No.244755

A rainy afternoon【ポップンミュージック】

アララギさん

2003年頃発表した、「ポップンミュージック3」のアイス×ジェニファー小話。
所属していた同盟様に贈る予定だったのですが、その前に閉鎖されてしまったので、前サイトで公開していました。
こちらもサイト閉鎖と共にお蔵入りになっていたので、救済という意味も兼ねてこちらにアップ。
彼が3で担当していた「Cherry & Raquel」(ラウンジ)という曲がイメージです。
この曲聞くと、どうしても雨を連想するので…。

2011-07-29 17:56:42 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:563   閲覧ユーザー数:562

「…おそーい…」

 

 洒落たカフェレストランの一角を占領している少女が、この店に来て初めて発した言葉がコレだった。

 初めて言葉を発した…といっても、この少女が店に来てから2時間ほど経っているが…。

 少女は、言葉ともにずるずるとテーブルにつっぷした体を起こし、時計を、次に窓の外を見た。

 窓の外は梅雨の長雨のせいで、町全体が煙っていて、水墨画の中に迷い込んだような錯覚を起こさせるほど薄暗く、モノクローム色に染まっていた。

 もう夕方。

 普段は人でにぎわう通りも、今日は静か。ただ、足音と雨の音がするだけ。

 少女の蒼い瞳は、灰に染まった町と、その中でひときわ華やかさを放つ、色とりどりの傘を映していた。 ―――その傘の花の間から、見慣れた顔…自分より年上の癖に童顔で、女の子のような外見の『彼』がみえないかと、 少女はじっと窓の外をみつめていた…。

 

 

 

 

『ねえ、ジェニファーちゃん。今日時間空いてる?』

 

『え? …別に……用事はないけど…』

 

『じゃあさ、駅前にある【unmbrella】で4時…。そこで、待っていてくれないかな』

 

『いいけど…でも、どうして?』

 

『それはついてから…ね』

 

 

 

 青い瞳の少女―――ジェニファーは、窓の外を眺めつつ、ここに来る前に、あるスタジオで交わした会話を思い出していた。

 ポップンパーティで知り合った青年、アイスとの会話を。

「…待っててって…もう6時じゃない…」

 可愛らしい顔をフグの様にむぅっと膨らませ…頬にためた空気をゆっくり吐き出す。

 愚痴をもらしてても、頭のどこかでは、彼が時間通りにこれない事をわかっているつもりだった。

 彼は有名なミュージシャン。

 普通の学生である彼女とは違い、急な予定や仕事がはいって遅れる…最悪の場合、約束そのものがなくなるという事だって有り得るのだ。むしろ、その方が多いかもしれない。

 ジェニファーもそれはわかっているはずだった。

 …だが、『頭』で理解はしていても、『心』はそれで納得はしてくれない。

 

 

 ――せっかくアイスさんが誘ってくれたのに――

 

 

 あっちだって忙しい。だから遅れても仕方ない…と、『頭』は説得しようとしているのに、 『心』は子供のように駄々をこねている。

 だから、遅いと呟くその表情が『怒り』ではなく『寂しさ』なのだ。

 ここに来て、もう何杯目になろうか。アップルティーを一口。口にコップを近づけるときでさえも、瞳は窓の外を見ている。

 ほんの一瞬だけでも、視線をそらせない。

 傘の向こうから、彼が愛用している水玉の傘が見えるような気がして。

 だが、一秒一秒に期待を込めて窓の外を見つめる彼女の期待を裏切って、雨足が強まる外にはただ道行く人がみえるだけ。

 一向にアイスの姿は見えない。

 

 

 ――もう、こないのかな…――

 

 

 ふと、あきらめの言葉が頭をよぎり、心がぎゅっと締め付けられるような感覚になった。

 諦めの思考を消すように何度も頭を振った。その拍子に、大きな赤いリボンで結った蜂蜜色の髪が揺れる。

「そんな事ない…。きっときてくれる…。アイスさん、絶対約束破らないもん……。」

 根拠のない強がりを零す唇を噛み、ピンクのワンピースの裾を握り締める。

 ―モウ、コナイヨ―と、油断すればすぐに心に不安を撒き散らす、諦めの気持ちに耐える様に。

 有名人と一般人。

 ポップンパーティで知り合い、幾度か会話や外出を重ねるようになったとはいえ、こういう時思い知らされる。

 住んでいる世界が違うのだ、と。

 それは、会って、言葉を交わして、思い出を作る度に募っていく想いの大きさに比例して大きく、残酷なものとなっていく。

 自分と彼は、まったく住む世界が違う。

 事実を突きつけられるたびに、ジェニファーは悲しみ、より一層アイスへの想いを募らせた。

 だけど、想いが強くなればなるほど、不安も大きくなる。今の状況のように。

 飛沫を上げて降って来る雨と、その飛沫のせいで煙る通り。

 外の風景は何一つかわらない―――――――――

 

 

 

 突然、静かな町並みの間を裂く様にして、一台の救急車が通っていった。

 通行人も、店の人間も一瞬何事かとそちらへと向いた時、サイレンは遠ざかり、赤いライトも見えなくなっていた。

 窓際に座る客は窓ガラスに顔を寄せ、救急車が来た方向をみてみる。 ジェニファーも一緒になって覗き込む。

 だが、店の明かりを反射しているせいか、外の様子はわかりにくい。

 気にはなるものの、わからないし関係ない…と通行人も店の客も、先ほど自分がしていた行動の続きへと戻った。

 都会の風景というものはそういうもの。

 ジェニファーも腰を浮かせた状態から自分の椅子へと座り直した。

 また、さっきと同じ時間がリピートされはじめ―――

「おい、さっきの奴見たか?」

「ああ、見た見た…。大丈夫かな…あの撥ねられた人」

 サイレンの後、間をおかずして店にやって来た二人組の青年の会話が耳に入ってきた。

「信号、無視してったとか言ってたな」

「急いで渡ろうとしていたらしいぜ…。待ち合わせでもしてたのかな」

 何気なく耳に入ってきた会話。『待ち合わせ』という単語がジェニファーの心にくすぶっていた不安に火をつけた。

(――まさか!)

