No.221203

真・恋姫†無双 外伝:こんな夏の日 その2

一郎太さん

すみません。続きです。
課題やらなきゃ………orz

という訳で、『恋と共に」でも言っているように稟ちゃんはオチ担当です。
彼女には頑張ってもらいましょう。

2011-06-06 22:28:12 投稿 / 全13ページ    総閲覧数:10436   閲覧ユーザー数:6507

 

 

こんな夏の日 その2

 

 

窓から陽が差し込む。まだ朝方だというのにその日光には熱が伴い、私を否応にも覚醒させた。

 

「………あれ?」

 

手さぐりで眼鏡を探し、装着する。そして、目を開いてまず認識したのが天井だった。うちのアパートとは若干違った白い平面。次いで、布団と枕の感触。慣れ親しんだ自分の寝具ではなく、柄や質感も異なっている。そして聴覚。朝から盛っているセミの鳴き声に混じって、水の流れる音が聞こえてきた。シャワーの音だろうか―――。

私はガバッっと跳ね起きた。

 

「………ここは、どこ?」

 

明らかに私が毎日帰る部屋ではない。私の部屋は畳敷きの部屋であり此処のようにフローリングではなく、また布団で寝ている私の部屋とは違って私の身体の下にはベッドがあった。

顔を横に向けると2人用の小さなテーブルと椅子が2組。その向こうには小さ目のソファが置いてあった。その肘掛には見慣れぬシャツが無造作にかかっている。

さらに首をひねればガラス戸があったが、数本の木々とその幹に留まるセミが見えるうちとは異なり、わずかに視界が高い気がする。ベランダもあった。

と、その時、ガチャリという音と共に短い廊下の横の扉が開かれた。

 

「あぁ、起きたのか。おはよう」

「………一刀、さん?」

 

彼は知っている。同じ大学の同じ学科の同じクラスの男の子。5月に起きたちょっとした事件がきっかけで話す様になり、またその優しさに私が密かに憧れている男の子。

そしてその身体は以前ちらと見た時と同様に引き締まり、シャワーを浴びていたのだろう、バスタオルで頭をガシガシと拭いているが、その身体はわずかに湿っているように見えた。

 

………………裸?

 

「かっ、かかか、一刀さんっ!?」

「ん、どうした?」

 

彼は狼狽する私に返事をしながらも冷蔵庫を開き、ミネラルウォーターのペットボトルを取り出す。

 

え?何があったの?………いや、待て待て待て。状況を鑑みるに、ここは一刀さんの部屋だ。同級生の女子が泊まったのに、あそこまで平然と出来るものなのだろうか。それに堂々と上半身を見せつけているし………そこまで考えて、私はひとつの想像にいたる。

 

仮定その1 ここは一刀さんの部屋である。

仮定その2 私は彼の部屋に泊まった。

仮定その3 彼はシャワーを浴びて出てきた。

 

結論    私と彼は、昨晩――――――

 

「―――ぷっはぁぁぁあああぁああっ!」

「ベッドぉぉぉぉぉおおおおおおっ!!?」

 

 

 

 

 

 

「本当に申し訳ありませんでした!」

「いや…気にしないで………」

「布団のクリーニング代は出しますから!いえ、新しいのを買わせてください!!」

「いやいや……気にしなくていいから………………」

 

久しぶりに鼻血を噴出して、数分ほどの失神から目覚めた私がしたことは土下座だった。ひどい…ひどすぎる………。爽やかな彼の印象と違わず青を基調としていた布団やタオルケットはいまや赤黒く染まり、どうみても殺人現場ですありがとうございましたな光景が広がっていた。

引き攣った笑顔を向ける彼に、私はさらに20分もの間、土下座を続ける。

 

 

あの後、一刀さんが作ってくれた朝食を摂りながらも、私は居た堪れない気持ちでいっぱいだった。あぁ…きっと嫌われたんだろうな………。

 

「それにしても稟の妄想癖は凄いな。昨日聞いてなかったらもっと慌ててたよ」

「なっ、何故その事を!?」

 

思わず顔を上げてしまった。何故彼が私の妄想癖を知っているのだろう。

 

「言っただろう。昨日聞いた、って」

「昨日………?」

 

