No.223240

SHUFFLE!&リリカルストーリー 29

グリムさん

体育祭が終わり少し時間がたって、時は六月の下旬、稟達は数日後に迫った期末試験に向けて勉強会を開いていた。

2011-06-18 00:58:34 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:1765   閲覧ユーザー数:1694

第二十九話 勉強会とプリムラの変化

 

「よしそれじゃがんばりますか」

 

「はい、稟くん」

 

「うん、がんばっていきましょー」

 

 体育祭が終わり六月も終盤に差し掛かったある日曜日の朝のこと。芙蓉家ではリビングに稟、楓、桜の三人で集まって教科書とノートを広げていた。

 数日後に迫った期末試験の勉強だ。

 

「リムおねえちゃん、公園に行きましょう」

 

「リムねえさん、ボクも行きたいです」

 

「……うん。じゃあ行く……」

 

 そして何故かその部屋にはエリオとキャロの姿があった。実は今日は仕事などでユーノの所に人がいないという事態になったために芙蓉家で預かることになったのだ。

 

「……稟、行ってきて良い?…」

 

「ああ、いいぞ。気をつけてな、エリオくんとキャロちゃんも」

 

「「はい、りんおにいさん」」

 

「……ありがとう稟。行ってきます…」

 稟の許可が下りると三人は意気揚々と部屋を出て行った。三人はその様子を見ながら柔らかく微笑む。そして自らの後ろの何もないような空間に話しかけた。

 

「ランちゃん、お願いしますね?」

 

『かしこまりました、楓さま。なにかあったときに御三方をお護りすればいいのですね?』

 

「はい。お願いします」

 

 楓の後ろの現れるのは繋ぎの神獣ラン。ユニコーンのような出で立ちのこの神獣は当然だ、というように頷く。

 楓の命令だし自分が好ましく思っている相手の護衛だ。断る要素などあるはずもない。

 

「スターチスもお願いできるかな?」

 

『ふふ、主人ならそう言われると思ってました。了解です、わたしの方でも空から見守ることにします』

 

「うん、ありがとう」

 

 桜の後ろに現れるのは赤く燃えるような翼をもつフェニックスのような出で立ちの神獣スターチス。桜の行動が予測できていたのか微笑むような雰囲気が伝わってくる。

 

「アルト、お前も付いてやってくれ」

 

「了解だよ、稟。ボクがいてもここじゃ何にも役に立たないしね」

 

 そして稟の肩に座っている三十センチくらいの小人、永遠神剣“約束”の神獣アルトも嬉しそうに答える。元々アルトはエリオとキャロの兄貴分(自称)なのだ、ついていかないわけがないのである。

 

「まぁ、生がついてるんだから、ほんとにお前はオマケなんだがな」

 

「くすくす、土見様そんなことは無いですよ。アルトがいるとあの子たちは楽しそうですから」

 

「うんうん、生いいこというよね」

 

「まぁ、あの子たちに悪い影響を与えないか若干心配ではあるのですが、ね?」

 

「……生、もっとボクのこと信用しようよ」

 

 そして中に浮かぶ三十センチくらいの女の子、永遠神剣“生命”の神獣の生(いく)は本当に柔らかく微笑む。機嫌がいいのはいまからエリオたちと遊べるからだろう。

 彼女は無類の子供好きなのだ。

 

「じゃあ、四人とも頼んだ」

 

「承りました」「りょうかいだよ、稟」

 

『『かしこまりました』』

 

 そうして神獣たちがあの三人の後を追いかけて出かけたのを確認すると……

 

「よし、気合入れてやるか」

 

「「はい」」

 

 勉強タイムのスタートだ。

「桜ちゃんここなんですけど、わかりますか?」

 

「う~ん、これはちょっと。稟くんわかんない?」

 

「ん、ああ、これか。俺はユーノから教えてもらったんだがここをこうやってこうして次はこうそして最後にこうだな」

 

「あ、できた」

 

「やっぱりユーノくんてすごいですね」

 

 

「楓、ここなんだが」

 

「ああ、ここですね。ここは……」

 

「楓ちゃんここなんだけど」

 

「あっ、稟くんと一緒の所ですね。まとめて教えちゃいますから二人ともしっかり聞いてくださいね」

 

 

「ていうかなんで国語のテストこれからなんだろうな」

 

「うんわたしは好きだけどな“微笑みインサイド”。まぁ先生の趣味じゃないかな?」

 

「国語の先生、少女マンガとかみたいな展開大好きですから」

 

 

「ええっと“次の日本語を英語に直しなさい。 俺たちに翼はない”なんだこれ?」

 

「うーん、“わたし達は翼をもっていない”みたいな感じにすればいいんじゃないでしょうか」

 

