No.247218

CROSS POINT

りくさん

CROS EPOCH(クロスエポック)設定の二次創作小説の冒頭部分。ドラゴンボール、ワンピースどちらのキャラもでてきます。公式準拠。■C78再版。そのサンプルです■ナミが見つけたお宝を巡って、空賊や盗賊、保安官などが追いかけたり逃げたり戦ったり叱られたり恋をしたりする話です。■とらに扱ってもらっています(http://www.toranoana.jp/bl/cot/circle/17/54/5730313835343137/ns_bcb7c2e7cea6_01.html

2011-07-30 13:22:20 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1508   閲覧ユーザー数:1493

「あ、まずいわ」

 彼女は、くるっと背を向けて、やってくる視線から逃れた。だが、うまい逃げ方とは言えない。オレンジ色の髪が、さらさらと風に揺れる。大学のキャンパスに同じ年頃の女性は多かったが、うなじから背中、腰へと流れるボディラインは、ほとんど彼に彼女だと名乗っているようなものだった。

 彼の、一部にだけ鋭い観察力は遺憾なく発揮され、当然のように彼女を見つけた。「ナミさん?」

 聞こえない。聞こえない。

 彼女はぴくりとも表情を変えず、すたすたと歩き去る。なのに、彼の声は確信を持って追いかけて来た。

「あれ? ナミさーん!」

 しまった。彼女は内心、舌打ちをする。あいつと知り合ったのも、ここだった。まさか、鉢合わせするなんてね。

 大体、出会いは何年も前のこと。彼女は航空学部操船科に通っていて、入学初日、彼にナンパされたのだ。それから二年の間、付かず離れず-- 実際には近寄られ離れ-- の友人めいた関係が続いていたが、自分の船を持ち、卒業直前の大学を飛び出してからは、むしろ避けるようにしていた。

 彼の視線が外された様子はない。敏感に気配を察して、彼女は手近にいた男の袖を引いた。

「ね、図書館はどこ? 教えてくれないかしら」

 振り返った男は、まだ少年と言えるほどの年ごろだった。とはいえ、飛び級で入学する学生も多いので、不思議なことではない。特徴的なのは年齢ではなく、少年の頭に生えた見事な角だった。

 彼女は、海賊が多いことで有名な沿海州を思い出した。その周辺の民族には、角のある者が少なくない。エキゾチックな服装も、彼女の予測を裏付けていた。深いスリットの入った民族服は、沿海州に落ち着く前、かつて彼らが馬賊だったことを示している。袖口と胸の文字を縁取る模様は、民族の出自を表していたはずだ。

 留学生かしら、と彼女は想像した。

「図書館は、部外者は使えませんよ」

 少年は爽やかな声で答えた。在学生なら場所を知っているはず。新入生にも見えないとすれば、もっともな返事だ。

「あたし、秋期からの聴講生よ」

 ひらっと、パスを振ってみせるが、急ごしらえの偽物だ。じっくりと見せはしない。そうでしたか、とおとなしく彼は答えて、こっちです、と指さした。

「オレも行くところでした」

 連れが出来るメリットとデメリットを一瞬計算し、彼女は感じのよい年上の女性らしく、にこっと笑った。

「一緒してもいい?」

 少年は頷いた。

「ありがと。あたし、ナミ」

 少年は、トランクス、と名乗った。

 …… 変わった名前だわ。

 彼女は、もう一人の変わった男を盗み見る。

 女の正体を知りながら、捕まえようとしないダメな保安官。顔を合わせる度、同じ笑顔で、飛ぶようにやってくる優男。

 ガラスに移った虚像を通して、彼女は背後にいる男を観察する。サンジはまだナミの姿を探しているようだったが、同行している誰かにに気を取られている。移動するような素振りだ。これ以上、彼女を深追いすることはないだろう。

 避けてはいても、ナミは、サンジのことを特に嫌ってはいない。

 ただ、あいつが保安官になるなんてね。

 予想外だったのだ。彼女は、在学中からこちらの世界で生きている。以来、顔を合わせるのは事件の現場か、彼が追いかけている目標が彼女だったときだけ。彼女が彼の姿を発見したら、逃げ出して当たり前だ。

