No.225913

真・恋姫無双 EP.77 冒険編(1)

元素猫さん

恋姫の世界観をファンタジー風にしました。
楽しんでもらえれば、幸いです。

2011-07-02 20:00:20 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:3721   閲覧ユーザー数:3439

 元気いっぱいに、霞は三匹の猫を抱えて街に繰り出した。賑わう大通りに並んだ露店に、目をキラキラさせながら歩く。

 

「うまそうなものがいっぱいやなぁ」

 

 霞が思わず呟くと、同意するように三匹も鳴く。

 

「にゃあ!」

「にゃん!」

「ふにゃ~」

 

 いい匂いが漂い、ゴマ団子でお腹いっぱいだったが、誘われるようにフラフラと露店に近寄ってしまう。霞は一応、華琳の下で将軍として働いていたので多少のお金は持っていた。

 

「何がええかなあ……」

 

 買う物を迷いながら霞がうろうろしていると、不意に背中に何かがぶつかってきた。

 

「いった~い!」

 

 霞が振り向くと、尻餅をついた小さい女の子が居た。女の子はお尻をさすりながら立ち上がり、人混みの方を気に掛けながら霞を見る。ちょっとだけ怒ったように、口を尖らせていた。

 

「もう! 危ないじゃない!」

「何や? そっちからぶつかったんやないか」

 

 その言葉に何かを言いかけた女の子は、突然、ハッと身を強ばらせて霞の後ろに隠れる。

 

「助けて! 私、悪い人たちに追われているの!」

 

 怯える女の子の視線を辿ると、人混みをかき分けるようにして二人の兵士らしき格好の男たちがやって来るのが見えた。

 

「あいつらか?」

「そう!」

「ちょっと、こいつらを預かっといてな」

 

 霞は抱いていた三匹の猫を女の子に預け、槍を構えた。

 

 

 走ってきた二人の兵士の前で、霞の槍が風を切り唸り声を上げた。

 

「白昼堂々、小さい子を無理矢理さらうなんて、いい度胸やないか!」

「いや、我々は――」

「問答無用!」

 

 霞なりに気を使ったのだろう。槍の腹で二人の兵士を殴り、あっという間に気絶させてしまったのだ。

 

「わっ! すごい!」

「さ、逃げるで!」

 

 見事な腕前に驚く女の子を連れ、霞は人のいない方を目指して走り出す。裏路地を入り、わざと入り組んだ道をクネクネと進んで、少し広い場所でようやく足を止める。

 

「ここまで来れば大丈夫やな」

「ハァ……ハァ……もう、疲れた」

 

 女の子はそう愚痴りながら、その場にぺたんと座り込む。その時だ。女の子の腕から飛び降りた三匹の猫たちが、曲がり角に向かって走り出したのである。

 

「ちょっ! どこ行くんや!」

 

 慌てて霞が追いかけると、角を曲がった瞬間、何か大きなものにぶつかった。驚いて見ると、モフモフとしたそれは、後ろ足で立つパンダだった。しかも二頭もいる。

 

「にゃあ!」

「にゃん!」

「ふにゃ~!」

 

 ミケ、トラ、シャムの三匹は、興奮した様子でパンダに襲い掛かった。

 

「な、何やこいつ?」

 

 霞が唖然としていると、女の子が気付いて走り寄り、パンダに抱きついたのだ。

 

 

「もー! どこ行ってたのよ!」

 

 女の子がそう言うと、二頭のパンダは申し訳なさそうにうなだれた。

 

「何や、知り合いなんか?」

「うん! あ、そういえば自己紹介がまだだったわね。私は小蓮! シャオって呼んでよね!」

「えっと、それって真名やろ? ええんか? まだ会ったばかりやのに」

「もちろん! あなた悪い人じゃなさそうだし、何より強いのが気に入ったわ! だから友達になってあげる。友達には真名を教えるのは当然だもん」

 

 なぜか得意げに胸を張る小蓮に、霞は嬉しそうに笑った。

 

「わかったで。うちの真名は霞や。こいつらはミケ、トラ、シャムいうねん」

「よろしくね、霞。うちの子たちは、大喬と小喬っていうの」

「よろしゅうな、大喬、小喬」

 

 ぽんぽんとパンダの腕を軽く叩き、霞が挨拶をすると二頭のパンダは頷くように首を振った。相変わらず三匹の猫たちは、登山の如くパンダの体をよじ登ろうとしている。

 

「霞、さっそくだけど手伝って欲しいことがあるの」

「何や?」

「実は私のお姉様が行方不明で、その原因らしい悪い奴がいるのよ」

 

 そう言うと小蓮は、偶然立ち聞きした内容を霞に話して聞かせる。

 

「なるほどな。その子供をさらう連中が関係してるっちゅうことか。ほなら、さっきの奴らもその仲間やったんか?」

「えっ? ああ、あの人たちは違うの。本命はこれからおびき出すよの」

「おびきだすって、どうすんのや?」

「ここにピチピチの餌がいるじゃない」

 

 小蓮は自分の指さして笑う。

 

「危ないんちゃうか?」

「そのために霞がいるんじゃないの。奴らの隠れ家を突き止めて、一網打尽にしてやるんだから」

「わかったで。シャオはうちがちゃんと守ったる。安心せい」

 

 霞はそう言うと、ドンと胸を叩いた。

 

 

 人通りの少ない道を、小蓮は選んで歩いた。実は少し前から、自分を見ている視線に気付いていたのである。そこでこっそり探ったところ、怪しい男にたどり着いた。街の人間ではなく、金持ちそうには見えないのに、金回りは良い。

 

(盗賊の一味かしら?)

 

 小蓮はそう予想したが、自分を見ている理由がわからない。そういう趣味の者が居ることは知っていたが、どうも視線はそんな感じではなかった。そこでピンと来たのである。

 

(私を誘拐する気ね)

 

 姉たちがずっと、人身売買の組織を探っていたことを知っていた小蓮は、何か自分も手伝いをしたいと考えたのだ。だがいざ行動に移そうにも、万が一の危険を考えるとためらいが生まれる。霞に出会ったのは、そんな時だったのだ。

 渡りに船とばかりに、以前より練っていた作戦を決行することにした。作戦とは言っても難しくはない。自分を誘拐しようとした男を捕え、隠れ家を吐かせるだけだ。

 

(さあ、掛かりなさい!)

 

 わざと隙を作って、小蓮はぼんやりしたり座り込んだりする。自分を見ている視線は、霞たち以外に確かに感じられた。

 

「――!」

 

 内心の緊張を悟られないように、小蓮は視線を外す。一瞬だが、様子を伺う男の姿が見えたのだ。

 

(近づいてくる……)

 

 男は足音と気配を消して近づいているが、小蓮にはすでにわかっていた。彼女も普通の女の子ではない。戦場を掛ける雪蓮の姿を何度も見て、追いつこうと自分なりに努力を続けていたのだ。

 

 トクン……トクン……。

 

 驚くほど、心臓の鼓動が間近に聞こえた。そして次の瞬間、大きな手が小蓮の口元を塞いだのだ。


 
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