No.22887

アトル2

時間旅人さん

オリジナルのファンタジーです。
アトル1の続編。
BL系ですので、ご注意下さい。

2008-08-02 16:28:42 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:647   閲覧ユーザー数:625

【アトル2-雪花祭】

 

 

 

 冬、北に位置する白の国は、寒さ厳しく一番過酷な季節である。

 その冬に、白の国では幻想的な祭が行われる。それが雪花祭である。

 国のいたるところで雪や氷で作られた像が立ち並び、特殊な氷で作られた食器やインテリアが販売される。どのような技術で作られているのか、この氷で作られた物は一年は融けることがない。質の良い物ならば五年程は融けることがない。

 そして、この祭の最大の見世物は、祭の期間中週に一度、神官によって行われる雪花の舞である。

 この国では雪は結晶のまま降る。その雪の中である能力を持つ者が舞うと不思議な現象が起こる。それを見るために、多くの人がこの国に集まるのである。

 多くの人で溢れている大通りを、とても目立つ二人の青年が歩いていた。

 一人は炎のような赤い髪、もう一人は漆黒の髪の、どちらも背が高く端正な顔つきの青年だった。

「寒いはずなのに、何故だか暖かく感じるな…」

 赤い髪の青年―エリアスが言った。

「そうだな」

 その言葉に苦笑して、黒髪の青年―ラスが答えた。

 凍える程の寒さにもかかわらず、この国の者はそれに不快を示すのではなく笑みを湛えている。

 この国は優しさに満ちていて、それが訪れる者に温もりを与えるのだった。

「それよりも広場に行かなくていいのか?それが目的でこの国に来たんだろう?」

 ラスの言葉にエリアスがニッと笑う。

「そうそう、今日の舞はアルヴィスだからな、これを逃すわけにはいかないさ。急ぐぞ!ラス」

 言って、エリアスが足を速める。

「やれやれ」

 ラスは溜め息をついて、エリアスを追いかけた。

 

 

 広場は沢山の人で埋め尽くされていたが、エリアスとラスはちゃっかりと最前列に潜り込んでいた。

 時間になり広場に作られた舞台にアルヴィスが現れるとざわめきが消え、広場は静寂に包まれた。

 アルヴィスは一礼すると、舞を始めた。

 舞は激しい動きをするものではなく、その場から殆ど動くことはなく、手にしているショールのような薄布を操っているようなもので、流れるような動作はとても美しいものだった。

 そして、舞をはじめて数分後、それは始まった。

 布の動きに合わせるように宙を舞っていた雪が、純白から淡い青や淡い紫に色を変えていった。

 それを見た者達から感嘆の声が上がる。

 色が増えるに従って、声は大きくなっていった。

 通常はその者の特性に合った一色のみに変化するのだが、アルヴィスは無数の色を生み出してゆく。強大な力を持つ者でなければ成し得ない事であった。

 色付いた雪が舞う姿は花びらが舞っているように見える。それが、この舞が〃雪花の舞〃と呼ばれる所以なのである。

 不思議な雪の花が舞う幻想的な光景に、人々はただ見惚れる。それはエリアスも例外ではなく、その光景を…それを生み出しているアルヴィスを見つめていた。

(綺麗だな)

 そんなことを思っているエリアスの前に海のような青い雪が集まり、それが花の形となった。

 その青い雪花がエリアスの手の中に降りてきた。

 その花をエリアスが受け止めると、声は一際大きくなった。

「え?」

 その事にエリアスが驚いていると、横から声がかけられた。

「お前さん、アルヴィス様に選ばれたんだよ。舞台に上がってそれをアルヴィス様にお渡しするといい」

「あ、ああ解った」

 隣にいた婦人に言われた通りにエリアスは舞台に上がり、雪花をアルヴィスに差し出した。

「ありがとう、エリアス」

 そう言って受け取ると、アルヴィスはエリアスに触れるだけの軽い口づけを贈った。

(…え?)

 何が起きたのか解らず呆然としているエリアスを、大きな拍手の音が現実に連れ戻した。

(な、なんかこれって…婚姻みたいだ……)

 そんなことを考えてうろたえているエリアスに、アルヴィスが話しかけてきた。

「来てくれてありがとう、エリアス。私はあなた以外を選ぶつもりはなかったから助かりました」

「…それは…?」

「一般には祭の間のパートナー選び、と伝えられているのですが、本当の意味はあなたが感じた通りの事です」

 言って、アルヴィスが微笑む。

「えっ!」

「あなたが私のパートナーであることには違いないでしょう?」

「………」

 アルヴィスはエアーリアで、エリアスはそれと対をなすファーリアである。確かにパートナーには違いなかった。だが、アルヴィスの言葉からはそれ以外の意味も感じ取ることができる。

「そうだな、俺はお前を守る者だ。…全ての意味でな」

「エリアス…」

 その言葉に、アルヴィスが嬉しそうに微笑む。

 エリアスはアルヴィスを抱き寄せて、口づけた。

 その二人を祝福するかのように、雪花が舞う。

 


 
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