No.251688

東方幻常譚第二話

早速第二話です

2011-07-31 23:41:43 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:825   閲覧ユーザー数:797

 幻想郷の空を駆ける一陣の風。天狗の新聞記者の射名丸文は今日も取材の為に幻想郷を飛び回る。いずれ来る結末までのほんの一日の出来事。

 

東方幻常譚 The another memory

第二話「取材~First coverage~」

 

 幻想郷の晴れた空を駆ける二つの影があった。新聞記者の射名丸文と、そのお供として付き合わされている犬走椛だった。今日も取材の為に飛び回る予定だった。

「文様、もう少し遅く飛んでくれませんか?流石について行けません」

 椛の申し出に文は空中で止まり、後ろの椛を待った。やがて追いついた椛は相当に息が切れて、かなり疲れている様に見えた。

「だらしないわね椛。そんなんじゃ山の警備なんて出来ないわよ?」

「あいにく、幻想郷最速についていくための訓練は受けたことないですよ」

 山の警備を担当する白狼天狗でも、自他共に認める幻想郷最速の文について行くことは容易ではなかった。

 椛の息が落ち着くのを待って、二人はまた飛び始めた。今度は椛に合わせて少しゆっくり飛んだ。どの道まだ日は高い。焦る必要もないだろうと、頭の上の太陽を見て文は思った。それに、もう少し飛べば最初の目的地だ。

 魔法の森、霧雨魔法店の上空まで来たところで、二人は止まった。ここが最初の目的地というわけだ。

「さて、最初の目的地ですよ。椛、準備はいいですか?」

「はい、大丈夫ですよ」

 簡単な打ち合わせが終わると、二人は魔理沙の家の前に降り立った。結構な風や音を立てたのだが、家の中から誰かがで来る気配がない。もしやと思って入り口にかけよって中を見てみると、やはり中には誰もいない。

「どうやらタイミング最悪だったみたいですねぇ。どうしましょうか椛?」

「どうしようもこうしようも、待つか予定変えるかのどちらかしかないと思うんですが?」

「お~文屋とその部下じゃないか。家の前で何をしてるんだ?そこの店主は今留守だぜ」

 どうしたものかと思案していると、二人は上のほうから声をかけられた。上を見上げると、少しだけ笑みを浮かべた魔理沙が箒にまたがって飛んでいた。

「おや店主さん。ちょうど良いタイミングですねぇ。もしかして見ていたんですか?」

「・・・魔理沙さん趣味悪いですね」

「今しがた帰ってきたんだよ。趣味悪いとか言うな」

 そう言うと魔理沙は、足の間から箒を抜いてそのまま自由落下で二人の前に降りてきた。

「今日はなんの用だ?お前等が私の魔法に頼る訳ないから、どうせ取材かなんかだろうとは思うけど」

「お察しの通り、新聞の取材で参りました。本日はよろしくお願いします」

 文が腰の後ろからカメラと手帳を取り出すと、魔理沙はやはりなといったふうに頭を振った。そして「入れよ」と一言だけいうと、家の中に入ってしまった。

「では、お言葉に甘えてお邪魔しましょうか、椛」

「そうですね。本当に邪魔者扱いされている気もしますが」

 椛の言葉を無視して、文は扉を開けて中に入っていき、椛がその後に続いた。

「お邪魔します」

「お邪魔するんなら帰ってくれないか?」

 椛の言うとおり、今の魔理沙は正直文が邪魔でしかなかった。なんで文屋に絡まれなければならないのかとしか思っていなかった。

「そう言わずに付き合ってくださいよ魔理沙さん。すぐ済ませますから」

「頼むぜホントに。私だって暇なわけじゃないんだ」

「そんなに忙しそうには見えないんですけど、文様、どう思います?」

「どうっていわれてもねぇ・・・。まぁ忙しそうじゃないのは事実だけど」

 二人のやりとりを聞いて、魔理沙は少しだけむっとした表情を向けた。それに気がついた文は、焦った様に椛を制して質問を始めた。

「紅魔異変以降、霊夢さん達と共に異変解決を行い、幻想郷の平和に貢献している魔理沙さんですが、異変解決をする様になったきっかけを教えていただきたいのですが」

「そんな質問なら、私よりも霊夢に聞いたほうが実のある話しが聞けるんじゃないか?なんでまた私に?」

「文様も最初は霊夢さんのところに話を聞きに行こうってやる気マンマンだったんですけど、霊夢さんは『面倒くさい』って取り合ってくれなくて仕方なく魔理沙さんたちのお話だけでもって事なんですよ」

