No.239811

フィッシング

pixivから移動。こちらもテスト。

2011-07-28 14:27:04 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:298   閲覧ユーザー数:298

 義孝はコンビニで買ってきたカップ麺にお湯を入れて、ちゃぶ台に戻るころにはパソコンは立ち上がっていた。ユーザーの認証画面に手慣れた様子でパスワードを打ち込みログインを行い、マウスカーソルを動かしてウェブブラウザを立ち上げると、ようやく彼は一息ついた。

 彼、義孝はパソコンで様々なウェブサイトを見て回り楽しむ、ネットサーフィンを趣味にしている。大学から帰ってきても特にこれといってやることや楽しみもない、かといって親しい知人がそう多くはない彼にとっては唯一の楽しみであり、帰宅すると決まってパソコンの電源スイッチを入れてネットサーフィンを楽しんでいる、典型的なウェブジャンキーである。

 お気に入りのとある大型掲示板のまとめサイトをを開いて今日はどういうネタや記事があるか、カーソルで流し読みしながら探していく。気に入った記事が見つかったらそれを読んでみたり、またはそのとある大型掲示板に直接行って書き込みしてみたり、そういった不毛な作業を繰り返す。その姿はさながら荒野をさまよう放浪者のようだ。

しばらくいつもと同じくまとめサイトなどで情報を貪ってたが、義孝はふとデスクトップ右端の時計に目がいく。そろそろ日付が変わろうとしていた。もうそんな時間か、とあくびを一つ、伸びをした。

明日もまた朝早くから学校がある。ほどほどにして寝ないといけないよな、と今日の放浪具合に満足がいったのか、そろそろパソコンをシャットダウンしようと考えた。最後に、見逃しがないかだけをざっと見てブラウザの×ボタンを押そうとした。掲示板のスレッド一覧に妙なスレ名を見つけてしまう。

 

新着:×××:「死体の処理の仕方を教えてください」 XX/XX/XX

 

一番初めに思った感想は、「釣り」くさかった。

ネットの界隈、特にこういった掲示板の類にはいろんな人間が棲みついている。老若男女、それこそニートから政治家まで、「匿名」という仮面をかぶった状態で物事をやりとりしている。

その中でも、読んだ人を心配にさせる、あるいは嘘や作り話なんかを書き込んで注目をあびたり、心配をあおるようなタチの悪い遊びをして楽しむ人間もいる。今回もそのような類なのかもしれない、と義孝は思った。まぁでも、寝る前のちょっとの時間だけしか見ないだろうから、冷やかし程度に開けて覗いてみるのもありだなと、スレッドを開けてこのスレを立てた本人による書き込みの1レス目から見る。

 

1:お魚くわえた名無しさん XX/XX/XX 23:32:28

 人を殺してしまいました。死体の処理の仕方に困っています。どなたか死体の処理の仕方を教えてもらえないでしょうか?

 

2:お魚くわえた名無しさん XX/XX/XX 23:32:42

2ゲットォオオオオオオオオオオオオ!!

 

3:お魚くわえた名無しさん XX/XX/XX 23:34:25

 でっかい釣り針だな。釣れますか?

 

4:お魚くわえた名無しさん XX/XX/XX 23:35:30

 嘘じゃないです。本当に殺したんです。でも、警察には捕まりたくありません。このままおいていてもいずれバレてしまいます。誰にも知られないうちに処理したいのです。

 

5:お魚くわえた名無しさん XX/XX/XX 23:37:29

 まぁこんなもん書き込んでる時点で俺らに知られてるけどな。

なんにしても通報しますた。

 

このようなやり取りが、五十レスくらい延々と続いている。スレを立てた本人が掲示板の初心者で釣り方が下手くそなのか、それとも本当に人を殺して死体の処理に困っているのかどうかわからないが、もう祭だ祭だと言わんばかりに住人がスレを立てた本人をあおりまくっていてすでに収集がつかないような状態になっている。

 このとき、スレッドの内容の真偽は掲示板の住民にとってはどうでもいい。彼らにとってそれは楽しめるかどうか、が問題であって例え書き込まれたことが実際に起こったであったとしても、別に取り立てて気にはしないのだ。つまり、このスレを見つけた住人にとっては他人事で終わってしまうのだ。

 それは同じようにスレを見ていた義孝もまた、単に楽しみたいだけの住人と同じだった。ページをスクロールし、気になった話題で書き込みを行うだけで、画面から外の世界は身の危険の及ばない安全なものだからだ。

 しばらくスレを眺めて、立てた本人の右往左往、そして住人たちの煽りを鼻の下を伸ばしたような、ニヤニヤした様子で眺めていた。

しかし、最初のうちに煽りまくって嘲笑気味な書き込みをしていた住人達からの書き込みが失速し始める。自分たちが楽しめればいいのだが、もちろんこういったものには鮮度はある。日々何百万件という書き込みがある巨大な掲示板では、住人達の喜ぶようなものがなければ、すぐに掲示板の片隅に追いやられてしまう。先ほどから「教えてください」とだけしか書き込まない本人に対して飽きが来たのだろう。

それは閲覧数でも見てとれるし、書き込みスピードなど言わずもがなだ。義孝はページをリロードして得られる更新が徐々に少なくなってきたのに勘付いた。このままいけば間違いなく、このスレは片隅に流れてなくなってしまうのは目に見えている。それはこういう掲示板では日常茶飯事であるのだが、義孝はどういうわけか、惜しい、と思った。どうせなら、まとめブログに載るくらいの大きなスレッドにしてみたいという欲が出てきたのだ。ピアノを扱うような手さばきでキーボードを操り書き込みを行う。

 

70:お魚くわえた名無しさん XX/XX/XX 00:24:56

真面目に相談にのるよ?