 彼が、本気で捕まえる気がないのは、何となくわかっている。今だって、まるで子犬のようにうれしそうな顔で、手を振る。もっとも、彼の相棒はそうではないだろうが。僅かに見えた帽子のつばは、多分……。

「よかったんですか?」

 何が? ととぼけた彼女に、トランクスは顎で後ろを示した。一度も目を投げなかったのに、彼はサンジに気づいていた。お国柄か、なかなかに抜け目がない。

「あんまり会いたくない、昔の知り合いなの」

 ね、察して、と言わんばかりに、ナミはウインクをして見せた。それにしては狼狽の隙もなく、完璧な無視だと思わないではなかったけれど、風に紛れて聞こえたナミを呼ぶ声があまりに甘かったから、トランクスはその説明で納得した。

「何年生?」

「一年です」

 ちらり、学生証を見せたが、彼はすぐにしまい込んだ。

「なに? 見せてよ」

「写真が変だから、恥ずかしいんです」

「ふーん……」

 なんだか、ちょっと変な感じ。彼女の嗅覚が効いてくる。何かありそうだ。

「そんなこと、なかったみたいだけど?」

 彼は、ははと笑って取り合わない。

 ひとまず、彼女は強くは押さずに引き下がった。姉の反対にも関わらず、わざわざ大学までやってきたのだから、変な脱線は自重する。

「卒業生だけど、図書館新しくなったみたいね」

「そうなんですか」

 女の子は好奇心が強いと言うけれど、ナミはあっさりと話題を変えたので、彼はほっとした。卒業生なら気づくかもしれないと、ちょっと心配していたのだ。

 なぜなら、精巧ではあったが、少年の学生証も偽物だったから……。

 美しい人工湾を持つ大学都市グ・バッツは、十数年前に出来た新しい街だ。理系を中心にした複数の学部が置かれ、国内外を問わず、多くの学生がやってくる。大学院では、国や企業と共同して最先端技術・テーマが研究されていた。

 ナミが大学生として通った場所に戻ってきたのは、数年ぶりのことだった。しかし、懐かしいからといって知った顔に見つかるわけにはいかない。彼女は、大学を去ると同時にお尋ね者になっている。そのことを覚えている者は多いだろう。

 そんな事情をおくびにも出さず、彼女は緩やかな丘に続く道を、トランクスと歩く。

 規模を拡大するため、高台に新設された図書館は、彼女が在学中には計画のみで土台もなかった。幸い、周辺に人影は少ない。

 そこから見下ろすと、湾と港がよく見えた。定期連絡の船が停まっている。ほかにも、貨物と個人所有の船がちらほらと。海から吹いてくる風は、昔と同じに心地よかった。

 彼女は、うーんと伸びをした。仰いだ空は、よく晴れている。

「こんな日は、思いっきり飛びたくなるわ」

「操船できるんですか?」

 図書館の石段で足を止め、トランクスが尋ねた。

「専攻してたんだから」

「ふぅん…… 乗りたい船でもあったんですか?」

 そりゃ、と彼女は目を輝かせる。

「一度は操ってみたい船は、幾つかあるわね。最新技術を駆使した船もいいけど、名船と言われてる三つの船は航海士の憧れよ」

 名船…… と鸚鵡返しに、トランクスは呟いた。

「でも、結局、夢よね。神出鬼没の“ゴースト”は、最近本物の幽霊船になったって話だし、黒船ガナッシュはクレームブリュレに残骸が漂着したんだって。最後の一つ、サイヤは怖ーい空賊の船。近づいただけで殺されるんじゃ、幾らなんでも割が合わなすぎよね…… と」

 余計なことを喋り過ぎた。彼女は、口を押さえる。彼女の姉は、設計者が魂をこめたような名船には興味がない。プレミアの付きそうな名車を、遠慮なく改造してしまうような人なのだ。その思い切りの良さはうらやましくもあるけれど、やっぱり航海士としては芸術品とも言える船に惹かれる。

 懐かしい記憶の残照によって、そんな気持ちを刺激された。

 大学なんかに来るもんじゃないわ。

 着いたわね、と彼女はトランクスを追い越して、図書館に入った。受付を通り過ぎて、閲覧室に向かう。彼も続いた。

 二人は、隣り合った閲覧用モニタに並んだ。画面に触れると、検索用のパネルを表示する。図書館の持つ膨大なアーカイブから必要な書籍を探して、モニタで読むことができるのだ。

