No.25683

粉雪

カトリさん


0小隊と自衛隊を統括してる蒼桐大佐と、その盲目の秘書、茆(かや)とのお話です。

過去に蒼桐の指令ミスで、視力を失ってしまった茆は「罪悪感で傍に置いてもらってる」と、自分に言い聞かせてます。
だからこそ、そんな大佐を命に代えても守りたいと思っているのが茆なのです。

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2008-08-18 22:00:09 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:733   閲覧ユーザー数:699

 

 外に出ると真っ白い息が溶ける程の寒さ。

 

 今日は、殊の外、冷えるな、……なんて思っていたら、

 

 肩に、コート。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【粉雪】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大佐!」

「冷えるだろう? 茆─カヤ─」

 

 びっくりして振り返ると、優しい声。

 たまに、私はこの声にたじろぐ。

 指令を飛ばす時の鋭いものでもなく、たまに私を恐れての脅えたものでもなく、ただただ、優しい声音。

 どうすればいいのだろうか、と戸惑う。

 接し方に、困る。

 

「寒いな。空も嫌な感じに雲に覆われてる」

 

 吐き出した大佐の吐息も、おそらく真っ白いのだろうと思い……慌ててコートを突っ返す。

「大佐が風邪引いてしまいます!! そ、それに……コートは二つもいりません!!」

「ん? あぁ、そうか。そうだな」

 冗談なのか、本気なのか、分からなくて……ちょっと苦笑い。

「しかし、お前のコートが薄そうに見えたから」

「じゃあ、今日あったかそうなの買いますよ……」

「そうか。じゃあブティックまで送ってやろう」

「あ……」

 寮住まいの私に気を使い、たまに買い出しにつき合ってくれる大佐。

 大佐は、私が一人で「外の世界」に出る事を……何故かとても嫌う。

「別にいいですよ」

「いいじゃないか。コートぐらい買ってやる」

「え?!」

「え?」

 はは……と、優しい声が、私の手を引っ張る。

 目の見えない、暗い世界に……広がる温もり。

「気をつけろよ?雪が、降り出してきた」

「雪……」

 言われてから、ふ、と頬に冷たいものがあたって溶けた。

「いいですよ」

「何がだ?」

「コートです」

「いいだろう。優秀な秘書にせめてもの礼だ」

「いりません。どうせ寮と司令室との往復の毎日なんですから」

「そう言うな」

 ふと、降りた沈黙。立ち止まる、大佐。

「段差がある。気をつけろ」

「そ、そんな事ぐらいわかっ……」

 なんだかテンパってしまって先を歩こうとして──

 

 ガクンッ

 

 体が、滑って落ちる感覚。

 腰に、温もりが伝わる。

「……あ、あの──」

「気をつけろと言った」

「……〜」

 恥ずかしさと情けなさで胸がいっぱいになる。

 一刻も早く、この状況を抜け出したい。

「ほら、立てるか?」

「……はぃ」

 とん、としっかり立たされる。

 何も、言えなくて……大佐が、今一体、どんな顔をしてるのだろうと……想像して、赤くなる。

 どうせなら、「バカだな」と笑い飛ばして欲しい。

 こんな時、目の見えない自分が……嫌になる。

 視覚の神経が全てやられてしまっている私の目は、弥牙大佐の様に、レーザーアイにすれば見えない事もない。

 しかし、それも仕事にかこつけて拒んでいる。

 

 目が、見えさえすれば……大佐の優しい声が聞こえなくなる様な、気がして。

 

 

 そんな、バカらしい事を……たまに、ふと考えてしまう。

 自分はバカだと、心底感じる。

 たまに、大佐があまりに特別な人に感じてしまって……嫌になる。

 彼が傍にいてくれるのは、「罪悪感」からであって、それは、「責任」であって……だから、だから──

 

 

 頭に、何かが被さった感触がして……ハッと我に返る。

「あ、大佐っ」

「雪の降りが増えてきた。エアジェットをとってくるから待っていろ」

「コー……ト」

 

「待ってろ」

 

 優しい声。

 その優しい声に、涙が溢れそうになる。

 罪悪感 と 責任 と、それだけで……あんな優しい声になるのだろうか?

 

 だけど、そうであって欲しい。

 

 そうで、あってくれなければ……困るのだ。

 そう、とても、困る。

 同じ「負」の感情を共有して隣にいるのだ。

 それ以外に何がある?

 何が残る?

 尊敬と、それから……──

 

 

 いつか、あの人の元を離れなければ……──

 

 

 

 

 粉雪は、しんしんとあの人のコートに降り積もる。

 それに紛れて、一雫の水滴が、零れ落ちた。

 あの人を、上に立つ人間にしてやりたい。

 そうなったら、本当に離れよう。

 

 

 心が、あまりに近付いて……しまう前に──

 

 

 

 

 

 

end

 

 

 


 
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