彼の言葉に、私はようやく思い出した。昨日の夕方高校時代の友人から送られてきた1枚の画像。自棄になって一刀さんを呼び出した私。駅前の居酒屋で飲んだビール………ダメだ。居酒屋での記憶が曖昧だ。

 

「昨日は大変だったんだぞ―――」

 

その言葉を切り口に、一刀さんはトーストを齧りながら昨晩の出来事を語り出した。

 

 

 

 

 

 

「ちょ、何言ってんの!?」

「だから!私は一刀さんの事が好きなのです!だから私と一刀さんは付き合うのですよ」

「待て待て待て、俺の意志は聞かないのか?」

「………私の事は、嫌いですか?」

 

突拍子もない宣言から、まさかの告白が来た。さて、俺はどうすればいい?稟の事を好きか嫌いかと問われれば、正直答えに詰まる。あの事件で距離が縮まったとは思うけど、その後の交流はほとんどなかった。だからなんと答えればいいのやら。

 

「………ダメ、でしょうか」

「うっ…」

 

俺が答えあぐねていると、稟がずずっと畳を移動してくる。やめてくれ。そんな風に上目遣いで顔を覗きこむな。

 

「でも、俺と稟ってあまり話したことないし、そんな好きになるきっかけとかがあったのかすらわからないんだけど」

 

俺がそう言うと、今度は怒った表情で詰め寄ってくる。

 

「何を言っているのですか!5月のあの事件を忘れたんですか!?」

「いや、忘れたくても忘れられないけど………」

「いいですか?私は妄想癖が凄いのです」

「うん」

「………」

「それだけかよ!」

 

思わずツッコミを入れてしまった。

 

「普通の人があんな光景を見たら、どう思いますか?」

「そりゃ、看病しなきゃとか―――」

「そんな筈がないでしょう!普通に鼻から垂らすくらいならわかりますが、噴出させるような女、みんなドン引きです!でも、一刀さんは気にせず私を介抱してくれました。それから、私と友達になってくれて、クラスに馴染むきっかけを作ってくれたのも一刀さんなんですよ!?」

「………言われてみれば、そうだけど」

「これまで女子高だった私が、それで落ちない筈がないでしょうっ!」

 

ダン!と稟のジョッキがテーブルに叩きつけられる。割れてないよな………。

 

「こんなクソ真面目な女、誰も引き取ってくれません。私には一刀さんしかいないんですっ!」

「いや、もっと世界を広げてみれば………」

 

こんな押し問答を続けること5分。稟はもういいですと立ち上がった。………終わりなのか?

 

「こうなったら私のミリキで一刀さんをメロメロにしてやります!」

「いや、その表現はどうかと―――」

「黙りなさい。ほら、さっさと立つ!」

 

酔っ払いの相手がこれほど面倒とはな。

 

 

 

 

 

 

稟は俺を立ち上がらせるとそのまま伝票を掴み、スタスタとレジまで歩く。レジで店員に伝票を渡すと、俺を睨みつけてきた。

 

「ん!」

「………?」

「……んっ!」

「………………?」

 

何を言いたいというのだ、この酔っ払いは。

 

「あぁ、もう!気が利かない男ですね。男女で飲む時は、男性が払うものなのでしょう?さっさと支払いを済ませてください!」

「………#」

 

店員の苦笑が心に突き刺さる。………だが、仕方がない。

俺が代金を払い、お釣りを受け取ると、稟は満足げに頷く。

 

「これで一刀さんもまた一歩、私の彼氏に相応しい男に近づきましたね」

「………#」

 

ありがとうございましたー、という店員の言葉を背に、俺は稟に再度引っ張られて店を出るのだった。

 

 

駄々をこねる稟を連れて、俺は自分の部屋へと向かう。道中、フラフラと歩く稟を引っ張る事に面倒くささを覚えた俺は、無理やり彼女を背負った。

 

「おぉっ!これは彼女の特権ですね。一刀さん?私以外にしたら駄目ですよ?」

「はいはい」

 

いいから大人しくしてなさい。こら、暴れるんじゃありません。

 

歩くこと数分。家まで残り半分を切っただろうか。ふと、背中の稟が大人しくなっている事に気がついた。

 