 少年は、さっそく調べものを始め、真面目な顔で見入っている。それを確認してから、彼女は自分のモニタに向かい合った。

 ナミの言う、乗りたい船だ、というのは事実だ。憧れる。けれど、サイヤ号に関心を持っているのは他にも理由があった。

 ナミはキーを押し、検索ウィンドウに『ダークナイト』と入力した。

 幾つも上がった候補のうち、一つを選んで詳細をオープンする。

 ダークナイト-- 漆黒の宝石。百年ほど前、古代遺跡から出土した遺物。遺跡で休憩した隊商が発見したため、詳しい状況はわかっていない。その後、何人かの手を渡ったのち、現在は空賊船サイヤのマスト基部に埋め込まれていると言われている。が、伝聞によるため、公式には確認されていない。科学的な鑑定をした記録がないので、材質などは一切不明。何のために作られたのかもわかっていない。

 大きめの事典になら載っている程度の内容だ。これならわざわざ、大学まで来なくても簡単に調べることができる。知りたかったのは、もっと違うことだ。

 彼女は検索ウィンドウを操り、今度は新聞記事を対象に、『空賊船サイヤ』を検索した。 サイヤ号は、現役の空賊船だ。だが、街や小さな商船を襲うことがないので、目撃情報は少ない。

 ドクター・ゲロ空賊団なら、苦労しないのに。

 ここからが、本来のビジネス開始だ。姿勢を直す振りをして、さりげなくモニタから伸びる通信ケーブルに子機を差し込む。腕時計から時計盤が消えて、小さなモニタが現れる。即、通信データの盗聴を開始した。

 面倒な調整はいらない。

 その辺が、姉さんのすごいところね。

 自動的にデータを解析し、回線に割り込みを掛ける。閲覧用モニタのメモリに侵入した擬装ソフトが、新しい検索ウィンドウを開く。彼女は、そこに再び『空賊船サイヤ』と入力した。

 大学のネットワークが、政府の回線と繋がっていることは、よくある話だ。こと、この大学都市では軍部との共同開発が多いせいで、入り口はたくさんある。

 入り口といっても、無理矢理こじ開けるんだけど。

 擬装ソフトは、セキュリティホールを利用して、目的の情報に近づく。発信元は図書館ではなく、研究主任や責任者のものに見せかけながら。幾つかの障壁は、想定済みだ。アクセスしたい情報は、大した機密ではない。彼女の姉が設定したアタック方法で陥落できるはずだった。

 ほどなく、画面には彼女の探していた情報が表示される。

 空賊船サイヤの追跡記録だった。場所と時刻、その際に観察できた空賊船の装備についても書かれている。

 目撃日時は、つい一週間前。場所もここから近い。

 ラッキー。

 彼女は、内心呟いた。もう一度腕時計を見ると、残り時間は十秒と出ていた。そろそろタイムリミットだ。

 彼女は侵入を止め、ソフトを消去する。子機は外され、腕時計は通常通りの時を刻み始めた。

 長居は無用と、彼女は隣りのトランクスへ、お先にと声をかけて外に出る。その後を彼が追いかけてきた。

「オレもちょうど用事が終わったんです」

 少し考えて、彼女は、あらそう、と微笑み返した。正門まで肩を並べて歩くのは、自然だと思えた。まだサンジがいないとも限らない。そのときは、時間稼ぎにも使えそうだ。

 レンガで舗装された小道を正門前広場まで歩いていくと、大学に面した大通りが騒がしくなっている。みなそれぞれが疑問を口にし、港の方向へと引き寄せられていた。

「何かしら」

 首を傾げた彼女の耳に、聞き覚えのあるしゃがれ声が飛び込んできた。

「おーい、おとなしく投降するんじゃー」

 拡声器から伝わる、その調子は、牧場で牧羊犬を呼ぶかのようにのんびりとしている。彼女は人混みを押し分け、彼らを見下ろせる位置まで進み出た。

 あいつらだわ。

 彼女のいる場所は小山の中腹といったところだったので、湾も港も一望できた。

 さっき大学のキャンパスで見かけたとき、サンジとは別のテンガロンハットがあった。背の高い大学生に阻まれて、顔までは確認できなかったのだけれど、それが相棒の老保安官であることはわかっていた。

 桟橋近くに年季の入ったパトロールカーを駐車したまま、老人は助手席から立ち上がり、目前の定期連絡船に向かって再び投降を呼びかける。

 指名手配犯でもいるのかしら?

