澄み渡る空、照りつける太陽、気温も過ごしやすく、湿気も少ない。
要するに、とてもいい天気だった。
今日の天気を見て、普段は感情をあまり表に出さない思春も少し口元が笑っていたのも良い証拠だ。
最近雨が続いていたからな。
今日は何だか良い事がありそうだ。
そんな中、仕事もそこそこに済ませ俺は町に昼食をとりに行くのだった。
「ごちそーさん」
蒼里さんが美味しいって言ってたから入ったけど、結構美味いな、この店。
娯楽が少ないというのもあって、最近は食い歩きが趣味になりつつある。
ちょっとでも気になる店があればつい入ってしまうのだ。
そんなことを考えながら歩いていたら、人だかりが目に写った。
何かあるのか?
気になったので俺もその輪の中に入っていった。
「何かあったのかい?」
「ああ、御使い様。これですよ」
そう言っておっさんが指差す方を見てみる。
「人?」
そう、人が倒れていたのだ。それも俺と同じぐらいの男が。
そりゃ道のど真ん中で人が倒れてれば皆足を止めるよ。
「はい。あっしは直接見てないので本当か分かりませんが、何でも急に倒れたとか」
急にって…、熱中症とかか?
さて、人だかりの原因も分かったことだけど、どうしようか。
まさかほっとくわけにもいかないしな。
仕方ない、俺が何とかするか。
「お~い、生きてるか?」
とりあえず生死の確認をしよう。
身を屈め、ペチペチと男の頬を叩く。
「……う、う~ん…」
どうやら死んではいないようだ。
「大丈夫か~?」
今度はさっきより大きな声で呼びかける。
「…………」
へんじがない。ただのしかばねのようだ
さっきのが最後の言葉だったのか?
不憫な最期だったな……
なんてふざけてる場合じゃないな。
「おい!しっかりしろ!」
上半身を起こし、両肩を大きく揺さぶりながら必死に呼びかける。
戦争でもないのに目の前で人が死ぬなんてことがあってたまるか!
俺の祈りが届いたのか男の口が開いた。
「メ、メシ……」
今こいつメシって言ったのか?
まさか空腹で倒れてたってオチか!?
途端に俺の身体から力が抜ける。
だが、命の危険には変わらないんだよな。事実、さっきまで意識無かったし。
俺は立ち上がると、見守っていたギャラリー達を押しのけ肉まんを買うのだった。
「ほれ、これでも食え」
俺は男の口元に肉まんを差し出す。
男は何とか口を開くと、ゆっくりとそして噛みしめながら肉まんを食べるのだった。
2個を食べ終わる頃には何とか立ち上がる程度には回復したようだ。
その姿を見てギャラリー達も次第に元の仕事に戻っていった。
「ふ~、何とか助かったぜ。礼を言うよ」
「まったく。何でまた行き倒れてなんかいたんだ?」
「途中で金も食うものも無くなってさ。気合で何とかいけるかなと思ったんだけどな」
気合で腹が膨れれば誰も苦労しないだろう…。
こいつ、もしかしてオツムの方が残念なのか?
「そ、そう。ところで腹の方は大丈夫?」
「ああ。問題なしだ!世話になったな」
そう言って男は颯爽と去ろうとしたが、
ぐー
何とも情けない音が男の下腹部から響いた。
格好のつかない奴だ。
「…………」
「…………」
気まずい沈黙が俺達を包む。
ここまできたら最後まで面倒見るか。
「ちゃんとした所でメシでも食うか。奢ってやるからついて来いよ」
「……すまん」
というわけで俺はさっきまでいた店に戻ってきた。
適当に注文し、男の方はそれを夢中になって食べている。
どんだけ腹へってたんだよ。
予定外の出費に頭を抱えている俺を余所に、男が口を開いた。
「そういえば名を名乗ってなかったな。俺は凌統。真名は椿だ。本当に感謝してるぜ」
なんと、こいつ凌統だったのか。
珍しく女性じゃないんだな。う~ん、基準が分からん。
「真名って、いいの?」
「ああ、勿論だ。なんたって命の恩人なんだからな」
命の恩人か。
そんな大それたことをした気はしないが、本人が納得してるんだからいいか。
「じゃあ、俺も。俺は北郷一刀。よろしく」
「北郷か。ところで、その恰好からすると役人かなんかか?」
「う~ん。城で働いているのは確かだけど役人ではないな」
そういえば俺ってどういう立場なんだろう?