「………稟?」

「………………なんですか?」

 

いきなりしおらしくなったな。

 

「いや、別に………」

「ふん、どうせ面倒くさい女だと思っているんでしょう」

「それはあるが―――」

「あるんですか!?」

 

藪蛇。

 

「まぁ、それはいいとして………稟は本当に、その、俺の事が好きなのか?」

「………はい、好きです」

 

どうしたものか。先ほどは稟を好きか嫌いか分からないと語ったと思うが、正直に言えば、彼女は美人だと思う。いつもキリっとした表情で居眠りもする事なく授業を受ける彼女は、見ていて気持ちがいい。だが、こんな酔っぱらった状態の告白で付き合うとして、上手くいくのだろうか。

稟の返事にしばらく無言で返したあと、俺はこれしかないかと口を開いた。

 

「だったらさ、稟。明日起きたらもう一度言ってくれよ。素面の状態で言われたら、俺もちゃんと受け止める」

「………わかりました」

 

俺の言葉に稟は少しだけ考えて返事をすると、ぎゅっと俺の首に抱き着いてきた。

 

 

 

 

 

 

「ほら、着いたぞ」

「ほほぅ、ここが一刀さんの部屋ですか………」

 

玄関で降ろされた稟は、興味深げに俺の部屋を見回している。物は少ないが、部屋が広いわけでもない。稟は勝手に扉を開いたり、タンスの引き出しを引いたりしていたが、ベッドの前に来ると、少しだけ立ち止まった。

 

「………とぅ」

 

そんな掛け声と共に、ベッドに飛び込む稟。とりあえず吐かないでくれな。

寝具の不安を抱えていると、稟が俺をじっと見つめている事に気がついた。

 

「………なんだ?」

 

俺が声をかけるも、返事はない。右腕で身体を支えて横向きに寝転がると、稟は徐に、脚の方へと左手を伸ばす。

 

「………………………チラリ」

「………」

「………チラ、チラッ」

「………………………………ひっぱたいていいか?」

 

どうやら俺を誘惑しているらしい。だが、残念ながらそれはスカートではなくズボンだ。膝しか見えていないぞ。

冷静に分析する俺に痺れを切らしたのか、稟は上半身を起こして、俺に向かって両腕を伸ばしてきた。

 

「………どうした?」

「………」

 

まぁ、だいたい言いたい事はわかるが。

 

「………仕方がないな」

「一刀さんー」

 

諦めて俺は稟に近づく。彼女は嬉しそうに笑顔を滲ませると、俺に抱き着いてきた。

 

「よしよし。そろそろ寝る時間だぞ」

「もう少し」

 

俺の胸板にスリスリと頬を寄せる彼女は、とてつもなく可愛い。だが、ここで手を出すわけにはいかない。童貞が、と笑うなら笑えばいいさ。だけど譲れない矜持だってある。

しばらくそうしているうちに満足したのか、稟は動かなくなった。

 

「………稟?」

 

呼びかけても、軽く揺すってみても返事はない。どうやら寝てしまったようだ。俺はそっと稟をベッドに寝かせる。

 

「おやすみ、稟………起きたらちゃんと言ってくれよ」

 

返事の代わりに、規則的な寝息の音が聞こえてくる。俺は稟の髪を一度だけ撫でると、電気を消し、ソファへと寝転がった。

 

 

 

 

 

 

「―――とまぁ、これが、稟がうちにいる理由だ」

「………………」

 

俺は昨夜の一連の出来事を掻い摘んで話す。ちなみに、告白から帰路の会話だけは話さなかった。言えばいいのに、という人もいるかもしれないが、これは譲れないな。もし酔った勢いだけでの告白だったら、哀しすぎるだろう………………俺が。

 

「ひとつ、お聞きしてもよろしいですか………?」

「なんだ?」

 

稟はコーヒーを一度口に含み、俺に真っ直ぐ向き直る。若干頬が赤い。

 

「それで、その………昨日の夜、一刀さんは………えぇと、その………………」

「安心しな。何もしてないよ」

「………そう、ですか」

 

あれ、なんで少し残念そうなんだ?少しだけ悪戯心が湧き上がる。

 