「うん、にゃんでぃぽっとはかわいいよね、稟くん、楓ちゃん」

 

「いや桜、いきなり何を言い出すんだよ(汗)」

 そんなこんなで勉強会は進んでいく。もともと勉強はできる三人で集まってやっているため効率はかなりいい、それにくわえて三人それぞれ得意分野が違うことから教え合うのにもちょうどいい環境が出来上がっていた。

 

 ちなみに稟は英語と物理、化学などの科学分野、楓は基本的になんでもできるが強いのは数学と歴史系、桜は語学系ならどんと来いという感じだ。

 

 かりかりと文字を書く音が響く。それとあわせて教科書や参考書のページをめくる音がしている。

 三人が勉強を始めてからすでに四時間ほどが経過していた。三人とも最初の一時間はわからないところはお互いに教え合ったりしていたのだがそれ以降はほとんど会話らしい会話はない。

いまこの空間を支配するのは鉛筆と紙が擦れる音、そしてお互いの息遣い、ただそれだけだ。

 

「んっ、とりあえずは終わったか?」

 

 稟は切りがいいところまで終わったらしく小さく確認するように呟いた。実際、高校の勉強は先生の話を授業中に理解できていればそんなに勉強する必要なんてほとんどない。

 ゆえにこの場にいる三人にとっては忘れているところがないかの確認作業でしかいはずだ。それは四時間もあれば悠々と終わるものだったはずだ。が、ちょっとさぼり気味だった稟はそうもいかずこうして勉強をしているのだが……

 

「に、しても意外だったな……」

 

「え、何がですか?」

 

 切が良かったのかペンを置いた楓が不思議そうに稟に尋ねる。稟は少し苦笑をもらしながら桜と楓を交互に見る。切よく桜の方も終わったようで稟の方に視線を向けてくれていた。

 

「いや、二人がテスト勉強ってものをしてるの初めて見たなぁって思ってな」

 

「え、そんなことないよ。ねぇ楓ちゃん?」

 

「そうですよ。ちゃんとやってます」

 

 そんな稟の言葉に二人は不思議そうに返す。ほんとうは怒ってもいい場面なのだろうが二人は怒らない。

 

「けど、こんなにがっつりやってるのは初めてだろう?」

 

「そう言われると……」

 

「そうかもしれないです……」

 

 楓と桜は過去の自分を振り返る、そして思い浮かぶにはいつもプラスちょっとの勉強をしている自分だった。そう言われるとたしかにがっつりはしていないと断言できる。が、それはやることを普段からやっていたからであって決して努力していなかったからではないのだが。

 

「この頃、ちゃんとは勉強できていなかったんで、がんばらないとまずいですし」

 

「わたしもだなぁ、最近の勉強がおろそかになってた気がするから、頑張らないとって思ってたら、な~んか時間が延びてたみたいだね」

 

「まぁこの頃は神剣の訓練なんかもあったし、しょうがないだろ。埋め合わせをできてるんなら上出来じゃないか?」

 話がひと段落してところで三人が時計を見るとすでに正午を回ってしまっていた。稟はそろそろ昼食の時間だなと思うと同時になんだか違和感を感じた。

 それが何なのかいまいちわからずにもやもやしていると……

 

「そういえばリムちゃん達まだ帰ってないのかな?もう三時間は経ってるのに……」

 

 桜の一言で稟は違和感の正体に気がつく。朝に遊びに出て行った三人がまだ帰ってきていないのだ。三人にはアルト達がついているし心配はいらないと思うのだが、何故か胸騒ぎがあった。

 

「たしかにそうだな、俺がちょっと見てくるよ。二人は昼飯の用意お願いしていいか?」

 

「ん、じゃあおねがいします、稟くん」

 

「はい、稟くん。腕によりをかけて作りますね」

 

 そういうと稟はとりあえず玄関を出る。プリムラ達はここから一番近い縁公園にいるだろうと当たりをつけそこに向かうことにした。

――時間はまき戻って三十分ほど前

 

「リムおねえちゃん見っけです。今度はリムおねえちゃんが鬼ですよ」

 

「…キャロ見つけるのうまい…」

 

「うん、リムねえさんのいうとおりだよ。キャロはホントにうまいよね。なんでそんなにうまく見つけられるの?」

 

 そこには縁公園でかくれんぼに興じる三人の姿があった。本当に楽しそうなのだがかくれんぼはキャロの独壇場のようだ。小さい頃自然の中にいた経験は伊達ではないのだろう。

 

「えっと、じつはフリードにもてつだってもらってるんです」

 

「えーキャロずるいよぉ」

 

「で、でもホントにちょっとだけだもん」

 

「でもずるい。じゃあ今度ボクがおにのときはフリードてつだってね?」

 

