹脂性の蓋を開けた。匂う。すえた匂い。芳醇な香り。

 スプーンをつっこんだ。粘度は低い。一口分すくう。ぽたぽたとスプーンの端からゲロが零れた。

 抑えるのに精一杯な興奮を胸に未知なる珍味を口に運ぶ。一口目は不味かった。

 それどころか強烈な吐き気を催した。時間を止めてトイレに駆け込んだ。

 甘かった。自分のゲロで慣らしたはずなのに、初めて口にする他人のゲロがここまで不味いとは。

 前神社で少しだけ口にしたときと同様、食えたものじゃないと思った。

 私は時間を止めたままゲロの桶を抱え、妖夢ちゃんを寝かせた部屋に向かう。

 本人を眺めながら食えば良いじゃないかという結論に至ったのだ。

 ゲロ初心者の私には、こういう初歩的なところからステップアップしなければいけないのだろう。

 妖夢ちゃんウフフ。

 でもゲロの匂いが妖夢ちゃんへ移るのを防ぐため、妖夢ちゃんから離れた所で食事を再開した。

 美味しい! 近くに愛しい彼女が居り、その彼女のゲロだと再認識すればいくらでも食べられる!

 これは大発見だ。彼女のゲロだという強いイメージだけでは足りないのだ。

 彼女そのものを観察しながら食事をして、脳に良い刺激を送ってやれば良いのだ。

 何という新事実。新発見。

 今度論文に纏め、里で文学雑誌を発行している出版社に持ち込んでみても良いと思う。

 でもこれを発表すれば皆が真似するかもしれない。

 妖夢ちゃんをターゲットとする者も現れるかもしれない。例えば冥界の亡霊嬢。

 あいつは妖夢ちゃんの主人だから、妖夢ちゃんと同じ屋根の下で生活している。

 その幽々子が妖夢ちゃんのゲロを食べていない、ということは証明できないはず。

 何と言うことだ、ここに来て謎が浮上してきた。

 あの亡霊め、まさか私の妖夢ちゃんに手を出していないだろうな。

 いけない、いけない。冷静になろう。妖夢ちゃんのゲロを食べて落ち着くんだ。

 私の部屋に戻って妖夢ちゃんのゲロジュースを取りに行った。

 妖夢ちゃんが吐いた後にした、うがい後の液体のことである。

 お茶代わりにこのジュースを飲み、吐瀉物を主食として頂く。ひたすらかきこむ。美味い。

 混ざった胃酸で口や喉が痛むが、スパイスだと思えば大丈夫だ。

 元々噛み砕かれたものだから消化にも良いだろうし、流動食として赤ん坊に与えても問題ないと思う。

 妖夢ちゃんと私の子供が出来たら、そうしても良いんじゃなかろうか。

 赤ん坊が他人の胃液の混じったものが食べて体を壊さないか心配ではあるが。

 もうすぐ無くなりそうというところでお腹が一杯になってきた。残りは明日の朝食にしよう。

 ゲロを食べたので口臭が酷いことになっていると思われるので、歯磨きとうがいは念入りに。

 お嬢様の緊急のお呼び出しが運良くないまま、就寝が近づいてきた。だが寝るには惜しい気がする。

 まだ何かしたい。何か楽しいことをしたい。じゃあ何をしよう? 妖夢ちゃんレイプ以外ないではないか。

 いやいや咲夜、ここはぐっと堪えるところ。

 私は確かに振られたが、これから先妖夢ちゃんの考えが変わって好きになってくれるかもしれない。

 そのとき合法的にセックスすれば良いじゃないか。やはりレイプは良くない。

 私は彼女を愛している。愛しているが故に妖夢ちゃんのゲロだって美味しく頂けた。

 そんな私が妖夢ちゃんをレイプして、彼女の心に深い傷を負わせてしまってはいけない。

 彼女を愛しているのに、私が彼女を壊そうとするのは何かを間違っている。

 もう寝よう。自分の部屋に戻った。おやすみ妖夢ちゃん、また明日。

 

   ※ ※ ※

 