とりあえず処理するにしてもどういう体格でどういう状態なのか書き込んでくれないとアドバイスのしようがないと思うんだが。

 

義孝は住人達とは違い、あえて協力する側につく書き込みを行った。彼には専門的な知識はない。だが、ドラマや創作物で読んだことがあるようなものを思い出しながら書き込みを行うことにした。それにこういう書き込みをした方がスレを立てた本人が必ず食いついてくると思ったから。

 

72:お魚くわえた名無しさん XX/XX/XX 00:26:45

 >>70さん

 小柄な体格です。死んでから十時間くらいたってると思います。

 早く捨ててしまいたい。

 

 やはり食いついてきた。義孝はおもちゃで遊ぶ子供のような嬉々とした感情がこみ上げたが、それを抑えてまるで専門家のような口ぶりでロールを再開する。

75:お魚くわえた名無しさん XX/XX/XX 00:27:51

 そうだな、そのまま捨てようにも無理があるから、バラすしかない。

 バラすなら関節に切れ目を入れて、外すように。筋を切るように歯を入れるんだ。関節がかみ合ってるところだけを切るんだ。あと骨をなかなか折れないが骨に傷だけでも入ったら、すぐに刑事事件に発展するからな。

 

 あんまり自信はないアドバイスではあるが、牛肉の解体とか似たようなものを参考にしながら書き込みをした。しかし、すぐにレスポンスが付くと思っていたが、しばらく本人からの書き込みはなかった。新しく書き込みが付いたのは二十分後で「ありがとうございました。やってみます」とだけ書き込みがなされて、それ以降書き込みはなかった。

 義孝も新しい書き込みがあるかと思って、夜遅くまでスレッドに張り付いて動向を見張っていたのだが、途中で睡魔に負けてしまい、翌朝顔にキーボードのあとをつけて目が覚めたのだった。

 

 

 数日たった日のことだ。義孝はコンビニで買ってきた食べ物を口に放り込みつつネットサーフィンに勤しんでいた。例のスレッドのことはすでに頭の中からすでにない様子で、いつものように行きつけのまとめサイトを一回りしてから、掲示板の方へと移動する。

 日々大量に消費され氾濫する情報の海を泳ぎまわる。彼は書き込み一覧をスクロールしながら気になるスレッドを適当に選んでそれを眺めていた。

 ふと、スクロール中にどこかで見たことのあるようなワードが目について、流れる画面を止めた。見間違えかなにか、彼はそう思ったがマウスポインタを一つ一つあてながらそのワードを探し出す。

 

新着:×××:「死体を捨ててきました」 XX/XX/XX

 

 義孝はあのスレッドのことを思い出す。もしかして、あの時のスレを立てた本人の返答だろうか、見覚えのある妙な名前のスレッドに思わず息をのんだ。

 

1:お魚くわえた名無しさん XX/XX/XX 20:32:50

 先日、死体の処理のことを書き込んだものです。死体を捨て来ました。

 

 スレッドの一番最初にはこれと捨てた場所だと思われる場所の地図のリンクが貼られていて、場所は義孝の家の近所の地下道で、歩いて行けるような距離だ。彼はこれが本当にあのスレを立てた本人が書き込んだものかどうかはわからないが、悪ふざけで書き込んでいるようにしか見えない。スレッドの住人達も、釣りだ釣りだ、と騒いでいて実際に流石にそこまで行って確認する気にはならなくなり、一通り見終わったらスレッドの画面を閉じた。

 

 そのあと義孝はコンビニまで用事に出かけた。コンビニまでは地下道を通って少し歩かねばならないのだが、ちょっとした運動と思えば苦にはならない距離だった。自宅から数分程度で地下道に差し掛かる。夜になれば人通りがない地下道で薄気味が悪いことで定評がある。地下道に入って半分まで進むと、不自然にぽつんと置かれたスポーツバックを目にし、彼は思わずぎょっとした。

 これはあの書き込みのものだろうか。あからさますぎて、逆に怪しく、そして怖くも感じている。果たしてあの書き込みの通り死体が入っているのだろうか、それとも単なるいたずらか。

 いずれにしても、これはかかわってはいけないものではないかと、彼の第六巻はすでに警鐘を鳴らしている。しかし、それよりも中に何が入っているのかすごく不安になっていた。このまま関わらなければ何もない。だが中身が気になって仕方なくなっている。

 彼は周りを見て誰もいないことを確認し、ゆっくり鞄に手をかけた。

 

 翌日、「死体を捨ててきました」というスレ ッドに新しい書き込みがあった。その書き込みは動画のリンクだけで、開くととある動画が開かれる。

内容は二十秒程度のもので、再生されると最初の五秒は真っ暗だった。六秒後に魚の腹に包丁を入れたように左右に開くと、無機質な蛍光灯の光と一人の男の顔が映った。男は中に入っていたものと自分が思っていたのと違ったいたような怪訝そうな顔をして見せた。

動画終了五秒前、突然、男の後ろから黒づくめの何者かが彼の首に手を回すように取り押さえ、画面中からいなくなった。

その後彼がどうなったのかは誰も知らない。


 
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