 普段なら、ここで彼らに詳しい話を聞いたり、アイスの携帯電話にかけてみたりと、まず『確認』という行動に出ただろう。

 だが、長い間の待ち合わせに、遅刻。ゆらゆらしていた心に、この言葉は深く刺さった。

 ジェニファーは、己が考えるよりも早く立ち上がると、伝票とお金をレジに持っていくと、おつりも差してきた傘も店に置いたまま、雨の中へ駆け出していた。

 雨足は彼女が店にきたときよりも強くなっており、雨のしずくが、コンクリートの地面に落ちて弾ける。

 人の合間を縫って、ジェニファーは走りつづけた。

(…嘘だよね…。そんな事…ないよね!?)

 容赦なく落ちてくる雨のしずくに視界を塞がれながらも、ジェニファーは心の中で何度も同じ言葉を繰り返した。呪文のように。

 

 

  ガッ!

 

 

「きゃあっ!」

 

 急いで走ってきたせいか、ジェニファーの赤いハイヒールのかかとが、スピードに耐えられず、折れた。

 その拍子に靴を止めていたベルトもちぎれてしまい、前に投げ出される形で、ジェニファーは濡れた歩道に転んだ。

 膝と足の指先に鋭い痛みが走ったが、今はかまっていられない。すぐに立ち上がり、走り出した。

 胸に渦巻く不安に突き動かされ、救急車が来た方向へと走りつづける。ひたすら、まっすぐ。

(――アイスさんっ!)

 コンクリートの上、赤く染まったアイスの姿の幻が見える。

 片方ハイヒール、片方半素足という非常に不安定な状態ながら、ただ気持ちのまま走りつづける。

 頭に浮かぶ最悪の事態を否定するために。

 そして、彼のいつもの可愛い笑顔を見るために。

「…アイス……さんっ……!」

 ひりつくのどが上げた微かな声。それに答えるように―――

 

「…あれ、ジェニファーちゃん?」

 

 その声は、彼女の後ろから聞こえた。

 不意打ちのその声に、ジェニファーは急に足を止めると、そちらへと振り向いた。

 聞き覚えがある、待ち焦がれていた声の主の名を呼んで…。

 

「………アイ…ス…さん?」

 

 彼女の後ろ、そこに立っていたのは紛れもないアイスの姿。

 フォーマルな服装に水玉の傘を差した、いつもどおりの彼。

 

 

――無事…だったんだ…――

 

 

 その姿が現実のものと認識すると、安堵の吐息と共に、ジェニファーは冷たい歩道に座り込んだ。

「だ、大丈夫?一体どうしたの?」

 慌てて駆け寄るアイスの顔を、涙と雨で濡れた瞳で見上げ

「……アイスさん…遅いから………さっき、救急車…通ったし……ぐすっ…だから………」

 不明瞭なジェニファーの台詞から、アイスはボロボロ状態の彼女の心情と状況を察したのだろう。

 少し体をかがめると、びしょびしょになった彼女の頭上に傘を傾けた。

「そっか…。ごめんね、心配させちゃって…。これを探していたから…」

 と、ポケットから何かを取り出した。可愛いピンクのリボンで結んだ、花柄模様の小さな箱。

「これ、選んでたら遅くなっちゃって…。開けて見てくれる?」

 アイスにいわれるまま、冷えた指先でリボンを解いていく。

 箱をあけて出てきたものは、ネズミのように丸いピンクトルマリンを三つくっつけた、赤いチョーカーだった。

 丁度、ジェニファーの髪を結っている、リボンと同じような赤。

「え…? これ……」

 手渡された突然の贈り物に戸惑い、チョーカーとアイスの顔を交互に見るジェニファーにアイスは微笑んで

「今日は、僕とジェニファーちゃんが一緒にポップンパーティ出た日だよ。覚えてない?」

「………あっ!」

 ジェニファーの中で、記憶が重なった。

 そう、今日は初めてポップンパーティに出た―――アイスと初めて出会った日だという事を。

 ――そのときも、こんな風に雨だった事も。

「5回目のパーティにはお互い出られなかったけど…ね。記念、だよ」

 へへ、と少年のような笑顔を浮かべるアイス。

 ジェニファーの目からは、また涙が零れ落ちる。

「さ、もう泣かないで。…そのまんまじゃ、風邪ひいちゃうし……そうだ! ついでだから新しい服と靴、買おうか。…それに似合うやつを、ね」

 すっかり冷えたジェニファーの腕をとって立たせると、その濡れた手を取って歩き出した。もちろん、彼女の足の傷も考慮して、ゆっくりと。

「…アイスさん……。何もなくて…よかった………」

「ん…、ごめんね…」

 小さな声に、返ってくるアイスの声。

 ジェニファーはそれには答えず、ゆっくりと頭をふり、つながれた手を握り締めた。

 彼も、それに答えるように、雨に体温を奪われた冷たい小さな手を握り返す。温かく、包むように。

 

 

 

 

 

 そして、その姿は薄霧の向こう…町の雑踏へと消えていった。

 鮮やかな桃色の姿も、水玉の傘も。

 

 

 

 

 

 降りしきる雨の中、微かに置いていかれた、小さな呟き。

 

 

 

 

 

 

   「…アイスさん……会えて…よかった……。」

 

 

 

 

 

 

-end-


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