「して欲しかった?」

「なっ……そんな、まさか、いや………でも先ほど見た一刀さんの逞しい身体に抱き締められたら、それだけで私は―――そして、彼は見た目に寄らず優しい手つきで私の身体を隅々まで愛撫し、そしてそして、いつしか2人は溶けあう様に――――――ふがっ!?」

「はい、そこまで」

 

稟の妄想が爆発しそうだった為、俺はテーブル越しに手を伸ばして彼女の鼻を摘まむ。

 

「はい、深呼吸して」

「ふがふが…すぅぅ………はぁぁ………」

 

なんとか稟の妄想を落ち着かせると、俺たちは朝食を片づけるのだった。

 

 

 

 

 

 

いま、私はテーブルに着きながらコーヒーのお替りをもらい、一刀さんは台所で洗い物をしている。今のうちに状況を整理しないと………。

まず、昨日の画像はもうどうでもいい。一刀さんを電話で呼び出して、駅前で待ち合わせ…………思い出した。人前にも関わらず私は泣き出し、一刀さんに抱き着いたのだ。

その後居酒屋に行ってビールを頼み、2人で飲む。一刀さんの話が真実ならば、私は酔っ払い、一刀さんの家に押しかけ、ベッドを占領してしまったという事になる。………待って。居酒屋から家に帰る間は?本当に酔いつぶれたの?

 

「………ぅぅ、思い出せそう」

 

頑張れ。思い出せ、私。まず居酒屋でビールを飲む。そして一刀さんに画像の事を話す。問題はその後だ。何を話した?私は彼に何を言った?

 

「いや…私なら何を言う?」

 

昔の仲間たちに除け者にされた。物理的な問題があるとはいえ、私なら何か意趣返しをしたいと思うはずだ。どんな意趣返しをする?

友達を作る?いや、それは皆だって新しく友人を作っているのだろうから、そんな事はしない。

だが、人間関係で痛い目に遭った私が、彼女たちに勝つ方法………それは――――――。

 

「………思い出した」

 

そうだ。私は、彼氏を作ると宣言したのだ。いや、それだけなら普通の女子大生だ。男子の交友関係が一刀さん以外ほぼ皆無な私が彼氏にしたいと思うのは――――――。

 

「………………やってしまった」

 

そこまで考えが至り、私はすべてを思い出した。いや、思い出してしまった。一刀さんへの宣言と告白。私の魅力でどうこうという話。そして、道中での会話………………。

 

「………………………」

 

何て事だ。私は一刀さんに告白したくせに、その事実を忘れてしまっていたのだ。

申し訳なさと恥ずかしさで、私は顔を腕に埋めてしまう。どうしよう。嫌われてしまっただろうか………いや、違う!一刀さんは言っていたではないか。起きて素面になったらもう一度言ってくれ、って。

 

「………よし」

 

私は半分まで中身の減ったコーヒーカップをテーブルに置くと、意を決して立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

台所で食器を洗う一刀さん。さすがにもうTシャツを着ているが、彼の身体は眼に焼き付いて離れない。いや、控えよう。こんな時に鼻血を出して台無しにする訳にはいかない。

 

「あぁ、稟か。どうした?」

「いえ、お手伝いもせずに、すみません………」

「気にしなくていいよ。俺の部屋だからな」

 

やはり彼は優しい。こんな優しい人だからこそ、私は好きになったのだと思う。………いや、『思う』なんて曖昧な表現では駄目だ。私は、彼のこの優しさに惹かれたのだ。

 

………言わなければ。

 

早くしないと、彼の作業が終わってしまう。そしたら………顔を見たら、きっと言えなくなるだろう。今しかない。

 

私は彼の背中をじっと見つめる。服で隠れているが、その下にはまた魅力的な後ろ姿が広がっているのだろう。視線を上げれば、彼のうなじが見える。その首筋に触れたい。抱き締めて、口づけたい。そして彼の後頭部。シャワーの水滴はとうに渇き、触れればサラサラと気持ちいいのだろう。

 

………あれ?どうして、彼の背中がこんなにも近いのだろう。

 

「………稟?」

 

彼の声も耳に入らない。どうして私の身体はこんなにも熱くなっているのだろう。

 

「……どうしたんだ?」

 

