No.235333

暁美ほむらの平穏な1日(リメイク)

Six315さん

短編です。ほむらさんと、さやかと、仁美と、まどかの素敵な日常。ループ4週目とかおりこ☆マギカ1話以前の状況をイメージしてます。ほむさやに見えるかもしれませんが、ほむまどです。(見習い脱出のためにpixivから転載)

2011-07-26 21:57:56 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:924   閲覧ユーザー数:910

 身支度を整えたらウィダーを喉に流し込んで玄関を出る。

「おはよー、ほむらー」

「おはようございます、暁美さん」

「おはよ、ほむらちゃん」

 家の前で待っていたのはいつもの3人。

 美樹さやか、志筑ひとみ、そして、まどか。

「おはよう、みんな。行きましょう」

 私たち4人は連れだって学校に向かう。

「今日もいい天気だねー、ほむらちゃん」

「そうね、まどか」

「うーん、ほんっとポカポカしてるねえ」

 ふあ、と美樹さやかは大きなあくびをする。

「これじゃあ今日は眠くなっちゃいそう」

「あら、今日も、じゃないかしら? 昨日も数学の時間、ほとんど寝ていたでしょう?」

「う……いやあ、相変わらずほむらは手厳しいねえ、あははは」

 笑って誤魔化そうとする美樹さやか。

「でもさやかちゃん、今日の数学の小テスト、大丈夫?」

「え!?」

 美樹さやかは素っ頓狂な声をあげる。

「まどか、マジ? あたし聞いてないんだけど!?」

「昨日、授業の終わりに先生が言ってたよ……ね、ほむらちゃん」

 私は頷く。

「うあー、ノートとってないよあたし」頭を抱える美樹さやか。「こ、こうなったらカンニングするしか――」

 ふふ。

 相変わらずの粗忽者ね、美樹さやか。

「それには及ばないわ」

 私はカバンからルーズリーフを取り出す。

「予想問題よ。3回くらい目を通せば、赤点は免れるでしょう」

「うお、マジっすかほむら大先生! いや、大明神様!」

 パンパン、と手を叩いて拝まれる。

「うふふ、よかったですわね、美樹さん」

「助かったよー、仁美も見る?」

「そうですわねえ……鹿目さんはどうですか?」

「いいかな、ほむらちゃん」

「勿論よ」

「実は昨日の授業、あんまりよくわからなくて困ってたんだ。ありがとう」

「いいのよ、まどか」

「そういえば暁美さん」

「志筑さん、何かしら」

「いつも作成なさってる予想問題の的中率、とでも高いですわね。なにかコツがありますの?」

「そうね……」

 だってこの世界は、私にとって“4週目”だから――なんて言えないので。

「統計よ」

 ……自分でも、微妙な誤魔化し方だった気がするわ。

 

「ちかれたー」

 ぐでー、と机に突っ伏す美樹さやか。

「あたししぬー、昼ごはんも食べれずに死んで霊になるー」

「ふふ、今日は大変だったね」

 クスクスとまどかが笑う。無理もないわね。一時間目の小テストで精魂を使い果たしたところに、まるで狙い澄ましたかの様に毎時間毎時間、美樹さやかは当てられたのだから。しかも厄介な問題ばかり。私が後ろの席に居なかったら、どうなっていたかしら。

「ほら、さやかちゃん、ごはん食べにいこうよ」

「よっしゃー、最後の力をふりしぼるぜー」

 ふらふらと立ちあがる美樹さやか。

「で、どこいくー?」

「うーん、今日はお天気もいいし、屋上かなあ」

 まどかの言葉を聞いて、私は一瞬だけソウルジェムに注意を向ける。……屋上に誰か居ないか、魔法で探る。居た。巴マミ。友人と弁当を食べている。

「まどか、今日は食堂にしましょう」

 まどかを、巴マミに出会わせたくなかった。これまでのループを振り返ると“巴マミとの出会い”が、魔法少女になるきっかけで――そして私は、まどかを魔法少女にしたくはなかった。

「うん、いいよ」

「おー、さっすがほむら、わかってるねー」

 思いがけないことを美樹さやかに言われて、私は少し驚く。

「いやー、実は3時間目あたりからくらくらしててさー、貧血かな。ちょっと日光とかキツいんだよね」

「ほむらちゃん、気づいてたの?」

 偶然よ、と正直に言おうとして――けれど私は、少しだけ見栄を張っていた。

「ええ。ところで仁美は?」

「仁美ちゃんは委員会の集まりがあるんだって、終わったらくると思うから、メールしておくね」

 