一応天の御使いってことになってるけど、それは肩書であって役職ではないよな。
城での扱いは一番の下っ端だし。
今度、蒼里さんにでも聞いてみるか。
「まあ、城で働いてはいるんだな。だったら、俺を雇ってくれないか?」
……これはまたえらく急な話だな。
とりあえず理由でも聞くか。
「何でまた?」
「聞いても楽しい話じゃないぜ?」
「かまわないよ」
「…親父の仇を追ってるんだ。もう二年近くになるかな。この近くに居るらしいっていう情報を得てな。ここは一つ腰を据えてじっくりと情報を集めようと思ってさ。それにさ、世も荒れて来てるだろ?俺の力を何かに役立てたくてな。腕の方は自信あるぜ?」
成程、そういう理由か。
心情的には助けてあげたいけど、俺なんかの推挙で蓮華は納得してくれるのかな?
う~ん、と頭を捻っていたら店の入り口がガラっと開き、思わずそちらの方に顔を向けてしまう。
「一刀か。こんなとこで会うなんて奇遇だな」
新たに入ってきたのは以外にも蓮華だった。
そういえば蒼里さんからこの店のことを聞いた時、蓮華もいたっけ。
「うん、奇遇だね。一人?」
「いや、思春も一緒だ」
蓮華がそう言うと同時に遅れて思春も店に入って来た。
「し「見つけたぜ!!!!」
うおっ!?
果たして、鼓膜が破れる程の大声をあげたのは俺の正面に座っていた椿であった。
「やっと見つけたぜ、甘寧!」
「誰かと思えばお前か…」
どうやら両者とも面識はあるようだ。
それにしても、ヒートアップしている椿とは対照的に思春は落ち着いてるな。
いや、落ち着いてるというか、何か『面倒くさい奴に会っちゃった』って顔してないか?
あと、蓮華は事態についていけてないのか目を右往左往させている。
「ここで会ったが100年目ってやつだ。今日こそは積年の恨みを晴らさせてもらうぜ!」
椿は壁に立て掛けてあった自身の得物に手をかける。
それを見て思春の方も愛用の短刀を抜こうとしていた。
って、おい。
こいつら店の中でおっぱじめるつもりかよ!?
「ちょ、ちょっと待て!こんなところで喧嘩なんかしたら迷惑だろ。まあ、落ち着けよ。な?」
とりあえず俺は近くに居る椿をなだめることにした。
思春の方は蓮華が何とかしてくれるだろう。
「安心しろよ。俺は最高に冷静だぜ?」
はい、アウト。
こいつ絶対冷静じゃない。
「冷静な奴はそんなこと言わねえよ!ホントに頼むよ。悪い噂立てられても困るからさ」
俺の必死の説得が功を奏したのか、椿は徐々に落ち着きを取り戻していった。
「確かに考えが足りなかったな。おい、甘寧!悪いが、面貸してもらうぞ」
思春はやれやれといった感じで渋々首を縦に振った。
おそらく、断ればもっと面倒くさいことになることを悟ったんだろう。
「蓮華様、申し訳ありませんが所用が出来てしまいました。すぐに片づけますので、しばしお待ちください」
「へっ、よく言うぜ」
そうして二人は睨み合いながら店を後にした。
「……どういう訳か話してもらおうか?」
置いてかれた蓮華が説明を求める。
まあ、そうくるだろうとは思っていた。
さて何から話せばいいことやら。
とりあえず俺は分かる範囲で説明をするのであった。
場所は移り、ここは町外れ。
蓮華に説明をした後、俺達は急いで二人の後を追った。
そして、行き着いた先がこの町外れの適当な広場だったのである。
人通りもなく、正に決闘にはうってつけといったところか。
俺達が見つめる先に、一定の距離を空け思春と椿が対峙していた。
「これでも忙しい身なのでな。私が勝ったら二度と関わらないでもらうぞ」
「いいぜ。あり得ないけどな」
椿は包んでいた布をはぎとり、その得物の姿を顕わにした。
あれは棒?いや、棍ってやつか?