聞こえない。いや、耳には届く。どうして、私は彼の身体に腕を回しているのだろう。

 

「相変わらず寂しがり屋だな」

 

その音を意味として理解できない。

 

「………終わり、と」

 

一刀さんに触れる腕と胸、右の頬から彼が動きを止めた事が伝わる。

 

………いやだ、離さないで。

 

そんな願いも虚しく、彼は私の腕を優しく解いた。

 

「どうしたんだ、稟?」

 

聞こえない。今の私を支配しているのは、触覚と視覚だけ。彼がこちらに向き直ったのはわかる。その口がどう動くのかも見える。でも、音は聞こえない。

 

………そうか、心臓の音が邪魔なんだ。

 

「――――――たのか?」

 

本当にわからなくなってきた。ただ私の脳を占めるのは、視界に映る、彼の顔。そして、その両頬をそっと挟む私の手―――。

 

「――――――」

 

視界は黒く染まり、その手の感触も消え、いま私が受け取れるのは、唇に触れる柔らかさとその熱だけだった。

 

 

 

 

 

 

「……………ぷはっ」

「………………」

 

どれくらいの間、そうしていただろう。分からない。息が苦しくなり、ようやく唇を話して瞳を開いた。はたしてそこには、笑顔の一刀さんがいてくれた。

 

「………どうしたんだ、いきなり?」

「貴方は………貴方は酷い人です。そして、優しい人です」

 

本当にそう思う。私の気持ちを知っておきながら、昨日の事はなかった事にしてくれている。

 

「どういう意味だ?」

「私が何も覚えていないとでも?」

 

少し意地悪な言葉遣い。でも彼の表情は変わらない。きっと私は、自分では理解できないくらい幸せそうな顔をしているに違いない。

 

「………」

「貴方は言いました。素面の時に言えば、ちゃんと受け止めると」

「言ったな」

「でも、素面では言えない事もあるのです………」

「だから………行動で示した?」

 

彼の言葉に、私はコクと頷く。頷いたはいいが、今度は顔をあげる事ができない。

どれだけそうしていただろうか。私の両手はいまだ一刀さんの頬に添えられている。もう耐えきれない、そう思ったが早いか、彼は口を開く。

 

「だったら俺もちゃんと受け止めないとな」

「えっ―――」

 

私の唇は、再び塞がった………今度は、彼からの口づけで。

 

二度目のキスをしながら、彼が私の身体を抱き締める。私は彼の頬から手を放して今度は腕ごと首にまわす。

 

………知らなかった。キスがこんなに気持ちがいいものだったなんて。

 

これまで私がしてきた妄想なんて相手にもならないくらいの衝撃が襲うのを感じながら、私は余計に彼の口に私の唇を押し付けるのだった。

 

 

 

 

 

 

二度目の口づけを終えても、私はまだ一刀さんに抱きしめられたままだった。私も彼の胸元に顔を埋める。彼が使っているシャンプーの匂いに混ざって、ほんのかすかに彼自身の匂いが伝わってくる。

 

………匂い?

 

私はある事実を思い出し、思わず一刀さんを突っぱねた。いや、突っぱねようとした。

 

「駄目だ」

「………いや」

「俺に抱き締められるのが?」

 

彼は私の動きを敏感に察知し、さらに強く抱き締める。

 

「違います………私、その……お風呂、入ってません………………」

「そんな事か」

「そんな事って………」

 

抗議しようとする私を他所に、彼は私の首筋に顔を埋めてきた。

 

「稟の匂い、好きだよ?」

「すっ……」

 

彼に初めて好きと言われた。その対象は違うが、それでも私はその言葉に舞い上がりそうになる。そしてそれと同時に、私の別の一面が鎌首をもたげた。

 

『稟の匂い、好きだよ?』

『そんな………ダメです………』

『でも好きなものは好きなんだ。もっと稟の匂いに包まれていたい………』

『ひぁっ!?ど、どこを舐めているのですか………んっ』

『もっとだ………』

『か、一刀さんっ!そ、そこは………』

 