 昼食を済ませたら午後の授業。そしてホームルームが終わり――

「書道のお稽古がありますので……」

 志筑仁美は1人で帰り。

「今日は会議なの、たぶん17時までかかるかな」

 まどかは保健委員会へ。

「あたし、ちょっと用事なんだ」

 美樹さやかは行方をくらます。

 そして私は掃除当番。二階南の階段。ごくごく小さいスペースだから私1人が担当。人通りが少ないおかげで、汚れもそんなにない。箒でさっと掃いて済ませる。

「こんにちわ、暁美さん」

 声を掛けられて見上げれば、そこには巴マミ。

「この前の話、考えてくれたかしら」

 私は思い出す。同じ魔法少女なのだから協力して魔女と戦おう、そんなことを言われた記憶がある。

 

 ――死ぬしかないじゃない! あなたも! 私も!

 

 前回のループの巴マミの姿が頭をよぎった。佐倉杏子を殺し、私に、まどかに銃を向けた。……判ってる。今のこの巴マミとは関係のない話だ。

 けれども。

 

「……ごめんなさい、もう少し考えさせてもらっていいかしら」

 

 私の口からは、そんな言葉が出ていた。

 

「そう」

 思案顔の巴マミ。

「できれば争わずに済むことを祈っているわ」

 去っていく。

 私も、あなたとは争いたくない。いつか、この気持ちも整理がつくのだろうか。ついてほしいと、願った。

 

 掃除が終わったのは16時で、保健委員会が終わるまでかなり時間があった。どうしようか。私は何の気なしに図書館へと足を向けた。本を読んで時間を潰すのもいいかもしれない。

 そしてそこで、意外な人物を見つけた。

 美樹さやか。

 ひどく真剣な表情で本に向かっている。いつもの、活発そうなイメージとはかけはなれた様子。

 私は声をかけた。

「あら、偶然ね」

「お、ほむらじゃん。掃除もう終わったの?」

「ええ、2階南の階段だもの」

「あー、そりゃ楽勝だわ」

「隣、いいかしら」

「どうぞどうぞ」

 私は美樹さやかの横に座る。

「何を読んでいたの?」

「えっと、さ」

 本の表紙をこちらに向ける。リハビリの本だった。

「恭介の腕が動くように、何か手伝いができたらな、って」

「健気ね」

「そんなんじゃないよ。ただ、ほおっておけなくってさ、恭介、すごく苦しんでるし……」

「あなたのそういう優しい部分、素敵だと思うわ」

「や、やめろい。さやかちゃんを口説いたって簡単にオチはしないぜい」

「ふふ、そういうつもりじゃないわ。思ったことを言っただけよ」

 そう、美樹さやかは優しい。

 

 前のループ、あなたが魔法少女になった理由を、私は覚えている。

 あの時、私も巴マミも、そしてまどかも深手を負っていた。誰一人としてまともに戦える状況ではなかった。けれども魔女はそんな事情を考慮してはくれない。人々を襲い、ついには志筑仁美へと魔手を伸ばしていた。

 私たちは傷ついた身体を押して戦ったけれど、魔女は想像以上に強大で……誰もが死を覚悟した時。

 あなたが現れた。魔法少女として。

 ――みんなが戦って傷ついてるのに、見過ごせないよ。

 それから4人で戦うようになって、あなたはいつも、私やまどかを守ろうとしてくれていた。その恩は今も忘れていない。恩を返したいと思っている。前のループの様な不幸な結末を、あなたに訪れさせはしない。

 

「ねえほむら、今って何時くらいかな」

 私は腕時計を見る。

「16時15分ね」

「まどかが委員会終わるのって、17時だよね。あたしも一緒に帰っていいかな」

「勿論よ」

「それじゃあさ、まどかが来たら起こしてもらっていい?」

 ふぁああとあくびする美樹さやか。

「午後の授業ハッスルしすぎちゃってさー」

 言いながら机に突っ伏し――3秒後には寝息を立てていた。

 無理もないわね。午後はバスケットの授業、美樹さやかは縦横無尽、勢い余って隣のコートに助太刀するくらいの活躍だったもの。

「すー」

 穏やかそうに眠る美樹さやか。

 その顔を見ながら私は考える。

 これまでのループを考えるなら、このあと間違いなく美樹さやかは失恋する。荒れるだろう。普段の様子からは考えられないほど、美樹さやかの心は脆い。

 

 ――私達に妙な事吹き込んで仲間割れでもさせたいの?