椿はそれを中段に構え、対する思春は愛刀である鈴の音を抜刀した。
「あの男、かなりやるな」
共に固唾を飲んで見守っていた蓮華が呟く。
「そういうのって分かるものなの?」
「それなりにな。私の武なぞ思春に数段も劣るが、人を見る目には自信がある。あの男、思春と同じくらいにはやるぞ」
「思春と同じって…、マジ?」
腕に自信はあるって言ってたからそれなりにはやると思ってたけど、まさか思春と同じくらいって。
「っ、始まったぞ!」
先に仕掛けたのは椿の方だった。
大きく踏み込んで一気に距離をつぶすと、大量の突きが思春に降り注ぐ。
棍と短刀のリーチの違いを生かした戦い方をすると予想していただけに、これは意外だった。
だが、面食らってた俺と違い、思春は冷静にそれに対処する。
嵐の様に降り注がれる棍をその巧みな足使いで全て紙一重で回避していく。
そして、一瞬の間隙を縫ったかと思うと、鈴の音で棍の先端をかち上げる。
そのまま踏込み、椿に肉薄せんとしたが、そう簡単には椿は懐を許さない。
かち上げられたのとは反対側を下段から上段へと振り払う。
思春はそれに反応するとバックステップでそれを避ける。
二人は再び距離を空けて睨み合った。
「互角みたいだね」
「ああ。まさか思春とここまで打ち合える者が在野にいたとは。これは長くなりそうだな」
蓮華の見立て通り、椿の武力は思春と互角と言って良かった。
互角同士の戦いか。
蓮華の言う通り長期戦は必至かな。
最後にものをいうのは根性ということか。
となると、意気込みが違う椿の方が有利か?
だが、俺と蓮華が長期戦を予想する傍らで、決着はあまりにもあっさりと着くのであった。
「……てめぇ、どういうつもりだ?」
何と、思春は構えを解いてしまったのだ。
その姿は余りにも無防備過ぎる。
これには蓮華も面を食らったようだ。
思春の奴、ホントに何のつもりだ?
「…おい、靴のひもが解けてるぞ」
「へっ、何かと思えばそんなことかよ。そんな手、子供でも引っ掛からねぇよ!」
確かに椿の言う通りだ。
思春だってこんなのが本当に通用すると思ったのだろうか。
だが、現実は俺の予想の遥か斜め上をいった。
あんなことを言った椿であったが、その目は確かに自身の足元を見ていた。
それもしっかりと頭を下げてまで。
そんな隙だらけの姿を見逃すような思春ではなかった。
「嘘に決まっているだろう、馬鹿が」
「へっ?」
そんなマヌケな言葉を残して椿は地に倒れ伏した。
血が出てないところを見ると峰打ちだったのだろう。
まあ椿の頑丈さというのもあるのだろうが。
「「……」」
あまりのことに蓮華も唖然としていた。
気持ちは分かるぞ。俺もこんな結末は予想だにしてなかったからな。
「さあ蓮華様、町に戻りましょうか」
「あ、ああ」
思春はまるで何事も無かったかのように帰り支度を始めていた。
「それにしても、引っ掛かったから良かったものの、よくあんな手を使ったな」
「昔から頭が残念な奴だったからな。いや、もっとひどかったか?」
今よりバカだったのかよ…。
想像したくないな。
「けど、やっぱり昔から突っかかってきてたんだ」
「…まさか、あの話を聞いたのか?」
「あ、うん。何か思春のことを親の仇だって」
そこで思春は大きく溜息をつくと、やれやれといった感じで話を始めた。
「蓮華様も誤解されている様だからお聞きください。まだ私が蓮華様と出会う前の話です」
珍しいな、思春が昔のことを話すだなんて。
というわけで回想スタート。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
あの日、私はいつもと同じように船に乗っていました。
特にこれといった目的はなかったのですが、まあ日課みたいなものです。
そうしたら、一艘の小舟がものすごい速さで追いかけてきたのです。
その船に乗っていたのがあの男――凌統でした。
そして、ついでに父親も乗っていたようです。
「お前が今ここらで評判の甘寧だな!正義の鉄槌ってやつをお見舞いしてやるぜ!」
「どうします、お頭?」
「どうやら官吏の類ではないようだな。構わん、ほうっておけ」
「へい」
「何だよ、だんまりかよ。だったらこっちにも考えがあるぜ」
何と、あいつは船を並走させるとこちらに飛び移ろうとしてきたのです。
「お、おい椿。危険だ。止めておけ!」
