No.259187

【牛炎】Light My Fire(ハートに火をつけて)【腐】

NJさん

10話裏話妄想の、牛角さんと姐さん。姐さん乙女…!ってのを書きたかっただけです。あと、牛角さん鈍ゥ!っていうのを。◆あと、「やめろ こ ん な 所 で 」っていう牛角さんのセリフが意味深だったので、つい。

2011-08-04 20:59:38 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1256   閲覧ユーザー数:1249

 

 

「スマンが他を当たってくれ」

 鏑木はすげなく言うと、一方的に通話を切ってしまった。

「お……っ、おい!」

 呼びかけても、虚しく電子音が返ってくるだけだ。

 折角の休みだというから、久しぶりに朝まで飲み明かすつもりだった。

 昔から誰ともつるむことをしなかった鏑木が、ヒーロー史上初のバディを組むことになって――しかもあんな厄介そうなのを――愚痴もあるだろうと思ったから、誘ったってのに。

 アントニオは肩で大きく息を吐くと、ビールを呷った。

 それでなくてもここのところ、鏑木はめっきり付き合いが悪くなった。

 あのお節介のことだから、厄介な相棒とうまくやっていくためにプライベートも費やしているのだろう。

 そうでもしなければ後がない、ということなのか。

 アントニオはカウンターに肘をつくと、瓶の中身を揺らした。

「アーラ、ひとり?」

 その時、背後からの声に肩を叩かれた。

 振り返るまでもなく、相手はわかった。

「ああ、振られちまってね」

 大袈裟に肩を竦めて見せてから振り返ると、そこにはファイアーエンブレム――ネイサンがいた。

 尋ねることもせず、隣のスツールに腰を滑らせる。

「ファイアーゴージャスなアナタを振るなんて、一体どこの女かしら」

 相変わらず気持ちの一つもこもってない戯言を吐いて、ネイサンは細長い指を鳴らした。振り返ったハンサムなバーテンダーにカクテルを注文した。Firemen's Sour。おまけに一つウインクを加えると、改めてアントニオに向き直る。

「女じゃない」

 アントニオがそう言ってビールを飲み干すと、「まっ」とネイサンが甲高い声を上げる。

 予想したとおりの反応だ。

「破廉恥な想像をするなよ? 鏑木だ」

 念のため付け加えてから空の瓶をバーテンダーに押しやると、二杯目を尋ねられた。

 ネイサンも来たことだし、ゆっくり飲めそうだ。アントニオはウィスキー、と答えた。

「あぁ……」

 カウンターに凭れたネイサンが、納得の声を上げて頬杖をつく。

 スツールから下ろした長い足を優雅に組む仕草だけ見れば色っぽい女と間違えなくもない。

「せっかくのお休みだっていうのに、他に誘う相手はいないの?」

 バーテンダーのシェイカーの音を聞きながら、ネイサンが苦笑を浮かべた。

 苦笑を浮かべたいのはアントニオの方だ。

「他にいないから仕方なく鏑木を誘ったわけじゃない、久しぶりにあいつと飲みたくなっただけだ」

 ――強がってみたものの、実際鏑木に「他を当たれ」と言われても思いつく相手はいなかった。

 ネイサンが来なければ、適当に飲んで家へ戻っていたか、どうしても飲み続けたければ――ネイサンに電話をかけていたかもしれない。

 古い友人たちはすっかり家庭を持って、落ち着いている。

 今まで同窓会や、たまの集まりに呼ばれても直前に凶悪事件が発生すればやむなく断ってきた。

 それがお前の仕事なんだから仕方ない、――そう言ってくれても、誘いは次第に減っていった。誘っても、どうせ来られないだろ。相手に申し訳なさそうな顔をさせるのも気が引けて、自分からも誘えなくなった。

 飲みに行く機会は減ってもダチはダチだ。

 鏑木に対しても、その気持は変わらない。

「仕方ないわねぇ」

 燃えるように真っ赤なカクテルを手にしたネイサンが、押し黙ったアントニオの肩に凭れかかった。

「おっ、……おい、やめろ! こんなところで」

「アラ、じゃあ何処だったらイイのかしら?」

 肩を震わせて笑いながら、ネイサンはアントニオのウィスキーグラスに自分のグラスを重ねた。肩に凭れたまま。

「……、――」

 唸り声を漏らして押し黙ったアントニオは、ネイサンが合わせたグラスに手を伸ばした。

 一足先にネイサンはカクテルに口を付けている。

 今更そんな甘ったるいカクテルじゃ酔えないだろうに、視線を伏せ、美味そうに飲んでいる。

「……何だ?」

 アントニオがウィスキーを口に運びかけた時、鼻先を懐かしいような香りが駆けていった。

「なぁに?」

 ネイサンが身を起こして、アントニオの顔を窺う。

 アントニオは、くんと鼻を鳴らすと体を離したネイサンの肩口に顔を寄せた。

「ちょっ……っ! ちょっと、なぁに?」

 驚いたネイサンが体を引こうとすると、手に持っていたカクテルが波立って、グラスから溢れる。

 アントニオはその手を掴むと、ネイサンがスツールから落ちないように引き寄せた。ついでに、首筋から立ち上ってくる香りを嗅ぐ。

「ちょっと……! アナタがこんなところで、って言っておいて……!」

「何の匂いだ? なんか、いい匂いがするな」

 気持ちが暖かくなるような、ほっとする香りだ。

 昔嗅いだことがあるような、ないような――

 アントニオがようやく顔を上げてネイサンに尋ねると、ネイサンは一瞬――目を瞬かせた。

 小麦色の肌が、微かに赤く染まっているようだ。まさか、まだカクテルを一口飲んだだけなのに酔うには早過ぎる。

「――出かける前にお風呂に入ってきたから、石鹸の匂いでしょ」

 珍しくそっけない物言いをしたネイサンに手を解かれて、アントニオは初めてネイサンの腕を掴んでいたことに気付いて詫びた。

 石鹸の匂いか。

 自分だって風呂に入らないわけでもないのに、こんないい香りのボディソープは使ったことがない。

「お前、どんなボディソープを使ってるんだ? 今度教えてくれよ」

 赤く色付けた唇を突き出してカクテルを口にしているネイサンに言うと、ぎょっとした顔をしてネイサンがアントニオを振り返った。

「あ、……アナタ、自分が何言ってるかわかってるの?」

 声がいつも以上に裏返って、風呂上りだという肌も汗ばんでいるようだ。スツールの上で大きく身を引くもんだから、転げ落ちやしないかとまた心配になって、アントニオはネイサンの肩を掴んだ。

「っ、!」

 ネイサンが肩をこわばらせた瞬間、――手首につけた通信機がけたたましく鳴り響いた。

 同時に、バーのテーブル席に設けられた大型モニタでも謎の爆破で陥落するブロックスブリッジの映像が映し出された。

「ロックバイソン、ファイアーエンブレム! 事件よ!」

 アニエスの声が聞こえるより先に、アントニオは立ち上がっていた。

 ネイサンもバーテンダーに会計を済ませて、スツールから降りる。もう、頬に酔いの痕跡はない。

「急ごう」

「ええ」

 アントニオの言葉にネイサンも短く頷いた、が――

「犯人を確保したら覚えてらっしゃい。アタシに火をつけた罪は、重いわよ」

 そっと耳打ちされて、アントニオは目を瞬かせた。


 
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