「キュルクー」

 

「え、エリオくんずるい。フリードわたしのみかたじゃないのー!?」

 

 ……訂正、フリードの力を借りていたらしい。

 口げんかを始めた二人を見ながらプリムラはやさしく微笑んでいた。やはり見る人が見ないと少し表情が柔らかくなったかな?ぐらいの変化ではあるが、それでも微笑んでいたのだ。

 

 数ヶ月前の彼女しか知らない(割かし彼女に近しい)人間が見れば驚くだろうと言える程度にはプリムラは感情を出すようになっていた。これが稟やユーノ達との交流、そして目の前にいる弟や妹のような二人がもたらした彼女の変化だった。

 プリムラは思うのだ、この時が永遠に続けばいいと……そしてここにリコリスがいないことを少しだけ残念に思ってはいる。が、リコリスだけが世界のすべてだった少し前の彼女とは違う。

 プリムラの世界は広がりを見せ始めていた、リコリスから繋がって稟とユーノへ、稟とユーノから繋がって楓や桜、フェイト、エリオ、キャロへ、また事情は知らされていないがなのは達とも面識ができていた。ちなみに亜沙はユーノの方から神剣のことやらプリムラのことやらいろいろと聞いていて、面識もある。

 プリムラは亜沙や楓、桜、フェイトのことはリコリスとは違うけれどリコリスみたいだという認識らしい(ようはおねえちゃんみたいということだ)。

 

 とりあえずプリムラは二人の喧嘩を仲裁しようとおもいふたちに近ずくと二人の頭に手を置いた

 

「……けんかはだめ……」

 

「でもエリオくんが」

「でもキャロが」

 

「…………」

 

「でも……」

「でも……」

 

「…………」

 

「「うぅ~」」

 

「…………」

 

「「……ごめんなさい」」

 

 エリオとキャロ二人は言い訳をしようとするがプリムラがなんだかやさしい表情をしているので言いづらくしりすぼみになってゆく。

 結局、プリムラに根負けしてしっかりとお互いに謝り合う二人だった。

 なんだかんだいってプリムラの前でケンカすると最近はこういうパターンになるのだ。

 

「…よくできた…」

 

 そういってプリムラは小さい頃にリコリスにしてもらったように二人の頭を撫でてあげる。その手つきは少しぎこちない、要修練である。

 それでもエリオとキャロの二人は嬉しそうにしているのだからプリムラはこれが間違っていないと思えるのだ。

 

 

 

 

「リムおねえちゃん見っけです。今度はリムおねえちゃんが鬼ですよ」

 

 リムという名前に反応して魔族の男は立ちどまった。リムそれは彼が捜索し連れ帰るように任務を受けている“人口生命体第三号 プリムラ”それを連想させる名前だったからだ、実際に人口生命体に割かし近しい我らが王女はそれのことをリムと呼んでいるとの報告を受けている。

 

「まさかな……」

 

 だがここにいる可能性は極めて低いはずだ。なぜなら魔界と人間界を繋ぐ開門は十年ほど前から行われていないのだから、だが魔界からの情報で人間界に紛れ込んでいる可能性も否定できないとのことだったため、男は声の方向に目をやって確認することにする。

 あれは魔力の制御ができないうえに暴走すれば都市一つくらいは吹っ飛ぶ可能性がある危険物と報告書にあった、ゆえに放置することはできないし兵士である自分には命令を遂行しないなんていう選択肢はない。

 

「おいおい、マジかよ」

 

 そこには子供と一緒にいる少女の姿、それは彼が写真で確認したものと同じ形をしていた。

 

 驚きもそこそこに彼は思考を兵士としてのものへと切り替える。

 

 目標を穏便に連れ帰るにはどうしたらいいか―気付かれないように近づき昏倒させる―

 

 方法は― 一般人相手なら彼が気付かれないように近づくのはたやすい――

 

 一緒にいる子供たちには怖い思いをさせることになるがこれが無難、そう彼は結論づけた。

 

「さて、……任務を遂行する」

 

 そして彼は死角から近づいていった。

あとがき

 

お久しぶりです、グリムです。前回から約二カ月ほど時間があいてしましました。

中々、じかんが取れないんですよ。……いいわけですねはい、わかってます。

ちなみに今はあの花にはまってます。ブルーレイ買おっかなーとも思ってます。

 

話がそれました。今回はちょっとした幕間みたいな感じです。何とも言い難いですねハイ。

とりあえずプリムラさん久しぶりに登場です。生さんとかいつ以来だろう?

まぁ、とにかく楽しんで頂けると幸いです。

 

最後に呼んでくれた皆様、こんなものを待ってくれていた皆様に感謝を……それでは失礼します。

 

 

 


 
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