No.226370

不思議的乙女少女と現実的乙女少女の日常 『平等な世界4』

バグさん

進んでいるようで進んでいないようで。しかも今回は短めです。ていうか、一回全体的な整理をしないと、仮に読んでいただいている方が居るとすればジャンピング土下座しなければならないほどに、色々と分けが分からなくなっている気がするので、ちょっと色々と設定を書き出してみたいと思います。次で。

2011-07-05 00:18:42 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:367   閲覧ユーザー数:365

「落ち着いたかの、主殿」

カレンの声に、頭を振って、答える。

先ほど、ヤカの持ってきた雑誌を手に取って。自分が知るはずの無い情報を知っている、という不可思議な体験をして。リコは大いに動揺した。

ヤカには帰ってもらった。ちょっと気分が悪くなったからと、平静を装って言った。内心では激しく動揺していたので、そうして取り繕えたのは奇跡に等しい。

その様子に不審がったヤカだったが、リコの頭を優しく撫でて、出て行った。

窓から。

いや待て。幼馴染としての優しさは嬉しいが、せめて玄関から出入りしてくれ。いや、ください。

…………そう、何時もなら言っていただろう。

近頃、自分の身に大きな異変が起こり過ぎて、そろそろ何が起こっても驚かないくらいには肝が据ってくれていると思ったが…………それは大きな間違いだった様だ。驚くべきことは十分それに値するし、恐ろしいものはただ、恐ろしい。

「アレは…………なに?」

自分で聞いても、明らかに掠れているその声はまるで精気が篭っておらず、不吉を感じた。それくらい、自分が恐ろしかった。

「…………すぐに馴染むからの、主殿」

「馴染むって…………何に?」

 聞きながら、聞かずとも分かるような気がして。しかし、喉のそこまで出掛かっているのに、答えが出ない様な、そんなもどかしさで答えは封じられる。

そうだ。

先ほどの現象の正体すら、リコは恐らく理解しているし、カレンの言う『馴染む』という言葉の意味も、本当は理解しているのだろう。しかし、手を伸ばせばそこに有る答えはその逆を言えば、手を伸ばし、それを掴むだけの時間が無ければ得られないという事にもなる。

言葉以上の意味は無いが。

今は、そういう状態なのだろう。

だから、少し待てば、全てを理解出切る。

そんな風に分かっている自分が居て。

リコは、それも嫌になる。

自分に何がしかの力が宿る。それ自体を嫌っているわけでは無いし、恐れているわけでも無い。そもそも、生まれた時から、不思議な体験には事欠かない体質では有ったのだ。もっと不思議な、それこそ、先輩であるミーコの様な例も知っている。リコは仮に、自分にその様な力が身についたとしても、特に驚きはしないだろうとの、確信にも近い自信が有った。今までの人生の延長線上で有ると。そう判断するだろうと。考えていた。

それくらいの異変ならば、既にどうという事は無いと。

そして事実、それは正しいだろう。それを受け止めるだけの器量が、リコには有るからだ。何が起きても、自分という存在の本質が揺らぐ事は無いという自信が有ったのだ。何の根拠もない確信では有ったが、

だが、先程の現象は違う。

今まで体験した不思議な現象や、ミーコの異能力の様なそれとは、違う。

もっと、恐ろしい何かだ。

自分が自分で無くなってしまう様な、そんな何かだ。

だから、単純に、恐れた。

自分という存在を丸ごと全て無くしてしまうかのような感覚。

動揺し、恐れた感覚は、それだ。

「馴染みたく無い」

そんな恐ろしい感覚に馴染んだ結果、どうなるというのだ。一体、どうなってしまうというのだ。自分という存在の本質を、丸ごと根底から覆して、何もかも無くしてしまうかのような、あるいは何もかもを得てしまうような、そんな絶望的な超感覚に慣れ親しんだとして、果たしてそれは元通りの自分で有ろうか? そんなはずは無い。それはもう、自分以外の何かだ。

「どうして…………こんな事になってるのよ…………私は」

カレンに問いながらも、恐らくはそれも『馴染む』に連れて理解出来るのだろう。だが、問わずには居られなかった。

恐ろしさが。

後押しをして。

口に出さずには居られない。

「あんた、私に何かしたの?」

 カレンを責めるような言葉を、口に出さずには居られない。後悔しか出来ない様な言葉を。落胆させる事にしか用途を成さないような言葉を。

「……………………」

 カレンはその問いに、少し黙った。まるで人間で有るかのように、目を伏せ、嘆息した。

人間で有るかのように。

当然だ。

それが、本質を1つにするという事なのだから。リコは、カレンと契約を結んだ時の事を思い出していた。契約とは、パーソナリティの根源、存在の基盤を1つにするという事なのだと、カレンはそう言っていた。

意味が分からなかったし、あの時は実感出来なかったが、今のリコならば、理解出来た。

カレンは今、人間の様な存在であり、人間で有るかの様に振舞える。リコが人間である以上、それは当然の事だった。

「主様よ。我は言ったの。安心せよと。我が助けると。我に任せておけと」

カレンは、リコの思考を呼んだかのごとく、また、実際に分かるのだと言っていた通りに、リコが正しく思い出していた場面の言葉を使った。

そして、これもやはり唐突だったが、理解出来た。

すぐに馴染む。その言葉通りに。

浸透して、行き渡る変化の枝。端だけ水に付けたタオルが、重力を無視して水分を上昇させる様な、確実な侵食。

カレンがリコの内面を把握できているのと同じ様に、リコもまた、カレンのそれを把握し始めていた。呼吸をするよりも容易く、心臓を動かすよりも自然に。

だからこそ、カレンの言いたい事も理解出来たし、最早責める気にもなれなかった。

何かしたのは今では無い。

契約したあの時に。

最早、何かをしていたのだ。

本質を1つにした段階で、それは始まっていたのだ。

そして、それがリコを護るという事に、繋がるのだ。

『まだ機では無い』

『その内、知る事になる』

 

カレンの、そんな言葉を思い出して、リコはやはり理解した。いや、初めから理解していた。

今から機が始まって、そして知る段階は既に始まっているのだ。

最早、混乱すらしていない頭を抱えて、場違いな事を考えていた。

(ああ、ヤカ。サンジェルマン伯爵は、やっぱりただの詐欺師だったわ…………)

カレンが…………自分と同じ存在がこちらを視ながら呆れた様に、しかし何処か面白いものでも見るかの様な眼で、リコを…………自分と同じ存在を、やはり視ていた。


 
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