「こら!椛!そう言うことは言わなくても良いの!」

 慌てふためく文を見て、魔理沙は思わず吹き出しそうになったが、こうなったのも霊夢のせいなのではないかと考え、すこし霊夢に腹が立った。次に神社に行ったら、お茶菓子をせびってやろう。

「まぁ、そうだな。面白そうだったからってのが一番なんだが、永夜の時は妖怪どもが暴れるとまずいからってのもあったな」

「なるほど、では基本的には好奇心から異変解決に乗り出していると、そういうことですね」

「そう言うことになるな。面白いことは好きだし。みんなで騒ぐのは楽しいと思わないか?」

 魔理沙は満面の笑みで言った。

「そうですね。そうなれば私も記事のネタに困りませんし」

「文様の理由は妙に生々しいですね」

「あやややや。椛、そういうことは言うもんじゃないですよ。後でお仕置ですね」

 文の言葉に当惑する椛に、魔理沙と文は思わず笑みがこぼれた。

 この後二、三の質問のあとに魔理沙への取材は終わった。文と椛は魔理沙に礼を言って立ちあがり、足早に霧雨魔法店を出て行く。今日の取材はこれだけではなかったからだ。

「さて、後は紅魔館と守谷神社ですね。どっちから行きましょうかねぇ・・・」

「どうせ山に戻るなら、守谷神社を後回しにしても良いのではないですか?帰る方向も同じなんですから、一回で済むじゃないですか」

 椛の意見を聞いて、文は苦笑を浮かべた。

「一回で済めば良いですけどねぇ。紅魔館の門番はさておいて、取材対象の咲夜さんに追い返されそうです」

「あぁ・・・。ナイフとか飛んできそうですね。ってか、連絡入れてなかったんですか?」

「アポイントは取らない主義なんです」

「そんなだからいつも邪険にされるんですよ。せめて事前に連絡を入れておけば最悪ナイフは飛んでこないんでは?」

 せめてナイフではなく、嫌味が飛んでくる様にと願って、文と椛は紅魔間の方に飛び始めた。

 

 

 紅魔館の前に降り立った二人は、予想どおりの光景に思わず吹き出しそうになった。自分達の予想どおり、紅魔館の門番の紅美鈴が紅魔館の塀に寄りかかって寝息を立てていたからだ。