 朝。身支度を済ませたら妖夢ちゃんを寝かせた部屋へ急ぐ。

 朝食として残った妖夢ちゃんのゲロを食べきった。うがい等も忘れずに済ませた。

 趣味の良さそうな飾りのついたドアノブを握って妖夢ちゃんの寝ている部屋へ飛び込むと、そこには誰も居なかった。おかしい。私の妖夢ちゃんが消えている。でも刀は置いてある。

 彼女が刀を忘れてここを出て行くとは考えにくい。

「咲夜」

 後ろから声がかけられた。顔色の悪そうな妖夢ちゃんが後ろに居たのだ。

「おやよう、妖夢。どこに居たの?」

「え、トイレだけど」

「え?」

「またちょっと吐いてたのよ。気分悪いから、お昼頃まで寝かせてくれない? 気分良くなったら帰るから」

「ちょっと待ってよ」

「あ……迷惑かな」

「何で私の許可なしに吐いてるわけ?」

「は?」

 何を言っているの? トイレで吐いた?

 しまった、これは油断していた。目覚めに吐いたりすることを考えていなかった。

 想定できたことだというのに、全く意識していなかった。

 うがいをしにトイレの洗面所へ行ったときには誰も居なかった様に思ったのだが、見落としていたのか?

 そもそも吐いている妖夢ちゃんが居れば臭いや音で気付けると思っていた。私もまだまだということか。

「吐くのなら、私に言ってよ!」

「意味わからないんだけど……もしかしてトイレで吐くのマズかったの?」

 そういえば次のゲロをどうやって入手すべきか考えていなかったな。

「妖夢ちゃんのゲロウフフ」

「はぁ?」

 いっそ妖夢ちゃんのお腹を殴って吐かせてみようか。

 里の本屋でみかけた漫画にそんな絵が描かれていたのを思い出す。

「何言ってるのよあなた」

 妖夢ちゃんが何か言ってるけど、今考え事をしているので声をかけないで欲しい。

 ちょっと待って、今何と言った?

「気持ち悪い」

 私? 私は妖夢ちゃん一筋のマジカル☆咲夜ちゃんスターだけど?

 いやいや、今はそんなことどうでも良いのだ。

 今優先すべきことは妖夢ちゃんのゲロをいかにして確保することだ。

 え? 妖夢ちゃんにとって私って気持ち悪いの?

「死ね」

 妖夢ちゃんが部屋を飛び出した。何で? もしかして私の思考を覚れるとでもいうの?

 それとも一人言をぶつぶつ呟いてしまっていたのか?

 何はともあれ妖夢ちゃんを捕まえなければいけない。私のお嫁さんなのに。逃げられてたまるものですか。

 だが場所が悪い。紅魔館の中など私の体の中も同然。先回りすることだって可能だ。

「咲夜!」

 妖夢ちゃんの声じゃなかった。ならどうでもいい。今は妖夢ちゃんを追いかけるのに必死なのだ。

「咲夜ー!」

 おおっと、これはお嬢様の声だった。

 時間を止めて声のした方へ駆けていくと、先ほど妖夢ちゃんが居た部屋の前に居るではないか。

 随分とご立腹な様子。時間を動かして跪いた。

「昨晩私の部屋に誰を泊めていた?」

「え?」

「昨晩ここで私のベッドに半死人を寝かせたのは誰だと訊いてるのよ!」

 そういえば妖夢ちゃんを寝かせた部屋は豪華な家具や美術品を飾っていた様な気がする。

 そうか、あれはお嬢様の部屋だったのだ。きっと酔っていたせいで客室と勘違いしたのだろう。

「主人の部屋に客を寝かせたの!?」

「Yes! Yes! Yes!」

「お前の様なメイドが居るか! 朝食の後永遠亭へ遊びに行き、一晩中向こうで過ごすつもりだったから良いものを……」

「それだけですか? 私今妖夢ちゃんを追いかけるのに忙しいので、失礼します」

「ちょ、ちょっと待ちなさい!」

 待って欲しいのは妖夢ちゃんだ。

 私の完全レーダーと瀟洒センサーから妖夢ちゃんの位置を割り出した結果、妖夢ちゃんはもう玄関付近に近づいていることがわかった。

 すぐさま時間を止める。プライドを捨てて時間を止めれば私から逃げられるわけがない。

 だが上手く走ることができない。集中力も持ちそうにない。昨日の酒のせいだろうか。

 玄関に辿り着く前に一度能力の使用を中断しないと、疲労で倒れそうだ。

 私は仕方なく時間停止を解除。門番の美鈴が彼女を捕まえてくれることを祈り、足を引きずって玄関へ。

「妖夢ちゃん!」

 玄関の扉が開いていた。体力を振り絞って外へ飛び出す。

 なんと妖夢ちゃんと幽々子の姿が目に飛び込んだ。

 まさか妖夢ちゃんを迎えにきたというのか?