 野次馬の誰もがそう考えただろう。しかし、ナミは後部座席に載せられた無骨なマシンに気づいていた。その形状には、記憶がある。

 老人は、仕方ない、という素振りをし、サンジが後部座席に手を伸ばした。スイッチを押したらしく、マシンがうなり声を上げ始める。

「あ!」

 群衆がどよめいた。

 澄んだ水面に浮かぶ、白亜の連絡船。国の威信をかけて創り出された大学都市には、科学の未来を想像させるようにと、さまざまな工夫や意匠が凝らされた。その一つである連絡船は、観光船のように優美なフォルムを持ち、波間で休む白い鳥のようだと言われていた。

 映像が歪む。

 テレビの画像が乱れるが如くぶるぶると震え、姿を崩していく。

 サンジが出力コントローラーを操作するのにつれて、連絡船は左右に裂け始めた。

 そうして、白い船舶の代わりに現れたのは、禍々しい色をした帆船だった。黒い帆布には、独特の髑髏マークが描かれている……。

「きゃあ!」

 意味を理解した女性が、悲鳴を上げる。一般船舶の振りをして、海賊船が紛れ込んでいたのだ。彼らの目的などわかりきっている。好奇心に目を輝かせていた人々は、一転恐怖を覚えだした。

「海賊だわ!」

 誰かが叫ぶ。当然すぎる事実の指摘に刺激され、野次馬がわらわらと逃げ始めた。

「殺される!」

 違うわ。

 ナミは目を細めた。

 海賊じゃない。

 保安官は、拡声器を持ち直し、声を張り上げた。

「正体はバレとるんじゃぞ!」

 甲板に人影があった。航海士として抜群の視力を持つナミは、それが沿海州出身の女であることを認めた。

 老人は拡声器を放り出し、ロビンちゃんは別じゃぞーと両手を振り回した。

 相変わらずの色ボケコンビね、とナミが呆れたとき、

「まずい」

小さな呟きが耳に届く。彼女は反射的に振り返った。トランクスが、彼女のすぐ後ろで一心に船を見ている。

 沿海州の少年と女。擬装して侵入していた船。

 そうか!

 反対方向に逃げて行く人たちを横切って、彼女は建物の影に入った。腰につけたポーチから、カプセル

NO5を取り出す。スイッチを押して道に投げ出すと、それはエアバイクに変化した。

 彼女の姉が、常に持たせているカプセルセットのうちの一つだ。

 エンジンをかけてから、通りを窺う。都合よく、人波は引いているが、トランクスがいない。

 ナミは思い切りよく、エアバイクで飛び出した。下方に、港へと続く道を走るトランクスを発見する。

 彼女は急降下し、トランクスに併走した。

「乗りなさい!」

 え? とトランクスは首を傾げる。

「ほら!」

 顎をくいっと持ち上げる。疑問が解けたわけでもないだろうが、走るよりはずっと速い。少年はエアバイクの後部に飛び乗った。

 それを待って、彼女はエアバイクを上昇させる。整然と並ぶ屋根を避けながら、スピードを上げた。

 船の甲板が近づく。艦橋から、別の人間が出てきて、何かを叫んでいるようだった…… しかし、エアバイクのエンジンと風の音で、話はわからない。

 あのマシンが邪魔してるのね。

 やたら鼻の長い男が保安官たちを指さしていることから、彼女はそう当たりをつけた。と、背後のトランクスが、彼女の耳に触れるほど近く唇を寄せた。

「な、なに!」

「せ、ん、か、いして」

「はぁっ? 聞こえない!」

 少年は、大声で命令した。

「旋回して! あのホバーカーに降下!」

 命令口調にかちんとしたナミだったが、恩を売っておいた方がいいと思い直して、素直に頷いた。船に向かっていたエアバイクをぐるっと旋回させた。

 スピードを、上げる。

 耳に風が痛い。

 彼女の後ろで、少年は腰に隠していた短剣を抜いた。

 目立つからと置いてきた愛用の剣があれば、と彼は思う。でも、それは考えても仕方のないことだ。あんな長剣が持っていたら、大学内には入れてもらえない。もっと簡単な方法もある…… けれども、今はこれが精一杯だ。