「そして、彼は嫌がる私の服を無理矢理肌蹴させ―――」

「………稟?」

「そしてそして、私もそんな乱暴な彼が嫌いではなく、むしろもっとして欲しいとまで思ってしまい―――」

「ちょ、おま、まさか………」

「そしてそしてそして!彼と私は互いの匂いを互いに染み込ませるが如く―――」

「待て待て待て待てっ!今はヤバ――――――」

「――――――ぷはぁあああぁぁっ」

「ぎゃぁぁぁぁあああああああっっ!!!??」

 

私は、愛しい彼の胸の中で息絶えるのだった。

 

 

 

 

 

 

「重ね重ね申し訳ありません」

「………もう3回目だからな。慣れたよ」

 

そう呟く彼は、再び上半身を裸にして洗濯機を準備している。対する私は、廊下で土下座中。鼻は罰として洗濯バサミ挟まれていた。正直痛い。

 

「ところで一刀さん?」

「なんだ?」

「これ…取ってもいいですか?」

「駄目だ」

 

酷いです。

 

「でも、さすがに彼氏の前でこのような醜態は………」

「醜態ならもう晒してるだろうに………あぁ!もう、わかったから!外していいからそんな目で見るな!」

 

なんとか許可を得た私は、鼻から洗濯バサミを外す。………痛かった。

 

 

「で、これからどうする?」

「どうする、とは?」

「折角付き合う事になったんだし、デートに行くとか」

「でででデートですか!?2人でデート………もちろん我々はもう大学生であり、ただ遊んで終わるわけがなく―――いたいっ!?」

 

一刀さんに頭を叩かれてしまった。言うほど痛くはない。

 

「だから妄想はやめなさい。俺の服が何枚あっても足りなくなってしまう」

「………すみません。でも、その」

「あ、用事とかあったか?」

「いえ、その………一度家に帰ってからでもよろしいですか?シャワーも浴びたいし、着替えもしたいので………」

「そういう事か。だったらいいよ。一旦帰りな。また駅で待ち合わせでもしようか」

「………………」

 

やはり彼は優しい。なんだかんだで、私の事を気遣ってくれる。

 

「………稟?」

「えぇと………」

 

だから、私がこんな風に甘えてしまうのも仕方のないこと……そう、仕方がないのだ。

 

「何か問題でも?」

「一緒に……来てはくれませんか?」

「え……」

「あの……今は、少しでも離れたくないのです………」

 

言ってしまった。でも、きっと彼は笑いながらいいよ、って言ってくれる。

 

「………仕方がないな。いいよ。行こうか」

「………はいっ」

 

そんな優しい彼だから、私は好きになったのだ。

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

私の部屋へと向かう道すがら、私達は取り留めもない話をする。大学の課題の事、一刀さんのアルバイトの事、これからの事―――。

 

「一刀さんは、実家には帰られるのですか?」

「あぁ。お盆の時期は外すけどね」

「ちなみに実家はどちらで?」

「あぁ、俺の地元は―――」

 

一刀さんから告げられる県名に、私は驚く。

 

「どうしたんだ?」

「あの、そのっ、私も同じなんです!」

「え、マジで!?」

 

なんという事だ。これはもしや………運命?

 

「だったら一緒に帰るか?」

「いいのですか?」

「まぁ最終的な場所は違ってくるだろうけど、途中までは旅行気分で行くのもいいだろう?」

「はいっ!」

 

大学の課題とバイトとネット以外する事のなかった大学1年生の夏休みが、どんどんと彩られていく。一刀さんのおかげで、少しずつ世界が広がっていくのを実感できる。

やっぱりこの人を好きになってよかった。

 

「どうせなら途中、どこかで観光していくか。新幹線に乗りっ放しよりも楽しいだろうし」

「はい!でもその前に―――」

 

どんどんと好きになっていく実感がある。だから、私は彼に向かってこう伝えるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう少しだけ続かせますっ!」

「マジか………」

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

 

さて、課題と明日の予習でもやるかー。

ちなみに予習の内容は、言語学の本(英文)を40ページほどorz

 

これを読んでいる学生のみんなは一郎太みたいになってはいけません。

 

とりあえず、ちょいとだけ続きを思いついたので、続かせます。

 

流石に今日はもうかけないぜ。

 

 

ではまた次回。

 

 

 

バイバイ。

 

 

 

 

 


 
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