「紅魔館の部分だけ別頁にして、見出しを『実録!紅魔館の実体』とかにしたほうが面白いと思うのよ」

「言えてますね。こんなに面白い『名ばかり門番』は幻想郷広しといえど他にはいませんよ?」

 文は椛と話ながら、数枚フラッシュをたいて撮影してみたが、彼女が起きる気配はなかった。

「ここまで来ると、居眠りも清々しく感じますね。私が上司なら許す気にはなりませんが」

 もう一枚取り終わったところで、流石にフィルムがもったいないと美鈴の撮影を切り上げ、彼女を起こさない様に門を開けて中に入っていった。

「別に飛んで上から入れば良かったんでは?」

「分かってないわね椛。あなた子供のころに悪戯を楽しまなかった質ね?ああ言うのはスリルがあるほうが楽しいのよ」

「そんなものですかねぇ?」

「そうなの」

 屋敷の、重厚で荘厳なドアを開けると、静謐な―と言うよりは張り詰めた―空気が二人を包んだ。

 ギィィィ・・・と言う音を立てて徐々に閉まっていくドアを背中に感じながら、二人はこの空気に慣れようと、無意識に深呼吸をした。

「山の天狗がこの紅魔館になんのご用でしょう。事前に連絡のない方は取次できない決まりになっているのですが」

 不意に声をかけられて、二人はドアしかなかったはずの後ろを振り返った。

 ドアと二人の間にもう一人、さっきまでは確実にいなかったはずの紅魔館のメイド長、十六夜咲夜が立っていた。

「どうもお邪魔しています。今日は新聞の取材であなたにお話をお聞きしたいと思ってまいったのですが・・・」

「如何様な理由にあろうとも、アポイントを取られていない方はお通しできない決まりですの。無許可で立ち入ったことは不問にして差し上げますから早々にお帰りください」

 こいつは止めておけば良かった。この人は、あるいは霊夢さんよりも手ごわいかもしれないと、文は心の中で思った。

「そこをなんとか。お時間は取らせませんから二、三質問に答えていただければすぐ帰りますから」

 そこで、咲夜のほうにも後悔に似た思いが浮かんだ。このブン屋は下手に追い返すよりも、さっさと話を済ませてしまったほうがすぐ終わるではないかと。

「・・・本当にすぐ済むんでしょうね?」

「それはもちろん!質問にお答え頂ければすぐにでも」

「ならここで聞くわ。早く済ませて頂戴」

 これ幸いとばかりに、文はすばやく手帳を開いた。

「では早速質問させてもらいますが、『長い冬』の件や、『永夜異変』の時には異変解決に動いていたみたいですが、咲夜さんが異変解決をする理由やきっかけを教えていただきたいんですが」

「あら、そんなこと簡単よ」

「と、いいますと?」

 咲夜は少し微笑を浮かべて答えた。

「お嬢様がそれを望んだからよ」

「・・・それだけ、ですか?他になんかこう、好奇心だったりとか、正義感だったりとかそう言うのはないんですか?」

「私が動く理由は、お嬢様のお言葉だけで十分ですわ。正義感や好奇心はメイドの仕事には必要ありませんもの」

「は、はぁ・・・」

 文は納得できないと言った表情で咲夜の答えを手帳に書き込んだ。

「流石は咲夜ね。紅魔館のメイド長として正しい考え方よ」

「あ、レ、レミリアさん。お久しぶりです」

 紅魔館の主、レミリア・スカーレットが奥から歩いてくるのに気がついた文と椛は、その永遠に幼き主に頭を下げた。

「まったく、山の天狗は礼儀がなってないわね。人の屋敷に勝手に上がりこんで、挙句の果てに咲夜の邪魔までするんだから」

「い、いえ。滅相もございません。そんなつもりではなくてですね・・・」

「ま、いいわ。咲夜、お茶にしましょう。ブン屋も早く帰りなさい。招かざれる客が生きて出られるなんて幸運なことよ?」

 それだけを言い残すとレミリアはさっさと奥に行ってしまった。それに合わせる様に咲夜もその場から消えた。

 二人その場に残された文と椛は、もうどうしようもないと言った表情で顔を見合わせて、門を押し開けて出ていった。

 ふと門の脇に目をやると、帽子にナイフを飾り、青ざめた顔で門番をする紅美鈴の姿があった。二人は、自分達がああならなかったことを祈りつつ、最後の目的に向かってた。

 

 

 大きな鳥居を飛び越して、二人は神社の境内に立った。

 余談だが、この幻想郷には神社が二つある。ひとつは博麗大結界を守護する博麗神社。そしてもう一つがこの守谷神社だった。この守谷神社は、最近幻想入りしてきたばかりで、はじめのころにはよく異変を起こして霊夢にこっぴどくやられていたのは記憶に新しい。