 ――まさかあんた、ホントはあの杏子とか言う奴とグルなんじゃないでしょうね?

 

 私が話した魔法少女の真実を、受け止められないくらい。

 さらに言えば。

 私が真実を話した時は、まさに失恋した直後で、美樹さやかはひどく苛立っていた。

 

 ――私この子とチーム組むの反対だわ。

 ――まどかやマミさんは飛び道具だから平気だろうけど、いきなり目の前で爆発とか、ちょっと勘弁して欲しいんだよね。

 

 それが本心からの言葉ではないことを私は知っている。

 なぜなら美樹さやかは、魔女になる寸前、私にこう告げたのだから。

 

 ――前は、ごめん。勢いでつい、心にもないこと、言っちゃった。

 ――あんなこと言っておいて、ずうずうしいけど、さ。

 ――まどかのこと、お願い。

 ――実はさ、さやかちゃん、アンタのこと、結構頼りに思ってたんだよね。

 

 美樹さやか。

 前のあなたが遺した意思は、きちんと私の中に息づいている。

 まどかは私が守る。

 けれどそれだけじゃなくて。

 今のあなたも、守ってみせる。

 

 ひとまずは、そう。

 上條恭介のことを、どうすればいいか。

 単純に、美樹さやかの恋が実れば解決、というわけではない。それは、志筑仁美の失恋を意味する。

 志筑仁美もまた、私の大切な友人だ。彼女が悲しむ顔も、また、見たくはなかった。

 ……どうしたらいいのだろう。

 

 そんなことを考えているうちに。

「あ、ほむらちゃん!」

 保健委員会が終わったのか、まどかがやってくる。

「さやかちゃんも待っててくれたんだね。でも、寝てるのかな」

「疲れてるらしいわ。ひとまず起こしましょう」

 私は美樹さやかの肩を叩き――少しだけ魔力を流し込んだ。

「……はっ!」

 目を覚ます美樹さやか。

「あ、まどか。もう終わったの?」

「うん。さやかちゃん、ほむらちゃん、一緒に帰ろ」

 

 かくして私たちは3人で学校を出る。

 