 美鈴は一体何をしているんだ、と思えば地面の上で転げまわっている。

 片方の手で首を押さえ、空いた手は館の方に伸ばしている。酷く苦しそうだ。顔に血の気がない。

 幽々子が扇子で口元を隠して美鈴を見つめている。確か幽々子は人を殺す術を使えたはず。

 美鈴は妖怪だから死ぬことはないだろうけど、それでも三日は眠ったままにされてしまうだろう。

 そのうち美鈴は動かなくなった。

 妖夢ちゃんが幽々子と二、三言葉を交わすとここから離れて行こうとする。

 逃がすわけにはいかない。幽々子を倒すつもりで止めないと──。

「うちの妖夢がお世話になったわね」

 背後から声をかけられた。後ろ? 正面の遠くに見えるのは妖夢ちゃんだけ。

「中々淑女的な態度で接してくれていたみたいだけど、最後の最後でしくじったのね」

 息が出来ない。苦しい。酸素が入ってこない。肺が仕事をしてくれない。

 目の前が真っ暗になり、私は地面に倒れた。

「まあ、妖夢に手を出さなかったから命までは奪わないでおく」

 何を言っているのだ。お前はずっと白玉楼に居たのではなかったのか。

「亡霊だからね、気配を無くして監視するぐらい朝飯前よ」

 まさか、全部見られていたのか?

「吐瀉物を食べるとは考えたものね。どうやってあんなものを食べられる様になったのか興味が沸くわ」

 昨日の酒が残っていなければ、こんな奴に……悔しい。

「しくじらなければ、妖夢もそのうちあなたに振り向くんじゃないかって思ったけどもう無理ね。あなたの本心を知ってしまったから」

 だから何だというのだ。私の欲望を包み隠さず口にしただけじゃないか。

 まだチャンスはある。彼女を振り向かせる術はきっとある。

「諦めなさい。命があるうちにね」

 それは脅しのつもりか? 西行寺幽々子、その言葉そっくり返してやろう。

 妖夢ちゃんは私のものだ。いつかきっとあなたを倒して妖夢ちゃんと結婚してやる。

 意識はここで途切れた。

 

   ※ ※ ※

 

 気がついた。陽が沈みつつある。美鈴は倒れたままだった。

 胸が苦しい。まだ幽々子の術は抜けきっていないらしい。

 さすがは冥界の亡霊嬢。お嬢様が「手こずる程の者」と言っていただけはある。

 だが私が万全の調子であれば、勝機はあると思う。打倒、幽々子だ。

 とりあえず美鈴を運んでやろう。完全に死んでいるわけではないせいか、時折痙攣している。

 妖精メイドを何匹か呼んで美鈴の部屋に寝かせる様言いつけた。

 私も休もう。一度頭を冷静にさせる必要がある。

「咲夜ー!」

 一体何なんだ。私は幽々子の術で体をやられたというのに。一体何様のつもりで私を呼んでいるのか。

「どこに居たのよ! 私の部屋をさっさと綺麗にしなさい!」

 ああ、お嬢様でしたか。これは失礼。

「明日でも良いですか? 今は疲れておりますので」

「お前の体調なんてどうでもいいわ! 私の部屋がゲロみたいな臭いで充満しているじゃない!」

 なんだと? ゲロの臭い? まさか妖夢ちゃんのゲロ臭がまだ残っているのか?

 それならそうと、早く言って欲しかった。私が全て吸い込んで差し上げますわ。

 妖夢ちゃんのゲロ臭を堪能しながら、私は幽々子へ復讐する方法を模索した。


 
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