「さて・・・と。早苗さんはどこですかね~」

「おや?天狗じゃないか。うちの神社になんの用だ?」

 二人は奥から歩いてきた八坂神奈子に声をかけられた。

「神奈子さん、早苗さんに二、三お話をお伺いしたいのですが」

「ならちょうど良い。早苗なら今は中でお茶でも飲んでいるだろう。ゆっくりしていくといい」

「は、はい。では、失礼します」

 微笑む神奈子に恐縮しながら、二人は守谷神社の奥にある母屋の方に歩いていった。

 すぐに母屋が見えてきた。二人は玄関の扉を開けてくぐると、家の中に声をかけた。

「すみませーん。文々。新聞の射名丸文ですー。早苗さんはいらっしゃいますかー?」

 暫くすると、奥のほうからパタパタと小走りの足音が聞こえて、足音と一緒に奥から早苗が現れた。

「あ、どうも天狗さん。今日はどうされたんですか?」

「はい、次回の新聞の取材をしに来たんですが、二、三質問よろしいですか?」

「はい。あ、こんな玄関先じゃなんなので、お二人とも上がってください」

 そう言うと早苗は少し玄関の端によって、二人を招き入れた。博麗神社や紅魔館とはえらい違いだ、と靴を脱ぎながら文は思った。

「ちょっと待っててくださいね。お茶を入れてきますから」

 二人を居間に通すと、早苗はお茶の準備をするために台所のほうに向かった。

「あ、お構いなく」

「どうもすみません早苗さん」

 少しもしないうちに、お茶とお茶菓子を載せた盆を持った早苗が、台所から戻ってきた。彼女は手に持った盆を置いて二人の向かいに座った。

「で、今日はなんの取材なんですか?ここのところ特に何も起こっていないと思っていたんですが」

「今回は特別企画と言うことで、幻想郷で異変解決を行う方々にお話を聞いて回ってるんですよ。早苗さんも以前に宝船の件で異変解決をされていたのでお話をと」

「あ~そう言うことですか。では・・・」

 早苗が言おうとすることを椛が遮った。

「あ、霊夢さんのところには行ったんですけど、文様ボコボコにされて取材できなかったんですよ」

「あら、そうなんですか?」

 椛の言葉を聞いて、早苗はニヤニヤしながら文を見た。その視線を感じた文は、すぐに否定した。

「いや、違うんですよ!?ちょっと弾幕で威嚇されまくって近寄れなかっただけなんですよ!?」

「へぇ~?そうなんですかぁ?」

 文の弁解を聞いても、早苗はまだニヤついていた。それと対照的に、文は恥ずかしそうに赤面した。

「え~ゴホン!じゃぁ質問させてもらいますね?」

「あ、はいどうぞ。なんでも聞いてください」

「では、まず一つ目の質問なんですが、幻想郷に来たばかりのころは、どちらかと異変を起こす側だったと思うんですが、宝船の一件ではなぜ異変解決を行おうと思ったんですか?」

 早苗は、少しだけ考えた後に言った。

「それは、もちろん加奈子様と諏訪子様がそう仰られたからです。そのほうが信仰が集まると」

「なるほど・・・。では、早苗さんは異変解決に関してどのような心構えと言いますか、気持ちで臨んでいますか?」

「そうですね・・・。二人の信仰が少しでも集まればとは思っていますね」

 そういって早苗は微笑んだ。二人の神がよほど好きなのだろう。

「さすがに守谷神社の風祝は違いますね。信仰集めに熱心で、どこかの神社の巫女とは大違いです」

「文様・・・本当にボコボコにされますよ?」

 

「くしゅん!・・・風邪かしら?」

 ズッ・・・っと鼻水をすすってから、湯のみに残っていたお茶を飲み干した。

「それとも誰か噂してるのかしらね」

「お前に限ってそれはないんじゃないか?」

 霊夢の横に座っていた魔理沙が茶化す。霊夢はむっとした表情で魔理沙を見た

「なんでよ。私は楽園の素敵な巫女の霊夢ちゃんよ?」

「・・・お前、自分でちゃん付けなんかして恥ずかしかったりしないのか?」

「うん・・・正直恥ずかしいわ」

 霊夢は二杯目のお茶を注ぎ、思いの外ぬるくなっていたお茶を一気に流し込んだ。

 

東方幻常譚 第二話 了

 

 

~後書きっぽいですが定かではないです~

 

 懲りずにいきなり第二話投下です。今回のお話は射命丸文と犬走椛の天狗さんコンビが主人公の位置です。自機キャラをやったことのあるキャラに、そのときのお話を聞いて回るって言う設定でございますが、霊夢さんは前回第一話でメインキャラとして出ていただいたので、今回は一回休みです。

 相変わらずといえばいいのか、強引に押しかけてきた天狗コンビに対して、なんだかんだ言いながらも取材に応じる幻想郷の面々に、何か愛着のようなものを感じます。

 きっと次の日の文々。新聞の一面は、彼女たちのインタビュー記事なのでしょう。見出しをぱっと思いつこうと思って出なかった罠。

 そんなこんなで第二話、お楽しみ頂けましたでしょうか?次回第三話もすぐに上げると思いますので、よろしくお願いします。


 
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