No.22756

†In The Darcness of Warmth†

Aliceさん

両親に捨てられ、笑うことを忘れてしまった天涯孤独の少女、「キャスリーン(キティ)」がとある男に手を差し伸べられ、その日からキティの生活が変わってゆく・・・・。

短編の恋愛モノです。(純愛モノではございませんのでご注意を)

2008-08-01 21:40:33 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:455   閲覧ユーザー数:438

 
 

~プロローグ~

「お母さん?! お父さん?!待って、置いていかないで!」

少女は必死に叫んだ。

両親は「すまない」と繰り返しながら去ってゆく・・・・。

「お父さん!お母さん!」

その少女はただただ必死で追いかけた。 

ところが、馬車に乗られて追いつけなかった。

どうして・・・・。 置いて・・・いくの?・・・。

私、悪いことしてないよね?・・・。

「皆キライ・・・。キライキライキライ!!」

わずか13歳で天涯孤独になってしまった少女、キャスリーンは笑うことを忘れ、人と言う存在を嫌悪した。

如何して生きてるの・・・? 私は生きていいの?

ワタシハ・・・・ナニ?

 

~孤児院での出会い~

「キティ!いらっしゃいな」

孤児院「セント・マリア」に入ったキャスリーン、愛称キティは、孤児院のミセス・ジュディアリーに呼ばれ、無表情のままその場に向かう。

「何でしょうか?」

「読書ばかりしていないで貴女もトランプにまざりなさいな。ね?」

優しく問われたが、キティは、また無表情のまま答えた。

「いえ。本のほうがいいですから」

そして後の言葉を聞かずにさっさと早歩きで部屋に戻った。

・・・。ほかの人と遊ぶなんて、イヤよ・・・・。 どうせ皆裏切るのだから。

心の中でそうつぶやくと、また、本の世界に没頭した。

やわらかい風が吹いて、彼女の磁器のような白く美しい頬をなで、さらりとしたフォーンの腰ほどまである長いストレートの髪をゆらした。

ふと、キティは顔を上げた。そこにはネコがいて、じっとこちらを見ている。

まるで風に運ばれてきたかのようだった。

「おいで?」

ふと、呼んだ。 このネコを知っているような気がした。

何だろう・・・?。

そして答えを見つけた。

「不思議の国のアリス」に出てくるダイナとそっくりだった。

ダイナそっくりのそのネコは、パタパタと耳を揺らして去っていった。

キティはもう一度視線を本に戻し、また、本の世界に没頭していった。

そうして幾日が過ぎたある日、孤児院で毎年開かれている、「感謝の会」についての話し合いがあった。

「感謝の会」とは、寄付をしてくれる貴族や、ボランティアで働いてくれている人たちへの感謝の意を表した会であり、毎年セント・マリア には多くの貴族が訪れた。

「話し合いを始めるから、集まってちょうだいな!」

ミセス・セディの掛け声で、孤児院の子達が集まった。

「今年は劇、ピアノ、ハープ、合唱、詩の暗唱をしたいと思うのだけれど、みんなどうかしら?」

子供たちは賛成の意を示し、話し合いを進めた。

「えぇと、ピアノは・・・、ジュディ、貴女でいいかしら?」

「はい!私、がんばるわ!」

ジュディと呼ばれた女の子は元気よく答え、にっこりと笑った。

「それじゃぁ・・・ハープは・・・・」

ミセス・セディはハープが弾ける少女がいたかしばらく記憶を辿り、一人見つけた。

「キティ、お願いしてもいいかしら?貴女しか弾ける子がいないのよ」

キティは表情を変えず、ミセス・セディをじっと見た。 

いつもお世話になっているミセス・セディの頼みだから・・・。

とキティは考え、無表情のまま返事をした。

「分かりました」

「有難う!それじゃ、ジュディとキティはさっそく練習を始めて!ジュディ、貴女は「乙女の祈り」をお願いするわ。キティは、「木星」を歌をつけてお願い。」

え・・・。 とキティは誰にも聞こえない声でつぶやく。

歌なんて・・・・。

歌なんてずっと歌ってないわ・・・。

そう思いながらもキティは小さな声で「はい」と返事をし、ゆっくりとした足取りでハープの在る講堂に向かった。

 

講堂には誰一人としていず、キティは少しほっとした。

見られたくないもの・・・。

一人で呟くと、ハープを調律しゆっくりとかたむけ弾き易いように調整して、楽譜に目をやり、弾いた。

二回ほど練習を繰り返したキティはスゥ。

と小さく深呼吸をして、歌を紡ぎ始めた。

キティの歌声はすばらしいもので、まるで真珠の転がるような可愛らしさと、黒曜石のように落ちついた暗く、大人びた声との両方を持ち合わせていた。

けれども、そんな美しいキティの声に耳を傾けるものはいなかった・・・・。

・・・。否、一人いた。

年若い男で、セント・マリアに寄付の相談を持ちかけていた帰り足だった。

ふと耳に侵入してきた美しい歌声に、思わず立ち止まって聞き入っていた。

美しい声を前に、男はただ考えていた。

この少女は?・・・。 孤児だろうか? あぁ、顔を見てみたい。

そんな衝撃に駆られ、男は柱の影から顔をみた。

百科事典か何かの本の角で頭を殴られたような衝撃だった。

・・・・・美しすぎる・・・・

白い磁器のような肌、サラリとした腰ほどまであるフォーンのストレートの髪。

憂いを含んだような瞳。

全てに心を奪われた。

そしてまた、彼女が笑わないことに気付いた。

気付いた男は一つのことを決心した。

彼女を、笑わせてみせる・・・。

    *

更に幾日か過ぎ、「感謝の会」当日になった。

劇はシェークスピアの「オペラ座の怪人」が公演され、大きな拍手をもらった。

ジュディのピアノも素晴らしいもので彼女も大きな拍手をもらった。

暗唱もまたそうだった。

「感謝の会」も大詰めになり、キティはハープの調律を終わらせドレスに着替えていた。

ドレスはミセス・セディがキティのために作ったもので、フォーンの髪を引き立てる淡いペールグリーンの色合いでまとめられていた。

シルクを使い光沢を出し、胸元には可愛らしいレースと薔薇の刺繍で飾られていた。

袖はパフ・スリーブで袖口にはリボンがついていた。

キティはその上からペールグリーンの紗のショールを身にまとい舞台の中央に上がった。

軽くお辞儀をし、座ってハープを傾ける。

その中にはあの年若い貴族の男もおり、キティが演奏する瞬間を今か今かと見ていた。

小さく息をして、ハープとともに歌い始める。

曲が終わり、二、三秒の沈黙があった後、大きな拍手があった。

キティはもう一度お辞儀をして、その場を去った。 

 

             *

「キティ!あぁキティ!!」

 

ステージから離れて、着替えをしようと長い廊下を歩いていたキティの元に飛んできた言葉はミセス・セディのものだった。

「あぁキティ、とってもすばらしかったわ!貴女のハープは世界一よ!」

口早にほめ言葉を並べると、ミセス・セディはキティを優しく抱きしめた。

「そんな・・・。」

たじたじと戸惑うキティを、ミセス・セディはもう一度優しく抱きしめてから、頬を上気させて続けた。

「あのね、貴女のハープをとても気に入って、ぜひ家にって方がいらっしゃるのだけれど・・・。あっていただけないかしら?いつもセント・マリアに多大な寄付を寄せていただく貴族の方なのよ」

 

 
 

 
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