No.24375

SF連載コメディ/さいえなじっく☆ガールACT:8

羽場秋都さん

毎週日曜深夜更新!フツーの女子高生だったアタシはフツーでないオヤジのせいで、フツーでない“ふぁいといっぱ〜つ!!”なヒロインになる…お話、連載その8。

2008-08-11 00:27:36 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:531   閲覧ユーザー数:501

「ねえねえ、夕美、どーだったのよ?」

 教室へ入って机にカバンを置くやいなや、待ってましたと麻樹(まき)がからんできた。

「どうって…もう今日から修理してもらう段取りで」

「は?修理?修理ってなに?」

「あっ。」

 しくじった。家のことは極力ナイショというのが須藤家の、というか夕美の方針である。親友に隠し事はしたくないが、どう考えても度々壊れる家なんてまともな話ではない。「いや、せっ、せやからその、こ、こ、この前から調子悪かったi-Padの」

「はあ?あんた、何の話をしてんの?」

 そこへ登校したばかりの鈴(すず)も加わってきた。「夕美ちゃ〜ん!どうだったの、ゆうべの甘い夜ぅ?」

「な、なんやその、甘い夜て」

「だってぇ。帰ってきたんでしょ、夕美ちゃんちのスナフキンさん。」

 

 

「なんやその、砂ふきん3、て」

「あれれ。夕美ちゃんはスナフキンさんを知らないのぉ?。スナフキンさんって、ムーミン谷のね」

「鈴、やめれ!あんたの例え話は余計ややこしくなる。…ようするに、ゆうべ帰ってきたんでしょ、夕美の憧れのひと」

「憧れのひとぉ?」

 夕美はその意味が理解できるまでフリーズした。「───ああっ!ほづみ君のこと?」

「うわ。とーぼけちゃってぇ。そうそう、そのほづみ君!だいたいさー、すんげー年上の男性を君付けで呼ぶトコがすでにワケありっぽくね!?」

 ニコニコ顔でぽにぽにとうなづく鈴。

「…なんでほづみ君が憧れの人やねん。ほづみ君はお父ちゃんの研究助手で、たしかに背も高いし見映えのエエ顔してるかも知れんけど、憧れなんてのとはほど遠いで」

「なるほど〜。」

 鈴が腕を組んで考え込む。

「いわゆる“妹萌え”ってわけね。うん、それがセオリーだよねー」

「は?」

「だいたいさー」と麻樹があとを引き取る。

「あんたと何年ぶりかに逢ったんだから彼氏の方でも何か反応あったでしょ?中学ん時以来の再会!お約束じゃん。昔はガキんちょだったけど、今は身も心もオ・ン・ナ…『夕美ちゃん、ちょっと見ない間にずいぶん女らしくなったね』なんて…」

 いいながら麻樹は夕美をあらためて睨め回す。

「………ないか。」

「をい。」

「そんなことないわよ〜。私たちは夕美ちゃんと毎日のように会っているから気づかないけど、久々に会うヒトなら多少は違いが見つかると思うんだ。ほら、夜空で超新星を見つけるときに新旧二枚の写真を重ねて見比べるのよね。そうするとものすごくちょこっとでも、よおおおおおく観れば違いに気づくわけで」

「あんたら、ケンカ売っとんのかっ。そもそもほづみ君にはな、そーゆートコは一切あらへん。もっとこう、超然とした」

「ええ〜、それはそれで問題じゃん。まさか彼、女に興味がないタイプ?それとも夕美が女として認められてないってことか?」

「でも彼の趣味がロリとか美少年好みだったなら可能性が…」

「ちょ、ちょっと待ったらんかい。あんたらなあ、ヒトをおもちゃにすんのも大概にせんと、しまいにシバキまくるで」

「おおコワ。あんたの大阪弁聞いてたらホントに殺されそうよ。そんなんじゃほづみ君もビビって相手にしてくんないわよ?」

「せやから、ほづみ君は」

 

「ほお、須藤の彼氏はほづみ君っていうのか」

 

「お…わああああっ!」

 担任の教師の大きな顔が三人娘の井戸端会議に割り込んでいた。「予鈴が鳴っとる。早く席に着け。須藤の彼氏の話は休み時間まで保留だ」

「せ、センセ、彼氏とちゃいますっっっ。誤解ですって」

「いいから、いいから。あ〜青春。若いって素晴らしい。ええのう、若いモンは。」

「麻樹〜!鈴〜〜〜!あんたら、あとで覚えときや〜〜〜」

 夕美よりも何列か後ろの席で並んでいる麻樹と美鈴を睨みつけたものの、ニヤニヤ笑って互いに目配せをしているふたりには何の効果もなかった。

 

(ねえ、鈴)

 授業が始まっていたが、よほど気になるらしく麻樹はまだ同じ話題に固執していた。

(あとでね。)もう鈴は相手にしない。だいたい夕美と三人で仲良しトリオの形になっているが、成績はかなりアンバランスである。夕美と麻樹は中の中か下の上なのに比べて鈴は常に学年三位以内をキープしている秀才である。

 だからといってガリ勉ではないし、塾通いもしていない。本人いわく「文科省と相性が良いだけ」なのだそうだ。

 その分、学校の授業はイマドキの学生にしては異常なほど真面目に受ける。麻樹にすれば隣の席でありながら授業中の遊び相手になってもらえないのでつまらないが、結局宿題も含めて鈴に面倒見て貰わなければならない必要上、彼女には頭が上がらない。

 仕方なく、麻樹はノートの隅にメッセージをしたためる。ちなみに、彼女のノートは書かれてあるべき筈の黒板の写しは一行たりとも書かれていず、最初から印刷してある罫線以外なにもない美しい状態だった。

〈どう思う?夕美のこと。ホントに助手さんのこと何とも思ってないのかな〉

 メッセージの書かれた部分を定規を使って丁寧にノートからちぎり、それをチマチマと折る。慣れたもので、たちまち小さな折り紙ができあがった。

 教師が黒板へ向いているスキにそれを、すい、と鈴のひじのあたりに滑り込ませた。

 鈴は慣れたもので、折り紙をひょいとつまむとあらためもせずにそのまま自分の筆入れへ片付けてしまった。それを見ていた麻樹はムッとして、鈴のひじをさっきの定規を使ってつっつく。すぐに読め、という合図である。

 とたんに鈴はすい、と手を挙げた。

「せんせー。原さんがおべんきょーの邪魔をしまーす」

「わっ。鈴!てめ、なにチクってんだよっっっっっ」

「はらー。すたんだーっぷ。ごーつー、後ろの黒板。」

「へえーい。」おもむろに立ち上がりながら(しょーがくせいかっ、あんたはっ)と麻樹。

 ぽにっ、と微笑む鈴。

 夕美は我知らぬ顔で終始前を向いたままだったが、見ないでも後ろで何が起こっていたのかは察しがつく。

(ほづみ君が憧れの人ねえ)数年ぶりに逢っても以前のまま少しも変わらない、のほほんとしたほづみの顔を空中に思い浮かべてみるが、出るのは軽いため息と苦笑いだけだった。

(…ありえんわ。)

 

 

〈ACT:09へ続く〉


 
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