 あと二十メートル。ナミはアクセルを全開にした。

「う!」

 加速を感じて、トランクスはシートを掴み、歯を食いしばった。

 船からの煙幕弾頭が飛んできたせいで、保安官はナミたちの接近に気づかない。

 あと十メートル。

 サンジが気づいて、大きく目を見開く。だが、間に合わない。

「ナミさん?」

 悪いわね。

 サンジの声と同時に、トランクスが短剣を投げる。ナミは、煌めきながら傍らを飛んでいく短剣を確認して、思いきりブレーキをかけ即反転、エアバイクを急上昇をさせた。

 風音立てて、まっすぐに短剣は飛び、鋭い切っ先がマシンに突き刺さった。バチバチ、と火花が飛び散る。黒煙が上がった。

 トランクスは、上手いこと重要な配線を切断したのだ。

「掴まってなさいよ!」

 エンジンが壊れそうな音を立てていた。ここでは落ちたら無意味だが、もともと、こんな無理をできるエアバイクではないのだ。

 壊れるかも。

 船まで持てば、それで良い。重力に引き寄せられていた機体は、それでもなんとか態勢を持ち直すと、弾けるように加速した。してやられた保安官が彼女を呼んでいるけれど、振り返る余裕も、そのつもりもない。

 ぐんぐん、船が近づいてくる。もう減速しなきゃ、と思ったとき、ぷすん、と嫌な音を立てて、エンジンが止まった。

「まっずーい!」

 エアバイクは二人を乗せたまま、甲板に向かって落下していく。このままでは、ぶつかってしまう。

 海に飛び降りる? それなら助かるだろう。けど、せっかくのチャンスなのに! もったいなさすぎる!

 迷っているナミの腰に、トランクスの腕が回された。

「なにっ?」

「すいません」

 礼儀正しく謝って、彼はぐいと彼女を引っ張ってエアバイクから飛び降りた。機体と身体が離れた瞬間に、エアバイクを横から蹴飛ばす。エアバイクはおもちゃのように回転しながら、吹っ飛んでいった。

「わ……」

 びっくりしているナミを抱えたまま、彼はすとんと甲板に着地する。

「すいません、巻き込んでしまって」

「そ、そうね……」

 驚いて言葉が出てこない。大きく目を開いたまま、周囲をきょろきょろと見回した。甲板に、エアバイクの破片がばらばらと落ちてきた。

「それより、すぐ出た方がいいんじゃない? あいつら、結構しつこいわよ」

 トランクスは頷いた。が、彼が仲間に伝える前に、船は大きく動き始めていた。

 やはり、サンジの使っていたマシンのせいで、船のエンジンに変調が起きていたのだろう。

「学生じゃなかったのね…… すごい船…… く」

 彼女は言い換えた。

「海賊船……?」

 少年は首を振った。

「いえ、オレは海賊じゃありません。迷惑をかけるつもりはなかったんですが」

 いえいえ、どういたしまして。彼女は内心とは裏腹、細い眉を寄せてみせた。

「でも、この船……」

 沖に進んでいた船体は、水面を離れ、ふわりと浮かび上がり始める。急いで出航したせいか、少し操縦が荒い。よろめいたナミを、トランクスが支える。

「これは海賊船じゃないんです。この船は、空賊船……」

 よし!

 ナミは、目を見開いた。これは演技ではない。そのとき、艦橋から男が出てきた。

「トランクス」

 はっ、と少年は身を固くする。

「なんだ、その女は」

 彼女は、ゆっくりと振り返る。

 風になびく赤いマント。逆立った黒い髪と、そこから伸びる鋭い角。それに、なにより左目に掛けられた眼帯。

「艦長」

 空賊ベジータ。

 彼女も、彼女の姉ですら、噂でしか聞いたことのない空賊。しかし、特徴的な外見は、すべてが彼本人であることを証明している。

 この船は……。彼女は確信していた。

「ナミさん、嘘をついてすいません。オレたちはベジータ空賊団…… そして、この船は、空賊船サイヤ号……」

「ええっ!」

 やったわ、姉さん!

 彼女は喜びでつい開けそうになる口元を、慌てて押さえた。


 
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