「大丈夫だって、親父」
船上で立ち上がり、正にこちらに飛び移ろうとしたその時でした。
不意に突風が吹いたのです。
「んな!?」
それに体勢を崩されたあいつはそのまま川に投げ出されました。
さらに驚いたことに、奴は泳げなかったのです。
「うわっぷ!?た、助けてくれ~!」
「……どうします」
「……ほっておけ」
同乗者もいることですし、私は傍観することにすることにしました。
「だからいわんこっちゃない!椿、今助けるぞ!」
果たして、私の読み通りに奴の同乗者である父親が救助のために川に飛び込んだのです。
すぐに父親は奴を確保すると、船に戻ろうとしました。
だが、奴は混乱の極みに達していたのでしょう。
父親に救助されたというのに気付かずに、暴れていたのです。
「死ぬ!死ぬ!!死ぬうううううう!!!」
「おい、こら、暴れるな!」
そして悲劇が起こりました。
奴の振るった右手が運悪く、父親の顎に直撃したのです。
予期せぬ一撃を食らった父親は気を失ったようでした。
だが、悪運は強かったようです。
奴の船がたまたま横を通り過ぎ、何とか乗ることに成功したのです。
「はあはあ、死ぬかと思ったぜ……」
奴はすぐに船に父親の姿が無いこと、そして何故か川に流されていることに気が付きました。
「お、親父!?待ってろ!すぐ助けるからな!」
奴はすぐに父親に追いつくと、落ちないように慎重に救助しました。
「親父……。誰だ、こんなひどい目にあわせた奴は!」
そう叫ぶと奴は私を睨みつけてきました。
「お前だな、甘寧!この借りは絶対に返させてもらうぜ!」
それからです。奴が私にまとわりつくようになったのは。
蓮華様にお仕えするようになってからは会うことは無かったのですが。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
回想終了。
俺も蓮華も再び唖然としていた。
まさか、ここまでだったとは……。
完全に逆恨みじゃないか。
「その後、父親がどうなったのかは知っているのか?」
「風の噂によれば全くの無傷だったようです」
ますます逆恨みだな。
「一刀、何だか疲れてしまったわ……。先に帰らせてもらうわね…」
確かにお疲れのようだ。
口調に素が出ちゃってるよ。
だが、ここで俺は椿が言っていたことを思い出してしまう。
あんな醜態を見せられたら無視しても構わないのだが、一応は聞いてみるか。
「なあ、蓮華。こいつ雇ってみる気有る?」
「何を言ってるんだ、一刀?」
「貴様、何を考えている?」
蓮華は疲れた目をしながら俺に尋ね、思春は射殺すような目で睨んできた。
そんなに嫌か。
「いや、蓮華が来るちょっと前の話なんだけどさ……」
俺は事の経緯を話した。
親の敵討ちの話は逆恨みだったとしても、今の世を憂いているのは本当のことだろう。
話が終わった後、蓮華は手を顎に当て考え込んでしまった。
いくら椿が脳筋だろうと、その武が思春と互角なのは変わりない。
そのことが余計蓮華を悩ませているのだろう。
しばらくして結論が出たようだ。
「一刀。こいつが起きたら城に連れてこい」
「蓮華様!?」
思春が驚きの声をあげる。
……本当に嫌なんだなぁ。
「いいの?」
「まあな。来るべき日に備えて今は一人でも戦力が欲しいところだ。……多少のことは目をつぶるさ」
あれは多少のことで済むのだろうか?
「了解。じゃあ俺は目を覚ますのを待たせてもらうよ」
「頼んだぞ。思春、町に戻るぞ。すっかり腹も空いてしまったことだしな」
「御意」
そして蓮華と思春は町に戻っていった。
「さてと」
二人が去った後に、俺はもう一度椿の方を見る。
顔から倒れたためにその表情を窺い知ることは出来ない。
「明日から同僚みたいだからな。ま、よろしく頼むよ」
こうして、俺達は新たな仲間を得るのであった。
凌統公績、真名は椿。
俺の短い人生の中でも一番の馬鹿であった。
こんにちは、どうもジャイロです。
今回も週一で更新できなかった…
なかなかズレを修正するのは難しいですね
さて、二人目のオリキャラの登場です。
オリキャラはあと一人か二人ぐらい出す予定。
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真・恋姫の二次創作です
主人公は北郷一刀のまま、能力は原作準拠です
オリキャラは数人出てきます