「でもほむらちゃん、すごいよね」

 ふふ、と笑いながらまどかが言う。

「さやかちゃん、すごく寝起き悪いのに、ほむらちゃんだったら簡単に目が覚めちゃうんだもん。どうやってるの?」

 魔法、だなんて言えない。

 私は誤魔化すことにした。

「判らないわ。強いて言うなら……相性かしら」

「まーあたしたち、ベストカップルだし?」

 美樹さやかは私の手を握って高く掲げた。

「図書館でも口説かれちゃったしね―」

「えっ!? ほ、ほんとなの、ほむらちゃん」

「……そういうつもりはないわ」

「くぅ、振られちまった! やっぱりあたしの嫁はまどかしかいねー!」

 がばっ、とまどかに抱きつこうとする美樹さやか。

 私は、なぜか、それを腕で制止していた。

「おろ?」

 首をかしげる美樹さやか。

「おろろ、これは嫉妬ですかな?」

「違うわ。公衆の面前よ」

 場所は駅前の大通り。人目も多い。

「ふーん、ふーん」

 にやにやと意地悪げに笑みを浮かべるさやか。

「いやあ、ツンデレっていいもんですなあ」

 などといって、1人で盛り上がる。

「そういえばさやかちゃん」

 まどかは言いながら、右の方を指さす。

「病院に着いちゃったけど、今日はどうするの? 上条くんのお見舞い」

「うん、行ってくるよ。遅くなるかもだし、2人は先に帰っててよ」

「それには及――」ばない、待っているわ、と言おうとして。

 けれど。

「じゃあ、今日はわたし、ほむらちゃんに送ってもらうね」

 まどかが、まるで遮るようにそう言った。

「おっけー、2人とも気をつけて帰りなよー」

「ありがと、またね。ほら行こ、ほむらちゃん」

「え、ええ」

 私は若干の違和感を覚えながら、まどかについていく。いつもなら、一緒に待つ、って言うはずなのに。

「ねえ、ほむらちゃん」

 しばらく歩いた後、出し抜けにまどかが言った。

「何かしら」

「もしかしてさやかちゃんのこと、待ってたかった?」

「いえ。けれど、いつもはそうしてたから」

「そっか」

 なんだかまどかの様子が、おかしい。どこか、冷たい。

「まどか」

「なに」

「機嫌を損ねてしまったかしら」

「ううん、そんなこと……ないよ」

「なら、いいのだけれど……」

 会話が途切れ、無言で私たちは進む。

 どうしたんだろう。

 明らかに変だと感じる。

 けれど、まどかは私からの言葉を拒絶してるみたいで、何も言えなくて。

 やがて、分かれ道に辿り着く。

 左に行けばまどかの家、右に行けば私の家。

「じゃあ、わたし、こっちだから……」

 どこか寂しげな様子で帰っていくまどか。

 それを放っておける私ではなかった。

「待って」

 その手を掴んでいた。

「少し、家に寄っていかない?」

 自分でも驚くほど積極的な言葉だと感じた。けれど、今はそれを言うべきだと直感していた。

「え、でも……」

「私は、もう少し話をしたいわ」

 すこし強引に手を引くと、まどかはそれに従った。

「あのね」

 まどかが口を開いたのは、少ししてからのことだった。

「……ごめんね」

 今にも消え入りそうな声だった。

「えっと、ね……その、ね……」

 まどかは、自分なりにどう言葉にしていいか迷っているようだった。

 私は、急かしたりはしなかった。まどかなりに考えがまとまるまで、待った。

 やがて。

「最近ほむらちゃん、さ」

 ポツリ、とまどかはそう呟いた。

「さやかちゃんと、すっごく仲、いいよね」

 そうだろうか。

「今日だって、予想問題見せてあげてたし、当てられたら答え教えてあげたしさ。貧血を気遣って食堂に行こう、って言っあげたり、図書館で仲よさそうにしてたり……さやかちゃんだって、口説かれたとかベストカップルとか言ってたし……。仲良しさんだな、って」

 言われてみれば、確かに、そう見えなくもない。

「だからちょっと、寂しいな、って。それでなんだかもやもやして……ごめんね」

 それを聞いた私は。

 

 ――クラスのみんなには、ナイショだよっ!

 

 これまでのループで出会った、魔法少女のまどかを思い出し。

 そして、同じ顔同じ声同じ姿をしていながら、魔法少女ではなく、少し自信なげな今のまどかを。

 ひどくいとおしいと、感じた。

 

 気づくと握った手を引きよせて、私はまどかを抱きしめていた。

「わ、わ……」

 初めて正面から抱きしめたまどかの身体は、やわらかくて暖かくて、ずっとそうしていたいくらい、心地よかった。自分の中で優しい気持ちが広がって、それがだんだんと喉の方にせり上がってくるような感覚があった。

 私は口を開いていた。

「まどか、あなたを軽んじる気なんて、ないわ。私は不器用だから伝わらないかもしれないけれど、あなたのこと、一番大切に思ってる」

 あなたのために、私は何度もこの時間を巻き戻してるんだから。

「だから、大丈夫。寂しがる必要なんて、ない」

「ほむらちゃん……」

 まどかも、私の身体を抱き締めた。

「……ごめんね、ありがとう」

 

 私たちはしばらくそうして抱き合っていて――遠くから自転車の音が聞こえて、慌てて身を離した。

「あ……」

 どこか惜しそうなまどかの表情。

 私は。

「今日、夕食、一緒にどうかしら?」

 そう、誘いかけていた。

「いいの?」

「歓迎するわ。何なら、泊まっていって。一度、ゆっくり過ごしたいと思っていたの」

「ほんとう?」

「ええ」

「えへへ、嬉しいな……」

 照れながら浮かべた、まどかの笑顔は、とてもとても可愛らしくて。

 私はひどく、幸せな気分だった。

 

 まどかが居て――それだけじゃなくて、さやかや仁美と過ごす、日々。

 いつまでも続けばいいと、思った。

 


 
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